キヴォトスに来たおカシな先生   作:ナリカオル

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第13話「その名は便利屋68」

 連邦捜査部S.C.H.A.L.E(シャーレ)の奪還という激動の1日から夜が明け、ショウマはオフィスのソファの上で目を覚ます……プライベートルームと紹介された部屋もあったが、結局昨日はそのままオフィスで寝てしまったのだ。

 そしてこの部屋の、一面ガラス張りが特徴の窓からは日の光が差し込んできており、それでいてまだ薄暗い室内の様子から、今の時間帯が朝方なのだと体感で教えてくれる。

 

「さて、と……どうしようかな……。」

 

 昨日はバタバタしていてあまり考えていなかったが、S.C.H.A.L.E(シャーレ)の奪還が終わった今、果たして自分は何をするべきか。

 考えてみるも、思い付いた事柄には全て七神 リンの存在が必要不可欠であり、そんな彼女は昨日の口振りからしていずれはここへ来るのだとは思われるが、それが何時になるのかまでは分からない。

 彼女が来るまでの間をどう過ごすか、それが今のショウマの課題であった。

 

「アロナちゃん、起きてる?」

『えへへ……りんごカステラ……。』

「りんごになってる……。」

 

 なのでソファ前のテーブル、その上に置いてあるシッテムの箱の電源を付け、中に居るアロナに助言を頼もうかとするも、どうやら彼女はまだ夢の中の様子。

 時刻を見てみれば、朝の6時30分を示している……起こすにはまだ早いかと、ショウマはそっと端末の電源を切る。

 すると同じタイミングで、彼の腹の中から強烈な音が鳴った。

 そういえば昨日の昼過ぎから何も食べていなかった……朝御飯や間食も、それまではノノミが用意してくれた弁当やお菓子に頼っていた為、その恩恵が無い今こうなるのは必然か。

 

「取り敢えず、外出てみよっかな……。」

 

 ひとまず、やる事は大まかにだが決まった。

 外と言っても建物内ではあるが、また1人で勝手に出回るなど……セリカに知られたら怒られそうなものだが、ただじっと待っているだけというのも性に合わず。

 この建物がどんな構造をしているのか、どこにどんな部屋が在るのか、それを知る事ならばそう危険な事には出会さない筈……ショウマはシッテムの箱を片手に、シャーレのオフィスから一歩を踏み出した。

 ……のだが。

 

「全然扉開かない……電子ロックってやつかな?これどこで開けられるんだろう……?」

 

 建物の中を見て回って暫く、オフィスとプライベートルーム以外の全ての部屋が開かない事が判明。

 見た所扉の横には一律して何か認証装置のような機械が有ったので、恐らくどれも今口にした通りの施錠の仕方なのだろうが……それらを統括する制御室みたいな部屋は無いのであろうか?

 というより、まだ朝早い時間とはいえ、建物を回っても人っ子一人出会さない。

 これだけ大きな建物なのだから、他に入り用の人が居ておかしくないと思っていたのだが……と首を傾げながら最後の探索場所として居住区と割り振られているスペースへ入る。

 

「あれ……もしかしてこれ、コンビニ?」

 

 すると目に付く電光看板。

 エンジェル24と描かれているそれはショウマにとっても見慣れた店舗の数々を想起させるような装いをしていた事で、彼にそのコンビニと思われし場所へ近付く事を決意させる。

 そして自動ドアとおぼしき場所の前に立つと、これまでの扉とは違ってその機能が発揮され、ショウマを歓迎するように中央から両側へと扉が開かれる。

 

「あ、開いた……失礼しまーす……。」

 

 そういった所もまた見知った店舗の数々を想起させ、しかしながらこちら(キヴォトス)に来て初めて自らの足で踏み込む未知の領域でもあるとして、ショウマはコンビニに入るには少々おっかなびっくりが過ぎている様子で中へと入る。

 

「い、いらっしゃいませ!エンジェル24です!」

「うわっ、びっくりした……!」

 

