キヴォトスに来たおカシな先生   作:ナリカオル

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第14話「恩知らずな正義」

「それじゃ、気を付けて!」

「お仕事上手くいきますように!」

「あははっ!了解!貴女達も学校の復興、頑張ってね!私も応援してるから!」

 

 柴関のお店で遭遇し、すっかり意気投合したアビドスの少女達と便利屋68であるが、お昼ご飯も食べ終え、惜しくも別れの時が来てしまった。

 また何処かで会える事を夢見て、少女達は互いに笑顔で手を振り、それぞれの道を行く事に。

 ただ2人……ムツキとカヨコの、口以上に物を言いたげであった眼差しには誰も気付かずに。

 

「ふぅ……良い人達だったわね。」

「そうだね~。ところでアルちゃん、気付いてる?あの娘達の制服。」

「え?制服?何が?」

「あいつら、アビドス高校の連中だよ。」

 

 

 

 

 

 ……。

 

 

 

 

 

「……ななな、なっ、何ですってぇぇぇえ!?」

「あははっ!何その反応、ウケるー!」

「本当に気付いてなかったのか……。」

 

 アルに電流走る。

 それは彼女にとって余程の衝撃だったのだろう……その表情は白目を剥きながらあんぐりと口を開け放つという、あまり女の子がしちゃいけないようなものとなっていた。

 

「えっ!?そ、それって私達の標的(ターゲット)って事ですよね!?わ、私が始末してきましょうか!?」

「あははっ、遅い遅い。どうせ明日になったら仕掛けるんだし……その時暴れよ、ハルカちゃん?」

「う、嘘でしょ……あの子達がアビドス高校の生徒達だなんて……うぅ……何て運命の悪戯……。」

 

 このアビドスという土地に初めて訪れ、何と心温まる場所であるかと思った矢先のこの現実。

 未だ白目を剥きながら膝を付いているアルに対し、「心優しいアルちゃんにこの状況はキツいよねー。」とムツキ。

 

「でも……情け無用、お金さえ貰えれば何でもやります、がうちのモットーでしょ?今更何悩んでるの?」

「そ、そうだけど……ほ、本当に?私これから、あの娘達を……?」

 

 まだ白目を剥いて狼狽えている陸八魔 アル。

 これは完全に参ってるね……と、言葉にしないながらカヨコは呆れるも、やがてアルは突然すっくとその場で立ち上がり、両頬をバチン!と手で叩いた。

 

「いいえ、このままじゃ駄目よアル!一企業の長として、このままじゃ……!行くわよ、バイトを集めて!」

「え?今?明日じゃなくて?」

「そう!明日じゃなくて今!この決意が鈍らない内に手早く済ませるわよ!」

「ちょっと待って社長、今からだとバイトの連中の時間が……!」

「お黙りカヨコ課長!会社の事業に必要なのは即断即決即実行よ!ムツキ室長、前倒し分報酬も弾むからすぐに集まるようバイト達に伝えなさい!」

「OK!……あ、もしもし~?」

「いや人の話を……!」

「うん、じゃあよろしく~……って事で、集まってくれるみたいだよ?」

「よろしい、じゃあ行くわよ!」

 

 だいぶ古典的な方法であるが自力で立ち直った彼女は、何故か制止の声を上げるカヨコを無視して行動に移る。

 

「りょうか~い!」

「はぁ……もうどうなっても知らないからね……。」

「アル様!わっ、私、頑張りますから!」

 

 そしてリーダーのアルが行動に移った事で、社員たるムツキ、カヨコ、ハルカの3人も同様に動き出す。

 

「1人残らず……ぶっ潰しちゃいますっ‼」

 

 アビドス未曾有の危機が、いよいよ襲い掛かろうとしていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「……。」

『……。』

 

 アビドス市街。

 連邦生徒会、そしてD.U.での用事を終えたショウマは、シッテムの箱を片手にこの地へ帰ってきていた。

 そして現在のアビドスの地理を知りたいとの事で、シッテムの箱の電源は付けっぱなし……つまりはアロナも目覚めている状態であり、しかし2人の間に流れている空気はあまり明るくなく、会話も少ない。

