キヴォトスに来たおカシな先生   作:ナリカオル

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第10話「三度、戦場へ」

「さて、どれにしましょうか……いざ選ぶとなると結構迷いますね……。」

「話を聞いた限りでは、ショウマさんは銃を撃った経験があまり無さそうでしたので、ここは初心者でも扱いやすい物を選ぶべきかと。」

「となればやっぱりコレ系じゃなーい?ハンドガンで、開発会社は……。」

「はいはい、ベレッタ社って言いたいんでしょ?ほんとホシノ先輩に任せると全部ベレッタになるんだから……。」

「良いじゃんベレッタ!安くて使いやすいしー、セリカちゃんだって副兵装(サイドアーム)はおじさんがあげたやつずっと使ってくれてるじゃーん!」

「そ、それはその……ハンドガンは詳しくないから!仕方無く使ってるだけ!」

 

 ショウマがリンに連れられ連邦生徒会の本部(サンクトゥムタワー)まで赴いていた頃、アビドスの少女達も同じ様に少し遠出をしていた。

 その目的は、今朝話題に上げていたショウマの護身用の銃器を選定する為……と言っても、こういう時は大抵ホシノが謎のベレッタ推しを発揮して押し通す為、そこまで迷うなんて事にはならないのだが。

 

「それにしても、ショウマさんに銃をプレゼントですか……。」

「ん?どうかした、ノノミちゃん?」

 

 なので今回も同じ様にそれで決まりか……となった時、ふとノノミが物憂げな様子を見せた。

 彼女は基本的に場の空気に合わせるタイプなので、真剣な時はちゃんと真剣に身を構えるし、気楽な時は思いきり気楽に振る舞っている。

 そして今はどちらかと言えば気楽な時の筈なので、彼女がこうしてその場の空気と相反する様子を見せるのは実に珍しい事だ。

 

「もしかして、ノノミ先輩はショウマさんに銃をお渡しするのは反対ですか?」

 

 しかしその理由については、概ね察する事が出来る。

 そして実際に聞いてみれば、彼女は言葉にはせず伏し目がちな態度を返した。

 

「まぁ……優しいもんね、ショウマさんは。」

「でもその優しさですぐ危ない事に首突っ込もうとするんだから……気休めでも持たせておかないと、私達の肝がいつまでも冷えっぱなしよ。」

 

 渡したとて、きっと彼は使わない。

 帰れるのならばすぐにでも帰ると言っていた程でもあるし、そもそも渡す事に意味も無いのかもしれない。

 しかしそれがいつになるかはまだ分からないし、仮に使わなかったとしてもそれはそれで構わない。

 使わないに越した事は無いし、それならば予備として保管するまで。

 むしろ志し半ばでなんて事態を避ける為にも、やはり銃は持たせた方が良い……ノノミの気を害する事になってしまうかもしれないが、彼女以外の3人の意見はそう一致していた。

 しかしノノミが考えていた事は、実は彼女達のそれとは少し違っていたのだ。

 

「(先生、ですか……。)」

 

 手近にあったベレッタ社製の拳銃を手に取る。

 それはセリカと同様過去にホシノが選んでくれ、副兵装(サイドアーム)として今もカーディガンの裏に隠し持っているのと同じ型の物だ。

 故にその重さは手に馴染んでいる筈だというのに、今は何故だか少し重く感じる。

 

「(ショウマさん……あなたは、どうされるおつもりですか?)」

 

 これを渡そうとする事そのものが、彼を縛る事になる。

 ノノミの中では、そんな予感が密かに渦巻いていたのだった……。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「先生……あちらの方が?」

「あの噂になっていた……?」

 

 学園都市キヴォトスで起きている数々の問題……それらを解決出来る唯一の方法を謎の人物(ショウマ)が握っているという事で、集まっていた少女達の間に僅かな衝撃が走る。

 しかもその人物が、いつからか噂になっていた先生だというのであれば尚更だ。

 

「えっと……初めまして、井上 ショウマです。先生……なのかはちょっとまだ分かんないけど……。」

「……と、仰っていますが?」

「そう言われましても……今申し上げた通り、この方は間違い無く連邦生徒会長が指名した先生です。」

「行方不明になった連邦生徒会長が、こんなよく分からない人を直々に指名?ますますこんがらがってきたじゃないの……。」

 

 このキヴォトスに於いて先生という役職は先にも説明した通り大変珍しいが故に皆興味を持ってショウマの事を見るも、その本人が曖昧な態度を示したものだから、どういう事かと少女達は首を傾げる。

 

「続けますと、先生は元々連邦生徒会長が立ち上げた、ある部活の担当顧問としてこちらに来る事になりました。連邦捜査部S.C.H.A.L.E(シャーレ)……単なる部活動ではなく、一種の超法規的機関。連邦組織の為、キヴォトスに存在する全ての学園の生徒達を際限無く加入させる事も可能で、各学園の自治区で制約無しに戦闘活動を行う事も可能です。」

