ワッケイン   作:いくさふね

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それは後にルウム戦役と呼ばれた

艦隊の再集結は結局午後7時頃まで要した。

原因は色々あるが、艦艇群を二手に分け、ルウムを超えてから再集結した事が一番に上げられる。

2時間程前より観測域に入って来た敵艦隊は、大凡有効射程よりも外側で距離を保とうとする動き

をしていた。

ルウム1次戦の後、敵は一度撤退しているので、これらの敵は後方で再編成された物に違いない。  

「このデブリだらけの中で、敵との間に障害物が少ないのは幸いでした。敵の数は約30隻、中に

は大きい奴が2つ程混じっています。」

大きい奴と言うのはグワジン級と呼ばれる超大型戦闘艦の事だ。

ムンゾは昔の洋上艦になぞらえて戦艦と呼称しているらしい。

「後ろに補給がいる筈だから総勢45隻程か、数では圧倒しているな。アムンセンはまだ動くなと

言っているが、艦長の言う通り、早めに艦艇間隔を広げないと混乱しかねない。」

私の言葉に対しエルムス艦長は慎重だ。

「ですが、実際まだかなりの距離があり、グワジン級の推定射程にすらまだ届きません。早く陣形

を組み換える事で手の内を明かす事になるのを避けている可能性も。」

「私もそう思いたい所だが… 予定より早いが乗員の入れ替えをしよう、このままでは戦闘態勢の

下令がいつになるのか予想が付かないからな。グレアムとサドにも伝えよ。」

臨成第4は大凡午後8時に乗員の交替に踏み切ったが、アムンセンからはその後も戦闘態勢への移

行命令はなかった。

警戒態勢ならば、戦闘艦橋の開設も総員の船外服着用も原則必要としないが、臨成第4としてそれ

らを行うかどうかで私は迷う。

「どうします?船外服にだけでも入った方が良いですか?」

エルムス艦長が私の迷いに気付いたのか判断を仰いで来た。

「そうしたい所だが、私はレビル陸将の意図を読み切れていないので正直迷っている。こちらから

直ぐに戦闘を仕掛けるのであれば我が艦隊独自での戦闘態勢移行もありだが、このまま睨み合いが

暫く続くのならば長時間の戦闘態勢維持は負担が大きい。船外服に入るだけでも乗員は疲労するか

らな。」

「敵が動かないのは何故だと思います?」

「断言は出来んが、何かを待っている様に私には見える。大体、我々の合流自体敵に丸見えだった

筈だ、戦力の少ない側ならば敵の合流前にどちらかを叩くのがセオリーなのだろうが、敢えて我々

の合流を許したのには何らかの意図を感じる。私が全軍の指揮官だったなら敵の手が揃う前に速攻

で攻撃を掛けるのだが…」

「全軍? それは敵ですか、それとも味方の事ですか?」

言われて初めて気が付いた、そうだな、どちらにも取れるな。

「それほどの深読みはしていない、我が陸将の立場だったならの話だ。で、船外服の件だったな、

アムンセンから命令があるまでは現状維持としよう。船外服着用は戦闘態勢発令後とする。」

取り敢えずは陸将の判断に委ねて見るか…

 

