ガチャ狂い魔女のお隣り戦記   作:トゥルシャ

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第1話 お隣さんがやってきました!

「よっしゃっ! ☆5アリスが来たぁぁ! このまま完凸目指して追い課金よ!」

「その辺にしておけ。どうせ金の無駄だ」

 

 日本に来た時に購入した一戸建ての家、そのリビングに置かれたソファに寝そべりながらスマホでガチャをしていたトゥルシャは、喜びのあまり立ち上がってガッツポーズをする。黒猫のベルは柔らかな日差しの降り注ぐガラステーブルの上に寝そべりながら、大して興味が無さそうに欠伸をかみ殺して心無い言葉を放つ。

 

「もう、相変わらず一言多いんだから! お金は十分にあるんだからいいじゃない。向こうでは探索者として頑張ってきたんだし……」

「オレを従えられるような魔女が、あんな小国の最強程度で満足してもらっちゃ困るんだが」

「イギリス最強にも勝ったでしょ! 仕方なく戦うことになったけど圧勝だったじゃない!」

「アレは相手が弱すぎただけだろうが……」

 

 目を細めて退屈そうにしているベルが吐き捨てるように貶す。イギリス最強という触れ込みで乗り込んできた彼はトゥルシャがたった一度、魔法を放っただけで沈んでしまったのだから、拍子抜けも良いところだ。

 

「まさか、インフルエンサーだったとはね。観客居なきゃ最弱じゃない」

「だから、普段は配信してたんだろ?」

「そういうことかぁ」

 

 この時のルールは全てイギリス側が決めた。虎の子のイギリス最強探索者を出す以上、負けを認めるわけにはいかない。ゆえに生配信が禁止された。万が一にも負けた場合、自国民に無様な姿を晒すのが許せないからだろう。

 

 一方で生配信が禁止になった代わりとして、観客動員数の多いイギリス国内にあるスタジアムで行われることになった。

 

「まったく、ズルいよね。有利になるように観客を大勢動員するなんてさ」

「その作戦ごと潰したお前が言っても説得力がないけどな」

「仕方ないでしょ。あまり派手な魔法は使えないんだから。そんなに強くないけど派手な重力魔法を使っただけなのに、あっさり倒れたアイツが悪いのよ」

 

 結局、自ら指定した生配信禁止の条件によって自滅した形となった。もっとも、この意図しない勝利が災難の始まりとなるとは、この時のトゥルシャには知る由もなかった。

 

「SADAKOだのバンシーだの好き勝手言うし! ライフドレインとか死の呪いじゃなくて重力魔法だっていうの! 何なのよ、私の姿を見たら七日後死ぬかもしれない、って……」

「それは……ご愁傷様だな」

「めっちゃ他人事!」

「他人だからな」

 

 頬を膨らませながらトゥルシャが毒づくも、今にも眠りそうに目を細めながらベルが適当な相槌を返す。そんなベルに抗議の声を上げるも、いつものことと軽くスルーされて目に涙を浮かべるまでがいつもの流れとなるが──。

 

「もう、ベルはいつもいつも……。その後には病人扱いだよ! 酷すぎじゃない?」

「それは初耳だがな」

「もう、そんなわけないでしょ。週刊誌に中二病って書かれてたじゃない!」

「ああ、それな……。まあ、頑張れ。言っておくが、医者に行っても無駄だぞ」

「それって不治の病ってこと?」

 

 ベルの脅しを聞いて、トゥルシャは不安そうな表情を浮かべる。そんな彼女を見ながら、ベルはニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる。

 

「ある意味そうとも言えるな。お前を見れば分かるが、相当イタイからな」

「なーんだ。それなら大丈夫だね。全然痛みはないし」

 

 しかし、ベルの追撃の一言を聞いて、トゥルシャは胸を撫で下ろす。勘違いさせたことで追い詰めるどころか安心させてしまった。そのことでベルは少しだけ顔をしかめたが、すぐに興味を無くしたようにふいっと彼女から顔を背けた。

 

「どっちも根も葉もない噂じゃない。こんな噂で祖国を追い出されるなんて、ホントに腹が立つわね」

「やれやれ……『私の右腕がお前の血を欲している──鎮まれ、私の右腕!』などと恥ずかしいことを言っているからだろうに」

「ん? 何か言った?」

「いや、それよりガチャはやめる気になったのか?」

「そんなワケないでしょ! 完凸するまで終わらないんだから!」

「おい、やめろ。無駄遣いすんな!」

 

 ベルの制止を振り切ってガチャを回していく。魔法によってトゥルシャ限定で確率が上がったお陰で、天井前に確定演出が出現する。

 

「☆5キター! す、すり抜けた……?! そんな、魔法まで使ってるのに!」

「そんなくだらない事のために魔女の力を使う奴なんて、世界広しと言えどもお前くらいだろう」

「何を言ってるのよ。ガチャの確率が倍になるんだもの、使わない方がもったいないじゃない!」

「そう簡単に使えるものじゃないんだがな……。これが才能の無駄遣いってヤツか」

「ふふん、大きなお世話だよ。爆死したら敗者。これが厳しいガチャの掟なんだから」

 

 胸を張って正統性を主張するが、ベルは相変わらず冷めた目で見つめながら、再び大きくため息を吐いた。

 

「まったく……。何故に、このようなヤツに特級魔女の才能を発現させたのか……」

「いいじゃない。有効活用しているでしょ?」

「その点については、もう諦めた。それはそうと、高校デビューとやらはどうしたのだ?」

 

 急にベルが振ってきた話題にトゥルシャの動きが止まる。その代わり、彼女の背中には止めどもなく冷や汗が流れ落ちていた。後ろめたさから視線こそ明後日の方向を向いているが、トゥルシャはスマホの画面からベルの方へと顔を向ける。

 

「な、な、何のことかな?」

「日本へ来るとき言ってただろうが。『せっかくだし、高校デビューでもしちゃおうかなッ』とな」

「……それは三年後かな? えへへ」

「正気か?! 三年間も、こんな生活するつもりなのか!」

「だって、仕方ないじゃない。十二歳じゃ高校に入れないんだし。私のせいじゃないよ!」

 

 アイルランドでは飛び級で中卒資格を持っているトゥルシャでも、日本では年齢制限があって高校に入れないとのことだった。

 

「これは引きこもりじゃなくて、高校入学までの時間つぶしなんだよ」

「はあ……。時間を潰すなら探索者でもやればいいじゃないか」

「ダメだよ。こっちでも有名になって黒歴史が作られちゃったら、ガチャで手に入れたキャラとお別れしなくちゃじゃない!」

「……こんな調子で十五歳になっても高校デビューできると思えないんだが」

「ふふん、私はやるときはやる子なんだから、大丈夫だって!」

 

 トゥルシャは胸をドンと叩いて大丈夫だとアピールする。ベルは残念なものを見るような目で彼女を見つめると、ため息を吐いて首を横に振った。

 

「やれやれ、何か外に出ざるを得ない事件でも起きれば良いのだがな……」

「無駄だよ、無駄。日本もダンジョン大国だけど、治安は良いらしいから、そうそう事件に巻き込まれることなんて──」

 

 ピンポーン──。

 

「もうっ、あと1凸だっていうのに……。さては、悪名高いセールスだな。魔女に喧嘩を売りに来たなんて命知らずなヤツめ。完凸を妨害した報いを受けてもらおうか!」

 

 意気揚々と万全の臨戦態勢でトゥルシャは玄関の扉を開ける。

 

 ポヨンポヨン──。

 

 なんと、玄関の先にいたのはスライムだった。

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