キヴォトスに来たおカシな先生   作:ナリカオル

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 GWを使って何とか書き上げられました。
 おかしい……GWはもっと先の物語を書いている予定であった筈なのに……。



第30話「集いし絆」

 耳が痛くなるような静けさという言葉を、まさか街中に居て使う事になるとは。

 柴関ラーメンにて、避難所から1人帰ってきた柴大将がカウンター席に腰掛け店内を一望する。

 ゲヘナ学園の風紀委員会によって荒らされてしまい、アビドスの少女達と一緒に片付け、そして今……カイザーPMCの進攻によって、また少し店内が荒れてしまったようだ。

 そう、また少しだけ……本当に1人でも十分手直しが出来る程度のごく軽い被害。

 柴大将はそれを、戦火の中心から外れていたお陰とは思わなかった……むしろ、戦火の中心から外れていた所為で、と思っていた。

 

「何やってんだかな……。」

 

 いっそ全部滅茶苦茶に壊れてしまっていたら、とさえ思ってしまっていた。

 カイザーの手が徐々に徐々にと伸びていきアビドスの地を侵略していく様を、彼は何年も前からその身で味わわされてきた。

 最初に実感したのは、街外れの小売店等がある時期を境に次々と閉店していった時だった。

 その流れは次第に街の中心部にも及んでいき、とうとう街一番の大型店まで潰れ、そしてこの店も……。

 抗い様など無かった、従う他無かった。

 いや、むしろそれで良かった……何故なら彼は、知っていたから。

 砂時計の容器の中に溜まった砂の如く、まだこの街が栄えていたと言える時代を。

 そしてひっくり返した砂時計の容器の中を落ちていく砂のように栄えていたものが失くなり、滅びていく時間を。

 盛者必衰、それが自然の摂理なのだから……これは、仕方の無い事なのだ。

 だからいっそ跡形も無く、全部塵となっていれば……。

 

─ちょ、これ開かな……!?何か立て付け悪くなってない!?

 

 そう感傷に浸っていると、真横から物音が。

 見れば店の入り口の戸が何者かの手によってガタガタと揺らされており、やがて……。

 

「よいしょお!ふう、開いた……お邪魔するわ。」

「おっじゃまっしま~す!折角だから大仕事の前の腹ごしらえって事で、ラーメン4人分ね♪」

 

 バンッ、と勢い良く開かれる。

 そこに居たのはここ最近顔馴染みとなった少女達4人……確か、便利屋を営んでいる子達であったか。

 彼女達は客として気前良く注文をしてくれたが、残念な事に今はタイミングが悪い。

 仕込みも清掃も、店構えの準備が何も出来ていないのだから。

 

「……悪いね、今日は店やってないんだよ。」

「えっ……でも、営業中の看板が……。」

「しまい忘れちまったんだよ……折角来てくれて悪いけどね。」

 

 普段とは違う、柴大将が纏う空気。

 それを感じ取った便利屋の少女達……アルは、ムツキは、ハルカは、それぞれ困惑や戸惑いといった表情を見せる。

 だが1人だけ……カヨコだけは3人とは違う、むっとした表情を浮かべたのだ。

 

「じゃあ、何でここに居るの?」

「そりゃあ……ここが俺の家も兼ねてるからな。」

「それはそうだろうけど……今は避難勧告が出されてるんでしょ?アビドスの連中から。」

 

 話は既に聞いている……アビドスの街がカイザーの侵略に遭い、住民には出来るだけ避難所に留まってもらうよう通告がされている事を。

 実際少女達がこの店に辿り着くまで人の姿は1人も見当たらなかった……街に出ているのは恐らく、大将だけであろう。

 

「何があるか分からないんだから、避難してた方が良いんじゃない?」

 

 カヨコの言う通りだ……いつまたカイザーの軍勢が襲ってくるか分からない。

 そうでなくてもこの混乱に乗じて何か事を起こそうとする輩が現れてもおかしくない。

 恐れるべきなのだ、この状況を、街に出る事を……それは柴大将とて分かっている事。

 では何故、彼はこの店へ来たのか?

 カヨコが向けた視線の先にあるものが、その訳を物語っていた。

 

「仕込み、途中みたいだね……本当はちゃんとお店開こうとしてたんでしょ?」

 

 店の厨房。

 置かれている鍋から立ち上る湯気、そして微かに漂う香り。

 そう……仕込みも清掃も、柴大将は何もしていなかった訳では無い……出来なかったのだ。

 店に来て、用意を始めて、しかし途中で気が滅入ってしまい、そこから手を付けられなかったのだ。

 本当はいつも通りに店を開こうとして……どうして諦めてしまったのか?

 

「先が全く見えないから?」

 

 核心を突かれ、俯いてしまう柴大将。

 彼だって、好きだからこの仕事を続けていたのだ……この地が、ここに居る人達が、好きだから。

 だが現実は、そんな彼の想いをじわじわと踏みにじっていって……次第に疲れてしまったのだ。

 期待する事、その期待の為に腕を振るう事が、報われない日々の中で虚しくなっていって……。

 そうして互いに口を開かなくなり、水を打ったような静寂が店内を包み込む。

 

「……ハルカ、バッグ。」

「え?は、はい!」

 

 居たたまれない、と……最初にその空気を破ったのはアル。

 彼女はハルカからあの大金が入ったバッグを受け取ると、中身も確認せずにそのバッグを柴大将の前に置いた。

 

「これだけあればこのお店も建て直せるでしょ。まずはこれで1つ光明が見えたかしら?」

「なっ……!?」

 

 堪らず面食らう柴大将。

 まさかこのバッグの中身全部が金だというのであろうか?

 だとして、それを渡そうとするなど、一体何を考えているのか?

 

「うーわ、マジ?過去最高の荒使いじゃん。」

「流石にそこまでやれとは思ってなかったんだけど……。」

「お黙り2人共、何回ここにお世話になったと思ってるのよ?これぐらいして当然よ、当然。」

「……まだ2、3回ぐらいじゃなかったっけ?」

「お・だ・ま・りって言ってるでしょ!」

 

 有意義に使って欲しい……アルとしては、かつてこのお金を譲り受けた時に添えられていた願いの通りにしただけ。

 だがそんな事情を知らぬ柴大将は、それを受け取ろうとはしなかった。

 

「いやいや、受け取れねぇよ……何だってこんな……。」

 

 期待をしないで欲しい、期待をさせないで欲しい。

 自分はもう、何もかも諦めようとしているのに……。

 

「そんなの、私達が食べたいからに決まってるでしょ。あなたが作ったラーメンを。」

「勿論、ショウマさんやアビドスの子達もね。」

 

 いいや、そんな事は許さない。

 

「馬鹿な話だけどさ、皆まだ諦めてないんだよ。」

「だから……もしここが失くなったら、皆さん悲しみますよ……。」

 

 だってこのお店も、皆が守りたい、何度だって訪れたいと願う場所なのだから。

 

「そういう事だから、私達は行くわ……次に来た時は、ラーメン食べさせて頂戴ね。」

 

 踵を返し、店内を後にしようとする4人。

 その後背は逆光を浴び、大将の目にはとても眩しく見えて……。

 