 と、直ぐ様ショウマに向けて掛けられる声。

 その些か大きかった声量に驚きながら声のした方を見てみれば、所謂第一村人発見というやつであって。

 おでこを開いた形の前髪が特徴的な、長い金色の髪。

 そしてやはりその髪の上に浮かんでいる光輪(ヘイロー)

 カウンター越しではっきりとは分からないが、それでも背丈はこれまで出会った少女達より間違いなく低いと言え、それ故かこの店の制服であろう水色のエプロンの肩紐が片側だけずれ落ちている。

 そんなあどけなさがまだ十全に残っている少女が、そこに居たのだ。

 

「えっ、あなたは……も、もしかして、貴方が噂の先生ですか!?」

「え?えっと……うん、一応そうなるのかな……。」

 

 一方で少女の方もショウマの事をまじまじと観察していたようであり、彼女はショウマが自身の知る知識の中に当て嵌まる人物である事を確認するや、どぎまぎとした様子を見せる。

 

「(こ、この人があの噂になっていた先生……昨日も色んな学校の生徒さんと一緒に居たし、万が一この人に嫌われでもしたら私、もしかして大変な事に……!?)」

 

 しかし考えている事はこれ如何に。

 要らぬ風評被害ではあるのだが、彼女地味に昨日の戦いを目撃していた人物であり、当然ショウマの姿もその目でしっかりと見ていた。

 明らかに生徒達とは違う見た目や空気を纏っている人物を前に、こうして警戒の色を強くしてしまうのは考えてみれば仕方の無い事なのかもしれない。

 

「わ、私はソラです!今日からこのコンビニでアルバイトをする事になりました!よろしくお願いします!」

「そうなんだ……俺はショウマ、井上 ショウマ。よろしくね。」

 

 そんなソラの考えている事なんて露知らず、ショウマはこれまで出会った生徒達と変わらず分け隔てない感情と笑顔で以て彼女と接する。

 しかしそれもふと店内をぐるりと見回した事によって、だんだんと落ち着いていく。

 

「何かお探しですか?」

「あ、いや、そういう訳じゃないんだけど……ねぇ、こういうのってやっぱり……本物なの?」

 

 ショウマが指差したのは、棚に陳列されている手榴弾の数々。

 ミリタリー系の玩具だったりというのはショウマもこれまでの人生で目にした記憶は有るが、ここに並べてあるのはやはりそういった類いのものでは無いようで。

 

「は、はい!もちろんです!手榴弾の他にも閃光弾やスモークグレネードなど、基本的なものは一通り揃えてあります!も、もし必要なら何か見繕いましょうか!?」

「い、いや……遠慮しておくね……。」

 

 このお店はやはりコンビニで間違いないようだが、そのコンビニに本来決して並ぶべきではない筈の物が並んでいるという非常識と、よく見れば手榴弾の他にも銃弾や銃そのものが同じ様に陳列されている事実に、ショウマは改めてキヴォトスという現実を思い知らされる。

 そんな彼の機嫌を損ねないようにあせあせとしながらも商品を進めてくるソラの言葉をやんわりと断りながら、ショウマは壁際に有るお弁当コーナーへ歩み寄り、陳列されている品物を吟味していく。

 

「そういえばソラちゃん、アルバイトなんだよね?それにしては随分朝早くから働いてるみたいだけど……。」

「は、はい!今日のシフトは夕方まで私1人で行います!これから先も概ねその予定です!」

「……え?アルバイトなんだよね?他にお店の人は……?」

「い、今は居ません!夜になったら交代します!」

「……ごめん、もう一回聞くけどアルバイトなんだよね?大丈夫なのそれ……?」

「だ、大丈夫です!発注の仕方もちゃんと勉強しましたから!」

「ねえアルバイトなんだよね!?それ絶対お店の人がやるやつだよね!?本当に大丈夫!?」

 

 それからおにぎりやサンドイッチ、飲み物のコーナーと、店内を徘徊しながらソラと話をするショウマ。

 しかし彼女の労働環境を聞いて再三キヴォトスという現実を前にした彼は内心頭を抱える事に。

 

