エネルマンド艦長に交信が替わるまで、些かの時間を要した。
「お待たせ致しました、今、船外作業メンバーの選出をしていた所です。」
手が早い指揮官だ、乗員も良く訓練されている。
「ウチの副長と協議した結果、コルレーン船体そのものを救命艇として使用する案が浮上した。だ
が、それには貴艦の協力と、係留作業時に会敵しないと言う条件が必要になる。艦長の判断が聞き
たい。」
「いえ、そうですか、私は既に艦ごと牽引する前提で作業メンバーを選出しておりましたので…
敵の動きは予想出来かねますが、2時間頂けるなら、アビジオは貴艦を此処から曳き出してご覧に
入れます。」
「敵は来ないと見るのか?」
「いえ、先程の発言通り、私には予想出来ません、しかし、こうしている間にも時間は経過し会敵
の可能性は跳ね上がります。なれば早急に作業を開始するのが望ましい。」
「だが、本艦は姿勢制御すら怪しい状態だ、牽引するのはかなり難しいが…」
「アビジオのパイロットが可能と判断したので準備を進めております。」
「良く判った、そちらに任せる、こちらからも人員を出そう。」
「助かります、それで、少しでも軽くする為に貴艦の推進器部を投棄したいと思いますが問題はあ
りますか?」
「無いが、時間が掛かるぞ。」
「その作業込みでの2時間です、外からご覧になれば司令も納得頂ける筈です。その他にも仕込み
作業がありますので直ちに作業を開始したい。」
「了解した、宜しく頼む。」
エドガーレ少尉にアビジオとの通信を返すと、私は第一待機室の個室通話機を呼び出した。
「貴官は誰だ、副長に替わって貰えるか?」
こちらも副長が出るまで少し時間が掛かった。腕の具合が良くないのかも知れない…
「替わりました、いま、回収出来た遺体を一カ所に集める準備をしていた所です。」
「済まない、アビジオと話しが付いた、こちらからも作業人員を出す。但し、空気が惜しいので船
外服のエアーは満タン状態の物、メンバーは一度にエアロックに入れる4人で出入りは1回のみと
する。亡くなった者には悪いがそちらを優先してくれ、人選は任せる。」
「了解しました、直ちに人選に入ります。」
副長との会話が終わった所に、リシュアン少尉が再び入って来た。
「アビジオのエネルマンド艦長からです、もう一度司令と話しがしたいと。」
回線を再度切り替える、「何か緊急の問題か?」
「いえ、そちらの重傷者と司令を本艦に迎えようと思いまして、そちらの都合が良ければ、本艦か
ら迎えを送りますが、問題は有りますか?」
重傷者の収容は有り難い、迎えも助かるが、彼らを運び出すには問題もある、そして私はコルレー
ンから離れる気は無かった。
「重傷者への配慮痛み入る、しかし、空気を温存する為エアロックの使用に制限を掛けた所だ、医
務室も被弾しており重傷者用与圧ベッドの使用可否も不明だ、エアロックの事は構わないとしても
重傷者に船外服を着せるのは忍びない、何か方策はあるのか?」
「レスキューバレルを使用します。本艦から見る限り、使用可能なレスキューバレルは貴艦に未だ
残っておりますので、本艦の未使用バレルと交換の形で負傷者を移送したいと思います。その作業
は本艦乗員が担います。」
レスキューバレルとは軌道船用の言わば救命ボートだ。
民間、軍用の区別無く、樽の名の通り円筒形の与圧カプセルでオレンジ色に塗装され、4人、8人
、12人用の三種類、ドッキング部も全船共通で、それはムンゾ艦でも同じ筈だ。
基本的に前述の人数を7日間生かせるだけの空気と水と電力、それと排泄物処理機能を持つが、短
時間の姿勢制御が行えるのみで自力航行は出来ない。
リバー級でも当然これを備えているが、コルレーンは総員退艦を下令しておらず、船体そのものを
言わばレスキューバレル代わりとして使う決定もあって、残数と使用可否の調べは不本意ながら後
回しにしてしまっていた。
レスキューバレルを使うと言う事は漂流すると言う事なのだ、それなら動けなくても生命資材が残
る本艦と同じだし、例え漂流状態になったとしても柄が大きい方が救助時に発見され易いだろうと
