キヴォトスに来たおカシな先生   作:ナリカオル

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第11話「やるべき事、やらざるを得ない事」

「今ので最後!?」

「そうですね、ここ一帯の掃討は完了しました……もう大丈夫ですよ先生、出て来られても。」

 

 キヴォトスに於ける常。

 それは鉛弾が飛び交い、人と人が争い合っているという現実。

 

「……凄いんだね、皆。」

「当たり前です。私は自分の学校で生徒会もやってるんですから、これぐらいじゃ相手にもなりません。」

 

 凄いという、感嘆としたような台詞を言ったものの、ショウマの胸中を支配していたのは大きな困惑だ。

 このような現実へ放り込まれてしまった事、その現実に適応している者が居る事。

 そして……その適応している者というのが、まだ年端も行かない少女達であるという事。

 

「そう言いながら、一番多く被弾していたのは貴女でしたけどね。」

「今も肩で息をしてらっしゃいますし、無理は禁物ですよ。」

「そうだ、建設現場も戦場も安全第一だ。お前はもう少し自分の身を労ってだな……。」

「い、言われなくても分かってるわよ!ちゃんと計算通りだし!」

 

 静まった戦場……その跡地を見てみれば、少女達によって倒された無数の敵が地に伏している。

 死んではいない、皆気絶しているだけ……アビドスで見たのと同じ、精々が先のユウカのように傷跡の心配だけで済んで、それで終わってしまうのだろう。

 だが、それでも……。

 

「さぁ、そろそろ行きましょう。先はまだ長いのですから。」

 

 このキヴォトスという場所へ来てまだそこまで時は経っていないが、それでもショウマの中に着々と積もっていく何かがあり、彼はひとまずの荒事が終わった後でも、少女達のように晴れた表情を浮かべる事が出来なかった……。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「……あらら、連邦生徒会はまだ来ていないみたいですね?」

 

 ショウマ達が連邦捜査部S.C.H.A.L.E(シャーレ)の部室を目指している中、その付近にて妖しげな雰囲気を纏う少女の姿が在った。

 

「まぁ構いません……あの建物に何が有るかは存じませんが、連邦生徒会が大事にしてるものと聞いてしまうと、壊さないと気が済みませんね……。」

 

 和服のように改造されている花柄の黒い制服と、頭上に浮かぶ椿の花のような(ヘイロー)から、彼女もキヴォトスの生徒の1人である事が分かるが、彼女がどのような顔立ちをしているのか、今どのような表情を浮かべているのかは、付けている狐の面によって窺い知る事は出来ない。

 

「あぁ……久し振りのお楽しみになりそうです……♡」

 

 それでも彼女から何か危険な香りがするという事は、誰の目から見ても明らかな事であった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「よし、建物の入り口まで到着!」

 

 連邦捜査部S.C.H.A.L.E(シャーレ)のオフィスまで向かうショウマ達一同。

 現状の戦力がたったの5人だけという事で、この先に待つ七囚人の1人を相手にするにはと危ぶまれもしたが、意外にもそのような人物と出会す事無く、一同は目的の建物が在る場所まで到着した。

 白い外観をした清廉さを感じさせる、少々不思議な構造をした高層ビル……このビルの中にS.C.H.A.L.E(シャーレ)なるもののオフィスが在るとの事なのだが、果たしてリンはここで何をさせるつもりなのだろうか?

 

「うん?この音は……?」

 

 と、ここでユウカが何か不審な物音を聞いたらしく、怪訝な表情を浮かべる。

 その正体を探るべくショウマも耳を済ませてみるが、それよりも前に彼は僅かに足元が揺れている事に気付いた。

 決して自身の身体が震えている訳では無い……地面そのものが徐々に揺れ始めていたのだ。

 地震だろうかとショウマは訝しむが、それは予想外の答えで以て否定される。

 

「気を付けてください、巡航戦車です……!」

 

 チナツが苦虫を噛み潰したような顔でそう言うと、付近の横路から巨大な鉄の塊がショウマ達の前へ飛び出てきた。

 角にあった建物の壁を壊しながら現れたその物体……履帯 (キャタピラ)からけたたましい音を鳴らし、迷彩柄の車体の上部に付属している40㎜の主砲が厳つい印象を与えるそれは、確かに戦車と呼ばれる車両であった。

 

「クルセイダー1型……私達の学園(トリニティ総合学園)の制式戦車と同じ型です!」

「不正に流通されたものに違いないわ!PMCに流れたのを不良達が買い入れたのかも!」

 

 会話の節々でその存在は示唆されていたが、まさか本当に目の前に現れるとは……それも博物館の展示品等では無く、実際に動き、そして明確な殺意を持った存在として。

 ショウマも実物を目にするのは初めてであり、その無機質かつ武骨な重圧に気圧されていると、戦車の砲身がゆっくりとショウマ達へ向けられ始める。

 まずい……彼等は付近の路地裏へ逃れる為に咄嗟にその場から駆け出した。

 ユウカ、ハスミ、スズミ、チナツ、ミノリ、ショウマと続き、最後にリンが避難した所で戦車が発砲……彼等の背後で大きな爆発が起き、着弾した場所にあった全ての物を瓦礫へと変える。

