ワッケイン   作:いくさふね

10 / 14
ザーン西艦隊の終焉

牽引が安定して来て、艦の不自然な揺れはほぼ収まって来た。

エネルマンド艦長は進路を低軌道基地4箇所の何れかにすると告げて来る、この艦の指揮官は彼女

だし、牽引されて居る我々は彼女に託すしかない。

「運行指揮は全て貴官に任せる、我々は貴官の手の内に有るのだからな。」

「いえ、戦闘が発生したら本艦は司令の指揮下に入る所存ですが。」

「貴官の判断は的確だ、戦闘指揮も全て自身で行いたまえ。」

慣れた指揮官に率いられた方が、変な遠慮も無く能力を発揮しやすい筈だ。

話しの流れを変える為、私は彼女に幾つかの質問を投げかけてみた。

「北艦隊の僚艦は無事なのか?当番艦が開戦直前、ムンゾ艦に接触を試みた筈だが?」

エネルマンド艦長の顔色は冴えない。

「本艦がその当番艦です、僚艦は恐らく全滅しました。出撃が遅れていた所、敵のロボット兵器に

大門より侵入されて、係留状態のまま撃たれた用です。」

我々には中々手を出して来なかった敵だが、北は早い段階で主鏡側基地にも攻撃を受けた様だ。

敵の指揮官にも考えの違いは有るのだろうし、北艦隊の出撃遅れが長かったのかも知れない。

そもそも北には他地区の倍の艦隊戦力がいる上、中央からのサラミス級3隻もいて、戦力的には西

の3倍以上だ、襲って来た数そのものも違うのだろう。

私は、アビジオが核を何発持って出たのかが気になった。

「我が艦を援護する際、核付きを放った様だが、貴艦は何本の核を持って出ていたのか?」

「本艦は8本持って出ました。我が司令の方針で北ではこれで通常です。」

「半分か、多いな、それで何発残っている?」

「うちの司令は都市筒居住区内に核を保管しているのが気に入らなかった様です。ご存じの通り北

は警護艦隊を二つ持って居るので、当番艦は交代で出してますが、次に当番が回って来る艦にも8

本持たせて待機させると居住区内の保管ヤードは空になります。貴艦の援護には4本放ちました。

通常弾頭と混成放出したのですが炸裂したのは2本です。」

北警護艦隊は2個艦隊編成では有るが、核弾頭の保有数は他地区と同じ16発だ。

私は北艦隊の事に詳しくは無いが、恐らく私が着任する以前から、北区の当番艦は8本積みでやっ

て来たのだろう、その辺りは現場指揮官の裁量に委ねられているのだ。

 

