キヴォトスに来たおカシな先生   作:ナリカオル

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第33話「キヴォトスに務めるおカシな先生」

 1週間後。

 S.C.H.A.L.E(シャーレ)の執務室にて、ショウマがソファに腰掛けながらシッテムの箱を使い、とある連絡先へビデオ通話を掛ける。

 

『あ、繋がった!』

『こんにちは~ショウマさん♪お元気ですか~?』

「皆!」

 

 数秒の後、画面に表示されたのはアビドス廃校対策委員会が普段使いしているあの教室と、その対策委員会に所属している少女達4人の姿。

 ノノミ、セリカ、アヤネ、ホシノ……皆、ショウマのよく知る元気な姿を見せてくれている。

 

「ごめんね皆、あの後直ぐにD.U.まで行く事になっちゃったから、皆の事放ったらかしになっちゃって……。」

『ううん、気にしなくて良いよ。電話越しだけど、こうして顔を見る事が出来たし。』

 

 そう言葉を交わしながら、ショウマは当時の事を思い返す。

 カイザーの理事との決戦を勝利で飾った、そのすぐ後の記憶を……。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「有り得ない……この……私、が……。」

 

 砂漠の上で仰向けに倒れているカイザーの理事。

 その姿はそれまで猛威を振るっていた、あの羅刹のような風貌に非ず。

 彼に於いての生身たる機械の体を晒し、味わった現実を信じ難いものだとして呆けた様子を見せている。

 

「……。」

「あっ……あぁ……!」

 

 と、そんな理事に近付く影。

 それは理事を倒して勝利を得たショウマ……既に理事と同じく変身を解いていたその手には、彼の専用たる剣(ガヴガブレイド)が握られていて。

 

「……ッ!」

「ひぃ!?」

 

 ショウマが剣を振り上げる。

 止めを刺される、そう思った理事はすっかり身に染み付いた恐怖からまるで女子のような声を上げてしまう。

 

「……?」

 

 が、目を瞑って数秒……意識は健在で、そもそも痛みが襲ってこない。

 確かに(ショウマ)は剣を振り上げ、一太刀を浴びせるという意志が見られた筈だというのに。

 どういう事なのか、恐る恐る目を開けてみると……。

 

「……これでもう、あんたはあの力を使えない。」

 

 ショウマは確かに、剣を振り下ろしていた。

 ただ彼が斬ったのは、理事の腹部に取り付けられていたあのベルト。

 力の源となっていた小物も、力を引き出していた装置も、どちらも深々とした傷が付けられており、反対に理事の体には、剣による切り傷は付けられていない。

 

「ふ……ふざけるな!!情けのつもりか!?そうやって私を見下して……!!」

 

 屈辱を覚えた理事が憤慨を示す。

 それはあまりにも自分勝手な振る舞いであった……他人を同じ様な目に合わせておきながら、その者達が同じ様な声を上げているのを肴にしておきながら。

 剣を掲げたかの者からもたらされていたかもしれない死への恐怖に竦み上がっていた事実を棚に上げて、情けのつもりかなどと……まるで全てを覚悟していたつもりだったと嘯いて。

 

「あんたには、罪を償って貰わなくちゃいけない……皆の為にも、あんた自身の為にも。」

 

 こんな輩を生かさなくてはならないのか?

 こんな奴を許さなくてはならないのか?

 ……きっと、誰もが口を揃えて言うであろう。

 

「どうすればあんたの……あなたの幸せを叶えられるか……皆の幸せに繋げられないか……。」

 

 それでも、信じてみたいのだ。

 皆の笑顔が、幸せが……大好きだから。

 

「俺は、諦めたくないから。」

「ッ……傲慢な……!!第一、罪を償うだと……?私を捕まえられるのか?どこに突き出すと言うのだ!?連邦生徒会か!?ヴァルキューレか!?私が捕まる理由も、それを裏付ける証拠も、何も無いであろうがッ!!」

 

 その皆の中に自分が含まれている事を認められない理事は、尤もであろう事を羅列して拒絶し、あわよくば逃がれようとする。

 だが少なくとも、逃れる事は直ぐに遠くから聞こえてきた物音が許さなかった。

 

「……そうでもないみたい。」

 

