ワッケイン   作:いくさふね

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ムンゾ襲来 3

その時息子の声が頭を過ぎった。

「怖い人がもう来ている」「息が出来なくなる」

ダリルはわざわざアドレスを調べてまで私に掛けて来てそう言ったのだ。

まさかあの子には判っていたのか?

その時、再び核爆発の物と思われる光。

「艦長、今のは?」

「影に入って居たので何とも…」

エドガーレ少尉が割って入って来る。

「サスケハナからです。メテオキッカーと思われる爆発を確認、位置は東行政府庁筒後方、距離

不明。」

やはり敵は4行政府長筒のみに攻撃を集中し、ほぼ同じ作戦を進めている。

そして、自前の核は持っていない…

太陽側に籠もる敵は、公社のメテオキッカーを狙っているのだ。

「テージョ、サスケハナ、ムサイを見たら命令を待たず即発砲せよ!」

オーラフスビークにあったメテオキッカーも、もう持ち出しを終えている筈だ。

人形が向かって来たのはそう言う事だろう。

何故まだ使わない? ムサイは向こう側で何をしている?

「センターハブより発光でモールス、ブルックナー場長の様です。公社職員排除で正しいか で

す。」

「返信!」

コ、パイロットが慌ててガンライトを持って来て、エドガーレ少尉に手渡す。

「正しい、スパイの恐れ、政治の為避難を装われたし、送れ。」

「了解来ました。」

コロニー公社は高度の独立性を持ち、連邦と言えど手出し出来無いのが建前なのだ。

場長や基地と直接話せないのがもどかしい、統括司令から貰ったレーザー通信機は、今の所役に

立ってはいなかった。

マドリーン連隊長は通信手段を失ったままで上手くやれるだろうか、人形は外に出払ったが装甲

車はいる、下に降りた敵兵はパーソナルムーバーで空中機動もしているらしい。

その時、頭の中で声が響いた。

これは…ダリルか?

「嘘つき、」私が?

「終わった、」何が?

え、お別れ、何を言っている?

「街が落ちる、」何処に?

「街に、」何処の街?

「僕らの街が…地球に…降る… 僕らが沢山の人を押し潰しちゃう前に僕らの街を壊して、これ

はみんなのお願い、最後の、一番大事な約束だよ…」

 

「司令、如何なされましたか? 司令!」

オクタヴィアン艦長の声で我に返った。

「すまん艦長、私はどれ位固まっていた?」

「いえ、1~2分でしたが、全く動かないので気を失っておられたのかと…」

「いや、問題無い、耽ってしまっていた。」

「司令、こちらにお越し下さい、タンルウィンのホー艦長です。」

エドガーレ少尉が計った様なタイミングで私を招いた。

シートから身を剥がし、通信手席へ泳いで行くと、彼は自分のヘッドセットを外して私に差し出

す。

胸騒ぎを抑えながら、彼のヘッドセットに耳を押し当てた。

「替わったぞ、私だ。」

「司令、他の者に聞かれ無い様願います。」

「それは判っている、君が要求したのだろう、何があった?」

ホーは一呼吸間を置いてから話し始めた。

「ブルックナー隊が先程、公社管理棟に着きましたが、既に職員は殺害されており、犯人グルー

プと思われる数名と交戦、制圧、よって主鏡側管理棟勤務の公社職員に生存者はおりません。」

ここで彼は私の言葉を待つでなく、再度一息付くと続きを話し出した。

「先の遠隔操作の件は、当然犯人達の言で、当然実施されてはおりません。そして、彼らはシェ

ルター内の監視映像を注視していた様です。ブルックナー隊が犯人排除後その映像群を確認し、

推測された状況は、シェルターに避難中のオーラフスビークシリンダー住民の…死亡…です。」

な!… 大きな声が出そうになるのをすんでで堪えた。

思わず周りを見渡す、傍に居るのは私を呼んだエドガーレ少尉だけだ。

彼はこの話を知っている。

声を一段落としてホー艦長に尋ねる、俄には信じ難い話しだ。

「それは映像確認のみの話しなのだろう? 現場は確認出来ていないのだよな?」

答え難そうにホーは続ける。

「その通りです、私も報告を受けたのみなのですが、映像で見る状況と、緊急連絡回線での一斉

呼び出しに対する応答が皆無だった事、時間が足りず、数カ所のみですがモニター出来たシェル

ター内の炭酸ガス濃度に変化が見られない事を判断材料に挙げていました。」

息をしている者がいないと言う事か? 画面越しに一目で死亡していると思える状況とは? そ

もそも何が起きればこんな事になる? エレンとダリルは…

 

