キヴォトスに来たおカシな先生   作:ナリカオル

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第18話「探索:ブラックマーケット」

「さて!それじゃあ早速、あなたにはアルバイトとして便利屋68の仕事を手伝ってもらうわ!まずは……!」

 

 

 

 

 

─荷物運び?

 

─そう、会社の統合によって依頼人の仕事場が変わったらしくてね。元々居たっていうこの社屋から、荷物の入ったダンボールを運んできて欲しいって依頼が来てたの。どれもそこまで重要な物では無いから、近い内であればいつでもっていう話だったんだけど……。

 

─……結構多いね。

 

─依頼人だけじゃなくて、他の社員の荷物とかも有るらしいわ……でも、これしきで怖じ気付くようじゃ便利屋の仕事は務まらない!という事で、作業開始よ!まずはこの手近な物から……せーの!ふんぎぎぎぎぎ……!!

 

─だ、大丈夫……?

 

─ちょっと待ってこれ重た……!?ふんっ!!ぐぐぐぐぐ……!!

 

─……全然持ち上がらないね。

 

─ふんにゅ~~~!!……だあああもう!!重たすぎでしょこれ!?中に何入ってるのよ!?え、こっちのダンボールは!?……これも重たい……こっちも……駄目ね……。

 

─多分、全部同じぐらいの重さなんじゃないかな?

 

─どうやらそのようね……どうする?普段と同じ格好で来たのは明らかに失敗だったわ……作業着だったらまだ何とかなりそうだけど……着替えを取りに一度出直す?それともムツキに着替えを取りに行ってもらう?いえ、どっちにしても時間が掛かる……この量と重さの荷物を今日中に捌き終えるには下手な事で時間は使っていられないし……あぁ~もう~!重要な荷物じゃないからって何で軽い物ばかりだって決め付けてたのよ今朝の私!?荷物運びをするっていうなら普通何だろうとそういう服に着替えるでしょう!?作業着姿なんて見た目からしてハードボイルドじゃない?そうだけど!!そうなんだけど!!そこは黙ってなさいよ心の中の私!!

 

─えっと……取り敢えずここに有るの全部下に居るムツキちゃんの車に載せれば良いんだよね?

 

─え?えぇそうよ……って、えぇ!?

 

─よいしょ……うん、確かに重たいや……。

 

─ちょ、ちょっと待って!?あなたこれ持てるの!?

 

─え?うん。でもアルちゃんが言った通りどれも凄く重いから2つ3つぐらいしか一度に運べないけど……。

 

─2つ3つも!?

 

ねえまだ~?ムツキちゃん暇なんだけど~?

 

─あ、ごめんね!すぐ持っていくよ!じゃあ、運んじゃうね。

 

─え、えぇ……。

 

あ、や~っと来た。荷物はそこ置いといて良いよ、そしたら後はムツキちゃんが車に……って、重!?これ重たくない!?よく3つも運べたね!?

 

力にはちょっと自信が有るから……車にも俺が載せた方が良いかな?

 

あ、うん、じゃあお願い……え、これアルちゃん持ってこれる?あの格好でこの荷物持てる?

 

─……今の内に着替えに行ってこようかしら。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

─よしよし、良い子だね~。皆ももっとこっちにおいで~。

 

─お待たせ……何か凄い数寄ってきてない?

 

─あ、カヨコちゃんお帰り。この子に構ってたら、いつの間にかね……それで、どう?この子の飼い主さんには……。

 

─連絡したよ。間違い無い、うちの子だって……これから迎えにも来るって。

 

─そっか、じゃあここで待ってれば良いね。

 

─そうだね。それにしても、猫の扱い方上手いね?もしかして飼ってた事有るの?

 

─ううん、飼ってた訳じゃないよ。ただ元々居た場所でもこういう猫探しとかはよくやってたから、ある程度は慣れてるのかも。

 

─へえ、どうりで探す時も分かってる動きしてるなって思った訳だ……元々居た場所ってアビドスの事?