 そう呟いたショウマが振り返った先に現れた物音の正体、それは遥か上空から舞い降りた数台のヘリ。

 そしてその機体に刻まれているマークが示すのは……。

 

「連邦生徒会……!?ヴァルキューレ……!?」

 

 そう……キヴォトス全体の統治を行う組織、連邦生徒会。

 そして同じくキヴォトス全体の治安を守る組織、ヴァルキューレ警察学校。

 動く筈が無い、ましてや今この場に来る訳が無い、そう読んでいた者達の来訪に、理事は信じられないと目を見開く。

 

「先生。」

「リンちゃん……来てくれたんだね。」

 

 ヘリから次々と降りてくる生徒達。

 その中から連邦生徒会の代表(リーダー)としてショウマの前に現れたリンは、手に持っていた物を彼に向けて差し出す。

 それはショウマのガヴフォンと、ポッピングミゴチゾウであった。

 

 

 

 

 

─リン行政官、S.C.H.A.L.E(シャーレ)の先生からお荷物が届いています。

─先生から……?

 

 昨夜、仕事を終えた彼女の元へ届けられた小包。

 開けてみると、中に入っていたのは1通の手紙と赤い奇抜な形状のスマートフォン。

 そして目を瞑っているような意匠の、玩具のような何か。

 

─これは……手紙と、スマートフォンと……?

 

 この奇妙な組み合わせは何であろうか?

 謎を解き明かすべく手紙を開いてみれば、そこには一昨日の夜にも聞かされたカイザーの悪行に関する内容と、新たに小鳥遊 ホシノが連れ去られたという事実、そしてそれらの証拠はガヴフォンというらしい赤いスマートフォンと、この謎のマスコット……ゴチゾウというらしい……を組み合わせれば分かると書かれていた。

 

─これとこれを組み合わせる……どう……?

 

 しかしながら、肝心の組み合わせ方について何も書かれていない。

 文面や筆跡からして急を要する事態であるのは分かるのだが、内容そのものについては熟々と書いているのだからそこは同じ様に書いていて欲しかったなどと、呑気とも取れる愚痴を脳裏に浮かべながらガヴフォンとゴチゾウを手に取ると……。

 

─っ……!?

 

 驚く事にその瞬間、それまで瞼を閉じていた……つまりは寝ていた玩具(ゴチゾウ)が目を覚まし、そしてひとりでに動き始めたのだ。

 その突然うねうねと動き始めた奇妙さを前に、リンは驚いてガヴフォンと共にゴチゾウを落としてしまう。

 地面に落下したゴチゾウは少々痛がる素振りを見せたものの、直ぐに己の使命を思い出してガヴフォンの元まで駆け寄り、上部のスリットに自身の底面を嵌め込ませる。

 

─これは……。

 

 するとゴチゾウの目から涙のようなものが流れていき、それがまた驚く事に空中で固定されていくと……。

 

 

 

 

 

「動画、拝見致しました。もしあの動画の内容が事実なのだとすれば、流石に動かざるを得ませんからね……あと今回は事件性が有った事から厳重注意という形で済ませますが、本来生物を郵送するのは禁止されている事ですので、今後はお止め下さい。」

「あ、うん……ごめんなさい。」

 

 ショウマに小言を言いながら、今もリンの手の中で再現されているそれ。

 それは何と液晶スクリーンとなっており、表示されているのは砂漠奥地で交わした理事との会話や街での暴挙の様子など。

 このようにガヴフォンにはゴチゾウ達が見聞きした情報を映像として表す機能が備わっているのだ……証拠が無いとは言わせない。

 

「貴様だな?カイザー系列企業の理事及びカイザーPMCの代表取締役社員は。」

 

 そして今はまだ名を知らぬ、ギザギザとした歯並びが特徴的なヴァルキューレの生徒が呆然としている理事の腕を掴み……。

 

「ブラックマーケットに於ける金融機関の違法経営、並びにアビドス高等学校への不当な金利の上昇及び金銭の要求、そして生徒誘拐事件の実行犯の容疑で、身柄を拘束する。」

 

 遂にその手首に手錠が掛けられた。

 

「……わ、私が捕まった所で、何も変わりはしないぞ!!貴様等はこれからも地獄を見る事になるのだ!!永遠に逃れられない地獄をなぁ!!」

 