「貴艦はレーザー通信機を装備している様だが、これは?」

「北艦隊には全艦分の艦載通信機が、開戦の二週間前よりに連邦中央から支給されていました。無

理矢理付けたので不格好ではありますが一応中央のサラミス級とは連携が取れる筈だったのです。

しかし実際に連携の機会には恵まれませんでした。コルレーンにも支給されていたのですか?」

「いや、ウチのは固定基地局用の転用だ、西の統括司令から1基のみ預かった。」

「そうでしたか、西艦隊の戦闘を一部観測出来たのですが、艦隊として連携が取れていたので全艦

レーザー通信機装備かと思ったもので… こちらの加勢が間に合わず申し訳有りません。」

もしかしたらヘルマンニ少将は、それらとの連携を狙って通信機をよこしたのかも知れない。

「西艦隊は、応急制作した赤外線通信機で交信していた、レーザー通信機を装備しているのはコル

レーンのみだったのだ。」

「それで判りました、何度か呼び掛けたのですが応答が無いばかりか貴艦隊同士の交信も拾えなか

った物で、ですがコルレーンにも呼び掛けは行っておりますが受信出来ませんでしたか?」

そう、確かにエドガーレ少尉がレーザー通信機での受信を報告して来てはいた。

「私が取り合わなかったのだ、確かに傍受の報告は聞いてはいたのだが、戦闘指揮で手一杯だった

。それに、急造の赤外線通信機を扱っていた通信担当が対応しきれ無かった面も有る、我が艦隊の

顛末に貴艦が責任を負う事は無い。」

「解りました、いずれにせよ我々が破れたことに替わりは無いのですから…」

「最後にもう一つ、戦闘中味方の物と思われる核爆発を数回目撃したが、誰が撃ったのかは判らな

いか?」

「私も見ました、敵のメテオキッカーとは別の核爆発を、ですが本艦の位置からでは都市筒群の影

となり詳細はこちらでも判りませんでした。少なくとも本艦を含めた北艦隊と中央のサラミスでは

ありません。ですが爆発の位置から東艦隊の何れかと私は見ていますが。」

東艦隊は応戦に間に合ったと言う事か… 南も含め未だ残存艦は居そうだが最後と言った手前ここ

までにした、艦長も私の相手ばかりはしていられないのだから。

「長いこと付き合わせて済まなかった、色々と疑問が解けた、それで、今コルレーンの戦闘艦橋に

居る2人もこちらに収容してやってはくれないか?」

「はい、そのつもりです、交代要員は本艦から送り込みます。」

「何もかも済まない、空気の残量が気になるのでそろそろ換えてやってくれ。それと、私は少し休

みたい、此処で仮眠を取るが良いか?」

「それでしたら私の部屋をお使い下さい、私は暫く艦橋にいる予定ですので。本艦は旗艦施設を施

していないのです。艦長室の場所はコルレーンと同じ筈です。」

艦橋で寝られると困ると言う事なのだろう、女性の部屋を使うのは気が引けるが、此処では休むな

と言われれば仕方がない。

「では、4時間程借りても良いか? それと、問題が発生したら構わず叩き起こしてくれ。」

「はい、大丈夫です、時間が来たら誰かを起こしに向かわせます。」

私はシートから身体を起こし、戦闘艦橋を後にした。

 

艦長室のドアを開ける、鍵はいつも使用していない様だ。

中は小綺麗にしているが、女性の使用を連想させる物はなかった。

強いて言うなら、小綺麗さそのものが女性部屋らしいとも言えるが…

船外服の上半身だけ脱いで、入り口脇にある椅子に腰掛ける、寝台を借りるのは流石にためらわれ

たのだ。

トイレはここに来る前に済ませてある、船外服の上半身と一緒に生命維持装置からも解放されたの

で身体は大分楽になった。

リバー級は人工重力区画が無いので当然此処も無重力だ。

椅子も作り付けで固定されており、身体を固定するベルトも勿論有る。

身体を固定すると泥の様な睡魔が襲って来る、思えば開戦前日の朝から数えてほぼ48時間眠って

いなかったのだ。

身体は正直だ、悪夢さえ寄せ付ける事無く眠りこけた私を現実に引き戻したのは、起こしに来てく

れた兵だった。

「ワッケイン司令、敵と当たりました、艦橋お越しを。」

私は急いで船外服を着直すと、戦闘艦橋へ急ぐ。

入室すると正面モニターには既に敵艦がマークされていた。

私が発した、初見はいつか? の問いにはデポラ副長が答えてくれる。

「確認したのは7分程前、我々より低軌道側にムサイ級1です、現在は艦の後下方、距離約9万4

千メートル。」

100キロを切っている、だが1隻だけなのは府に落ちない。

「やり過ごせるか?」これはエネルマンド艦長。

「約16度の軌道傾斜角差にて、周回方向は本艦と同じ自転方向、向こうは高度を上げるため増速

中、我々も地球に引かれ微増速中、彼我の軌道上、現在が最接近点で現状なら数分で互いに離れる

筈です。」

そうしている間にも、刻々と状況は変わり続ける。

「新たに敵艦隊を確認!」

遅れて姿を見せたのは、遙か高軌道にいるムンゾ艦の一群だった。

こちらとは交戦の心配が要らない程距離が離れているが、下の単艦は軌道からして恐らく其所への

合流を目指しているのだろう。

何故1隻で低軌道側を彷徨いていたのかと言う疑問も残るが、何より損傷艦を引き摺るこちらに出

くわして敵の指揮官が見逃すとは考えづらかった。

 

