私の部屋にキルセンバーグ副長が駆け込んで来たのは、午後1時半を過ぎた頃だった。
「司令、コロニーが落ちたそうです! 今、港湾管理の者から話しが回って来て、第2係留窟の監
視哨に詰めている物が偶然目撃したらしいです。」
「落ちた? 地上にか?」
「勿論地上にです。ですが又聞きなので詳しい事までは解りません。落ちた場所も落とされた都市
筒もまだ不明なのですが、緯度的には丁度赤道付近ではないかと言う話でした。」
携行端末で確認しようとしたが現在接続不能、ミノフスキー場の擾乱が原因ならば端末自体が不通
を告げるし、そもそもルナⅡは敵の接近を許しておらず、ミノフスキー場の擾乱は考えにくい。
これは明らかにネットワーク側で情報を弾いている時のエラー表示だ。
そうか、何となく今起きている事が判り始めて来た。
既に2日前辺りから都市筒を落とそうとするムンゾ側と、それを阻止しようとする味方の戦いが始
まっていたのだ。
低軌道基地にいた戦闘可能な艦はこれに宛がわれ、昨日の段階で作戦の破綻が決定的になったのだ
ろう。
昨日出された出港禁止令は、事実上箝口令の一環として出された物だったと言う事になる。
「何処まで話しは流れた? ウチの艦長達も知っているのか?」
「少なくともエルムス艦長は知っています。他の艦はどうか判りません、3隻とも指揮官組は艦橋
に詰めて居る筈です。我々の所にはマジョルカの整備を担当している港湾管理部の少尉が話を持っ
て来て、その少尉は第2係留窟から応援に来た者から聞いた話だと言っていました。」
現在、臨成各艦隊の整備支援として第1から第4係留窟の港湾管理部職員の内、第1と第12艦隊
担当以外の者が随時此処と隣の係留窟に応援として送り込まれて来ているのだ。
「それでは、少なくとも第2係留窟の者には既に話しが行き渡っていると言う事だな。端末は接続
を切られているが、有線は使用出来るか?」
「駄目でした。それで私が此処に来たのです。」
「判った、大尉はこのままグレアムの艦橋へ向かえ、私はサドへ行く、ヨウ艦長に話が伝わってい
ない様なら今と同じ様に伝えろ、但し艦長以外には聞かれるな。」
キルセンバーグ大尉は私の部屋を飛び出して行った。
此処まで駆け付けてくれた彼には気の毒だが、それが今出来る最善策だと思える。
私もサドの繋がれている係留スポットへと急ぎ足で向かった。
私がサドの艦橋に着いた時、既にゲンズフリー艦長を初め、その場に居たサドの艦橋スタッフは全
員その話を知っていた。
「この話は何処から伝わったのか?」
「港湾管理部の者です。彼らは今、その話で持ち切りだと。」
これは既にほぼ隅々まで話は行き渡っていると言う事だろう、キルセンバーグ大尉には飛んだ災難
を押し付けてしまった事になる。
「恐らく箝口令が敷かれるだろう、地上に縁者を持つ者が艦長の部下にどの位いるか判るか?」
ゲンズフリー艦長は、少し間を置いてから答えた。
「我々は殆どがムーア出身者ですので、移民の比較的初期にコロニー生活者となった者の3代目が
殆どを占めます。地上に親戚はいても既に縁遠くなってしまっている者が多いでしょうが、本人を
含め、結婚している場合相手もそうとは限りません。又、途中で移民して来た者も居る筈です、流
石にそこまでは判りかねますが。」
愚かな質問だったか… 確かに情報部でもない限り軍と言えどそこまでの身上調査などしない事位
判っていた筈だった。
「済まん、その通りだな、私はただ配下の兵への影響が知りたかっただけなのだ。まだ出港禁止令
以外の指示は出されていないが、影響が大きい場合はむしろ積極的に上層部の箝口令に協力すべき
だと考えている。」
「司令はザーン出身者でありますか?」
「いや、私は地上のグロスター出だ、イングランドだな。士官学校を出て宙に上がった。最初の赴
