ワッケイン   作:いくさふね

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人の手に成る大地は雷となりて

確か、全員ムーアから落ち延びて来た者達だと件の中尉殿が言っていた事を思い出す。

「そう言えば、諸君らは全てムーア所属の船からだったな、ムーアはどうなったのか?」

私の質問に、先程のエルムス少佐が答える。

「文字通りの全滅でした。4行政府庁筒には毒ガス攻撃でしたが、他は都市筒ごとバラされまし

た。毒ガスで死ぬのか、真空中に放り出されるのか、どちらにしても地獄絵図です。しかも真ん

中にある都市筒だけ攻撃すれば、後はその破片で連鎖的に破壊されていき、止めようもありませ

ん。仮に宇宙服を着ていたとしてもあのような大人数の回収は不可能です。我々は目の前で家族

を嬲り殺されたのです。」

「そうか、ムーアも同じだったか… 余計な事を聞いてしまったな、済まない。」

ここに居る者達も、その手で家族を救うことが出来なかったと言う事ではザーンで戦った兵達と

変わることは無い、ただ、手を下した者は違うが…

そう言えば、先程から答えてくれるのがエルムス少佐ばかりなのが少々気になる。

「済まない、先程からエルムス少佐が私の相手をしてくれているが、それには何か理由があるの

か?」

その質問に答えたのも彼だった。

「それは、私の船が旗艦だからです。今の内から出来るだけコミュニケーションを取ろうと思い

まして。」

「では、旗艦は既に決まっていると言うことか? 3隻共同じサラミス級なのだろう?」

「はい、全艦同級ですがマジョルカのみ初めから旗艦に供する為、通信設備が増設されているの

です。私だけ特別な事は無い筈なのですが、乗り組む船は全て指定されていました。」

「そうか、今座っている並びは旗艦からと言う事だな。で、人員は足りているのか? 皆戦闘で

損傷した艦から来ている筈だが、当然欠員はいるのだろう? 乗員数はリバー級と同じだと聞い

ているのだが。」

戦死者に失礼な物言いだったか? 

だが、艦長達は誰一人気にしている素振りを見せなかった。

「大体どの艦も10名以下ですが戦死傷者を出しており、定員には足りておりませんが、不足分

は補充されると辞令を貰った時に説明がありました。明日には合流するとか。」

補充兵の実戦経験までは判らなかったが、取り敢えず頭数は揃えてくれる様だ。

「各艦長は自分の部下と連絡は付くか? 問題が無ければ明日から乗艦すると伝えてくれ、訓示

等は特に行わない。まずは出港準備から始める、何をおいても船に慣れる事が最優先事項だ。艦

にはもう乗り込んでも構わないのだろう?」

「大丈夫な筈です、では時間はどう致しますか?」

「各艦の艦長にそれぞれ任せる、準備には丸1日以上掛るだろうし、此処は港から船を出すだけ

でも一仕事らしいからな、因みにエルムス少佐、マジョルカは何時になる?」

「本艦は0900にしようと思います。」

「判った、私もそれに合わせよう。」

その後は、ムーアで起きた諸々の事象の報告会状態となり、4時近くまで話が尽きる事は無か

った物の、フォルトナート少佐の、サラミス級の要目を頭に入れておきたいと言う一言が契機と

なり、ようやく解散となった。

 

