再びタンルウィンを呼び出した。
「ホー、まだそこにいるか?」
「はい、これから撤収作業に入ります。」
「少し待て、今そこにテージョが向かっている、テージョにはタンルウィンに残る長距離誘導弾、
特に核装備弾を優先的にテージョに積み替える様命じてある、タンルウィン乗員もその作業を支援
しろ。作業は迅速を要する。作業終了後は速やかに港内に待たせて有る民間船に移乗、場合によっ
てはテージョへの移乗も考慮せよ。マドリーン隊にも民間船への移乗を連絡、急げ!」
回線を一度閉じ、エドガーレにブルックナー場長との直接交信を試させる、タンルウィンは基地局
として正常に機能していた。
「繋がっています、そちらに回します。」
「場長、ワッケインだ、主鏡側マスターエアロックの内外同時解放を準備せよ。敵がインターロッ
クを解除してあるから直ぐに実行出来るな? これから大門入り口でタンルウィンとテージョが積
み替え作業を行う、作業終了を待って解放せよ。コルレーンはそこから筒内に侵入する。解放した
ら待機中の民間船に急いで向かえ。」
と、丁度コルレーンの右舷側をテージョが通過して行く所だった。
サスケハナも追及して来て、コルレーンの頭上方向1000メートル付近に制動を掛ける。
「サスケハナ、天地合わせ済みだな? ならばそのまま都市筒外縁部まで上がって索敵せよ。太陽
側のムサイが出て来る、増援も来るぞ、増援組の人形が居る事を忘れるな!」
最悪6対1に加え人形12機、サスケハナ1隻で支えられる戦力では無いが手持ちはこれだけだ。
他の味方艦隊は本当に一掃されてしまったのか?
「サスケハナ、核の使用を許可する、艦長判断で自由に使え、但し過信はするなよ。」
サスケハナはコルレーン勝手で上昇して行く、3キロメートルはあっと言う間だ。
「司令、もう来ています。H3時、V12時にムサイ2隻、H12時、V8時に同じく2隻、ロボ
ット兵器は見えません。」
北に押し入った連中と言い、自慢の人形を繰り出して来ないのは何故だ?
「サスケハナ、レーザーを斉射後レーザーチャフを展開して都市筒から離れろ、常に回避機動を忘
れるな。」
続いてタンルウィンを呼び出す。
「ホー、核はどうなっている?」
「2本テージョに移した所です、後は全部残ったまま。」
「よし、ホー、降りる前に残り2本の核をリモート起爆出来る様仕込めるか?」
「本来、設定には有りませんが細工してみます。しかし、ここで起爆なさるのですか?」
「あくまで保険だ、急げよ。」
続いて公社棟のブルックナー場長を再び呼び出す。
「場長、現在の筒内気圧は?」
「約0.3気圧です、マスターエアロックの解放準備整っています。」
「宜しい、マスターエアロック直ちに全開方、操作終了後直ちに民間船に向かえ、急げよ。」
計算した訳では無いが、0.3気圧なら吹き出す風に逆らっての筒内侵入も熟せると踏んだ。
「コルレーンはこれよりオーラフスビークシリンダー内へ侵入する、艦長頼むぞ。」
「本艦は大気内を航行する、総員不意の揺れに備えよ。」
操艦は艦長に任せ、私は僚艦への指示に専念する。
「サスケハナ、コルレーンは筒内に入る、暫く交信不能と成るがその間は頼む。可能ならテージョ
と本艦の退路を断たれん様、敵が主鏡側に廻り込むのを牽制してくれ。」
続いてテージョ。
「テージョ、作業の終了まで後どの位掛かるか?」
「もう終わります、今タンルウィン乗員を回収中。」
「ホー達はそちらを選んだのだな、判った、本艦は筒内に侵入する、貴艦は作業終了後サスケハナ
に加勢せよ。」
大門入り口がゆっくり近づいて来る、管制誘導用ビーコンは無視だ、接舷作業中のタンルウィン、
テージョを横目にコルレーンは港内に足を踏み入れた。
そのまま港内一番奥まで進むと制動を掛ける、真正面の巨大な扉が開き始めると、ゴミと思われる
物がこちらに向かって飛んで来るのが見えた、空気が吹き出しているのだ。
船体が小刻みに揺さぶられ始める。
ゲートの動きは苛立つ程遅い、後方を監視するカメラは2隻の民間船が離岸作業を行っているのを