任地は君らの故郷だ。」
「それでは司令自身の親族が地上に残っているではないですか、そちらの安否こそ気になるのでは
?」
その通りだ、今の私は何処かおかしい、父母が今もグロスターに、4歳下の弟夫妻がクロアチアの
リエカにいるのに頭の中からそっくりそれらは抜け落ちていた。
この艦隊の指揮を任されてから、何か自分が2人に分かれ、1人の自分が意識の外にあるもう1人
の自分を眺めている様な感覚に囚われる事がある。
「落ちたのは赤道付近と聞いた、今直ぐイングランドやクロアチアに影響があるとは考えていない
が。」
「ですが、これほど巨大な構造物の落下を我々は未だ経験していません。落ちた場所にも拠ります
が全く被害がないとは言い切れないと思います。」
「だが、心配した所で情報は入って来ないだろう。」
「やはり情報は欲しいですね、箝口令に協力するよりも、今手に入る情報を出来るだけ集めておい
た方が良いと思いますが。」
今日は駄目だ、全く頭が働かない…
「判った、君の言う通りにしよう。情報収集に何人か出してくれるか、そうだな、港湾管理部に顔
が知れている機関か船体保守の者が良いだろう。港湾管理部の隊員にわざと雑談を持ち掛けさせろ
。」
さて、他の2艦にはどう伝える…
「有線は今、駄目なのだな。」
「はい、港湾管理事務所に近い何処かで回線が切られていて交信その物が出来ません。」
「ラジオは傍受の危険があるか… レーザー通信なら少なくとも隣のマジョルカには通じる筈だ。
送れるか?」
だが、レーザー通信は使えなかった。
丁度マジョルカのレーザー受光部を港のクレーンアームが隠していたのだ。
その時、頭の中で開戦時の記憶が甦って来た、ようやく頭が回って来た様だ。
「モールスを使おう、ガンライトで隣のマジョルカに送信する、準備を頼む。」
艦橋には一応全員揃っている、サドは艦内待機と図上訓練が艦長令で行われていたのだ。
通信担当がガンライトを持ってマジョルカ寄りの窓に近づくと、チカチカやり始める。
「マジョルカがこちらに気付きました。いつでもどうぞ。」
「本文、コロニー落下の情報収集を行われたし、港湾管理部の者から取得せよ、同文をグレアムに
も送れ、送信。」
通信担当の送信を見届けてから、ゲンズフリー艦長に現状待機を命じると、私は取り敢えずサドを
後にした。
マジョルカに行かねば…
隣のグレアムを通り越してマジョルカまでは無重力とは言え7~8分掛った。
「済まない、乗艦していなかったのは私だけの様だ、キルセンバーグ大尉は帰って来ているか?」
「いえ、司令とご一緒では?」
「そうか、こちらからはグレアムとレーザーで交信出来るだろう、大尉を呼び戻してくれるか。」
「グレアムにいるのですか、判りました。先程グレアムから発光モールスとレーザーの2本立てで
コロニー落下の情報収集が指示されて来ましたが。」
「それは私が出したのだ。キルセンバーグ大尉は私の命でグレアムに向かって貰った。で、こちら
からも誰か出しているな?」
「はい、機関科の者を3名程港湾管理部に行かせました。」
どの艦長も良く判っている、判っているといえば、グレアムとサドの間にあったクレーンアームが
動き出したとの連絡もあった。
クレーンを使う作業は思い当らないので、恐らくはどちらかの出した乗員が港湾管理部に掛け合っ
たのだろう。
待つ事30分程、その間上からは箝口令を含め何も出されてはいなかったが、電波と有線通信の復
旧はまだなかった。
だが各艦の送り出した乗員達がそぞろに戻り始めて来たようで、追加情報が徐々に集まり出した。
サドとは直接連絡が取れないので、グレアムが一度サドから来た情報を加えてまとめた物を改めて