翌日から始まった備品の積み込み作業は、やはり1日では終わらず、更に半日を要した。

間近に見るサラミス級は、全長でリバー級を上回る物の、推進器部がシンプルにまとまっている

為、全体のボリュームではそれほど大きく感じない。

洋上艦を思わせる艦首を2枚の板で挟んだ様な形状はリバー級のそれを思わせるが、艦橋はそこ

には無く、そこから如何にも大量生産向きな方形の船体が続き、途中から袖状の構造が加わると

その後方には側、下方向けのフィーズドアレイレーダーを備えたバルジ。

艦橋は丁度その上、こちらも上方向けのフィーズドアレイレーダーに囲まれて、傾斜が付けられ

た平面構成のやはり洋上艦風の造り、ぱっと見艦橋が上と左右3つ有るかの様だ。

そこから一つ仕切りを挟んで、最後に円筒形にユニット化されたイヨネスコ反応炉型の主機が艦

尾を形成する。

放熱板は艦底に2枚、肝心のメガ粒子砲は単装砲塔で上面と左右、これが前後で計6基、そこに

下面に1基を加え全部で7基。

前上方に並列に2基並んだ130ミリ連装ボールターレットを含め、後は概ねリバー級に準ずる。

推進器部がコンパクトな為、実船体の容積ではリバー級の倍はあろうか。

やはり乗り込むとリバー級との世代差を実感する。

「司令、本艦は1420に全ての積み込みが完了します。」

「後40分か、やはり掛ったな、物資の量は多かったのか?」

「リバー級より弾薬、糧食、生命資材は多いですが、推進剤関係は逆に少なかったです。長期の

作戦行動に若干の不安を感じる程には。寧ろ時間が掛ったのは艦と、そして港側の設備に慣れて

いない事が原因です。取り敢えず指示通り満載状態にしましたので、次回以降の補給は楽になる

と見ていますが。」

「繰返して慣れるしかあるまい、穴埋め組の方はどうか?」

欠員補充で配属されて来たのは、ルナⅡの基地職員達だった。

いずれも近年の乗艦経験に欠ける者達だったので、即戦力と見るには厳しいと見てはいる。

「大丈夫です、あちこちにバラして混ぜましたので直ぐに慣れる筈です。」

 

ルナⅡは敵に襲われなかったのが幸いして、人員の数だけで見れば些かの余裕は有るのだが、船

乗りに限れば話は別だ。

此処を根拠地としている第1から第4,そして第12の常設艦隊中、第3と第4は既にルウム沖

にあり、第1と第12は今回我々と共にルウムへ投入されるとの噂だ。

そうすると残るのは第2だけだが、これはルナⅡ防衛を専任としている艦隊で、しかも構成艦7

隻は全てリバー級、各サイドからルナⅡに逃げ延びた艦は僅かしかおらず、しかも皆損傷艦、こ

の巨大な基地で今実戦到入出来るのはほとんどが新造されたサラミス級だけらしい。

そのサラミス級を動かす為に我々が呼ばれた訳だから、つまり此処は船乗りが足りていないと言

う事になる。

「船乗りが足りない割には、我々の艦は一応進宙していると聞いているのだが。」

情報部か軍警かは知らんが、アーノルド少尉とやらはそう説明していた。

「何やら、港湾管理部内にそれ専門の者がいるらしいですよ。恐らくその者達が交代で運行試験

のみ行ったのでは?」

「では、少なくとも1度は火が入っているのだな。」

「はい、推進剤と酸化剤に付いては幾らか既に積まれていました。ノズルには既に噴射痕が付い

ています。」

まあ、ノズルの焼けは試験燃焼でも付くのだが… まあ、船を外に出したのなら焼け具合で判る

と言う事か。

「他の艦の状況を確認してくれるか?」

流石にルナⅡと言うべきか、我々が不慣れな事はともかくも港の設備は全て揃っていた。

逆に、港湾管理部の港付き隊員は人数も訓練も行き届いている。

勿論、入港時用の有線回線も完備だ、もっとも、ここは敵の進出圏内ではないのでミノフスキー

場の擾乱とは無関係にラジオが使えるが。

「サドは既に積み込みを完了、グレアムは後1時間程掛るそうです。」

「では、グレアムの作業終了も間に合うな、港湾管制に出した出港申請は1600だったか、そ

れまでは待機だな、待つのも訓練の内だ。」

何しろ1隻づつ順を追っての出航となるので、時間も掛るし割り込んでの出航も出来ない。

緊急時以外、入出航は事前に申請して通った物厳守が基本となる。

今もどこかの艦もしくは艦隊の出入りが行われているのだろうが、この位置からではそれを見る

事は適わなかった。

 

ようやく時間になり、出港作業は開始された。

とは言え、我々がする事と言えば各種送気、送液配管の分離とエアロックの気密確認位だ。

炉は既に定常運転だし、主機の噴射は外に出るまでは原則禁止、船体は接岸装置を兼ねるドリー

に委ねられ、出口までの移動は港湾管制の仕事だ。

我々の艦は申請通り旗艦のマジョルカを先頭に、グレアム、サドと続く。

2キロに迫る距離を移動ドリーに固定されてのろのろと進む、それでも6分程で出口まで辿り着

いたので、平均で時速17~18キロは出ていたか?