「さあ、私達の仕事を始めるわよ!」

 

 そう言って、何処かへと去って行った少女達。

 そんな彼女達の出立を見送る事となった柴大将は、再び大金の詰まったバッグをまじりと見つめ、やがてふと口角を上げて笑う。

 

「……そうだな、まだ何にも終わっちゃいねぇよな。」

 

 ひっくり返し、落ちて行った砂は、また底で溜まっていく……あんな若い子達に気付かされるとは、年を取って頭が固くなったものだ。

 柴大将はバッグへ向けていた視線を、今度は厨房の方へと移し、おざなりになっていた仕込み作業を再開すべく席を立つ。

 

「……頑張れよ、皆。」

 

 未来は自由に描けるもの。

 そんな風に思わせる曙色の空へ、想いを馳せながら……。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「敵発見!攻撃を始めています!」

「兵力を集結させろ!北と東に分散させた戦力をこちらに呼び戻すのだ!」

 

 明け方の霞み掛かった空模様が日中の晴天へと変わると同時に発生した敵の襲来によって、カイザーPMCは全軍が緊迫した空気を纏っていた。

 当然、それらを率いる立場に居るカイザーの理事も同じ様相を見せている。

 

「ええい、奴等め……一体何故だ……!?」

 

 しかし理事はそれと同時に焦燥とした心持ちでもあった。

 通信兵が伝達する敵の動き……それが予想していたものと大きくかけ離れたものであったから。

 

「何故この旧市街地の方へ向かって来ている……!?」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 アビドス旧市街地。

 とうの昔に砂漠の中のオブジェクトと化してしまっているこの地であるが、積み上がった砂塵による緩と、砂漠に呑み込まれてなお顔を覗かせている建造物による急が天然の拠点として利用価値が有るとし、カイザーPMCが占領を行っていた。

 だがその布陣が今、たった4人の手によって崩されようとしていた。

 

「絶対にホシノちゃんを助ける!」

「はい!その為にも、こんな所で立ち止まる訳にはいきません!」

 

 ショウマの剣戟が敵を斬り裂き、彼の補佐を行うアヤネの手腕が一際輝く。

 

「先輩を連れて帰って、そんで一発ガツンと言ってやらないと!」

「そうです!自分で言った事を守れなかったんですから、お仕置きです!」

 

 そして向かい来る敵が居ればセリカの狙撃がそれらを撃ち抜き、並み居る敵が居ればノノミの斉射がそれらを一掃する。

 

「それが終わったら……!」

 

 

 

 

 

「「また皆でお菓子パーティー!」」

 

 

 

 

 

「……って、今うちにお菓子無くない!?」

「買えば良いんです!終わったら皆で一緒にショッピングに行きましょう!」

 

 カイザーPMCが砂漠の奥地で構えている施設よりかは少ないものの、それでも圧倒的な数差が有りながら、まるでものともしない4人の快進撃。

 彼等彼女等の士気がそこまで高まっているのは、絶対に譲れない想いを一律して胸に秘めているから。

 

「もうすぐ旧市街地に到達します!ショウマさん……!」

 

 だがその想いの行き先が、何故この旧市街地なのか?

 何故、砂漠奥地の施設へと向かわなかったのか?

 同じ頃、カイザーの理事も疑問に思っていたその答えは、ショウマが握っていた。

 

「うん……信じよう、あの子の事を。」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「……アロナちゃん、ホシノちゃんの居場所って分かる?」

『先生が目覚めるまでに色々と調べてみましたが、ホシノさんの行方に繋がる痕跡はどこにも有りません……ですが、それが逆に手掛かりになるかと。』

「じゃあやっぱり、ホシノちゃんはあの施設に……。」

 

 それは昨日の夕方まで時が遡る。

 あの時も屋上で、初めてのバイタルチェックを済ませた後、アロナにホシノの行方を探らせていた。

 アビドスのあらゆるデータを調べ、それでも行方が掴めない……そんなルートを辿って行ける場所は、ごく限られている。

 カイザーコーポレーション本社を初め、その他主要な系列施設の出入りも調べてもらったのだから、ほぼ確実と言って良いだろう。

 ホシノが連れていかれた場所はアビドス砂漠の奥地……カイザーPMCの施設だ。

 

「外れだよ、ホシノ先輩は旧市街地に在る元アビドス高校に居る。」

 

 だがまさか、それを否定する声が側で上がるとは夢にも思わず。

 

「君は……!」

「ん……また会ったね。」

 

 まるで気配を感じなかったその存在は、かつて一度だけ出会ったあの少女。

 長い銀の髪を風に靡かせ、瞳孔だけが2色となっている瞳を向けてくる彼女は、やはり美しくもどこか儚げで、物悲しい雰囲気を纏っている。

 

「元アビドス高校って……。」

「名前の通りだよ。アビドス高校が砂漠化の影響で何回も移転してるのは知ってるよね?その中で一番最初に学校の校舎として使われていた場所……そこの地下で、私達生徒が持つ神秘に関する研究をするつもりみたい。小鳥遊 ホシノ……彼女を実験台(サンプル)にしてね。」

 

 神秘、という聞き慣れない単語を耳にしたショウマ。

 彼の視線は、何故か目の前の少女の頭上に浮かぶ光輪(ヘイロー)へ向かう。

 黒く、鋭利で、欠けている……他とは一線を画していると思わせるようなそれへと。

 

「どうして君がそれを……?」

「……さあ、何でだろうね。」

 

 出来れば深掘りしたい話題ではあるが、今はそれよりも優先すべき事がある。

 ショウマは己の問いをはぐらかし、屋上のフェンスに手を掛ける彼女の背に向けて再度問う。

 

「待って!どうして君は俺達の事を助けてくれるの!?今朝戦ってた時だって……!」

 

 あの時カイザーの理事が駆るゴリアテへ立ち向かった際に彼女が手を貸してくれた事は、ショウマも知っている。

 だからこそ、分からないのだ……彼女がカイザーの勢力に就いている存在ならばここまで詳しい情報を持っていても不思議ではないが、ならばそのカイザーに楯突く理由は?

 逆にカイザーに寄り添わない存在ならば、それ程の情報を持っている理由は?

 

「君は一体……!?」

 

 何者なのか……そう問おうとして、しかしその前に少女は振り向きながらそれを拒絶した。

 

「……言った筈だよ、私は覆面水着団のブルーだって。」

 

 そう言うや、彼女はその場を高く軽やかに跳び、そしてフェンスの向こうへ。

 その唐突な身投げに心臓が飛び出かねない程に驚いたショウマは直ぐに下を覗こうとするも、フェンスが邪魔でよく見えない。

 

「アロナちゃん!」

『そ、それが……どこにも見当たりません!地面に落下したとかではなく、明らかにその前に反応が消えて……!?』

 

 それどころか、最初に側に現れた時も、まさに"現れた"としか言い様が無い程突然生命反応が検出されたらしい……まるで瞬間移動(ワープ)でもしたかのように。

 ますます謎が深まる彼女という存在……だが今は、それよりも。

 

「アロナちゃん、皆に連絡して……ホシノちゃんの居場所が分かったって。」

『い、今の話を信じるんですか!?確証と言えるものはどこにも……!?』

 

 アロナの言う通り、彼女の正体が分からぬ以上、罠という可能性も十分に有る。

 だが嘘か真か、どちらかには確実に迫れるような情報なのだ……であるならば。

 

「俺は……やっぱり信じてみたい。」

 

 結果、彼女は自分達を騙す事無く真を伝えていたと後に判明する。

 そして彼女がもたらした真から未来を掴む為、ショウマ達は一層互いに士気を高め合い、立ちはだかる敵を次々と制していくのであった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「フム、この動き……どうやら彼女(ホシノ)がここに居る事を確実に分かっているようですね。」

 

 いつの間にか、黒い影が横に居た。

 どうやら彼は対策委員会の行動に感心をしているようであり、それが不謹慎だとして理事は声を荒らげる。

 

「だからそれを何故だと言っている!?よりにもよって私が来ているこのタイミングで……!!」

 

 どこで情報が漏れた?

