ワッケイン   作:いくさふね

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拘束

アムンセンにたかっていた人形共が編隊ごとに散開して、周囲のサラミス達へと目標を変えた。

ジョージ、アンスンに取り付く人形共の方はそのまま同艦への攻撃を継続中だが、サラミスに向か

った奴らも含め、その攻撃は次第に低調になり始めた。

アムンセンの左舷側にいる我々にも3機の人形が襲い掛かって来たが、連中も弾をばらまく様な事

はせず、丁度本艦の艦橋を狙って点射を2発ずつ程浴びせ掛けると、左舷側へ一度離脱して行く。

4発程貰っただろうか、しかし戦闘艦橋の装甲は十分機能してくれた。

「敵は残弾を気にし始めている様だ、旋回復航する最遠点をメガ砲で狙えるか?」

そこに、サドからの交信。

「アムンセンの右舷側内火艇格納庫扉が開き始めました。」

何、まだ人形が彷徨いている中でどう言う事だ? 内火艇で今出るなど奴らに落とされに行く様な

物だ。

余計な事を考えている内にメガ砲が放たれる、先の人形が旋回軌道の頂点に達したのだ。

だが、連射出来ない我が砲は1斉射出来たのみで命中は得られかった。

人形共は我々の後方で旋回を終えると、左舷斜めから回避運動を加えつつ追撃に転ずる。

メガ砲はその後も射撃を続ける物の、距離は見る間に詰まって来て、敵の見かけ上の回避運動の早

さを砲塔が持て余し始めた。

前方に2基並ぶボールターレットも実質左舷側しか使えず、しかも艦橋構造物が真後ろに死角を作

っている。

だが、後方から迫る3機が狙っていたのは本艦ではなくサドだった。

サドからは、アムンセンの内火艇が発進したとの一報が入る。

人形はサドに点射を加えると、そのまま斜めにサドとアムンセンの間を駆け抜けようとする。

その前方にはアムンセンの内火艇。

次の瞬間、人形共の内2機が火を噴いて進路から逸れた。

残りの1機が慌てた様子で上方へと離脱しようとしたがそれも被弾し、明後日の方向へと弾け飛ん

で行く。

サドが落としたのか?

だが、サドから意外な通信が入る。

「敵の同士討ち発生、内火艇に1機接近!」

携行砲を放つかに見えた敵機はしかし、そのまま内火艇の直近をすり抜け、通過と同時に内火艇の

推進器部が飛び散った。

速度が早過ぎて我々の目には何が起きたのか判らない。

3機を攻撃したと思われる人形2機は、下から突き抜けると左旋回を掛け、先の1機の攻撃で推進

器を失った内火艇を2機で鷲づかみにするとジョージ、アンスンの方向へ突進する。

先に抜けた1機はジョージ、アンスンに一撃を掛けて右舷側に離脱しており、同艦の対宙火網はそ

れを追っていたので後から来た2機に目標を切り替えるには僅かだが時間が掛かる。

それが判っている様に2機は斜め後方から悠々とジョージ、アンスンの上を飛び抜け、先に真横か

ら突っ込んだ1機と合流すると、我々の右舷前方に飛び去って行った。

入れ違いに敵のメガ砲が我々を襲う。

一連の動きに気を取られている間に他の人形共はいつの間にか消え失せていた。

敵の艦砲には次第に短連射が混じり始め、味方艦の損害が増え始める。

左舷後方より射掛けられたメガ砲に臨成第4は矢面に立たされた。

臨成第4の先頭を走るマジョルカは2発、後ろのグレアムとアムンセンの後方に付いていたサドに

はそれぞれ1発の命中弾。

アムンセンは我々が盾となったお陰で至近弾のみで済んでいる物の、推進器部の損傷からか十分な

回避運動までは出来なかった様だった。

 