 何と恐ろしい事か……ショウマ達は戦車の、そして戦車と共に姿を現した追手の追撃から逃れるべく、全速力で裏路地を駆け抜けていく。

 

「フフ、連邦生徒会の子犬達が現れましたか。お可愛らしい事……。」

 

 そんな彼等の様子を、付近のビルの屋上から窺う者の姿が在った。

 それは狐の面を被ったあの生徒……ワカモであり、彼女は戦車や追手の人員から必死に逃げる一行を見てクスリと笑う。

 ここから狙撃して一行を倒す事は簡単だろうが……今はそれ以上にやらなくてはいけない事がある。

 

「あちらに気を取られている間に……ちょっと失礼しますね?」

 

 フフフフ♡と声に出して笑いながら、ワカモは驚異的な身体能力でビルから飛び降り、目の前の建物の中を目指していく。

 そう、S.C.H.A.L.E(シャーレ)のオフィスが在るビルの中へと……。

 

「あんなの相手に勝てるの……!?」

「弾当て続けてればその内には!」

 

 その事実をまだ知らないショウマ達は、追手からの追撃を振り切りながらもどうにか戦車の背後を取る事に成功した。

 今は裏路地から反撃の機会を窺っている所だが、まさかの根性論を即座に掲示した辺り、どうやら少女達にも具体的な作戦は無い様子である。

 

「ですが、効率が悪い方法なのは確かです。弾薬も持つかどうか……。」

「じゃあどうするっていうの!?」

「私が対戦車貫通弾を持っています。それを使えば……。」

「ならさっさとそれを撃ちなさいよ!」

 

 唯一ハスミが戦車にも効果的な弾丸を所持しているとの事らしいが、それさえも一抹の問題が有るとして、その弾丸をショウマ達に見せる。

 

「1発しかありません、確実に当てなければ……。」

 

 つまり狙いを定める為の盛大な隙が欲しいという事らしい。

 しかし敵の布陣は一行がどこから出てきても対応出来るようになっており、警戒の色も強い。

 

「この布陣を欺くのは無理が有りますね……!」

「全方位警戒されている!隙を作るのは難しいぞ!?」

 

 隠れていられるのも時間の問題、しかし光明はたったの一筋のみ。

 どうするべきかと皆途方に暮れていると……。

 

「何か作戦を立てる必要が有りますね……先生、お願い出来ますか?」

「え……?」

 

 今何と言った?

 作戦を立てる?誰が?

 ……自分が?

 

「あなたは連邦生徒会長に選ばれた方……そしてキヴォトスの先生ともなれば、作戦の立案や展開も可能である筈です。」

「ちょ、ちょっと待って!?作戦を立てるなんて……そんなのやった事無いよ!?」

 

 思いもよらないとはこの事か……まさか、この状況を打開する為の作戦を立てろなどと。

 選ばれたのだから出来る筈だとリンは言ったが、自分にそのような知識や経験なんて全く無い。

 そういう事ならむしろそちらの方が理解が有るだろうと、ショウマは理不尽にも近いその責から降りようとするが……。

 

「あなたにも事情が有る事は重々承知です……ですが、あなたしか居ないんです。この状況を開き、私達生徒を導けるのは。」

 

 私は、あなたを選んだ連邦生徒会長の采配を信じます……と。

 ここに居る全員が窮地を脱するには、ショウマが先生としての務めを果たさなくてはならないのだと。

 無茶苦茶だと言いたかった……しかし周りを見てみれば、確かにリンの言う通り少女達は今なお打開の為の策を講じれていない様子である。

 むしろ今までの会話を聞いて、皆どこか期待を寄せる眼差しをこちらへ向けてきていた。

 

「……分かった、やってみる。」

「ありがとうございます……まずはここに居る生徒の皆さんのデータを纏めます。それを見て、作戦の立案を行ってください。」

 

 やると言うしかなかった。

 半ば強制的に、突然重い責任を背負わされたショウマ。

 手持ちの端末の上になぞられるリンの指先を見ながら、彼はますますその表情を険しくさせるしかなかった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「それでは、作戦を開始します。各々のタイミングは先生の合図に一任しますね。」

「うん……。」

 

 作戦が決まった。

 その内容に則り各々が配置へと就く中、ショウマとリンは作戦領域外となる場所から状況を観察するべく待機をしていた。

 2人の纏う空気は張り詰まっている……特にショウマは作戦を練っている時からずっと険しい表情のままだ。

 これから起きる事を踏まえて緊張しているのが主な理由ではあるのだろうが、やはり経験が無いという言葉を無視してしまった事を根に持っているのだろうか。

 

「……不安ですか?」

 

 無論それも有る……だが今の彼の胸中を占めているのは、それ以上に作戦の成否についてであった。

 素人が考えた作戦……幾ら生徒達の知恵も借りたとはいえ、それでもその域を出ていないような戦略が、果たしてこの世界で常に銃を手に取り戦っている者達に通用するのか?