 

─ううん。アビドスじゃなくて、外の世界って言えば良いのかな?キヴォトスに来る前に居た場所。

 

─外の世界……?本当に?どうやって……?

 

─うーん……連れて来られたっていうか、何て言うか……正直どう説明して良いか分かんないんだよね……。

 

─ふぅん……まあ良いけど。取り敢えず、この子達にご飯あげないと。念の為多めに買ってきといて良かったよ……あげるの、手伝ってくれる?

 

─勿論。ありがとね、カヨコちゃん。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

─ふう……これで良いかな?ハルカちゃん!こっちの草むしりは終わったよー!

 

─は、はい!ありがとうございます!早いですね……。

 

─ありがとう。ハルカちゃんの方も終わりそう?

 

─はい、後は集めた雑草を捨てるだけです。

 

─そっか、じゃあここに置いてあるのも持ってっちゃうね……って、あれ?

 

─どうかしましたか……?

 

─あ、ううん。ただちょっと気になった所があって……。

 

─気になった所ですか?

 

─うん、ほらあそこ……あの木の根本の所の。

 

─木の根本……あ、あれは……。

 

─ごめんね、あんな所にも生えてたなんて全然気付かなかった……すぐ取っちゃうね!

 

─だ、駄目です!!あの子は……!!

 

─えっ!?だ、駄目なの……!?

 

─あ、えっと……そ、そこは私がやっておきますから……だから、その……!!

 

─えっと……じゃあ、お願いするね?

 

─す、すみません……平社員の癖に生意気な事を言って……。

 

─えっ、いや大丈夫だよ!?そんな全然気にするような事じゃ……!?

 

─ッッッ!!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!私なんかの為に気を遣わせてしまって本当にごめんなさい!!やっぱり死んで償いを……!!

 

─ちょっと待って死んじゃ駄目だから!!銃出さないで!!自分の方に向けちゃ駄目ーッ!!

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「よし、頼まれてた仕事は終わらせたし……あとは帰るだけか。」

 

 アルバイトの身分として、便利屋68との生活を続けるショウマ。

 彼女達との交流はアビドスの少女達とは違う刺激に満ちているが、同時に違わない部分も多く有る……彼女達もまた、内面は普通の少女達であった事だ。

 アルは真のアウトローなるものを目指していたり、ムツキはよく人の事をからかってきたり、カヨコは以前にも感じた通りその顔付きから怖いという印象を受けたり、ハルカは時折妙なスイッチが入って暴走したりと、皆一癖二癖有るものの根はちゃんと心優しく、彼女達もまた見ず知らずの自分を邪険に扱うなんて事は無く。

 また返されこそしないが、望めばアロナとも話をさせて貰えるし、そのアロナも便利屋の少女達には普段からとても良くしてもらっていると言っている。

 便利屋稼業も本当に仕事だから情を殺して望む事が有るというだけであって、彼女達の第一は仕事の達成によって依頼人の願いを叶える事に有る……だからこそ、その情を殺しての部分がノイズとなって仕方が無いのだが。

 

「ただいま、お仕事終わった……よ……?」

 

 そんな苦悩を抱きながら事務所の扉を開けると、いち早くこちらの存在に気付いたムツキがしぃっ、と口元に人差し指を当てた。

 所謂、喋るなというジェスチャー……してその理由とはと室内をよく見てみると……。

 

「はい……そ、そうです!先日のは仰る通り予行演習のようなもので……も、もちろん実戦は直ぐにでも……えっと、1週間以内には……はい、お任せください!では……!」

 

 成る程、アルが電話中だったようだ。

 であれば確かに音を立てるのは良くないとして、ショウマはすぐに入りかけだった己の身を室内へ滑り込ませ、そして静かに扉を閉める。

 彼女の電話の邪魔にならないようにという配慮の下での行動であったが、気遣い空しくと言うべきか、丁度扉を閉めたタイミングでアルの電話も終わったようだ。

 

「はぁ~~~……。」

「お疲れー。一気にやつれたねぇ、アルちゃん。」

 

