ガチャ狂い魔女のお隣り戦記 作:トゥルシャ
「はあ、平和だなぁ……。あ、☆5クロ―ディア来たー! よし、追い課金だ!」
「いい加減にしろよ……。そもそも何も解決していないからな?」
「もちろん最初はびっくりしたよ。でも、来るとしても三日に一回くらいのペースだし、すぐに回収に来てくれるし、良い運動になるし、お詫びにトンカツくれるし、私としては文句ないかなぁ」
「明らかにトンカツ目当てじゃないか。確かに美味しいのは認めるが、トンカツばかりだと飽きてこないか?」
何も分かっていないベルの顔の目の前に、トゥルシャは人差し指を立てて左右に振る。
「チッチッチ、飽きるとか、飽きないとか、そんなことは問題じゃないんだよ」
「じゃあ、何なんだよ!」
「あのトンカツを食べると──ガチャ運が上がる気がするんだ! まさに『勝つ』だね!」
「そんなわけないだろ。ただの気のせいだ」
ベルが大きくため息を吐いて前足で顔をこする。いまだにベルはトゥルシャがガチャに捧げる熱意を理解していないらしく、どうでも良さそうな態度を取る。相棒が自分の情熱を理解しないことが、彼女にとっては気に入らないらしく、ぷくっと頬を膨らませる。
「本当に分かっていないね。ガチャ運の重要性を舐めたらダメだよ。確率2倍とか言って、1%が2%になっただけで、みんな狂ったように回すんだから。私が魔法で確率上げる気持ちも分かるでしょ」
「ホント狂ってんな。そんなことのために魔女の力使うお前には及ばないけどな」
呆れたようにベルは肩を竦める。この日も二人の見解の相違は埋まりそうになかった。
「ふん、もういいよ。今日はクロ―ディアを完凸するから!」
「この間アリスとやらを完凸したばかりではないか……」
「あっちは別のゲームだからね。今回の完凸はそう簡単じゃないよ。なにせ天井が無いからね!」
「どうでもいいわ……」
ベルの説得を諦め、ソファに寝そべりながらガチャを回し始めるトゥルシャだが、すぐに彼女の身に異変が起き始める。
「えええええ、百連回したのに☆5出ないんですけど! どういうこと?!」
「……1%なら、普通にありうる話だろ?」
「違いますぅ! 魔法で確率上げてるので2%のはずですぅ!」
「やれやれ、大して変わらんではないか」
口を尖らせて反論するトゥルシャに、呆れ果てているベルは先ほどから何度もため息を吐いている。ガチャを回すたびに奇声を上げ、頭を掻きむしり、手足をじたばたさせる主人の姿は余りにも痛ましく、ベルはとうとう見ていられなくなった。
「……俺は先に寝るからな! お前もいい加減に切り上げて寝ろよ!」
「うおぉぉぉぉぉん! 出たッッ! ついに、250連で、ついに、出たぁぁぁッッ!」
ベルが寝ようとしていたところで、トゥルシャが先ほどまでとは違う奇声を上げて立ち上がった。両手を挙げて歓喜を全身で表現している──ベルには痛ましく見えるだけだった。
「出たなら終わりにして寝るぞ!」
「何を言っているのさ。まだ1凸だよ。完凸まで後四つ出さなきゃ、寝れないんだから!」
「いいから寝ろ!」
明らかに終わらなそうなトゥルシャのガチャ目標に、ベルは彼女の後頭部を蹴りつける。と言っても、所詮は猫の力。大したダメージにはなっていない。
──ウオォォォォン!
──ウオォォォォォォォン!
トゥルシャとベルが一触即発の雰囲気で向かい合っていると、突然、狼の遠吠えが聞こえてきた。
「な、何? 狼?」
──ドドド、ドドドド、ドドドド、ドドドドド。
──ウオォォォォン!