 それは数刻前、S.C.H.A.L.E(シャーレ)のオフィスでリンと会話を交わした後から続いているものであった。

 

 

 

 

 

─先生として就任する気……?な、何を言っているんですかリンさん?先生は、このキヴォトスの先生として連邦生徒会長から……。

 

 数刻前、リンが問うた旨。

 その意味する所が全く分からないとして、アロナはその質問に同じく質問で返すしかなかった。

 ショウマという存在は、先生としてキヴォトスに就任するという前提の下でこの地へ来訪したものである筈。

 しかしリンの問うた事は、その前提を否定しかねないものであった……今この場に彼が居る事が、その前提の何よりの証明である筈だというのに。

 

─……ごめん、正直に言うと……分かんない。

 

 だからこそ、そんな戯れ言とも言えるような問答が真実として成り立ってしまった事に、アロナは言葉を失ってしまった。

 

─皆は連邦生徒会長って人が俺を先生に指名したって言うけど、俺は全然そんな覚えが無いし……それに、俺には帰らなくちゃいけない場所が有る。ここには何も言えずに来ちゃったから……皆心配してると思う。俺自身、向こうでやりたい事、やらなくちゃいけない事も沢山有るから……。

 

 シッテムの箱に搭載されているメインオペレートシステム、A.R.O.N.A……つまりは自身が製造された目的、そしてその役割というのはインプットされている情報から既に十分理解している。

 このシッテムの箱のシステム管理者として、連邦生徒会長から指名された連邦捜査部S.C.H.A.L.E(シャーレ)の先生のアシストを行う……それが自分の存在意義である。

 

─……分かりました。では、その件については一度保留としましょう。S.C.H.A.L.E(シャーレ)の活動は、先生が居なければ成り立たないものですから。

 

 しかし、しかしだ……そんなS.C.H.A.L.E(シャーレ)の先生が、そもその役割を果たすつもりは無いと言うのであれば、その存在意義は果たしてどう意味を為すというのであろうか?

 

 

 

 

 

「……ロナちゃ……アロナちゃん?」

『えっ?あ……な、何でしょうか?』

「いや、大丈夫かなって……呼んでも全然反応してくれなかったし……。」

『ご、ごめんなさい!アロナは大丈夫です!ご心配お掛けしました!』

 

 そう、アロナはその自問に今でも答えを見出だす事が出来ずに居たのだ。

 それ故にどうしても上の空となってしまい、今もこうしてショウマから声を掛けられなければまともに気を持たせられない程。 

 

「それで、どう?アビドスの状況を知りたいって言ってたけど……。」

『はい。なにぶんその辺りのデータもロックが掛かってまして……街頭カメラの映像や電波放送など、あらゆる情報を使って現在のアビドスがどのようになっているか調べています。』

「えっと……それって、大丈夫な事なんだよね?」

『だ、大丈夫ですよ!?ちゃんと裏で許可取ってますから!』

 

 対するショウマは、会った頃から変わらずの様子というか……まるで気にしていない素振りである。

 彼の言い分が正しければ、突然訳も分からずここ(キヴォトス)へ来てしまったという事で、半ば他人事のように思っているのかもしれない。

 

『それにしても、これは想像以上でしたね……ざっと見積もりを立ててみましたが、それでも全体の約半分……いえ、それ以上の土地が既に砂の中に埋もれてしまっています。街として機能しているとは、あまり言えない状態ですね……。』

 

 それが、少し癪に触った。

 こちらは自身の自己同一性(アイデンティティ)さえ揺らいでいるやもしれないというのに

 被害者面とまでは言わないが、こちらの思いに素知らぬままで居ようとして……。

 

『先生、これはあくまで提案なのですが……アビドスの皆さんに、他の学校へ転校するよう薦めるのはいかがでしょうか?』

「転校……?」

『アビドスの皆さんの気持ちも分かります……ですが、気持ちだけでアビドスの砂漠化が治まる訳ではありません。借金の問題も有りますし……。』

 

