HoloCure Another World   作:Haidorahooru

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おそらくきっと、はつとうこう


新しい冒険の書

20XX年。社会現象が起こった。

 

バーチャルアイドルという新しいアイドルの形が、ネットから浮上して来たのだ。

 

最初は否定的な意見が多かったが、次第に皆その新しいアイドル達に惹かれていった。

 

しかし、その好意を利用しようとする悪の組織が突如として姿を現したのだ!

 

悪の組織はファン達のVtuberへの愛を捻じ曲げ、ただ無心に彼女たちを追い続ける悪の手下へと姿を変えてしまった。

 

そしてその愛を利用し、世界中の人々の姿形すらも変えてしまったのだ!

 

悪の組織によって変えられてしまったファンを取り戻すべく、アイドル達が立ち上がる!

 

これは、アイドル達が悪の組織に立ち向かい、世界を取り戻す物語!

 

.....だけでは、なく。

 

自分がどのような存在だったかさえすらも思い出せない青年がいた。

 

ただ剣の振り方と、体の動かし方だけを記憶してこの世界に降り立った人間がいた。

 

そして、分かっていることはただ一つ。

 

自分はこの世界には、本来いてはいけないということz

 

これはアイドルが世界を取り戻すための物語。

 

そして...“彼”が自分を取り戻し、この世界から消えるまでの壮大な忘備録。

 

 

 

 

 

 

見渡せど見渡せど、森林だらけで嫌になる。蔓と木を掻き分けながら、青年はただため息をついた。

 

バキバキと小気味のいい音を鳴らして壊れているので少しだけストレス解消にはなる...かもしれないと思ったら大間違いだ。今は夏真っ只中。太陽がこれでもかと、木陰の隙間から照りつけてくる上に無風なので暑いことこの上ない。

 

「しかも、この作業...地味に疲れるし...ッハァ...」

 

相手は大自然だ。枝もすぐ折れるような軟いやつだけならよかったのだが、柔軟性があったり無駄に硬かったりで剣を振ることも多く、次第に息が絶え絶えになっていく。

 

たまに顔を蔓に足を取られ、腕や衣服に絡みつくこともあるためイライラ度が天元突破寸前だ。何よりも水分を摂っていない。大量に汗を流しているというのに。

 

「このままじゃ俺...何よりも誰よりも早く...脱水症状で干からびて死んじまう...」

 

目の光が完全に消えて、突きつけられる事実のせいか顔が歳を重ねた翁よりもヨボヨボになっていた。或いは干からびすぎて顔から萎んだのかもしれない。

 

風呂に入った時よりも萎びて、それ以上に乾いた体を癒すために彼は水場には水場が必要だった。

 

思いつきでこの鬱蒼とした森を抜けようとしたことに後悔を抱きながら...彼はひたすらに進んでいく。

 

先の見えない森の中、どこを見渡しても木、木、木!

 

「まさか脱水症状のせいで...その場をぐるぐる回ってるとかないよな...?俺...」

 

一抹の不安を抱きながらも、全身を続ける。すると、ようやく木が見えなくなり、大きく日が差してきた。

 

「!ようやく森を...早く...早く水場を探さないと...!」

 

泉なんざない森に用はないと言わんばかりに、森の中から抜け出してきた。ようやく、地獄から抜け出せたのだ!

 

その瞬間、追い討ちかのように暖かい日と生ぬるい風がお迎えして、汗だらけの衣類がべっちょりと彼の体について猛烈な不快感を覚えた。

 

「おおう、気持ち悪い...お?」

 

抜けた先には、この自然の中で随分とひっそり...ではなく、割と目立ちそうな邸宅が。いや、60人くらいは入れそうだし大邸宅だろうな。

 

「誰かがここで生活を営んでいるのか?いや、そんなことよりも」

 

畑があったり何やら釜だの作業場だのが見えたが、彼にとっては...目の前に見える大きな池の方が重要だったのだ!

