ワッケイン   作:いくさふね

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ルナⅡへ

便宜上、低軌道4基地と我々が呼んでいるのは、軌道高度約1万2千キロの赤道上を等間隔に周回

する4基の人工衛星基地の事だ。

低軌道と呼ばれはする物の、その高度は通常そう呼ばれる高度の6倍にも達する。

元々は、スペースコロニー造成に先立ち、資材や人を運び上げる軌道エレベーターのアンカー衛星

として建設が進められていた物なのだが、人口の爆発的な増加は軌道エレベーターの完成を待つ余

裕を与えず、幸いにして月の開発が先行していたために月面より建設資材を投入する事でスペース

コロニー造成が先行し、それに予算を集約する為に軌道エレベーター計画は中止されてしまった。

だが、その時点で既に4基のアンカー衛星は建設が進んでおり、それを軍が基地に転用したのが4

9年前、そこから増築を繰り返して今に至る。

理論上、軌道エレベーターのアンカー衛星は静止衛星軌道上になければならないが、この衛星は質

量が大きく、組み立てをその高度で行うには問題が多すぎた為、その約1/3の高度で組み立てた

後、徐々に高度を上げて静止軌道に投入する計画だったのだが、建設途上で本来の役割での完成は

望め無くなり、その後始末を兼ねて軍が地上と各コロニーや月へとの橋渡しと、低、中高度域の防

衛用にそっくり設備を引き継ぎ、改造を加えた上運用している。

現在、4基とも連邦宇宙軍の傘下に置かれ、六角柱状の構造体4基を束ねた物を2組縦に連結した

本来の基本構造に、そこから十文字に伸ばされた軌道艦用桟橋兼太陽光発電所、更にその先端部に

軌道戦闘機用基地施設と大出力レーザー砲、基本構造の頂部に装甲を纏った人工重力施設、そして

下側の基本構造の隙間に大気圏往還船用発着施設と、一応はパージ出来る構造ではある物の、軍の

追加施設のほうが今や質量的にはより大きくなってしまっている。

この4基地は基本的には同じ要領で増築されてはいる物の、予算や工事の進捗状況で細部に差異は

見られ、個々の基地は北極側から見て時計廻りにアルファ、ベータ、ガンマ、デルタとギリシャ文

字を冠されて呼ばれている。

連邦宇宙軍の軌道上にある基地施設は、この4基より低高度側には存在せず、更には高度2千キロ

以下は同じ連邦軍ながら高高度防空兵団の管轄となるため、軌道高度に関わる事無く4カ所まとめ

て我々はこれらを低軌道4基地と呼んでいるのだ。

 