捉えて居た。
民間船2隻の船体の揺れは思ったより大きかった、気流に揉まれ、操艦に苦労している様だ。
船長らには済まないと思う。
「どうだ、あの位開けば船が通れるのではないか?」
ゲート全開まで待っては居られない、内扉と外扉は上下逆にスライドして開くので、それでも7割
方は既に開いている。
「大丈夫でしょう、出します、微速前進!」
コルレーンは開きつつ有る門扉をくぐり抜け、オーラフスビークシリンダーの中にその船体を浮か
べた。
筒内はミルクの様な濃霧で満たされていた、急激な減圧の為だ。
「近接距離計が使えませんね。」
同センサーは真空中での使用前提なので、雲や霧を考慮に入れていないのだ。
「行けるか?」
「大丈夫です、慣性航法で都市筒中心線上を維持します。」
微速とは言いながらも、船体から伝え聞く機関の運転音は港内運行のそれより明らかに大きい、風
に逆らっているからだ。
メインパイロットの操縦桿を握る手が小刻みに動いて居るのが後ろからでも判る。
それなりに揺さぶられはする物の、覚悟した程揉みくちゃにされていないのは彼の当て舵のお陰だ
った。
タンルウィンの内火艇パイロットと言い、空力の考慮されていない船を良く操る。
無論本艦の艦長もだ。
「テージョ、作業終了、これよりサスケハナの援護に向かいます。サスケハナは被弾した模様。」
連絡を入れて来たのはカレルヴォ艦長ではなく通信担当の士官だった。
「損害を報告せよ。それと民間船2隻は出たか?」
これで無傷なのは本艦だけに成ってしまった。
揺れは大分収まり、霧が晴れて来た、筒内の大気が粗方抜けたのだろう。
今もこの中の何処かにエレンとダリルが居る…
「サスケハナを呼び出して居ますが応答ありません、民間船2隻は丁度大門を通過する所です。」
サスケハナ、やられてしまったのか…
そこにサスケハナが居る訳ではないのだが、思うと無く頭上方向を映すモニターに視線が向かう。
と、順に巡って来る採光窓の中に何かが光って見えた。
「済まない、上方監視カメラに防眩フィルターを掛けてくれ。」
画面が暗くなり、太陽の眩しさが抑えられる、と、又光った!
それは、主鏡に写り込む敵艦のビーム発射光だった。
「艦長、鏡に映る敵艦をレーザーで狙えるか?」
「やって見ます、エラン少尉、目標捕捉できるか?」
「V0時方向ですね、20秒間有れば十分です。捕捉しました、ターレットT、R、L、目標、天頂
採光鏡に映る敵艦像、照射3秒で2斉射。」
「照準レーザーの照射は直前までするな、奇襲効果がなくなる。」
「艦長、平行して長距離誘導弾、弾種は核、本数2、太陽側マスターエアロックから大門へ抜き、
串刺しに筒外に通せ、弾速3000メートル毎秒でセンターハブ大門を出て5000メートルで起
爆、初弾放出と次弾に1秒の時間差を付けろ。」
1秒有れば初弾炸裂時、次弾は丁度大門から飛び出す直前だろう。
「次で照射します。窓来ました、マーク、照射!」
キャパシターの開閉器の作動音、レーザー砲は放たれた、が、オクタヴィアン艦長はモニターを注
視しつつも誘導弾の発射指示を続ける。
「長距離誘導弾、1番、核弾頭、時限起爆、無誘導、直進補正、弾速は毎秒3000メートルを維
持、続いて3番、1番に同じ、放出は1番放出1秒後とする。放出は命令を待て。」
まだ筒内に大気が有るのと、発射艦保護の為に設けられた弾速1000メートルを超えてから5秒
の起爆制限を回避する為、弾速指定も必要なのだ。
レーザー砲は2斉射を終えた、次の窓が巡って来るまで戦果の確認は出来ない。
「窓来ます、敵影…消えました、効果は不明ですが全弾命中している筈です。」
今撃ったのは恐らく増援に来た連中だ、ここを襲った艦はまだ太陽側にいる。
「よし、核を撃て、絶対に外すな。外しても起爆はせん筈だが、2本目を放ったら直ちに回頭、主
鏡側大門に向け緊急退避せよ。」
コルレーンは核着き誘導弾を2発放つと180度回頭して元来た道を急いで辿る、発射から15秒
弱で初弾炸裂だ。