「はい?ちょっと待ちなさい!何よそれ……横暴が過ぎるんじゃない!?」

「全ての学園の生徒を加入させる事が可能で、さらに戦闘は各学園の自治区内で制約無しに行っても良い……連邦組織の為に、ですか。」

「連邦生徒会は全ての学園を自分達の手中へ収めようとでもお考えなのですか?」

「何だと!?つまり連邦生徒会は、淘汰されるべき悪という事なのか……!」

 

 さらにそこから語られた内容がまた常軌を逸したものであった事から、集まった生徒等から大きな困声が上がる。

 しかし流石にそれに関してはリンも思う所があるらしく、「何故これだけの権限を持つ機関を連邦生徒会長が作ったのかは分かりませんが……。」と素直に疑問を口にするも、今は詮索をしている場合では無いとして話を強行する。

 

S.C.H.A.L.E(シャーレ)の部室はここから30㎞程離れた外部地区に在ります。今は殆ど何も無い建物ですが……連邦生徒会長の命令で、ある物をその建物内へ持ち込んでいます。そこへ先生をお連れしなければなりません……時間も惜しい事ですし、最短距離で行きましょう。モモカ、S.C.H.A.L.E(シャーレ)の部室に直行するヘリが必要なんだけど……。」

 

 ユウカやハスミ、チナツにミノリといった面々の抗議の声を無視しながら、どこかへ電話を掛けるリン。

 そんな電話口から返ってきたのは、彼女にとって非常に良くない報せであった。

 

S.C.H.A.L.E(シャーレ)の部室?……あぁ、外部地区の?良いけど……あそこ今大騒ぎになってるよ?』

「大騒ぎ……?」

『矯正局を脱走した停学中の生徒が起こしたの……そこは今、戦場になってるよ。』

「戦場……!?」

 

 自身と同じく連邦生徒会に所属している由良木(ゆらき) モモカから知らされたのは、何とこれから向かおうとしている場所で荒事が起きているという事実。

 一体何故こんなタイミングで……とリンが訝しんでいると、モモカがより詳しい状況を伝えてくれる。

 

『連邦生徒会への日頃の恨みなのか、地元の不良達が辺りを焼け野原にして回ってるみたいなの。巡航戦車までどっかから手に入れてきたみたいよ?それでどうやら連邦生徒会が所有してるS.C.H.A.L.E(シャーレ)の建物を占拠しようとしてるらしいの……まるでそこに何か大事なものでもあるみたいな動きだけど?』

 

 情報漏洩、そんな言葉がリンの脳裏を過る。

 今回の一件は極秘事項として連邦生徒会内で箝口令が為されていた筈なのだが……。

 

『まぁでも、もうとっくに滅茶苦茶な場所なんだから別に大した事な……あ、お昼ご飯のデリバリーがやっと来た!ごめん先輩、また連絡するね!』

 

 成る程、アオイが言っていたのはこの事かと、リンは勝手に切られてしまった通話を前に少しだけ気を憤する時間を置いた後、通信先を別の人物へと変える。

 

『はい、防衛室です。すみませんが、今は少々立て込んでおりまして……。』

「防衛室長、お疲れ様です。」

『ああ、首席行政官。お疲れ様です……さて、こうしてあなたが連絡を入れてきたという事は……。』

「はい。簡単にですが、モモカから状況を聞きました。」

『やはりそうでしたか……すみません、あなたが戻ってくる前に事を治めようとはしたのですが……。』

「いえ、構いません。詳しい状況を聞かせて貰っても良いですか?」』

 

 次に彼女が連絡を取ったのは、連邦生徒会の防衛室……そこの室長を務める不知火(しらぬい) カヤだ。

 キヴォトス全域の治安維持に従事する防衛室……その長であるカヤは、現状があまり思わしくない事を示唆するように、通信越しでも分かる嘆息を1つ吐いた。

 

『先日まで矯正局に収容されていた七囚人の1人、狐坂(こさか) ワカモが付近の不良集団を引き連れ、連邦捜査部S.C.H.A.L.E(シャーレ)の部室が在る建物を占領しようとする動きを見せました……1時間程前の話ですね。こちらもヴァルキューレの生徒を向かわせて対応したのですが……残念な事に、全員が返り討ちに遭いました。』

「よりによってあのワカモですか……前に彼女を拘束した時は確か……。」

『特殊な訓練を積んだ生徒による、対彼女のみを前提とした作戦を展開しました。ですが今その生徒達は別件でD.U.を離れていまして……呼び戻すというのもかなり難しいかと。』

 