 内通者が居たのか?

 予想では、奴等は施設の方へ向かうと考えていた。

 だから戦力を付近の砂漠の中へと散りばめ、奴等が施設を襲撃してきたタイミングで呼び戻し、袋叩きにしてやろうと画策していたというのに。

 忌々しい、本当に忌々しい……一体どこまで邪魔をすれば気が済むのか、理事の中で一行に対する憎しみが限界まで昇り詰めようとした時だった。

 

「恐いのですか?自らの身が危険に晒されるのが……。」

 

 言われ、途端に脳裏を過る記憶。

 目の前で、狂気に走ったが如く、一心不乱に剣を振り続けていたかの者の姿。

 たとえこの身が滅びようとも、必ず倒す……確かにそう語っていた、かの者の眼差し。

 

「そ、そんな訳が無かろう……ただ面倒なだけだ。」

 

 それまで確かに燃え上がっていた憎悪の炎が、それを露にしていた態度が、水をかけられたかのようにしおらしくなっていく。

 本人としては平静を装っているつもりのようだが、僅かに震えていた声色は誤魔化せるものではない。

 

「……そうですか。」

 

 影は敢えて指摘しなかった。

 それは決して彼の尊厳を尊重したからではない。

 

 

 

 

 

 これから先の展開に、使()()()と踏んだからだ。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 小鳥遊 ホシノ奪還の為、カイザーPMCの軍列を突破していくショウマとアビドス廃校対策委員会。

 旧市街地の敷地内にも到達し、いよいよここからが正念場といった所ではあるが、敵もそれを分かっているのかこれまでより強固な陣を構えてきている。

 打ち破るには人手が足りぬ……だがその瞬間、どこからともなく飛んできた弾丸が目前の敵兵士を何人も撃ち倒していった。

 

「待たせたわねショウマさん!そしてアビドス!」

 

 やがて横合いからやって来た1台の車。

 乗っていたのは、ショウマ達もよく知るあの4人組……便利屋68であった。

 

「便利屋の皆さん……!?」

「皆!来てくれたんだ!」

「お、お久し振りです……よろしくお願いします……!」

「ショウマさんが呼んだの?いつの間に……ってかよく戻って来れたわね?アビドスから離れたんじゃなかったの?」

「まあ、依頼だっていうなら仕方無いよね。」

「その代わり、今度は報酬金しっかり貰うからね~?」

 

 ついさっきすっからかんになったばかりだからさ、と言う彼女達に何があったのか気になる所ではあるが、何にせよ頼もしい味方が来てくれた。

 だがそれでも、ショウマ達の中ではまだとある懸念が渦を巻いていた……それは砂漠奥の施設や近辺からの増援である。

 警備の数からして恐らく敵もこの地を襲撃してくるとはあまり想定していなかったのだろうが、それでも敵にとっては要所の1つ……こうした不足の事態には備えている事だろう。

 便利屋の4人が来てくれた事は非常に心強いものの、もし敵の数が今の倍以上にでもなれば優勢を保っているこの戦況も瞬く間に瓦解してしまう事であろう。

 

『先生、聞こえますか!』

 

 だがそんな心配は杞憂に終わると示すかのような声が、唐突にシッテムの箱から発されたのだ。

 

『こちら、カイザーPMC軍事施設付近にて待機中のユウカです!漸く施設の電波傍受範囲の拡大に成功したので、ご報告を!』

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「うーん……アビドスへの支援、ねぇ……。」

 

 昨日の夕方、ホシノの居場所が特定出来たとショウマから告げられ、そのまま彼女の救出の為に皆で策を講じた結果、今の自分達に足りないのは間違い無く人手であると結論が出た。

 そこでショウマが白尾の矢を立てたのが、かつてD.U.地区に赴きサンクトゥムタワーを奪還した際に共に戦った各学園の生徒達。

 セリカはその中から早瀬 ユウカに助力を求めるべく、ミレニアムサイエンススクールへと赴いていたのだ。

 しかしながら他校の、それも仮に協力したとてほぼ見返りも与えられないような問題に、果たして力を貸してくれるものだろうか?

 

「他ならない先生からの頼みだから、出来る事なら断りたくは無いんだけど……。」

 

 答えは目の前で態度にされている通りだ。

 交友関係も無い、手を貸した所で得もしないような援助に、普通身を乗り出す訳が無い。

 それを抜きにしたとしてもミレニアムは現在生徒会長が音信不通で行方を眩ませており、そちらの対応にも追われていてそもそも貸せる手が無いのだとか。

 前者だけならそれでもと食い下がっていた所であったが、後者の理由が付随してしまえば流石に何も言えなくなってしまう。

 ミレニアムからの支援は諦めるしかない……セリカが苦しくもそう判断しようとした時だった。

 

「良いですよユウカちゃん、行ってきても。」

 

 と、唐突に発された声。

 それと共にユウカの背後からひょこりと顔を出してきたのは、ユウカが在しているミレニアムの生徒会、セミナーの書記係として同じく所属している生徒、生塩(うしお) ノアであった。

 

「先生のお力になりたいんでしょう?こっち(ミレニアム)の事は、また私に任せて良いですから。」

「ノア……何言ってるの。前に私が連邦生徒会に直談しに行った時、あなたに凄い迷惑掛けちゃったじゃない……もうあんな真似は出来ないわよ。」

 

 彼女は軽い足取りでユウカの背後から横へと立つと、同じく軽いノリで懸念されていた重役を買って出る。

 しかし前回それで彼女に負担を掛け過ぎて、実は裏で体調を崩させてしまったのだ……ユウカは今でもその事を後悔している。

 故に気を遣ってくれたのはありがたいが、あなたの為にもそれは出来ないとユウカが告げると、ノアはおもむろに被っているヘッドギアのパーツを動かし、目元まで持ってきたディスプレイにミレニアムサイエンススクールの情報を読み込ませる。

 

「確かにユウカちゃんまで居なくなると、今のセミナーの回転率は凡そ45%の減少……ミレニアム全体で言えば約6割の能率低下を見込む必要がありますから……正直に言えば辛いですね。」

 

 辛いと言いながら、彼女は笑っていた。

 しかしそれは単なる痩せ我慢という訳では無く、何か違う意図が含まれている。

 2人の会話を傍観していたセリカはそれに気付き、だからこそ彼女が何を考えているのか……彼女という人物が分からなくなった。

 だが何も疑心に駆られる必要は無かった事が、そこから述べられた言葉によって判明する。

 