回頭を終え、前進加速を開始した所で、採光窓の外の主鏡が真っ白に輝き出した。
2秒後にもう一度、時間通りだ。
敵の準備していたメテオキッカーは機能を失っただろう、核爆発物はその過程に爆縮と言う行程を
必要とする、他の爆発による誘爆は通常有り得ない、そして、敵艦の無力化も…
沈めたと言わないのは、一般的に想像される様な核爆発の威力は宇宙では望め無いからだ。
爆風効果の望め無い準真空中での核弾頭は、単なる威力の大きな弾に過ぎない。
宇宙線防護の為、放射線遮蔽が当たり前な宇宙船や軌道上施設が相手では、放射線による殺傷効果
も限定的だ、宇宙戦争を描いた創作物に有りがちな、核一発で宇宙船団全滅など現実には有り得な
い。
それ故、公社の運用するメテオキッカーには、文字通り大質量物を蹴り出す為、爆風に相当するガ
スジェットを生み出すアブレーション材が大量に本体を取り囲んでいる。
メテオキッカーが非常に大型なのは起爆方式以外にも理由があるのだ。
そして、メテオキッカーに代わり炸裂した我が誘導弾は、よりマイルドにオーラフスビークシリン
ダーを押し出した筈だった。
「鏡板だ、減速。」
艦長の言に一足早く、既に制動噴射は始まっていた。
都市筒内に10キロメートル程侵入し、そこから取って返したので加速終了、即減速となる、片道
物の1分弱だ。
既に全開となっていたマスターエアロックを抜け、藻抜けの空となった港内を通り、係留されたタ
ンルウィンを横目にセンターハブ大門を後にする。
「サスケハナとテージョはどうか?」
「テージョの応答を確認しました。現在、敵艦と交戦中。」
「こちらへ廻せ。」
「ワッケインだ、貴官は誰か?詳細を話せるか?」
「は、本艦のオペレーターであります、艦長と代わります。」
入れ替わりも確認せず、矢継ぎ早に続ける。
「敵の数、それとサスケハナの状況を報告せよ。」
通信にカレルヴォ艦長の怒鳴る声が乗って来る。
「パラでダウンスラスト、鏡翼の動きに逆らい都市筒反対舷に船を出せ! 失礼しました、敵艦数
4、全てムサイ、2隻づつ2群に分かれセンターハブ基準で上下、太陽側約70キロに占位、上の
1隻は恐らく先程逃がした手負いの奴です。」
「数が合わん、もう1隻居た筈だ。」
「制動、レーザー狙え!はい、司令が鏡越しに撃った奴は右舷に漂って居ます。形は残しています
が沈めたも同然です。」
それの代わりに手負いが加わって居るのか…
「ホー戦闘指揮に専念しろ、副長で用は足りる、替われ。」
マイクの向こうでホー艦長が照射秒数と回避運動を怒鳴っている。
「替わりました、サスケハナですね。」
「いや、今視認出来たので良い。交信出来たのか?」
サスケハナは見るも無惨な姿でコルレーンの遙か前上方を漂っていたが、ムサイ達は止めを刺すこ
と無く目標をテージョに切り替えた様だった。
テージョがサスケハナを庇い、自身に敵を引き付ける為下へ降りたのだと理解した。
「いえ、途絶したままです。艦橋付近に貰ったらしく、しかし、先程まで散発的ですが攻撃を続け
ており姿勢制御も行っておりましたので、辛うじて操艦出来ている模様です。」
「分かった、テージョは敵艦への攻撃を継続しつつ後退、敵艦を誘因して都市筒から引き剥がせ。
」
敵艦はオーラフスビークシリンダーの移動速度に足並みを合わせ、距離を保っている様だった。
「コルレーン、都市筒左舷に出せ。テージョに敵弾を集中させるな!」
サスケハナを何とか助けたいが、敵を黙らせない事には何も出来ない。
いや、戦力で見るにむしろ我々が黙らされる方なのだが…
「全艦、核を積極的に利用せよ。オーラフスビークとの距離は不問とする。」
サスケハナが生きているなら、彼らの持つ核も当てに出来るかも知れない。
「操舵艦橋の対宙監視員が、別の敵集団を視認したと言っています。」
キルセンバーグ副長が操舵指示中の艦長に代わって報告して来る。
「新手か?」
「今、捕らえます… これです。」
モニターが捕らえたのは3隻のジッコ級だった、都市筒を壊して廻っている奴らだ。
一体、全部で何隻のジッコが来ている?
