【ポッピングミ! ジューシー!!】
遂に顕現したショウマの秘めたる力、仮面ライダーガヴ ポッピングミフォーム。
弾力に富んだ、紫を中心とした黄色と水色のグラデーションが特徴的な装甲に身を包んだショウマは、手始めに直立していた姿勢を低く落とす。
腕は力を抜いてだらりと下げ、反対に足はいつでも動かせるよう膝を曲げて力を入れて。
そして少し俯いていた顔を上げ、大きな黄色の複眼で理事を見据えて。
そんな悠々と戦う姿勢を整えるショウマを、理事は所詮こけおどしだと定めて狼狽えていた気を戻し、これまでと変わらぬ姿勢を貫こうとした。
「……?」
が、不意に足元から音がした。
見れば、仁王立とうとした筈の自身の右足が1歩下がっている。
そう意識した訳ではなく、完全に無意識の内に行われていた行為……それが何を意味するのか。
自力で気付くその前に、彼はそれを思い知らされる事となる。
「はあっ‼」
理事の視線が切れたその隙を、ショウマは見逃さなかった。
彼は全身を覆う強化素体コンバディと脚部のポッピングミレッグの機能を駆使し、理事へ向けて跳躍する。
力のモチーフとなっているグミの弾性によって、このポッピングミフォームはたとえ数mの距離が空いていようが、たったのひと跳びでその距離を詰める事が出来る。
そしてグミの弾性は跳躍を初めとした移動だけでなく、攻撃にも利用出来るのだ。
「ぐうっ……⁉」
瞬時に接近したショウマの拳が、理事の顎へと打ち込まれる。
グミの弾性によって破壊力が増し、さらに虚を突いた事もあって、理事の巨体は大きく揺らぐ。
先程よりもさらに数歩下がらされ、殴られた顎を抑えながらショウマを見れば、彼は仮面の下からでも分かる程の凄んだ眼差しを向けてきている。
それまで何の抵抗も出来ない無力な存在であったというのに、ただの一撃を喰らわせた程度でその眼差しは何だと、理事は己の琴線に触れたとして剛腕を振るう。
「……っ!」
しかし彼の攻撃は、ショウマを捉える事が出来ない。
ショウマは理事が振るってくる攻撃を1つ1つ的確に見切り、拳や蹴りをカウンターとして叩き込んでいく。
「ふっ!」
「ぐあっ!?お、おのれぇぇぇ!!」
やがて鳩尾に強烈な後ろ蹴りを食らい、たたらを踏む理事。
対してショウマは腰を落とした姿勢のまま、完全に理事へ背中を向けていて。
舐められていると感じ、理事はさらに激昂しながらその背中へ蹴撃を入れようとするも……。
「おおおっ!!」
「!?!?!?」
何とショウマは振り向きもせずに理事の攻撃を察知してその場で宙返りを行い、理事の後頸部を掴んで地面へ押し倒したのだ。
身体能力だけの話ではない……並みの経験では到底実現させられないその動きは、キヴォトスに来るより前から戦い続けていた事によって培われた技術の結晶であり、普段は後方で指示を飛ばしているだけの、前に出たとてただ圧倒的な力を振り翳して黙らせるだけの理事では到底敵うものでは無かった。
「き……さ、まぁぁぁぁぁあ!!」
舐められているどころか、弄ばれている……ショウマとしては決してそのような意思で戦いに臨んでいる訳では無いが、ショウマが理事を伸しているという、それまでとはまるで逆の立ち位置となっている事実には変わらず、それを思い知らされた理事は激しく怒りながら無理矢理立ち上がろうとする。
流石に直接の力比べでは分が悪く、そのまま理事が立ち上がるのを許してしまったショウマだが、既に振りほどかれた手は握り拳を作っており、反撃の準備に抜かりは無かった。
【かたすとろむ!】
「ッ……!?」
が、先に次の一手を下したのは理事の方であった。
拳を入れようとして無防備になった胸部に、理事が召喚した大銃の銃口が向けられて……。
「死ねえええええ!!」
「ううっ!?ッッッ……!!」
引き金が引かれる。
接射された弾嵐による威力は、ショウマの体を宙に浮かせ、再び数mの距離まで引き離す程に強力であった。
あの大銃から放たれる弾丸の威力は、廃墟とはいえ建造物を容易く倒壊させる程……そんなものをまともに喰らってはと、それまで固唾を飲んで見守っていた少女達の息が詰まる。
「っ……。」
ショウマは吹き飛ばされた先で一度はその身を倒れせさせたものの、直ぐに膝を付きながら体を起こす。
その動作に、銃撃で堪えた様子はそこまで見られない……全身を覆うグミの装甲は耐性値の限界まで到達すると自動で弾け飛ぶ仕様となっており、それによってショウマの体に大きなダメージが入るのを防ぐからだ。
「ショウマさん……!」
「フフッ、ハハハハハ……!」
とはいえその装甲は胸部が全損、肩や手足も大部分が欠損しており、今の状態では同じ攻撃を二度も防げない事を見る者誰しもに理解させる。
一時は安堵したものの、このままでは……と、少女達の詰まった息は解されない。
理事もまた、再び一転した戦勢に堪らず笑声を上げるも……。
「……。」
【グミ!