アビジオがラグランジュ5のザーン近傍から減速を掛けてから既に約22時間が経過した。

我々を襲ったムサイも、ほぼ月軌道と同高度に現れた敵艦群からも逃れることが出来たが、コルレ

ーンも又、8時間程前に観測可能域の外に逃してしまった。

幸い、新たに会敵する事は無く、エネルマンド艦長とデポラ副長もようやく交代で休息を取ること

が出来た。

指揮官クラスは代わりが居ないので長時間の戦闘態勢は厳しいのだ。

それは、ほぼ訓練しか経験してこなかった我々が初めて味わう実戦の洗礼だった。

それでも、少なくとも我々は生きて味方の基地に向かっている。

既に射統装置等の視界中には順次4基地が捉えられてはいるが、レーザー通信機を失なった為、

未だにどの基地とも交信出来てはいなかった。

地球の大きさが、我々が軌道高度を下げている事を教えてくれている。

艦橋要員の再交代を、寄港可能な距離に何れかの基地が入る2時間前に行うと艦長が宣言する。

交代した乗組員も、そのまま休む事無く収容の為の準備をするのだろう。

「約6時間後にガンマ基地に最接近する予定です、ですので交代は4時間後となります、ガンマ基

地を通過すると、次に入港可能なのはデルタ基地で、この時点で本艦は既に低軌道4基地の周回軌

道より低高度に有り、デルタ基地も逃すと後は地球に引かれて落ちて行くだけになります、途中で

推進剤を補給出来れば別ですが。」

「内火艇の修理状況はどうか?」

エネルマンド艦長が尋ねたのは、損害調査の終わった内火艇の事だ、3機載せられていた内火艇は

全て人形の携行砲弾に被弾していたが、その内の2機はキャビン部への被弾のみだった。

敵の使用砲弾は徹甲弾だったので爆発は無く、少なくとも2機の推進器は無事だったのだ。

但し、キャビンの与圧は当然失われており、応急修理での対応は難しいかも知れない。

「2機は確実に動かせますが、推進器部に被弾した方はやって見ないと判らないそうです。」

艦長は、ガンマ基地への接近操艦に付いてパイロットと意見を交える。

「残りの推進剤で、せめて軌道速度の同期は行えないか?」

パイロットは艦長の意見を否定した。

「本艦は今、進行方向に背を向けていますので再加速するには回頭が必用になりますが、それを行

うと再加速を終了する前に推進剤が完全に無くなるでしょう。」

エネルマンド艦長としては、出来うる限り艦を失うのを避けたいのだろうが、推進剤の残量がそれ

は厳しい事を改めて告げていた。

「止むを得ない、推進剤の補給か曳き船の要請を一応準備しよう、最接近の1時間程前になれば発

光信号での通信が確実に通るだろうから、そこでガンマ基地に要請を掛ける。」

デポラ副長は重傷者の移送に使う与圧ベッドの数を確認する様後部に連絡する。

だが、近づくにつれガンマ基地の様相が尋常ならざる物である事が見えて来た。

射統装置等が望遠で捉えたガンマ基地には、既に桟橋の数に迫る味方艦がひしめきあっていたのだ

 

最接近まで1時間となり、左舷のサーチライトを使用してガンマ基地とのモールス交信を図るが、

結果は芳しい物では無かった。

「ガンマ基地より返信、推進剤の補給、曳き船共に対応不可能と言って来ています。」

「こちらの推進剤が空なのを承知で回答しているのだな?」

恐らくは、暗に船を捨てろと言って来ているのだ。

「納得しかねるのは判るが、現実に推進剤を運ぶ船も曳き船も無いと見るのが妥当だな、あの状況

では、それに、時間も足りなかろう。」

モールス特有の短文が、余計にこちらの気に障るのだろうが、間が悪い事に推進剤補給艦が常駐し

ているのはアルファ、ベータの基地達で、ガンマ、デルタの両基地には基本的に同艦が常に居ると

は限らないのだ。

たまたま入港していればと言うのは淡い期待でしか無かった。

タグクラフトも10に満たない数しか無い筈だ、それらは全て先着の船に付いて作業中なのだろう

、せめて軌道速度を合わせる事が出来れば他の船に付いているタグクラフトを回して貰えるのかも

しれないが、アビジオの持つ推進剤では最早基地に対して止まる事も出来ない。

「済まないが、コルレーンの捜索と救助の要請だけはガンマ基地に伝えてもらいたい。」

私の要請に、通信担当は黙ってモールスを打ってくれた。

「捜索は向こうに任せるしか無いが、後はこちらが決める事だ、艦長、此処で船を捨てるか?」

エネルマンド艦長は暫し考え込んだ。

「取り敢えず重傷者だけでも受け入れて貰いましょう。だが内火艇をそれに使うと我々の足に不安

が残りますが…」

「ならば内火艇は向こうに出させよう、それ位は飲んで貰わねばな、私の名前を使ってみろ。」

通信担当がザーン西艦隊司令名義で内火艇の派遣を要求すると、すぐに了承の返答が返って来た。

「助かります、流石に艦隊司令の要請は無視出来なかったのでしょう、即答でした。」

「どうかな? 名前を使えと言ったのあくまで保険だ。それにグズグズしてるとアビジオはガンマ

基地から遠ざかってしまうから即答は妥当だと思える。で、我々はどうする? 判断が遅れると内

火艇の足では基地に届かなくなるぞ。向こうが出してくれるのは負傷者移送用の船だけなのだろう

?」

デポラ副長が間に入って来る。

「ガンマはパスして、次のデルタに賭けて見るのはどうでしょう? デルタ基地までなら低軌道側

に入り込むとは言えまだ寄港可能な距離を通過します。退艦準備の時間も長く取れますし、上手く 

行けば3機目の内火艇の修理も間に合うかも知れません。最善なのは本艦ごと収容して貰える事で

すが。」

これでエネルマンド艦長の腹は決まったようだ。

「副長の案で行く、ガンマ基地へは重傷者の収容のみ依頼する、我々は次のデルタ基地での収容を

目指すことにする。ガンマ基地にも打電せよ。」

「ガンマ基地より内火艇の発進を確認。」

ガンマ基地への最接近まで既に30分を切っていた。

 