言う我々の結論が、救命艇の確認を怠らせたのだ。
「係留作業にこちらから4人出すが、レスキューバレルの方は貴艦に任せる他無い、勿論使用出来
るバレルの選定と重傷者の運び込みはこちらで行うが、それと、私はこの船から離れるつもりは無
い、気遣いは有り難いが言葉だけ受け取っておく。」
「レスキューバレルの件については了解しました。しかし、司令を動けない船に残す事は艦長職と
して容認しかねます、戦闘が発生した場合、行動に支障をきたします。」
要するに、敵に襲われた時はコルレーンを切り離すと言っているのだ、コルレーンに私が居ると見
捨てづらくなる。
だが、指揮官としてその判断は正しい、反撃も出来ず2隻まとめて沈められるのを避けるのは戦闘
艦の指揮者として筋が通っている。
「判った、そちらの世話になる、私はバレルとは別に泳いで渡ろう、何処のエアロックから入れば
良いか?」
「では、案内を一人出します。バレルの入れ替え作業に4人応援を頂きましたので、こちらの作業
員から1人司令の迎えに向かわせます。司令はどちらから外に出られますか?」
「上の状況が判らないが、一応艦橋直上のエアロックを利用しようと思う。」
「こちらから見て、操舵艦橋は半壊状態です、エアロックの使用可否に不安が残ります。」
「被弾は想定している、使用出来なければ艦橋左右のどちらかから出よう、操舵艦橋に詰めさせて
いた監視要員の安否確認がしたいのだ。」
恐らく絶望的だ、それが判っているから上の事には誰も触れなかったのだ、だが、彼らに対宙監視
を命じた私には彼らの最後を確認する義務があると思えた。
「では、交換用のレスキューバレルが貴艦に接近した時に、作業員から1名を艦橋へ向かわせます
、係留作業を優先しますので、バレルをそちらに届けるのは30分程後となります。」
「済まない、本艦側の使用バレルは直ちに選定し報告する。重傷者の移送もバレルが決まり次第開
始させ、貴艦の作業に極力合わせる様努力する。現在、本艦の戦闘艦橋は気密が破られており、無
線が不通の為指揮に支障をきたしている。艦長は戦死し、副長は負傷中の上、後部で残存乗員を統
率中だ。私が此処を離れると本艦の運航を統率する者がいない。そこで通信担当のエドガーレ少尉
運航責任者に抜擢しようと思う。操艦手席と離れているのでそちらの要請に答えるのが遅れるが理
解頂きたい。私はそちらに移る準備の為、此処を離れるので交信を一度切る。詳細はエドガーレ少
尉と詰めて欲しい、以上だ。」
「了解しました。通信を一度終了し、改めて貴艦の通信担当者と打ち合わせを行います。」
アビジオとの交信が切れると、エドガーレが回線に再び入って来た。
「司令、私は艦の指揮など出来ません、別の人選をお考え下さい。」
彼の不安は良く判るが、さりとて他に方策は無かった。
レーザー通信機でアビジオとやり取りしているのは実質彼だけなのだ。
「今、アビジオと交信出来るのは少尉だけだ、アビジオ側もこちらの状況は理解している、少尉は
アビジオからの指示をパイロットに伝えるだけで良い、エドガーレ少尉、現時刻を以て貴官にコル
レーンの運行を任せる。これは特例だ。」
個室通話機に切り替え、副長にも説明をした。
「こちらに一度来られますか?」
「いや、このままアビジオに向かおうと思う、エドガーレ少尉、君のエアーは後どの位持つ?」
回線に割り込んで聞いているであろうエドガーレに、船外服の残存空気量を尋ねた、牽引準備作業
中、彼は通信手席に張り付いて居なくてはならないからだ。
「自分のは、残り1時間20分程度です。」
まだ交換には早いか…
「判った、1時間で交換しろ、パイロットに手伝う様言っておく、不測の事態に見舞われたら後部
に頼れ、副長も頼んだぞ。」
私は操艦手席へと泳ぐとパイロットに件の要件を話した、パイロットは後から来たので空気残量は
2時間近く、何事も無ければ準備作業の終了には間に合いそうだ。
ようやく遺体の収容を終えた応援2人とリシュアン、それと火器管制手席で対宙監視をしていたエ
ランに、後部へ下がる様ゼスチャーをする。