「損害の確認は出来るか?」

エルムス艦長の問いに艦橋クルーで答えられる者はいなかった。

ワイプ少尉が船体側にいる乗員の誰かと話をしている。

「船体保持組は携行砲弾による損傷の応急処置で手一杯でしたが、火器組が大凡の状態を掴んでい

ました。最前部に1発、FT、FL砲塔付近に1発との事です。3番及び4番発射管とメガ砲FT

、FL砲塔は使用不能だそうです。」

グレアムとサドの命中箇所は此処からでは判らないが、推進器は生きている様だった。

こちらから両艦に尋ねる事はしない。

前方側の艦がミラーチャフを張り回避運動に入ったが、艦艇間隔は未だに狭い為、おのずと舵を切

れる方向は限られる。

そして、辛うじて維持していた艦列はいよいよ崩れ始めた。

予測照準なのだろう、敵の4斉射目が襲い掛かる。

「本艦もチャフを散布!」

エルムス艦長の命を私は止めた。

「待て、チャフは温存しろ、僚艦にも連絡、前の艦のチャフが効いている、視界を自ら閉ざすな。

回避運動は上下方向に取れ。」 

マジョルカは下に、グレアムは上に進路を取る。

「左舷ミサイル!」

20発程だろうか、それらは味方の張ったチャフ雲を突き抜けてアムンセンに殺到した。

恐らくは回避運動の十分でないアムンセン1隻のみを狙って放たれたミサイル群は、広く網を張る

様に向かってきており、味方の播いたチャフ雲が迎撃の時間を奪う。

船体中央部と推進器部に1発ずつ被弾したアムンセンは、敵ミサイルの大炸薬量と、その前にしこ

たま撃ち込まれた人形の携行砲弾による損傷もあったのか、船体が前後に割れて、4基束ねられた

推進器は瓦解してしまった。

我が艦隊の旗艦は沈められたのだ。

アムンセンの左舷側にいた本艦とグレアムは、直前に掛けたメガ砲想定の回避運動の為、幸か不幸

か弾幕の外にかろうじて出ていた物の、アムンセンの後方にいたサドは船体に貰ってしまったらし

く、大爆発を起こした後、左にロールしながら前上方に弾き出された。

だが、沈んだかと思われたサドの船体は未だに原型を留めており、4回転ほどでロールは止められ

艦首も元の方向に持ち直す、操艦出来ているのだ。

「サドから入電、船体下部に命中弾1を受けるも操艦は可能、詳細は調査中との事です。」

今や後方から追ってくる形となった敵の主力半分は、既に手の届く程の距離にまで迫っている筈な

のだが、味方のチャフ雲のせいで確認が取れない。

そこに、ジョージ、アンスンからの通信が入る。

「本艦が艦隊指揮を代行、継続する、艦隊旗艦はジョージ、アンスンに変更。」

続いて左舷30度の旋回指令、これで艦首は戦闘開始時の方向にかなり近づいた。

結局、右舷に逃れた組は歪な逆Sの字に機動した事になる。

ジョージ、アンスンが旗艦と言う事は、我々と共にルナⅡより増援に駆け付けた第12艦隊の司令

が指揮を執っているのだろうか…

 