ドリーは出口でマジョルカを離すと元来た道を戻る、ドリーから解放されても暫く推進器の点火

は禁止されており、ドリーに貰った慣性運動だけで前進する、後ろの艦の安全確保の為だ。

次のグレアムは反対舷のレールを使用するドリーに乗せられて同じ行程を踏む、運搬軌条は上下

2条有るのだ。

後方を映すモニターには天地逆のグレアムが後方を追随してくる姿が捉えられていた。

安全を考慮して、通常は出入り口のトンネル内には常に1隻しか船を入れてはならない規定が有

るので、グレアムはマジョルカがドリーから解放されるのを待って、丁度トンネル内に引き出さ

れた所だ。

マジョルカが係留スポットを出て、ドリーから開放されるまでの時間を測って見たが、大凡14

~15分程掛っていた。

3隻で45分程度掛る事になる。

その間マジョルカは港の出口でひたすら僚艦が出て来るのを待つしかない。

出口から500メートル離れれば主機の点火が許される規定だが、サドが出て来るまではひたす

ら真っ直ぐに流される。

正面には青く輝く昼側の地球が見えていた。

ルナⅡは、月同様自転周期と公転周期が一致している為、常に係留窟側に地球を見ているのだ。

オーラフスビークシリンダーから出港する時も、必ず正面に地球を見ていたのが思い出される。

サイズは少し小さくなったか… 考えてみればあれからまだ4日しか経っていないのに、私の中

では既に一月も経ったかの様な感覚に囚われてしまう。

余計な事を考えている内に、ようやく外に出たサドが件の500メートルラインを超えた。

実際に掛った時間は48分、敵に襲われた時の事を想像すると言い様の無い不安がよぎる。

この日は船の特性を掴むために当て、艦隊行動を伴う訓練は翌日からとしたが、訓練の終わりが

21時を過ぎ、入港に又時間を取られるのも判っていたので、ルナⅡ沖に停泊し、そのまま船内

で一夜を明かすことにした。

実を言うと初めから想定していたのではあったが…

満載状態なので糧食その他は十二分なのだが、調理担当も含め皆、艦内設備に慣れていないので

食事を取るだけでも結構な時間が掛る。

エルムス艦長は、「良い訓練になります。」と気にする様子もなかったが…

 