 彼女が趣味で買ったという黒電話が受話器を置いた事によってガチャリと音を立てると、間も無く椅子の背もたれに脱力して身を預けるアル。

 聞こえた内容からして仕事に関する話であるとは思うが、アウトローにはハードボイルドさなるものが求められるからと、依頼人との電話は常に余裕有る態度で行うものだと言っていた彼女が、あんな平謝りな姿勢を取っていたのは意外だとして少々気に掛かる。

 そしてその旨を問うてみれば、それこそ意外な答えが返ってきた。

 

「新しい仕事の電話?」

「んーん、アビドスの件の依頼主から。」

「え……!?」

「大丈夫だよ、そっちの仕事にショウマさんを入れるつもりは無いよ。流石にそれは酷な話だからね。」

「それで、本当に1週間以内に仕掛けるつもりなの?前みたいな戦力も無いっていうのに?」

 

 アルは確かに1週間以内に次の攻勢を仕掛けると言ったが、その為に必要となる戦力は既に手元を離れてしまっている……先日の襲撃作戦に於ける賃金の支払いによって資金が底を突いてしまい、傭兵達との契約継続が不可能となってしまったからだ。

 だがアル曰く、あの依頼主は自分達社員にも詳細を語る事が憚られる程の大物である為、失敗は絶対に許されないとの事。

 しかし新しく傭兵を雇う余裕も無い程だというのに、どうやって成功への道筋を立てるつもりなのだろうか?

 あれだけ言っていた手前、まさかこの面子だけで挑むつもりでは無かろうに……と、社員3人が揃って首を傾げている中で語られたアルの思惑、それは……。

 

「……融資を受けるわ。」

「え、何言ってんの?アルちゃん確かブラックリスト入りしてる筈じゃ……?」

「違うわよ!私は指名手配されて口座が凍結されてるだけ!」

「そうだっけ?……あーそうだったかも?確かうち(ゲヘナ)の風紀委員会にやられちゃったんだっけ?」

 

 言われて、散々に痛め付けられた過去の記憶が甦り歯軋りをするアル。

 ゲヘナの風紀委員会……よもやこんな所でまでその名に苦しめられるとは思わなかった。

 便利屋の仕事柄様々な地域に赴く事が多いが、お陰でゲヘナの自治区にだけは未だに踏み入る事が憚られる。

 特にあの風紀委員長には……!

 

「それで、融資なんてどこで受ける気?私達みたいな連中にお金を貸す、そんなお人好しな銀行がこのキヴォトスに在るとは思えないんだけど?」

「お黙りカヨコ課長!方法なんて幾らでも有るんだから!」

 

 と、碌な回想もさせてくれないカヨコの横槍をピシャリと断ち切るアル。

 確かに裏稼業を生業としている自分達が真っ当にお金を借りられる筈がない。

 だがそれは本当に文字通りの意味で事に当たったらという話……裏稼業者には裏稼業者なりの真っ当さというものがある。

 

「見てなさいよアビドス……このままじゃ終わらせないんだから!」

 

 狙うは大手の闇銀行……便利屋68もまた、時を違えながらもブラックマーケットへ向かう事となったのだ。

 

「……。」

 

 アビドスへの襲撃は、必ず成功させなければならない……その話を聞いて瞬く間に表情を暗くしたショウマの心持ちを、敢えて無視しながら……。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 アルが電話を切った、その向こう側の相手……つまりはヘルメット団や便利屋68を使ってアビドス襲撃を画策している、あの荘厳な風貌の機械人(ロボット)が、椅子に深く背を預けながら肘を付く。

 

「便利屋とて、所詮は子供だったか……?」

 

 そう言い、こめかみに指を当てながら思うは、その便利屋からの報告。

 失敗と告げられたそれは、彼からすれば予想外のものであって。

 しかもその理由が単純な先走りから端を発したものによるとなれば、尚更だ。

 これがヘルメット団から告げられたものであれば分かる……所詮は地方の不良集団、どんな理由であったとしても、元より捨て駒としての価値しかないと判断していたからだ。

 しかし彼女達は仮にも裏社会を生き抜いてきたならず者達……仕事に対する姿勢に甘い考えを挟むような連中でない事は既に知っている。

 だというのに、前倒しで襲撃を実行したら傭兵達の稼働時間を見誤り、そのまま戦闘もせずに撤退する他無かったという阿呆の極みのようなミスをしでかすものであろうか?