 そしてもしそれが通用しなかったら、作戦に参加してくれているあの子達は……。

 

「大丈夫です、生徒達は皆あなたの立てた作戦を信用しています。全力で応えてくれる事でしょう……何も心配は要りません。」

 

 正直に言えば、今のリンの言葉はあまり気休めにならない……だが信じるしかないのもまた事実。

 覚悟を決めたショウマは一度深呼吸を行った後、予め渡されていたインカムを使って生徒達と通信を繋ぐ。

 

「……それじゃ皆、準備は良い?」

『はい、こちらは大丈夫です。ですが先生、作戦の初動は先生が行うと言っていましたが、その具体的な方法を伝えられていません。一体どうされるのですか?』

 

 ユウカ、ハスミ、スズミ、チナツ、ミノリ……作戦を担う5人の生徒達に連絡を取る。

 と、ここでユウカから1つ懸念が有ると指摘が。

 作戦に於ける全体の流れは全員でよく確認をしたが、ユウカが指摘をしたその部分だけは、ショウマが担当するの一点張りであったからだ。

 作戦の初動は全方位を警戒している敵の注意を逸らすのが目的。

 しかしこれまでの様子からして、彼には戦う術が無い事が判明している。

 それなのに、一体どんな手を使うというのか……。

 

「大丈夫、見てれば分かるよ。」

 

 作戦立案の時にも押し通された言葉を再度耳にされ、ユウカだけでなく他の生徒も怪訝に眉を潜める。

 何せ今回の作戦に於いて一番重要とも言えるのが、その初動の部分なのだから。

 

 

 

 

 

─今回の作戦、目的は至ってシンプルです。敵戦車を破壊し、残党を排除する……問題はその過程です。生半可な方法では相手の注意を引く事が出来ず、ハスミさんの狙撃の隙を作れなくなるでしょう……どうやって相手の気を引き付けるか、それが今回の作戦の鍵です。

 

 あらぬ場所で銃声を鳴らしたり、誰かが囮になったり、方法自体は少女達の間でも幾つか上がってはいた。

 しかしそれらはどれも定石が過ぎる方法……七囚人の1人が率い、連邦生徒会の施設へ襲撃を仕掛ける程の胆力を持つ相手では、それらの効果はあまり期待出来ない。

 

─……なら、それは俺がやるよ。方法なら有るから。

 

 求められているは、既存の方法とは違う手段……それを、この人(ショウマ)は持っているというのか?

 その答えは、これからすぐに明かされる事となる。

 

 

 

 

 

「ん?何だこれ……?」

「玩具か?」

 

 ショウマ達の出方を窺っている不良集団。

 そんな中、ふと足下から小さく喚き声のようなものが聞こえてきた。

 何かと思い見てみれば、そこには色取り取りの四角い物体の数々が……そう、ゴチゾウ達だ。

 少女達が取れる方法では効果が期待出来ない……ならショウマだけが取れる方法ならば?

 よく考えればこの戦場に於いてそのような物体が突然足下に現れるというシチュエーションは敵が仕掛けてきた兆候であると感付いてもおかしくは無いのだが、あまりに奇抜で例外な方法であったからだろう……ある者はその可愛らしい見た目から素直に心を許し、またある者は出来の良い玩具にしても奇妙であると訝しみ、兎にも角にも歩兵に中る不良達は皆してゴチゾウ達に気を取られた。 

 

「よし……ミノリちゃん、お願い。」

『ああ、任せてくれ!』

 

 今がチャンス……ショウマの指示の下、まずはミノリが行動を始める。

 彼女は愛銃である鋼鉄の松明と肩を並べる愛用品であるメガホンを手に取り、すぅ……と大きく息を吸うと……。

 

「おぉーい!!こっちだぁー!!」

 

 そこからとんでもない声量の大声を発したのだ。

 

 

 

 

 

─では、先生の言うその方法であれば、敵の目を引き付ける事が可能であると?

─うん……でも正直、それで引き付けられるのはほんの少しの間だけだと思う。そこから先をどうしようか……。

 

 己が作戦の初動を担う……そうは言ったものの、実際に出来るのは精々が一瞬の隙を作る事だけ。

 結局の所それを足掛かりに別の方法を取らなければならないとして、ショウマは自身の力不足に申し訳無く肩を落とす。

 しかし当時のミノリは、それを全く問題無い事だと笑い飛ばしたのだ。

 

─更なる陽動が必要という訳か……なら、それはあたしに任せてくれないか?あたしの一声で、奴等の注意を余す事無く引き付けよう!