ガンマ基地から到着した内火艇は2機だった。

デポラ副長が負傷者の人数を確認する。

「重傷者の総数は何名だ?」

「コルレーンの乗員が5名、うちが3名です。」

「与圧ベッドの数はどうか?」

使用可能な与圧ベッドは3基しか無かった、迎えの内火艇は与圧されているので、乗船時にベッド

を使い回すことにする。

「後部の管制室は内火艇の接舷指示を出せる状態なのだろうな?」

「はい、気密は破れていますが管制指示は出せるそうです。船外服の有線回路を受けるジャックが

レーザー通信機設置と同時期に装備されたので… 使用の確認は取れているとの事。」

エネルマンド艦長が接近中の内火艇の回線をこちらに廻せるかを尋ねた。

「可能ですが、今は接舷作業中ですので作業終了後でお願いします。」

艦長はこちらに向き直ると、私に重傷者の船に便乗して、ガンマ基地に向かう事を提案して来た。

「1機で負傷者4名を運搬でしたら、後数名の乗船が可能と見ます。司令はガンマ基地にお移り下

さるのが適切かと。」

流石にこの提案は飲めない、アビジオに移乗した時とは話が違うのだ。

「私は、アビジオの乗員と行動を共にするつもりでこちらに移乗したのだ、その提案に乗ることは

出来ない。ならば、代わりにコルレーンから回収した通信担当とパイロットを乗せてはやってくれ

ないか?」

「しかし、次のデルタ基地でも船外服に身一つで退艦する可能性は高いです。本艦搭載の内火艇は

全て気密が破れておりますので… 今なら与圧状態で退艦頂けますが。」

「軌道艦艇の指揮に任ずる者が船外服を苦にする筈も無い、私は皆と行く。コルレーンの2人にも

一応意思の確認は取って貰えるか?」

「判りました、これ以上は勧めません。副長、2名に打診してくれるか?」

デポラ副長は後部に伝令を送ってくれたが、2人共、やはり回答は否だった。

「では、搭乗は負傷者のみとする、医官は本艦に残れ。」

内火艇は接舷し、負傷者を収容するや急ぎアビジオから離れ、ガンマ基地へと引き返して行った。

無理も無い、既にアビジオはガンマ基地から遠ざかりつつあったのだ。

 

