ワッケイン   作:いくさふね

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ムンゾ襲来 1

それは日付が変わるのと同時に始まった。

月を含む全宇宙都市は旧グリニッジ標準時で動いている、時差が有るのは地上だけだ。

UC0079年1月3日0時0分、電波障害は一斉に収まり、各種メディアと、恐らくは連邦政府

内政局(建前上、外交部は組織されていない)に宛てた、ムンゾの事実上の現指導者ギレン・ザビ

による宣戦布告演説が流された。

連邦政府を非難する言説に続き、開戦が宣告されるや再び電波は遮られた。

ほぼ同時に在行政府庁都市筒への初弾の命中を確認、同時にも思われたそれは、後にきっちり3秒

の間を置き、ザーン、ハッテ、ムーア、ルウム、そして、コンペイトウ造艦工廠に寸分の狂いも無

く一斉に行われた物だと知れた。

レーダーが復活していた演説中の数分間に、接近していたムンゾ艦を確認出来た連邦の部隊はどれ

程居ただろう。

我々が知り得た攻撃の第一報は西軍統括司令部からもたらされた物で、主鏡側基地では現状の把握

が全く出来なかった。

出港予定時前、しかも作業は遅れているので、無論我が艦隊は外に出られてはいなかった。

 

「攻撃?月の話しでは無いのですか?ここが攻撃を受けている?」

太陽側センターハブは荷電粒子砲の物と思われる集中射を受けているらしい、メガ粒子砲と呼ばれ

る新型の奴に違いないだろう。

確かに、振動と微かな衝撃音が構造材を通じて伝わって来ていた。

攻めて来たと言う事は、単艦では無いはずだ。

北艦隊の当番艦は警報を発しなかったのか?いや、発する術がなかったのだ、そして、発する暇も

与えられなかったのだろう。

「司令室で中継してコルレーンから全艦に有線通信出来るな? 出来る様にしてくれ、これより西

艦隊指揮所をコルレーン戦闘艦橋に移動する。」

操舵艦橋の方が直接外が視認出来て全体指揮所としては都合が良いのだが、既に攻撃を受けている

状況ではやむを得ない。

ここからコルレーン艦橋までは7~8分と言った所か、急がねば。

船外作業服を着用し、コルレーンに一番近い出口を目指す、港湾管理棟のエアロックを抜け、係留

されているコルレーンに近づくと、艦橋付近の外構で何やら作業しているのが目に入った。

我が艦隊の装備、構成艦であり、型落ちになりつつ有るも、数の上では未だ連邦の主力艦であるリ

バー級(正式にはアムール級なのだが、この名で一般化してしまっている。)の艦橋は艦首部に有

るので、前から近づいていた私には良く目に付いたのだ。

 