 

 元より最初の囮は、自らが引き受けるつもりであったのだから。

 

 

 

 

 

「さぁどうした!!ご自慢の戦車に頼らなければあたしを見つける事さえ出来ないか!!節穴な連中め!!」

 

 安守 ミノリ……趣味は工作にストライキ、そしてデモ活動。

 特技はそのデモ活動で培われた発声と弁舌だ……人の視線を一点に集める事には誰よりも長けている。

 

「居たぞ!あそこだ!」

「馬鹿にして……!」

 

 真正面の物陰、不良集団がミノリの存在に気付く。

 だがまだだ……ゴチゾウ達に気を取られ、完全に油断していた所に大声を入れられ動揺し、そこから挑発を受けて頭に血が昇り、揃ってミノリへ注意と銃口が向けられた……今。

 

「ユウカちゃん!スズミちゃん!」

『『はい!』』

 

 ショウマの指示が再び飛ぶ。

 次に動いたのは、ユウカとスズミの2人であった。

 

「ま、まずい!!横からだ!!」

「遅いわよ!」

 

 側面の裏路地からの襲撃……ミノリにばかり気を取られていた不良集団は、その態勢を立て直す前にユウカのロジック&リーズン、スズミのアサルトライフル、セーフティー……そしてミノリの鋼鉄の灯火により1人、また1人と制圧されていく。

 だが不良達もやられてばかりではない……影でゴチゾウ達が巻き添えを喰らわないよう必死に逃げ惑っている中、現に戦車が3人の内の誰かを狙うべく動きを見せていた。

 

「来た……スズミさん!」

 

 しかしそれは見越した動き。

 誰を狙おうとも関係無いと、ユウカはスズミへ合図を出す。

 そうしてスズミが新たに手にしたのは、何やらガラス製の電球のような形をした物であった。

 

 

 

 

 

─閃光弾?

─はい。名前の通り起爆すると強い光と音を発し、一時的に相手の視覚と聴覚を奪います。殆ど殺傷力の無い兵器なので、簡単な暴動鎮圧にはうってつけの装備です。上手く使えば大いに有効な手段となるでしょうが、敵側には戦車が居ます。対人向けに調整されているこれらの閃光弾では、戦車相手には極めて効果が低いです。

─過去には戦車にも効くような物も有ったって聞いたけどね……戦車の技術も進化して、歩兵じゃ立ち向かう事すらままならないって事で、そっちの道は敢えなく閉ざされたって話です。現代の戦車に通用するのかは分からないけど、当時品が有れば或いは……なんて、幾ら何でも流石に持ってないわよね?

 

 作戦の考案を進める中、各々のデータを参照していたショウマの目に留まった、閃光弾という文字。

 正確には閃光手榴弾(スタングレネードorフラッシュバン)と呼ばれるそれは、事態を切り開く光明になり得る代物であった。

 だが一番の脅威たる戦車に対してはどうやら専用の物を使わなければならず、それも既に廃れた品で市場にも殆ど流通していない事から、そちらに関しては期待が出来ないと思われた。

 

─……一応、持っていますが。

─有るの!?何で!?

─それは……。

 

 が、スズミがおもむろに取り出した物こそ、その対戦車用兵器、BK-2H(Bledkorper 2H)……を模して作られた代物であって。

 しかしそれは今しがた語られた通り元々相当古い時代の物……手製とはいえ、そんな物をわざわざ持ち歩いているとは、物好きという言葉だけでは少々片付けきれない。

 余計と言われればそうなのだが、つい好奇心から追及をしてしまうユウカ。

 それに対してスズミは一瞬ハスミへ視線を向けた後、何故かばつが悪そうに目を伏せてしまう……彼女に何か関係が有るのだろうか?

 

─スズミさんの所属している自警団と、私が所属している正義実現委員会は、活動方針の違いで稀に衝突する事が有ります。そして先程も言った通り、正義実現委員会は戦車(クルセイダー1型)を保有戦力として正式に採用していますから……。

 

 その答えは、トリニティ総合学園内部の組織間の問題であった。

 正義実現委員会とは、簡単に言えば他校に於ける風紀委員会……当然トリニティ内での治安活動は彼女達が主に請け負っている。

 しかしトリニティは広大な土地かつ様々な事情が他の学校以上に複雑に絡まり合っている為、どうしてもその活動に穴が生じてしまう時が有る。

 自警団はその穴から生じる被害を見かねて結成された組織なのだが、如何せん有志が集まっただけの非公認の組織である為、時と場合によっては同じ治安維持を目的としながら、正義実現委員会の執行対象に選ばれてしまう事が有るらしい。

 その際正義実現委員会は保有している戦車を導入してくる可能性が有る……であればスズミがそのような物を所持している理由は自ずと分かる。

 

─……すみません。

─いえ、むしろ評価すべきだと思います。あらゆる事態を想定し、対応する装備を持ち込む……基本中の基本ですから。それに、今はそのお陰で状況を打開出来る道筋が見えましたからね。

 

 だが今はこれ以上その話に時間を割く訳にはいかない。

 今優先すべきは、この状況の打破だ。

 

 

 

 

 

「行きます!」

 

 スズミの手製品が戦車の目前へ投げ込まれる。

 BK-2H……和名にして2H型閃光煙幕弾と呼ばれるように、正確には閃光弾の類いでは無く発煙弾に分類される物であり、ガラス製の容器が地面への衝撃に耐えきれずに割れると、その瞬間に凄まじい閃光と煙幕が張られた。

 

「今だ、チナツちゃん!ハスミちゃん!」

『了解しました。』

『心得ています。』

 

 そして戦車はその発光と煙幕にやられたのか、以降の動きを見せない……となれば大詰めの時だ。

 

 

 

 

 

─じゃあ、後はハスミちゃんが戦車を撃つだけ……出来そう?