「ま、まぁ正直に言えば不安な所も有ったりしますが……はい、お会計1254円です。」

 

 このような会話、他に利用客が居なくて良かったとも思いながら朝食を選び、レジまで持っていくショウマ。

 これでようやく朝御飯にありつけると思っていたのだが……。

 

「あ……。」

「どうされましたか?」

「……微妙に足りない。」

「え、えぇ!?」

 

 何とまさかのお金不足という事態。

 しまった、元々は駄菓子屋で買い物をしてすぐ帰る予定であった為、必要最低限のお金しか持っていなかったのだ。

 菓子パン2つにお弁当、そして牛乳……欲望に身を任せすぎたが故の事態の為、何か1つでも品目を減らせばそれで解決自体はするのだが……今も唸りを上げている腹の虫を治める為にはどうしてもこれぐらいのラインナップは欲しい

 ここで頼れるのは……彼女であろうか。

 

「ごめんアロナちゃん、起きてる?」

『うへへ~……お前の苦労をずっと見てたぞぉ……。』

「いや見てないでしょ絶対……本当にごめんなんだけど、お願いアロナちゃん起きて!」

『うにゃあ……何ですか、もう……って、先生!おはようございます!あわわ、どうしましょう……私寝癖とか付いてないですよね!?』

「おはようアロナちゃん!ごめんね急に起こしちゃって……寝癖は付いてないからそこは安心して!」

 

 手に持っていたシッテムの箱を起動し、眠っていたアロナを起こすショウマ。

 まずは無理矢理起こした事を謝り、そして言うが早く話を本題へ。

 

「で、アロナちゃんに聞きたい事があるんだけど……。」

『はい、何でしょう?私で答えられるものなら何でも聞いてください!』

「いや、実は買い物したいんだけどさ……今ちょっとお金が足りてなくて……お金って今すぐどこかで手に入るかな?」

『え!?お、お金ですか!?』

 

 しかしアロナの反応からするに、どうにも嫌な予感がする。

 まさかこれは彼女でもどうにもならない問題なのか……?

 

『えーっと、お買い物って……あぁ朝御飯ですか。でもそれだと経費では落とせないし……え、個人の口座とか無いんですか?無い!?現金も!?先生今までどうやって暮らしてたんですか!?』

 

 そんな懸念が現実にならない事を祈っていたが、残念な事にそうなってしまいそうである。

 アロナの疑問に思わずいきなりここに連れてこられたんだと言いたくなってしまったが、それは流石に不当な当たりが過ぎるというもの。

 

『こ、困りましたね……こうなったらS.C.H.A.L.E(シャーレ)の予算からこっそり……って、あれ?』

「どうかしたの?」

『ロックされていたデータの一部が解除されました!これは……口座情報?』

 

 アロナもアロナで最終手段を切りそうになっていたが、ここでシッテムの箱のデータに何かしらの変化が起きた様子。

 その口振りから、何かこの状況に光明を見出だせるものなのではないかと期待しながら、解放されたデータに目を通す彼女の様子を見守っていると……。

 

『ふむふむ……どうやら連邦生徒会長が先生の為に口座を作ってくれていたみたいです。口座はアプリを通じてシッテムの箱と連動するようになっているらしく、端末を使ってのキャッシュレス決済も可能だとか。』

「本当?良かった~……もうお腹ペコペコで仕方無かったんだぁ……。」

 

 期待通りの展開。

 ところでキャッシュレス決済とは何ぞやと密かにアロナから享受を受けながら、ショウマは改めてレジの前に立ち、キャッシュレス決済の為の機械へシッテムの箱を翳す。

 

「……はい、確かに!お買い上げありがとうございます!」

『ま、まさかキャッシュレス決済すら知らないとは……先生、あなたは一体……!?』

 

 ピコン、と小気味良い音がして、レジからレシートが排出される。

 ソラからのお墨付きとアロナからの多大な疑問を頂き、またレシートに書かれている内訳も、ショウマが選んだ商品がしっかりと記載されている……どうやらちゃんと買い物をする事が出来たようだ。