「でもここで先生の所に行かなくて、仮にもしもの事があったら……ユウカちゃん、絶対後悔しますよ?」

 

 自分や学校の皆に対しては後で謝る事も埋め合わせも、何だって出来る。

 でも何かあってからでは、何にも出来なくなってしまうから。

 

「だから、ユウカちゃんが後悔しない選択をしてください。」

「ノア……。」

 

 彼女の微笑に含まれていたのは、純粋な優しさ。

 裏表の全く無い、純粋な思いやり。

 彼女の気遣いは、ユウカの想像の上を行っていて……そう言われてしまえば、仕方がない。

 

「……ごめん、また迷惑掛けても良い?」

「はい♪その代わり、お土産は沢山お願いしますね?」

 

 物でもお話でも、何でも。

 そう言って小首を傾げるノアと、呆れた笑みを浮かべるユウカ。

 そのやり取りからして、彼女達は普段から仲睦まじい、一蓮托生とも例えられる関係なのだろう。

 セリカはそんな2人に自分と親友(アヤネ)、そして先輩達(ノノミとホシノ)(ショウマ)の姿を重ね、釣られて笑みを浮かべるのであった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 そんなミレニアムサイエンススクールからの助っ人であるユウカに託していた事は2つ。

 1つ目は強行軍に参加するショウマ達に代わる全体の指揮……その為に彼女はこれまで施設内でしか傍受されない電波の範囲を旧市街地方面まで拡大する作業に勤しんでいたのだ。

 これで旧市街地や付近の砂漠地帯にまで通信が行き届くようになり、同時に周辺の状況も確認出来るようになった。

 

『うちの機械弄り達が開発した物が、こんな所で役に立つなんて……という事で、こちらはこれより施設への牽制を行います!これで施設からの増援がそちらへ向かうという事態は避けられる筈です!』

 

 そして彼女に託していた事の2つ目は、砂漠奥の施設からの増援を食い止める事。

 その為にも彼女には施設へと攻撃を行ってもらい施設内の敵の注意を惹き付けてもらうのだが、それを行うのは何も彼女1人だけでは無い。

 

『それじゃあ2人共、お願いするわね!』

『ああ、任された!奴等は私達が全力で足止めをしよう!カイザーコーポレーションの不正を白日の下に晒す為に!』

『トリニティの自警という観点で言えば、このような行いは本来控えるべきなのでしょうが……事態が事態ですからね。微力ながら、先生の為にお力添えします。』

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「……成る程、そちらの事情は良く分かりました。」

 

 セリカがミレニアムサイエンススクールの戸を叩いていた時、ノノミもまたアビドスを離れ、とある場所を訪れていた。

 アビドスとは真逆とも言える環境に適応する為、装いを普段の黄色いカーディガンから厚手のコートに変え、新たに白いマフラーも首に巻き、そうして長い旅路の末に対面したのは、柔らかな笑みを浮かべる1人の女学生。

 

「御存知かどうかは分かりませんが、このレッドウィンター連邦学園に於けるあらゆる仔細の決定権は全て我が校の生徒会長が握っておられます。他の学園でも概ねはそうでしょうが……レッドウィンターは特にその気色が強いかと。」

 

 レッドウィンター連邦学園の事務局、その秘書室長である佐城(さしろ) トモエ……そう、ノノミはサンクトゥムタワー奪還時にショウマと共に戦った生徒の1人である安守 ミノリに協力を仰ぐ為、レッドウィンター連邦学園に赴いていたのだ。

 

「ですが既に夜分遅く……会長はこれから、お眠りになられる時間なのです。」

「その前にお会いする事は出来ませんか?」

「そうですね……こちらとしてもそうしたいという思いは有るのですが、会長にとって就寝とは多忙な日々の末に訪れる至福の時間……もし妨げるような事をしてしまえば、どのような事態に発展するか想像も出来ません。最悪、あなたも粛清の対象になるやも……。」

 

 セリカの方は紆余曲折の末に望む結果を手繰り寄せられたが、こちらも一筋縄では行かず、しかしてそう簡単に引き下がる訳にはいかないという意思を眼差しに添えれば、トモエはそれまで浮かべていた柔和な笑みを崩し、その面持ちを真摯なものへと変えた。

 

「私も会長の意思に順じ、お側に居なければならない身……申し訳ありませんが、学園による公的なお力添えというのは難しい話です。」

 

 そうして終いには完全なる拒絶……それでも、諦める訳にはいかない。

 ここからどう彼女を説得すべきか、ノノミは平静を装いながら内心では必死になって思考を巡らせようとする。

 

「……ですが。」

 

 しかし不意に、トモエの表情が再び柔和な笑みを携える。

 そして彼女はおもむろに人差し指を口元に当て……。

 

「レッドウィンターは会長の意思が全て……逆を言えば、会長が預かり知らぬ所で起きた問題は、たとえ何であろうとレッドウィンターとしての問題にはならないという事です。」

 

 可愛らしく、片目を閉じる。

 茶目っ気溢れるその態度にどういう意味を込めているのか分からず、ノノミは一瞬きょとんとしてしまったが、直ぐに彼女の思惑がどのようなものか理解し、その表情をぱあっと明るくさせる。

 

「ありがとうございます!」

「どうぞ、学園のパンフレットです。因みに工務部の部室はこちらですね。」

 

 見て見ぬ振り。

 無論それで問題が起きれば責任は全てこちらの負担とはなるが、今に至ってはこれ以上無い程の措置である。

 その温情に対するノノミの感謝と喜びの気持ちは、初めて来た学校、知らない廊下を、それでも軽快に進むその足取りが表していた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 こうしてレッドウィンター、そして同時にトリニティからの協力を取り付ける事が出来、彼女達にはノアと共に施設への圧力を掛けてもらう事になった。

 トリニティの自警団はあくまで有志による個人間での集まりであり、本来こういう団体での戦闘(チームプレー)というのはあまり想定の内では無いらしいが、彼女達の多くはスズミの先駆けに惹かれて同様の活動を始めた者達……こうして人手が集まったのも、スズミが直に召集を掛けたからこそ。

 そんな彼女が人員を率いるというのであれば、心配する事は何も無い筈だ。

 そしてミノリ率いる工務部のデモ活動も、このキヴォトスに於いて良くも悪くも有名らしい……両者共、きっと期待以上の成果を出してくれる事だろう。

 

『それともう1つ!予想していた通り付近の砂漠地帯からカイザーPMCの大部隊がそちらへ接近しています!北方と東方からです!』

 

 しかし敵の動きはそれだけに止まらず……であれば誰がそれらの相手をするというのか?

 遠路遥々来てくれたレッドウィンターの生徒達やトリニティの自警団にさらなる無茶を要請する?

 合流した便利屋68を向かわせる?