艦内に入り、艦橋へと上がると、オクタヴィアン艦長以下見知ったクルー達が慌ただしく動き廻っ

ている。

と、明らかにコルレーンの乗員では無い士官が、私の後を追いかけて来た。

「司令、何とかまとめては見ました。」

ああ、自分が指示した急造赤外線通信機の制作を担当している者だ。

「良くやってくれた、思いの外早かったな、と、言う事は外の作業はレーザー通信機の方か。」

艦長がこちらに振り向く。

「はい、何やら電気を食うらしいので、新たに動力線を敷いている所です。」

しかし、赤外線通信機が形になったのは幸いだった、本当に部下に恵まれたと思う。

先の士官は補足を告げて来た。

「送信側出力が弱いので、通信可能距離は長くは無いと見ます。何処まで使えるかは外に出て、試

して見ないと判りかねます。受信の方は、流用した暗視装置が高感度な為、相手側送信機を捕らえ

られれば結構な距離でも行けると思います。信号処理の方は、敢えてアナログを採用しました。音

声信号を光の強弱に変換して伝える原始的な奴です。緊急性を求められたので、これでデジタル信

号の処理ソフトを作る時間が省けました、至近距離でしかテストしていませんが、雑音が少し混じ

る物の取り敢えずは使用に耐えるレベルです。これが現時点での最善策と信じます。」

「真空中で有る事が有利に働くのを期待しよう。良い仕事だ、設置作業の方はどうか?」

「今、各艦に運び始めた所です、そこで作業しているレーザー通信機よりも簡単に取り付くと思い

ます。」

「では、設置急いでくれ、それと、制作班の名簿を暇になった時にでも作って私に上げて貰えるか

?」

「判りました、では、自分も設置作業に加わります。」

彼はそう言うとコルレーンの戦闘艦橋から泳ぎ出て行った。

しまった、彼の名を聞き忘れたな… だが今は意識をコルレーンの戦闘艦橋に戻さねば…

「艦隊各艦に繋げ、各艦、出撃準備の進捗状況を報告せよ。」

そう、これはもう出港では無く出撃だ、戦は始まっているのだ。

各艦からの報告が返って来る、弾薬は概ね終了、推進、酸化剤は8割方、生命資材は6~7割と言

った所だ。

これでも良くやった方だろう、だが既に攻められている以上、直ちに出撃すべきだ。が、問題はコ

ロニー警護艦隊が輸送部隊を持っていない事だ。

我々は、海軍で言う所の沿岸警備部隊に近しい組織なので、長期に渡る作戦は考慮されておらず、

再補給を受けるには、帰、寄港せねばならない。

だが待て、なんでこちらに攻撃がないのだ? ここは最優先攻撃目標の一つの筈だ。

導かれる答えで一番有力と思われるのは、敵戦力がそれ程大きくは無いと言うケースだろう。

単純にこちらにまで手が回らないのだ。

 

「本艦とテージョ、サスケハナは積み込み作業続行、タンルウィンには緊急出撃を命じる。ホー、

大門を出たら鏡板越しに太陽側を覗き見て、敵戦力の概要と確認出来る周辺都市筒の状況を観察し

報告せよ。」

「タンルウィン了解、直ちに離岸作業に入る。」

単艦で出すのには抵抗を感じた、北艦隊の当番艦の事が頭を過ぎったからだ。

しかし、主鏡側大門の外に敵艦を見ない事はほぼ確定事項だ、今は何より情報が欲しい。

「本艦へのレーザー通信機設置完了を以て積み込み作業は中止、全艦出撃する。西軍統括司令部か

らの続報はないか?」

「それが… 先程の交信を最後に途絶中です。」

「誰かに対空双眼鏡を持たせて中から太陽側鏡板の状況を見に行かせろ。」

その時、資材管理棟から連絡が入った。

「遮光発電帯が引き込まれて行きます、夜が明けます!」

都市筒内を映す定点カメラの映像を誰かが司令室から引っ張る、そこには確かに徐々に明るくなり

つつ有る街並みが映し出されていた、しかし、今の時刻は深夜の0時過ぎだ。

「恐らく、統括司令部からの強制管制が行われたと見るが。」

だが、遮光発電帯を引き出していれば、気休めとは言え外からの攻撃の防御の足しにはなる筈だ、

何か情勢に変化が有ったのか? 明るくしたくなる… 敵兵の侵入か!

「市民への避難指示は出ているんだろうな?」

「はい、ここではうるさいので消していましたが、10分程前から警報は出続けています。ですが

個人端末への緊急速報は電波障害で使えませんし、停電中の地区ではメディアからの情報も拾えま

せんので、何処まで衆知出来ているかは不明です。」

エレンとダリルは避難出来ただろうか… 縁者知人を慮るのは、艦隊各員も同じ事だ。

 

「タンルウィン離岸、港外へ出る、暫く交信不能。」

そこへ、向かい側の鏡板を見に行かせた兵からの報告が入った。

「西軍統括司令部とコロニー公社の資材倉庫付近で戦闘に拠る物と思われる煙を確認しました。鏡

板麓付近の市街地でも数カ所火災が発生している様ですが、消防が活動している様子は有りません

。」

攻撃から30分程で半径約3キロメートルを降ってもう市街地まで侵入されたのか… ある程度ま

とまった兵力を抵抗を排除しつつ短時間でどうやって降下させた?