 

貴重な水分!体から失われた、水分が今目の前にある!煮沸消毒なんて言葉は彼の辞書から蒸発してしまった。ついでに私有地も。

 

「ああ、神よ...今なら俺は神の存在を信じたっていい!」

 

では早速、と有無を言わさぬスピードで彼は飛び込みながら水を飲んだ。家の持ち主からしてみればこんな汗だくの男が池に飛び込んで水を飲んでるとか通報されてもおかしくない。

 

??「あっちょっと君!何池に飛び込んでるの!そこは危ないよ!」

 

何やら着ぐるみに入った時の男性のような声が聞こえた気がするが気にしないし、水中にいるため聞こえなかった。水分を補給しながら、汗を洗いながらす感覚は何にも変え難いものがあった。

 

水分を十分に確保すれば、テンションが上がったのか池を縦横無尽に泳ぎ始める。にしても、大きい池だと思ってはいたが...

 

『中は随分と広く感じるな』

 

ぱっと見ただの溜池だったのに。中身はまるで太湖のよう...なんだか神秘的だ。

 

周りを見渡してみると、まるで子供が乱雑にでも追いたかのように、無数の海藻や貝、仕舞いにはサンゴなどが、生息地を問わずにこの池に結集している。淡水と海水の区別すらない。

 

『しっかり魚も泳いでる......あの家の管理人はどうやってこんなものを作らせたんだ...?』

 

水中の中で思考しながらも、そろそろ息が続かないので地上に浮上する。かと考えたその時。

 

「ぼっ!?」

 

視界外から白い触手のような何かが叩きつけられる。まともに受け、水中の中で見事な大回転を披露する羽目になったが、なんとか無事に体制を立て直す。

 

そうさ。魚がいるならばアイツがいないわけないじゃないか。彼らは、あの同人誌のネタによくされる触手族は海がテリトリーなのだから。

 

『イカはイカでもダイオウイカかよ.!』

 

即座に剣を抜いて立ち向かう。なんて自殺行為は絶対にしない!息切れしたらそこでジ・エンド。その上相手は筋肉の塊のような軟体生物。捕まればまず助からない。

 

イカに縄張り意識があるのかどうかはわからないが、どうやらテリトリーを荒らされて随分御立腹のようだ。

 

『お、落ち着いて知性体同士話し合おうじゃないか...な?きっと僕らはいい友達になれるよ?』

 

そうに違いないさうん!彼は説得を試みた。しかし、イカに効果なんざあるわけない。触手を大きく振り回し、彼を意地でも掴みにかかった!

 

「ひっふぇふふぁはぁぁ!!!」

 

迫り来る白影。白い死神の一撃をスレスレで交わし続けながら海面まで急浮上していく。吸盤にあたればその時点でゲームオーバー。足を止めても、捕まれても同じ!

 

上手くイカの足を足場にして加速しようにも、小賢しいごとに吸盤の面を向けて対策して来ている。

 

ふざけるなと叫びそうになる気持ちを必死で抑えて、あともう一歩のところまで彼は手を伸ばした...その刹那。

 

「ふぎゅっ!?」

 

べちんとまぐろが顔面にぶつかり、そのままよろけてしまった。その隙を見逃すことなく、ダイオウイカは彼に向かって触手を伸ばした。

 

「ガッ!?」

 

腹のところに力を入れられると、溜め込んでいた空気を全て吐き出してしまい、途端に呼吸が苦しくなってしまう。

 

このまま引き摺り出されて終わるのかと思いきや、イカは水面から浮上し、その姿を家の前に表した。

 

「ッハァ!これっ、俺助かった...?」

 

ぐしょ濡れの状態で、イカに掴まれながらも生きて池から戻ってきた。でも、このまま降ろしてくれるなんて甘い考えを持つ気にはなれなかった。

 

「まさか、ねぇ...?」

 

