キヴォトスに来たおカシな先生   作:ナリカオル

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第27話「すり抜けていった想い」

 アビドス廃校対策委員会の皆へ

 

 まずは、こうやってお手紙での別れの挨拶になった事、どうか許して欲しい。

 ショウマさんの事が有ってからのだからあれなんだけど、おじさんもこういうやり方の方が性に合っててさ。

 

 皆には、ずっと話してなかった事があった……実は私、昔からずっとスカウトを受けてたんだ。

 カイザーコーポレーションに所属して、そこで働く。

 その代わりにアビドスが背負ってる借金の大半を肩代わりする……そういう話でね。

 うへ、中々良い条件だと思わない?おじさんこう見えて、実は結構腕を買われてたんだよね~。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「……これで良い?」

「はい、確かに。契約書にサインを頂いた事ですし、これであなたがお持ちの生徒としての全権利は、私の下に移譲されました……これで正式に、アビドス高等学校が背負っている借金の大半は、こちらで負担する事にしましょう。」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 借金の事は、私がどうにかする。

 直ぐに全部を解決にまでは持っていけないけど、まずはこれでそれなりに負担が減ると思う……対策委員会としての今後の活動も、少しは楽になる筈。

 アビドスからも離れる事になっちゃうけど、私の事は気にしないで。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「さあ、こちらへ。」

「……何処に行くの?」

「アビドス砂漠です。」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 勝手な事をして、ごめんね。

 でもこれは、全部私が責任を取るべき事だから。

 私は、アビドス高校の最後の生徒会役員だから。

 だから、ここでお別れ……じゃあね、皆。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「何なのよ……何なのよ本当にッ!!あんだけ偉そうに話しておいて!!切羽詰まったら何でもしちゃうとか、自分で言ってた癖にッッッ!!」

 

 セリカの拳が壁へと突き刺さる。

 それ自体は比喩的表現ではあるものの、実際にそうなってしまいそうな程に勢いの付いた募りし感情は、彼女が顕著なだけで他の者達も抱いている思いでもあった。

 

『皆さん大変です!!アビドスの市街地から、カイザーPMCの大規模な戦力がこちらへ向かってきています!!』

 

 しかし時の流れは待ってはくれない。

 アロナがそう告げたのを皮切りに、アビドスを……少女達を呑み込まんとする悪意の濁流が押し寄せる。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「行け行けぇ!!」

「進めぇぇぇ!!」

 

 閑散とし、物静かな筈のアビドスの街が、阿鼻叫喚の渦に包まれている。

 

「う、うわあぁぁぁ!?!?」

「早く!!早く逃げろぉ!!」

 

 犬、猫、鳥、機械、それ以外も。

 ありとあらゆる人と呼ばれる存在が、荒くれ者達(カイザーPMC)の手によって家屋から引き摺り出され、追い立てられ、そして痛め付けられていく。

 

「遂に……遂に全ての条件をクリアした……!」

 

 そしてその荒くれ者達を率いている機械人(カイザーの理事)が、愉悦に笑みを浮かべている。

 

「最後の生徒会がアビドスを退学……これで実質的に、アビドス高等学校はキヴォトスから消滅した!後は我らがカイザーコーポレーションが、このアビドスの地を吸収して合併させるのみ!」

 

 出世道という修羅の世界で生き残る為に、歪み、壊れ、故に他者を傷付ける事を意にも介さず笑声を上げられるが故に、彼は邪悪に、そして高らかに宣言した。

 

「さあ、アビドス高等学校を占拠せよ!」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「カイザーの奴等!?こんなタイミングで……!!」

「しかも住民が居る市街地を無差別に攻撃だなんて……!?」

 

 息吐く間も無く浴びせられる、そんな悪しき現実を前に浮き足立たざるを得ない少女達。

 と、どこからかガラスの割れる音が。

 さらによく耳を澄ませば、雑踏とした足音も物々しく聞こえてくる。

 

「まさか、もう学校にも……!?」

 

 窓から外の様子を窺ってみれば、やはりそうだ。

 砂漠の奥地でも見た、あの兵士達が学校へと押し寄せて来ている。

 先に聞こえた音は、きっとどこかの窓ガラスがその被害に遭ったのであろう。

 未だ動揺にて心は落ち着かぬが、目前まで迫った危機に少女達の気は最低限正される。

 このまま学校が、アビドスの地が攻撃されるのを黙って見過ごす訳にはいかない……応戦しなければ。

 

「カイザー……ッ!!」

「えっ!?ショウマさん!?」

 

 しかし少女達が行動に移ろうとした矢先、それまで押し黙っていたショウマが突然その場から駆け出し、部屋を出ていってしまった。

 彼の口からはとても珍しい……というより、有り得ない。

 そんな憎々しさが混じったような台詞を吐きながら。

 

「対策委員会の関係者を発見!こっちに……ぎゃあああ!?」

「な、何だこいつ!?ぐああああ!?」

 