当初乗員交代を予定していた9時を回っても、アムンセンからの戦闘態勢発令はなかった。

乗員を交代したとは言え、非番になった者たちも敵と対峙している以上待機しているのと変わらな

いのだ、可能な限り戦闘前に無駄な疲労は避けたい。

そこへ、先の乗員交替でケスティネンと入れ替わったワイプ少尉が、ミノフスキー場の擾乱が始ま

った事を知らせて来た。

「無線封止は戻っているのだよな?」

レビル大将の演説後、再び交信及びレーダーの使用は禁止された筈だ。

「はい、現在無線封止継続中、これはアムンセンからのレーザー通信による共有情報です、ピケッ

ト艦役が電波の不通を確認したと。」

続いて、ようやく戦闘態勢が下令された。

「総員戦闘態勢、船外服着用、指揮所を戦闘艦橋に移行する、戦闘艦橋内の減圧は行わない。」

エルムス艦長の号令一下、乗員は船外服を着る為に各々動き出した。

艦橋要員は、正パイロットと火器管制員、通信担当のそれぞれ片方、それに艦長が先に戦闘艦橋に

降り、戦闘艦橋が開設された所で残りが操舵艦橋を後にする。

艦橋要員の船外服着用はリバー級と変わらず艦橋後ろの待機室だ。

戦闘態勢移行時の船外服着用は3分以内で出来る様、我が軍の船乗りは上下の別なく訓練で叩き込

まれており、もたつく者などはいない。

艦隊司令の私が戦闘艦橋に向かうのはいつも通り前の組だ。

約7分後には、臨成第4は全艦戦闘態勢への移行を完了した。

光学観測では、2群に分かれた敵の艦隊は炉のシールドを解放後、我々の前方方向に変針し、距離

を保つ様な艦隊機動を見せている。

ミノフスキー場の擾乱は、敵の常套手段かつ独壇場だった。

我が軍の艦艇はミノフスキー場をECMとして使う事を想定していないので、基本的には乗員の判

断で炉のシールドを解くことが出来ない。

ベリンスガウゼンの事故以降、シールドの保持は更に厳重にされており、ミノフスキー場の擾乱に

よる電波障害は敵の成すがままなのが惜しまれた。

敵も球形陣を取っており、天地は反時計回りに約90違い、我々基準で上下2つに分かれた小ぶり

の球形陣が、こちらの射程から逃れる様に機動している様がメインモニターに写し出されている。

「敵艦群、再度回頭を開始しました!」

尻を見せて我々との距離を保とうとしていた敵艦達が突如回頭を始め、頭をこちらに向け直す。

だが、回頭が終了しても慣性航行の行き足そのままに減速する様子は見られない。

「アムンセンより全艦へ、戦闘加速15秒、目標は上方球形陣の敵艦群。」

「指示はそれだけか?」

「通信文は先の通りです。」

「臨成第4各艦、以後アムンセンの指示に従う。」

私が疑念を挟んだせいで、我が臨成第4は一瞬だけ加速のタイミングが遅れ、結果、球形陣を乱し

てしまった。

臨成第4の配置は水平方向で大小5層に詰み重ねられた円形陣の下から2段目の右舷外周側、グレ

アムの後方にはルウム駐留艦隊のサラミス級バーケリアがおり、更にその後にいるのはは低軌道4

基地から派遣された艦隊のリバー級残余群だ。

そのリバー級達は我が艦隊の遅れに関係無く、そもそもの艦の性能差から置き去りにされ始めた格

好となっていた。

加速性能に劣るリバー級にM、R、R艦と同じ機動命令のみで、追加加速等の命令を出さかった結

果だが、リバー級の遅れは初めから考慮されていたのかも知れない。

性能差を考慮して、リバー級は艦隊の最後方に配置されたのだろうと想像出来るからだ。

 