 どちらも否だ。

 

『という訳で……聞こえてるわよね、ハスミさん!』

『はい、よく聞こえます。』

 

 集いし絆もまた、これだけに止まらないのだから。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「えっ……私が班長を、ですか……!?」

「はい。後日行われる予定であった、牽引式榴弾砲による屋外実習……その予定を早めまして、明日にでも実施をしようかと。そしてその班長をヒフミさん、あなたにお願いしたいのです。」

 

 夜分遅くにすみません、と前置きされて招待された、トリニティ総合学園の生徒会、ティーパーティーの席。

 本来であれば自分のようないち生徒が立ち入る事すら許されないような空間で、上品な造りの長机を挟んだ向かいに座る彼女……桐藤(きりふじ) ナギサから告げられた言葉を、ヒフミは直ぐに呑み込む事が出来なかった。

 

「そ、そんな……私なんかが班長だなんて無理ですよぉ!?」

「あら、学生の本分は学習……無理だと決めつけずに挑戦し、学びを得るのは大切な事ですよ?」

 

 確かにそうかもしれないが、それでも容易に首を縦には振れない。

 阿慈谷 ヒフミと言えば、自他共に認める何の取り柄も無い平々凡々なトリニティ総合学園の2年生……誰かを率いる立場に就くなど有り得て良い話では無い。

 それもティーパーティーの長が1人、ナギサから直々に指名されるなど……もしや、自分は何か粗相をしてしまったのだろうか?

 2日前、アビドスやカイザーグループに関する報告をティーパーティーに申告した時に初めて彼女に謁見をしたのだが、その時に何か彼女の気分を害するような事をしてしまい、その仕置きとして重荷を背負わせようと……!?

 

「それにヒフミさんを班長に推薦しているのには、他にも理由が有るからです。」

 

 そんなヒフミの邪推は、ナギサが告げて間も無く開かれた真横の扉、そこから現れた人物等を目の当たりにした事でさらに加速される。

 

「せ、正義実現委員会と自警団の……!」

 

 扉から入ってきたのは、正義実現委員会の羽川 ハスミと、自警団に所属する守月 スズミ。

 学園の秩序を守る二大組織の一員が現れた事で、ヒフミの中の邪推が本人の中で確定事項となってしまった。

 やはり知らぬ間に正義実現委員会や自警団が動く程の過ちを犯してしまい、これはその罰なのだと。

 いや、ティーパーティーの長が直接関わる案件なのだ……これだけで終わる話ではあるまい。

 きっと今からもっと過酷な刑罰が下されて……!

 

「こんばんは。えっと……お久し振りと言うには、まだ日が浅いですかね。」

「……って、あ、アヤネさん!?」

 

 と、キツく目を閉じてまで否定したかった現実は、そも現実の話ではなく。

 ハスミとスズミのさらに後ろに見えた第三者……それがごく最近面識を持った者の1人であり、また本来ならこの学園に居る筈の無い者でもあるとして、ヒフミの目は大きな驚愕と更なる疑問から逆に見開かれる。

 そんな中でアヤネから事情を聞いてみれば、次第にこの場の思惑というのがヒフミにも見えてくる。

 

「ヒフミさんも御存知かとは思いますが、かの条約が間近に迫る中、本来ここで学園として目立つような動きは控えるべきです……が、ヒフミさんが報告してくれましたカイザーグループの良からぬ噂について、あれから私の方でも色々と精査をしました。彼等が我が校の生徒に与えるやもしれない影響も含めて、です。」

 

 カイザーグループによる不当な理由の下、小鳥遊 ホシノの身柄が拘束されてしまい、彼女を救出する為に過去の共闘でショウマと面識の有るハスミとスズミ……ひいてはトリニティ総合学園による力添えを、というアヤネの嘆願。

 どうやらティーパーティーは、この事態を重く捉えたようだ。

 であれば成る程、話は変わってくると、それまで事に消極的であったヒフミの目の色が変わる。

 

「アビドスの事は、ヒフミさんの方がお詳しい筈ですから。」

 

 あの日助けられた恩義、今こそ返す時だ。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「皆さん!これより屋外実習を始めます!事前の説明通り、これより着弾予定地点にて確認される敵兵士及び戦闘車両は、()()()()()()P()M()C()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!兵士は後に響かない程度に、車両に関しましては完全に破壊して構いません!」

 

 東側から迫る大部隊は、私達が対処する……そう告げたハスミは、自身の後方に列を成すトリニティ総合学園の主力榴弾砲L118……それらを操る生徒達に向けて演習内容を丁寧に、念を押して説明する。

 他生徒はこの演習がアビドスの決死の作戦と連動している事を知らないが故とはいえ、中々口八丁な言い回しである。

 

「ではヒフミさん、後はお願いします。」

「は、はい!」

 

 心を読まれた訳では無いだろうが、まるで狙ったかのようなタイミングでの話の振りにドキリとするヒフミ。

 榴弾砲による斉射が終了した後は、突撃部隊による残存戦力の鎮圧に移行する。

 であるからして、ここで敵戦闘車両を壊滅出来ないと突撃部隊が被る損害が拡大してしまう事だろう。

 いざという時はハスミ率いる正義実現委員会が補佐に回ってくれるというが、そうならないようにする責任が今の自分の肩には乗っている……下らない雑念に気を置くのはもう無しだ。

 アビドスの生徒達に報いる為にも、自分がしっかりしなくては。

 

「目標約8㎞地点、各砲門発射角調整良し、初弾装填良し……放て!」

 

 ヒフミの号令により、各榴弾砲から火が吹かれる。

 山なりに飛んでいく数々の弾道……その果ては一律して、この乾いた砂漠をさらに枯れさせんとばかりに、爆発という花を咲かせる。

 自分にはこれぐらいしか出来る事は無いが、それでもこれが、彼女達の役に立つ事を願って。

 ヒフミの次なる号令が響くのは、もう直ぐだ。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

『東側の戦力はトリニティの人達に任せるわ!北方から来る勢力は……ゲヘナ学園に!』

「ええ、分かっているわ。」

 

 通信の、さらに通信越しでも、空崎 ヒナの聴力は微かにトリニティの榴弾砲の音を捉えていた。

 向こうは交戦を開始したらしい……こちらも、もう間も無く接敵するだろう。

 

「では事前の説明通り、ヒナ委員長が前へ。私達が撃ち損じの対応を行います。ヒナ委員長もそれでよろしいですね?」

「問題無いわ。」

 

 チナツを始めとした僅かな委員を背後に控えさせ、1人で大部隊を相手にしようとするヒナ。

 一見すれば無謀という言葉さえ呆れて当てられなくなるような立ち向かいであるが、これこそが空崎 ヒナが各所で最強と恐れられる所以。

 彼女の実力は、仮に彼女を除いたゲヘナの風紀委員会が束になって掛かっても一蹴出来る……そう知っているからこそ、カイザーPMCの大部隊など訳も無いと誰もが理解しており、異議を唱える事は無い。

 

「さあ、手早く済ませましょう。」

 

 遥か先に見えた、敵の隊列が為す長川。

 その流れを乱し、断つ為に、ヒナはヘイローから愛銃(マシンガン)終幕:デストロイヤーを召喚し、隊列向けて歩を進め始める。

 そんな彼女の脳裏には、昨晩起きた出来事が想起されていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「うちの風紀委員長に会いたい、ねぇ……。」

 