 我ながら、性格が悪いと思った。

 否定している先生という呼称を端緒に発し、逃れようとしている業務に抵触するよう促して。

 彼女達が抱えている借金の問題も、尤もらしく理由に添えて。

 

「……そうかもね。」

 

 困らせてみたかったのだ。

 何食わぬ顔で居ようとする彼に、自分達の存在と向き合って貰いたかった。

 そして目論見通り、彼は愁えた表情を浮かべながら僅かに視線を落とす。

 これで少しは気に留めて貰えるかと考えれば、してやったりと思わなくもないが、それ以上にやはり心が痛んだ。

 AIに心が有るのか、とは古来から続く永遠の論争となってしまうのでここでは省略するが、少なくともやってはいけない事をやってしまったという自覚と自責は有る。

 彼の、まるで必要以上に傷を負ったような気配を感じてしまえば……。

 

「……あれ、皆?」

 

 と、いよいよアビドス高校を目前にした所で、ショウマが溢した呟き。

 アロナも画面越しに窺ってみれば、数人の生徒を乗せた車……アヤネを運転手としたホシノ、ノノミ、セリカの4人が、こちらへ向かってきていた。

 

「えっ、ショウマさん!?いつ戻ってきたの!?」

「ついさっきだよ。あ、そういえばこれから戻るって連絡してなかったっけ……。」

「もしかして、駅に着いてから歩いてここまで?言って下されば迎えに行く事も出来ましたのに……。」

「ごめんね、ちょっとやりたい事もあったからさ……それで、皆どうしたの?車まで出して……何かあったの?」

 

 車は運転免許を持っているのがアヤネ1人だけの為、普段はそう使われる事は無い。

 以前ヘルメット団に攫われたセリカを救出しに行く際に実は使われていたりしたのだが、逆を言えば車を使用するというのはそういった徒歩で向かうのが困難かつアヤネでさえ前へ出なければならない程の事態が起きているという事。

 それは一体何なのか、ショウマは不穏な空気を感じ取りながら少女達へ問うてみる。

 

「実は、ここから15㎞南の地点で大規模な兵力を確認したんです……!」

「大規模な兵力……もしかして、またヘルメット団の子達?」

「いえ、傭兵です!恐らく日雇いの!」

「傭兵……!?」

 

 傭兵などという、これまで以上に物々しい肩書きを前に、ショウマとアロナの間に緊張が走る。

 しかも日雇いとなると、誰かがその傭兵達を金で雇った事になる。

 ヘルメット団がその雇い主かと思ったが、傭兵を雇うなら相応に高い値段を支払う必要が有るらしく、連邦生徒会へ壊滅的被害を受けたと報告さえされたヘルメット団にそんな大層な資金は残されていないだろうと少女達は推測しているらしい。

 

「そう!それでこのまま放っておくわけにもいかないから、様子を見に行く事にしたの!だからショウマさんはこのまま学校に居て!今回は本当の本っ当に危ないから!」

 

 では一体誰がそんな者達をけしかけてくるというのだろうか……それを知るには、やはりこの目で直接確めてみるしかない。

 そうして少女達はショウマを置いて件の場まで向かおうとした。

 

「待って。」

 

 が、ホシノの一声でその動きが一旦止まる。

 彼女は何かを深く思案しているのか、じっと目を閉じ黙していたが、やがてゆっくりと瞼を開け、そしてショウマの事を見据え……。

 

「……来るでしょ?」

 

 そう、言ったのだ。

 

「ホシノ先輩!?」

「嘘!?本気!?」

「止めたってどうせ来ちゃうよ、ショウマさんなら。だったら最初から居るの前提で動いた方が良い……その代わり、絶対前に出て来ちゃ駄目だからね?流石に傭兵ってなると、ヘルメット団みたいな連中とは話が違うからさ……おじさん達との約束ね?」

 

 口調こそ普段のように優しげであるが、眼差しはその口調とは裏腹な色を宿している。

 前にセリカの身に危険が迫った事を知った時の眼差し……それに通ずる色。

 ショウマは深く頷きを返すと同時に車へと乗り込んだのだった。

 その色を、込められている想いを、深く心に刻んで。

 