 

「エンジェル24は文字通り24時間ずっと開いておりますので、必要な物があればいつでも来てください!」

「うん!ありがとね、ソラちゃん!」

 

 用事の済んだショウマは、ソラの声を背に受けながら商品の入ったレジ袋を持って店を出る。

 エンジェル24……ソラ(従業員)のハードワーク振りが気に掛かるが、良い店であった。

 また利用する事は有るのだろうか……再び朝御飯にありつける喜びを胸に抱くと同時にそんな事を思いながら、ショウマはオフィスまでの帰路に着くのであった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「ごちそうさま!うん、美味しかった!」

 

 新たな出会いを経た後、持ち帰った品々を平らげたショウマ。

 昨日の昼から暫く振りの食事……気の所為か、ありふれたコンビニ食だというのに普段以上に美味しく感じた。

 

『それは何よりです。さて先生、改めて今日から先生としてのお仕事を始めましょう!』

「お仕事……。」

 

 そんなショウマの様子を見守っていたアロナは、彼が食事を取り終えたタイミングを見計らって、彼に課せられた役職の立ち回りを行うよう促す。

 しかしその立ち回りをどうすれば良いのか、ショウマはまだよく分かっていない……そんな旨を雰囲気から感じ取ったのだろう、アロナは早速その指標となってくれた。

 

『このシャーレのオフィスは長い間人が居ませんでしたからね……取り敢えず、各施設が正常に稼働するかどうかチェックをしましょう!先程シャーレの施設に関するデータのロックが解除されまして、このシッテムの箱を使えば各部屋の鍵を解除する事が出来ます!』

「そっか、だからさっきは扉が開かなかったんだ……。」

『え……先生、もしかして私が寝てる間1人で外を歩き回っていたんですか!?駄目ですよそんなの!いくら建物の中とはいえ、1人で出歩くのは危険です!』

 

 急に始まったアロナの小言が耳に刺さる中、ふと自身の服装に目が行く。

 いざという時自身のガヴを露出させる為のチャックが腹部に付けられているこのパーカーは、元の世界でも一点物だった。

 故に今着ているこの服は、キヴォトスに来た時からずっと変えずに着続けているのだ。

 

『っていうか、先生銃も持ってないんですか!?このキヴォトスに於いて銃を持ってないというのは、命も含めてどうぞ好きにしてくださいと言っているようなものですからね!?先生、今すぐさっきの売店に行って適当な銃を……!』

「い、いや良いよ銃は!それより建物の中を回るんでしょ!?アロナちゃん案内お願い!」

 

 無論ちゃんと洗濯はしているが、昨日は騒動が終わってそのまま寝てしまった為、それが出来ていない。

 シャワーやお風呂にも入れていないから、臭いが気になる所……これから確認に回る中でそういった施設がある事を願いたい。

 そんな事を思いながら、なおも終わらぬ様子のアロナの小言が妙な発展をする前に、ショウマは再び部屋を出たのだった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

『ひとまず、こんな所ですかね?いや~色んな施設が在りましたね!』

「射撃場とか兵器の格納庫とか、凄い物騒な場所も在ったけどね……。」

 

 そうして時刻が8時を迎える頃、S.C.H.A.L.E(シャーレ)の施設に該当する箇所を回り終えた2人。

 図書館に体育館、食堂や視聴覚室、ショウマが望んでいた洗濯室やシャワールーム、大浴場なんて施設が在る中、やはり異質だったのは今口にした通り射撃場や兵器等の格納庫といった存在。

 そういった施設を回っていた時、自らの顔が引き攣っていた事は彼自身よく分かっている。

 そうやってアロナと会話をしながらオフィスまで戻ると、室内に見覚えの有る人影が。

 

「おはようございます、先生。申し訳ありません、朝早くからお越ししてしまって。」

「おはようリンちゃん、大丈夫だよ。」

『おはようございます、リンさん!』

「懸念事項は早めに対処しておこうと思いまして……あなたも、おはようございます。」

 

 室内に居たのは、リンであった。

 どうやら昨日再びここへ来ると言っていた約束を、早速果たしに来たらしい……真面目な子である。

 

「それで、懸念事項って?」

 

 しかしその約束が懸念事項という名の下である事は知らぬ話である。

 彼女は一体、何に対して懸念を抱いているのか?