ガンマ基地がまだ視界の端に有る内に、早くも次のデルタ基地が地球の影から姿を現した。

「離艦準備も有るので、ガンマ基地の時より手前から交信を試みてくれるか。」

だが、発光モールスによる交信は必用無くなった。

雑音は混じる物の、ラジオがようやく回復し始めたからだ。

しかし、状況はガンマ基地の時と変わらず、いや、むしろ悪い位だった。

桟橋に繋ぎきれない船が沖合いにまで点在しているのが見える。

交信は出来たが、やはり推進剤の補給も曳き船も断られた、特に曳き船は、問い合わせるだけ無駄

であろう事を事前に予測出来る結果だった。

いよいよ船を捨てる決断をしなければならない。

エネルマンド艦長は全員に船外服の着用を命じ、内火艇格納庫へ集結させる、総数33名。

内火艇の内、推進器部に被弾した船の修理は断念された。

艦橋要員は後の船で艦を離れる事が艦長から告げられる。

準備した内火艇には、艇内に入り切れない乗員用にキャビン外のフックに命綱が張られ、艇外にも

乗員がしがみつく。

先行する船がアビジオを離艦すると、艦内に人が残って居ないか確認をしてから艦橋要員を乗せた

内火艇も送れて離艦作業に入った。

アビジオの航海日誌のメモリーは、エネルマンド艦長のポケットの中だ。

満身創痍のアビジオは音も無く離れて行き、替わりに味方艦で溢れたデルタ基地が近づいて来る。

内火艇の係留スポットも一杯で、繋ぐ場所は無かった。

エネルマンド艦長は迷う事無く内火艇の放棄を宣言した、被弾した艇を収容する余裕は此処には無

い、我々は文字通り船外服のみでデルタ基地の中央構造部へとたどり着いた。

エアロックの通過に意外と時間を取られ、空気の残量に気を揉みながらようやく基地内へと入る。

時間は4日の午後7時過ぎになっていた、開戦からまだ2日も経っていないのだ。

どう見ても負け戦だ、居並ぶ損傷艦が雄弁にそれを物語る。

だが、基地の内は予想した程の人影でも無かった。

恐らくは、接舷している艦の中に、未だ乗員を艦内待機させられている物が有るのだろう。

行く先も判らずにエアロック内側の部屋で待たされていると、デルタ基地所属と思われる士官が入

室して来た。

エネルマンド艦長を見付けると、真っ直ぐに近づいて来る。

「ザーン北艦隊アビジオ艦長と、同じく西艦隊司令でいらっしゃいますね、ご案内しますので私の

後に付いて来て下さい。」

彼に言われるがままに後を付いて行くと、たどり着いた先は管制室らしき所だった。

 

管制室に進もうとすると、その二つ程先の扉の前で、別の士官が我々を呼び止める。

「済みません、司令室に呼ばれた指揮官職の方ですか?」

そうか、司令室なのか… 私が他に気を取られている間にエネルマンド艦長がそうですと答えを返

してくれた。

「場所が変更になりまして、こちらになります。」

案内されたのは司令室の隣、そこはブリーフィングルームになっていた。

「人数が予想より多かった物で… 此処でお待ち下さい。」

中には既に4~5名程が集まって居た、此処に着いた状況からしても我々が最後かと思ったのだが

更に後続が数名続く、最終的には10名程が此処に集められていた様だった。

予定した人数に達したのだろう、恐らくは隣の司令室から来たと思われる、歳の頃50程の少将が

我々の前に泳ぎ出た。

「私はこのデルタ基地を預かるアダムス、キッケンドだ。満足な収容作業をすることが出来なかっ

た事を諸君らには最初に謝りたい。だが、敵の奇襲により現在我が軍が劣勢に立たされている事は

皆も知っている事と思う、此処に集まって貰った諸君は、いずれも乗艦に損害を受けながらもこの

基地にたどり着く事が出来た艦、中でもリバー級を指揮していた者達だ、諸君と負傷を免れた指揮

下の乗員はこの後直ちにルナⅡに向かい、そこで新造のサラミス級を受領、完熟訓練を行った後、

ルウムへと出撃してもらう事が決まった。現在ルウムには敵の月面侵攻を阻止せんと終結していた

我が艦隊の大半が、敵の奇襲をはね除け未だ同地を確保している。今やムンゾ以外で体裁を保つ宇

宙都市群は、中立を掲げるリアとこのルウムのみと成ってしまった。我が軍は此処ルウムで敵の進

撃を挫き、以て再攻撃を不可能とする損害を与えねばならない。我が基地に寄港している揚兵艦、

ポートサイドが諸君らをルナⅡまで運ぶ足となろう。出航は3時間後、各艦長は自艦の乗員から作

戦に参加可能な者をリストアップし、1時間を目安に報告せよ。諸君の指揮していた艦の事は今は

考えなくて良い、以上だ。」

隣に居たエネルマンド艦長が、我々は休ませてはくれない様ですと言い残し、アビジオの乗員が待

つ元の部屋へと引き返して行った。

 