 

 

 

 

 刻み込んだ、筈で。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 アビドス高校から南へ10km程離れた地点。

 地域住民の減少に伴い、閑散としている街外れの大通り……その通りを銃火器を持った集団が、文字通り目一杯に拡がって闊歩している。

 頭上にヘイローを浮かべる、つまりはどこかの学校の生徒たる少女達が、10人20人という話ではなく、下手すれば50人は居るのではとも思える人数で以て、ショウマ達の前に立ち塞がる。

 その先頭に、他とは明らかに風貌が異なる4人の少女の姿が。

 そしてその少女達を見て、意外にもアビドスの少女達が反応を示した。

 

「あれ……ラーメン屋さんの……?」

「誰かと思ったらあんた達だったのね!?ラーメン3杯分もツケにしてあげたってのに……この恩知らず!」

「あははっ、その件はありがと。でもそれはそれ、これはこれ……こっちも仕事でさ。」

「残念だけど、公私ははっきり区別しないと……受けた仕事はきっちりこなす。」

「えっ、知り合い?」

「うん、お昼の時にラーメン屋さんでね……そっか、仕事でこっちまで来たって言ってたけど、それが便利屋としての仕事だったんだ。」

 

 何とアビドスの少女達と目の前に居る4人の少女達は、自身が居なかった間に既に顔を合わせていたのだという。

 そんな中で便利屋という聞き慣れない言葉が出てきた事で首を傾げるショウマだったが、アロナが察し良く思う所に気付き、解説に回る。

 

『要は何でも屋さんの事です。報酬さえ貰えれば、どんな仕事でも引き受ける……その仕事がどれだけ汚れたものでさえも、です。』

 

 そしてその解説を受け、過去にノノミから言われた事が脳裏に思い起こされる。

 

─何でも屋と言えば、文字通りどんな依頼であろうと仕事をこなす人達の集まりですからね。たとえその仕事が、全く関係の無い人達を手に掛けるなんてものでも……。

 

 何でも屋=便利屋……であれば成る程、あの時少女達が警戒を示した理由が良く分かる。

 目の前に拡がる、確かにヘルメット団とは違うこの空気の圧を感じれば。

 

「もう!学生ならもっと健全なアルバイトが有るでしょう!?それなのに便利屋なんて……!」

「ちょっ、アルバイトじゃないわよ!歴としたビジネスなの!肩書きだって有るんだから!」

 

 にしても、何という数奇な巡り合わせ……それに関しては向こうも同じ事を思っていたらしく、それまで苦々しい表情を浮かべていたリーダー格の少女……陸八魔 アルであったが、自身等が請け負っている仕事を貶されては黙っていられないとして、彼女は肩に羽織っているコートをバサリと翻しながら、まず己を誇示するように自身の胸元に手を置き、次いで端の方に居るムツキ、横に居るカヨコという順番で指を差す。

 

「この私が社長で、あっちが室長!で、こっちが課長!」

「……そこに居る娘は?」

「この娘は……平社員。い、いずれは相応しい役職を与えるつもりだから!」

 

 だが1人だけそれらしい役職が与えられていない事実をホシノに指摘され、先程までの威厳を含ませようとした姿を途端に萎縮させるアル。

 当の本人たるハルカも「平社員ですみません‼すみませんっ‼」と何故か頭を下げる始末であり、初めて出会ったショウマからしてみても、何だか微妙に締まらない印象を受ける。

 

「それで、誰の差し金?……いや、答える訳無いか。」

「えぇ、勿論企業秘密よ。」

「うへ、なら無理矢理にでも話を聞くしか……。」

 

 しかしそれで話が有耶無耶になって絆されるなんて事は無く、瞬く間に空気は一転して一触即発の状態へ。

 ヘイローから取り出されたホシノの散弾銃(Eye of Horus)……その銃口が、便利屋達へ向けられる。

 他のアビドスの少女達も、ホシノの行動を皮切りにそれぞれの武器を取り出し、狙いを目前の集団へ。

 