 もう日も落ちた時間帯だというのに、たまたま出歩いていた先で見掛けたイオリともう1人。

 何となく会話に交ざろうとせず様子を窺ってみれば、驚く事にイオリの前に居たのはS.C.H.A.L.E(シャーレ)の先生であるショウマであった。

 

「悪いが委員長は忙しいんだ、会わせてやる事は出来ないな。」

 

 何があったのか、着ている服はボロボロで、体は治療が施されていてなお痛々しい有り様で。

 普通ならベッドの上で安静にしているべきであろう、そんな成りで頭を下げてくる彼の姿にヒナは純粋な疑問を、イオリは若干の気味の悪さを感じていた。

 

「どうしてもって言うなら……。」

 

 だが同時に、あの時膝を屈した屈辱的な仕打ちと真逆とも言える今の立ち位置にギャップを覚え、イオリの中で加虐心のようなものが芽生えてしまって。

 彼女は右足のかかとを立て、爪先を数回上下に動かす事で、普段の業務によって汚れてしまっているそれをショウマへ見せびらかす。

 

「靴でも舐めてもらおうか?」

 

 ……イオリとて、何も本当にそうしてもらいたい訳では無かった。

 こんな見るからな重体を押してまでの面会など、どう考えても厄介な用件でしかない。

 そんなものに応えていられる程、ゲヘナの風紀委員会は暇じゃないのだ……多少は個人的な腹いせも含まれているが、これ程屈辱的な条件を出せばたとえどんな用件であろうと流石に退くだろう。

 

「……分かった。」

「え?」

 

 そう、思っていたのに。

 

「(……!?)」

「は、はぁ!?お前正気か!?」

 

 気付けば彼はイオリの前に跪き、靴の先へ顔を近づけ、そして本当に舌を這わせて。

 ヒナも物陰で目を点とする中、それまで抱いていた気味の悪さが気持ちの悪さへと一変し、足を引こうにも手で掴まれて叶わなくなったイオリは代わりにショウマへ罵声を浴びせる。

 

「ばっ……本当に舐める奴が居るか!?お、大人としてのプライドとか、人としての迷いとか、そういうの……!?」

 

 無いのか、と……そう言おうとして、しかし微かに聞こえてきた音を前に、イオリは言葉を呑み込むしかなかった。

 

「(泣いてる……?)」

 

 イオリの耳が拾ったのは、鼻を啜る音。

 その出所は、自身の足先……つまりは、ショウマから。

 そして伏せられている顔の隙間から見える、靴に点々と付いていっている水滴。

 そう……彼は今、泣いているのだ。

 ショウマとて、何もかもを許すようなお人好しでは無い。

 理不尽な事には怒りもするし、泣きもする。

 しかし今の彼は、イオリが課した理不尽な行為そのものに涙を流している訳では無い。

 

「(あの頃に戻ったみたいだな……。)」

 

 口の中に拡がる、砂利や汚れの味……とても懐かしい味だ。

 この世に生を受けてから20年、まだ母親と共に人間界に行く事を夢見ていた頃。

 2人の食事は、いつも付近に生えている雑草や土の付いた根といったものであった。

 何せグラニュート族の主食は石であり、人間や人間相応の咬合力と消化器官しか持ち合わせていない2人ではまともに食事を取る事すら出来ず、唯一の例外である闇菓子も、そのような代物に手を付ける訳にはいかないという母の愛によって、たとえ知識の無い幼少の頃であってもショウマは決してそれらを食す事は無かった。

 そうやってグラニュート界を生き抜いて、人間の世界で沢山の美味しいお菓子や食べ物を知って……。

 だからショウマにとって砂利や汚れの味というのは、グラニュート界に居た時の味……まだ何の力も持っていない、ただ弱かっただけのあの頃を想起させる味であって。

 そんな二度と口にする事は無いと思っていた味が口内を満たして……今の自分が、あの頃のように何も出来ない存在へ成り下がった事を嫌でも思い知らされて。

 

「(……でも。)」

 

 それでも良い。

 力を渇望する想いも大きく有る……だがそれは、ただ大きな力を欲しているだけ。

 己が本当に欲している力は、そんなものでは無い。

 

「ホシノちゃんを……皆を守れるなら……!」

 

 欲しいのは、誰かを守れる力だ。

 誰かの命を、幸せを、守れる力……今はそれを手にする事が出来ないというのであれば、たとえどれだけの汚泥を食む事になったとて平らげてみせよう。

 顔を上げて、その覚悟を涙で充血した眼と共にイオリへと送れば、彼女は深い罪悪感から途端に表情を歪める。

 本当は辛い癖に、苦しい癖に、嫌だと思ってる癖に……それでもという彼の想いが、ありありと伝わってきて。

 分かった、もういい、私の負けだ、だからやめてくれ、と……あまりに稚拙であった己の人間性に多大な後悔を抱きながら、彼女は堪らずそう声を発しようとした。

 

「そこまでにして、イオリ……先生も。」

「い、委員長!?」

 

 それを妨げたのは、他ならぬ2人の話題の中心となっていた人物……見てて堪らず物陰から姿を現した、空崎 ヒナによる御言であった。

 

「自分の望みの為に膝を付く人の姿なら、これまで何度も見てきた……でもここまで恥に塗れるのを厭わずに頭を下げた人は、先生が初めてよ。」

 

 イオリの愚行は後で十分に咎めるとして……ゲヘナの風紀委員長として、そして時間も怪我も押してまで自らを訪ねてきた者に対して、己が施すべき事は……。

 

「顔を上げて頂戴、先生。そして言ってみて……私に、私達に何をして欲しいかを。」

 

 ヒナはショウマの下まで歩み寄り、彼に合わせて膝を付き、そして手を差し伸ばして微笑み掛けたのだ……その心意気に、大きな感銘を受けたと。

 そしてその心意気による願いは、たとえ秤が取れていなかったとしても、称賛と共に叶われて然るべしだと。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

『これで、打てる手は全て打ちました……後は先生、そしてアビドス高校の皆さん次第です。』

 

 北方の敵はゲヘナ学園が担当するという連絡を受け、ショウマもまたヒナと同じように当時の記憶を思い起こしていると、ユウカから通信の最後を飾る言葉を贈られる。

 

『どうか、御武運を!』

 

 それ自体は、ありきたりな言葉ではあった。

 だが決して告げなくても構わなかったそれを告げてくれた事……そして彼女と同じ様にこの地へ集ってくれた生徒達の存在が、これまでショウマの中で失われかけていた信念に確かな感覚を与えてくれる。

 

「……ありがとう、皆。」

 

 世界は力が無くては生きていけぬ非情なもの。

 だがそれでも、ほんの一握りだとしても、その中には確かに誰かの為を想う優しさが有るのだと……。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「ええい!!対策委員会の連中め……!!」

 

 砂漠奥地の施設へ、レッドウィンターを中心とした生徒等とおぼしき団体の侵攻。

 さらには北と東から集めていた大隊も、トリニティやゲヘナと思われし者達によって行く手を阻まれ。

 極め付けに便利屋68がアビドス高校と徒党を組んで攻め入ってきて……。

 次々と寄せられてくる悪報に、理事は固く握った拳を自身の前の机に向かって叩き付ける。

 たった一夜にして、一体どうやってこれ程の戦力を掻き集めたというのか?