「巨人が3体程、中を彷徨いています!」

司令室で定点カメラの監視をしていたのだろう兵の声が、報告に混じって聞こえて来る。

そいつは恐らく、連中が以前より喧伝していたザクとか言うロボット兵器だ。だが、今撃ち合って

いるのは生身の兵だろう、流石にザクとやらがそれらを運んで来たとは考え難い。

いずれにせよマドリーン大尉率いる32バンチ連隊は、応戦しているものの押されていると見た。

「人形は3体か? 後続はないか?」

「少なくとも今は3機しか見えません。」

ムンゾが大量整備中の、ムサイ級と称するM、R、R巡航艦は、連邦技術情報部の推定情報で件の

人型兵器を5機積めると報告されている、当然予備機込みだろうから3機なら1隻分か、兵を運ん

で来た輸送艦がもう1隻、すると後1隻位はムサイ級とやらが居るか…

4行政府庁筒と岩塊駐留基地に2隻づつと見積もると、戦闘艦で10隻前後がザーンに来ていると

踏んだ。

ザーンが特別に優先攻撃目標となる理由は思い当たらないので、恐らく他の都市群、中立のリアを

除くサイド2から5も同時に襲われているとして40~50隻、我がサイド1、ザーンのあるラグ

ランジュ4にはコンペイトウも有るのでそこにも数隻、流石にルナツーと半完1器しかないノアに

まで手を出したかは定かではないが、一度に60隻程度の投入戦力ならば有り得る話しではないか

? 月のキシリアはゴダートシティ、ツォルコフグラードとにらみ合っていた筈なので、出てきた

のは弟のドズルの軍だろう、彼は140隻ほどを抱えていると言われているので、本土防衛と月、

予備戦力を除くと4割方の数字は妥当な物だろう。

4隻対2隻か… 残りの人形は外に展開しているのか? ならばこちらに来そうな物だが…

艦の性能差を数で埋め合わせなくてはならない、せめて宇宙戦闘機の部隊でも駐留していれば話し

も違ったのだろうが、無い物をねだっても始まらない、タンルウィンが人形にまとわり付かれなけ

ればよいのだが…

 

