元読み専の初小説、所謂見切り発車で亀の如き更新速度にもなるだろうけど、気合いの限りは頑張っていきたいです。
プロローグ
……私のミスでした。
私の選択……そしてそれによって招かれた、この全ての状況。
結局、この結果に辿り着いて初めて、あなたの方が正しかった事を悟るだなんて……。
今更図々しいですが……お願いします、
きっと私の話は忘れてしまうでしょうが、それでも構いません。
何も思い出せなかったとしても、恐らくあなたは同じ状況で、同じ選択をされるでしょうから。
あの人と、同じ様に……。
ですから……大事なのは経験ではなく、選択。あなたにしか出来ない、選択の数々。
■■先生……あなたはいつしか、責任を負う者について話した事が有りましたね。
あの時の私には分かりませんでしたが……今なら理解できます。
大人としての責任と義務……そしてその延長線上にあった、あなたの選択……それが意味する心延えも。
ですから■◼■■先生、私が信じられる大人であるあの人が……その願いを託す相手として選んだ、あなたになら。
この捻れて歪んだ先の終着点とは、また別の結果を……。
そこへ繋がる選択肢は、きっと見つかる筈です。
だから先生……。
どうか……。
この絆を……。
キヴォトス。
それは数千もの教育機関が集まって出来ている、学園都市の名。
とある言語で方舟を意味するその都市は、まるで同じ名を持つ伝承の後に拡がった世界であるかのように多種多様な種族の生命で溢れており、日夜様々な喧騒もとい
「……。」
そんなキヴォトスの片隅とも呼べるような場所に、1人の少女が居た。
彼女の名は、
アビドス高等学校という教育機関に通う2年生である。
彼女はそれまで趣味を兼ねた買い出しの帰り道の最中であったのだが……その足取りは今、何故だかピタリと止まってしまっている。
だがまぁ、彼女の目の前に拡がっている光景を見れば、それも仕方の無い事であろう。
「……えっと。」
人が、倒れていたのだ。
道の真ん中で、まさしく行き倒れという言葉が当て嵌まるかのように。
キヴォトスでは日夜様々な喧騒もとい
その突然の邂逅に、彼女は思わず呆けてしまっていたのだ。
「っ!いけません、つい固まってしまいました……あの、大丈夫ですか?私の声、聞こえますか?」
が、目の前で人が倒れているという緊急事態なのだ。
はっ、と気を取り戻した彼女はすぐさま倒れているその人物に駆け寄って安否を気遣う。
返事が無い、ただの屍のようだ。
よもや既に緊急事態を通り越してご臨終案件であったかとノノミは一瞬肝を冷やすが……。
「え……?」
ぐうう、と……途端に聞こえてきた音。
それは命有る者誰しもが持つ、ノノミもこれまでの人生の中で幾度も聞いた事の有る音階……包み隠さず言えば、空腹音であって。
「お……。」
同時に、それまで反応を示さなかった目の前の人物が動き出した。
何やらか細い声を発しながら、ゆっくりと顔を上げた先。
そのどこか幼げながらも端正な顔立ちから発せられた台詞は……。
「お腹空いた……。」
「お、お腹が空いてらっしゃるんですか?」
「うん……何か、食べ物を……。」
どうやら目の前の人物が陥っていた緊急事態とは、空腹による栄養不足が原因のようで。
行き倒れという言葉が当て嵌まる様だとは思っていたが、まさか本当にその通りだったとは。
「えっと、どうしましょう……お菓子ぐらいしか有りませんが、それでも……。」
しかしそれはそれで困ったものである。
空腹による助けを求められても、今手元にはまともに栄養が取れる食物が無い。
お菓子の類いなら買い物袋の中に有るが、それで行き倒れるまでに陥っていた者の体調を回復させられるかと言われれば……。
「お菓子⁉」
「ひゃあ⁉」
しかしそんな彼女の心配は杞憂だとでも言うように、倒れていた人物はお菓子という単語を聞くやそれまでの弱々しさを一転させ、がばりと起き上がる。
その勢いに驚いたノノミが尻餅を付き、持っていた袋を拍子に手放してしまう。
中には沢山の……お菓子。
「お菓子だぁ……ごめんなさい、俺もう本当に我慢出来なくて……いただきます!」
それを前にした行き倒れの人物は分かりやすく目を輝かせ、そしてとうとう返事も聞かずに目の前のお菓子に手を出し始めた。
「美味しい~~~!やっぱりグミって最高!あ、ポテトチップスにマシュマロも有る!チョコに……キャンディも!」
「え、あの……⁉」
ぱくぱく、もぐもぐ、あれよあれよと。
気付けば袋の中にあったお菓子の類いは、全てその人物の胃袋の中へ所在を移していた。
「ふぅ~美味しかったぁ……ごちそうさまでした!」
「す、凄いですね……全部食べちゃいましたか……。」
「あっ!ごめんなさい!どうしてもお腹が空いてて……!」
「いえ、大丈夫ですよ。それよりも、お元気になられたみたいで良かったです。」
袋の中にあったお菓子を全て平らげ、幸せそうな表情を浮かべる人物。
その様子を見ていると、本当にお菓子が好きなんだろうなという率直な感想を持つと同時に、果たしてお菓子を食べただけでここまで回復するものであろうかという少しの疑問と、そんな疑問を上回る彼の心優しき人柄が垣間見えた気がした。
「本当にありがとうございます、お陰で助かりました……あ、俺ショウマって言います。良ければあなたのお名前を聞かせてもらっても良いですか?」
「はい、十六夜 ノノミと言います。この近くのアビドス高等学校という学校の生徒なんですけど、ご存知ですかね?」
「アビドス高等学校?知らない学校の名前だ……っていうか、学生さんだったんだ。」
「はい。それにしても、こんな所で倒れてしまわれていたなんて……大丈夫ですか?どこかに向かわれている最中で迷ってしまわれたとかですかね?」
「あ、えっと……。」
それ故に、学校の名を聞いても知らないと言った行き倒れの人物……ショウマの発言を、ノノミはこの場では大して気に止めなかった。
アビドス高等学校の名はキヴォトスに於いてそれなりに有名な筈なのだが、それよりもノノミは軽く言い淀む様子を見せたショウマの次の発言の方が気になったのだ。
「信じてもらえるかどうか分からないけど、実はこの辺りがどこなのかも分かってなくて……ねぇ、この辺りって
「なぎはまし、ですか?うーん、ちょっと聞いた事が無いですね……。」
「そっか……どうしよう、電話も繋がらないし、何とか帰る方法を見つけないと……。」
そして話を聞いてみれば、今度はノノミの方が知らないと首を傾げる番であった。
なぎはまし……地名であるのは間違いなさそうだが、アビドス周辺でそのような地名を聞いた事は無い。
何となくここから遠い地区たる百鬼夜行に有りそうな名前だとは思ったが、それを口に出すのは止めた。
直感ではあるが、恐らくそれも的外れの考察になりそうな気がしたのだ。
「でしたら、一度私達の学校に来てみませんか?もしかしたら他の皆なら何か知ってるかもしれません。」
「君の通ってる学校に……良いの?」
「はい!お客さんはいつでも大歓迎ですから!」
だから、興味が湧いた。
その地が何を示すのか、そこに何が有るのか。
そしてこの人物……ショウマの事が。
「分かったよ、それじゃあよろしくね。」
ショウマとしてもその申し出を断る理由は全く無く、かくして2人はアビドス高校へ向かう事に。
これが、後にこのキヴォトスに於いて先生と呼ばれ、慕われ、そして世界の運命を変える事になる彼……ショウマの第一歩であった。