翌朝は8時から艦隊行動の訓練に入る。

臨成第4は3隻編成なので艦隊行動は比較的楽なのだが、動力性能差に加え、何より操舵艦橋の

位置がリバー級なら船体の最前部なのが、サラミス級では洋上の貨物船の如く船体後方へと変わ

った為、パイロットが感覚的に苦労している様だった。

リバー級なら航空機に近い感覚で操艦出来たのだが、これだと本物の船の舵取りをしているのに

近い物が有る。

パイロット以外の艦橋要員も、程度の差こそあれ皆違和感を感じていた。

だがこれは慣れて貰う他無い、我が軍のM、R、R艦はサラミス級もマゼラン級も、更には月面

基地向けのテミス級やタイタン級に至るまで、全て船体後方の高い位置に艦橋が設けられている

からだ。

折しも、丁度臨成第5艦隊が訓練の為、第6係留窟から時間を掛けて出航している最中、沖では

同じく臨成第2が我々と似たような事をしていたが、いずれも未だサラミス級を手の内に入れた

とは言い難い状況だった。

我が臨成第4と第5は第6係留窟、臨成第1から第3までが隣の第5係留窟を根拠地として現在

急速錬成中だ。

臨時集成艦隊は全部で5つ、船の数は3,4,3,3,4の計17隻、全て新造のサラミス級で

編成されている。

これらの乗員は、ルナⅡからの補充兵を除くと、全て元リバー級の乗員だった者達だ。

臨成艦隊は何処も同じ課題をクリアしなくてはならない、恐らくこの船体配置になったのには、

後方火力の充実とも関係があるのだろう。

実戦を経験して、それまで余り気に成らなかった後方火力の出番が意外と多い事を思い知らされ

たのは確かだ。

殊に、これからはあの人形を相手にしなくてはならない、全方位への主砲火力の指向は最早必須

条件となりつつある。

「右舷に旋回。」エルムス艦長の号令が飛ぶ、今日何回目の右旋回だろうか、宇宙艦特有の旋回

中に船体がバンクしない独特の旋回は、その速度とも相まって乗員を真っ直ぐ外側向きの加速度

中に引きずり込んだ。

「やはり上下向きより横方向の旋回にまだばらつきを感じるな、僚艦の状態はどうか?」

「問題無く付いて来ている様です。」

「本艦勝手の旋回ばかりではマジョルカのパイロットの訓練にならんか… よし、サドとグレア

ム両艦勝手での機動も試す、先ずは本艦とグレアムの位置を入れ替える、後はヨウ艦長の指示に

従い左右3セットずつ旋回運動、終わったら次はサド勝手だ、両艦に打電せよ。」

臨成第4はこの日、艦隊機動の訓練のみで1日を費やし、午後5時に係留窟へと戻った。

 

翌日も機動訓練に終始し、もう一つの要であるメガ粒子砲の発砲訓練は、訓練開始から4日目か

らとなった。

最初に発砲訓練のみを15斉射し、後は機動を掛けながらの射撃訓練に入る。

「全艦、目標をカノープスに取り各自2斉射せよ。」

明るい恒星を目標にした射撃訓練、レーザー砲同様機関が運転状態ならば弾数に制約はない。

開戦後ルナⅡ周辺に民間船はいないし、仮想目標への射撃ならばデブリも発生しない、撃ち放題

なのだ。

レーザーとの違いは有効射程と破壊力、レーザーと比べて射程は圧倒的に短く、破壊効果は圧倒

的に大きい。

午後に入るとFCS内に作り上げた動く仮想標的に対する射撃訓練に移行する。

エレムス艦長が疑問を投げて来た。

「M、R、R艦未収で艦長を拝命した私が言う事でも無いのですが、メガ粒子砲はレーザー砲よ

り弾着範囲がかなり大きい様に見受けられます。恐らくビーム収束機に原因がある物と思われま

すが、砲の癖を管制員が掴む為に、今少し砲単体での射撃訓練を行ってから機動砲戦の訓練に入

った方が宜しいのでは?」

艦長の言い分は良く解る、実際、慣性航行での射撃では15万メートルで400ミリ前後の誤差

を認めている、しかも、射撃するごとに微妙に偏差がずれるのでFCSによる自動補正が追い付

かないのだ。

「M、R、R艦は勿論私も未収でこの艦隊を任されたので、メガ砲にも同じく造詣はない。艦長

の言う事はもっともだが、現状、明日にもルウムに出されるかも知れんのだ。私が艦隊を率いる

以上、戦闘中は艦に常時急機動を要求する。人形共を纏りつかせない為にもだ。限られた訓練時

間で私は砲戦能力よりも機動戦の錬成を優先したいのだ。」

実際、この数日中での出撃は有り得無いとは思うが、動き廻る人形共を落とす為に火器管制員に

最も求められるのは、機動中の艦艇上で目標を素早く切り替える能力だと私は信じているのだ。

「メガ砲は、数を撃てばFCSが偏差のアルゴリズムをある程度学習するだろう。火器管制員に

は済まないがGに揉まれながらの操砲により多くの訓練時間を割きたい。それがこなせて初めて

M、R、R艦に乗り換えた意味があると私は見る。」

このやりとりは艦橋に詰めた全員にも聞こえていただろう、彼らはM、R、R艦搭乗の経験を除

けばベテラン揃いな筈だ、果たしてその後の訓練にその成果は現れ、本艦に釣られる様にグレア

ム、サド両艦の練度も上がって行く。

「今日は早めに終了する。僚艦に帰還指示を。」

サラミス級の機動性はリバー級の比ではない、2時間以上振り回されれば乗員の疲労もそれなり

だろう、実際、私も少々疲れた。

まあ、若い兵からすれば、自分が疲れただけだろうと言われそうだが、それはそれで構わない。

歳が上なのは事実だ。

 