─はい。ですが念の為1人護衛手(フランカー)が居てくれると心強いです。ここは……チナツさんにお願い出来ればと。

─分かりました、必要であれば観測手(スポッター)もこなせますが……。

─いえ、そこまでの長距離射撃では無いので問題ありません。繰り返すようですが、1発しか有りませんからね……可能な限り完璧な射線の確保をお願いします。

 

 

 

 

 

「直接の暴動鎮圧は、あまり慣れていないのですが……!」

 

 戦車の後面、ユウカとスズミの手が回らなかった敵を、チナツがM712の改造銃サポートポインターで狙う。

 その機能をフルに使うとなるとそれなりのじゃじゃ馬であり、またチナツ本人の普段の立ち位置等もあって、彼女の射撃はユウカやスズミと比べると地味で精度も若干低く見える。

 だがそれでも構わない……重要なのは自分が相手を倒す事では無く、相手の注意を引き付けその場に固定させる事なのだから。

 

「流石ゲヘナ学園の風紀委員、完璧な陽動です。」

 

 本命は、さらに後方に居るハスミの狙撃銃による一撃。

 距離にして約200m前後……インペイルメントと名付けられている彼女の銃の改造元、エンフィールド銃のカタログ上の有効射程、その半分程。

 風速は体感1m、風向きは後方から前方へ。

 そして目標は戦車後部のエンジン部、射線も確保されている……目視とて、外す要因は何1つ無い。

 既に対戦車弾は装填済み、後は狙いを澄まして……。

 

「……ッ!」

 

 発砲。

 放たれた弾丸は敵戦車の装甲を貫き、見事エンジン部へ着弾……誤作動を起こしたエンジンは間も無く発火現象を起こし、そして盛大に爆発した。

 

「クルセイダーの撃破、確認!」

「やった!上手く行ったわ!」

 

 爆発によって生じた爆風で、周りに居た他の敵も戦闘不能へ陥った……ショウマ達は見事、戦車率いる敵団体を撃破したのだ。

 

「やった……んだよね……?」

「あぁ!見事だ、先生!それにしても、奴等一体何に気を取られていたんだろうか……先生が言っていた方法とやらなんだろう?一体何をしたんだ先生?教えてくれ!」

 

 作戦領域外から、生徒達の下へとやって来たショウマ。

 その車体を燃え上がらせ、黒々とした煙を上げる戦車……その付近でハスミとチナツが引き摺っているのは、戦車に乗っていた不良達であろうか?

 あれ程の爆発に晒されたのだからもしやとも思ったが、どうやらそれでも気絶で済んでいるらしい……ヘイローの加護とは凄まじいものである。

 対してこちらの損害はゴチゾウ含めて0(ゼロ)、負傷も一切無し……完勝と言っても差し支えない戦果だ。

 その達成感と、全員が無事で居られたという安堵感から、ショウマはミノリの問い詰めを思わず無視してしまう程に張り詰めさせていた気を緩め、そして恐らくキヴォトスに来てから一番深い息を吐いた。

 

S.C.H.A.L.E(シャーレ)部室の奪還完了……このまま私と先生は建物内に入ります。皆さんはここで周囲の警戒をお願いしますね。」

 

 だが安心するのはまだ早い……やらなければならないという事も終わっていないし、今回の騒動を起こした人物とも未だ邂逅していない。

 引き続き警戒を怠らず、5人の生徒は建物正面に陣取り、ショウマとリンは正門の(ロック)を解除してS.C.H.A.L.E(シャーレ)のオフィスが在るビルの中へ……いよいよ彼でなければ叶わないとされる事案、その詳細が明かされる。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「それで、俺がその……行政だっけ?それを直す事が出来るって言ってたけど、どうすれば良いの?そういうののやり方みたいなの、全然知らないんだけど……。」

「それはここの地下室に着いてからお話します……大丈夫です、すぐそこですから。」

 

 正門(エントランス)を抜け、建物のロビーへ進んだショウマとリン。

 外観と同じく清廉な白色で彩られている内壁に、ガラス張りの部屋の数々がよく映えている。

 近代的と言うのであろうか……長い間誰も使っていなかったとリンは言ったが、掃除も行き届いており、他に人も居ない静かな空間だというのに不快な心持ちは全く無い……アビドスの皆には失礼な感想かもしれないが。

 そしてそれは、多少薄暗さの有る地下へ赴いても変わらなかった。

 

「ここは一応、先生のプライベートルームとして用意されている部屋です。そしてこれが、連邦生徒会長が先生の為に残した物です。」

 

 やがて到着した、地下階層のとある一室。

 一見普通の内装をした部屋の中、その机の上に置かれた銀色のケース。

 言われるがまま、それをリンの手から受け取ろうとした時だった。

 

「ッ!?先生下がって!!」

「えっ!?」

 

 急に突き飛ばされるショウマ。

 強く尻餅を付いてしまったが、突然そんな事をされた困惑の強さに痛みなどかき消される。

 何故急にそのような真似をしたのか、ショウマは床に座り込んだ姿勢のまま視線を上げ、それをリンへ問い質そうとした。

 