 やがて我に返った理事が、ショウマや少女達に向けて捨て台詞を吐きながら連行されていく。

 その暴言具合からして、ショウマの信念がまるで届いていない事が容易に見て取れる。

 

「……ありがとねリンちゃん、来てくれて。」

「いえ。私はただ、自分の仕事をしたまでです。」

 

 空しき思いが過り、心に暗い影を落とすものの、何もそれだけで終わった話では無い。

 ひとまずは掴めた今を噛み締め、そして皆で称えるべきであろう。

 

「先生ー!!」

 

 と、遠くから人の声。

 見れば砂漠奥地の施設へ牽制を行っていたユウカやスズミ、ミノリといったメンバーが。

 さらにその後方にはヒナやチナツが率いるゲヘナの風紀委員等の姿がそこに在った。

 パッと見て窺えこそしないが、きっとハスミを筆頭としたトリニティの生徒達も近くに居る事だろう。

 

「リンちゃん、アビドスと便利屋の皆が怪我をしてるんだ。お願いしても良い?」

「分かりました。応急手当を行った後、近くの病院まで搬送しましょう。」

 

 まずは彼女達に事情を説明する所から。

 話に聞いていた、ヒフミなる少女の事も知っておきたい。

 こうして対策委員会と便利屋の少女達は病院まで運ばれ治療に専念する事になり、ショウマは事後処理も兼ねて方々を回る事となった為、彼等彼女等が顔を合わせる機会というのがこれまで無いままだったのだ。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

『そういえばショウマさん、怪我は大丈夫なの?こう言ったらあれだけど、ショウマさん結構ボコボコにされてたイメージがあって……。』

「うん、俺は大丈夫。あの後お菓子もしっかり食べたから……そう言う皆こそ、怪我は大丈夫なの?」

『はい♪私やセリカちゃんはつい昨日折れた腕や足を固定していた包帯を取って、今はこの通りです♪アヤネちゃんも新しい眼鏡を買った事ですし、私達皆元気ですよ~♪』

 

 そんな経緯を経て、画面越しながら漸くの再開を果たした一同。

 その中でショウマが一番心配していた事に触れれば、ノノミが代表してそれに答える。

 しかし何というか……仮にも骨折などという普段負わないような傷を受けたり、下手をすれば死に直結していたかもしれなかった状況に陥っていたというのに、皆随分とあっけらかんとしているものである。

 まあその骨折が1週間も経たない内に完治したり、そも常日頃銃撃戦に身を投じているのだから、どうしても仕方の無い気楽さなのかもしれないが。

 因みにその事を言ったら『お菓子食べたら色々何とかなってるショウマさんも大概だからね!?』とセリカから言われてしまった。

 

『ではこの辺りで、そろそろ真面目な話に移るとしましょう……まずあれから対策委員会はショウマさんの口添えもあって、このアビドス高等学校の正式な委員会として認可が為されました。非公認だった所為で状況が悪くなっていた部分もあったので、本当に良かったです。』

 

 と、宴もたけなわという訳では無いが、アヤネによってそれまでの談笑から今回の通話の主目的たる事後報告に話が移る事に。

 最初に話題に上がったのは、アビドス廃校対策委員会の正式な認可について。

 今回の事件の経緯を踏まえてリンと相談した結果、彼女としてもまた同じ様な事を理由に問題が発生しては困るという事で、委員会の認可についてはかなりスムーズに話が進んだ。

 またそれに伴い、消失していたアビドス高校の生徒会についても、対策委員会が兼任という形でその役割を担う事になった。

 となれば当然生徒会長に該当する人物を立てる必要が有り、普通に考えればそれはかつてアビドスの生徒会の副会長を務め、今は対策委員会の委員長でもあるホシノが該当するのであるが……。

 

『いやいや、あれだけやらかしたおじさんが生徒会長とか駄目だって。本当なら委員長の座も譲りたいっていうのに……良いよー、ノノミちゃんでもセリカちゃんでもアヤネちゃんでも、好きなだけ生徒会長になってよ~。おじさんの事も腰が痛まない程度にはこき使って良いからさ~。』