新たな旗艦からは、艦艇間隔についての言及は一切なかった。

その間にも、後続のムサイ群第1陣4隻が迫って来ていた。

彼らは我々と同じ天地を取り下へ潜り込まんとする、ムサイの艦容なら当然だ。

我々は左に追旋回を掛けたのでムサイ達の接近経路は次第に左後下方からとなっていく。

「4臨成各艦、進路を維持しつつ180度ロールせよ。」

旗艦の指示に拠らず、私は臨成第4に天地の逆転を命じた。

臨成第4だけが艦隊の中で上下逆さまの格好となったが、旗艦からは姿勢についての言及はなく、

代わりに全艦に対してムサイ群への迎撃が下令された。

敵は人形を展開しておらず、その目は恐らくジョージ、アンスンに向けられている。

「照準砲手勝手で発砲せよ!」

サドの砲撃は確認出来なかったが、マジョルカとグレアムは射撃可能な全てのメガ砲でムサイを砲

撃する。

我々の発砲と同時にジョージ、アンスンは上方に回避、敵もこちらとほぼ同時に通常射でメガ砲を

放ったが、ジョージ、アンスンの回避運動の方が一瞬だけ早かった。

12条のビームは何もいない空間に吸い込まれる。

そして、グレアムの放ったビーム2条がムサイの1隻を捉えた。

ビームを受けたムサイは右の推進器部が脱落し、艦橋付近から大量の破片を撒き散らした後、後部

船体ブームその物が折損し、操艦手のいない前部船体のみが爆圧と慣性で流されて行く。

本艦のビームは命中を得られなかったが、他艦のビームが別の敵艦1隻の前部船体側面を削り取り

、そのムサイは命中の衝撃で右舷側に傾いたが辛うじて持ち直した。

3隻に減った敵艦は、応射せずに我が艦隊の下方を横切って反対舷に突き抜けて行く、いや、応射

出来ないのだ、後方に砲を持たないムサイ級の弱点を露呈した形だ。

チャフで見えなかった敵の主力半分は、経過時間からして我が艦隊の上方を通って既に反対舷へと

抜けている筈だが、ミサイルに拠る攻撃は、アムンセンを沈めた物のみに終わった。

そして左舷下方には、最初に下側に旋回した後反転して追撃して来た敵主力の片割れと、後から現

れたムサイ群の第2波が推定射程内まで接近中、前下方にはようやく合流が適いそうな味方リバー

級群が見えたがその数は明らかに減って見える。

最初に左舷に旋回した味方の半分は、ムサイ群の第3波に追われながらもこちらに追及していたが

、その位置はムサイの第3波より更に後方にあり、こちらとの合流にはまだ時間が必要だった。

我々は左旋回を掛けたので後ろの敵艦隊も追随している物の、その旋回角は比較的緩く、このまま

だと我々の右舷側に出る公算が高い。

或いは我々を追い越した敵との合流を目指しているのかも知れない。

「後方の敵は人形を展開しているのか?」

「いえ、今の所確認していません。」

私が索敵結果を聞いている所で、エルムス艦長がふと漏らした。

「敵の機動兵器は肝心な時にいない事が多いな…」

それは私も薄々感じてはいた。

特に後から現れたムサイ達からは、人形の展開を一度も見ていない。

「敵艦隊、合流した模様。」

人形の事は頭の隅に追いやる、合流した敵はほぼ無傷な上にグワジン級1を伴っているのだ。

「ジョージ、アンスンより、後方にミラーチャフを展開せよ。」

だが、度重なるチャフの使用で各艦のチャフ残弾は残り少なくなっていた。

船体の大きいジョージ、アンスンはともかく、他のサラミス級からの放出弾数は艦隊全体をカバー

するには明らかに少なく感じる。

「臨成第4各艦は保有全弾を放出せよ。」

我が臨成第4はチャフの使用に制限を掛けていたので、若干ではあるがまとまった弾数を持ってい

た。

そして、サラミス級と言わず我が軍のチャフ投射器はその装備位置に係わらずほぼ全周にチャフを

投射する事が出来る。

1基25連装のランチャー計5基、各艦とも損傷しているので全数とはいかないが、大体3~4基

のランチャーで3連射、800発近いチャフ弾を全て艦隊後方に投げると、偏りはある物のそこそ

このチャフ雲形成された。

 

