キヴォトスに来たおカシな先生   作:ナリカオル

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第2話「百夜ノ春ノ桜花祭」

「百夜堂って言えば、あの有名な喫茶店だね。」

「あそこのいちごあんみつが最高でねぇ。」

「他にも色々美味しいものが有るんだけど、何より最高なのは……。」

 

 

 

 

 

「「「シズコたんの可愛い笑顔!」」」

 

 

 

 

 

 何人目かも分からない通行人達が、揃いも揃って同じ事を熱弁していく。

 最初こそその人気振りに感心していたショウマ達だったが、流石にここまで来ると苦笑いしか出てこない。

 道を尋ねれば必ずシズコの名前が話題に上がり、そして最後には必ずシズコが可愛いという結論に着地する。

 もはや百夜堂とは喫茶店の名前なのか、それとも元居た世界に於けるU・M・A(人気バンドグループ)のファンクラブのような集まりを称する名前なのか……そんな事をささやかに思い始めた頃、漸く目的地らしき建物が見えてきた。

 

『着きましたね、ここが百夜堂のようです。』

 

 和風の外観に、時期に合わせた桜模様の暖簾。

 祭りの景色にも自然と溶け込むような落ち着いた雰囲気を感じる喫茶店であるが、店の前には思った以上に人が並んでおり、人気店である事が窺える。

 

「こんにちは、S.C.H.A.L.E(シャーレ)のショウマですけど「お頭ァ!ようこそいらっしゃいマシタッ!」……も?」

 

 列に並んで、暫く待って、そして順番が回って店の扉を開けた瞬間に響く、凄まじい声量。

 ショウマ達が思わず揃って肩を跳ねさせる程の、そんなとんでもな歓迎の声を上げたのはカウンターから飛び出してきた、どこか極道映画めいた迫力を纏った少女だった。

 

「わざわざ斜亜礼(シャーレ)組からいらっしゃると聞いて、このフィーナ!心よりお待ちしておりマシタァァァ!!」

 

 さらに畳み掛けるような熱量……店内に居た他のお客さんまで何故か便乗して拍手をし始める始末である。

 そのあまりの勢いにショウマは目をぱちくりとさせ、アロナも画面の中で呆然とし、ホシノは「いやぁ……何か……凄いね。」と半ば呆れたように笑って。

 すると店の奥から1人、慌てた様子の少女がこちらに駆け寄ってきた。

 

「ちょっとフィーナ!?先生が困ってるでしょ!?」

「エ、でも先生が来たらビックリするくらい盛大にお出迎えのアイサツをって、さっき委員長ガ……。」

「いやいやいや、それはあくまでも百夜堂の従業員としての第一印象的な話だから!」

「ねえ、おかしらって何?もしかして……。」

『違いますからね?食べ物のお菓子(かし)じゃありませんからね?』

「まあ簡単に言うならリーダー的な……大将的な……そんな感じ?」

 

 どうやらこのフィーナという少女、かなり独特な感性の持ち主らしい。

 ショウマもショウマでアロナのツッコミが無ければ本当にお菓子の方だと思っていたかもしれないと思わせるような寸劇を見せており、一気に場の空気が緩くなった中でホシノが小さく肩を竦めながらショウマを促す。

 

「ほらショウマさん、今はそれよりも。」

「あ、そうだね……えっと、もしかして君がシズコちゃん?電話で聞いた声とそっくりな気がして……。」

「え?は、はい!そうです!私がシズコです!」

 

 ショウマに問われ名を返した少女……シズコは、一度深呼吸をしてからぴしっと姿勢を正し、そして直ぐ様満面の笑顔を浮かべる。

 

「こほん……いらっしゃいませ、先生!百夜堂へようこそ!にゃんにゃん♡」

「うん、よろしくね。」

「うへ、にゃんにゃんだなんて可愛いねー。今度セリカちゃんにもお店でやってもらおっかな?」

「えっと……そちらの方は?」

「あ、ホシノちゃんはS.C.H.A.L.E(シャーレ)の当番で……何だろう、付き添いって言えば良いのかな?もしかして、俺1人の方が良かった……?」

「いえいえ!お客様は誰でも大歓迎です!では、中へご案内致しますね?フィーナ、2名様で!」

「はいっ!不肖フィーナ!お頭方を全力でおもてなし……!」

「だからそういうのじゃなくって!」

 