「(また……戦うんだ……。)」

 

 そう、始まるのだ。

 ここからまた、彼女達の戦いが。

 ならば言われた通り、自分は下がっていなくては。

 危険なのだから、邪魔をしてはいけないのだから。

 

 

 

 

 

─ショウマさんには関係無いでしょ⁉私達の事なんて⁉どうせすぐ居なくなる……余所者だっていうのに、どうして……⁉

 

 

 

 

 

 ……けど。

 

 

 

 

 

─先生は今後キヴォトスの生徒達が直面している様々な問題を解決していくのです……単純に見えても決して簡単ではない、とっても重要な仕事です。

 

 

 

 

 

 ……けれども。

 

 

 

 

 

─先生……あなたは、先生としての務めを全うされる気は有りますか?

 

 

 

 

 

 それでも……。

 

 

 

 

 

「待って!!ホシノちゃんもそっちも1回落ち着いて!!」

 

 気付けば、前へと出ていた。

 アビドスの少女達と、便利屋達の間に割って入っていた。

 

「なっ……ちょっとショウマさん危ないわよ!!こっち戻ってきて!!」

「そちらの皆さん、動かないでくださいね!ショウマさんに手を出したら私達怒っちゃいますよ!」

「……え、誰?」

「分からない……アビドスの生徒って感じじゃ無さそうだけど……。」

「お、何気ない情報通のカヨコっちでも分からないときたかー……これはちょっと面白そうな予感?」

 

 睨み合う両者の間に立ち、仲裁の声を上げるショウマ。

 その突然たる行動にアビドスの少女達の間には動揺が走り、逆に彼の者を知らぬ便利屋達は揃ってその存在を訝しみ、それによって破裂寸前であった場の空気が一旦和らぐ。

 

「……ごめんねショウマさん、ちょーっとそこ退いてくれないかな?じゃないとその子達を狙えないからさ。」

「ごめんホシノちゃん、少しだけ俺に話しをさせて……お願い。」

 

 しかしその行動はあまりに無謀。

 当然それを咎めるような視線や言葉を向けられるが、ショウマはそれでも退かない……そして願いが聞き届けられたのか、彼はホシノ達がそれ以上の手出しをしてこないのを認めてから、ゆっくりと便利屋のメンバーへ向き合う。

 

「初めまして。俺はショウマ、井上 ショウマ……さっきは皆と仲良くしてくれたみたいで、ありがとね。それで、どうしてそっちの皆はアビドスの皆を狙おうとしてるの?理由を聞かせてくれないかな?」

 

 悪い癖が出た、と少女達は思った。

 恐らく傭兵や便利屋というこれまでと違った存在が敵に回る事に、彼は大きな危機感を覚えたのだろう。

 ヘルメット団のようなただの不良集団でさえ、油断すればセリカのようになる事を間近で見ていたのだから、さもありなんと言えばそうではあろう。

 

「さっきも言ったでしょ、企業秘密だって……依頼人(クライアント)との信用に関わるもの。」

「……分かった、じゃあ理由は聞かないでおく。その代わり、銃での撃ち合いとかじゃなくてさ……話し合わない?もしかしたら話せば分かる事かもしれないから……。」

 

 しかし、だからといって、彼がその身を呈して良い理由にはならない……彼がキヴォトスの生徒と比べてどれだけ身の差が有るのか、未だに分からないのだから。

 下回れば当然矢面に立つ等論外であるし、仮に上回っていたとしても、そも関わりの薄い人物にそのような真似をさせるのは流石に人道に反している……彼はあくまで、彼が元居た場所へ帰れるまで身柄を預かっているだけの、客人なのだから。

 

「えっとさぁ……人の話聞いてた?確かにあのお店では仲良くさせて貰ったけど、それとこれとは話が別なの。」

「俺はそうは思わない!何も毎回戦って解決するなんて……そんな方法取らなくても良い筈だよ!だから……!」

 