私は部下を連れてはいないので、キッケンド少将を捕まえてお伺いを立てる事にした。

「ザーン西艦隊を指揮しておりましたライナス、ワッケイン、階級は中佐です。我が艦隊はほぼ全

滅した上、自分は北艦隊のアビジオに救助されてここに来ました。従って此処に我が配下の者は居

ませんが、自分もルナⅡに召喚されているのでしょうか?」

キッケンド少将は私の質問を遮る事無く聞いてくれ、そして答える。

「勿論、大佐にもルナⅡに向かって貰う。現在、我が軍は人材が足りていないのだ、大佐には恐ら

く艦隊を指揮して貰う事になるのだろう。それと、ガンマ基地からザーン西艦隊のコルレーン乗員

をムーア南艦隊のボルホフが救助して、同基地に収容されたと先程連絡が有ったが。」

コルレーンの乗員が無事収容された事に私は安堵した、だが、キッケンド少将の言葉に私は強い違

和感を覚える。

「少将閣下、失礼を承知で申し上げますが小官の階級は中佐であります。先程小官は間違って申告

しましたでしょうか?」

だが、キッケンド少将は取り合おうとはしなかった。

「いや、貴官は間違い無く大佐で合っている筈だ、ルナⅡからレーザー通信で送られて来た命令書

に貴官の名前が明記されていたので間違える筈が無い。この非常時に送信された命令書内で、一大

佐の個人名に触れられている事に違和感を感じた物だ、此処では問わないが何か思い当たる節が有

るのか?」

私は、オーラフスビークシリンダーの破壊を指示した事を話そうとしたが止めた。

あれで階級が落とされる事があっても昇級など有り得ない。

恐らくルナⅡ側は状況を把握している。向こうに着いたら私は拘束されるのだろう…

「いずれにせよ、私の階級は中佐ですと申し上げてはおきます。ポートサイドは何処に繋がれてい

ますか?」

「Bの2番係留スポットになる。迷ったら基地の者に聞くと良い。」

他の艦長達は急ぎ自艦へと戻って行き、いつの間にか私が最後となっていた。

少将を引き留めてしまった格好だ。

少将に礼を述べると私もブリーフィングルームを後にする。

少将は結局私を中佐と呼んではくれなかったな…

ポートサイドは中央区画から近い所に繋がれているということか、兵を乗せているのでは無かった

のか?

何故か余計な事を考えてしまうのは、無意識に現実逃避しようとしているせいなのかも知れない…

大凡2時間後迄には搭乗していなければならないか…

 

結局、ポートサイドに搭乗出来たのは出航40分前だった。

あの後、アビジオの乗員達と合流する機会は得られなかった。

コルレーンから移った2人がどうしたのかは判らないが、恐らくエネルマンド艦長が上手くやって

くれているだろう。

覗き窓からはポートサイドの特徴的な姿を見る事が出来るのに、基地内の構造は複雑に入り組んで

いて、やはり迷った私は2回も基地職員を捕まえることになった。

増設を繰り返した事と、パージ前提の構造、そして四方に伸びる桟橋を繋ぐモノレール軌道の取り

回しが、迷路にも似た造りの元凶なのだろう。

基地隊員に聞いた話では、ポートサイドは当初よりルナⅡへ改修の為、回航される予定で此処に繋

がれていたらしかった。

つまりは空荷だ、そして中央寄りに繋がれているのは我々の為では無かった、低軌道4基地の桟橋

は、元々中央寄りの区画を外訪船向けに解放しておく事が決められていたからだったのだ。

他の艦長達が急いでいた理由も今なら判る、桟橋の端の方に係留させられた艦へは、移動だけでも

かなりの時間を取られるからだったのだ。

係留スポットが足りず、沖に停泊していた艦はどうしたのだろう?

