『初めまして、先生!私の名前はアロナ!このシッテムの箱に常駐しているシステム管理者であり、メインOS、そしてこれから先生をアシストする秘書です!やっと会えましたね、先生!私はここで先生の事をずっと、ずーっと待ってました!』
少女が告げた名は、アロナ。
水色を主体とし、インナーカラーがピンク色となっている髪。
そしてカチューシャに付属している大きな白いリボンに、グラデーションが入った青のセーラー服が目を引く彼女は、そのままショウマの反応を待たずに1人喋りを続ける。
『さて、色々と積もる話は有ると思いますが、まず何よりも先に先生の生態認証を行っちゃいましょう!私の指に先生の指を当ててください♪』
「指を……分かった。」
ショウマの生態認証を行うと言って、画面に右手の人差し指を当てて来るアロナ。
ショウマもそれに従って左手の人差し指を、彼女の指が触れられている箇所へ当てる。
『……はい、ではこれで先生の指紋を確認します!目視で確認する事になりますが、すぐに終わります!こう見えて目は良いので!』
そうして数秒もしない内にアロナは画面を通してショウマの指紋情報を受け取ったらしく、彼女は先程までショウマのものと重ね合わせていた自身の指先をじっと見つめ始める。
その何れの仕草も天真爛漫に溢れており、接する距離感は一応形式的な言葉遣いながら、まるで旧知の仲の間柄に甘えているかのようにも見える。
しかしショウマからすれば彼女の事は全く知らぬ存在……それなのにそうも仲睦まじいように振る舞われると、いくら少女相手とはいえ言い知れぬものがある。
『はい、確認終わりました!これで次回からは指紋認証のみでシッテムの箱を起動出来ます!先生の生態情報も同時に取得しましたので、今の内にデータの更新もやっちゃいますね?えっと、登録者情報を更新……井上 ショウマ……及びショウマ・ストマック……と。』
しかしそれも、彼女が不意に発したある一言を前に180度心情が反転し、その気を強く引く事になる。
「え……待って、今何て……?」
『はい?何って……登録者情報の更新です。実は今の端末の起動時に前管理者に関するデータがロックされてしまったようでして、それで先生の生態情報を下に更新を……。』
「そうじゃなくて、今ストマックって……もしかして、グラニュートの事知ってるの!?」
そう、明かしていない筈の自身のもう1つの姓名……ストマックの名が出てきた事。
先程疑惑として脳裏に浮かべていた、この世界とグラニュート界の繋がり……それをさらに後押しするような一言に、今度はショウマが画面に顔を近付ける事に。
『あ、いえ!私個人にその知識が有る訳では無くて……シッテムの箱のデータベースに項目が有るんです。ただ、
残念ながら、ショウマが期待していた以上の答えは返ってこなかった。
グラニュートに関しては、そういった名前の種族である事、その中にストマック家という家系が有る事、そしてショウマがその家系の末子である事……それぐらいしか情報が載っていないとの事。
しかしながら、そういった情報がデータとして有るというのは確かな証拠……思わぬ所で生じた疑惑は、更なる謎を生み出す確信となった。
「あの、先生。話の腰を折るようで申し訳無いのですが……先生は今、どなたとお話をされているのですか?」
「え?どなたって……アロナちゃんだけど?」
「いえ、まあ……シッテムの箱のAIと会話をしているのは、何となく分かるのですが……。」
と、ここでリンが少し怪訝な表情を浮かべながら会話に割り込んできた。
曰く、ショウマが誰と話をしているのか分からないとの事であるが……説明しても、彼女は歯切れの悪い様子を見せるばかり。
『多分画面に写っている私の姿が見えていないから、不思議に思われてるんだと思います。私の姿は先程のグラニュートというものに該当する先生しか見る事が出来ないとされていますから。』
「えっ、そうなの?」
まさかアロナの姿が見えていないなんて事はないだろうが……と思っていたが、まさかのその通りであったらしく。
リン曰く、端末の画面は起動した時の無機質な背景のままにしか見えないらしく、試しに画面をリンの方へ向けて確認してみるが、彼女は首を横へ振る。