彼らは理解した様子で、遺体と共に戦闘艦橋を退出した。
エドガーレはアビジオとの交信を再会する。
私はコンソールパネルのジャックからコネクターを抜くと副長席へと向かう、これまでの航行資料
を持ち出す為だ。
艦長席と、繋がる自分の席は被弾時の損傷が激しく、使用に耐えるか不安があったのだ。
航行データーと艦橋内の音声収録データーを呼び出す、無線が使えず、全行程与圧しての行動だっ
たのでオクタヴィアン艦長は戦闘艦橋内の会話もマイクで拾って居た筈だ。
果たして音声データーは直ぐに見つかった、航行日誌の作成に必要なので、オクタヴィアン艦長が
データーを残さない筈が無いのだ。
編集する時間は無いので、そのままピンメモリーにデーターをコピーする。
ザーン西艦隊、最初で最後の実戦記録は何としても残しておきたかった。
オーラフスビークをこの手で破壊した事も、私の拙い戦闘指揮も包み隠さずに…
兵装の使用状況も含め、データーの取得には2分程掛かったが、待つ身には5分にも感じられた。
これはザーン西艦隊の公式記録であり、何より後々ムンゾ側をして、「散発的な抵抗を速やかに排
除し…」などと軽々しく流される事だけは絶対に許せなかった。
圧倒的な不利の中で死闘を繰り広げた我が艦隊の姿は、コルレーンか私の何れかが味方の元へ辿り
付けば詳らかになるだろう。
コピーを終えて、ピンメモリーを船外服のポケットにしまうと、戦闘艦橋に残る2人にそれぞれ別
れを告げ、私は操舵艦橋へと上がった。
操舵艦橋への出入り口となるエアロックは、内外とも与圧が破れているのだろう、只の2重扉とし
開きはした、が、艦橋は原型を留めてはいなかった。
正面部分は消し飛び、左右側面は後方3割程を残すのみ、天井も吹き飛んで、無数の星が煌めく宇
宙が横たわっている。
残った壁と床には大小の破片が突き刺さり、床の一部も失われ、戦闘艦橋を覆う装甲材が見え隠れ
している。
そして、人の形を成す物は何処にも無かった。
安全帯を使用していた筈だが、その固定先ごと宙に吸い出されてしまったのだろう、生き死にに関
係無く…
メガ砲は操舵艦橋正面から貫入し、斜め上に突き抜けていった様だ。
上部船外へと向かうエアロックも消し飛んでいたが、もう関係無かった、此処はもう船外だ。
私は彼らに黙祷を捧げる、コロニー一つをデブリに変えた男が何を今更と、もう一人の自分があざ
笑うが、それでもせずにはおれなかった。
これは、ここに居た者だけでは無く、宙に消えた西艦隊員とバンチ連隊員全てに対する思いなのだ
と今更に気付かされる。
再び最上部の破壊されたエアロックの方へ視線を向けると、そこに先程はいなかった筈の兵が一人
こちらを見ていた。
恐らく、アビジオの迎えだろう。
向こうはこちらを西艦隊司令かどうか判断しかねている様だ。
無理も無い、私は血染めの船外服にバイザーの左半分をテープで固めたヘルメット姿のままなのだ
から。
少々遠回りになるが、一度艦首側に出てから彼に向けて戻る、破口に船外服を引っ掛け無い為だ。
そのまま彼のヘルメット目掛け真っ直ぐ進むと、彼は少々身構えた。
5メートル程まで近づくと、やっと彼は私だと認識したのだろう、ヘルメットを突き出して来る。
手前で減速を掛けたが少し足りなかった様だ、やや強めにヘルメット同士が当たると、彼は反作用
で後ろに流されかける、彼を掴むと簡易ムーバで後進を掛けた。
「出迎えご苦労、西艦隊司令のライナス、ワッケインだ、判り辛かった様だな。」
「はい、いえ、申し訳有りません、お姿がその…」
「手酷く撃たれたのだ、階級章付きの船外服ではあるのだが。」
「いえ、その、汚れておりまして見え辛かったのです。」
右側の肩に目をやる、ヘルメットが邪魔して見え辛いが、そこには血液が広くこびり付いていた。
テープで見えないが左側はもっと酷いのだろう。
「そうか、済まなかった、それで、このままアビジオに乗り移れるのだな?」
「はい、私は外装ムーバーを付けて来ましたので、私に捕まって下さい、ご案内致します。」
「宜しく頼む。」
彼がムーバーを吹かすと徐々にコルレーンが離れて行く、その姿は酷い物だった。