「バーケリアとの艦艇間隔は?」

「グレアムに合わせてくれています。」

「バーケリアに詫びを入れてくれ。」

「司令、陸将はこのまま突っ込む気なのですかね?」

エルムス艦長の心配していた事が現実になりつつあった。

「これは流石に想定外だ、艦同士が近すぎる、グレアムとサドに追加速をするなと伝えろ、遅れた

ままで良い、バーケリアの艦長と話しが出来るか?」

回線は直ぐに繋がった。

「第4臨成指揮のワッケインだ、本艦隊は陣の乱れを修正しない、貴艦隊の指揮官にも伝えて貰い

たい。加えて貴艦にあっても我々に同調願いたい。」

バーケリアの艦長は同意してくれた。

更に、バーケリアの後上方に占位する同艦隊のウエリントンも我々に同調するための微減速を掛け

る。

ウエリントンの後方は全てリバー級なので大きな乱れは発生しなかった。

アムンセンからはやはりリバー級各艦への追加加速の命令は無く、リバー級達の遅れは拡大し、今

や艦隊は球形陣から歪な長球形へとその姿を変えつつ有った。

「アムンセンから砲撃諸元来ました。」

本艦の目標は2隻いるチベ級の1隻、艦隊全体で中央のグワジン級と2隻のチベ級に火力を集中し

た事がメインモニターの表示で解る。

既に敵グワジン級の推定される有効射程圏に入っている筈だが、敵の砲撃はまだなかった。

「敵艦、マゼラン級の有効射程内に入りました。」

火器管制のルシアン少尉の報告とほぼ同時に、敵艦隊が動きを見せた。

主機を点火しないまま慣性で後退を続ける敵の一部が、我々に向けて加速を開始したのだ。

「上下の敵艦隊より一部がこちらに向け加速を開始。」

「艦種と数は判るか?」

「はい、デブリが少ないので射統装置で追えます。艦種は全てジッコ級と思われ、上下艦隊より9

隻ずつ計18隻まで確認。」

「アムンセンより入電、ジッコ及び下方の艦隊は無視、サラミス級の主砲射程に入り次第、先の目

標指定に従い砲撃を開始せよ。」

だが、砲撃開始は敵の方が早かった。

上下の敵艦隊のそれぞれ中央にいたグワジン級が砲撃を開始、最初の斉射が我が艦隊の同じく中央

に占位するマゼラン級アムンセンとベリンスガウゼンに集中するが、12条のビーム束は命中する

事なく両艦の至近を通過した。

4隻いるマゼラン級とその前方にいたサラミス級達が、ミラーチャフを緊急展開する。

だが、照準を阻害しても回避を行わないと予測照準で捕まる、しかし我が艦隊は艦艇間隔1.5キ

ロのままで進出を開始していた。

1.5キロと聞くと離れている様にも聞こえるが、マゼラン級の全長は大凡480メートル、大体

横に3隻並べた位にしかならない、速度も相対速度なので一概には言えないが、1噴射で亜音速相

当の増速は普通に出来る、洋上艦とは次元が違うのだ。

案の定、球形陣の前方側が回避運動を行ったせいで陣形は更に崩れ出し、連鎖的にそれは後方にも

伝播して行く。

「臨成第4全艦、右旋回10度、衝突するなよ。」

艦隊は自然と左右の2群に分かれ始めた。

 