「降下速度を上げ、敵との距離を取る。」

エネルマンド艦長の号令一下、艦はゆるゆると加速を始めた。

コルレーンを抱えているので急な機動が出来無いのだ、加えて、現在降下中なので地球に近づく方

向への増速は、一時的には軌道高度を下げる物の、最終的には逆に高度は上がってしまう。

船体の小刻みな揺れが、コルレーンに余計な力が加わらない様苦心しているパイロットの操艦技術

を伝えて来る。

先の姿勢制御で、アビジオは地球を正面左側に見る形となっていた。

「敵艦が変針を始めました。」

やはりな、私ならそうする、恐らくエネルマンド艦長も解っているのだろうが、コルレーンを曳い

ているので迂闊な機動は出来なかったのだろう。

「敵艦、軌道傾斜角を減じつつ加速を掛けています、併せてロールも確認!」

メインモニター上の敵艦を表すマークの予想進路がこちらを捕捉する形に変わった。

予想通りなら約13分後に軌道交差、横転したのは恐らく砲撃に有利な体勢を取るためだ。

「長、誘導弾、レーザー砲照射準備、ワッケイン司令、本艦の足では逃げ切れませんので応戦せざ

るを得ません、戦闘機動を行う為、申し訳有りませんがコルレーンとの舫いを一度解きます。」

会敵すればこうなる事は初めから判っていた事だった、選択肢は無いのだ。

「全て任せる、異論はない。」

そこに通信担当からの呼び掛け。

「ワッケイン司令、コルレーンから指名で通信です。」

「こちらに回してくれ。」

「ケーブルを切る前なので手早くお願いします。」

私はヘルメット右のピンコネクターをジャックに刺すと、通信担当を介す事無く直接マクミラン副

長と回線が繋がった。

「私だ、アビジオの艦長は敵とやり合うつもりだ、一時的とは言え君達を捨て置くのを許してくれ

。それで用件は何だ?」

先に詫びを入れてから副長に話を振る、マクミラン副長は捨て置くとの言葉を聞かされても動揺す

る事はなかった。

「いえ、最後に司令の声を聞きたかっただけです。この会話はスピーカーで残った与圧区域全てに

流しています。コルレーン一同、司令の艦隊指揮に感謝の念を伝えます。お互い、無事に切り抜け

られる事を願って、武運長久をお祈り致します。」

必ず助けに戻るとの言葉は飲み込んだ、恐らくそれは叶わない…

「外に出た者が、ケーブルを外すと言って来ています。」

通信担当が交信終了を急かして来る。

「済まん、また会おう。」

それを合図にして、通信ケーブルは切断された。

 