 七囚人……それはかつて連邦生徒会の手によって捕縛された凶悪犯罪人、その中から連邦生徒会長の失踪に乗じて脱獄を果たした7人の囚人の事を指す。

 1人1人が常軌を逸した実力を持っており、今回の主犯たるワカモもその例外に非ず……破壊や略奪といった犯罪行為を何度も繰り返してきた彼女が相手では、幾らキヴォトスの警備事業の主担たる組織、ヴァルキューレ警察学校の生徒達であっても敵わない。

 

「分かりました、あとはこちらで対処します。周辺の住民の安全確保だけお願いしますね。」

『おや、彼女に勝てる算段がお有りで?』

「大丈夫です、ちょうど今ここに各学園を代表する方々が居らっしゃっているので。」

『……なら任せましょう、何か有ればご連絡を。出来る限りのサポートは致しますから。』

 

 大丈夫とは言ったが、正直見込みは薄い。

 ここに集まっているメンバーも相応の実力者達であるのは間違いないが、彼女(ワカモ)に勝てるかどうかと言われれば全く分からない……が、やるしかない。

 たとえ犠牲を払う事になったとしても、ショウマをS.C.H.A.L.E(シャーレ)へ連れていく事には、それだけの意味が有るのだから。

 

「聞いた通りです。キヴォトスの正常化の為に、今は1人でも多くの力が必要な状況です……行きましょう。」

「ちょ、ちょっと待って!?勝手に巻き込まないでよ!?」

 

 カヤとの通信を切って足早に歩き出すリンに、通信越しでの会話なのだから自分達が聞ける訳が無いと文句を垂れるユウカと他の生徒達。

 そしてその後を、ショウマも黙って付いていく。

 その振る舞いを通して、彼女達のこれまでやこれからの苦労や災難を予想し、共感した事で、険しげな表情を浮かべながら。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「そ・れ・で!?何で私達があんな不良達と戦わないといけないの!?」

「サンクトゥムタワーの制御権を取り戻す為には、S.C.H.A.L.E(シャーレ)の部室の奪還が必要らしいですから……。」

「それは聞いたけど!私これでもうちの学校では生徒会に所属しててそれなりの扱いなんだけど!?何で私が……って、痛っ!?痛いってば!!あいつら違法JHP弾を使ってるじゃない!?」

「何の!!これぐらい、レッドウィンターでは……!!」

「伏せてください2人共、それにホローポイント弾は違法指定されていません。」

「うちの学校ではこれから違法になるの!傷跡が残るでしょ!?」」

 

 相手が一方的に通信を切ってしまった為にヘリの手配が出来なかったとして、代わりに用意された厳つい車……つまりは軍用車両に乗り、目的の場所まで向かっていた一同。

 だが暫くして、突然の衝撃と共に車が横転……さらには幾重もの鉛弾が同時に襲い掛かってきた。

 どうやら、予想以上に敵の陣地が拡がっていたらしい。

 

「今はあの人……先生も一緒ですので、その点に気を付けましょう。建物の奪還はその後です。」

「ハスミさんの言う通りです。話によれば、あの方はキヴォトスではない所から来た方……見た所ヘイローも無いようですし、私達とは違って銃弾1つでも当たれば生命の危機に晒される可能性が有ります。」

「あーもう!分かってるわよ!良いですか先生!貴方は絶対に前に出て来ないでくださいね!?私達が戦ってる間はその車の影に居てください!リン代行、先生の事を頼みますよ!」

 

 MPXと呼ばれるサブマシンガンを改造した専用銃、ロジック&リーズン……それらを携え、単騎で敵と渡り合っている様からは、ユウカが確かな実力の持ち主であるという事を見る者に知らしめる。

 そんな彼女の活躍に合わせ、それまで防戦に徹していたハスミやチナツ、スズミにミノリも前へと出始める。

 しかし不良生徒等の奇襲によって同行していた生徒の殆どが戦闘不能に陥り、まともに戦えるのは今やあの5人だけ。

 この戦力でこの先待ち受けている脅威を相手にするとなると……。

 

「これは……想像以上に厳しい戦いになりそうですね……。」

 

 最悪はやはり自身と彼だけでもS.C.H.A.L.E(シャーレ)へ向かう事を視野に入れなくてはと、リンは戦場へ向けていた視線をショウマへ移す。

 

「また……こんな……。」

 

 険しげな表情は、タワーから出た時と変わらず。

 しかしその眼差しはどこか哀しく憂いを帯びて戦場を見つめている……リンの目には、そんな風に写ったのだった。




 ホシノのベレッタ推しに関しては、以前見かけた「臨戦ホシノの持つ拳銃は、元は彼女の先輩が使用していた物だったのでは」説に感銘を受けた故のものです。
 決して公式の設定では無いのであしからず。
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