「本艦の射程に敵艦を捕捉!」

エルムス艦長が砲撃の開始を命ずる。

「味方の動きに注意、同士討ちを避けよ。」

敵の2斉射目は艦隊を崩す事に繋がった回避運動が効いたのか直撃した艦はなかったが、本艦が射

撃を開始したのとほぼ同時に到達した敵の第3斉射目には、チベ級の発したと思われるビーム条が

混じっていた。

陣の前方でサラミス級が2隻程直撃を受ける。

こちらの放ったビーム群は、殆どがミラーチャフの影響を受けない球形陣外側のサラミス達に拠る

物だったが、予想通りグワジン級とチベ級に集中し、本艦は命中を得なかった物の、射弾は特にグ

ワジン級に集中し数発の命中を確認、チベ級1隻にも有効射を得ると、敵もたまらずミラーチャフ

を展開した。

しかし、敵の球形陣は小さい上に、先に一部がこちらに進出を開始していた為艦艇間隔に余裕があ

り、陣形を崩すまでには至らない。

「ジッコは何処まで迫った?」

前の艦隊に気を取られている内にジッコの群れは断続的な加速を繰返し、既に距離は50キロを割

る所まで迫っていた。

「誘導弾が来るぞ、対宙迎撃準備、アムンセンからの指示はないか?」

「いえ、指定された敵艦への砲撃を繰り返せとしか。」

その間にジッコ達は誘導弾を放出する。

「来たぞ、弾数を確認!」

「総数70発を超えます。」

1隻4発で72発と言った所か、飽和攻撃と呼べるかは微妙な所ではある。

「主砲を防宙射撃に振り向けろ、即時発砲開始! 対宙誘導弾放出、相対距離5000メートルを

切ったらボールターレットも迎撃射に投入、敵弾は大きいから喰らうと沈むぞ。」

メガ砲は目標をミサイル群に切り替えて発砲を始めたが、敵ムサイの様なバースト射撃が出来ない

のはもどかしい。

対宙誘導弾も放たれたが誘導が殺されているのでロケット砲で弾幕を張るのと変わらなかった。

「敵艦、更に何かを放出しています。」

「ミサイルの2射目か?」

「判りませんが、数は少ないです、先程の半分程。」 

その時、レーザー砲の光条がジッコのいる方角と我々の後方を結んだ。

後ろのリバー級が援護してくれたのだ。

接近するミサイル群は見る間に数が減って行く、敵のミサイルも無誘導状態なので直撃コース上に

ある物以外は脅威ではない、数が減れば見分けるのはたやすかった。

ミサイルだけでなくジッコその物にもレーザーは指向され、数隻が被弾した様に見えたが、ジッコ

達も又、ミラーチャフを撒いてその身を隠す。

恐らくチャフ雲の影で変針した筈だ。

メガ砲と違い、レーザー砲はビーム自体がチャフにより減衰されるので、ジッコ本体への効果は削

がれてしまったが、その前方を走る最初のミサイル群の内、危険な物はほぼ落とした様だ。

だが、後続の物は不規則に回避を行いつつそのままこちらに突っ込んで来る、その動きは明らかに

無誘導と化した誘導弾の物ではなかった。

「第2波は誘導弾ではありません、人型の機動兵器です!」

しまった、ジッコ級は例の機動兵器の運用能力を持たないと言う事前情報を鵜呑みにしてしまって

いた。

人型を模しているならば手足でしがみつくなり、どうとでもなるではないか…

「人形にはCIWSが効かん、何処まで入られた?」

「25キロを切りました、20秒程で敵携行砲の推定射程内。」

「メガ砲は直ちに射撃開始、対宙誘導弾は突入方向に弾幕を形成せよ。」

しかしと言うか、予想はしていたが射距離が詰まって来たせいで、人形共の回避運動は我がメガ砲

の砲塔機動性を上回り初めていた。

敵は射程内に入っても発砲せず、ランダムな回避を加えながらこちらに突っ込んで来る。

40機に迫る人形共は編隊を組まず、単機で動いている様に見えた。

その時、索敵担当のカウシェン少尉が声を上げた。

「後方に別の敵艦隊出現!」

キルセンバーグ副長の味方輸送部隊ではないかとの言葉を、カウシェン少尉は否定した。

「艦種を確認、間違いなく全てムサイ級です、彼我の距離約260キロ、天地はこちらとほぼ同じ

で単列横隊を成し13隻まで確認、我が輸送部隊はルウムの反対側で待機している事も合わせて確

認しました。」

まだ有効射程外なのは救いだった、今はジッコと人形共で手一杯なのだ。

 

人形共は明らかに単機行動で正面側より突っ込んで来た。

そこかしこで星の瞬きの様な輝きが見えたのは敵が携行砲の射撃を開始したからだ。

最早我がメガ砲では人形共の動きに付いて行く事が出来ない。

正面側のサラミス級が数隻被弾した様だが、敵の目標はあくまでマゼラン級だった。

4隻の内、前を行くアムンセンとベリンスガウゼンに射弾が集中する。

相対速度差がかなり有る為、人形共は一撃のみ加えるとそのまま我が艦隊の中を突っ切り、後方へ

飛び抜けて行った。

味方の対宙火線に捕まった人形は1機もいない。

「ジッコはどうした! 既にチャフ雲から出ている筈だ。」

エレムス艦長は通り過ぎた人形から既に注意を切り替えている。

「我が艦隊の上下を通過して、後方へ離脱中。」

上側の艦隊から放たれたジッコ達は我が艦隊の下側に潜り込み、下側からのジッコ群は丁度その反

対の機動をチャフ雲の中で行い、既に人形を追って離脱しつつあった。

相対距離は艦長が問うた時点で各々15キロ程、奴らの腹にはまだ半分近くミサイルが残されてい

る筈だが、ジッコは無視せよと言う命令が生きているので追い打ちを掛けた艦はいなかった。

そうしている間にも我が艦隊は更に左右に分かれて行き、最早球形陣は崩壊状態となり、後方に置

かれたリバー級の一団を加えると3つの塊に分かれてしまっていた。

敵の2艦隊はそれぞれ上下、敵からすると左右に旋回を行い、こちらの襲撃運動を分散しようと試

みたが、レビル陸将が目標を変える事はなかった。

こちらの集中砲火で被弾したグワジン級1隻のみが離脱の構えを見せる。

「全艦右旋回、左舷に敵を捕らえよ。」

アムンセンからの命令は陣の立て直しではなく、火力の最大化を狙う物だった。

我々を含め、先の回避で右に舵を切った艦はそのままアムンセンに従ったが、左に舵を切った艦達

は命令を無視して更に左へと進路を取る。

「後下方のムサイ群、距離180キロで更に接近中。」

新手の艦隊が徐々に射程に迫る、連携している様に感じるが敵の旗艦はどれだ? 下側にいるグワ

ジン級だと思いたいが、何やら後ろから俯瞰で見られている気がしてならない。

「13隻が3群に分れ波状に接近、前方の2艦隊はそれぞれ上下に変針中、加えてこちらへの加速

を開始しました。」

敵は我々の集団を細かく分割しようとしている様にも見える。

「アムンセンに臨成第4指揮官名義で意見具申、艦艇間隔の拡大を求む、送れ。」

この狭い間隔のままムサイの連射を喰らったら大混乱は必至だ、だが、アムンセンからは否定の文

が送られて来た。

「敵機動兵器の艦隊内進入に備え、対宙火力を集中する。艦艇間隔はそのまま維持せよ。」

アムンセンからの返信を読み上げたワイプ少尉がこちらを見ている。

「もう一度送れ、敵艦に近接砲撃の意図を認む。ムサイ級には主砲の連射能力あり、回避運動を見

据え艦艇間隔の拡大を再考されたし。」

しかし、アムンセンからは再度の間隔維持命令が送られて来た。

「了解とだけ伝えろ。艦長、旋回に伴う追加速を絞って艦をわざと遅らせろ。僚艦と後方のバーケ

リアにも送信。」

だが、第4臨成は旋回面の内側に位置しているので狙った程の効果は得られなかった。

 