念の為端末を彼女へ渡した上でもう一度画面を見てもらうも、やはり彼女の目にはアロナの姿は映らないらしい。
「因みにアロナちゃんからはリンちゃんの姿は……?」
『私の方からは見えていますよ!初めましてリンさん、アロナです!よろしくお願いしますね?』
「……はい、よろしくお願いします。」
どうやら本当にショウマしかアロナの姿を見る事は出来ない……それに対して思う所が有るのか、リンの端末を見る目が少々厳しいもののように感じる。
『さて、これで先生のシッテムの箱の起動時に行うプロセスは終わったのですが……他に何か、私に出来る事は有りますか?何でも仰ってください!』
「あ、それじゃあ……えっと、何だっけ……?」
「……1ヶ月前から連邦生徒会長が行方不明となり、サンクトゥムタワーの制御権が失われてしまいました。それによって現在、キヴォトスを支える様々なインフラが崩壊寸前まで追い込まれてしまっています。ですが、事前に連邦生徒会長から伝言を授かっていました……連邦捜査部シャーレに所属する事になる、この井上 ショウマ先生の下にシッテムの箱が渡れば、これらの問題を解決する事が出来ると。」
『成る程、そういう事でしたらアロナにお任せください!タワーのアクセス権を修復すれば、この混乱を治める事が出来ると思います!』
「そっか……じゃあ、お願いできる?」
『はい!任せてください!』
さておいて、話は次のフェーズへ。
説明出来る程事情を把握しきれていないショウマに代わってリンが現在のキヴォトスが置かれている状況について話をすれば、アロナはうんうんと頷きを返した後、そのまま作業に入る。
『サンクトゥムタワーのadmin権限を取得完了……先生、タワーの制御権を無事に回収出来ました!サンクトゥムタワーは今、アロナの制御下にあります!つまり今のキヴォトスは、先生の支配下に在るも同然という事です!』
「えっと……何だか凄いね……。」
時間にして数十秒程度……ショウマにしか見えない画面の中で、アロナは少しばかり目を閉じた後、目的の達成を告げてきた。
よく分からないなりにその1分も掛かっていない手際の良さを褒めれば、アロナは『えっへん!』と誇らしげにする。
『先生が承認さえしてくだされば、タワーの制御権を連邦生徒会に移管出来ます。ですが……。』
「どうしたの?」
しかしこれで一件落着という訳にはいかないと、アロナは突然その口を閉ざしてしまう。
何か問題でもあるのかと聞いてみれば、彼女はその答えを言葉では明確にせず、代わりに視線で以て訴えかけてきた。
ちらりと横へ向けている彼女の視線を辿ってみれば、そこにはリンの姿が。
「……少し部屋を出ていた方が良さそうですね。終わりましたら、また呼んでください。」
つまり彼女が居てはいけない、彼女の前では明かしにくい答えという事なのか……そう思っていると、彼女はショウマの視線から察し良く判断をし、そのまま部屋を出て行ってしまった。
これは無理に気を遣わせてしまった……なればその答えは当然それに見合う程のものでなければならない。
「……それで、何かあったの?」
『いえ、その……大丈夫なんでしょうか?連邦生徒会に制御権を渡しても……。』
「それって、どういう……?」
そうしてショウマの意識にほんの少し強めの感情が現れた事を敏感に察知したアロナは、若干視線を彷徨わせながらもその答えを掲示する。
『言いにくい事なのですが……連邦生徒会は決して内部事情が良いとは言えない組織なんです。色々と問題を抱えているらしくて……。』
それは連邦生徒会という組織そのものについての苦言。
その名の通り、このキヴォトスでは連邦制が採用されており、数千にも及ぶ学園がそれぞれの学区内で独自の自治活動を行っているが、キヴォトス全体の基本的な自治権は連邦生徒会が握っている。
このキヴォトス全体のインフラを支えているというサンクトゥムタワーも元来から連邦生徒会が管理しているものの為、言ってしまえば連邦生徒会とは普段キヴォトスの実権そのものを握っている組織という事となる。
『サンクトゥムタワーはこのキヴォトスの中心的な施設です。先程も言いました通り、このタワーを制する者がキヴォトスを支配するといっても過言では無い程に……ですからその施設を連邦生徒会に引き渡すというのは……。』