だが、ビームは後方からではなく、艦隊左舷、我々臨成第4の右舷側から飛び込んで来た。

後続ムサイ群の第2波が射程内まで到達したのだ。

だが、ムサイ級の推定射程にはまだ僅かに距離があった筈だ。

艦隊の前方に位置するサラミスに攻撃が集まり、1隻が瓦解すると、その破片はジョージ、アンス

ンの方向に向かう。

しかし、艦艇間隔の拡大を放置していた事が功を奏し、ジョージ、アンスンには回避の時間が残さ

れていた。

飛んで来るビームは、ムサイの物より重い様に見えたが、接近して来るのは全てムサイ級だった筈

だ。

ジョージ、アンスンからはメガ砲での応射が命じられるが、見る間に距離は詰まって行き、遂には

ムサイ達が短連射出来る所にまで接近を許してしまった。

敵艦が艦隊直下まで迫る頃には、サラミスの主砲塔では最早敵艦の動きに追随出来ない。

盲撃ちだろうか、擦れ違い様にムサイ達は短連射をよこすが、本艦の上を抜けたムサイだけは砲撃

して来なかった。

他艦とは上下逆の姿勢をとるマジョルカの頭上を横切ったムサイの姿に、3連装の主砲を見たのは

気のせいだったか…

いずれにせよ敵艦5隻は大きな損傷なしに艦隊右舷側に抜けて行く。

通過した敵艦を逃すまいとその後ろ姿に向けて各艦は砲撃を始め、リバー級のレーザー砲も加わっ

た一大ビーム条群が敵艦に注がれたが、敵は通過直後にミラーチャフを置き土産の様に撒いており

効果の確認には至らない。

リバー級のレーザー砲が無効化された事だけは事実だった。

「天地を再び旗艦に合わせよ。」

私は臨成第4に再び180度のロールを命じる、サドの様子が気掛かりだが、命令に合わせロール

しているのが見えて少し安心した。

「後方から機動兵器と思われる機影多数接近!」

後ろでまとまった敵艦隊は、先程我々が展開したチャフ雲の影で人形を放出していた様だ。

「数は?」だが、その回答を聞く前にジョージ、アンスンからの命令。

「全艦前方推力最大にて緊急減速せよ。」

エルムス艦長は復唱し、マジョルカも前方スラスターの全力噴射を掛ける。

反転機動なしでの全力減速で、身体は前に放り出されんとし、シートベルトが船外服に食い込む。

前部スラスターに損傷を受けたと思われる数隻が、減速しきれず前方に突出した。

下方のリバー級群は我々に良く追随して来る、主機に性能差は有れど、姿勢制御スラスターはM、

R、R艦と変わらないからだ。

全艦一斉の大減速に驚いたのか、後方から迫る人形共は一瞬怯んだ様な機動を見せるが、直ぐに

艦隊内に進入して来た。

「敵機の数、約30機。」

先程の問いの回答が今もたらされる、30機は予想より少なかったが、数の上では十二分に脅威

ではある。

そうか、これは後から合流して来た敵主力半分の搭載機か、だが、合流して来たのは敵だけでは

なかった。

「左舷に味方艦隊。」

左舷後方から我々を追い越して来るのは、マゼラン級アルメイダとベリンスガウゼン2隻を含む

始めに左旋回で逃れた味方艦隊の半分だった。

今、ようやく追い付いたのだ。

 