それだけでなく、地響きのような重低音が加わり、身体の中から揺さぶられるような不快感に襲われた。
「うええ、何これ? 今度は一体、何が起きてるの?!」
「隣の方からだな!」
家から飛び出したトゥルシャたちは、隣のダンジョンの庭に巨大なアンプとスピーカーが設置され、重低音の曲に合わせて五匹のウェアウルフが狂ったように吠えているのを目の当たりにした。
──ド、ドド、ドドン、ドド、ドドド、ドン、ドド、ドドドン。
──ウオォォォォン! ウオォォォォン!
余りにも近所迷惑を考えない騒音に、トゥルシャの杖を持つ手が怒りで震える。彼女が杖に魔法を掛けると、杖が巨大化して10mほどの長さになる。そのまま振りかぶって左から右へと振り抜く。
「何やっとるんじゃァァ、お前らァァァ!」
「「「アオォォォォン!」」」
巨大化した杖によって、ウェアウルフたちが一斉に吹き飛ばされる。その隙にすかさずトゥルシャはアンプとスピーカーの電源を落とした。
「おいおい、何をやってくれてんだァ!」
「困るぜ姉ちゃん。俺たちは今、大事な時なんだよォ!」
「こんな夜中にうるさくされるから、こっちは調子を崩してるんだからね!」
戻ってきて口々に文句を言うウェアウルフたちに、トゥルシャは逆に文句を言って黙らせる。あまりの剣幕に激昂していた彼らの間にも動揺が広がっていく。
「だいたい、本当なら2%だから50連も回せば出るはずなんだよ! なのに、あなたたちのせいで250連も回す羽目になったんだからね!」
「……それって、俺たちのせいなんでしょうか?」
「当たり前でしょう。あなたたちの騒音でガチャに対する集中力が──」
「何を適当なことを言っているんだ。やれやれ、お前たちもこいつの言うことは真に受けなくていいぞ」
トゥルシャがウェアウルフたちに詰め寄っていると、背後からベルがやってきてネタバレをしてしまった。その言葉に安堵するウェアウルフたちだが、直後、ベルが毛を逆立てながら睨みつけたことで、一斉に竦み上がる。
「だが、夜中にうるさくするのは感心せんぞ。痛い目を見たくなかったら、夜中は静かにしていろ」
「「……」」
「待ってください。確かに、うるさくしてしまったことは俺たちが悪いです。でも、俺たち今度のウルフメタルフェスティバルに参加する予定なんです!」
リーダーと思しきウェアウルフが竦み上がりながらも一歩前に出て、ベルに縋りつくように懇願する。ベルはめんどくさそうな表情でトゥルシャに目配せすると、スタスタと家に戻ってしまった。
「えっと、後は任せたってことらしいんだけど……とりあえず、ウルフメタルって何かな?」
「ウルフメタルっていうのは、ウルフのソウルを乗せたシャウトが特徴のメタルなんです」
「何を言っているのか、全く分からんのだけど!」
その後、懇切丁寧に説明してもらった結果、さっきの重低音に合わせた狼の遠吠えがウルフメタルということらしい。
「それで、そのウルフメタルの祭典があるから練習していたと。そう言うこと?」
「は、はい。今回、俺たちの最後の舞台にしようって決めてるんです」
今回の一番の問題は夜中の騒音。かと言って昼間なら問題ないかというと──明らかに狼の遠吠えにしか聞こえないからダメだった。
「音量が大きすぎるのがダメなんだよね。うーん、魔法を使って何か……あっ!」
「な、何かあるんですか?」
「ふふふ、任せてちょうだい!」
「よ、よろしくお願いします!」
トゥルシャが胸を張って答えると、ウェアウルフたちの表情が少しだけ明るくなる。仕込みは明日からということを伝えて解散となった。ひと段落ついて家に戻ると、家の前にいつもの娘オークが切羽詰まった様子で玄関の前に座り込んでいた。
「た、助けてください。お、お母さんが……!」
彼女はトゥルシャの姿を見つけると、駆け寄ってきて足元に抱きついて顔を埋める。そして顔を上げると目を潤ませた。