「くっ……!?」

「リンちゃん!?」

 

 しかし視線を上げた先でショウマが目にしたのは、何者かの手によって机に組み伏せられているリンの姿であった。

 そしてその何者かとは……。

 

「フフフ……連邦生徒会の幹部、それも首席行政官自らとは、やはり相当なお宝なのですね。」

「ワカモ……建物には鍵が掛けられていた筈なのに……!?」

「あら、鍵が掛かっているのならば壁でも壊して中に入れば良いではないですか。」

 

 狐坂 ワカモ……数々の前科から災厄の狐とも称される彼女が、まさかこんな所に居るとは。

 それまでの道中で彼女に出会さなかったのは、既にこの建物の中に侵入していたから。

 建物の出入口には全て鍵が掛けられ、窓も軒並み防弾仕様ではあったのだが、破壊と略奪を趣味とまでする彼女に掛かれば、だとしても意味を為さなかったようだ。

 そしてそんな彼女の手には、リンがショウマへ渡そうとしていたあのケースが。

 

「それにしても、良いタイミングで来てくれました。あなた方(連邦生徒会)が後生大事にする程の何か……生憎その何かの正体や場所等が詳しく分かっていなかったので……本当に、教えて頂けて感謝します。あとはこれをどう破壊するか……このまま撃ち抜くも良し、派手に爆破させるも有り。或いはこの建物の屋上から落として粉々にするというのもまた味が……。」

「……!」

 

 連邦生徒会の鼻を折れるまたとない機会だとして、恍惚とした声を上げるワカモ。

 このまま言う通りの事にはさせまいとリンは己の体に力を込めるも、ワカモの押さえ付ける力の方がずっと強く、ただ無様にも見えるもがく姿を晒すだけである。

 

「やめろ!!」

「先生!?」

 

 じっとしている訳にはいかなかった……ショウマは咄嗟にワカモへ組み付き、拘束されていたリンの身柄を解放させる。

 奪われたケースも、この時点で何とか取り返せた。

 

「どなたでしょう……か!」

 

 しかし当然それをただで許すワカモでは無く、彼女は組み付いているショウマをあっさりと引き剥がすや、彼の胸元へ自身の銃器、その銃底を打ち付けたのだ。

 

「ッ!?」

 

 凄まじい衝撃であった。

 そしてその痛みは、同時に既視感にも満ち溢れていた。

 

「かはっ……!?」

「先生!!」

 

 かつてグラニュートに殴られた感覚、それに近かったのだ。

 ノノミやホシノがミニガンだったり大盾等非常に重たい物を軽々と手にしたり、先のハスミの狙撃に於ける技術を見るに、キヴォトスの生徒達が常人を超えた身体能力を持っている事は既に分かっていた事だが、まさかここまであったとは……。

 幸い骨が折れたり等はしなかったものの、非常に強い衝撃であった事には変わらず、息が詰まってえずくショウマを案じるリンの声が悲痛に上がる。

 

「有象無象が……気安く触れられては困ります。」

 

 反対にワカモの声色は低く突き放すようで。

 その表情は付けている狐面によって見えぬが、気分を害しているのは吐いた台詞からしても間違いない。

 

「しかし……見た所連邦生徒会の方では無さそうですが、首席行政官様と共に居るのです……あなたも何か重要な地位(ポスト)に就いていそうですね?有象無象と言ったのは訂正しましょう……顔をお貸しになってもよろしいですか?少しお話がしたいので……。」

 

 だからこそ、標的がリンからショウマへと移った。

 胸部の痛みによって蹲っているショウマの肩に手を置き、また人外にも近い力で以て無理矢理面と向かわせる。

 この後は、どうなる?

 また殴られるか?それとも別か?

 先の分からぬ仕打ち……それでもショウマは臆する姿勢を見せず、面の奥に隠れている彼女の眼を睨み付ける。

 その反抗の意思はきっと彼女の怒りを買い、下手をすれば先の分からぬと言った仕打ちを、想像以上の凄惨なものへと確定させてしまうかもしれない。

 だが、それでも……。

 

「……。」

「……?」

 

 しかしそんな覚悟で居たというのに、ワカモは目が合った態勢から動かない。

 正しく固まったというような状態となっており、思わずショウマに怪訝な表情を浮かばせる。

 

「あ……あぁ……。///」

「え……?」

 

 ようやくワカモが行動を起こすも、それもどこか気の抜けたような声を発しながら、掴んでいた手を離して後退るというものであって。

 

「し、し……!///」

 

 折角捕まえた獲物を逃がすような、そんな訳の分からぬ行動を取ったワカモ。

 未だ発せられている小声は先程よりかは語気が強くなったものの、内容に関しては未だに空虚で。

 しかし恐らくここから続いて発せられる言葉が有るのだろうとして、置かれている状況に混乱を隠せないながらもショウマはその声に聞き耳を立てる。

 

「失礼致しましたぁぁぁ!!///」

「えぇ!?」

 

 だが次の瞬間、ワカモの口から放たれたのは聞き耳を立てていたショウマの鼓膜を破らんばかりの大声であり、それと同時に彼女は部屋の外へ一目散にと走っていってしまった。

 それから数秒、数十秒と時間が経過するも、彼女が帰ってくる様子は無い。

 

「えぇ……?」

 

 これは……逃げたのだろうか?