「攻撃目標を変更、ジッコ級を優先排除、残りの核2本を振り向けろ、整い次第順次放出!」
エラン少尉達の仕事は早かった、下令から15秒程で最初の核付きが発射管を滑り出す。
不意に昨年末の記憶が甦る、彼の婚約者も又オーラフスビークに居るのだろう…
ジッコ達に向かった我が誘導弾はしかし、目標に達する事はなかった。
「2本共止められました! ムサイです。」
これは私の判断ミスだ、やはりムサイを先に無力化すべきだったのだ。
直接街を攻撃している敵に気を引かれてしまった。
これでコルレーンの持つ核は使い果し、敵の注意は発射元である本艦に集まる事となる。
但し、核を放った事は敵が知る由も無いのだが…
「ムサイのビームが来るぞ!回避運動急げ!」
今コルレーンと対峙しているのは、手負いを含むセンターハブ基準で上側の2隻、彼らは我々と天
地を逆にしている。
都市筒を主砲の射界に入れる為に、見上げる形を取っているのだろう。
距離にして60キロメートル強、発射光を見てからの回避は人間の反射神経では間に合わない。
ここは敵艦の偏った艦容を逆手に取り、死角に飛び込むしかない。
「艦長、上に回避急げ!都市筒から離れるのだ。」
「上げ舵70度、全推進器緊急出力! 総員急機動に備えよ!」
コルレーンは鎌首をもたげる様に艦首を起こしつつ全力加速を掛ける、と、前方で光が瞬いた。
「来た!」
予想通りこの距離では単射の高出力ビームだが、条数を確認している間は無論ない。
当たるっ!
しかし幸いにもビームは尾部を掠めて飛び去って行った。
ワンテンポ遅れて艦速が乗ってきたのがGで判る、地上からの打ち上げ機で味わう様な加速感。
「舵中立、このまま直進。」
「艦長、都市筒から離れ過ぎるな、敵艦の死角に入ったら艦首を敵艦に指向せよ。」
「主機停止、上げ舵290度、180度の時点で出力40%で再点火、後転させて艦首を戻す。」
「敵はこちらを追尾して横転していないか?」
射撃指揮装置は敵艦を追尾し続けており、望遠映像がモニターに表示されている。
「いえ、姿勢変換の兆しは無い様です。」
敵に慌てる様子は微塵も無い、その気になれば何時でも沈められると言う事なのだろう。
と、映像中に光条が2本表れた、レーザー砲の物だ。
鮮やかに見えたと言う事は、敵がミラーチャフを展開している証だ。
こちらは斜めから見ているから敵艦を確認出来るが、正面からだと照準も含め厳しいのだろう、案
の定命中はおぼつかなかった。
撃ったのは…サスケハナだ。
恐らく残された炉の発電量でキャパシターへの供給を細々と続けながら、断続的に射撃を行ってい
るのだろう。
沈黙させたと思っていた敵艦が生きて居る事に気付いたムサイ達は止めを刺す気になったのか、チ
ャフ雲から出る機動を始める。
サスケハナに核を使う様指示したいが、交信は途絶したままだった。
艦橋近くに喰らったらしいので、急造の通信機なぞ消し飛んでしまったのだろう。
片や開きっ放しの受信チャンネルからは、テージョの苦戦ぶりが漏れ聞こえて来る。
向こうは無傷の2隻を相手に単艦で挑んでいるのだ、隻数差を遙かに超える圧倒的な火力の差がそ
こにはあった。
停止したコルレーンの主機は再点火し、前底と尾頂のスラスターにより艦は逆廻りの宙返りを打つ
様な機動を終えると艦首はきっちり敵を正面に捉えていた。
「司令、攻撃の指示を!」
オクタヴィアン艦長の声には僅かに不敵さが感じられる。
「長、誘導弾、6射線同時放出、誘導弾着弾5秒前よりレーザー砲の照射始め、当てに行けよ。」
「誘導弾もですか?」
「牽制は無い、全火力で敵を削る。」
「了解、無傷の方を狙え!レーザーは照射4秒の1斉射!」
サスケハナよ、これを見てるなら誘導弾を、更には核の使用に思い当たってくれ、それとももう撃
てない状況なのか?