 何か、彼女達の思考を狂わせるようなデータの誤りでも有ったのだろうか?

 

「お困りのようですね?」

 

 と、不意に掛けられる声。

 そしてそれと同時に視界の端でちらつく人影……横目で見れば、そこに居たのは黒いスーツを身に纏った人物。

 その声質と背丈、そして身なりから成人男性と思われるが……と、奇妙な言い回しとなってしまったが、実際にかの者はそう表現するしかないような存在であって。

 

「……いや、困ってはいない。ただ少し、計算にエラーが生じただけだ。」

「お察ししますよ?今まで集めてきたデータに何か不備が有ったのではないかと……これまで何の障害も無く歩んできた出世街道に、初めて生じる壁となるのではないかと。よろしければ、その懸念を生み出す原因をお調べしましょうか?」

 

 付いていた肘を正し、かの者と向かい合う機械人……しかしこれは、本当に向かい合えているのだろうか?

 そう思うのも無理はない……何せかの者の顔と表現すべき場所に人や獣のような目鼻や口といったものはないからだ。

 かといって自分達機械のような無機質なパーツで構成されている訳でもない……かの者のそれは完全なる黒の能面。

 そこに白い亀裂のようなものが入っており、その模様が辛うじて目や口といったものに見えているだけなのだ。

 

「と言っても、既に目星は付いているのですが……。」

「何……?」

 

 彼が何者なのか、それはここに居る機械人にも分からない……ただこちらの事業に協力したいという意思と、その確かな手腕から側に置いているだけだ。

 故に、得体の知れないかの者の手を借りるのは実際には避けたい事。

 だが懸念と言われるのもまた事実……先程の物言いといい、癪に触る思いを抱きながらも頼らざるを得ない今の状況に、彼は不快な感覚と言い知れぬ危機感のようなものを覚えるのであった……。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「はぁ……しんど……。」

「そうですね、もう結構な時間歩いてますから……。」

「なのにこれといった収穫は今の所無し……いや~、流石のおじさんも参った参ったぁ……。」

 

 アビドスの学区外から離れ、ブラックマーケットへ辿り着いた私達。

 しかし問題だったのが件の場の広さ……総面積にして街1つ分にも相当していた為に、当初は意気込んだ様子を見せていたセリカちゃんもすっかり疲弊してしまっています。

 かく言う私も既に足が棒になりかねない程になっていまして……どこかに休憩出来そうな場所は無いでしょうか?

 

「あら、あそこにたい焼き屋さんが……あそこでちょっと休憩しませんか?たい焼き、私がご馳走しますから。」

「え、ノノミ先輩またカード使う気?」

「私が食べたいから良いんですよ、皆で食べましょう?」

 

 そう思っていると、ノノミ先輩がたい焼き屋さんを見つけてくれました。

 そう、たい焼き屋さん……ブラックマーケットという事で、よく創作物に出てくるような陰湿で粗悪なイメージを勝手に持っていましたが、実際に来てみればそこはあまりに意外な活気に満ち溢れていて。

 多少荒廃している建築物や柄の悪そうな通行人にさえ目を瞑れば、普通の街市場とまるで遜色無い程です。

 このたい焼き屋さんも値段や店員の対応の仕方等、見る限りでは不審な点は1つも有りません。

 

「いただきます……うん、美味しい。」

「いやぁーちょうど甘いものが欲しいと思ってた所だったんだー。」

「すみません、ノノミ先輩……いただきます。」

 

 やがてノノミ先輩がカードで支払いを済ませ、全員分のたい焼きを買ってきてくれました。

 私は先輩に感謝の意を告げながら、先輩が財布の中にしまったカードについて思考を巡らせる。

 先輩のカードは私達アビドス高校の活動資金そのものと言っても過言ではありません……これまでも対策委員会として必要な出費は殆どこのカードで支払いをお願いしていました。