しかし今回その連邦生徒会の長を務めていた者が突然の失踪を果たし、サンクトゥムタワーは機能を停止。
残った連邦生徒会の面々では事態の対処が出来ず、それはほぼ外部の者とも言えるショウマ……先生へと託された。
そしてそれさえも連邦生徒会長の指示によるものなのだから、要は信用していないのだ。
内部事情がどうとか言っていたが、それを抜きにしても元々自分達が保有していた、それもキヴォトス全域に関わる重要な権能を持つ建物を、連邦生徒会長たった1人が欠けただけで制御出来なくなるというのは、確かに組織としての信用が置けなくなるというもの。
「……アロナちゃん、タワーの制御権を連邦生徒会に渡してくれる?」
それでも、ショウマはアロナにタワーの権限を連邦生徒会へ渡すよう願った。
「俺はこのキヴォトスの事も、連邦生徒会の事も全然知らないけど……でも、連邦生徒会にはリンちゃんが居る。凄い大変そうで、それでつい人に対して当たりが強い言い方をしちゃうような事も有るだろうけど……でも、あの子が居れば大丈夫じゃないかなって。」
いや……正確には連邦生徒会ではなく、七神 リン個人に対して。
彼女になら、託す事が出来る……まともな根拠は無いものの、ショウマには何故かそう言える確信のようなものがあったのだ。
『先生……分かりました、これよりサンクトゥムタワーの制御権を連邦生徒会に移管します!』
ショウマの想いは、アロナにも伝わったのだろう……彼女はその意見に異を唱えず、彼の言う通りの仕事に務める。
そして……。
「……あ、先生!大丈夫でしたか!?さっきワカモが建物の中から出てくる所を見まして……お怪我は有りませんか!?」
「ですから、大丈夫だと言っているでしょう……少しはこちらの言う事を信じて頂きたいものです。」
アロナの作業が終わった後、何故だか騒がしくなっていた部屋の外。
覗いてみれば、外に居た筈のユウカ達5人がリンと共に居た。
どうやら先にワカモが逃走していった様を目撃した事で、居ても立っても居られなくなったようだ。
「先程、サンクトゥムタワーの制御権の確保が確認出来ました。これで連邦生徒会長が居た頃と同じ様に、行政管理を進める事が出来ます……お疲れ様でした、先生。キヴォトスの混乱を防いでくれた事に、連邦生徒会を代表して深く感謝致します。ここを攻撃した不良達やワカモについても、これから追跡して討伐致しますので、ご心配無く。」
「……うん、無事に解決出来たみたいで良かったよ。」
そしてリンから、今しがたアロナの手によって成し遂げられたタワー周りの問題について解決したとの報告があった事を告げられた。
タワーの機能が回復し、権限も無事に連邦生徒会へ渡ったとの事で、彼女から礼を告げられるショウマ。
その彼が纏う雰囲気が、ある一言によって僅かに変化した事、そしてその変化が生じた理由を何となく察しながらも、リンは敢えてそれを追及しなかった。
自分はこれから連邦生徒会へ戻ってやらなくてはいけない仕事が山程あるし、何より……それに関しては彼自身が己の見解の下で見極めるべき案件であろう。
「では最後に、連邦捜査部
今はただ、彼へと託すべき最後の仕事をこなすだけだ。
「改めまして、ここがシャーレのメインロビーです。長い間空っぽになっていましたが、ようやく主人を迎える事になりましたね。」
地下を抜けると、いつの間にか暮れ時の光が差し込んでいた。
サンクトゥムタワーの機能を回復させ、キヴォトスの行政崩壊の危機を救ったショウマ……彼はその後リンの先導の下、他の5人の生徒達と共に建物の上階を訪れていた。
「そして、ここがシャーレのオフィスです。ここで先生のお仕事を始めると良いでしょう。」
「ここが……。」
そうして辿り着いた場所……吹き抜けとなっている内装に、一面がガラス張りとなっている窓辺。
部屋の中央に置かれた事務的なデスクと、その上に大量に置かれて山となっている書類の数々。
ここが、
「
「……改めて聞いてみましても、やはり横暴の一言に尽きますね。」
連邦捜査部
そんな組織のトップに立てなどと……暴君にでもなれと言うのであろうか?
この世界を支配し、大仰な玉座に座れとでも言うのであろうか?