翌日、臨成艦隊の各司令官にアムスキュア大将から呼び出しが掛った。

訓練を各艦長に任せ、指定された午前11時に、隣にある第5係留窟の第1ブリーフィングルー

ムへと向かう。

私は、ルナⅡに来て始めて他の係留窟へ足を踏み入れる事となった。

係留窟間はモノレールでの移動となるが、第5と第6係留窟の間には20分程の時間が掛った。

駅までの移動、そしてモノレールの待ち時間を含めると都合40分以上にもなる。

列車が同じ訳ではなかったのだが、やはり隣から来た臨成第5の指揮官と私は予定よりかなり早

めに到着し、此処を根拠地とする他の3人は予定の10分程前からぽつぽつと集まって来た。

そして最後にルナⅡ司令、アムスキュア大将が到着すると、予定時刻通りにブリーフィングは始

まった。

「今更名乗る事もないとは思うが、一応私が此処の司令を務めるゴドレー、アムスキュアだ。諸

君らには新造のサラミス級の搭乗員として急遽ルナⅡに集まって貰った訳だが、諸君らを必要と

するルウムへの派遣日時が先程決まった。 1月18日にルナⅡ出陣、21日にルウムに展開す

る現地艦隊と合流する流れだ。構成段列は、第1艦隊のマゼラン級アルメイダ麾下サラミス8隻

、第12艦隊のマゼラン級ジョージ、アンスン麾下サラミス4隻、そして臨成5艦隊計17隻の

サラミス級、戦闘艦で計31隻となる。この他に輸送艦17隻、給推進剤艦25隻と護衛の簡易

空母が3隻、ルナⅡ以外では極軌道衛星から南極艦隊のリバー級7隻が投入される予定だ。これ

は我が軍が現在投入出来る軌道戦力のほぼ全てに等しく、予備戦力と呼べるのは我が第2艦隊と

北極艦隊のみ、M、R、R艦に限るなら北極艦隊のみだ。現地では1次戦を生き抜いた44隻が

ルウムの月側に展開しているので、諸君らもその指揮下に入って貰う。現地での総指揮はレビル

大将が執っている。」

44隻に31隻と7隻、戦闘艦だけで総勢82隻か、まさしく大艦隊だな、中央の人事に疎い私

には、大将の名前など聞いても分らないと言うのが本音だが、取り敢えず言う事を聞いていれば

良さそうだ。

だが、此処に集められた指揮官の内、第1と第12艦隊の司令だけは反応が違った。

「レビル大将? 私は名を聞いた事が無いのだが、貴官は知っているか?」

「いえ、私も恥ずかしながら知りません、ジャブローの文官系ですかね。」

地方艦隊出の我々ならともかく、ルナⅡの主力艦隊とも言える第1艦隊を統べる者が知らない将

官とはどう言う事だ?

アムスキュア大将が口を開いた。

「現在、ルウムで我が軍の総指揮を執っているのは宇宙軍の指揮官ではなく陸将なのだ。レビル

大将は連邦陸軍の将官だ。」

「では、艦隊の指揮は何方が執っているのですか?」

臨成の誰かがアムスキュア大将に質問したが、大将からは我々の予想を裏切る言葉が飛び出す。

「いや、艦隊指揮もレビル大将が執っている。」

この言葉にブリーフィングルーム内はざわついた。

「詳細は私も把握していないが、ルウムの現在の指揮系統がレビル大将を中心に動いている事は

事実だ。レビル大将は実際に旗艦である第8艦隊のアムンセンに座乗して艦隊の総指揮を執って

いる。陸将がルウムに居るのは奇異に映るかもしれないが、ルウムのバンチ連隊群の増援に地上

から陸軍1個師団が派遣されていて、その指揮をレビル大将が執っていたのだ。ルウムに集まっ

た我が艦隊群は、来たるべき月面戦の為に一時的に集まったに過ぎず、本来艦隊の総指揮はツォ

ルコフグラード駐留の第5艦隊司令である、ティアンム中将が執る事になっていた。月面都市駐

留艦隊は政治的理由もあって将官が指揮を執っているから、これは妥当な判断だったと思うが、

実際には月ではなく各コロニーが開戦の舞台となってしまった。ルウムの本来の防衛は同地資源

衛星駐留の第8艦隊が柱となる筈なのだが、通常の艦隊編成では指揮官は大佐止まり、良くて少

将なので開戦時、現場に居た最高位の軍人が全体の指揮を執った事は吝かでは無いとは思う。」

何と、各地からかき集めた大艦隊を素人が指揮していたとは… 

「まあ、実際に一度敵を退けているのだから、部隊を統べる実力には問題無いと上層部も判断し

たのだろう、指揮系統に変更はなしだ。先にも言ったが戦力的に後が無いのでこの戦いに負けは

認められん、諸君に任せたぞ。」

セオリー無視の戦力投入に、かつてない寄せ集め大艦隊の素人指揮、上層部の判断力は大丈夫な

のか?