アビジオは放棄された事が却って幸運だったとも言えた、艦長達の前では言えないが… 

しかし、間が良いのか悪いのか、この揚兵艦が居たお陰で我々はルナⅡへの足を確保出来た訳だが

、この基地に逃れて来た船達にしてみたら、係留スポット1隻分を塞がれた格好にも映る。

ポートサイドは定刻通り離岸した。

私がデルタ基地に滞在したのは6時間に満たなかった。

ポートサイドの護衛には、ほぼ無傷でデルタ基地にたどり着く事が出来たハッテ北艦隊のレックと

同東艦隊のマデイラの、2隻のリバー級が随行する。

初めて乗った揚兵艦は、人工重力セクションのお陰で軍艦としては中々快適に造られていた。

心の隅で予想していた待遇に会う事も無く、身一つで押し込められた我々には、2組の下着の支給

まであった。

この後ポートサイド一行は一度減速を掛けガンマ基地に立ち寄ると、同基地にいる損傷艦乗員を収

容した後、同地でムーア北艦隊のリバー級サバを護衛に加え、ルナⅡに向けて上昇を開始した。

推進剤を惜しまずに軌道角度を大きめに取った事も有り、敵艦との接触は避けられたが、道中は常

に戦闘配備を維持したままで、私の体内時計も怪しくなリ始めた頃、ポートサイド船団はルナⅡに

到着、収容先は第6係留窟、時間は1月7日の朝8時の事だった。

 

地方の警護艦隊と言う連邦軍内では傍流の道を歩んで来た私にとってルナⅡは緣遠い存在で、立ち

寄った事は20年の軍歴中、僅かに2度有るのみだった。

確か最後に訪れた7年前には、第5と第6係留窟は建設中だった筈だ。

ルナⅡは、地球を挟んで丁度月の対面側にあり、この巨大な岩塊天体と7番目の宇宙都市群予定地

サイド7、リアの1バンチ半完都市筒、そしてリア造成用に運ばれて来た建設資材用小天体ラグナ

3が此処ラグランジュ3に占位している。

元々は、このルナⅡこそが各サイド建設用に、火星~木星間の小惑星帯から13年の月日と莫大な

予算をつぎ込んでここまで運ばれた物だったのだが、地球近傍を通過する小惑星への対応から、そ

れらへの監視体制が構築され、比較的安易な変更軌道の技術が確立されると、それらを流用した方

がコストを抑えられると判断され、後続の計画は放棄されて、今では人類が運んだ最長距離かつ最

大の天体と言う逸話が残るのみだ。

そして、軌道エレベーター計画同様、後始末は軍が取り、小惑星としては強固な岩盤を利用して、

56年にも及ぶ長い歳月を掛け徐々に基地化が図られ、現在では最早巨大な要塞と化している。

図らずも、サイド3、ムンゾとは最も遠い場所に、連邦最大の軍事拠点があるのだ。

私が予想した通り、やはりルナⅡにまで侵攻する力をムンゾは持たなかった様だ。

因みに係留窟とは、岩体に穴を開けて、そこに係留スポットを設けた構造を指す造語で、実際にル

ナⅡにあるのは、岩体を円形に露天掘りした後、即乾コンクリートで入り口を除き蓋をした物で、

その厚さは2キロメートルにも及び、核の直撃にも耐えうる重防察ぶりで知られる。

但し、その防御性能と引き換えに艦船の出入りには時間が掛かり、実際、ポートサイドは7時には

ルナⅡに実質到着していたのだが、ルナⅡの係留窟の構造上、1隻づつしか係留窟内に侵入する事

が出来ない為、与圧桟橋が繋がれた8時が正式な到着時刻とされた。

桟橋が繋がれると直ぐに乗員は降船を始める、我々は係留スポットからリフトグリップを使い、係

留窟中央にある人工重力ブロックへと案内の士官に導かれた。

ポートサイドは係留窟1番奥の桟橋に繋がれた物の、それでも総勢500名弱の兵の移動には1時

間近くを要した。

案内の士官だけでも何人投じられたのだろうか、無論一つの部屋になど収まる筈も無く、どうやら

我々は食堂を含む6箇所に分けられたらしい事が、我々を案内してくれた士官の会話から判った。

私の案内された部屋には約40名弱が入室していた。

少し少ない様にも思えたのだが、デルタ基地で同様に集められた時に見た顔が複数あったので、ど

うやら指揮官職だけが此処にいる様だと判って来た。

良く見渡せばエネルマンド艦長の顔も見える。

此処で我々は辞令を受け取る事になった。

軍は未だに時代にそぐわない紙の辞令を交付する。

私の貰った物には、ライナス、ワッケイン大佐、0079年1月7日を以て臨時集成第4艦隊の指

揮を任ずる、とあった。

階級を含め、デルタ基地司令キッケンド少将の言葉に偽りは無かったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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