 

「……先生の業務に対して、伺いを立てに来たのです。」

『そうです!各施設のチェックも済んだ事ですし、いよいよお仕事の時間ですね!』

「先生の、仕事……。」

『そうですねぇ、やはりまずはデスクワークからでしょうか?あれだけ溜まっちゃってますもの……期限が直近までのものも有る筈ですから、それから手を付け初めて……。』

 

 業務という言葉にアロナが反応を示す。

 彼女は先生たるショウマのサポートを主とするAIだ、いよいよ自身の本領の発揮所だと身が引き締まる思いなのだろう。

 しかし……。

 

「単刀直入にお伺いしますね。先生……あなたは、先生としての務めを全うされる気は有りますか?」

『……へ?』

 

 

 

 

 

「あなたは……このキヴォトスに先生として就任する気はお有りなのですか?」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「いやぁ悪かったってばーアヤネちゃーん。ラーメン奢ってあげるからさ?怒らないでー、ね?」

「別に怒ってません……。」

「はい、お口拭いて~……うん!よく出来ました☆」

「赤ちゃんじゃありませんから!」

 

 突然だが、奥空 アヤネは激怒した。

 必ず、かの邪智暴虐(親友及び先輩)(馬鹿な思考)を除かなければならぬと決意した。

 

「何でも良いんだけどさ……何でまたうちに来たの?」

「アヤネちゃん、チャーシューもっと食べるー?」

ふぁい(はい)。」

「私の分もあげちゃいます☆」

ありぁほうほはぃはふ(ありがとうございます)。」

「話聞けっての。」

 

 アヤネはチャーシューの魅力に勝てなかった。

 アヤネは、単純な女であった。

 ショウマがリンによって連邦生徒会へ連れられて1日が経過し、彼からも一応の連絡は貰ったものの、それでもその姿が見えないとなると、何だか落ち着かないものがある……少女達の中でも、ショウマの存在はすっかり定着していたのだ。

 そんな中で開かれた、委員会の定例会議……学校の負債をどう返済するか、新たな意見が生まれるやもしれないという事で、本当はショウマにも出席をして貰いたかったのだが、居ないものは仕方無いとして、いつものメンバーで会議を執り行う事に。

 しかしそれが災いしてか……。

 

 

 

 

 

─この間街で声を掛けられて、説明会に連れていって貰ったの!運気を上げるゲルマニウムブレスレットっていうのを売ってるんだって!これね、身に付けてるだけで運気が上がるらしくって、これを周りの人達に売り込めば……!

 

─簡単だよー、他校のスクールバスを拉致ればOK!登校中のスクールバスをジャックして、うちの学校への転入書類に判子を押さないとバスから降りられないようにするのー!これで生徒数がグンと増える事間違い無ーし!

 

─前にアニメで見たんですけど、どうやら学校を復興させる定番の方法は、アイドルみたいなんです!だから私達全員がアイドルとしてデビューすれば……!

 

 

 

 

 

 出てくる意見はどれもこれもふざけたものばかりであって。

 まぁいつもの事と言えばいつもの事ではあるのだが、それでもこれまでに何十回とこうして平行線を辿られてしまえば、如何に普段温厚なアヤネとて堪忍袋の緒が切れるというものであって……。

 

 

 

 

 

─み~な~さ~ん~……

 

 

 

 

 

いい加減にしてくださぁぁぁい!!!