 そんな賑やかなやり取りをしながら、ショウマ達は百夜堂の中へと案内されていく。

 店内には甘い香りが漂い、木造建築の内装と相まって外で開かれているお祭りとはまた違う心地良さが拡がっていた。

 成る程、これは繁盛する訳だ……ショウマはそんな事を思いながら、案内された席へと腰を下ろす。

 

「では改めて自己紹介を……私は河和 シズコ。百鬼夜行連合学院のお祭り運営委員会委員長であり、この百鬼夜行自慢の伝統的な喫茶店、百夜堂のオーナー!それと同時にここの看板娘でもあって、つまりは皆のアイドルみたいなものです!」

「そしてワタシは百夜堂の従業員!任侠の道を極めんとする、朝比奈(あさひな) フィーナと申しマス!」

 

 そうして皆揃って席へ着くが早く、胸を張って名乗りを上げるシズコ。

 その声音には自信と誇りが満ちていて、成る程確かにあれだけの人達が口を揃えて名前を出していたのが分かる気がする。

 愛想が良くて明るくて、それでいてお店やお祭りへの愛情も短い自己紹介の中ながらしっかりと伝わってくる……ただ可愛いだけでは無い、皆に慕われるだけの理由がちゃんと有るのだろう。

 そんなシズコに続くように、フィーナも勢い良く片手を胸に当てながら自らの名を名乗る。

 やはりというべきか、どこか時代劇や極道映画じみた自己紹介である……ビシリと決めたそのポーズ含めて妙に堂に入っているのがとても印象的だ。

 

「シズコちゃんにフィーナちゃんだね。俺は井上 ショウマ、よろしくね。」

「おじさんは小鳥遊 ホシノ。今日はショウマさんのお手伝いって事で来たから、まあよろしくねー。」

『私はシッテムの箱に搭載されているAI、アロナです。よろしくお願いしますね。』

 

 改めて交わされる自己紹介。

 最初はかなり賑やかな出会い方だったが、こうして席に着いて向かい合うと、自然に落ち着いた空気へと変わっていく。

 シズコ達が運んできてくれたお茶から香り、また味わえるほんのりとした甘み。

 窓の外から聞こえる祭り囃子と、人々の楽しげな笑い声が遠く響いてきて。

 正しく外の世界から切り離されたような、そんな穏やかな雰囲気がいつの間にか店内を支配していた。

 

「それで、先生方は百鬼夜行に来るのは今日が初めてなんですよね?それなら私達お祭り運営委員会のPRを兼ねて、百鬼夜行の事をお話ししましょう!」

 

 するとシズコから提案された最初の話題。

 百鬼夜行連合学院は昔から観光業を中心にした学院自治区で、祭りや温泉、音楽等様々な娯楽が有るが、何よりも注目すべきはグルメであるらしい。

 そうしてありとあらゆる文化と生徒達とが交わり、息づいている……そんな場所なのだと。

 同時に、桜花祭についても説明があった。

 

「先生方は、百鬼夜行の御神木はご覧になりましたか?」

「うん、さっき展望台から見てきたよ。」

「凄いよねー、5月なのにあんなに桜の花が咲いてて。」

「そうなんです!御神木は1年中枯れる事無く咲き誇る、まさに百鬼夜行のシンボルなんです!まあどうして枯れる事が無いのかって言われると分からないんですけど……少なくとも、百鬼夜行の自治区が出来る遥か以前から存在してるって言われてますね。」

「その昔、百の夜を越えてなお春の如く咲き誇りし桜の木を祝う為に、その兆しが見られたこの時期に桜花祭を始めたのだと聞いていマス!つまり百夜ノ春ノ桜花祭は御神木を讃える為のお祭りであると同時に、百鬼夜行でも最も古いお祭りの1つでも有るんデス!」