大減速は彼らを迎え入れる為の物だった。

ジョージ、アンスンから再び指令、「全艦再加速7秒、並びに左舷に20度旋回。」

合流して来た艦隊は2隻のマゼラン級を先頭に見事な2列縦隊を成して我々を追い越すと、僅か

に左旋回を掛け減速する。

30秒程掛かったが、艦隊は再び1つにまとまった。

我々の大減速の結果、右舷側にいた敵艦隊は我々の前方に突出し、2隻のマゼラン級を警戒して

か右舷に舵を切りつつ加速を掛け、我々と距離を取ろうとする。

だが、艦隊内に侵入した人形共も猛威を振るい始め、損傷の激しいジョージ、アンスンに攻撃が

集中すると、そのジョージ、アンスンから命令が届いた。

「艦隊旗艦を再び変更、以後旗艦はアルメイダ、繰り返す、旗艦はアルメイダ。」

何たる… 戦闘中に旗艦が三度変わるとは…

だがアルメイダを指揮する第1艦隊司令の判断は的確だった。

「全艦、核弾頭の放出準備、通常弾頭との混成で各艦2本ずつを放出、照準点は転送データーを

参照の事、侵入した機動兵器は無視、被弾は甘受せよ。」

敵艦隊が一点に集まり、なおかつ味方との距離が開くこの瞬間を司令は見逃さなかった。

「南極のルブマは右舷に30度旋回、各艦はそれを基準に任意に射点を取れ。」

自艦ではなく南極艦隊の旗艦を基準にしたのは、同艦がより艦隊中心に近かったからだろう。

リバー級の艦群は、艦隊が合流した時点で1段低い位置にいた物の、右舷側の我々と、左舷側の

アルメイダ、ベリンスガウゼン組に挟まれていたからだ。

ルブマは旋回を始め、それに合わせて損傷艦の多い我々は大きく左舷へ、アルメイダ、ベリンス

ガウゼン組は急旋回を掛け右舷側へ、リバー級群を挟み位置を入れ替えながら旋回を終える。

リバー級とて誘導弾装備ならM、R、R艦と何ら変わらない。

「アルメイダより全艦へ、次発の準備もせよ、弾数は初射に同じ、初射5秒前、3、2、1、放

出!」

各艦の前方発射管から4本ずつ長距離誘導弾が放たれた。

総数で160発程だろうか、その半数は核弾頭弾だ。

敵が一点に集まったのは僅かな時間のみで、こちらの攻撃より先に敵艦隊は4方向に散開を始め

ていた。

恐らくは敵側も我々の核を常に警戒して行動しているのだろうが、アルメイダから送られて来た

射点座標はそれも折り込み済みの物だった。

艦隊戦の趨勢は、この攻撃でほぼ決まった。

我が艦隊の正面側に踊り出して来た敵艦群は2つ、アルメイダの予測照準は大凡それらを捉えて

いた。

何もない空間に向けて放たれた我がミサイル群に、敵艦は自ら吸い寄せられるかの様に進んで行

き、そして途中で気付いたかの様に急変針を掛ける。

短連射のビームが閃き、小爆発が多数起こる物の、到底あの数を捌ける物ではない。

そして、1つ2つと巨大な照明弾を思わせる輝きが敵艦隊を照らし、その数が一気に増えると、

我が艦隊正面は間近に太陽を見る様な光芒に包まれ、次の瞬間、戦闘艦橋内は暗転した。

メインモニターに光量補正が掛かったのだ。

その間、2~3分程だろうか、直前まで激しく攻撃を加えていた人形共も、核爆発が始まると攻

撃の手は止まる。

しかし爆発が収まるや、仇を取るかの様に更に激しい攻撃に転じた物の、それも長くは続かなか

った。

恐らく弾薬が尽きたのだ。

直後、前方やや左舷側に、今度は本物の発光信号が輝くのを見て、人形共は撤退に転じた。

船外服左腕に貼り付けられた簡易線量計を目をやるが、アビジオの核を間近で受けた時と大した

違いはなかった。

 