 間も無く聞こえてくる悲鳴の数々。

 そこに部屋を飛び出していった彼の声は聞き当たらない……恐らくは全て、校内に侵入してきたカイザーの兵士達のものであろう。

 

「ちょっ、ショウマさん大丈夫なのよね!?」

「……あっ!!あそこです!!」

 

 何が起きているのか、まさかとは思うが……少女達は揃って浮かんだ予感を確かめるべく、廊下へ顔を出したり窓の外へ目を向けて、そして見つけたのだ。

 

「うおおおおお!!」

「こ、こちら第4分隊!!至急応援を……うわあああ!?」

「こいつ命が惜しく無いのか!?」

 

 学校の校庭、そこでカイザーの兵士達を相手に単身挑むショウマの姿を。

 ガヴガブレイドを手に、向けられる砲火の数々を見切り、防ぎ、躱し、並み居る敵を斬り伏せていく彼の姿を。

 

「いや、強ぉ……って見てる場合じゃない!!」

「ひとまず、校内に居る敵を倒しましょう!!アヤネちゃん!!」

「はい!!ショウマさんと合流して、校内に侵入した敵を撃退します!!その後に市街地へ出て、住民の皆さんの避難誘導を!!」

 

 まるで鬼神の如きその活躍に呆気に取られながらも、少女達はそれぞれの銃器を手に再度戦意を固めて動き出す。

 今のショウマの様子が、あまりにもらしくないという不安を抱きながら……。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「ちょっ、ショウマさん足速っ……待ってってば!」

「皆さん!落ち着いて避難を!」

 

 カイザーPMCの軍勢を退けながら街へと出た一同。

 だが先へ先へと進んでしまうショウマに、少女達は未だ追い付く事が出来ていない……市民の避難誘導も行わなければならないのだから、尚更だ。

 

「ショウマさんの前方に誰かが……!?」

 

 せめてその姿を見失わないよう少女達が必死に喰らい付いていると、それまで猛進していた彼の足がピタリと止まる。

 その眼前に居るは、あの大柄な機械人……カイザーの理事だ。

 

「学校まで出向こうと思ったのだが……わざわざお出迎えとは感心だな。」

「カイザー……ホシノちゃんはどこだ!?」

「ふむ、アビドスの副会長……いや、元副会長か。彼女には早速我等の下で働いて貰っている所だよ。」

 

 余程今の状況が彼にとって税楽的なものなのだろう……カイザーの理事は堪えきれない笑声を会話の節々で上げている。

 こんな態度を取られれば、先のショウマの様子も納得出来る所ではあるが……。

 

「ショウマさん……やっと追い付いた……そんでもってあんた達!!」

「これは一体何の真似ですか!?企業が街を攻撃するなんて……いくらあなた達が土地の所有者だとしても、そこまでの権利は無い筈です!!」

「それに、学校はまだ私達廃校対策委員会のものです!!武力による進攻は明白な違法行為……連邦生徒会に通報しますよ!?」

 

 追い付いた少女達がショウマの隣へ立つも、彼は少女達向けて一瞥さえしない。

 確かに目の前に敵が居るのだから、目を逸らすような行為を行わないのは当たり前と言えばそう。

 だがそれでも、やはりらしくない……こんな後ろどころか隣も、下手をすれば向こうすら見えていたかどうか分からない。

 そんな彼の有り様に益々不安が募る少女達……そしてその少女達の心持ちを助長するかのように、理事の含み笑いが耳障りに届く。

 

「連邦生徒会に通報だと?面白い事を言うじゃないか……君達は今まで何度連邦生徒会へ嘆願をしてきたというのだ?そしてその願いが一度でも叶った事が有ったか?他の学園でさえ、今まで一度だって手を差し伸べてくれた事など無かったであろうに……。」

 

 そろそろ分かった事だろう、と……今のアビドスを救おうとする者など、このキヴォトスに於いて誰1人として存在しないのだと。

 カイザーの理事はそう、はっきりと告げた。

 

「アビドス最後の生徒会役員、小鳥遊 ホシノが退学した今、アビドスの生徒会は既に存在しないも同然……君達ももう、何者でも無いのだよ。公的な部活も、委員会も、生徒会も、自治区すらも無いアビドスは、学園都市の学校として自立、存続が不可能と判断される事だろう……だからこそ、この自治区の所有者たる我がカイザーコーポレーションが、あの学校を引き受けようと言うのだ。」

「何言ってんのよ……アビドスにはまだ私達廃校対策委員会が居る!!そんな言い分が通じる筈無いでしょ!?」

 

 確かに理事の言う通り、手を貸してくれる人は居ないのかもしれない……しかしその言い分には隙が有るとして、セリカが目ざとくそれを突く。

 そうだ、何と言われようとアビドスには廃校対策委員会が在る……公的な委員会が無いとは言えない筈だ。

 声高々と主張していたが、廃校対策委員会に所属している彼女達が居る限り、アビドス高校を我が物とする事は出来ない筈なのだ。

 