「マドリーン隊はもう出たのか?」

「今、駐屯地を出る所だと思います。連隊長には道すがら幾つかのシェルターを確認する様にと

ブルックナー場長より話しが通って居る筈ですが、現状もし中に生存者が居た場合、扉を開ける

と中の空気が失われてしまいますので、現場で扉を開ける判断を下すのは難しいと思われます。

」 

「ブルックナー隊との交信は出来ているのだな?」

「はい、センターハブ管理棟内ですので、今は有線で繋がっています。」

「マドリーン隊とは?」

「残念ながら通信手段は有りません、只、途中に有る警察署に立ち寄り、残存人員の指揮下への

編入と共に、そこでこちらへ経過報告が入る予定です。」

「では、ブルックナー隊にはそのまま公社棟の確保と、別動隊を抽出して外壁構造側から一番近

いシェルターへ向わせて、内側扉より確認作業を行わせろ。それとマドリーン隊と連絡が取れた

ら、シェルターの事は気にせず一気に太陽側まで走り抜ける様指示も頼む。」

シェルターの地下側出入り口は、異物の外壁衝突に備えてエアロック構造にはなっているが、肝

心の外壁構造内への入り口、要はマンホールだが、その数はそれ程多くは無いのだ。

しかし都市筒両端の鏡板部なら、全てのインフラ配管、配線の始、終着点なのでメンテナンス用

通路の入り口は幾らでも有る、アクセスし易いのだ。

駐屯地に近いシェルターにはエレンとダリルが居るかも知れない、私的な理由で命じた訳では勿

論無いが、私とて一人の父であり夫だ、だが、この話しを艦橋の乗員に今、伝えるべきか? 基

地に残った者とタンルウィンの乗員は衆知だろうが…

エドガーレに耳打ちする。

「確認が取れるまで、この話しは伏せておいてくれ。」

そこに再度の核爆発。

「今度は何処だ?」

「南です。」

残るはここだけだ、これは取りも直さず我がヘルマンニ西司令が動員を前倒しした結果に他なら

ない、他地区はほぼ不意を突かれて成す術無く捻られたのだろう。

だが西軍とてほぼ詰んでいると言って良い。

丁度最初に弾き出された北1バンチ、カーナークシリンダーが都市筒群第一列を離れ、二列目に

並ぼうとする所まで押されて来ていた。

あの中も、こちらと同じ状況なのだろうか… 

だが、その状況は時間を置かず刻々と進んで行く。

離れて占位する二艦からてんでにほぼ同じ内容の報告が飛び込んだ来た。

「コロニーが崩壊して行きます!」

本艦からはオーラフスビークの影で確認出来ない。

「何処の都市筒だ?」

「恐らく3バンチと5バンチ、いずれも北の太陽側一列目です。」

今まで行政府庁所在地以外は攻撃されていなかった筈だが、どう言う事だ? それに敵侵攻部隊

は4行政府庁筒に張り付いて居た筈だ、手の空いた部隊から周りに手を広げ始めたのか? それ

とも他にも居たのか…

 

「司令、タンルウィンです。」

控え目な声でエドガーレが再びヘッドセットをよこす。

「ホー、判ったか?」

「件の確認が取れました、敵は致死性のガス兵器を使用しております。使用薬剤は不明ですが、

確認に入った兵も2人やられました。大気の存在のみを確認して、声がけの為ヘルメットのバイ

ザーを解放したからです。症状から推定されるのは神経剤が疑われます。送気配管を利用して、

一斉にガスを送り込んだ模様です。二カ所を確認しましたが、いずれも生存者はなし、です。」

これで敵の行動が繋がって見え始めて来た、わざと市民をシェルターに追い立て、街の大気を抜

き閉じ込めてから、シェルターをガス室に仕立てたのだ。

獲物は自らガス室に入り、必要最小限のガス量で確実に殺害する、実に合理的な鬼畜の所業だ。

都市を制圧する大兵力も必要無い、入念に計画された作戦。

待て、前日に緊急入港して来た大気運搬船… あの中身は毒ガスだったのか?