 だからこそ、今までもお菓子やジュースを買っていたりと多少幅を利かせてはいましたが、本来こうした些事にカードを使うというのはアビドスの困窮具合を考えて控えなければならない行為です。

 それでもノノミ先輩が自らの主張を崩さないのはいつもの事です。

 限度額まではまだ遥かに遠いものの、あのカードで以てしてもアビドスが抱える借金の返済にまで嗅ぎ付ける事は難しく、またそれぞれが稼いだお金は殆どが借金の返済に充てなければならない為、自由に使えるお金が他に無い事、そして容易にそのような方法に頼ってはならないという満場一致の戒めもあって、そちらの方面でのカードの出費は禁止されています。

 しかしアビドスの為に貢献をしたいというのも、先輩の抱く強い想いの1つ……頑なな姿勢は、きっとその表れでしょう。

 尤も、今はもう1つ……なるべく普段通りに振る舞っていたいという思いも有るのでしょうが。

 そんな先輩の健気な姿に苦しいものを覚えながら、私は次いで先輩が持っている5()()()()()()()()の行方について思考を切り替える。

 

「わ、私の分も……良いんですか?」

「もちろんです。さぁどうぞ、ヒフミちゃんの分です☆」

 

 4人しか居ないアビドス生……先輩が5個目を買ったのは誰かが食い意地を張ったからでも無く、まして今は居ない……居れば誰よりもその意地を張っていそうな……あの人の分を間違えて買ってしまった訳でも無く、今ここに居る5人目の人に与える為。

 先輩からたい焼きを受け取ったその人の名前は、阿慈谷(あじたに) ヒフミさん……トリニティ総合学園に通う2年生の方です。

 どうして私達がトリニティの方と一緒に居るのかというと、今日私達がブラックマーケットへ来訪して間も無く……。

 

─待てコラァ!!

─う、うわあああ!!まずっ、まずいです!!つ、付いてこないでくださいー!!

─そうはいくかぁ!!

 

 ……と、ヒフミさんが不良の生徒2人に追い掛けられていた所を目撃した事から始まりました。

 ヒフミさんの逃走先に私達が居て、成り行きでノノミ先輩がヒフミさんを受け止めた事から私達も不良達に絡まれて、トリニティ総合学園はキヴォトス1の金持ち学校だから、そこの生徒を人質に取って身代金を要求する事が不良達の目的だと知って、そのあまりに成功する見込みの薄い目的を何故か誇らしげに語る不良達にどう反応するべきか困っていた所を、ホシノ先輩が話が通じなさそうだからという理由で早々に不良達を昏倒させた末に、ヒフミさんが学園からこっそり抜け出してまでブラックマーケットに来た理由がモモフレンズという作品のペロロというキャラクターの限定グッズを入手する為であった事、そしてその為にブラックマーケットについて入念に調べ上げていた事から、こちらの事情を説明し、ブラックマーケットを出るまでの護衛を引き受ける代わりに探し物の手伝いをして欲しいと話を持ち掛け、それにヒフミさんが応じた事で今のこの状況になっているという訳です。

 

「それにしても、ここまで情報が無いなんて妙ですね……販売ルートも保管記録も、全て何者かが意図的に隠さなければ有り得ない程に……。」

 

 他校の生徒との友好的な交流という極めて稀な体験を、たい焼きの温かな甘さと共に堪能していると、おもむろにヒフミさんが思う所を口にしました。

 明らかに異常である、という彼女の話を聞いてみれば、ここ(ブラックマーケット)に集まっている企業はある意味開き直って悪さをしているものだから、たとえここを牛耳れる程の組織だとしても、そこまで変に物事を隠したりはしないらしいです。

 

「たとえばあそこのビル……あれがブラックマーケットに名を馳せる闇銀行です。ここで最も大きな銀行で、聞いた話だとキヴォトスで行われる犯罪の15%の盗品が、あそこに流れているとか……。」

 