操舵艦橋を掠めたメガ砲は、後数メートル下にずれていれば戦闘艦橋に直撃だった。
メガ砲の貫入破片を食い止めたにも関わらず、極狭い非装甲部分を抜けた携行砲弾の直撃で艦橋の
機能は奪われたのだった。
船体は至る所に被弾痕、推進器部は殆ど吹き飛んで、生きているAPUが有るのが不思議な位だ。
推進器部の残骸は中央船体の後方部分と損傷した放熱板1枚のみで繋がっていた。
エネルマンド艦長の言葉の意味が良く判る。
出迎えの肩越しに見るアビジオは既に至近まで迫っていた。
両艦の距離はきっちり50メートル、私に迎えが来たと言う事は、既に交換用のレスキューバレル
はコルレーン側に着いている筈だが、右舷側のバレルを使ったのだろう、こちら側のバレルは減っ
てはいなかった。
レスキューバレルのすげ替えを待って係留作業に入る算段なのだろう。
出迎えの兵が右の二の腕をつついて来る、艦橋左舷のエアロックから入る様だ。
エアロックに入り、加圧を終え、艦内側の扉が開いた、その時彼の階級章が目に入った、大尉だ。
気が動転していたのか… これでは相手より悪い、彼の階級章を隠す物など何も無いのだから。
大尉はこちらに向き直るとバイザーを開ける、私はヘルメットそのものを外した、テープで執拗に
バイザーを固定していたからだ。
「御足労痛み要ります、私はアビジオの副長をしておりますデポラ、グエラです。」
やはり副長だったか… コロニーの警護艦隊は大抵艦長が少佐、副長が大尉で、後は艦橋要員が中
尉、少尉と相場は決まっているのだ、たまに機関長で大尉もいるが数は少ない。
ザーンの首都とも言える中央行政府が抱える警護艦隊と言えど、その辺は我々と変わる所など無い
のだ。
「最初に貴官の名を聞かなかった事を謝りたい、それで、艦橋に赴く前に船外服を1着借りたいの
だが。」
「はい、艦橋後方の準備室をお使い下さい、船外服もそこに有ります、説明しなくてもお判りだと
は思いますが。」
「助かる、それで、艦橋要員は全員戦闘艦橋詰めなのだな?」
「はい、今に至るも本艦は戦闘配備を崩しておりません、ですので操舵艦橋は現在無人です。但し
、無線が使えないので減圧してはおりませんが。」
「そうか、それと今着ている服の処分も頼みたい、左側の部屋を使わせてもらおう。」
戦闘艦橋を前にした中央通路の両側にある細長く狭い準備室の左側に入ると、私は着ていた船外服
を脱ぎ始めた。
ドア越しに「お手伝いしましょうか?」の声が聞こえた。
「頼めるか?」
デポラ副長の申し出に甘える事にする、船外服の装着は結構大変なのだ、勿論一人で着用出来る事
は軍に限らず船外作業を行う者の必須事項なのだが、艦橋では艦長以下が待って居ることだろう、
早く着れるのならばそれに越した事は無い。
「脱いだ物を処分したいのだが、通常通りで問題は無いか?」
「はい、取り敢えずそこの廃棄ボックスにお願いします。」
オクタヴィアン艦長の血が付いた船外服を処分するのには気が引けたが、さりとて他に選択肢はな
い。
無雑作に捨てるのも忍びないので、一応畳んでは見る物の、分厚い船外服が思い通りになる筈もな
く、手が血まみれになるだけだった。
私のする事を黙って見ていたデポラ副長が、ウエットティッシュを差し出してくれた。
彼の手を借りての着用はすぐさま終わり、私とデポラ副長は戦闘艦橋へ足を踏み入れる。
艦長席の人物がこちらに振り向き敬礼をくれた。
「アビジオへようこそ、私が艦長のジェレミー、エネルマンドです。」
「西艦隊司令のライナス、ワッケインだ、救援改めて感謝する。それと、船外服を1着借用した、
それにも礼を言いたい。」
「いえ、お気になさらずに、それで本艦は現在、負傷者搭乗のレスキューバレルの回収作業中です
。終了と同時に本艦とコルレーン船体部との係留作業に移行します。先程ジッコ級の一団を確認、
敵は接近する事無く離れて行きましたが、位置は既に敵に知られていると見て間違いありません。
ですので作業を急がせたいと思います。」
ジッコの方が数が多いのか… 位置を抑えられたと言うが、今、どの辺りまで流されたのか?