ガスの注入元は太陽側、そして一番遠い主鏡側のシェルターでも生存者なし… オーラフスビー

クシリンダー全滅を受け入れざるを得ないのか… 流石に妻と息子の確認は口に出せなかった。

もう隠す事は出来ない、艦隊全員に周知せねば…

「司令のワッケインだ、コルレーンの乗員、並びにテージョとサスケハナの諸君に伝えねばなら

ない事がある。先程、西32バンチ、オーラフスビークシリンダーのシェルター避難住民全員の

死亡が確認された。誠に遺憾ながら私はこの事実を諸君に伝えねばならない。我が艦隊は、その

最大の任務である住民の保護に失敗した、これは一重に艦隊司令である私の作戦指導による結果

であり、諸君に深く謝罪する。」

減圧をしないまま、肉声で命令伝達を行っていたコルレーンの戦闘艦橋内は、水を打った様に静

まり返った。

テージョ、サスケハナからの返信もない。

ザーン西行政区警護艦隊の刻が止まった。

 

隣に居るエドガーレは、事前に知っていただけに大きな動揺を見せる事はなかった。

「もう一度、タンルウィンを呼び出してくれ。」

ホー艦長は直ぐに出た、彼も又、通信手席の傍に陣取って居る様だ。

「マドリーン隊と連絡は付いたか?」

「いえ、まだ警察署に達していない模様です。」

「連絡が付いたら作戦の中止と、速やかな撤収を指示してくれ。」

因みに最寄りの警察署は10キロ程先だった筈だ、そこまで到達していないか、或いは制圧、破

壊されてしまっているか…

「カレルヴォ艦長です。」

「司令、ベルナディット艦長と連名で意見具申、現宙域からの速やかな撤退を進言致します。」

彼らに理は有った。ここ以外の3行政府庁筒で仕事を終えた敵部隊が、彼らの作戦計画から遅れ

が出ているであろうここに来援する事は、予想に難くない。

装備に劣る上に、数でも圧倒されれば、それは嬲り殺しに他ならない。

そして、今し方の私の言は、皆の心を折っただろう。

中央派遣軍とは違い、少なくとも私の統べる兵達は、連邦では無く我が街の為に戦っているのだ

、士気は下がり、各艦のパフォーマンスも落ちる。

敵に勝てる要素が極めて少ないのを彼らは十分理解している。

冷静に見て正しい、指揮官として正しい判断だ、しかし…

「我が艦隊が、現時点で戦域を離脱する事は適わなくなった。現在、敵は都市筒を直接破壊する

行動に転じた、しかし、これに抗う戦闘行動は認められていない。ここで敵を止めうる戦力は我

が艦隊のみと言う事だ、無抵抗の市民が撃たれている今、武装する我々が敵に背を向ける事など

有り得ない。」

私は皆に死んでくれと言ったのだ。

街も、妻子すら守れず、今又部下を死地に送らんとする指揮官よ、僅か3隻の旧式艦で何を成せ

る…

 