「効果はどうか?」

「待って下さい、デブリが多くて… 赤外線で追います… 思った程の効果はありません。半数

以上まだ動いています。」

やはりな… 軌道上での核の威力とはそんな物だ。

見た目の派手さ程効果は大きくない。

「旗艦から次発の要請は?」

「今の所ありません、いえ、今、撤退命令が出ました。我々へは左舷に旋回し、最初に戦闘を行

った宙域にて漂流者の捜索を行え。です。」

今、次発を放てば相応の効果を期待出来る筈だが、それをしないのは戦術核とは言え月の直近で

あれだけの数の核兵器を使用した事に対する政治的な配慮が働いたのか、それとも別の要因か…

だが一方で安堵している自分がいるのも気付いていた。

核の光の揺らめきは私のオーラフスビークシリンダーの記憶を激しく揺さぶるからだ。

いずれにせよ旗艦からの命令は既に出されている。

敵艦隊も我々の核を警戒したのかやはり撤収に転じた。

「構成艦隊単位で独自に動いて良いのかアルメイダに質問してくれるか?」

ワイプ少尉が旗艦に問い合わせ、各指揮艦の裁量で行動せよとの許可を取り付けてくれた。

「艦隊、左舷に170度旋回せよ、艦艇間隔は問わない、各艦に裁量に任せる。旋回終了後サド

を呼び出してくれるか、艦長と直接話がしたい。」

旋回を終え進路が安定すると、ワイプ少尉はサドを呼び出し、ゲンズフリー艦長が通信に出た。

「損害はどうか? 推進剤はどの位残っている?」

「本艦は都合メガ砲2発と誘導弾を1発、それに機動兵器の携行砲弾多数を受けました。その内

最も被害が甚大なのは船体下部に受けた誘導弾で、これにより推進剤タンクと主機を結ぶ配管が

破損し、7割方の推進剤を失ってしまいました。人員の被害は戦死8名、負傷6名です。現在の

推進剤残量では、本艦はルナⅡに帰投する事が出来ません。」

「そうか、タンクその物の状態は判るか?」

「まだ調査しきれていないのですが、余り期待は出来ないです。そもそも配管の破損部位が推進

器に近い所で、各タンクからの配管が集まっている所なのです。タンク自体も損傷している可能

性が高いですし…」

「判った、増槽も当然駄目だな、ならば増槽は直ちに投棄して船体を軽くせよ。増槽のマウント

と配管であれば本体側より修理はし易い筈だ。新たな増槽を宛がう方向で対策を考えたい。臨成

第4はこれより漂流者の救助活動に入るが、貴艦は付いて来るだけで良い。余計な推進剤は使う

な。」

戦闘開始から約3時間後の0時40分、臨成第は戦闘開始時の宙域付近にて漂流者の捜索を始め

、同時にアルメイダへ推進剤の補給を申請したが、アルメイダからの回答はルウム1次戦参戦艦

を優先するという物で、サドへの早急な推進剤補給は望めそうもなかった。

8時間余りの捜索で救助出来たのは、捕虜2名を含む6名のみ、そして、その作業の最中、我々

は都市筒2本が相次ぎ地表に落下して行くのを生で見せられる事となった。

迎撃に使われたのであろう恐らくは戦略核の炸裂光群と、低軌道での核爆発に伴うオーロラの異

常発生を目の当たりにした所で、我々が出来る事など何一つありはしない。

アルメイダからはこれに対する言及は一切なく、我々の質問にも応じない、只淡々と救助と補給

に関する指示のみが続けられるだけだった。

そして、ようやく我々の推進剤補給の番が巡って来て、我々がルウムの方向へと退くと、尋常で

はないルウムの姿が次第に明らかとなって来た。

そこにあるのは最早都市筒群などではなく、濃密で、未だに動き廻るデブリの群れだったのだ。

 