触手をイカがゆっくりと回し始める。間違いない、回転力をつけてから俺を地面に叩きつけて殺す気だ。

 

そんなことをされてしまったら、巨大ロボに叩き潰された人間と同じような絵面になってしまう。まだフレッシュトマトに転生する気はないし、そんな予定は一生入れない。

 

だが力でどうにかしようにも、吸盤がひっついて自分からはなれない上に、そのせいで背中に腕を回せなくて剣を取れない。

 

よもやここまで...彼の冒険は終わってしまうのだ。

 

??「そぉ、れっ!」

 

しかし、そんなことが起きることはなかった。

 

先ほどの声の主...基いサメが、イカの目玉の向かって自分の店にある樽を思いっきり投げつけた。

 

目玉に向かって中身の入った樽を思いっきり投げつけられたらたまったものではない。たちまち獲物を放し、イカは池の方へと逃げ帰っていく。

 

「ぐおっ...」

 

??「あっ」

 

全て完璧だっただろう。彼が頭から落ちることさえなければ。

 

首の骨が折れた音を響かせながら、彼は気を失ってしまった。

 

 

 

 

 

??「うーん...どうしようかなぁこの人」

 

??「どうしたんだい?ブループ」

 

困り果てた様子のサメ。ブループに、緑色の鹿が声をかける。ただの鹿というには、少々角が木の枝のようで。

 

ブループ「根夢。実は...さっきこの人が池に飛び込んでね。迷惑をかけに来たのかと思って、事実そうだったのかイカに掴まれてたんだけど...ね」

 

それにしては余りにも変なんだよね。と。別に彼女らを知ってる素振りはなくて、ただ疲れ果てていたかのような足取りや姿が見ればわかるくらいだったし。それに、彼女ら以外の人間が、今やマスコットや別の姿になってしまってるこの世界で、そうでないのに人の姿をしている。誰かを襲うわけでもなく水場に一直線だったし、喉が渇いていたのかも。

 

白黒の髪をした青年は、今も目を閉じている。彼が羽織っている黒いコートや、その下の防刃ベスト。ズボンは傷だらけで、何度も争った痕跡がある。

 

そして...その白銀の意匠のある黒い直剣。まず普通の人間なら持っていないであろうことが分かる程の業物だ。そもそも真剣を持つことがあるのなんて“彼女達”くらいなのに。

 

明らかに彼は訳ありだった。

 

ブループ「でもグラ達に迷惑をかけそうな人なら残しておくわけにはいかないし...」

 

根夢「まだその判断を下すには早いよ。まずは彼が起きてから、話を聞いてからでも遅くないんじゃないかい?」

 

僕たちも、戦えないわけじゃないんだ。と言って。

 

ブループ「それはそうだけど、もし此処が荒らされたら...」

 

??「ま、一旦そこはいいじゃないか。早く家に運んで、まずはソイツをゆっくり寝かせてやろうぜ」

 

ブループ「エルフレンド!」

 

安全第一のヘルメットを被った可愛らしい鳥が、鶴の一声を投げかけた。

 

エルフレンド「ソイツの顔をよく見てみろよ。隈ができてるし、さっきの事があったとは言えかなり青ざめてる。それに、風呂に入る余裕も...傷も治す余裕もなかったみたいだな」

 

足の方に目を向けると、裾から覗いた傷跡が見えて。

 

エルフレンド「クズでもそうじゃなくても、まず死なれたら目覚めが悪いだろ?それに、皆頑張ってるんだ。見知らぬ人を助けるためにさ。俺らがそうしなくちゃどうするんだよ」

 

顔向けできなくなっちまうぜ?なんて言えば、エルフレンドは彼を取り敢えず運ぶ気のようで。

 

エルフレンド「まず消毒ついでに風呂にでも入れようぜ。親切にすれば、人間は心開くもんだしな」

 

ブループ「それもそっか...よし。取り敢えず彼を早く家に運んじゃおう。なるべく皆んなに見られないうちに!」

 

三匹に運ばれながら、青年は家の中に入って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

??『師匠、師匠』

 

師匠...?俺は、そんな奴は知らないぞ。

 

??『もー、寝ぼけてないで起きてくださいよ!師匠!』

 

寝ぼけてなんていない。お前のことを俺は知らない...