『こき使って良いって……じゃあ大将のお店の建て直しが終わったら、一緒にバイトでもしてもらおうかしら?』

『へ?』

『そうですね~。そういう事でしたら、たまには代わりにお買い物に行ってきてもらうというのも良いかもしれません!』

『うへ!?』

『そうね。結局借金そのものが無くなった訳じゃないんだから、今までぐうたらしてた分も含めて働いてって言ってもバチは当たらないわよね?』

『ちょっと待って!今のは軽い冗談というか何というか……!?』

『あっ、そういえば大将、出前の人員が欲しいとか言ってたような……?』

『出前ぇ!?出前ってあれでしょ!?片手で岡持ち持ってチャリンコ漕いでってやつでしょ!?そんな器用な事おじさん出来ないよ~!!中身ダバダバ溢れまくりだよ~!!』

『出前の仕方が古い!いやでも大将のお店だったらワンチャンその可能性が……?』

『分かりました!出前のお仕事が難しいというのであれば、やっぱりお買い物に行ってきて貰いましょう!』

『いやいやお買い物って普段ノノミちゃんが両手いっぱいになって帰ってくるあれでしょ!?あんな事したらおじさんの肩と腕が死んじゃうよ~!!』

『む~、仕方ありません。そういう事でしたら一緒に行きましょう!もし疲れた時はおんぶに抱っこ……は、ホシノ先輩の為にならないでしょうから、お側で応援してあげます!』

『ノノミちゃんの応援は凄く嬉しいけど応援だけじゃどうにもならないから~!!素直におんぶに抱っこして良いよ~!!』

『……という事ですので、新しい生徒会長はまだ決まっていません。ですのでリンさんにはもう少し待って頂きたいと伝えてもらって良いですか?』

『アヤネちゃんももっとおじさんの事フォローしてよ~~~!!』

 

 真面目に、と言った側から話が脱線して……微笑ましい、見慣れた光景である。

 その光景をすぐ側ではなく画面越しに見つめる事に若干の寂しさを覚えながらも、それを胸の内に押し込みながらショウマはセリカが発した台詞から連想した事を問う。

 

「街の方はどう?……って言ってもまだ1週間しか経ってないから滅茶苦茶なままだと思うけど……。」

『それが、街の皆さんが凄く頑張って下さっていて……多分ショウマさんの予想よりもずっと早く復興は進んでると思いますよ。』

『さっきちらっと言ったけど、大将のお店も何か便利屋の連中からお金を譲って貰ってたらしくって、今絶賛建て直し中。私も建て直しが終わったら、またバイトとしてお店を手伝う予定だから。』

 

 大将に至っては、一時は引退を考えていたとも言っていたらしいが、心機一転と張り切っている今の様子を見るに、その心配はまだまだ先の話になりそうとの事。

 また今しがた触れられた便利屋68についても、アビドスの少女達と同様ごく短い間で怪我が治ったらしく、今は退院してどこかへ姿を消したのだそう。

 ゲヘナの自治区へ戻ったのか、はたまた別の場所でまた新しく事務所を構えているのか、それは誰にも分からないとの事だ。

 

『ショウマさんのお陰でホシノ先輩を助け出す事が出来て、あの人(カイザーの理事)も無事に逮捕されましたが、それでもさっきセリカちゃんが言った通り、借金自体は残ったままです……ですが、少なくともあの人によって上げられた利子は不当な繰り上げだとして無効となったので、結果的には元通りの形に収まりましたね。』

『ただ、カイザーローンもブラックマーケットでの不正な運営が露見した事で、連邦生徒会の捜査が入ると聞いています……もしかしたらその影響で、借金の返済にも何かしらの変化が期待できるかもしれません。もし何か変化が有りましたら、ショウマさんにもお伝えしますね。』

『カイザーって言えば……結局アビドスの自治区の大半は、まだカイザーコーポレーションが所有したままなんだよねー。』

『はい。やはり取引自体は決して違法なものではなかったようなので、そこはもう仕方がない部分かと。』

『きぃ~!あの連中、本当ずる賢くて強かなんだから!』

『砂漠の奥のあの施設で何をしていたのかも、今となっては分かりませんね……。』

『そうですね……あそこも歴としたカイザーの土地になっているようで、連邦生徒会でも捜査には踏み切れなかったようですし……とはいえ今は指導者が居なくなった事で事実上の凍結状態になっている筈です。これから怪しい動きが無いか、常に目を光らせておきましょう。』