「ルウムの都市筒群が確認出来ません… いえ、ありました。デブリ群の中に8基程確認出来ま

したが、詳細な状態は不明です。」

何と言う事だ、我々が戦闘していた間に、ルウムは別の敵に襲われていたのだ。

だが、我々より先に推進剤を補給した船達は既にこの光景を見ている筈だ、通信に情報が上がら

ないのはおかしいではないか。

アルメイダを呼び出させると、その理由が判った。

旗艦が箝口令を敷いていたのだ。

円滑な作業を第一に考えての措置らしい、遅いか早いかの違いだけで、どの道全艦が知る事には

なるのだが…

「プロペラント補給艦、前方より接近を確認。」

近づいて来たのは推進剤補給艦サロニカだった。

「臨時集成第4艦隊司令のライナス、ワッケインだ、宜しく頼みたい。特にサドは戦闘損傷でメ

インタンクの使用は不可だ、増加タンクで凌げればと思っているのだが、詳細はサドのゲンズフ

リー艦長と決めてほしい。」

「サロニカ艦長のアンリ、ベレナウです、了解しました。では、サドを天頂部に、マジョルカは

右舷、グレアムは左舷に占位をお願いします。ランデブー操作は本艦の遠隔操作にて。3隻同時

に補給作業を行いますが、本艦への接近はマジョルカ、グレアム、サドの順で来て下さい。操艦

同期出来ましたら、まずサドから補給位置に誘導しますので、他の2隻は暫しお待ち下さい。」

流石に補給のプロだ、天地合わせは既に済んでいる。

「了解した、聞いたかエルムス艦長、本艦は右舷側だそうだ。操艦は向こう任せで。」

サドがアプローチを開始する、損傷のせいで細かい操艦が難しかった様だが、サロニカ側が動い

て何事も無いかの様にサドを捕まえた。

次は本艦だが、パイロットがする事は何もない。

操艦権を委譲されたマジョルカはサロニカに操られ勝手に同艦に接近して行く、ミノフスキー場

の擾乱が弱いから出来る操作だ。

ルウム戦に合わせ、急ぎで通信関係はレーザー化した物の、それ以外のデーター送受信までは改

修が間に合ってはいない。

後方に退がってからの補給の理由の一つには、敵との距離を置き、ミノフスキー場擾乱の影響を

抑える目的もあったのだろう。

順番に従い3隻の給剤位置進入が終わると、サドとサロニカ両艦長による打合せを経て給剤が始

まった。

「変更はありません、そちらの計画に沿って作業を行います。但し、サドの増槽保持具に修理が

必要ですので、それなりの時間が掛かる物と御承知の程を。」

「了解している。所で、少し話せる時間は取れるか?」

私は、我々が戦闘中だった約2時間の間にルウムで何が起こったのかが聞きたかった。

「宜しいです、どうぞ。」

「ルウムを攻撃した敵は何処から現れたのだ?」

それを聞いたベレナウ艦長の語気が僅かだが変わったのが私には判った。

「いえ、攻撃したのはそちらから来たジッコの一群です。新手ではありません。」

そうだ、あのジッコ達は一撃を掛けて来ただけで何処かへ消えていた、まさかあのままルウムを

襲っていたとは…

「敵は特殊な弾頭の誘導弾を使用していたか? それと、人型の機動兵器は付随していたか?」

その答えを聞くのに幾何かの間が出来る。

「通常のミサイルにしか見えませんでしたし、ザクとか言う機動兵器も見ていません… 今更そ

れを聞いてどうするのです? そこまで気にされるのでしたらそちらで止めて頂きたかったと個

人的には思いますが。」

その言葉には、上位の佐官である私に対してオブラートに包んでいる物の、明らかに怒りが感じ

られた。

確かにそうだ、唯一残されたサイドであるルウムを守るのも我々の役目だった筈なのだ。

目の前で都市筒群が崩壊して行く様を、ただ見ている事しか出来なかった彼の心情は察するに余

りある。

「済まない、我々の力不足だ。最後にジッコ達の脱出経路だけ教えて貰えるか?」

旗艦からジッコは無視する様言われた事は告げなかった。

彼にそれを伝えても言い訳にしかならない。

「離脱経路は私は見ていませんでした。そもそも離脱出来たのは4~5隻位なのでは? ルウム

にいた損傷艦達が奮闘してくれたのです。只、それは敵が誘導弾を放出した後の話です。彼らは

良く戦いました。せめて警報でも貰えていれば結果は違った物になったのでは?」

旗艦は警報も出していなかったのか… いや、出したとしても届いたかどうか… ルウム一次戦

の参加艦艇にはミノフスキー場の擾乱対策が行われていない。

両次を通じて戦った船には、二次戦を前にして輸送艦で対策機材が届けられ、現地工事で装備さ

れたらしいが、損傷艦艇まではどうか?