「レーザー通信機が据わりました! 但しテストはここでは出来ません。」

その声は先日車の中で惚気話しをしていたエラン中尉だ、通信担当では無い筈だが、装備品絡みと

言う事なのだろう。

オクタヴィアン艦長を見やると、彼は深く頷いた。

「全艦、直ちに積み込み作業を中止、離岸作業に移行、西警護艦隊出撃する! 有線通信が切れる

前に港湾事務所に緊急出港を宣言しろ。」

だが、直前まで積み込み作業を行っていた為、出入り口の気密チェックを残しており、号令一下、

勇ましく出撃と言う訳には行かない。

「司令室に繋げ、それと赤外線通信のテストの準備、レーザーは後回しだ。」

「司令室、出ました。」

「ワッケインだ、基地に残る者は敵兵との戦闘に備えよ。敵は既に都市筒内に侵入している、駐屯

地に居るバンチ連隊分遣隊の動向を確認し、可能なら連携せよ。市民が逃げ込んで来る様なら基地

には入れるな、戦闘に巻き込まれる可能性が高い。全体の指揮は資材管理棟のブルックナー場長に

執らせる、場長には司令命令だと伝えておけ。それと、統括司令部には呼びかけを続けろ、連絡が

取れた場合はバンチ連隊本隊との連携も視野に入れろ。副司令は居るか?」

「はい、私の後ろに居ます。」

「替われ」

副司令のランドルフ少佐は直ぐに出た、今のやり取りは全部聞いていた筈だ。

「ランドルフ少佐、君は港湾管制室の責任者を捕まえて、私の権限で今、主鏡側大門港に居る民間

船を万が一の際の住民避難用に徴発出来ないか掛け合って見てくれ。徴発が可能であれば速やかに

全船港から出せ、ウチの基地が有る以上、攻撃目標になるのは確実だからな、留守は頼んだぞ。」

入れ替わりに、いや、私が話し終わるのを待っていたのかも知れないが、オクタヴィアン艦長が離

岸準備の整った事を伝えて来た。

「気密チェック完了、外部電路及び送気、給排水経路遮断確認、司令、コルレーン出られます!」

「テージョ、サスケハナはどうか?」

「両艦とも整っているとの事。」

「良し、全艦離岸、大門を抜け外に出よ。テージョ先導しろ、本艦は殿だ。大門を通過したらテー

ジョは右舷、サスケハナは左舷に展開、本艦と各2,000メートルの横隊を組め、赤外線通信機

のテストを行う。」

「前進速力はいかに?」

「増速はしない、港内速力の微速のままだ。」

船体を伝わる微かな振動と水平方向の僅かな揺れが、桟橋の船体保持具が解放された事を伝えて来

た。

 

「艦長、太陽側から見て我々が都市筒の影に収まる様、筒軸に正確に平行に進路を取れ、各艦は本

艦の動きに倣え。」

「テージョ、大門を通過、右舷に変針開始、続いてサスケハナも出ます。」

ハブブロックメインポートのゲートが迫って来る、我が街、オーラフスビークシリンダーは2層を

成して並べられた都市筒群の太陽側から見て2列目に有る為、主鏡側正面に近隣都市筒を望む事は

無い、今は青い地球が浮かんでいるのみだ。

コルレーンは大門を超え外に出た。

「両艦とも速力は本艦に合わせているな?なるだけ都市筒から離れたく無い、タンルウィンは見え

るか?」

操舵艦橋では数名が対空双眼鏡を手に窓にへばり付いていた、危険だがレーダーが使えないので仕

方がない。

「居ました! 水平10時垂直7時、都市筒鏡板の縁ギリギリで影に入っています。」

「テージョ、サスケハナ、本艦の両翼に占位、」

「良し、赤外線通信を双方向オープンにしろ、タンルウィンを呼び出して見てくれ、あそこまで届

けば2艦へは言わずもがなだ。」

通信担当が呼び出すと、タンルウィンは直ぐに応答して来た。

「回線を私の所に回せ。」

「ホー ワッケインだ、受信状態はどうだ? 通信に問題が無ければ状況を報告せよ。」

「背景ノイズが若干乗って来ますが問題有りません。敵の数は不明、我々同様都市筒の影に隠れて

います。近隣の街には見える範囲で攻撃を受けた様子は有りません。」

どうやら行政府長筒のみ狙われていると言うことか。

「敵のロボット兵器を見掛けたか?」

「ザクとか言う奴ですよね、今の所見ていません。」

「だが、嘗めては掛かるなよ、足は戦闘機に及ばないらしいが、装甲して、大砲で武装しているの

で厄介だ、今装備しているCIWSでは恐らく抜けない。近接誘導弾も無誘導状態だから落とせな

いと思え。」

「判りました、巨人を見掛けたら逃げます。本艦はこれから牽制射を掛けて探りを入れて見ようと

思います。」

「慎重に行え、今の話し他艦も聞こえたか? 各艦返答せよ。」

テージョ、サスケハナ両艦より正常に受信出来た旨報告が来る、使えると言う事だ。

 