 

 ショウマは2人の話に楽しく耳を傾ける。

 温泉、お祭り、和風の街並み、そして沢山の食べ物……元居た世界を思い出させるものが非常に多いからというのもあるが、それ以上に皆がこの街を好きなんだという熱がひしひしと伝わってくるのだ。

 

「そして私達お祭り運営委員会は、そんな百鬼夜行の観光業の中でも最大規模を誇る祭りの行事の担当をしています。企画から運営、そして全般的な管理まで、その殆どを担当している部活なんです!」

 

 語りを続ける中で、シズコの熱量はどんどん高まっていく。

 実際ここへ来るまでに見てきた景色を思い返せば、彼女がそこまで熱を込める理由も察せられる。

 通りを埋める屋台、人々の笑顔、街全体を包む高揚感……これだけ大規模なお祭りを取り仕切るというのは、きっと想像以上に大変な事なのだろう。

 

「そっか……凄いんだね、2人共!」

「良いねぇ、街も凄い賑わってるし……うち(アビドス)じゃ絶対出来ない事だよ。」

 

 ホシノが苦笑混じりに呟く。

 砂漠化の進むアビドスでは、こうして街全体を巻き込むようなお祭りを開く余裕など到底無い。

 だからこそ、これまで見てきた光景がより特別に見えるのだろう。

 その言葉にシズコも少し照れ臭そうに笑うも、その笑顔は次の話題に移った途端、だんだんと曇っていってしまう。

 

「こうして色んな方の努力や協力が有って、お祭りが盛り上がってはいるんですが、最近それを邪魔してくる奴等が現れまして……。」

 

 先生方を純粋にお祭りに招待したかったのも本当なのですが……と、先程まで弾んでいたシズコの声が徐々に沈んでいき、フィーナも腕を組んで不満げに眉を寄せる。

 どうやら、自分達を呼んだ理由がここに有る……ショウマ達が自然と気を引き締める中で、シズコはどこか申し訳なさそうに顔を伏せた。

 本当なら、楽しいお祭りの話だけをしたかったのだろう……けれど今この桜花祭には、決して無視出来ない問題が起きている。

 だからこそ彼女は、まだ出来たばかりでよく分からない存在である筈のS.C.H.A.L.E(シャーレ)へ助けを求めたのだ。

 その事実を前に、ショウマは必ずや彼女達の願いを聞き入れようと、一層話を聞く姿勢を正すのであった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 そこからシズコが語った内容は、想像以上に深刻であった。

 地元の不良生徒の集団により屋台の備品を壊されたり、搬入中の荷物をひっくり返されたり、酷い時には出店そのものを脅して撤退させようとした事もあるのだそう。

 しかも厄介なのは、これらが今の状況的にただの悪戯では済まないとされる点だ。

 祭り全体の空気を悪くし、人を遠ざけ、運営側の信用まで削ろうとしている……それは明確な妨害行為であった。

 シズコも明るく振る舞っているが、話している内に傍目でも分かる程の疲労感を見せていく……きっとここ最近、ずっと気を張り続けてきたのだろう。

 何とかしなければならない……そう思った矢先、不意に外から大きな破裂音が響いた。

 

「今のは……!?」

「委員長!敵襲デス!」

「ああもうっ!!言ってる側からあいつら!!ほんっとやってらんない!!」

 

 先程まで見せていた疲労感などどこへやらというように、シズコが激情露に机を叩いて立ち上がる。

 件の集団の仕業であろうと推測して、思わず本音が漏れたのだろうか。

 

「あっ、えっと……きゃー、シズコこわーい……なんちゃって……。」

 

 慌てて取り繕うように両手を頬へと当てるシズコ。

 その明らかな猫の被り様がツボに入ったのか、ホシノがじわじわと笑いを堪え始めるも、外の騒ぎは冗談で済むようなものでは無く……祭りのざわめきの中に、次第に怒号や悲鳴が混じり始めてきた。

 