 

「これは困りましたねぇ……このままでは彼女達がここへ到達するのも時間の問題かと。」

「だったら貴様も何か策を考えろ!!ここを潰されたら貴様とて……!!」

 

 叩き付けられた拳の形に変形した机が、アビドスの……彼女等の傍らに居る(ショウマ)に対する理事の憎悪を物語っている中で、彼の側に立つ影は相も変わらずの反応。

 むしろこの状況を楽しんでいるかのような笑声さえ含んでいるその様子は、理事の声を先刻以上に荒らげさせるには十分だった。

 

「ええ……ですから1つ、あなたに策を授けようかと。」

 

 もはや限界寸前まで昂っていた理事の怒気……しかしそれは唐突に変わった影の態度を前に次第に沈んでいく。

 

「まだ試作段階ですが、とある兵器をここへ持ち込んでおりまして……それを使えば、或いは。」

 

 但し、注意点が2つ。

 そう言い、人差し指と中指の2本を立てる影。

 それは今の台詞の中の述語をわざとらしくも強調する為。

 そしてこれから述べる、ある事実への伏線を張る為。

 

「1つは今言った通り、その兵器はまだ試作段階であるという事……安全面の保証は出来かねません。そして2つ目は、その兵器を扱うには使用者に条件が求められる事。」

 

 そして現状それを満たされているのは……そう言って、影は立てていた2本の指を人差し指1つだけとし、その指先を目の前に居る巨漢へと向ける。

 

「理事、あなた1人だけです。」

「なっ……!?」

 

 告げられ、動揺を見せる理事。

 同時に再び脳裏を過る、あの時の光景。

 立てというのか、あの者の前に?

 私はカイザーコーポレーションの、カイザーローンの、カイザーコンストラクションの理事……そしてカイザーPMCの代表取締役なのだ。

 今やグループ全体に於ける重鎮……そんな私が再びかの者の前に立ち、この身を危険に晒せというのか?

 馬鹿な話を……いずれはカイザーの頂点に座すると画策しているこの私が、あんな野蛮な行為を二度もして良い筈が無い。

 

「如何致しましょう?私の提案を採用し、自らの手で栄光を勝ち得るか。それとも私の案を降し……このまま惨めに、情けなく敗北を喫するか。」

 

 しかしそう告げられ、理事の中で何かが吹っ切れた。

 本当は自分でも分かっていた……今しがた、保身を盾に逃げようとしていた己の根元。

 あの時の光景から、かの者に対して抱いている感情が……恐怖であると。

 だが影に言われて、思い出せたのだ……奴は自分にとってこれまでに無い程の壁であって、なれば自分はこれまでどうやって立ち塞がってきた壁を除いてきたか。

 

「さあ、ご決断を……あなたは、どうなさいますか?」

 

 

 

 

 

 ……壊せば良いのだ。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「見えました!あれが……!」

 

 便利屋68と共に旧市街を駆け抜けるアビドス廃校対策委員会とショウマ。

 各学園の生徒達の助力のお陰で、ここまで大きな障害無く辿り着けた……そして今、各々の前に建つこの建物こそ……。

 

 

 

 

 

「そうだ、ここが本来のアビドス高等学校の本館だ。」

 

 

 

 

 

「っ……!」

「あなたは……!!」

 

 ノノミが明かそうとしたその名を、別の誰かが先を越す。

 その誰かとは、死角からゆったりとした足取りで姿を現した、カイザーの理事であった。

 

「砂漠化が進行し、捨て去られたアビドスの廃墟……ここが、元々はアビドスの中心だった。」

 

 かつてキヴォトスで最も強大な勢力であった学校の残骸が、この砂の下に埋もれている。

 理事は対策委員会を、便利屋68を、そしてショウマを前にして、そう淡々と告げた。

 

「あんたの御託なんてどうでも良いのよ!」

「それよりも、ホシノ先輩はどこですか!?」

「あの女なら、学校の地下に居る……今頃は奴等の手によって実験材料として扱われている事だろう。」

 

 ……何か様子がおかしい。

 セリカとアヤネに一蹴されてなお変わらぬ姿勢を貫いている彼からは、昨日のような見るからの迫力を感じない。

 しかして圧が無い訳ではなく、代わりに今までにない底知れぬものを感じるのだ。

 と、理事の姿を注意深く観察していると、彼の腹部に見慣れぬ機械が巻かれている事にショウマは気付く。

 全体が黒、細部が赤と銀。

 よく見れば向かって左斜め上から何か別の(アイテム)を入れられそうな隙間が存在しているそれは……ベルト、であろうか?

 

「あの女の下に行きたければ、行くが良い……貴様等にそれが出来るのならばな。」

 

 直感で理解した……警戒すべきはそれであると。

 理事から感じられる、これまでにない気迫……その変化を促したのは、あのベルトなのだと。

 ホシノを助ける為にも、今この場で、皆の力を束ねて理事を倒さなければ。

 

「……行きなさい、ここは私達が。」

「えっ……!?」

 

 だがその役目は分けて考えるべきだと、アルが一歩前に出ながら主張した。

 

「まずはあなた達の目的を果たしなさい……あいつはその間に私達がとっちめておくから。」

 

 彼女は普段振る舞っているような飄とした仕草を見せているも、その額には僅かに汗が滲んでいる。

 砂漠の暑さによるものではない……彼女もショウマと同じく理事の秘めたる何かを彼以上に感じ取り、故に流している脂汗だ。

 それでも異なる意見を挟んだのは、彼女なりの最善手を選んだから。

 この作戦の目的は小鳥遊 ホシノの救出……万が一にもそれを違えてはならないと。

 己の意思とアルの意見、ショウマが選択したのは……。

 

「……分かった、気を付けてね!」

 

 直ぐに戻る……固く誓い、旧アビドス高校の校舎向けて駆け出すショウマと対策委員会の少女達。

 途中理事の真横を抜ける事になったが、意外にも理事は何もせず、一瞥もせず、彼等彼女等を先へ行かせた。

 

「便利屋68……飼い犬だった分際で、よくも私の前に姿を現せたな?」

「仕方無いでしょう?半ば私達を騙すような真似をして……裏切られて当然よ。」

 

 ショウマ達が場を去って暫く、改めて互いに敵意をぶつけ合うアルと理事。

 そんな彼女が流していた汗は、隣に他の便利屋の少女達が並び立つという心強い状況となった中でもまるで引く事は無かった。

 仮にもこれまで裏社会で生き抜いてきた己の勘が告げているのだ……あの腹部の機械は、想像以上に脅威となる代物なのだと。

 もしあの機械が本格的な稼働を始めたら、その時は……。

 

「まあ良い……今となっては、どうでも良い事だ。」

 

 だというのに、何故この体は動かないのだろう?

 頭では分かっているのに、まるで金縛りにでもあったかのように、銃を握るこの手は相手を狙う事をしてくれない。

 

「ここで全てが、終わるのだからな。」

 

 何故なら彼女は、既に屈していたからだ……彼が纏う空気に、彼が付けている機械の存在に。

 そして……彼が手にした力の前に。

 

かたすとろむ!