後方2艦からの通信は一旦途切れた。

オクタヴィアン艦長が口を開く。

「全乗員、覚悟を決めよ!」

艦橋内に答える声は無かった、そして抗命も…

テージョとサスケハナ両艦から、以後の作戦指示を問う通信が入る。

西艦隊の真の戦いはここから始まる事となった。

「赤外線通信の回線を、私のヘッドセットに繋ぎっぱなしにしてくれ。」

そう言うと私は自分の席に泳いで戻る、エドガーレが回線をこちらに回してくれた。

「テージョ、サスケハナ両艦、都市筒を撃っている敵を、そこから確認出来るか? 視認出来る

なら即レーザー攻撃しろ。3行政府庁筒からこちらに来る敵への警戒も怠るな、可能な限り遠方

で補足して攻撃を加えよ。」

次にタンルウィンを呼び出す。

「ホー、タンルウィンに有線を引き延ばせ、船体は港口に固定、作業終了後総員退艦、港湾管理

職員を吸収して、公社棟のブルックナー隊と合流、脱出に備えよ。足は旅客用民間船2隻を使え、

他の民間船は直ちに退去させろ。ブルックナー隊と合流したら兵を抽出、船への退路を予め確保

せよ。」

「本艦は如何致しますか?」

話しが切れるのを待っていたのだろう、オクタヴィアン艦長が尋ねて来た。

「コルレーンを筒内に入れる。大気中での操艦は出来るか?」

「未経験では有りますが、熟してご覧に入れます。」

と、何かが視界の端で閃いた。

「後ろの2艦に対する攻撃です!」

恐らく両艦も応戦している、ともすれば先手は両艦だったのかも知れないが、レーザーは塵芥が

無いと見え辛い、対してメガ粒子砲はビーム条が良く目立った。

「取り敢えず今は本艦も加勢する。船を影から出せ。」

「了解、艦首そのまま、船を都市筒と平行に保て、トリムスラスターで横滑りに出す。レーザー

砲戦、並びに長、誘導弾、通常弾頭で無誘導、直射攻撃、ロボットも居るぞ、対宙戦闘にも備え

よ!」

「ほぼ軸線に平行。」

「よし、上にずり出せ!」

都市筒内に入るにはまだ準備が整っていない、今は眼前の敵が最優先だ。

 

コルレーンはゆるりと都市筒の縁を切った、開けた視界を鏡翼が横切って行く。

「制動噴射、行き足を止めよ。」

ビームには結構な入射角が付いていた、太陽側の敵の物ではない。

「何処だ?」

「右舷、鏡翼の伸びる先、恐らくカーナークシリンダーを襲った奴らです。」

艦長は既に当たりを付けて操艦しており、見掛け上、巡り来る鏡翼の先端辺りに敵艦を収めてい

た。

「照射は砲手勝手、撃ち据えろ!」

「ロック、照射3秒、反復照射!」

船体構造を通じて、キャパシターの断続器の開閉音か伝わって来る。

船体上方の連装砲架と右舷の単装砲架計3射線、3秒間の照射を2回。

敵はムサイ級2隻、テージョとサスケハナ両艦を正面に見ており、本艦に斜め横腹を晒している。

レーザー砲の管制を担当したエラン少尉は手前に見えるムサイに火力を集中したようだ、敵は、

こちらの存在を予想していたと見え、本艦が都市筒の影から踊り出した時点で回避運動を始めて

おり、命中したのは初発3条の内の2条のみ、相応の損害は与えたのだろうが沈めるまでには至

らない。

「艦長、畳みかけろ、誘導弾放て!」

「3,4,5,6番、通常弾頭、触発起爆、時限補用、プログラム航走、目標の前方700メー

トルに半径200メートルにて30メートル毎の半球散布、諸元入力後即放出せよ、」

艦首を振らずに弾道を曲げて狙うのは、太陽側に潜む敵に備えての物だ。

「レーザー次発、照射2秒に短縮、2斉射、手負いの敵を追い撃て。」

4本の誘導弾が放たれ、再びレーザー砲と目標を光条が繋ぐが、目標の手前で雲の中の雷の様な

発光現象が起きる。

「ミラーチャフです。」

これでレーザーは暫く通らなくなった、だが、それは想定内だ。

チャフはテージョとサスケハナ両艦からのレーザーにも有効な位置に展開されている。

敵艦は行き足を弱めてチャフの有効域から外れるのを遅らせているだろうが、プログラム航走で

Z型に走らせた長距離誘導弾は一見遠回りに見えるが、敵の正面から突入するべくチャフ雲に飛

び込んで行く…

 

敵の姿を捕らえる事はまだ適わない、恐らく連射が来る、もしくは誘導弾か? 遠方の2艦は距

離が有るので本艦が目標か… いずれにせよめくら撃ちだろう。

その時、背筋に悪寒が走った。

「底部トリムスラスター全力噴射!」

果たして一瞬後、機関砲の様な短連射ビームが下方を掠めた。

喰らったか?