「アビドス廃校対策委員会……大層な名前だな。それで?その委員会は正式な許可を受けて存在しているものなのか?」

「え……どういう事……!?」

 

 

 

 

 

 そんな事は百も承知だ。

 

 

 

 

 

「それは……。」

「アヤネちゃん……?」

 

 

 

 

 

 だからこそ、(理事)は敢えてそれを強調していたのだ。

 

 

 

 

 

「……アビドス廃校対策委員会は、公的な許可を得ている委員会じゃないんです。部活動や委員会の結成には生徒会の許可が必要だけど、その時にはもうアビドスの生徒会は存在していなかったから……。」

 

 

 

 

 

 少女達が自ら深みに嵌まり、絶望に陥るよう仕向ける為に……。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「な、何で……何をしてる!?どうしてアビドスを……街を攻撃するんだ!?」

 

 乗せられている車のリアガラスから見える、アビドスの街。

 そこから轟々と立ち昇る黒煙に、聞こえる数多の銃声と悲鳴。

 アビドスが、侵略されている……カイザーの手によって。

 何故?どうして?

 ホシノは隣に座る黒い影に問う。

 

「どうしてと言われましても……何もおかしな事など有りませんよ?あの借金の大半はきちんと返済させて頂きますとも……それが()()の間に交わされた約束ですから。」

「ふざけるな!!!今直ぐやめさせろ!!!」

 

 ただ、契約に無いから。

 ホシノは詭弁だと激昂露にヘイローから銃を取り出し、銃口を影のこめかみへ躊躇無く突き付ける。

 だが……。

 

「それは出来ません、私にそんな権限は有りませんからね。」

「何を言って……!?」

 

 何かがおかしい。

 銃口を向けられてなお全く動じていない、平然としている影の態度が、その口振りが。

 あれだけカイザーの理事の隣に居て、何の重役にも就いていないなんて話は無い筈だというのに……契約を交わしているから、撃てる訳が無いと思っているのか?

 

「何か勘違いをされているようですね……私は最初から、カイザーの所属ではありません。私は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()とは一度も言っていない筈ですよ?」

「なっ……!?」

 

 馬鹿な、そんな筈は無い。

 そう言いたくて、思い返せば……確かに、その通りだと言わざるを得なくて。

 

「それはそうとして……あなたが退学してしまった事で、あの学校には公的な生徒会のメンバーがもう残っていないようですね?それでは学校そのものが成り立たなくなってしまう事でしょう……。」

 

 思い込み。

 それが時にどれだけ恐ろしい事態を招くか、知らない訳では無かった筈なのに。

 

「しかしそんな事はどうだって良いのです……元より私達の目的は小鳥遊 ホシノさん、あなた1人だけなのですから。」

「わ、たし……!?」

「ええ。あなたに契約書へサインをして頂き、あなたに関する全ての権利を頂く事……その目的の為に利害が一致したので、私達はカイザーコーポレーションに協力した……ただそれだけの事なのです。」

 

 闇よりも暗い黒を秘めるこの(大人)に、そんな失敗をする訳にはいかなかったというのに。

 

「私を……どうするつもり……!?」

 

 震えている。

 生かし、与えるも。

 殺し、奪うも。

 全てを握っている筈の己の指が、手が、腕が、体が。

 恐怖で、震えている。

 

「あなたを実験体として研究し、分析し、理解する。その興味深い実験こそが、私達が観測を渇望していたもの……つまりは、()()()()()です。」

 

 影がホシノを正面から捉える。

 その歪に見開いているような目模様が、常に薄ら笑いを浮かべているような口模様が、彼女の心を遂に堕とす。

 

「(……そっか。)」

 

 もう、銃口は影へと向けられていなかった。

 だらりと下げられた銃身が、光を失っていくその瞳が、彼女の心情を、思う所を、如実に表している。

 

「(私は……。)」

 

 

 

 

 

また、悪い大人に騙されたんだ。

 

 

 

 

 

「ごめん……皆……私の所為で……全部……。」

 

 清く、尊く、しかし誰よりも脆かった器が壊れ、静かな涙を流すホシノ。

 その涙と共に、彼女が大切にしたかった想いが1つずつ零れていく。

 愛して守りたかった、この地の、後輩達の、彼への想いも。

 そしてあの日、この手で破り捨てた物を、哀しき笑顔を浮かべながら拾い集めていた彼女への想いも。

 

 

 

 

 

ノノミちゃん……。

 

 

 

 

 

 セリカちゃん……。

 

 

 

 

 

 アヤネちゃん……。

 

 

 

 

 

 ショウマさん……。

 

 

 

 

 

 ……ユメ先輩。

 

 

 

 

 

「わたし……は……。」

 

 影はもう、ホシノの事を見ていなかった。

 つまらなさそうに、車の行く先を見つめているだけだった。

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