 

 

 

 

 

 そんなこんなでお昼過ぎ。

 昼御飯に再び柴関ラーメンを選択し、久方振りに少女達のみで会話の花を咲かせている……そんな中で、このアビドスに新たな風が吹き始めようとしていた。

 

「あ……あの……すみません……ここで一番安いメニューって……お、おいくらですか……?」

 

 おずおずとした声が掛けられる。

 見るとそこには店の戸を半分程開け、そこから半身だけを覗かせる、どこかの学校の生徒たる少女の姿があった。

 

「いらっしゃいませ!一番安いメニューだと……580円の紫関ラーメンです!看板メニューなんで美味しいですよ!」

「あ……ありがとうございます!」

 

 そんな少女……名を伊草(いぐさ) ハルカという……に対してセリカが従業員らしく対応すれば、ハルカは不安げであった表情をパッと晴れやかなものへ変え、店の外へ何やら合図のようなものを出した。

 

「えへへ、やっと見つかった!600円以下のメニュー!」

「ふふふ……ほら、何事にも解決策は有るのよ……全部想定内だわ。」

「そ、そうでしたか!流石社長、何でもご存知ですね……!」

「本当に想定内なら良いんだけどね。」

 

 すると店内へ入ってくる、ハルカを含めた4人の少女。

 見るものが見ればただならぬ存在感を放っていると分かる彼女達こそ、何を隠そう便利屋68のメンバー。

 報酬さえ支払われればどんな仕事とて引き受ける裏稼業、便利屋を生業とする危険な集団である。

 

「4名様ですね?では、お席にご案内しますね!」

「んーん、どうせ1杯しか頼まないし大丈夫。このお店テイクアウト出来る~?」

「あっ……すみません、テイクアウトには対応していなくて……混雑を気にしていらっしゃるのならば心配なさらないでください。今はちょうどお客様の来店が少ない時間なので。」

「おー、親切丁寧な店員さんだね、ありがとう!それじゃあお言葉に甘えて……あ、わがままついでにお箸は4膳でよろしくね?優しい優しい店員さん。」

 

 そうとは知らずに接客を続けるセリカの相手となっているのは、浅黄(あさぎ) ムツキという少女。

 その表情は恐らく普通にしていながらもどこか蠱惑的な色を放っており、彼女の……ひいては便利屋68の底知れなさを魅力へと変換して引き立たせている。

 

「え、4膳ですか?……まさか1杯を4人で分け合うつもり?」

「っ!!ご、ごめんなさいごめんなさい‼貧乏ですみません‼お金が無くてすみません‼」

「えっ?いやその……別にそう謝らなくても……!」

「いいえ‼お金が無いのは首が無いのと同じ‼生きる資格なんて無いんです‼虫けらにも劣る存在なんです‼虫けら以下ですみません‼」

 

 と、ムツキの発言に怪訝な感情を抱いたセリカに対し、突如として頭を下げ始めるハルカ。

 先程までの気弱な態度を一変させたその姿は、裏社会でも幅を利かせられる程の力と危険性を持つ彼女達便利屋68の在り様を表しているかのようだ。

 

「はぁ……声でかいよハルカ、周りに迷惑……。」

 

 そんなハルカを嗜めるのは鬼方(おにかた) カヨコ、便利屋68の頭脳(ブレイン)担当だ。

 裏社会を力だけで生き抜く事は出来ない……いつでも冷静に、そして客観的に物事を見据えられる彼女は、便利屋68になくてはならない存在である。

 

「……かしこまりました。すぐにご用意致しますので、少々お待ちください。」

「よろしく……全く、まさか1つのラーメンを4人で分け合う事になるだなんて、変な勘違いされてなければ良いけど。」

「まぁ確かに私達はいつもそんなに貧乏って訳じゃないからね、強いて言えば金遣いの荒いアルちゃんの所為だし。」

「アルちゃんじゃなくて社長でしょ、ムツキ室長?肩書きはちゃんと付けてよ。」

「ん?だってヘルメット団を片付けるって仕事は終わった後だし、アビドスの方の仕事はこれからな訳じゃん?つまり今はフリータイムって事でしょ?」

「それに社長って言ったって、社員にラーメン1杯満足に奢れない社長って……。」

「でもこうして実際にラーメンを口に出来る訳でしょ?今のヘルメット団(今頃それさえ出来ないであろう奴等)と比べれば天と地程の差があると思わない、カヨコ課長?」

「たったの1杯じゃん……せめて4杯分のお金は確保しておこうよ……。」

「ぶっちゃけ忘れてたんでしょ?ねぇアルちゃん?夕飯代取っておくの、忘れてたんでしょ?」

 