淡い期待を乗せて全射線斉射の誘導弾は目標に向け走り出した、だが、この6発が命中する事はな
かった。
「敵艦、強加速中、想定未来位置を外れます。」
チャフ雲から出る機動とは違う、誘導弾に対する回避運動? いや、恐らく敵が加速の号令を掛け
たのはこちらが撃つより僅かだが早い、攻撃を読まれたのか?
「高熱原体の放出を確認、ミサイルではない様です。」
時を置かず、それが小型機であることが知れた。
今になってか…
「人型の機影を確認、ザクと呼ばれる機体と思われます。」
敵艦は艦載機放出の為に、合成速力を稼ぐ補助加速を行ったのだ。
レーザー砲で攻撃するなら今しか無い、距離が詰まれば見掛け上の運動量が増え、動きの遅い主砲
砲架では目標追従が困難になる。
だが、ムサイも又、今の加速で得た行き足そのままにチャフ雲を抜け接近中だ、程無く連射の可能
な射距離に入るだろう。
こちらは実質1隻、動く目標に誘導を殺されたミサイルは当たら無い、6門のレーザー砲でどちら
を撃つ?
「人形は何体だ?」
「3機づつ、2群に分かれ計6機を確認。」
やはりムサイ1隻に人形3体の情報は当たっている様だ、3機で最小戦闘単位なのだろう、有効な対
処方が限られる以上、距離の離れている内に人形を削るのが正解と見た。
「レーザー砲で人形を焼く、急げ!」
私が判断に迷っている間にも、かなり間合いは詰められてしまっていた。
「照準出来た奴から手当たり次第撃て!」
オクタヴィアン艦長の号令一下、レーザーは放たれた。
ロックオンさえ出来れば敵機に逃れる術はない、が、都市筒沿いに直線的に進んで来た前回と違い
、敵機は小刻みに回避運動を加えながら近づいて来る、レーザーが効力を発揮するにはある程度の
照射時間が不可欠なのだ、敵は装甲を持つ機動兵器。
「2機撃破!」
だが、やはり照射時間が足りず撃墜までには至らない。
無傷の方の3機編隊は右に変針する、撃ち漏らしの1機は我々の下へ潜る進路を取った、いや、彼
らから見れば上昇か。
「接近中の敵艦、横転を開始。」
「メガ砲来るぞ、下へ回避!」
だが、敵艦の艦首はコルレーンには向けられなかった。
「サスケハナが誘導弾を放出。」
直後にムサイはメガ砲を短連射で放ち、そのビーム条に包まれてサスケハナの船体は瓦解して行っ
た。
敵の動きを見て一矢を報いようとしたのだろうか、サスケハナの放った長距離誘導弾はしかし、途
中で進路を右に変針した、ムサイを狙った物で無い事は明らかだ。
その先には丁度本艦に迫りつつあった3機の人形、人形共は構えた携行砲で誘導弾を迎撃し、最初
の2本は落とされてしまった。
人形はその後、我が艦への攻撃占位機動の為急制動を掛け、旋回を始めた所に残りの2本が追い付
き、そこで計った様に炸裂した。
巨大な照明弾の如き輝きが一つ、遅れて更に一つ、それは核弾頭の物だった。
敵の未来位置を狙い、4本に時間差を付けて起爆設定したのだろう。
3本目が至近弾となり、輝きの収まったそこに人形の姿はなかった。
通常弾頭と思い込み、全弾迎撃を怠った事が彼らの命取りとなったのだ。
サスケハナは自艦ではなく、コルレーンの為に核を使い、そして沈んだのだった。
自ら要求したにも関わらず、部下の死を目の当たりにして動揺を禁じ得ない私を他所に、コルレー
ンは逃れた敵機の軌跡を辿る。
レーザー攻撃を避ける為だけに取った進路なのだろうか、先を行く人形は母艦に戻るか、テージョ
と交戦中の集団に合流すべきかで迷っている様だった。
どうやら帰る事にした人形は、我々に背を向ける。
我々からすれば、敵は絶好の攻撃チャンスを自ら逃した。
この間合いであの人形を落とす術を我々は持たないからだ。
サスケハナを沈めたムサイ達は、目標をこちらに切り替えた筈だがビームは未だ飛んで来ない。
サスケハナの最後の一撃を見て、核を警戒しているのか?