「アムンセンより入電、砲撃を開始せよ、目標は個艦の判断に任せる。」

後方にもメガ砲を持つマゼラン、サラミスにとって舷側砲戦は最大火力を発揮出来る体勢ではあっ

たが、いかんせん艦艇間隔の狭さがそれを邪魔する。

マジョルカとサドは隣の船が揃って左に旋回したので砲撃の邪魔をする物はいないが、右端にいる

グレアムは一段上のアムンセンを含む味方艦に射線を遮られてしまっていた。

敵は今、我々から見て垂直10時、水平8時の方向より接近中、先程から旋回と報告されている機

動は、実際には艦首をこちらに向けたまま、恐らくは側面スラスターの全力噴射にて機動しており

旋回とはあくまで艦隊全体としての動きを指している。

我々が砲撃を開始するより早く、敵はミラーチャフを展開し出した。

「各艦、推測照準にて砲撃せよ!」

砲撃命令によりメガ砲は放たれ、我がマジョルカは3斉射し手応えはなかったが、他艦の放ったビ

ームのいく条かはチャフ雲の向こうの敵艦を捕らえ、数隻への命中を伺わせる光芒がチャフ雲を照

らす。

だがグレアムの様に全力発砲出来ない艦もあり、そして後方から迫るムサイからの砲撃が、我々の

第4斉射目を止めた。

背後から射掛けられた敵の初射は通常のビーム束、まだ距離が開いているせいだろうが、間合いは

見る間に詰まっていく。

「後方にミラーチャフ展開!」

エレムス艦長の命とほぼ同時に、他艦からも一斉にチャフ弾がばらまかれる。

左に旋回した味方艦群の事が気になったが、それを確認する暇はなかった。

後方にチャフ雲が形成され、姿を一時的には隠せたが、それはこちらにも当てはまる。

左舷の敵は彼らのチャフ、後方の敵には自らのチャフで、光学照準は阻害されてしまったのだ。

だが、左舷の敵艦隊に自らの動きをカバーする追加のチャフ展開は見られない。

アムンセンからは後方への長距離誘導弾の発射要請が来た。

「どうせ当らん、牽制射のつもりで4本放て。」

後部発射管から4発の誘導弾が放出される、その時、カウシェン少尉が警報を発した。

チャフ雲の影から人形の群れ、そしてチベとムサイが踊り出して来たのだ。

 