「タンルウィンを除く全艦180度回頭、艦首をオーラフスビークに向けよ。」

オクタヴィアン艦長が回頭命令を復唱すると、コルレーンは水平方向では無く垂直方向に前転を始

めた、これは艦長の判断だ、僚艦もそれに倣う、成程これならば足元で都市筒外周に上面を向けて

いるタンルウィンに近い姿勢となる。

モニターの中で星空が上に流れて行き、正面にオーラフスビークシリンダーを捕らえ始めた所で、

その背後に閃光が閃いた。

瞬時にモニターの防眩補正が掛かった物の、第二の太陽が現出したかの様なそれは、敵味方は不明

だが核弾頭の炸裂光に間違いなかった。

閃光は二度走って沈黙する。

3隻は都市筒鏡板外壁を正面に、その外周を上として回頭を終えた。

「司令、一応聞きますが、戦闘艦橋内の減圧はどうしますか?」

オクタヴィアン艦長が当然の質問をしてきた。

3隻も、そして恐らくはタンルウィンも戦闘艦橋の減圧をしていない、無線が使えないので与圧状

態のまま、皆、船外服のヘルメットバイザーを解放しているのだ。

「辛い所だが艦長の思う通りだ、意思疎通が出来ねば戦闘は不可能となる。各艦に通達、戦闘艦橋

の減圧は行わない、被弾、気密漏れの場合は何を置いてもまず自分のバイザーを閉じる事を最優先

とせよ、吸い出されない様、ベルト及び安全帯は必須と心得よ。以上を送れ。」

通信担当の士官、今はエドガーレ少尉だ、が、より端的に訳した命令文を送信してくれた。

「オクタヴィアン艦長、行動規定違反なのは判っている、しかし他にやりようがないのだ。済まな

いが覚悟はしておいてくれ。」

「状況は理解しております、あくまで確認しただけのことです。」

彼は自艦の乗組員に下令した。

「無線が不通なので命令伝達は肉声で行う、緊急の際は自己の責任でバイザーを閉じよ。身体固定

具は可能な限り使用する、伝令を後部各所に出せ。」

機関科の2名が船体後部へ伝令に飛ぶ、通常、伝令など使わないので艦橋にその為の人員はいない

のだ。

 

「全艦、対艦、対宙戦闘準備! タンルウィンに倣い都市筒外縁部に占位する、我に続け!」

エドガーレ少尉が赤外線通信でテージョとサスケハナに命令を伝える、通信機が応急品なので、複

数回線を使う事が出来ないのだ、回線をエドガーレ少尉に返したので、今、他艦との通信は全て彼

を通して送信する事になる。

その間に私は艦長に、タンルウィンから見て右舷側へ60度ずれた都市筒外縁部を進出点として指

示する、丁度主鏡翼一枚分離れた位置だ。

タンルウィンとこちらの3隻には回転する主鏡翼の根元が交互に接近する事となる。

「艦長、さっきの2発、どちらの核と見る?」

「確証は有りませんが、私は友軍の物だと思います。」

「やはり君もそう見るか。」

見解が一致したのには訳が有る、ムンゾとの戦いが現実味を増す頃、連邦軍内では彼らの核弾頭保

有数が議論されていた、宇宙ではウラン等の入手が困難だからだ。

彼らは、月土壌に含まれる極微量のそれらを採集する技術を確立したと喧伝していたが、これを疑

問視する意見は強く、私も艦長も否定派だったと言う事だ。

そんなに易々と虎の子を使う筈は無い。

だが友軍だとすると、今度は幾ら宇宙とは言え都市筒至近での核を使用に対する議論が起きる。

我々警護艦隊で無くば残るは中央派遣艦隊のみ、彼らはM、R、R艦装備なのでメガ粒子砲で正面

から撃ち合える筈だ。

核を使ったと言う事は押されているのか…

 