敵は、こちらに核の手持ちが無い事を知らない事だけは間違いない。
今のうちに敵との距離を稼ぎたい、レーザー砲であのメガ砲と対等に撃ち合う為にはそれしかない
、特にあの連射を封じるには…
「艦長、ビームが来るぞ! 常に回避機動を怠るな、テージョと繋がる所まで後退する。」
コルレーンは再度回頭すると、オーラフスビークの向かう先へと加速を掛けた。
コルレーンが動き廻った事でテージョはオーラフスビークの影に入ってしまい、一時的に交信不能
になっていたのだ。
「毎秒6度で右横転、5秒毎にトリムスラスター全力でパラスライド、時計奇数で上、偶数で下だ
。」
ランダム回避と言わない所がこの艦長の有能ぶりを表している、人がやると逆に癖が出て、読まれ
易いのだ。
毎分1回転の錐もみをしながら、上下左右に揺さぶられはしたが、戦闘の緊張感は酔いを感じさせ
ない。
「テージョ見えました!」
最早望遠鏡扱いの主砲射撃指揮装置が捕らえたテージョの像の廻りには、小光点が舞踊っていた。
ほぼ同時にテージョと交信が回復する。
「コルレーン、拾えているか? コルレーン、サスケハナ、本艦は敵ロボット兵器と交戦中、既に
全推力を喪失し船体の被害甚大、継戦は困難、戦力より除外された…」
交信は半ばで途絶え、蜂の巣にされたテージョが呼びかけに答える事は二度となかった。
ザーン西艦隊は事実上、このコルレーンを残すのみとなったのだ。
「パターン回避止め! 緊急回頭右、主機全力、」
オクタヴィアン艦長が矢継ぎ早に指示を飛ばす、艦が旋回を始めたのと敵艦のビーム条が艦尾を掠
めたのはほぼ同時だった。
「長、誘導弾、全射線次弾装填、レーザー砲、キャパシター照射位置へ、司令、あれを沈めます。
反撃宜しいですね?」
目の前で僚艦2隻を、ひいては街を嬲り殺され思う所があったのだろう、この艦が全火力を発揮す
るには敵を正面に捉える必要が有る。
奇しくも敵艦同様、リバー級も前方火力指向が強いのだ、誘導弾も基本的には発射時から目標方向
に放出される、無駄な推進剤の消費を抑える為だ。
それ故、軌道艦は洋上艦では当たり前の垂直発射筒を用いない。
長距離誘導弾は潜水艦の魚雷発射管を思わせる前方向き、対宙誘導弾は見た目は古めかしい多連装
装甲ランチャーだ。
確かに、敵と撃ち合うのならテージョと対峙していた敵艦2隻がこちらに合流して来る前が望まし
いのは判っている、が、レーザーで撃つならもっと距離が欲しいのも事実だ。
だが、艦長からの意見具申の最中に、外部監視モニターが捉えたいささか遠方だが戦闘光らしき光
芒が湧き上がるのを私は見逃さなかった。
本艦は旋転してしまったので後方となるが、それは民間船2隻の退避方向に近くも見える。
そして、テージョを沈めた人形6機がこちらに向かって来ていた。
私がしばし考え込んで居る間に、目標としていた敵艦は変針を掛けていた。
奴らは人形でこちらに止めを刺そうとしている様だ。
先程の砲撃を最後にメガ砲を撃って来ないのは、人形共への支援砲撃をテージョを沈めた集団と合
わせるつもりなのだろう。
2方向からの砲撃は人形の行動を逆に制限してしまう。
事実、対峙していた敵艦は我々勝手で下にいるムサイ2隻の方向に進み始めた。
「司令、早くしないと逃げられます!」
しかし、4隻のムサイと迫り来る6機の人形に加え、後方にも新手となれば、最早核も無いコルレ
ーン1隻で太刀打ち出来る戦力比では無かった。
「艦長、我々が攻勢に出る機会は既に失われている様だ。」