「済みません、ここまでにしましょう。サドの修理の件で呼ばれましたので。」

私はもう一度済まないと告げると通信を終えた。

そうだな、艦隊戦はともかくルウムを落とされた時点で負けなのだろうな。

ルウムの方を見やると、確かにザーンの時とは都市筒の壊れ方が異なっても見えた。

それに、デブリの中に残る健在な都市筒が行っているのだろう救助活動を思わせる光点が動き回

っているのも見える。

避難出来る都市筒が近くにあるのなら、救助活動は生きて来る。

我々も参加したい所だが、艦の状況はそれを許さなかった。

それから約4時間後の1月21日午後6時、臨成第4はサロニカと別れ、ルナⅡへの帰途に就い

た。

 

丸1日半掛けて帰り着いたルナⅡは、既に入港待ちの船で溢れ返っていた、

ルナⅡの構造上の問題に加え、ルウム戦、いや、正しくはグラナダ攻略戦の為に各地から集めら

れた艦艇が全てルナⅡに集まったのだ。

その数は沈められた船の数を差し引いても、ルナⅡ発の艦艇数を優に上回っている。

更なる都市筒の落着と、ルウムの惨状で乗員達の士気も下がっており、早くルナⅡ内に入りたか

ったが、先着している船の入港を待つ他なかった。

我々は出撃した第6係留窟の港湾管制指示下に入った物の、そこで言い渡されたのは、半日近く

の更なる港外待機だった。

待機後の入港順は損傷の酷いサドが一番手で、マジョルカは最後に指定される。

旗艦である事と入港順に関係はない様だった。

サドの入港から1時間半、通常の倍近くは掛かっただろうか。

ドリーに固定され港内に進入すると、中にはリバー級を含む明らかに他所の船が既に多数繋がれ

ている。

サドとグレアムは出港前と同じ係留スポットに収まっていた。

グレアムの隣の空きスポットが本艦の位置だった筈だ。

だが、ドリーはそこを素通りして、円形に2層ある係留スポットの奥側、後ろにドック施設を持

たないAの2と言うスポットまでマジョルカを運ぶ。

「グレアムの隣は工事でもしているのでしょうか?」

エルムス艦長が話しかけて来たが、運ばれて来た係留スポットの周囲には何やら怪しい雰囲気が

漂っていた。

船体固定具の噛み合う振動が伝わって来るが、有圧桟橋はなかなか出て来ない。

暫くしてやっと動き出した桟橋はしかし、通常2本掛かる筈の物が後方の1本のみ繋げられた。

気圧の保持が確認された様だが、管制側からの降船許可は未だに出ない。

すると、下の方で何やら人の声がして、艦橋エレベ-ターが作動する。

エレベーターは一度降下すると再び上がって来たが、エレベーターの到着より早く、併設された

垂直通路を兵が1人昇って来た、その手には銃。

兵は垂直通路への入り口を塞ぐ様に佇むと、タイミングを合わせたかの様にエレベーターが到着

する、扉の開いたエレベーターの中には2名の姿、片方には見覚えがある、ルナⅡに来た時私を

案内した偽名のアーノルド、ボーラー中尉殿、もう1人は少佐の階級章を着けた男性で、妙に小

綺麗な身なりが目を引いた。

だが、アーノルド中尉殿がいる時点で、彼らが何者で、何をしに来たのか私には大凡の察しは付

いていた。

「私はブレリオ、ウォストニア、ワッケイン大佐にあっては我々に同行して頂きたい。」

此処で来たか… だが、始めから判っていた事だ。

私は素直にウォストニア少佐の言葉に従い、マジョルカを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

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