マジョルカに送って貰い、そこにマジョルカの乗員がもたらした情報を加えた物だ。
「まず、落ちた場所は東南アジアらしいです。通信出来ないので詳細は不明ですが、落ちたのが昼
の領域だったのでほぼ間違いないかと。」
「東南アジア? どの辺りになるのだ。」
「雲が出ていたので正確な場所までは見えなかったらしいのですが、オーストラリアとインドの間
の海上、ボルネオとかスマトラとかジャワなどの島の集まっている場所だそうです。落ちた後に粉
塵らしき物を見たとの情報もあるので、海上ではなく何れかの島に当ったのではないかと噂されて
います。」
エルムス艦長が後を継いだ。
「あくまでも噂の域を出ませんし、情報源が基地隊員の目撃情報ばかりなので、これ以上時間を掛
けてもこの程度の物しか集まらないと思います。」
「その様だな、それでも何も知らないよりは良い。」
その時、通信担当が声を上げた。
「待って下さい… 今、有線通信が復旧しました。」
通信担当は続いて無線も正常化した事を報告する。
そして、復旧したばかりの無線を通じて突然放送が開始された。
「ルナⅡに滞在する全ての軍人、軍属注傾せよ。今から70分程前にサイド4、ムーアの11バン
チ、南行政府庁筒のカイセリシリンダーが地表に落着した。落着地点は東南アジア東部、ジャワ島
付近、現在ジャワ島とスマトラ島東部との連絡が途絶、当地周辺の各内海沿岸部には既に津波が到
達し、太平洋側にあるオーストラリアからも津波の到達情報がもたらされた。落下都市筒に対する
阻止作戦は行われていた物の、減速、落下する都市筒は8本を数え、その全てを阻止する事は出来
なかった。これが現在伝える事が出来る情報の全てとなる。基地内の動揺を抑える目的で出港制限
を掛けたが、現時刻をもってこれを解除する。」
放送の終了とほぼ同時に係留窟の外側門が開き始めたようだった。
此処からは直接視認する事は出来ないが、メインモニターの港内状況表示と港湾管理部員達の動き
から見て恐らく間違いない。
「箝口令は無しだ、無駄な仕事をしたな。」
正直、上がこれ程早く動くとは予想外だった。
恐らくはアムスキュア大将の指示なのだろう。
此処はジャブローなどとは違い、言わば孤立しているので良くも悪くも大将の思うがままなのだ。
通常ならば諜報部辺りが動く所なのだが。
「我々ルナⅡ移送組には、各サイドの追加情報は止められていたと考えるべきだな。」
我々は概ね逃げる事しか出来なかったのだが、確かにムンゾ側は4つの行政府庁筒のみ原型を保
ち、これを減速、移動しようとしていた。
他のサイドでも同様の行動をしていたのなら、質量弾として都市筒を利用する作戦の裏付けには
なる。
「先程の放送中、落下軌道にある都市筒は8本とありましたが、他の都市筒の落下は防ぐ事が出
来たのでしょうか?」
エルムス艦長の問に私は答える事が出来なかった。
「私にもそれは判らない、持てる情報は君達と同じなのだからな。」
だが、一昨日辺りから遠目に見えていた戦闘光らしき物が、時間と共に下火になった後での都市
筒落着は、我が軍が展開していたであろう阻止作戦の瓦解を表すのに十分だと思われた。
この後、更に都市等の落下が続くかもしれない、だが、我々はそれを止める術を持たないのだ。
もしも親兄弟の頭上に都市筒が落ちる時、自分はそれを正視出来るだろうか…
いや、考えるだけ無駄なのだ。
考えた末、私は通信担当に港湾管制に対して出航要請を出すよう命じた。
港湾管制から了解の回答が返って来る。
「今から出すのですか?」
エルムス艦長が尋ねて来る。
「時間がないのだ、情報を聞いた所で我々には何も出来ないのなら、訓練をしていた方が気が紛
れると言う物だ。僚艦に連絡、30分以内に出航の準備を終えよ、後2日半でサラミスを使える
様にせねばならん。」