 

??『裏路地で『ネズミ』やってた時からの仲じゃないっすかぁ!そんな寂しいこと言わんでくださいよ』

 

...裏路地...?ネズミ...?

 

??『そうっすよ!あ、もしかして忘れちゃったんすか!?』

 

ああ。だから...その話。俺にもっと聞かせてくれないか?

 

??「...しょうがないってすねぇ。私がつま先から頭のてっぺんまで教えてあげますよ」

 

ああ...頼

 

 

 

「む...あ...?」

 

夢から覚め、彼は地面...であろう場所から起き上がる。実際にはベッドで、彼は病院服のような格好で寝かされていた。

 

エルフレンド「お、目が覚めたか」

 

「あ、ああ。鳥が喋ってる?」

 

エルフレンド「ああ、やっぱりそう思うよな...」

 

バツの悪そうな顔で、デフォルメされたような姿の鳥は翼で自分の頭を掻いた。

 

「此処は一体、痛っ」

 

エルフレンド「此処は俺達のホームだな。正確に言えば持ち主はまた別なんだが...まぁ、その前に。首の骨はもう治ったらしいな。でも、頭の傷はまだ言えてないらしいし。無理はしない方がいいぜ」

 

一応包帯とか巻いてるけど、俺らは素人だしな...と、ちょっと申し訳なさそうな顔をしている。

 

「いや、応急処置をしてくれただけでもありがたい。助かったよ」

 

エルフレンド「それほどでも...そんで。アンタ。自分の名前とか言えるか?」

 

「...いいや」

 

俺が誰なのかすらも、どこから来たのかすらもわからない。頭を押さえながら、彼は静かに喋る。

 

記憶があれば教えられるんだがな。なんて彼はちょっとだけ笑って。

 

エルフレンド「そうか...ま、暫くはゆっくりしときな。次第に戻るかもしれないし。今、二人が飯を作ってるんだ。そろそろ」

 

「エルフレンドさーん。ご飯ができましたよー」

 

エルフレンド「お、来た来た!」

 

ドアの向こうから階段を登る音と一緒に声が聞こえて来た。同じ鳥の仲間だろうか?なんて思考を巡らせるが。

 

根夢「あ、起きたんですねー!」

 

ブループ「急に池に飛び込むもんだから心配したよ本当。人の家の池にルパンダイブなんてしないよ?普通」

 

どれだけ喉乾いてたのさ。と、ブループは呆れながら首を横に振った。

 

いや

 

「鳥じゃないのかぁ〜...」

 

三匹「「「?」」」

 

根夢「まぁ、その話は水に流して...ご飯にしましょう」

 

ブループ「今日は僕特製シーフードヌードル!エビたっぷりで元気出るよー」

 

根夢の背中からお盆と一緒に渡されたヌードルは如何にも旨味をたっぷりだと言い出しそうな美味しそうな匂いを放つ。思わず、青年は唾を飲み込み、箸を手に取った。

 

彼は、三匹の方を見ると、薄く微笑んだ。

 

「いただきます」

 

それに感化されたのか、三匹も思わず笑みを綻ばせた。

 

エルフレンド「じゃあ俺らも」

 

根夢「ええ」

 

ブループ「うん」

 

三匹「「「いただきます!」」」

 

一人と三匹で、同じ屋根の元同じ釜の飯を食う。

 

冒険の幕開けには、少々パンチが弱いかもしれないけど、これが彼の壮大な。いや

 

 

彼らの壮大で、美しくも残酷な物語の幕開けだった。




記憶を無くして、ニューゲーム
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