だが、艦長は折れ無かった。
「御言葉ですが、本艦の足では逃げ延びる事も適いません。なれば此処で1機、1隻でも敵の数を
削るのが我々の任務で有ると考えます、司令もそれを求めた筈です。」
そう、これは艦長達の意見具申を退けて、私が要求した結果に他ならない。
私が艦隊を全滅へと誘ったのだ。
「その通りだオクタヴィアン、私の稚拙な作戦指導がこの現状を招いた。だがもう一つだけ私に付
き合って貰いたい、我々の手でオーラフスビークシリンダーを葬ってやろう。」
オクタヴィアン艦長は答えなかった。
そう、皆、未だ街には生存者が居る筈と思い願っているのだ。
「艦長、人形が来ている、時間は無い、オーラフスビークシリンダー主鏡側センターハブ大門に居
るタンルウィンが見える位置まで艦を戻せ!」
人形の接近が艦長の背中を押した、オーラフスビークを正面斜め下に見つつ、慣性で都市筒に合わ
せ後退していたコルレーンは、最早ガイドビームも消えた大門正面に向かう。
メテオキッカーを殺したとは言え、本艦の放った核と、筒内大気の噴射圧によりオーラフスビーク
は既に中々の速度が出ている。
コルレーンは姿勢はそのまま後退をかけつつ上方スラスターをパラで噴射して降下を開始した。
6機の人形達が目前まで迫っていた、携行砲の発射光!
「急速後退! ムサイに対しミラーチャフ展開。」
人形の放った弾が斜め下方より襲いかかる、未減圧の戦闘艦橋内に着弾音が響いた。
「中央胴体に複数発の被弾! 詳細は不明。」
そのまま敵機は突入して来て、すれ違いざま携行砲を構える。
「短距離誘導弾、目くら撃ちで構わん!」
照準もせずに放たれたミサイルだが、敵のパイロットに回避行動を取らせる効果はあった。
人形共はてんでにコルレーンから離れて行く、だが、2機は騙されずに携行砲を放った、砲弾は推
進器部に命中する、ほぼ同時にムサイからの支援射撃が飛んで来るが、ミラーチャフは既に展開し
ていて正確な照準は不能な上、そもそも敵に命中させる意図は無いのだろう、あくまで人形に対す
る支援射撃なのだ。
「融合炉、2番3番停止!」
降下しつつ後退を掛けているので主推進器を使用していないのが救いだが、命中の衝撃で艦はよろ
めいた。
前方スラスターは噴射し続けており、姿勢制御スラスターと言えどもそれなりに速度は乗って来て
いた、そして、遠ざかりつつ有るオーラフスビークの主鏡側大門が正面の視界に捉えた。
敵機はオーラフスビーク側へ旋回を掛けた、速度が出ているので旋回半径は都市筒の全長の半分を
超えただろう、思い思いの方向に都市筒を回避しつつこちらに再度接近を試みる。
「これが最後の機会だ、我々の手で皆を眠らせよう。」
オクタヴィアン艦長は覚悟を決めた。
「大門入り口のタンルウィンに起爆信号を送信。」
主砲射撃指揮装置を介してレーザーによる起爆信号は放たれた、が、直ぐには爆発などしない、ホ
ー艦長達の細工で受信してから15秒のタイムラグが設けられているのだ。
本来は誤起爆から発射艦を守る為のインターロックを騙す為、疑似の点火と速度の信号を送り、ミ
イルは時限信管で起爆する。
その15秒間にコルレーンは180度の回頭を試みた、推進器部を盾に爆発から逃れる為だ。
旋回を終えた人形達が後方から迫って来る、回頭し終わる前に携行砲の弾を更に推進器部に喰らっ
た、これで4番の炉も停止してしまった。
人形共は減速を掛け、本艦に取り付く算段を見せる。
その時、後方で閃光が走った。