ほぼ同時にチャフ雲内で爆発らしき発光が見えた、テージョとサスケハナは気付いてくれるか?

2艦の艦長は気付いてくれた、敵艦の方向に10条を超えようかと言うレーザーの束が伸びる。

流石に4発の誘導弾でチャフの排除と敵への直撃は無理だったが、チャフはある程度吹き飛ばさ

れ、薄く成ったチャフのお陰でレーザーが良く見えたのだ。

効果有りか? だが、直ぐに単射のメガビームが2艦に伸びる。

テージョから入電。

「敵艦1隻を沈黙させました、残る1隻は恐らく中破程度で後退中、サスケハナに至近弾2で小

破ですが恐らく軽微、しかし本艦は機関部に1発貰いました。炉が1器停止、最大推力の発揮と

レーザー砲の全門斉射は不能です、しかし条件付きでの戦闘は可能。」

直ぐにサスケハナからも報告が入り、カレルヴォ艦長の見立て通り損害は軽微との事だった。

テージョをどうする、一旦下げるか? いや、何処に…

「チャフの切れ目に良く気付いてくれた。それと、都市筒を撃っていた奴を見たか?」

「見ました、ジッコ級です。ムサイとは別に動き廻って居ます。我々が見たのは3隻でした。本

艦が最初に発見して攻撃を掛け、テージョも加わり2隻に損傷を与えましたが、同様の部隊が複

数展開している模様で、それらは確認までには至っておりません。そのジッコ級は反撃しては来

ず、代わりに先のムサイ2隻が戦闘に参入して来て、後はご存じの通りです。」

「核を使用しているのか?」

「いえ、核爆発を思わせる物は見ておりません。丁度北6バンチが撃たれる所を見る事が出来ま

したが、主鏡翼付け根を狙ってミサイル数発を放ち、それだけでいともたやすくシリンダーは崩

壊してしまいました。止められ無かったのは痛恨の極みです。今までに撃たれたと思われるのは

北の3,4,5,6,南の13,15バンチ、被弾しても崩れず持ち堪えるシリンダーも有ると

信じますので一部推定を含みますが、全て太陽側一列目に有る街です。」

「推定の根拠は?」

「攻撃順に法則性を認めます。区庁都市筒がメテオキッカーで移動するのを待って、隣接する街

から各駅停車で順に撃っています。一回り巡ると、後はその破片で外側の街にも被害が及んで行

きます。」

南北の行政府庁筒は太陽側一列目、東西は二列目に有る、先程北1バンチは二列目のラインを超

え、後を追う様に南11バンチが丁度二列目に並ぼうとする所、東21バンチは二列目なので既

にザーンの都市群から突出しているが、二列目にはまだ我がオーラフスビークが残っている。

先程タンルウィンが撃たれた時、敵は鏡翼への流れ弾を気にしている感があった。

都市筒が崩れれば、その円周方向に大量の破片を撒き散らし、横並びの都市筒に降り注ぐ。

彼らは明らかに最初に襲って蹴り出したシリンダーの損傷を避けている。

最初の太陽側へのビーム攻撃の例も有るので正しくはシリンダーの原型を保とうとしていると言

うべきか? 