『とにかく、今起きている問題を解決しましょう!』

「そうだね、行こう!」

 

 そうして一同は、騒ぎの起きた通りへと駆け出していくのだった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「ふはははっ!あたしらは百鬼夜行の路上に屯ずる魑魅魍魎!」

「その名も、魑魅一座(すだまいちざ)・路上派っす!」

 

 現場へ着くなり耳に飛び込んできたのは、誰に向けているのかも分からぬ、やたら芝居掛かった名乗り口上であった。

 通りの真ん中を占拠するように立っているのは、天狗やひょっとこといったお面を付けている少女達。

 提灯を倒し、屋台を蹴飛ばし、祭客達を脅かすその姿に、周囲の空気も張りに張り詰めている。

 

「魑魅一座……!?」

「あいつらです!いつもいつもお祭りの邪魔をする迷惑な奴等!不良の集団なんです!」

「あー成る程、私達の所でいうカタカタヘルメット団って所か。」

 

 ホシノの妙に納得した例えに、ショウマも嗚呼と頷きかける。

 確かに雰囲気は近い……ただしこちらの方が、やはり若干芝居臭さが強い気もするが。

 

「お、来たなお祭り委員会。毎度毎度ご苦労なこった。」

「なっ!?誰の所為で苦労してると……!」

「せっかくの桜花祭を邪魔しようとするだなんて、許せマセン!」

 

 そして魑魅一座のリーダーであるアラタの挑発にシズコとフィーナが今にも飛び出しそうになるのを横目に、ショウマは静かに魑魅一座の面々を見つめる。

 思ったのだ……ただの悪意だけで、話に聞くまでに執拗に祭りを荒らすものであろうかと。

 

「……ホシノちゃん。」

「良いよ、ショウマさんに合わせる。」

 

 ショウマの意図を汲んで、ホシノは大盾に手を掛けながらも判断を待ってくれている……ならばありがたく乗じさせてもらおう。

 

「2人共、ちょっとだけ待ってもらえる?話をしてみたい。」

「えっ!?話って……無理ですよそんなの!」

 

 シズコが驚いた声を上げて引き止めようとするも、ショウマは止まらず前へ出る。

 どうしても気になってしまったのだ……ただ単に暴れ回りたいが為に集まっていると思われる目の前の集団から感じる、一抹の違和感を。

 

「ん?何だお前?どこの学校の生徒だ?」

「初めまして、魑魅一座の皆。俺はショウマ、S.C.H.A.L.E(シャーレ)の先生をやってるんだ。」

 

 人を巻き込んで悪さをしている事に対する感情は含めずに、優しく……或いは淡々と言葉を交わそうとするショウマ。

 しかし魑魅一座から返ってきたのは、露骨な警戒心だった。

 

「シャーレ?何だそりゃ……聞いた事も無いな?」

「どこの誰かも知らねぇような奴が首突っ込んでくるんじゃねぇっすよ!」

 

 まだシャーレの知名度は高くない……それはショウマ達自身も十分に理解している。

 そこで代わりに会話の前へと出たのは、アロナであった。

 

『では、連邦生徒会の者と言えば分かりますかね?』

「あん?連邦生徒会……連邦生徒会!?」

 

 途端に、魑魅一座の面々にどよめきが生まれる。

 どうやら百鬼夜行でも、連邦生徒会の名は相当な効力を持つらしい。

 

「な、何で連邦生徒会の奴がこんな所に……!?」

「まさか、お祭り運営委員会の奴等が呼んだんじゃ……!?」

『どうやら連邦生徒会の名前を聞いて青ざめるくらいには、自分達がやっている事を理解しているみたいですね。』

「それで、どうして皆はそんなにお祭りを荒らして回ってるの?お祭りって皆で楽しむものだと思うから……そんな悪戯に銃を人や物に向けたりするのはちょっと違うと思う。」

 

 ショウマの声に変わらず怒気は無い……ただ純粋な疑問であった。

 だが、それが逆に魑魅一座の神経を逆撫でてしまったらしい。

 