ショウマはいつの間にか肩へ登ってきていた別のポッピングミゴチゾウを手にするや、直ぐ様ガヴの中のゴチゾウと交換。
新たなポッピングミゴチゾウをテイスタンに乗せてガヴドルを回し、デリカッションを押し込む。
【
「ハハハ……は?」
その瞬間、理事が上げていた笑声が次第に止んでいき、同じく少女達の詰まっていた息が歓喜で解されていく。
何故なら一同の目の前で、損耗していたグミの装甲がみるみる内に再生していったのだから。
その絡繰は、今しがたショウマが行った通り……ポッピングミゴチゾウの力を再度取り込む事で、グミの装甲は何度でも修復する事が出来る。
そんなグミの装甲は理事の大銃の射撃からもショウマの身を安全に守る程に優れた性能をしており、そして今この砂漠には、数えきれない程のゴチゾウ達が存在している……ポッピングミゴチゾウもまた然りだ。
詰まる所、それが何を意味するか。
「ッッッ……!?」
一撃、或いは間髪入れぬ攻撃で仕留めなければ、永遠にショウマを倒す事は出来ない。
その事実に戦慄を覚え、今度は理事が息を詰まらせながら大銃を構える。
【キャンディ!】
対してショウマは足下に居た別のゴチゾウを手にし、ガヴへ装填。
ゴチゾウの力を解放する一連の動作を行ったと同時に理事が放った銃撃が襲い掛かり、彼の姿は舞い上がった砂塵の中に隠れてしまう。
【ブルキャン!!】
が、間も無く砂塵の中から飛び出す物体。
キャンディを食す事によって生まれるゴチゾウ、ブルキャンゴチゾウの力によって現出した4輪特殊車両、ブルキャンバギーを駆るショウマだ。
彼はブルキャンバギーの駆動輪ウィーループによってもたらされる高い走破性で以て砂漠の起伏を意にも介さず
「くっ……舐めおってからにぃぃぃ!!」
やがて理事の周囲をぐるぐると回るようになったその軌道は、とある機を狙う為の間合いの表れ。
しかし理事はそれを挑発的なものだと……まるで煽っているようなものだと捉え、再び大銃による制圧を試みる。
「ぬううう……ぐぅ……!?か、体が……!?」
しかし銃器を取り回そうとしている理事の動きは、どこか鈍い。
体幹は大きくぶれ、次第に銃器の反動も抑えきれない程になっていって。
その原因は本人が口にした通り、体の不調によるもの。
体の節々が、激しい痛みを訴えているのだ……肩や腕、足の間接、そして顎と鳩尾、後頸部が。
ショウマに反撃を許した箇所が、悉く痛むのだ。
そう……如何に変身して同じ土俵に立ったとて、ポッピングミの力では理事がその身に纏う強靭な装甲には歯が立たない。
だから狙っていたのだ……如何に強靭な肉体や装甲を持っていたとて、人型ならば必ず弱点となる箇所を、後に響くように。
そして理事が響いた痛みによって大きく疲弊した今この時こそ、ショウマが機として見ていた瞬間。
「はっ!!」
ちらりと見えた、進路の先の小高い砂丘。
ハンドルを捻り、一気に加速を付け、その砂丘を坂としてショウマはブルキャンバギーと共に大きく跳ぶ。
車体が翻る程の勢いを見せる中、ショウマはバギーの内蔵兵器を作動し、車輪に付いている射出口、ガドロップから次々と硬質弾を発射する。
「ぐおおお!?!?」
飴玉を模した硬質弾は見た目こそ可愛らしいものの、その威力は理事の大銃から放たれる砲弾と比べても全く引けを取らず、これまでまともなダメージを与えられなかった理事に対して初めてそうと言える結果を出す事が出来た。
ならば次は、とショウマは宙に浮かせた車体を着地させながらガヴガブレイドを引き抜き、道すがらに3体目となるポッピングミゴチゾウを拾うと、そのゴチゾウをゴチスピーダーなるゴチゾウ専用の乗り物に乗せ、ガヴガブレイドの剣身部分に存在するスピーダー射出装置スピランチへセットする。
【グミ!