 だとして、何故逃げた?

 今この場に於いて、彼女が逃走を図る要素等全く無い筈だというのに……。

 

「先生、大丈夫でしたか?お怪我は……?」

「リンちゃん……うん、俺は大丈夫。リンちゃんの方こそ……。」

 

 正しく訳が分からないとしか言い様が無く、堪らずショウマは尻餅を付いた態勢から暫く動く事が出来ずにいたが、そんな呆けた気は安否を気遣い側へ寄ってきたリンの存在によって正される。

 

「私も大丈夫です……正直良く分かりませんが、当面の危機は脱したようですね。今の内にやるべき事を済ませましょう。」

 

 そのケースを開けて下さい、とリンに促されるショウマ。

 再び言われるがままにケースを開け、中から取り出した物こそ、連邦生徒会が運び込んだ重大な品物……このキヴォトスで起きている混乱を治める為に、ショウマに託されるべき存在。

 しかしその存在を前にして、ショウマはまたも怪訝な表情を浮かべざるを得なかった。

 

「これって……タブレット?」

 

 何せその存在というのが、ショウマも良く知るようなタブレット端末であったからだ。

 

「受け取ってください……これが連邦生徒会長が残した物、シッテムの箱 です。」

「シッテムの箱……。」

 

 大きさも、その白い外装にも、特別変わった所は見られない……至って普通のタブレット端末。

 そんな物にシッテムの箱とは、失礼ながら大層な名前が付けられているものだと思ってしまう。

 

「普通のタブレット端末に見えますが、実は全く正体の分からない代物です。製造会社も、OSも、システムの構造も、動く仕組みの全てが不明……連邦生徒会長はこのシッテムの箱は先生の物で、先生がこれでタワーの制御権を回復させられる筈だと伝言に残していました。」

 

 リンが言うにはこれまで碌に起動させる事さえ叶わなかったらしいが、やはりどこからどう見ても普通のタブレット端末……とりあえず受け取ったものの、ショウマは自らが手にしているのが言われるような大仰な代物だとは思えず、眉間に皺を寄せるばかり。

 

「電源ボタンを押してください、そうすると……。」

 

 しかしただ謎に思っていても仕方が無い……個人の疑念はさておいて、指示通りにタブレット上部の電源ボタンを押してみる。

 すると真っ暗な画面の中心に、奇妙な文字列が浮かび上がってきた。

 

「これって……!」

「見ての通り、謎の文字列が表示されます。私達の手ではそこから先へ進展させる事が出来なかったのですが……。」

 

 現れた文字列は日本語や英語等、一般的な言語とは違うもの。

 故にリン達の目には判読も解読も不可能な言語であるらしいが、ショウマにとっては良くも悪くもその文字列は読めてしまった。

 

「(グラニュートの言語……!?)」

 

 以前語った通り、これまで経験してきた異世界では、自身にとって関係や馴染みの有るものと即座に邂逅する事が出来た為、突然の環境の変化や当面の目的等にも困る事は無かった。

 それがキヴォトスに於いては例外で、故に正しく普段とは違う、自身にとって関係の無い別の世界へ来てしまったのだと思っていた。

 

「……どうやら先生には読めるみたいですね。」

「うん、大丈夫……読めるよ。」

 

 しかし今画面に表示されているのは、間違い無くグラニュートの世界で使われている言語。

 ここに来て、この世界とグラニュート界の間に何らかの繋がりが有る事が示唆されたのだ。

 その繋がりとは一体何なのか……それは、この表示されている言葉に答えとして隠されているのだろうか?

 

 

 

 

 

……我々は望む、七つの嘆きを。

……我々は覚えている、ジェリコの古則を。

 

 

 

 

 

 表示されている言葉を声にして連ねる。

 端から聞いてもどんな意味が込められているのかまるで分からぬ羅列であるが、それはこの端末(シッテムの箱)にとっては確かな結果となって変化を与える。

 

 

 

 

 

 接続パスワード、承認。

 現在の接続者情報は、井上 ショウマ/■◼■■・■■■■■……確認出来ました。

 

 

 

 

 

「画面が変わった……これで良いのかな?」

「恐らくは……しかし先生、先程の文字列……いえ、言語は一体……?」

 

 画面の表示がそれまでの黒一色から一転、青空を思わせる水色一色へと切り替わる。

 ここからどうすれば……と聞いてみれば、逆にリンから先程まで画面に表示されていたグラニュートの言語について問われてしまった。

 答えに詰まる質問である……ここで正直に答えてしまえば、芋づる式に自身の事も話さなければならなくなる。

 下手な混乱を招かない為にも、何とかはぐらかさなくてはと思考を巡らせようとした時だった。

 

『シッテムの箱へようこそ、ショウマ先生。生態認証及び認証書作成の為、メインオペレートシステムA.R.O.N.Aに変換します。』

「えっ……?」

 