 そして先程から少女達にアルちゃんや社長と呼ばれている彼女こそ、名を陸八魔(りくはちま) アル

 便利屋68の元締めとして、これまでの過酷な日々を強かに生き抜いてきた無法者(アウトロー)だ。

 

「まぁリスクは減らせた方が良いし、今回のターゲットはヘルメット団みたいな雑魚と同じ様には扱えないって事には同意する……でも全財産叩いて人を雇わなきゃいけない程、アビドスは危険な連中なの?」

「それは……。」

「多分アルちゃんもよく分かってないと思うよ?だからビビっていっぱい雇ってるんだよ。」

「誰がビビってるですって!?言ってるでしょう、全部私の想定内だって!失敗は許されない……あらゆるリソースを総動員して挑むのよ!それが我が便利屋68のモットーなんだから!」

「初耳だね、そんなモットー……。」

「今思い付いたに決まってるよ。」

「うるさい!じゃあ今回の依頼を成功させて報酬が手に入ったらすき焼きにするわ!だから気合い入れなさい、皆!」

「す、すき焼き……!?それは一体……!?」

「大人の食べ物だね、凄く高価な……。」

「う、うわぁ……私なんかが食べて良いものなんでしょうか……食べた後は腹切りですか……?」

「うちみたいな凄い会社の社員なら、それ位の贅沢はしないとねぇ?」

「へぇ~やる気満々じゃん、アルちゃん!」

「アルちゃんじゃなくて社長!」

 

 そんな彼女達がこのアビドスへ何をしに来たのか……それはヘルメット団に代わってアビドス高校と、そこに通う生徒達を始末するという依頼を承っているからだ。

 先程から微妙に緩い会話を繰り広げている彼女達だが、その実力は確かなもの……近日ヘルメット団がアビドス高校へ手を出してこなかったのも、依頼主からの命の下に彼女達が主たる団員を軒並み排除していたからこそ。

 アビドス高校は今、かつてない危機に見舞われようとしていたのだ。

 と、そんな事は露程も知らぬセリカが、注文された柴関ラーメンを持ってくる。

 しかしその数は全部で4つ……1人分を4つに分けたものではなく、1人分が4つである。

 

「お待たせしました!お熱いのでお気を付けて!」

「お、来たきた♪……って、あれ?」

「何か4人分来たんだけど……?」

「こ、これはオーダーミスなのでは!?こんなに食べるお金有りません……!」

「いやいや、これで合ってますって!580円の紫関ラーメン並盛り1人前!ですよね、大将?」

「あぁ。ちょっとボサッとしててな、作る量を間違えちまったんだ。おかげで必要以上に待たせちまった訳だし……詫びの印って事で、遠慮せずに食ってくれ。」

 

 これはおかしいと聞いてみれば、返ってきたのはあからさまに意図されていると分かるやり取り。

 その真意が分からずに便利屋の少女達が困惑していると……。

 

「貴女達が抱えている事情は分からないし、深くも聞かないでおくけど、1つだけ言わせて……お金が無いのは罪じゃない!大丈夫、胸を張って!」

「へっ?……はい⁉」

「お金は天下の回りもの……そもそもまだ学生だし、それでも少ないお金をかき集めてここに来てくれたんでしょ?そういうのが大事なんだよ!大将もああ言ってるんだから、遠慮しないで!」

 

 何故か急に高説を垂れ始めたセリカ。

 終いには明らかに良い事言ったというような表情で、「どうぞごゆっくりー!」とまで言われてしまう始末。

 

「……やっぱり変な勘違いされてるじゃん。」

「何かよく分かんないけどラッキー!いっただっきまーす!」

「さ、流石にこれは想定外だったけど……ここは厚意に応えてありがたく頂かないとね。」

 

 正直全く訳が分からないが、あの却って気持ちが良くなる程のドヤ顔に免じて下手な追求はしないでおく事に……それよりも目の前のラーメンである。

 見た目は普通のラーメンであるが、何故であろうか……先程運ばれてきた時から、胃袋がこのラーメンを欲していて仕方がない。

 今まで一度も食べた事がない筈なのに、既にこのラーメンは絶品であると脳が認識してしまっている……それ程までにお腹が減っているという事であろうか?