牽引ワイヤーがコルレーンから外され、巻き上げられる、同時にアビジオのパイロットは下方のト

リムスラスターを吹かした、コルレーンから離れる為だ。

「艦首を敵艦に指向、レーザーチャフ展開準備、レーザー砲斉射後前面に即展開せよ、レーザー砲

の照射時間は3秒で全門1斉射、キャパシター充電良いな?」

アビジオは後転するように回頭を掛けた、後方から頭上方向に廻って来るコルレーンの主船体とは

、既に270メートル程離れている。

艦が敵から見て直立状態を過ぎた所でメガ砲の単斉射が飛んで来た、敵艦はこちらが回頭を始めた

のを見て、的の面積が最大となるのを狙ったのだろうが、ビーム束は20メートル程右にずれてい

た。

喰らうと覚悟し腹に入れていた力を抜く、回頭は終了しレーザー砲が放たれたが、その時既に敵は

レーザーチャフを展開し終えていた。

チャフ雲が煌めくのが射撃指揮装置の望遠映像に映る。

「チャフ展開待て、長、誘導弾、全発射管通常弾頭で1放出、直射無誘導で照準はチャフ雲中央に

て時限炸裂、諸元入力後即放出せよ。誘導弾放出を待って本艦は左舷上方V10時に推力20%で

変針加速。」

エネルマンド艦長はチャフ雲を正面に見ながら進むと見せかけて左舷上方側に回り込むつもりだ、

だが、比較的予想し易い作戦でもある。

「艦長、済まない、敵には人形が有る、変針は敵艦から見て左舷下方側が好ましいと思えるが、」

つい、口を出してしまった、だが、戦闘経験者としての勘がそう告げて来ているのだ。

ムサイ級の機動兵器用射出機が右舷側に偏心して設けられているのは、技術情報部からの報告で判

っている、今本艦は上方に反転回頭を掛けたので天地が敵艦と丁度逆だ、変針するなら人形の射出

範囲の反対側かつメガ砲の死角になる敵艦の下方側がより好ましい。

「判りました、回頭方向を右舷上方に変更する。V3時で加速は20%のまま。」

その間に誘導弾が放出される、続いて直ちに艦は旋回を始めた。

「ですが、これですと敵から見てコルレーンに寄る方向になりますが。」

そう、恐らく艦長にはコルレーンから離れる事をも含めた先の判断だったのだ。

「判っている、だが、私が敵の指揮官なら2隻同時に攻撃出来る位置以外は本艦を沈める事を優先

する、本艦を沈めてしまえば推進器を失った船など幾らでもなぶり殺しに出来るからな。」

既にコルレーンとは7千メートル程離れていた、敵の射線上に2隻が重ならなければコルレーンへ

の攻撃は恐らく無いだろう。

 

アビジオは回頭を終え、続いて主機も噴射を停止して慣性運動のみの状態となった。

敵が展開したチャフ雲は既にかなり拡散して、再びムサイが姿を表し始める。

こちらの放った誘導弾に気付いたのだろう、回避運動と思われる機動で、道半ばまで接近していた

長距離誘導弾長は無駄弾と化した、誘導を殺されたミサイルは避けられるなら迎撃すら必要としな

い。

向こうもこちらを再捕捉したのだろう、こちらに向け改めて旋回を伴いつつ加速を掛け始めた、だ

が、一足先に変針を終えた本艦の移動量に追随する程の旋回量では無く、やがて旋回は終わり、後

は加速のみとなる。

「敵艦、何かを放出しました、数は3つまで確認。」

エネルマンド艦長は長距離誘導弾を疑ったが、本艦とムサイとの間には、まだレーザーチャフの影

響が残っており些細な観測の邪魔をしていた。

だが、実戦を経験した私には、放出数3と聞かされて思う所はある。

「小型機3なら人形の可能性大だ、CIWSが効かんから懐に入られる前に落とせ!」

それを聞いたエネルマンド艦長は、レーザー砲用の射撃指揮装置で確認出来ないかを尋ねる。

「今確認中、捉えました、ワッケイン司令の言う通り敵のロボット兵器で間違いありません!」

「直ちに迎撃を開始、照射時間を0.5秒とし反復攻撃、撃墜せずとも敵の足を止め、進路を変更

させろ。」

エネルマンド艦長はそのまま迎撃を命じた、指示は迅速だ、だが、人形の装甲が0.5秒の照射に

耐える可能性が頭をよぎる、例え撃墜を目指していなくとも…

「そのまま突進される事も有り得る、艦長、核の使用も考慮に入れよ、残数は4本だな。」

「はい、ですが、後方のムサイに対して使用する選択肢もありますので。」

4本か… 先の戦闘でジッコに対して放った核がムサイに阻まれた事を思い出す、使用するなら我

々を救ってくれた時の様に混成斉射が正解だろうが、迎撃を考慮すると有効な核攻撃は1回か…

「判断は艦長に一任する。」

その間にレーザー砲が照射を開始した、幸いにも、放たれたレーザーは私が杞憂するほど無力では

無かった。

人形共は2回の照射を浴び進路を変更する、何かの爆発に巻き込まれたのだろうか、1機が本艦か

ら離れる方向に急変進し、残りがそれに追従する形だが、それを落とした訳では無い事も同時に知

れた。

 