「都市筒外周部外壁まで5,000メートル。」

メインパイロットの声が思考を遮った。

「司令、何処まで寄せますか?」オクタヴィアン艦長が聞いて来る。

「直ちに制動開始、1,000メートル程度まで徐々に接近し、以後は都市筒との距離を保て。」

「タンルウィンは仕掛けると言ってます。」

恐らくホー艦長は、我々3隻が回頭し終わって、当たりを付けた位置に向かい始めるのを待ってい

たのだ。

左舷やや下方、円を描く都市筒外縁部の縁ギリギリに占位したタンルウィンは、回転して巡って来

る主鏡翼に乗じて都市筒の影から踊り出ようと目論んでいる様だった。  

レーザー砲はこの用途には向かないので、長距離誘導弾に時限信管で数発放つ筈だ。

主鏡翼の回転速度は速いが、タンルウィンは事もなげにそれに同期して、あたかも舞い上がる様に

都市筒外周の外に出る。

そして主鏡翼は通過して行き、太陽側にその身を晒したタンルウィンは2発の牽制弾を放った。

直ぐに次の主鏡翼が巡り来て、その影を利用してタンルウィンは再び都市筒の影に舞い戻る。

我々からは確認出来ないが、10秒前後で牽制弾は炸裂した筈だ。

我々の注視の中、タンルウィンは効果の確認の為船体を再度都市筒外周部ににじり寄らせ、艦首に

有る艦橋の位置までゆっくりと船体をせり出させた刹那、閃光と同時に何かがタンルウィンの後方

に飛び散った。

恐らくホー艦長は何が起きたのか判断する間が無かったのだろう、そのままタンルウィンは止まる

事無く完全に船体を太陽側に晒してしまった。

リバー級の艦容が仇となったのだ、ホー艦長は艦橋部分をギリギリ外周縁に出したかったのだろう

が、リバー級は大きな短円筒の推進器部より放熱板を兼ねる支持架を前方に伸ばし、そこにボート

状の実船体を配する船体構造をしている、艦橋はボートの舳部分だ。

艦橋を遮蔽物越しまで水平に出そうとすれば、推進器部分の3~4割方は先に外に露出してしまう

、敵がこれを見逃す筈はなかった。

 

次の鏡翼の通過で、一端攻撃は止んだ。

敵は主鏡翼へ被害が及ぶのを避けている様に見えた。

だがタンルウィンは都市筒の影へ戻ろうとはしなかった、鏡翼は直ぐに通過して行き、再び船体が

太陽側に晒されると、短いビーム条が複数本タンルウィンを襲った。

敵のメガ砲に機関砲の様な速射能力が有る事を、我々は事前には知らされていなかった。

タンルウィンは更に2発を喰らい、推進剤タンクの爆圧で船体が押し出されたが、幸いその方向は

都市筒側だった。

辛うじて影に滑り込んだタンルウィンは、下面側のスラスターで制動を掛ける、操舵は一応可能の

様だ。

「司令、やられました、真正面から返り討ちを貰いました、なんて手数だ。」

「直に話しがしたい、回線をこちらに。」

「操舵は可能なのだな、何故直ぐに都市筒の影に戻らなかった?」

「垂直方向のスラスターがそっくり吹き飛ばされて、あのままでは艦をロールしてからでないと戻

る事が出来ませんでした。」

「判る範囲で損害を報告できるか?」

「まず、艦橋に被害は有りません。貰った3発は全て推進器部で、推進剤タンクが飛んだ為、後部

に被害が出ており現在調査中です。主推進器は3器喪失、残る1器も使用不能、炉は無事な様です

が補機がやられ停止しました。戦闘の継続は不能です。お預かりした船を傷つけてしまい申し訳有

りません。」

「気にするな、戦による損傷は艦の任務内だ、動く事は出来るのか?」

「はい、生き残った姿勢制御スラスターを使えばなんとか、推進、酸化剤タンクも現在調査中です

が、取り敢えず先程制動を掛けた時には動きましたので、辛うじて残っている筈です。」

「判った、ならば貴艦は直ちに基地に戻れ、中に入り込んだ敵兵も気になる、負傷兵を降ろした後

基地内で情報を入手し、何らかの方法で報告せよ。民間船の徴発の件も合わせて確認を頼みたい。

それと、可能ならばタンルウィンを大門入り口に係留して通信基地局として使いたい、そちらも頼

めるか?」

「タンルウィン了解、直ちに帰投する。」

タンルウィンはよろよろとセンターハブ大門へ引き返し始めた、その姿はメガ粒子砲の威力を雄弁

に物語っている。

推進器部の上半分が綺麗に消し飛んでいた、レーザー砲ならば照射してから融解、貫通まで僅かだ

が時間が掛かるのだが、これは紙に穴でも空ける様に厚味の有る構造物をたやすく抜くのだ。

貫通部の二次破壊効果も比べ物にならない。

あれを連射出来るとなると3対1でも釣り合うかどうか…

だが、そんな話しをしても始らない、出て来たのは恐らく1隻だけ、他に何隻居るかは未だ不明、

その1隻も既に移動しているだろう。

危険ではあるがタンルウィンを真似てもう一度敵を釣り出すしかないか…

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

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