彼らはチャフ雲に隠れて人形の発艦作業を行っていた様だ。

「人型兵器の数は20を超え、更に増大中。」

後ろから迫るムサイ達の第1波は、我が艦隊の軌跡を追う様に旋回を始める。

アムンセンの命で後方に放出した誘導弾は、当然の様にまるで効果がなかった。

相応の損害を与えたと思われたチベとムサイだが、人形に続いて怯む事なくこちらに迫らんと追加

速を掛けて来る。

人形共の数は最終的に30機程になり、既に我が艦隊の直近にまで迫っていた。

「アムンセンより、戦闘加速7秒、後方の敵に距離を詰めさせるな!」

我々は前上方の敵に舷側を向ける為に旋回した姿勢のまま、後方から迫るムサイに追われる様に加

速を描けたが、前上方の敵も我々の未来進路に向けて変針と加速を掛けており、その前には人形共

の群れ、気付けば後ろから追って来た艦隊との双方から追われる立場になっていた。

「右舷下方より、リバー級各艦接近中。」

メインモニターには、我々の右舷側より遅れて追及して来たリバー級達が、合流を目指して旋回し

ている姿が表示されていた。

「全艦加速5秒、同時に左舷に20度旋回。」

アムンセンからの指示が届く、それは恐らくリバー級達に敵がまとわりつくのを避ける為だったの

だろうが、果たして一部を除く人形共と2つの敵艦隊はこちらに吸い寄せられる様に追って来た。

そして遂に我が艦隊に人形共は追い付き、そのまま艦隊内に侵入して来る。

同行戦の形となったので正に人形共は我々にぶら下がる様に接近し、携行砲を射掛けて来た。

アムンセンからは更に20度の左旋回の要求、だが艦艇と違い身軽な人形共は引き離される事なく

付いて来て、各々携行砲を1斉射しつつ前方へと抜けて行く。

こちらのCIWSは、接近して火力を集中しようとまるで効果はない。

艦隊の後方に位置する我々は敵の初弾を浴びた物の、人形共は我々にまとわりつく事なく、艦隊の

前方に向けて突進する。

そして、一度我が艦隊の外へ抜けると反転を掛け戻って来た。

その動きは、先程対向戦で一撃を掛けてきた人形共とは違い、明らかに3機での編隊機動を取って

いる様に見える。

そして、攻撃は次第にアムンセンとジョージ、アンスンに集中し始めた。

アムンセンが旗艦だと判っているのか、特に同艦が執拗に撃たれる。

蜂の巣にされたアムンセンは、遂に旋回加速中の艦隊から遅れ始めた。

敵の携行砲はマゼラン級の基幹部分の装甲を破れずにいる様だが、それ以外は弱ないし無装甲なの

で外観上は最早スクラップ同然、加速の遅れは何らかの機関関係への被弾を疑わせた。

基幹部分の装甲にも穴は有るのだ。   

「後方より、更に2個艦艇群が接近中。」

それは、敵の主力を成していて下方に舵を切ったもう1つの球形陣と、後方から迫るムサイ群の第

2波目だった。

反対舷に変針した味方の半分と、それを追って同じく反対舷に進路を取ったムサイの第3波が周回

運動後、遅れてこちらに追及しているのも確認出来たが、今は直近に迫る敵で手一杯だ。

「アムンセンの左舷側に出る、左舷15度変針及び加速2秒、グレアムとサドは本艦に続け!」

マジョルカは艦隊の左外周方向へ踊り出た、その後方には僚艦2隻が命令通り追随して来ている。

中央の段の右舷側は我々の段より外側まで張り出しているが、左舷側は味方半分が反対舷に旋回し

た事から、特にアムンセンの左舷側には味方艦がいない状態なのだ。

人形共は、自然と左舷側が裸のマゼラン級を狙って攻撃し、それが我が旗艦アムンセンに射弾が集

まった原因に見えたのだ。

「上げ舵、1段艦列を上がる。」

艦列1段分駆け上がった第4臨成はアムンセンのやや前方に占位することが出来たが、旗艦の遅れ

は拡大しつつあった。

「被弾は甘受する、減速、旗艦に足並みを揃えよ、艦艇間隔は4キロを取れ。」

下側から湧き上がる様に現れた我々に、人形共は一瞬うろたえた様に見えたが、すぐに携行砲を撃

ち込んで来た。

船体構造を伝う衝撃が被弾したことを告げるが、被害の確認まで手が回らない。

幸いにも推進器は無事だった様だが、この至近距離で効果が期待できるのは実質130ミリボール

ターレットのみ。

艦隊は更に右舷側に崩れて行き、しかして幸いにも艦艇間隔は広がり出した。

同士討ちの危険が減少したので、数の少ないボールターレットでも迎撃効果が上がり、人形共の機

動にある程度の制限が掛り始めた。

だが、肝心のアムンセンからの命令は左旋回の追加を最後に途絶えてしまい、交信を試みても応答

すらなくなってしまった。

アムンセンの同段右後方に居たジョージ、アンスンが、同艦の減速を見て速度を合わせる為に自艦

も減速を開始した。

それを見た他艦も合わせる様に減速し始めたが、旗艦からの艦隊運動指令で行った物ではない為、

機動にばらつきが出て、艦隊全体では更に左舷へと旋回を強める形になった。

だが、既に艦隊の指定位置からはみ出している我々には艦列の乱れなど気にならない。

取り敢えず丸裸のアムンセン左舷側をカバー出来れば良いのだ。

「サドは旗艦の後方に占位せよ。」

第4臨成の最後方にいるサドにアムンセン後方のカバーを命じ、サドは右舷に舵を切った。

これで一応アムンセンの全周に少なくとも1隻の味方艦がいる形が出来上る。

敵の人形共はサラミス級のボールターレットが邪魔だと気付いたのか、攻撃の手を周囲を固めるサ

ラミス級へと変え始めた様だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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