 

「「……‼」」

 

 果たしてそう思いながらラーメンを口にした瞬間、少女達全員の目が一斉に見開かれた。

 

「お、美味しい……‼」

「中々イケるじゃん‼こんな辺鄙な場所なのにこのクオリティなんて‼」

 

 決して食方面に明るくはないので1つ1つの仔細を語れる訳ではないが、それでも言える……このラーメンは、麺、スープ、具材、そのどれもが高いレベルの完成度を誇っており、そしてそれらがまた非常に高いレベルで調和している。

 星付きのシェフ等が作ればまだ上が見込めるのか知れぬが、少なくとも下町の職人が作るラーメンの中では間違いなく最上級……これに並び立てるメニューはキヴォトス中を探しても片手で数えられる程しか存在しないであろう。

 だというのにお値段580円だと?倍の値段払っても全く構わないとさえ思えるこのラーメンがお値段なんと580円?

 馬鹿な、ありえない、実は騙されているのではと逆に恐々とする便利屋68……そんな彼女達の下にそろりそろりと近付く影が。

 

「でしょうでしょう?美味しいでしょう?」

「あれ、向こうの席の……?」

 

 それは離れた場所で先に食事を堪能していた、ノノミであった。

 いや、ノノミだけではない……彼女の背後から、ホシノとアヤネも同じ様に顔を覗かせている。

 

「うんうん、ここのラーメンは本当に最高なんです!遠くからわざわざ来るお客さんも居るんですよ?」

「えぇ、分かるわ!色んな場所で色んなのを食べてきたけど、このレベルのラーメンは中々お目に掛かれないもの!」

「えへへ……私達、ここの常連なんです。他の学校の皆さんに食べて頂けるなんて、何だか嬉しいです……!」

「わ、私、こういう光景見た事があります。1杯のラーメン……でしたっけ?」

「うへ~、それは1杯のかけそばじゃなかったっけ?」

 

 柴関ラーメンの美味しさを皮切りに、そのまま談笑に耽る少女達。

 アビドスの少女達からすれば滅多にない、他校の生徒達との交流……厨房から様子を伺っているセリカの表情も、とてもにこやかなものである。

 

「……。」

 

 しかしそんな仲睦まじき団欒を、1人だけ違う視線で見ている者が居た……カヨコだ。

 

「(連中の制服……。)」

「(あれ、ほんとだ。)」

 

 カヨコは隣に座るムツキに注意を促し、そしてムツキもそれに気付く。

 そう、アビドスの少女達はセリカ以外皆学校の制服を着ている……そして便利屋68が今回承っている依頼は、アビドス高校とそこに通う生徒達の始末。

 当人達はまるで知らぬとはいえ、便利屋68に標的(ターゲット)であるとバレてしまったのだ。

 

「うふふっ!まさかこんな所で、それもこんなに気の合う人達と出会えるなんて!これは全くの想定外だけれど……良いわ、こういう予測出来ない出来事こそ人生の醍醐味じゃないかしら!」

「(……アルちゃん気付いてないみたいだけど?)」

「(……言うべき?)」

 

 しかしハルカはともかく、肝心のリーダーであるアルが気付いていない。

 彼女もアビドス高校の制服については知識として入れてある筈だが、会話に夢中になりすぎてその事実が抜けているようだ。

 話のウマが合う事自体は結構だが、仕事の事を考えればこれ以上親睦を深めるのはあまり良くない事だと思われるが……。

 

 

 

 

 

「(……面白いから放っておこっか♪)」

 

 浅黄 ムツキ、日々の楽しみの1つは幼馴染でもある彼女、陸八魔 アルを全力でからかう事であった。

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