人形の変進に呼応する様にムサイがメガ砲を射掛けて来る。

射距離は既に60キロを切った、先程の機動で敵艦とは正対方向となり、接近速度は上がっている

のだ。

もう有効射が来る、初弾は30メートル程下方を飛び去って行った。

「レーザーチャフ展開!」

艦長の令で汎用投射機からチャフ弾子が吐き出される、艦長は展開距離を5千メートル取ったが、

チャフ雲の形成より敵のメガ砲の修正射の方が早かった。

命中の衝撃が伝わり、艦は上げ舵を取った様に上を向く。

「姿勢を立て直せ! 損害を報告せよ。」

一瞬遅れてチャフ雲が形成された、姿勢を立て直したアビジオはそのまま回避運動に入る、そのま

ま直進していては予測射撃の的になるだけだ。

艦長は艦を左舷に旋回させ、更に上方反転を掛ける、ほんの数秒で自ら展開したチャフ雲の影から

抜けるが、逆に敵艦が新たにチャフを展開して詳細な位置は不明、そして、先程レーザー砲で退け

た人形共が再び詰め寄って来ていた。

「敵のロボット兵器が右舷より接近中、数は2機。」

先程損傷を与えたと思われる1機は離脱したのだろう、敵機はランダムに回避を掛けながら接近し

て来る 、レーザー砲への対策だ。

「まだレーザー砲の照射は可能か?」

エネルマンド艦長の問いに火器管制担当からは否定の言葉が返って来る、距離が詰まった為、敵の

回避機動に砲架が追い付かなくなったのだ。  

「短、誘導弾で敵の足並みを乱せ!」

対宙誘導弾が無誘導で放たれるがこれは少々急ぎ過ぎた、牽制になったとは言え敵の回避機動に余

裕を与えてしまう。

エネルマンド艦長は対宙誘導弾の全弾使用を許可し、ボールターレットも対宙戦闘に投入する様命

じる。

130ミリ連装汎用砲は通称ボールターレットと呼ばれ、その名の通り防宙戦闘からミラーチャフ

展開時の主砲代替火力までをこなす万能無反動砲だ、レーザー砲と射距離の差が有り過ぎる為、今

まで出番が無かったのだが、現行のCIWSがほぼ無力な今、人形を落すのに最も有力な兵装と言

えない事もない。

リバー級では両舷袖部に各1器を装備する。

 