「つまり、何でも先生がやりたい事をやって良い……という事ですね。」
「やりたい事を、やって良い……。」
それをするかしないか、その立場をどう生かすか……それも含めて、全てはショウマに託されているらしい。
「……本人に聞いてみたくても、連邦生徒会長は相変わらず不在のまま。私達は彼女を探すのに全力を尽くしている為、キヴォトスのあちこちで起きる問題に対応出来る程の余力は有りません。しかしこの
その辺りに関する書類は机の上に沢山置いておきましたので、気が向いたらお読みください……と言うリンの視線を辿ってみれば、先程も気になっていた机の上の書類の山々が目に写る。
どうやらあれが全部そうらしい……椅子に座り、机に向かい合った者を丸ごと覆い隠さんばかりに聳え立つそれらを見て、ショウマは内心萎縮してしまう。
「全ては先生の自由ですので……それでは、私の案内はここまでです。慣れない環境でお疲れでしょうから、まずはゆっくりとなさってください。また明日、ここへお伺いしますね。」
そうして自分のやるべき事は終わったとして、リンは部屋を後にしようとする。
だが……。
「……リンちゃん。」
ショウマは一度は彼女の足を引き止めず、しかし自身の横を通り過ぎ、今まさに部屋を出ようとした所で彼女の事を呼び止めた。
リンもわざわざこのタイミングで何をと訝しげに振り返ると……。
「リンちゃんも、お疲れ様。」
掛けられたのは、労いの言葉。
短いながらも、想いの籠もった、確かな台詞。
互いの事情に食い違いが有り、事実の整理もままならない内に荒事に巻き込まれて……下手をすれば疑心暗鬼となって、誰の事も信用してくれなかったかもしれない。
それでも彼は心を強くを持ってくれて、自分達の事を信じてくれて、ここまで来てくれて……そして、相手を思いやる言葉さえ掛けてくれた。
礼を言うべきは、むしろこちらの方であろう。
「ええ、先生も。」
故にリンもその短い言葉の中に確かな感謝の想いを込め、会釈と共に部屋を後にしていった。
「何だかずっと慌ただしい感じだったけど、どうにか落ち着いたわね……改めてお疲れ様です、先生。素晴らしい活躍でした。今回の活躍は、きっとすぐにキヴォトス全域で話題になると思いますよ?」
「ううん、そんな事無い。皆が頑張ってくれたからこそだよ……皆の方こそ、お疲れ様。」
「ありがとうございます、先生。私達も今日はこれで解散にしましょう……時間も遅い事ですし、特に
「そうですね。それでは今日はこれでお別れですが……近い内にぜひ、トリニティ総合学園に立ち寄ってください。」
「私も風紀委員長に今日の事を報告しに戻ります。ゲヘナ学園にいらっしゃった時には、ぜひ訪ねてください。」
「ミレニアムサイエンススクールに来てくだされば、また会う事が出来ると思います。それでは先生、私達はこれで失礼しますね。」
「騒動が治まってしまった以上、やる事が無いからな……あたしもこれで帰るとしよう。先生、もし今後レッドウィンター連邦学園に来る事が有れば、是非工務部へ来てくれ!先生は共にこのキヴォトスを正した勇敢なる同士だ!その時は心から歓迎をしよう!」
リンに続いてユウカ、ハスミ、チナツ、スズミ、ミノリの5人もまた、部屋を後にしようとする。
噂となっていた先生と呼ばれる存在が突然現れ、
それが、まだ渦巻く情報の波に乗り切れていない自分にとっては非常に優しい気遣いであった。
「うん、ありがとう皆。気を付けてね。」
今はゆっくりとした時間が欲しい……それを察してか知らずかは分からないが、結果としてその環境を作ってくれた5人に、ショウマは軽く手を振って見送る事で感謝の意とする。
5人もそれぞれ会釈を返して去っていき、1人となったショウマ。
すると不意に溢れる欠伸……どうやらそれまで張っていた気が緩み、疲れが一気に押し寄せてきたようだ。
「一旦休もうかな……。」
近くにソファが有る事を確認し、少しフラフラとした足取りでそのソファの下へ。
そしてソファの上に寝転べば、あっという間に目蓋が視界を覆っていく。
「そうだ……皆に……電話……。」