 続けて語られるヒフミさんの話によれば、横領、強盗、誘拐等々……様々な犯罪によって獲得された財貨が違法な武器や兵器に変えられ、また他の犯罪に使われる……そんな悪循環が続いているのだとか。

 

「そんなの、銀行が犯罪を煽っているようなものじゃないですか……。」

「その通りです。まさに銀行も犯罪組織なんです……。」

「酷い……連邦生徒会は一体何やってるの⁉」

「理由は色々有るんだろうけどねー、どこもそれなりの事情が有るだろうからさ。」

 

 現実は、思っていた以上に汚れている。

 身の回りの事にばかり気を取られて、私達はそれ以外の事を知らなさ過ぎたのかもしれない……ふと、そんな言葉が脳裏を過った時でした。

 付近の警戒に向かわせていたドローンから情報が送られてきたんです。

 

「待ってください!こちらに向かって武装した集団が接近しています!」

「武装した集団……?まさか、マーケットガード!?」

「マーケットガード?」

「はい!ブラックマーケットの治安機関でも最上位の組織です!見つかったらまずいです、どこかに隠れましょう!」

 

 慌てた様子のヒフミさんに押され、私達は付近の物陰へ。

 そこから顔だけを覗かせれば、やがて先程まで居た通りに武装した機械兵(オートマトン)の集団が現れました。

 

「気付かれた様子は……無さそうですね。」

「……っていうか、そもそもブラックマーケットの治安機関って何よ?何かこう……矛盾してない?」

 

 セリカちゃんの言う事は良く分かります。

 ブラックマーケットとは、ざっくり言えば悪さをする為の場所……犯罪行為が蔓延しているのがごく自然な事の筈だというのに、それを取り締まる為の組織が有るというのは確かに妙な話に聞こえます。

 守るべき平和も無い筈だというのに、一体何を守ろうとしているのか……その答えは、ヒフミさんが複雑な表情を携えながら答えてくれました。

 

「恐らく、行き過ぎた犯罪を抑制する為なのでしょう……皆さんも既に理解していらっしゃるとは思いますが、ここは違法な取引を初めとした犯罪地区で、誰もがそれを目的としてここに居ます。ですから尚の事、そういった行為には目を光らせているのでしょうね。行き過ぎた犯罪が行われて、連邦生徒会等の組織に目を付けられてしまえば、どんな事態に発展するか分かりませんから……。」

 

 ヒフミさんはぼかして言いましたが、その事態が辿る結末は誰であっても分かります……表社会を生きる人達によるブラックマーケットの弾圧、そしてそれに抗おうとする裏社会の人達との全面戦争です。

 そうなってしまえば表も裏も、どちらの社会も致命的な打撃を負う事になり、犯罪どころの騒ぎでは無くなってしまう……犯罪とは、法を侵すからこそ成立するものなのですから。

 

「悪事を行う為に悪事を取り締まる……何とも言えない話ですね……。」

 

 皮肉と言ってしまえばそれまでなのかもしれませんが、そう簡単に片付けられる話でもありません。

 先程の抗争に発展するという危惧は表社会側も認識している問題であるが為に、そういった事態に陥る事をきっと恐れている事でしょう。

 裏社会側も自制をしていますが、表社会側もまた自制をしてしまっているんです。

 突けば非常に揺れ動く程の危ういバランスであるとはいえ、それ故にこの場で起こるあらゆる出来事を表社会側は野放しにせざるを得ず、となればマーケットガードという存在は表社会側にとっても価値有る存在となってしまう……曲がりなりにも秩序が保たれているが為に、表社会はたとえそれが犯罪者と変わらぬ存在であったとしても強く出られないんです。

 皮肉と蔑むそれに救われているその構図を、逆に皮肉と呼ばずして何とする……そういった意味を含めての、ヒフミさんのこの憂いた表情なんでしょう。

 先程は外の世界を知らなさ過ぎたと感じましたが、このような事情を目の前にしてしまえば、せめて自分達は蚊帳の外であれと願ってしまいたくなるものです。

 

「それにしても、あれはパトロール中なんでしょうか?何かを護衛している様子ですが……?」

 