 今さっきの彼の願いだって、決して聞き届けられていた訳では無い……迂闊に動けば彼の身に危険が及ぶかもしれない、単にそれだけの話だったのだ。

 何も知らぬショウマは、便利屋から向けられる非難をはね除けるような声を上げ、そして和解を求める手を伸ばそうとした……。

 

 

 

 

 その時だった。

 

 

 

 

「「ショウマさんッ‼」」

 

 伸ばそうとしていた手が止まる。

 聞こえてきたのは、2つ。

 ダンッ、という大きな破裂音が正面から。

 それと、アビドスの少女達の悲鳴にも近い呼び声が背後から。

 

 

 

 

「……?」

 

 何が起きたのか、その2つだけでは察する事が出来なかった。

 しかし次第に自らの頬が片方だけ熱を持ち始め、やがてじくじくとした痛みが走り始める。

 そして段々と錆びた鉄のような匂いが漂い始めるのと共に滑りのある液体が頬を伝った事で、ショウマはようやく己の身に何が起きたのか知る事が出来た。

 

 

 

 

「す、すみませんすみませんっ‼でも、どうしても聞いていてイライラしてしまって……撃って良かったですよね!?撃って良かったですよねっ!?!?」

「(さっきからやけに大人しいと思ってたら何してるのこの子はあああああッ!?)」

 

 撃たれたのだ。

 目の前に居たハルカが起こした銃撃が、自身の頬を掠めたのだ。

 

「あははっ!ハルカちゃんやるぅ~!どこの誰かは知らないけどさ、聞いた感じ今までさぞ平和な所で暮らしてたんだろうね~♪」

 

 少女達へ伸ばそうとしていた手を、頬を伝う液体へ触れさせる。

 そこに付いた赤黒い色が、ショウマに現実を突き付けていた。

 

「生憎ここじゃ、そんなボケた考え方は通用しないよ?撃って、撃たれて……それが私達の生き方なの。」

「事前に調べた中に居なかった人だから、少し警戒してたけど……まあ、ある意味安心したかな。」

「(この子達もこの子達で容赦無さ過ぎでしょ!?ちょっとは手心ってものを……!?)」

 

 話し合いなんて、望んでいない。

 分かり合う事なんて、望んでいない。

 ハッと顔を上げた先で見えたのは、蠱惑的な表情の裏に嘲笑の念を秘めたムツキ。

 その視線に、未だ軽蔑の色を宿しているハルカ。

 呆気とした思いを声色に乗せながら、深い溜め息を吐くカヨコ。

 

「……そういう事だからそこを退いて頂戴、呆れたついでに見逃してあげるから。(あ~もう知らない‼適当にそれっぽい事言って、後はどうにでもなれば良いわ‼)」

 

 そしてヘイローから銃器を取り出し、1歩前へと出るアル。

 ショウマへと向けるその表情は、視線と声色は……心底冷たい。

 

「やっぱり傭兵雇うだけあって本気だねー……ほら、ショウマさん下がって。」

「この馬鹿!!どうしてあんたはそうも……!!」

「ショウマさんに手を出したら怒っちゃいますよって言いましたよね!もう許しませんよっ!」

「敵の配置、全て把握出来ました!いつでもどうぞ!」

 

 茫然としているショウマの手を引き、無理矢理自身等の背後へ退かせるアビドスの少女達。

 彼と違って元よりそういった期待をしていなかった彼女達の動きは無駄が無く、そして迅速であった。

 

「あははっ、そうこなくっちゃ!」

「ようやく仕事か……時間も押してるし、手早く済ませよう。」

「は、はいっ!今度は外しません!」

「それじゃあ始めましょうか。あなたもそこで見ていると良いわ……私達の在り方というのを。」

 

 対する便利屋のメンバーもまた、続々と己の得物を取り出し、そして構え始める。

 その行動に、迷いや葛藤といったものは一切無かった。

 

「さぁ!総員攻撃……!」

 

 始まってしまう。

 ショウマが否定しようとした展開が。

 ショウマしか否定しようとしなかった展開が。

 その始まりを、今まさにアルが告げようとして……。

 

 

 

 

 