セットしたゴチゾウを上から押し込むと、ガヴガブレイドから専用の待機音が鳴り響く。
さらにそこからブレイドの持ち手に存在するトリガー、ブレイリガーを引いてさらなる認証を済ませ、最後にブレイポンを押して剣を突き出す。
【ポッピングミ!
「はあッ!!」
複雑な行程を経て、いよいよ発射されるゴチスピーダー。
しかし実を言うとこのゴチスピーダーによる射出攻撃……時と場合にもよるが、基本的に攻撃力というものを殆ど持ち合わせていない。
その攻撃力は外の世界のごく普通の人間に対して直撃した場合少しは痛がるかもしれない程度のものでしかなく、キヴォトス人なら恐らく何か軽く物が当たったなと感じる程度、現在の理事に至ってはもはやそう感じるかどうかも怪しいレベルである。
当然ここで浮かんでくる疑問は、何故ショウマはこの攻撃を選んだのかだ。
わざわざ理事に明確なダメージを与えられたバギーによる攻撃を止めてまで繰り出す程の技であるというのか?
そうであるから、ショウマはこの攻撃を選んだのだ……ゴチゾウを高速で目標の場所まで飛ばす、その行為に意味が有るから選んだのだ。
「──!!」
射出されたゴチスピーダーは、搭乗するポッピングミゴチゾウの操作によって意外にもブルキャンバギーに負けない走破性を見せながら砂漠を駆ける。
やがて理事の直ぐ側まで辿り着き、スピーダーから彼のベルト部分へと飛び移ると、ポッピングミゴチゾウは装置の赤いスイッチ部を何度も何度も力一杯叩き出したのだ。
【かたすとろむ!】
【かたすとろむ!】
【かたすとろむ!】
【かたすとろむ!】
「な、何!?!?」
理事のベルトのスイッチは、武器である大銃を召喚する為の
そうして大量に出現した銃器の数々は、理事の動きを制限する枷となると同時に、これから理事にそれまで以上のダメージを与える為の起爆剤ともなる。
【グミ!】
ポッピングミゴチゾウが事を為し始めたのを合図に、回るように走らせていたバギーの進路を理事へ向けての一直線に変えるショウマ。
そして同時にガヴの中のゴチゾウを、また別のゴチゾウへ交換する。
選んだのはグミのゴチゾウ……だがお菓子のグミにも様々な種類が有るように、グミのゴチゾウにも多様な種類が存在する。
グレープ味のグミを食べて生まれたポッピングミゴチゾウとは違い、オレンジ味のグミを食べて生まれた橙色のグミのゴチゾウ。
ショウマが選んだ、そのゴチゾウの名は……。
【キッキングミ!!】
キッキングミゴチゾウ。
ポッピングミフォーム時のみ使用が可能なゴチゾウであり、ポッピングミフォームの右足に巨大なキック力増強脚レンジキッキングを追加するのだ。
そんなキッキングミゴチゾウの力を宿したショウマはブルキャンバギーの背に立ち、タイミングを見計らって急ブレーキを掛ける。
それによってショウマの身が勢い良くバギーから放り出され……。
「だあああああ!!」
くるりと体を回転させ、レンジキッキングによる蹴りを見舞うショウマ。
理事は咄嗟に手に持っていた大銃を盾にするも、それこそがショウマの狙い。
レンジキッキングの蹴撃は勢いに乗っていたのも相まって理事の大銃を容易く破壊し、しかもそれだけに留まらず破壊に伴って銃器が爆発を起こし、その爆発がポッピングミゴチゾウによって量産された他の大銃も巻き込んで……。
「ぐっ!?!?あああああ!?!?」
結果、大爆発を引き起こす。