「ザーンより低軌道側へ慣性移動していた筈だが、どの位ザーンから離れた?」
エネルマンド艦長は後方監視カメラの映像を指差した。
「いま、カメラのフレームに一部入っているのがザーンの都市筒群だった物です。距離は400キ
ロ強まで開きました。敵の都市筒攻撃は非常に巧妙で、中央付近の都市筒から攻撃を掛けると、遠
心力により破片が散らばり、それが外側に有る都市筒に降り注ぎました、最早無傷の都市筒はほぼ
有りません。」
3隻一組で彷徨いていたジッコの仕業だ、あの後これ程までに破壊が進んでいたとは…
事実上、サイド1、ザーンは天球図から消えたのだ。
一体何隻のジッコに侵入されたのだ?
「減速が可能かコルレーンに聞いて見てくれるか?」
「実はコルレーンは僅かに自転が掛かっていて、先程ザーンを真後ろに見る所で止めて貰いました
が、その結果推進剤を使い果たした様です。」
「やはり配管から漏れてしまっていたか… 因みに、先程船体部と言っていたが、推進器部の切り
離しを行うと言う事なのか?」
「はい、司令もご覧になられたかと思いますが、コルレーンの推進器部は辛うじて船体部と繋がっ
ている状態ですので切り離しを考えています。コルレーン側に切り離し作業の可否を確認して貰っ
ている所で、艦内からの確認が難しければ、こちらの作業員に船外からの確認と作業を行わせます
。それと、減速時の保険として本艦搭載の長、誘導弾の弾頭を除いた物をコルレーン船体に固定し
ます。配管の修理が可能なら本艦から推進剤と酸化剤を一部分ける予定でいますが、敵との接触を
避ける為配管修理の可否に関わらず作業は平行して行おうといます。」
彼女の判断は的確で、早い。
「済まない、コルレーン側の乗員も加勢させたいのだが、エアーの残量を稼ぎたいので、恐らくも
う出て来ているだろうエアロック一解放で出られる4人だけで我慢してくれ。」
エネルマンド艦長はそれで十分ですと言うと作業の指揮に戻った。
「取り敢えず、艦長の隣の補助席をお使い下さい。」
デポラ副長が床から補助席を引き出してくれた。
補助席とは名ばかりの艦橋仕様のシート、但しコンソールパネルは艦長用の物の下から引き出した
本当に補助用を思わせる物、どちらもコルレーンと変わらない、同型艦なので当然なのだが。
進められるがままに腰を着ける、丁度コルレーンから切り離されたレスキューバレルをアビジオに
迎える所、代わりのバレルは既にコルレーンに収まっていた。
「余りバレルに余計な動きをさせるな、なるだけ本艦から迎えに行くように船体を操作せよ。」
艦長の令に答えてパイロットが小刻みに船体を操作する、僅かに伝わる振動がバレルのドッキング
を伝えた。
「レスキューバレル、到着しました。」
「直ちに係留作業へと移行せよ、バレル組はそのまま配管確認へ、コルレーンの応援組には誘導弾
の固定を手伝ってもらう、各自空気残量の確認を忘れるな、不足の者には帰艦、交代要員を出す。
コルレーン船員も不足の場合はアビジオ側で空気の再補充を受け付ける。」
長文のモールスを通信担当が探照灯の遠隔操作で、船外活動中の乗組員に発する。
空気の足りない者は居なかった、係留作業は40分程で終わり、最後に推進器部が投棄される。
「コルレーンに連絡、推進器を投棄されたし。」
推進器部は音も無くコルレーン船体から離れて行く。
ワイヤーが前後から4本引き出されて、コルレーン船体に繋がれた。
ウインチが巻かれ、コルレーンが近づいて来る。
「25メートルまで寄せたら、本艦がコルレーン側の相対速に合わせて動きを相殺する。」
船体から伝わるウインチの作動音がゆっくりになると同時にアビジオの姿勢制御スラスターが作動
し始めた。
「船外の乗員を回収し、確認、コルレーン側にも戻りを確認させろ。」
船員は全て艦内に戻った、その間に切り離した推進器部はコルレーン主船体から150メートル程
まで離れた。
「コルレーンに連絡、牽引を開始する、衝撃に備えよ。」
アビジオは極めてゆっくりと曳航を開始した。
それでもワイヤーが伸び切る瞬間、結構なショックが船体に響いた。
艦首が推進軸より斜め下向きに傾いてから前進の加速度が徐々に伝わって来る。
コルレーンはアビジオに曳かれてザーン近傍からの離脱を始めたのだった。