 

 話に上がった通り、カイザーとの因縁はまだまだ断ち切れそうにない。

 が、カイザーの理事が逮捕された事により少しは状況が好転したとは言って良いだろう。

 ……そのカイザーの理事が今より少し後にヴァルキューレから脱走したと知るのは、まだ先にして別の話である。

 

『あと大きな変化と言えば……やはりショウマさんですかね。』

『まずはやっぱあれでしょ、ショウマさんあれ何だったの?あの……変身?ってやつ。』

 

 と、今度は少し真面目が過ぎてしまったかもしれないとして転換された話題の矛先は、ショウマ。

 問われたのは、カイザーの理事との戦いで見せた異能の力について……やはり、気になる所であろう。

 

「あれは、仮面ライダーとしての姿だよ。」

『『かめん……らいだぁ?』』

 

 その名を告げ、少女達が画面の向こうで一斉に首を傾げた様がおかしく、思わず吹き出しそうになってしまったショウマであったが、かの姿の詳細を語ろうとした所で次第に言葉に詰まる思いを抱いてしまう。

 

「そう、仮面ライダーガヴ。ゴチゾウの皆を使って俺の中のグラニュートの力を引き出した姿で……。」

 

 あの姿は、あの力は、決して望んで得たものではない……あれは言ってしまえば、自身を取り巻いた悲劇の象徴でもある。

 

─皆落ち着けって!こいつはバケモノじゃない!バケモノから皆を助けた……!

 

 でも、決してそれだけでもない。

 かつて仲間の1人が上げた言葉が、その続きが、もう一度思い起こされる。

 

 

 

 

 

─仮面ライダーだ!

 

 

 

 

 

「……俺の、誇りかな。」

 

 母親以外の者から初めてその存在を認めて貰えたような気がして……だから本当に気に入っている名前でもある。

 

『な、何そのあからさまな、とても一言では説明出来ませんみたいなの……いや、まあ実際そうなんだろうけどさ。』

『でもとっても強くて格好良くって、素敵でしたよ☆』

 

 そんな複雑な心境を何となく察したのだろう……少女達も今はそれ以上深く踏み込もうとはせず、次に会った時の話題の種として取って置く事にしてくれた。

 実際そういった感情を抜きにして説明をしたとしても長い話となるだろうから、ありがたい配慮である。

 

『ではあとお話を聞きたい事と言えば……やはりショウマさんが先生に就任するという事ですかね。』

『いやー本当に先生になるんだねー。そういえばその羽織ってる上着、連邦生徒会の?』

「うん、リンちゃんから貰ったんだ。これから先生として過ごすつもりなら、これを着てくれって。」

 

 そしてそう……先に事後処理も兼ねて方々を回る事となったと説明したように、あれからショウマはこのキヴォトスの先生になる事を選んだのだ。

 今彼が着ている上着が、その証……連邦組織に属している事を意味する真白色の上着を少女達にも是非見てもらいたいと、ショウマは椅子から立ち上がってその場でくるりと1回転。

 その表情は先の少女達の気遣いに喜びを感じた事から続いているが故に楽しげであるが……そんな少女達はというと、彼と同じ様な気持ちにはあまりなれていなかった。

 

『でも……良いの?先生なんてやってたらショウマさん、いざって時に帰れなくならない?』

『軽くお話を聞いた限りでも、そう簡単に辞められるお仕事では無さそうですし……。』

 

 確かにホシノやアヤネの言う通りであろう……実際自分でも、その懸念はすぐに思い浮かんだ事であった。

 だがショウマの中には、不思議とその懸念に対する不安といったものは無かったのだ。

 

「大丈夫。先生の仕事は誰かに言われたからやるんじゃなくて、俺が本当にやりたいって思った仕事だから……もしその時が来ても、仕事はちゃんとやりきってから帰るつもり。」

 

 正直根拠らしい根拠も無く、一体何が大丈夫なのか自分でもよく分からないが……何となく、何とかなると感じている。

 そしてこれまた不思議な事に、そう言われてしまえば確かに彼ならばと少女達は納得してしまう。

 時に悩み、時にすれ違いながらも誰かを想う事を決して止めず、そしてその想いを力に変えて大業を為した、彼ならばと。

 