寝る前にアビドスの少女達に連絡を……なんて事も思ったが、身体はその考えを全く受け付けず、ものの数秒で彼を夢の中へ誘っていく。
自分でも少し驚く程の消耗具合だが、昼間からずっと通しで、しかも作戦の展開なんていう慣れない事をもしたのだから仕方無い。
ショウマは迫り来る眠気に抗わず、そのまま無防備な姿を晒すのであった。
その姿を、
「あぁ……これは困りましたね……。」
フフ……ウフフフフ……♡
『そっか~、それは大変だったね~。』
「うん。でも何とかなったみたいだから……これで電車とかバスも今までみたいに使えるようになるんじゃないかな?」
『そうだねー、ノノミちゃんが喜びそうだぁ。』
傾いていた日がすっかり入り込み、とっくに夜の帳が降りた頃……眠りから覚めたショウマは改めてアビドスの少女達と連絡を取るべくガヴフォンを手に取った。
既に時間も時間であった為、誰も電話には出れないと思っていたが、たまたま夜の散歩に出ていたらしいホシノと繋がる事が出来たのだ。
『じゃあ、ショウマさんは今日はこのままそっちで寝泊まりするんだね?』
「うん、出来れば明日にはそっちに戻れれば良いなって思ってる。」
『早い所戻ってきた方が良いよー?皆ショウマさんが居なくてソワソワしてたからさ。』
ホシノが言っている事は、きっと事実だ。
現に起きた後にガヴフォンの通知を確認してみたら、アビドスの少女達から沢山の電話が掛かってきていたのだから……本当に嬉しい限りである。
『お電話、終わりましたかね?』
「アロナちゃん……うん、終わったよ。」
そうしてホシノとの電話を終え、一連の出来事をメールに綴り、それを他の少女達にも送り終えると、側に置いてあったシッテムの箱の画面がひとりでに点灯する。
どうやらアロナは人の手を借りずとも、自身の力でシッテムの箱を起動させる事が出来るようだ。
『では改めまして……今日はお疲れ様でした、先生!でも本当に大変なのはこれからですよ?先生は今後キヴォトスの生徒達が直面している様々な問題を解決していくのです……単純に見えても決して簡単ではない、とっても重要な仕事です。』
ハイテクと言えば良いのだろうか……機械については知識が疎いものの、それでも普通に出来る事で無いとは分かる為、素直に感心を覚える。
そんな気配を敏感に察知したのか、どこか上機嫌な声色となっていたアロナだったが、浮かれ過ぎは良くないとして、今後の日々について空想を浮かべる事で自身を戒める。
ショウマにも言い聞かせるように言ったその言葉に、彼がそれまでと違った反応を示していた事には終ぞ気付かぬまま。
『それではキヴォトスを、
そう言って、シッテムの箱の電源がまたひとりでに切れる。
電源が切れた事で画面は真っ暗となり、何も写す事は無くなったが、それでもショウマは少しの間だけその何も写していない画面をじっと見つめていた。
「キヴォトスを、
彼が見ていたのは、何も写さなくなった事で逆に見えるようになった、自身の顔……画面を鏡代わりにして見えたその表情は、複雑なものであった。
「何だか、だんだん大変な事になっていってる気がする……。」
彼はソファへ降ろしていた腰を改めて深く掛け直すと、今日1日の……いや、これまでキヴォトスで過ごしてきた中で起きた出来事を思い返す。
謎の扉の力によってこの世界へ誘われ、危うく行き倒れた所をノノミに拾われて。
彼女に連れられてアビドス高校の生徒達と出会って、それからすぐに銃撃戦に巻き込まれて。
それがキヴォトスの日常なのだという事を教えられ、実際にセリカが誘拐されて、彼女を助けて。
そして今日……連邦生徒会からリンが来て、
「でも……。」
そういった出来事を思い返す度に、リンから言われたあの言葉が脳裏を過る。
「やりたい事をやって良い、か……。」
何故この言葉が脳裏を過るのか、それはショウマ自身にも分かっていない。
だが、何か引っ掛かるのだ……自身の心に、その言葉が。
その理由が分かるのは後の話であるが……ショウマは再びの眠気が来るまでの間、暫くその理由について自問していたのであった。