ジッコ級は世界初の実用M、R、R艦だが、メガ粒子砲を持たない。

確か標準装備で7器のランチャーに次発分込みで14発、更に追加装備も可能な高速ミサイル艦

だと聞いている。

撃たれても反撃しないのは、恐らく腹の中は対都市筒用の特殊弾で、反撃する術を持たないから

だろう。

 

「テージョの後退を許す、戦闘継続の可否は艦長判断に委ねる、後退の場合、西艦隊基地には戻

るな、戦域から速やかに離脱せよ。」

だが、カレルヴォ艦長は退かなかった。

「本艦は戦闘行動を継続します。艦隊機動で落後する事が有れば、そのまま本艦を残置して下さ

い。」

「解った、ならば先の指示を撤回する。テージョは速やかにオーラフスビークシリンダー主鏡側

センターハブ大門へ向かえ、重傷者を内火艇で降ろす準備をせよ。大門入り口ではタンルウィン

が係留作業を行っている、同艦に接舷し長距離誘導弾、特に核弾頭弾を優先して回収せよ。そこ

で内火艇を放ち、港内に待機する民間船2隻のいずれかに重傷者を預けろ、誘導弾を積めるだけ

積んだ後にサスケハナと再度合流、サスケハナ聞こえているな? 貴艦も一度戻れ。」

ベルナディット艦長が入港の可否を問う。

「基本的に基地は放棄する。テージョは重傷者を降ろして誘導弾を回収するだけだ、サスケハナ

は大門外で待機、テージョが出て来るのを支援しろ。筒内へは本艦が向かう、太陽側の敵を駆逐

するためだ。」

そこへ、話に出たタンルウィンのホー艦長からの報告が入る。

「司令、タンルウィンの固定終わりました。これより無人の通信ハブとして運用を開始します。

それと、マドリーン隊が戻りました。結局彼らは途中での連絡は出来ず、太陽側端まで進出し、

そこで敵兵と交戦、上に上がる事は適わずに後退して来たそうです。兵力は4割方削られた模様

。」

その半数以上はマドリーン連隊長に預けた我が兵だ、慣れぬ地上戦闘に投じた私の判断は誤りだ

ったか…

 

「これよりタンルウィン局開設します。一度交信を停止願います。」

エドガーレに作業を一任する、流石は本職、急造の慣れないシステムを扱っているとは思えない

手さばきを見せる。

切り替えは15秒程だったが数分にも感じられた。

「切り替え終了しました。ホー艦長が呼んでいます。」

もう一度、回線は私の手許に来た。

「司令、マドリーン大尉が報告したいと。」

「替われ。」

「司令、作戦目標を未達の上、お預かりした精兵の多くを失ってしまい、誠に申し訳有りません

。」

やはり通信を封じられては、近代戦では話しに成らなかったか…

だが彼女を責められない、未だ多数の市民の存命を信じて、無理を承知で街を取り戻そうとした

のだ。

私も似た様な事を艦隊に課したばかりだ。

かく言う私も、そして艦隊の皆も、心の底では未だ全滅など受け入れていない。

蓋を開けたらゾロゾロと元気な市民が出て来るのではと言う淡い期待を抱いている。

マドリーン連隊長は続ける。

「立ち寄った警察施設は全て破壊されていて、生きた警察官と会う事はありませんでした。都合

4カ所のシェルターを強制開放して見ましたが、何れも言葉にし難い状況で、我々は宇宙服着用

で、使用薬剤を特定する術も持ち合わせては居ませんでしたが、間違い無く化学戦が行われ、生

存が極めて難しい環境に追い込まれたであろう事は十二分に推察出来ました。敵兵力は、太陽側

鏡板付近に集結しており、我々は資材用エレベーターの有る隣の洲に移動を試みましたが、採光

窓に掛かる橋には、敵が自律型の無人銃座を設置しており、通橋は適いませんでした。先の確認

作業の後、士気の低下も著しく、作戦継続を断念した次第です。」

何と言う用意周到さ、ムンゾは一体何年前からこの作戦を準備して来たと言うのだろう。

橋を落とす事は現実には大変な仕事なのだ、しかも数がある。

流石に全ての橋を封鎖する事は出来ないだろうが、非常に合理的な方法と言わざるを得ない。

「貴隊が太陽側で交戦していたのは何分前だ?」

「50分は経っておりません。敵は追っては来ず、我々は中央通りを無停止で駆け戻って来まし

たので。」

恐らく敵兵は撤収作業の最中だったのだろう、40分強、太陽側の敵が出て来る、奪われたメテ

オキッカーが起爆される…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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