「……あ、定時だ。」

「え?……えぇ!?」

 

 しかしそれは思わぬ形で中断される事となった。

 

 

 

 

 

「ちょ、ちょっと待って!?まだ始まってすらないわよ!?」

「そんな事言われても、契約する時言ったよね?残業は無しでって。」

「……それでも定時まではまだ少し時間が有る筈だけど?」

「仕方無いじゃん、帰りの時間とかもあるんだし……今からやり合ったって色々無駄でしょ?」

 

 突然の事態に思わず無防備に背中を晒してまで傭兵達と面する便利屋。

 時刻を見れば、確かに17時が間近に迫っている……傭兵達と契約した時に交わした、刻限の時間だ。

 しかし今居なくなられては困る、非常に困る。

 故に何とかして傭兵達に残ってもらおうと、便利屋一行は必死に考えを巡らせようとするも……。

 

「そういう事だから、後は自分達で何とかして。皆ー、帰るよー。」

「終わったってさ、帰り蕎麦屋でも寄ってくー?」

「無駄に長話してるのが悪いのにねー。」

 

 哀れ傭兵達はそんな暇を待つ間もなく揃って踵を返し、ぞろぞろと場を後にしてしまった。

 口々に物を言うその声が木霊となって、便利屋一行の耳に虚しく届く……。

 

「こらー‼帰っちゃ駄目ーっ‼」

「あー……これは私も悪かったかな……まさかここまで杜撰な連中だったなんて……。」

「えっと……私達、どうすれば……!?」

「こりゃヤバイね、アルちゃんどうする?逃げる?」

 

 あっという間に4人だけとなってしまった便利屋。

 ふと視線を感じて振り返ってみれば、それまでのやり取りを見て何とも言えない表情を浮かべているアビドスの少女達が。

 

「こ、これで終わったと思わない事ね!!アビドス!!」

「あははっ!アルちゃんそれ完全に三流悪役の台詞じゃん!」

「うるさい‼逃げ……じゃなくて、退却するわよ‼」

「はぁ……今夜ももやし鍋か……。」

「し、失礼しましたーっ‼」

 

 こうなってはもう戦うつもりはない。

 便利屋の少女達もまた、先に解散した傭兵達を追い抜く勢いでその場から退散していった。

 

「あっ、こらー!!待ちなさーい!!」

「うへー、逃げ足早いねあの娘達。」

「困りましたね……あんな妙な便利屋にまで狙われるとは……一体、何が起きているのでしょうか……。」

 

 その漫画やアニメもかくやというような逃走術にアビドスの少女達は為す術が無く、目の前に居ながらみすみす逃がしてしまう羽目に。

 しかしこれは厄介な事になった……概ねはコミカルな印象を受けたものの、いざ事を構えようとした時の彼女達の姿からは、間違いなく確かな実力に裏打ちされた威厳が放たれていた。

 彼女達を相手にするだけでも一筋縄ではいかないであろうに、今回のように傭兵を始めとしたあの手この手で攻め込まれでもしたら……。

 今後の事を思って、少女達の心に不安の文字が強く刻まれる。

 

「……。」

 

 だが今、少女達の心を一番不安にさせているのは……。

 

「ショウマさん……。」

「ちょっとショウマさん、大丈夫なの?ほら、頬っぺた怪我してるんだからこっちに……。」

 

 俯き、押し黙っているショウマ。

 沈み行く夕陽を背に立つ彼の顔には影が差し、その表情を窺い知る事は出来ない。

 

「ううん、大丈夫……大丈夫だよ。」

 

 それでも分かる、分かってしまう。

 差し伸ばされた手を拒んだ、その姿から。

 人の優しさを、労りを、思いやりを……絶対に無下になどしない、これまでの姿を知っているからこそ。

 

 

 

 

 

 

「大丈夫、だから……。」

 

 だから、それがあまりに取り繕えていない偽りだったとしても、誰も声を掛けられなかった。

 

 

 

 

 

『先生……。』

 

 その傷心に、少女達は何もする事が出来なかった……。

 

 

 

 

 

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