 

 理事が懐から取り出した、黒光りする小物。

 それは上部のスイッチを押された事で何やら聞き取れない未知の音声を鳴らし、直ぐ様腰の機械のスリットに装填される。

 そして理事はその後に機械側面の赤いパーツに触れ……。

 

ぱるばらいず!!

 

「グッ……ウオオオオオ!!」

 

 瞬間、機械から噴出される黒煙。

 それは突如苦しげな声を上げ始めた理事の体を瞬時に覆い隠し、見る者に強烈な不気味さを与える演出となる。

 

「これは……!?」

 

 だが理事の悲鳴が止むと同時に、煙の中から外部へ向けて照らし出される4色の光。

 赤、青、緑、紫……光は次第にうねりを見せ、渦を巻き、やがて嵐となって黒煙を晴らしていく。

 

「うわー、何かヤバそー……。」

 

 それは先程までの不気味さから一転して、不覚にも美しい光景とさえ感じてしまう。

 だからこそ異様と言えてしまうのだ……嵐さえ晴れ、その中から現れたものを見てしまえば。

 

「あ、アル様……!?」

 

 あんなものが……美しいとさえ形容してしまった光の中から、あんなものが現れて良いというのか?

 カイザーの理事がその身を扮した、身の毛もよだつような……。

 

 

 

 

 

「……壊れるがいい。」

 

 あんな、()()()()()()と呼ぶべき存在が。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

─ねえ、ホシノちゃん……私ね、ホシノちゃんと出会った時、これは夢なんじゃないかって何度も頬をつねったの。ホシノちゃんみたいな可愛くて強くて頼れる後輩が側に居てくれるなんていう夢みたいな事が、本当に嬉しくて……。

 

 

 

 

 

 いつか、どこかの、ありふれた日々の中。

 あの人は唐突に、そんな事を語りだした。

 

 

 

 

 

─うーん、上手く説明出来てないかもしれないけど……ただ、こうしてホシノちゃんと一緒に居られる事が、私にとっては奇跡みたいなものなの。

 

 

 

 

 

 何を言っているのだろう、と思った。

 毎日毎日、こうして一緒に居るじゃないかと。

 昨日も今日も、明日もそう……そんな当たり前の事で、何を大袈裟なと。

 奇跡というのは、もっと凄くて珍しいものの事ですよと……私はあの時、そう言ったのを覚えている。

 

 

 

 

 

─……ううん、ホシノちゃん。私はそうは思わないよ。

 

 

 

 

 

 そして、いつもは弱気で流されやすいあの人が、あの時だけは強く頑なな人となっていた事も、また覚えている。

 

 

 

 

 

─ねえ、ホシノちゃん。いつかホシノちゃんにも可愛い後輩が出来たら、その時は……。

 

 

 

 

 

 その後、あの人は何て言っただろか?

 そう、確か……。

 

 

 

 

 

「実験室……ありました!ここです!」

「開かなっ……鍵掛かってる!」

「押し開けましょう!皆で一緒に……!」

 

 

 

 

 

 ……気の所為かな、皆の声が聞こえる。

 皆がこの場所を知ってる訳が無いのに。

 

 

 

 

 

「「せーの……っ!!」」

 

 

 

 

 

 こんな私なんかの為に、皆が助けに来る筈なんて無いのに……。

 

 

 

 

 

「開いた!ホシノちゃん!」

「「ホシノ先輩!」」

 

 それなのに、薄らと開けた視界の先には、愛しい皆の姿が在って。

 

「ホシノ先輩、大丈夫ですか!?」

「な、何この変なチューブ!?取ったりして大丈夫!?」

「見た限りホシノ先輩の体に刺さっている様子は無いようですが……!?」

『解析しました!今この管の中を流れているものは特に有りません!取っても大丈夫です!』

「どれも壁や天井まで強く張られてる……途中で切っちゃうね!皆離れて!」

 

 ノノミちゃんも、セリカちゃんも、アヤネちゃんも、アロナちゃんも、ショウマさんも……。

 どうして?どうやって?

 

「どうしてって……助けるに決まってるじゃないですか。私達は皆、大切な仲間……まさか先輩だけがそうじゃないとは言わせませんよ?」

 

 仲間……。

 でも、私は……皆に……。

 

「だからこうして叱りに来たんでしょ?何の相談もしないで、1人で勝手に背負い込んで……ほんと、人の事言えて無いんだから。」

 

 叱りに……。

 ……叱って、じゃあその後は?

 

「その後は、皆でお出掛けして、沢山お菓子を買って、また朝までパーティーです!」

 

 パーティー、ね……。

 許しちゃうんだ、こんな私なんかの事を。

 

『そんなに自分の事を悪く言わないで下さい。ホシノさんが誰よりもアビドスの事を一番に考えていたのは、皆さん分かってらっしゃいますから。』

 

 

 

 

 

「だからホシノちゃん……ホシノちゃんは、自分の事も大事にしてね?ホシノちゃんには皆と一緒に、楽しくて幸せな毎日を過ごして貰いたいから。」

 

 

 

 

 

 っ!

 それって……!

 

 

 

 

 

─ねえ、ホシノちゃん。いつかホシノちゃんにも可愛い後輩が出来たら、その時は……。

 

 

 

 

 

─自分の事も、大事にしてね?ホシノちゃんには皆と一緒に、楽しくて幸せな毎日を過ごして貰いたいから。

 

 

 

 

 

─はい?えっと……すみません、今の話の流れでそうなりますか?普通そこは後輩を大事にー、とか……そういう事言いません?

─えー、だってホシノちゃん直ぐ無茶するんだもん。きっと後輩が出来たらその子達の為に~って言って、絶対無理するに決まってる!

─直ぐ無茶するって……誰の所為でそうなってると思ってるんですか!そんなに無茶して欲しくないなら先輩がもっとしっかりして下さい!第一こんな学校に後輩になるような生徒なんて来る筈が……!

 

 

 

 

 

 偶然、だよね……あの人と同じ事を言うだなんて。

 ……いや、この際何だろうと構わない。

 今はそう言ってくれた事が、皆がそう想ってくれている事が……。

 

 

 

 

 

「……うん!」

 

 凄く、嬉しいから。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「ホシノちゃん大丈夫?やっぱり背負った方が良い?」

「大丈夫、こうして寄り掛からせてもらってるだけで十分だよ。」

 

 空にはいつでも、数多の星が輝いている。

 それぞれの輝きはか弱くあれど、重なり合えば世界を照らせる程の力を秘めて。

 

「……え?」

 

 しかし秘めたるそれらが夜にしか見えないのは、一際に輝く光が昼の時を照らしているから。

 そう……太陽という光が。

 

「嘘……。」

 

 その光を、数多有る天の輝きの象徴たる希望と受けるか。

 或いはいつとて輝ける筈の星々を塗り潰し、絶対の力を見せ付ける絶望の象徴と受けるか。

 

「そんな……!?」

 

 多くの優しさと奇跡の下、無事にホシノを救えたショウマとアビドス廃校対策委員会。

 そんな彼等彼女等を真っ先に出迎えたのは……。

 

 

 

 

 

「……遅かったな、対策委員会共。」

 

 

 

 

 

 血塗れて倒れる、便利屋の少女達であった。

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