爆発の中心に居た理事は当然ながら大きなダメージを負い、また直ぐ側に居たショウマも同様の仕打ちを受ける事になるが、その仕打ちはポッピングミの弾ける装甲によって相殺され、その装甲も理事のベルトに細工として仕向けたあのポッピングミゴチゾウを再度回収してガヴに装填する事で再生する。
【ポッピングミ! ジューシー!!】
爆発が起きた後、ショウマと理事の2人の姿は実に対照的であった。
ショウマは爆発の難から華麗に逃れ、砂漠の上にあの独特な姿勢のまましかと立っている。
対して理事は爆発の難をもろに受け、何度も砂漠の上を転がった果てにばたりと倒れる。
「馬鹿な……!?この私が、こんな奴に……!?」
困惑、焦燥、そこから来る憎らしさから理事は拳を地に向けて打ち付けようとする。
だがそも、拳が握れない……手が震えて、指先に力が入らない。
変身したショウマと相対した時から……いや、初めて彼と戦を交えたあの時からじわじわと心を支配していった恐怖の感情が、これ以上の抵抗を為さぬよう自分自身に歯止めを掛けている。
立ち上がれず、微かな反撃を行う素振りも見せない……誰が見ても、理事は負けていた。
理事の心が、敗北を宣言していた。
「……どうする?」
だからショウマは問い、そして下すのだ。
「二度と誰かの幸せを奪おうとしないか……。」
これまでも、これからも、彼だからこそ語るに値する、裁くに値する。
「この場で俺に倒されるか!!」
そんな、最後の審判を。
「私は……私はいずれ、カイザーそのものを手にする男だッッッ!!貴様なんぞに……貴様なんぞにいいいいい!!!」
理事が最後の力を振り絞り、立ち上がる。
それまで握れなかった拳を、心に巣食っていた恐怖を、プライドという名の憤怒に変える事で握り締め、覚束なくともショウマへ向けて歩みを進めて。
「……。」
【
そんな理事の姿を悲しく見つめていたショウマ。
だが彼は仮面の下で一度目を閉じ、やがてその目付きを決意に溢れた鋭いものとなるように開くと、ガヴドルを回して
【
一連の動作によってポッピングミゴチゾウの力が最大限に解放され、その力が全身に行き渡るのを感じながら、ショウマは目前まで迫った理事が拳を振り上げる様を見て……。
「はっ!!」
「ッッッ!?!?!?」
宙を返る。
後方へ大きく退くように跳んだショウマ……同時にその足下から謎の物体が飛び出し、決死の一撃を繰り出そうとした理事の虚を突き動きを止めさせる。
それはムニュという文字の形をした、紫色のグミのような物体であった。
これはショウマが変身した際に持つ共通の能力……ポッピングミフォーム然り、まだ見ぬ力を纏いし時も然り、ショウマはこうしたお菓子に由来する
そしてこの擬音は、単に相手の意表を突くだけの存在では終わらない。
「おおおおお……!!」
出現した擬音はショウマが飛び退く先へと向かって空中で留まり、彼の為の足場となる。
そしてショウマはその擬音の上に着地すると、左足を右後方へ伸ばしてさらに低い姿勢を取り、渾身の力を込めて跳躍する。
「あっ……。」
擬音の弾性も利用した跳躍は、瞬きする間も与えない程の刹那で以て距離を詰める。
擬音の出現に動揺し、二の足を踏んでしまった理事では、呆けた声を上げながらそれを見ている事しか出来ず……。
ショウマの全力の跳び蹴りが、理事の体に直撃した。
「ぐあああああッッッ!?!?!?」
深々と、体がくの字になるほどに突き刺さった必殺の一撃は大きな衝撃を生み、それに耐えきれなかった理事が吹き飛んだ先で起きた盛大な爆発。
それはやがて、狼煙へと変わるのだ……どんな苦境にも屈せず抗いきった、彼等彼女等を称える為の。
そして彼等彼女等の、勝利を飾る為の狼煙へと……。