30分で出航準備が整うのは艦長達のお陰だ。
私は今日の出航停止は伝えたが、それに替わる具体的な指示は出していなかった。
艦長達は各自の判断で艦に乗員を乗せ、港に繋がれたまま仮想で訓練を行っていたのだ。
推進剤関係は残量のみで1日程度の訓練に十分足りるし、火器はまだメガ砲しか使っていないの
で弾薬は手付かずで残っている。
3隻が係留窟を出る頃には時間は午後5時を過ぎようとしていた。
「今夜は基地に帰投はせず、乗員の交替をしつつ訓練を継続する、まずは周りに他艦がいないこ
のタイミングで対宙火器の実弾発砲訓練から行う、本艦を軸に横軸並列展開、標的機はないので
FCS上の仮想標的を用いる、僚艦保護の為の射撃制限区域に注意せよ。」
訓練6日目にして、初めて行う対空火器の発砲訓練だ。
「まずは射線の調整から始める。各砲の調整終了を待って、同一目標を全艦管制統合射撃により
迎撃する。以後実戦を想定して無線封止、レーザー通信によるFCSの連携動作確認。」
「対宙誘導弾は如何しますか?」
「いや、実弾射撃はCIWSのみだ。この訓練で搭載全弾撃ち尽くせ。」
現行の12.7ミリ機銃とレーザー照射機併用のFD64CIWSでは敵の人形を落とせない事
は判っているが、ミサイル類への備えは必要だ。
特に敵の装備する対大型目標向け誘導弾は、我が軍の物より大弾量であることが戦前より判って
いる、これをまともに喰らう訳には行かないのだ。
この銃架の基本型は半世紀以上使われ続けており、銃自体は旧世紀から続くものだ。
無論液体装薬等、時代に添って改良はされており、敵側もコピー品を使用しているのが確認され
ている。
惜しむらくは、洋上艦並の30ミリ級だったなら人形にもある程度の効果が期待出来たのだが、
無重力下で無反動と言う条件に合わせた小口径化が裏目に出てしまった形だ。
因みに併用されるレーザーに弾体を破壊する力は無く、光学系シーカーの破壊を目的に装備され
ているのだが、誘導の終末段階でシーカーを無力化しても、命中する物は命中するし、ミノフス
キー場の擾乱により無誘導で使用される現状のミサイル類に事実上効果はなく、敵側のコピー品
はこれを外しているとも聞く。
我々の船は新造艦なので、射軸調整は必須だった。
各艦共調整を済ませて仮想目標への迎撃訓練に移るが、物の数分で全弾を消費する。
その後、念を押す様に機動訓練を行い、陣形変換時の各艦の位置を頭に叩き込む。
出動中の乗員交替も、この艦隊に編成換えしてからは初めての事だった。
訓練初日以来となる行動中での一夜を過ごし、翌朝は早朝からメガ砲の発砲訓練、係留窟に殿の
サドが着いたのは午後3時を過ぎた頃だった。
翌16日を最後の訓練日として午後には乗員を休ませ、17日を予定通り燃弾の積み込みに当て
ると、遂にルウムへの出撃日を迎えた。
実質訓練期間6日間、いよいよ急造艦隊が初陣に赴くのだ。
我々は月の軌道高度を月の公転方向と逆向きにルウムへと向かう。
実際は軌道速度を減じて月が追い付いて来るのを待つ格好だ。
今朝の出陣は壮観であった。
総勢31隻の出航には約半日を要したが、各艦隊共旗艦を先頭に係留窟から出ると、沖合で僚艦
が揃うまで待機したので、ルナⅡ沖はさながら前世紀の海軍が行った観艦式の様相を呈し、見る
者に感銘を与えた。
但しそこはルナⅡ発の軌道艦、各艦隊の旗艦が使用したドリーの方向に拠り艦隊間で上下は二分
し、指揮権もルウム着までは各艦隊の裁量に委ねられている為、その光景は長くは続かない。
各艦隊は数次に渡る減速を掛け、軌道高度を3万キロ程落とす、このタイミングは艦隊次第なの
で減速するたびに各艦隊の位置は更なるばらつきを見せ、最後の減速を掛ける頃には程良く艦隊
間の距離が広がっていた。