 と、急に手元の端末から音声が流れた。

 その機械から流れているとは思えない調子の声色と台詞に驚きを隠せないショウマであったが、そんな彼を置いて端末……シッテムの箱は、指定されたプロセスを踏んで次の行程へ移行していく。

 

「何これ……教室?」

 

 無機質な表示であった画面が、段々と違う景色を写し出していく。

 そう、景色だ……画面には今、とても鮮やかな水色に彩られた部屋の様子が写し出されている。

 ショウマがそこを教室と推測したのは、その部屋の中に並べてある机や椅子、全体の内装といったものが記憶の中(アビドス高校)のそれを彷彿とさせたからだ。

 

「ん……?」

 

 定点カメラのような視点から見えるその部屋は広さ等からして、決してショウマ達が今居る部屋をフィルター等で加工したものでは無い……そう画面と現実世界とを交互に見て確認していると、部屋の中央にショウマの気を引くとある存在が見えた。

 

『くううぅぅ……Zzzz』

「女の子……?」

 

 それは彼が口にした通り、小さな女児の姿であった……部屋の中にある机の1つに突っ伏しており、気持ち良さそうに寝息を立てている。

 

『むにゃ……カステラにはぁ……いちごミルクより……バナナミルクの方が……。』

「カステラ……?」

『えへっ……まだ沢山有りますよぉ……。』

「沢山有るんだ……。」

 

 呟いている寝言もとても幸せそうなものであり、それを示すかの如く、少女の表情からは笑みが絶えない……釣られてこっちも微笑んでしまいそうな、そんな全くの穢れ無き笑顔であった。

 しかし画面が変化してからなおその先へ進まない以上、この少女が何か鍵を握っていると考えるのが妥当であって。

 夢見が良さそうな所悪いが、この少女には目覚めてもらう事にする。

 

「えっと……ねぇ君、聞こえる?悪いんだけど、起きて欲しいなーって……。」

『うにゃ……まだですよぉ……しっかり噛まないと……。』

「そうだね、しっかり噛んで食べるのは大事だよね……喉に詰まらせるかもしれないし……じゃなくて、起きてくれないかな?ねぇ、お願い!」

『あぅん、でもぉ……。』

 

 とまぁ、彼女は中々目を覚まさない。

 なおも幸せそうな顔で眠りに就いている少女を何とか起こすべく、懸命に画面に向かって語り掛けているショウマの姿は、端から見ると中々に奇怪である。

 

『むにゃ……んもぅ……ありゃ?』

 

 そんな醜態とも言えるような姿を晒して暫く、遂にその行動が実る瞬間がやって来た。

 少女は煩わしそうに一瞬顔をしかめると、ゆっくりと瞼を開けて身体を起こす。

 そのまま寝惚け眼であると分かりやすい半開きの目で周囲を見渡し、やがてショウマの存在に気付くと、みるみるとその目が見開かれていく。

 

『えっ!?あれ!?あれれ!?せ、先生!?』

「え?えっと……おはよう?」

 

 ガタッ!!と勢い良く席を立ち、漫画やアニメもかくやというようなコミカルな動きでショウマの……というよりは画面の前に出る少女。

 ずずい、と画面いっぱいに広がる少女の顔にショウマは若干たじろぎながらも、頭の中では少女が口にしたある言葉が引っ掛かって仕方が無かった。

 

『私の姿が見えているという事は……ま、まさか、ショウマ先生……!?』

「えっと……うん、確かに俺はショウマだけど……。」

 

 まただ、また先生と呼ばれた。

 リンと出会った時からずっと言われ続けている言葉。

 それをまさかこの少女からも言われる事になるなんて……と、ショウマはますますそう呼ばれる事への懐疑心を募らせると共に、やはり彼女達が言うその言葉には自身が思っている以上の意味や理由が込められているのだと薄々感付いていた。

 

『う、うわあああ!?そ、そうですね!?もうこんな時間!?』

 

 ショウマがそう考え込んでいる一方で少女はというと、彼とこうして出会う事が想定外だったというか、まだその為の心構えが出来ていなかったというような様子で慌てふためいていたものの、最終的にはショウマが考えに耽るのを止めたのと同じタイミングで、自力で平静を取り戻した。

 

『えっと……その……あっ、そうです!まず自己紹介から!』

 

 そうして再び2人の目線が合わさると、少女はその場から1歩下がって画面に自身の全体像が写るようにした後に、その名を告げたのだった。

 

 

 

 

 

『初めまして、先生!私の名前はアロナ!このシッテムの箱に常駐しているシステム管理者であり、メインOS、そしてこれから先生をアシストする秘書です!』

 

 

 

 

 




 私は実際の戦場を経験した事も無いし、実銃も撃った経験が無いので、銃撃戦というのがどれぐらいの距離感で行われているのか見当も付かないのですが、それでも色々調べたりブルアカのゲームやアニメの描写を参考にした結果、この作品では「基本的に戦闘は100m圏内で行われている」、「それ以上の距離からの射撃は思いきって全て長距離からの射撃と分類する」事にしました。
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