 さておいて、マーケットガードについての話が一段落した所で改めて通りの方へ目を向けてみれば、件の集団は未だ列を為して行進を続けています。

 牛歩のようとまでは言いませんが、それでもその進行速度は酷く遅く……ノノミ先輩が仰ったように、どうやら別の何かのスピードに合わせた足並みのようです。

 してその何かとは一体……と観察を続けていると、やがて遠くから車の走行音が聞こえてきました。

 

「あれって……現金輸送車?」

「さっきの銀行の中に……。」

 

 その正体は現金輸送車。

 私達アビドスの生徒の間では既に見飽きたとも言えるその存在は、先にヒフミさんが指し示した大手の銀行の敷地内へ進入していきました。

 

「お待たせしました、今月の集金です。」

「ご苦労様、早かったな……ではこちらの集金確認書類にサインを。」

 

 やがて搬入口に到着した輸送車の中から業者とおぼしき人物(ロボット)が現れ、銀行員の方と手続きを進めていく。

 そしてその業者の姿を目にした途端、私達の間には動揺が走りました。

 

「見てください、あの人……!」

「あいつ……毎回うちの利息を回収しに来てる業者の人じゃない!?」

「確かに、車もカイザーローンの輸送車のようですが……しかし、このブラックマーケットに一体何の用で……!?」

 

 何せあの業者、そして輸送車は毎月学校へやって来て借金を取り立てるかの存在と全く同じだったのですから。

 既に見飽きたと言える程とは言ったものの、まさか本当にそれそのものだったとは誰も思っておらず、故にますます目の前の光景に疑問が沸いてきます。

 するとカイザーローンという言葉を聞いて、今度はヒフミさんが動揺を見せ始めました。

 

「か、カイザーローンですか⁉」

「ヒフミちゃん?何か知ってるの?」

「カイザーローンといえば、かの有名なカイザーコーポレーションが運営する高利金融業者です……!」

 

 言うに、カイザーコーポレーション自体は決して犯罪を起こしている組織という訳では無いのですが、合法と違法の間のグレーゾーンで上手く振る舞っている多角化企業という話らしいです。

 ヒフミさんの居るトリニティの区域にもかなり進出をしているらしく、生徒達への悪影響を考慮してトリニティの生徒会、ティーパーティーでも目を光らせているのだとか。

 

「そういえば、返済はいつも現金での手渡しを指定されていましたよね?それはつまり……。」

「カードやネットを使った方法だと、どこかで早々に足が付く……それで手取りでの返済を徹底してた訳だ。そしてその現金が、ブラックマーケットに流れていた……って事だね。」

「じゃあ何⁉私達はブラックマーケットに犯罪資金を提供してたって事⁉」

「ま、まだそうはっきりとは……証拠も足りないし、あの輸送車の動線を把握するまでは……。」

 

 輸送車の移動ルート等を調べようとしましたが、どうやら全てのデータをオフラインで管理しているようで、全くヒットしませんでした。

 恐らく街中の監視カメラにも極力写らないようにルートを徹底しているでしょうし、足取りを掴むのは相当難しそうです。

 

「あ!さっきサインしていた集金確認の書類……それを見れば証拠になりませんか?」

「確かにその書類にアビドスからの集金記録が有れば証拠にはなりますが……。」

「あっ……そうですよね、考えてみれば書類はもう銀行の中ですから……無理、ですよね……。」

 

 あの銀行はブラックマーケットで最も強大な施設の1つであり、比例してセキュリティも強固かつ、マーケットガードも相当数居る筈……どうする事も出来ません。

 かくして、自分達は蚊帳の外であれというその願いは、思わぬ形で破られる事となってしまいました。

 自分達が裏社会の活動に一役買ってしまっていたかもしれないという疑惑。

 そしてその疑惑を確かめる術も無いという現実を前にして、私達は無力感から打ちひしがれる他有りませんでした……。

 

 

 

 

 

「……。」

 

 

 

 

 

 その姿を、誰かにじっと見られていた事にはまるで気付かないまま。

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