『ここ暫くの間で、本当に色々な事が有ったけど……まあ、最終的にはいつも通りの毎日に戻ったって言えるかな。』

『何も変わってないって言えば聞こえは悪いかもしれないけど……でもそれが一番良い事なんだって、私達皆がそう思ってる。』

『こうした日々を迎える事が出来るのは、ひとえにショウマさんのお陰です……ですから、改めてお礼を言わせてください。』

 

 そしてその大業に救われた身として、少女達は改まって目の前の英雄に向けて感謝の意を向ける。

 

『ありがとうございます、ショウマさん。私達と出会ってくださって……私達の側に居てくださって。』

 

 同時に、かけがえのない日常を共に歩んでくれた仲間としても、最大の感謝を。

 

「こっちこそありがとう……俺、この世界で最初に会えたのが皆で本当に良かったって思ってるよ。」

 

 ショウマもまた、その偉業を成し遂げられたのは皆のお陰だと……かけがえのない日常を共に歩んでくれたのは少女達の方だと頭を下げる。

 お互いもう、これ以上の言葉はさして必要なかった。

 

『ではこれからも、私達アビドス廃校対策委員会をよろしくお願いしますね、ショウマさん。』

『先生の仕事、大変だろうけどたまにはこっちに顔出しに来てよね!大将もショウマさんにお礼したいって言ってたし!』

『逆に何かあったらいつでも連絡ちょーだいねー?力になるからさ。』

『それではショウマさん、またお会いしましょう!』

「うん!またね、皆!」

 

 離れた場所に居る事にはなってしまう……だが心はいつでも繋がっている。

 その事を互いに実感しながら、両者を繋いでいた通話が終了した。

 

『アビドス廃校対策委員会の皆さん、とっても良い人達でしたね。』

 

 通話が終わり、椅子に深く体を預けていると、アロナから声を掛けられる。

 もちろんアロナも大切な仲間の1人……それは口に出さずとも十分理解しているらしく、画面に映る彼女はとてもにこやかな笑みを浮かべている。

 が、これから述べようとしている内容に合わせて、彼女は一度その表情を引き締める。

 

『先生、私からもお礼を言わせてください……先生としてのお仕事を引き受けて頂いて、本当にありがとうございます。きっとこれから、先生は様々な出来事に直面する事となるでしょう。』

 

 難儀な問題に出会す事も、辛苦な困難に当たる事もある筈だ。

 しかしいつだって、あなたの事を全力で支えてみせよう……どんな時だって、側に居ると誓う。

 あなたが夢見る世界を、私も見てみたいから。

 

『ですので改めて……このキヴォトスを、S.C.H.A.L.E(シャーレ)をよろしくお願いしますね、先生!』

「うん!これからよろしくね、アロナちゃん!」

 

 そう言って、浮かべた満面の笑顔を締めとし、彼女は画面の前から姿を消した。

 ショウマは目を閉じ、少女達から受け取った想いの数々を心の中へじっくりと染み渡らせると、開いた目をオフィスの窓辺まで寄って見上げた空の先へと向ける。

 

「(幸果さん、ごめんなさい……俺、こっちの世界でやってみたい事が出来ました。だから、そっちに帰るのは少し遅れそうです。)」

 

 キヴォトスの外が自身の住んでいた世界と繋がっているのかどうかは、まだ分かっていない。

 果たしてあの空の向こうに、彼女は居るのだろうか?

 

「(絆人……それまでの間、幸果さんをお願いね。)」

 

 思い馳せるは、彼女だけではない。

 頼れる仲間……しかしそれ故にもう1人その枠に当て嵌まる人物の事も同時に思い起こされ、ショウマは無性に寂しき感覚に襲われる。

 

「(ラキアも今、こんな感じなのかな……やっぱり会って話をしたいよ。)」

 

 全てを納得して、受け入れて、今がある訳じゃない。

 それでも、酸いも甘いも、辛いも苦いも、これから何だって味わい、食べていこう。

 

 

 

 

 

「俺……頑張るから!」

 

 この世界に於けるショウマの冒険は、まだ始まったばかりである。

 

 

 

 

 

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