対宙誘導弾の2射目が放たれ、ボールターレットも射撃を開始したが、2機の人形はそれらを安々

とくぐり抜け、肉眼でもはっきりと姿が判る程近距離まで詰め寄ってから手にした携行砲を放つ。

命中の衝撃が伝わって来た、敵は執拗に艦橋を狙って来たが、コルレーンの時とは違い、砲弾は全

て装甲の範囲内に着弾した、操舵艦橋は無人だ。

艦橋への攻撃に執心する余り、動きの鈍くなった人形共に右舷のボールターレットが指向された。

気付いた人形がアビジオから離れる、命中は得られなかったが一瞬の間が出来る。

そこに対宙誘導弾の第3射目が襲いかかり、人形共との距離は更に開いた。

「敵艦に長、誘導弾全弾放出準備、核付きもだ、レーザー砲で牽制射、敵にチャフを展開し続けさ

せろ!」

レーザー砲は照射を開始した、炉が半減してしまったので全門の斉射は出来ないが、照射時間を短

くすればある程度は連射は出来る、牽制出来れば良いのだ。

敵艦はレーザーチャフを張り直してその中に身を潜める。

「長、誘導弾、敵チャフ雲塊を長手方向に縫う様に千メートル間隔で散布、起爆は時限、配列はラ

ンダム、諸元入力後即斉射せよ。」

12本の長距離誘導弾がムサイに向けて放たれた、レーザー砲は敵艦を釘付けにするべく照射を続

ける、母艦への攻撃を阻まんと人形2機が再び接近して、レーザー砲塔を破壊し始めた。

照射中のT砲塔、R、L砲塔が順に沈黙するが、火器管制員はB砲塔で射撃を継続する。

ボールターレットの射撃と対宙誘導弾の最後の弾幕が、B砲塔のある艦底部への人形共の占位を阻

むが、ついに対宙誘導弾は底を尽き、ボールターレットも人形の携行砲の餌食となった。

人形共が艦底側へ回り込む、最後のレーザー砲塔が敵の的になったその時、我が長距離誘導弾も敵

のチャフ雲に到達した。

チャフ雲が鈍い輝きに照らされる中、一際明るい核の光芒が4つ出現し、その瞬間チャフ雲は綺麗

に消し飛んでしまった。

敵はレーザーチャフの展開が仇となり、迎撃が疎かになっていたのだ。

直線状に炸裂した12発の内、左舷側より3発目と6,7発目、11発目が核付きだったと知れた

が、敵艦は9発目の通常弾頭を至近に浴びて、11発目の核の炸裂点からも近かった。

 

ムサイはよろめきながら後退を始めた、アビジオにまとわりついていた人形共は、なおも攻撃を続

ける素振りを見せはした物の、恐らくは砲弾を使い切ったのか攻撃示威のみを行うと、ムサイとの

合流軌道に乗り退いて行った。

「各部、速やかに損害を報告せよ。」

エネルマンド艦長の命に答え、各所からの報告が集まって来る。

一番と二番の核融合炉が損壊、推進剤タンクはメガ砲を喰らった炉の隣全てが消し飛び、下方のタ

ンク1器に残された約2割がアビジオに残された推進剤の全て。

姿勢制御用の酸化剤は、やはり上方のタンクが影も形も無く、同じく下方、3、4番炉隣のタンク

は無事だった物の残量は半分程度、そもそも推進剤が足りなければトリムスラスターからは生ガス

を吹き出すしかない。

レーザー砲塔は全滅、ボールターレットも左右共被弾、同砲塔は有人運用していた為、戦死者も出

た。

誘導弾は長、短共、核を含め全弾消費で、残された兵装は人形には無力の12、7ミリ軌道艦向け

CIWSとチャフ/フレア投射機の残弾のみ。

船体はメガ砲による命中痕の他、人形の携行砲にもしこたま撃たれ、装甲区画外の内火艇格納庫に

繋がれていた同船は3機とも被弾しており被害は調査中、その前の胴体部分も被弾し、操舵艦橋は

原型を留めぬ程破壊されてしまった。

戦死9名、重傷3名、死者の方が多いのは宇宙での戦いの特徴だ。

エネルマンド艦長が現状の説明をする。

「ワッケイン司令、申し訳ありません、今の本艦はコルレーンを追い掛けるに足る推進剤を持ちま

せん、本艦による回収は不可能です。」

艦長の言葉を聞かずとも結果は分っていた。

コルレーンの捕獲以前に、この推進剤量では低軌道4基地の何れかへの軌道修正が精一杯で、しか

も接近後の減速噴射ですら恐らくは不可能だ。

「コルレーンに被弾が無かった事だけでもアビジオの乗員には感謝しかない、戦死傷者には勇戦の

功を手向けたい、それで、まだコルレーンと連絡を取る事は出来るか?」

「操舵艦橋が破壊された為、レーザー通信機の送、受信機も使用不能となりました、通常通信は未

だ不通ですので残念ながら交信は不能です。」

恐らく、コルレーン側は敵への暴露を避ける為、交信管制を敷いているだろう。いずれにせよもう

連絡は取れなかったのだ、無駄な事を聞いてしまった。

「判った、コルレーンの救助を要求する事は無い、低軌道4基地へ向かうとして、最短での予想到

達日時は何時になる?」

出来るだけ早くコルレーンの捜索と救助を要請しなければならない、通信手段を奪われると本当に

何も出来なくなると言う事を、再認識させられる。

「はい、何事も無ければ28時間後にガンマ基地に滑り込む事が出来るかと、寄港には減速、正し

くは増速が必用ですが、本艦は推進剤量が不足しておりますので寄港出来るかは判りません、です

がコルレーンの救助要請はそこで可能な筈です。」

28時間か… いざとなればレスキューバレルもあるので取り敢えずの生命維持は大丈夫か…

「では、その案で頼みたい。」

アビジオは最後の推進剤を使い、ガンマ基地への軌道修正に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。