「出港の順番は、各係留窟の管制経由で知らせる、全艦17日中には全ての積み込みを完了させ

て貰う、輸送艦陣は翌日出港だ。それと、別件ではあるが明日は一切の基地外訓練を禁止する。

理由は今は明かせないが徹底して貰いたい、以上だ。」

最後に意味深な発言を残してこの日のブリーフィングは終了した。

艦隊は私抜きで訓練に出ており、帰りは午後5時頃の予定。

ブリーフィングの内容を艦長達に知らせるのは、暇になった翌日で良いだろう…

 

基地外訓練の禁止と、艦長達へ報告をする場所取りと時間の連絡だけは昨日のうちに済ませてお

いたのでこの日の朝はこの数日間よりは余裕が持てた。

食堂に朝食を取りに行く、空いた時間を見計らって、初めての時の様に此処でミーティングを行

う事も考えたのだが、流石に作戦絡みなので9時から第2ブリーフィングルームを抑えてある。

一般的な朝食よりしっかりしたメニューも、此処数日で身体が受け付ける様になった。

集中する任務が出来た事で、気が紛れたのだろう。

ブリーフィングルームにはお馴染みとなった3隻の艦長と副長、隣の部屋は臨成第5が恐らく同

じ用件で使っている。

「…と言う訳だ、17日中の出撃準備完遂は必須、出港順はまだ未定だが此処には2艦隊しかい

ないので、午前中には出港出来るのではと思っているが。」

珍しく、グレアムのヨウ艦長が最初に口を開いた、大分風通しが良くなって来たなとは思う。

「司令は陸将の指揮下に入るのをどう思われますか? これは即ち決戦なのですよね、私は不安

が先に立ってしまうのですが。」

「実の所、私も同感だが、こればかりは我々ではどうする事も出来ない、取り敢えずは現場に着

いて様子を見る他ないな。」

「予備戦力の話が出ていましたが、低軌道4基地駐留の艦隊が数に入っていませんでしたが…

確か、デルタ基地と、此処に来る途中に寄ったガンマ基地で無傷の艦隊を見ました。各サイドか

ら逃げてきた艦艇にも戦える船はそこそこ居た筈ですが。」

フォルトナート艦長の言葉にヨウ艦長が返す。

「ですが、一昨日辺りから低軌道側でかなり大規模な戦闘光らしき物を観測しています。臨成第

5艦隊は訓練中、核の炸裂らしき物を見たとも、その一方がフォルトナート少佐の見た艦艇達な

のでは?」

確かに低軌道側で戦闘が行われている事だけはは間違い無かった。

思い返せば、アビジオで脱出する際、大規模な敵艦隊を遠目に確認してもいる、恐らく、何か別

の作戦が行われているのだ。

「済まない、我々にその辺りの説明は一切なかったのだ。具体的な回答を私は持ち合わせていな

い、後で確認はしてみよう。」

いつもなら真っ先に話し始めるエルムス艦長が、ここで話に加わる。

「そういえば、先程艦に寄ってから来たのですが、係留窟の外部ゲートが閉まっているのを私は

初めて見ました。私が直接聞いた訳では無いのですが、管制からは訓練だけで無く全ての船の出

港が止められているそうです。何かあったのですか?」

「昨日の時点で出るなと言われているので、緊急の用件では無いと思うが… 何もかも満足に答

えられず重ねて済まない。出撃まで時間が無いので本来ならば今日も船を外に出したい所なのだ

がな。」

考えて見れば、ルナⅡに来てから戦況その他何も知らされないまま訓練だけに明け暮れていたの

だ。

結局、本当に昨日のブリーフィングの報告だけしか出来ずにこの会議は終わってしまった。

だが、程なく出港禁止令はかん口令の一環だと知れた。

隠し通せる訳も無い、都市筒が1基、地上に落下したのだから…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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