我々臨成第4は後ろから2番目、最後方は臨成第5だ。
艦内は出港時から常に警戒態勢を維持、電波は今の所通っているがいつ接敵するか判らない。
既に敵偵察機の接近は数次に渡っていた。
我々を合流前に攻撃することも出来る筈だが、その様な大部隊の接近は今の所見られない。
逆に、低軌道側で再び大規模な戦闘光が観測され始めたが、ルナⅡ側やルウム側、そしてジャブ
ローからもそれに関する指示、命令の類いは一切なかった。
翌20日の午前中にルナⅡ発の増援艦隊は続々と在ルウム艦隊との合流を果し、我が臨成第4も
10時40分頃、月面防衛支援群の指揮下に入った。
今や月面での作戦など臨むべくもないのだが、艦隊群の名称はそのまま残っている。
「第8艦隊旗艦アムンセンに送信、臨時集成第4艦隊、現時刻を以て貴艦の指揮下に入る、艦
隊進入位置の確認と天地合わせの為の基準信号を送られたし。」
ミノフスキー場の擾乱は、敵がまだ遠いせいで思った程でもなかったが、合流前から既に無線封
止は行われており、従って旗艦の天地信号もレーザー送信なのだ。
「貴艦隊の到着を歓迎する。進入座標並びに天地信号を送信した。以下に従われたし。」
捜天走査していたレーザー受信機がアムンセンに指向し、メインモニターに現在の艦艇配置状況
と我々の収まる位置が示される。
「旗艦に天地を合わせる。グレアムとサドは本艦の横転終了を待って本艦に合わせよ。」
エルムス艦長の指示で、アムンセンとの角度差52度を横転して補正する。
グレアムとサドは本艦を基準に後から天地合わせをするが、両艦はそれに加え本艦の両脇に占位
しなければならない為、その機動もしなくてはならない。
それが終わると今度は艦列内に進入し、指定の座標で艦首をアムンセンに合わせてようやく月面
防衛支援群に合流となった。
船の位置が決まった所で、着任の挨拶をしなければと思う。
「もう一度アムンセンと交信出来るか? 総司令に着任の挨拶がしたい。」
だが、アムンセンは他艦との交信で手一杯だった。
レーザー通信は送受信機を交信相手と正対させる必要があるので、無線に比べ同時交信出来るチ
ャンネルが少ないのだ。
データリンクの同期も1時間程後となり、旗艦の混乱ぶりが手に取る様だ。
結局、総司令への挨拶は叶わなかった。
エルムス艦長が、陸将の声を聞きそびれましたねと冗談めかして言ってきたが、恐らくは緊張し
ている艦橋内の空気を和らげる為だろう。
だが、不備はあるとは言えこの時点でレーザー通信完備とは我が軍には恐れ入る。
開戦時にこの態勢だったなら今少しましな戦いが出耒ただろうか…
乗員に携行食を取らせ、手の空いた者から少休止させる、乗員の交替は午後9時を予定、と、そ
こで通信担当がアムンセンからの電波封止一時解除指令を伝えて来た。
そして、我々は初めて総司令となる陸将の声を聞く事となった。
「ルウムに集いし我が精兵諸君、私が初兵科並びに各艦隊の総合指揮を執るレビルである。既に
緒戦にて我が軍は敵の奇襲を受け戦力を削られはしたが、増援を得た今、この宙域には敵を圧倒
する艦艇が集結している。これを以て敵の軌道戦力の中核を叩き、継戦能力を奪い、この戦乱
を終結させる。地球連邦が成立してほぼ80年、1つの旗に集いし我々に対するこの挑戦の愚か
しさを地球圏全体に知らしめるべく、諸君らにあってはより一層の努力を期待する物
である。これより各艦隊には詳細な本陣座標を送信する、本艦の指示に倣い陣を形成せよ!」
レビル大将の演説が終わるやアムンセンに開設された旗艦CICから、我が艦隊に対しても再度
陣形座標が送られて来た。
しかし大将は話術に長けた人だ、緒戦での大敗北をさらりと流し、自軍の勝利を確信させうるに
足る短くも力強い言葉、そして、眼前の大艦隊はその言葉達を強力に後押しする。
「艦長、位置情報は取得したな?」
「はい、我が臨成第4は球形陣の下2段目右舷側、左隣は臨成第2とザーン駐留艦隊、後ろにル
ウム駐留艦隊のバーケリアです。」
艦隊の再集結位置はルウムを超えて月とルウムの間、遅れてメインモニターに表示された立体陣
形図は単純な球形陣で、中心の旗艦アムンセンからルウムの都市筒第2列目までは340キロ程
離れていた。
「潔いな、ルウム防衛に戦力を割かず、艦隊決戦に全力を投入するつもりだ。」
私の言葉が陸将を肯定した様に聞こえたのか、エルムス艦長の呟きが聞こえた。
「球形陣か… 取り敢えず一つにまとめるには良いが…」
通信担当のケスティネンが配置図の詳細情報の入電を告げる、ワイプ、カウシェン組は現在非番
待機中。
旗艦と我が艦隊以外の全ての艦艇の所属と艦名が配置図に加わった。
「艦長、良いではないか、図の通りに収まれば良いのなら我々は楽が出来ると言う物だ。」
総勢69隻を数える球形陣は流石に巨大で、此処のメインモニターでは折角の艦名表示も拡大し
ないと反映されない。
明日には輸送船団と南極艦隊も合流するので、南極艦隊の加入だけでも総勢84隻、球形陣に加
わらないとは思うが、一応輸送船まで加えると総数130隻に迫る大艦隊だ。
艦隊の全体配置予想図が来たので、大した用件ではないのだが私には知りたい事があった。
「艦長、済まないがメインモニターを少し弄っても良いか?」
「構いませんが、何をするつもりなのですか?」
「いや、世話になった者が何処に居るのか知りたいだけだ。この画像では細部が潰れていて拡大
しないと追い切れない。」
取り敢えず艦長名にアレイア、マクミランと入れると、臨時集成第2艦隊、サラミス級バフィン
と表示され、立体陣形図に矢印が点滅する。
そこにいたか…
漂流し、救助されたコルレーンの副長は、階級はそのままにサラミス級の艦長になっていたのだ
った。
臨成第2の指揮官一覧を呼び出すと、そこにはジェレミー、エネルマンド少尉の名前もあった。
私を助けてくれたアビジオのエネルマンド艦長も、同じ艦隊でマルタの指揮を執っている。
拡大するまでもなかったな…
実は少ないながらも機会を見てはルナⅡの人事データーにアクセスして、コルレーンの乗員の行
方を検索し、大凡の動向を掴んではいたのだが、最近の情報までは手が回らずにいた。
彼らは撤退中だったムーア南艦隊のシェルレフテに救助されて、デルタ基地に無事収容、我々と
同じくポートサイドでルナⅡまで運ばれた所までは確認出来たのだが、直接会う事は適わず、ル
ナⅡ到着後の動向までは調べが追い付いていなかったのだ。
「個人的な都合での使用を許してくれるか、行方不明だった部下の動向が知りたかったのだ。」
エルムス艦長は何も問題はありませんと答えたが、陣形図の方には不満があるようだ。
「司令、艦同士の距離が近すぎると思いませんか? 私はムーア南艦隊時代に戦闘態勢での艦艇
間距離を2キロ以下にする事はなかったと記憶しています。」
艦長に言われるまでもなく、艦艇距離1.5キロは戦闘隊形としては近すぎる、殊にM、R、R
艦ならば艦の運動性からして従来より広く取るのは定石の筈だ。
「これだけの艦を操るのだからな、戦闘になれば間隔を広げるのではまいか?」
「ですが、これだけの艦数になりますと艦艇間隔の変更は外周側の艦の移動量に皺寄せが来ます
。移動順を間違えると混乱も。現在単純な球形陣なので外周側の艦の負担は大きいですし、艦同
士のデータリンクも戦闘中はレーザー通信のみとなるため、多数艦の連携には恐らく時間差が生
じる可能性があります。今の内から実戦に即した隊形を取るべきなのでは?」
その言葉が終わるのとほぼ同時に敵艦隊の接近情報が旗艦から発せられた。