「り、リーダーどうしやす!?流石に連邦生徒会に楯突くのは……!?」

「う、うるせぇ!こっちも命令なんだよ!やるっきゃないだろ!」

 

 直後、銃口がこちらへ向けられ、乾いた発砲音が辺りに響き渡る。

 だが放たれた筈の弾丸は、ショウマの身には届いていなかった。

 

「……うへ、今度はちゃんと守れたかな。」

「うん、ありがとうホシノちゃん。」

「どういたしまして……それで、どうするショウマさん?」

 

 いつの間にか前へ出ていたホシノの大盾が、銃弾を受け流していたのだ。

 ホシノは相変わらず気怠げな口調であったが、既に自身の愛銃(Eye of Horus)を引き抜き、目付きは完全にその気になっている。

 やるしかない……ショウマも小さく息を吐いた。

 

「仕方が無い……やろう。」

「OK~。2人はそこに居て、おじさん達で何とかするからさ。」

「ふ、2人だけでデスカ!?」

「そんな無茶な……!?」

 

 シズコとフィーナが揃って声を上げる。

 相手は銃火器まで持ち出している不良集団、それも数ではこちらを大きく上回っているのだ……普通に考えれば無茶以外の何物でもない。

 しかし当の2人には、妙な事に焦りの1つも見られない。

 そしてそんな2人を見た魑魅一座の面々が、一瞬だけたじろぐ……何だあいつらは、と。

 

「っ……やっちまえ!!」

 

 だが次第に2人の余裕然とした雰囲気が、まるで舐められているものだと感じ取れていき、やがてアラタの指示の下、魑魅一座は一斉に銃を構える。

 そして一座の組員各々の火器が一斉に火を吹くも、ホシノの大盾がそれら全てを真正面から受け止める。

 

「なっ!?」

 

 アラタが思わず声を裏返らせる。

 当然だ、普通ならたとえ牽制であったとしても人の足は止まり堪えるというもの。

 だというのに目の前の少女は雨霰と放たれる銃撃を受けながら、平然とその場で立っているのだから。

 いや……立っているだけでなく、やがて彼女は鼻歌でも歌い出しかねない程の気軽さで以て魑魅一座へ向かって走り始めたのだ。

 その小さな体躯で、一体どんな体幹と精神をしているというのか……魑魅一座が揃って戦慄さえ覚え始めた頃には、もう遅かった。

 

「ほいっ。」

「ぐわっ!?」

「よっ、とっ、ほっ。」

「ぎゃっ!?」

「うぎゃ!?」

「ぎにゃあ!?」

 

 間合いに入った瞬間、ホシノのショットガンから次々と散弾が放たれる。

 1人につき1発、それで十分……ごく軽い調子の掛け声とは裏腹に、魑魅一座の隊列がみるみる内に崩れていく。

 それはまるでベテランの掃除人が散らかった荷物を片付けていくかのような手際の良さであった。

 自然と魑魅一座の意識がホシノ1人に集中する……厄介なのは明らかにこちらだと、そう判断したのだろう。

 だが、その瞬間だった。

 

「……!」

 

 それまで静かに立っていたままであったショウマが動き出す。

 腹部のガヴを開き、中からガヴガブレイドを引き抜いて、そして剣の柄をしかと握った彼が一気に地面を蹴る。

 

「ホシノちゃん!」

 

 呼び掛けに、ホシノは振り返りもしないまま大盾を傾ける……それはまるで、最初からこうなる事が分かっていたかのような動きであった。

 

「ふっ!」

 

 互いの信頼による行動が結び付き、ショウマはその大盾を踏み板代わりに大きく跳躍する。

 高く、一気に、魑魅一座の頭上を飛び越える程の勢いで以て。

 そしてショウマはそのまま敵集団の深部へ狙いを定め……。

 

「はぁ!」

 

 着地と同時に振り下ろされたガヴガブレイドが、組員の1人が持つロケットランチャーを真正面から叩き斬った。

 

「ぎゃあああ!?3ヶ月分の小遣いで買ったロケランがぁぁぁあ!?」

「ごめんね!」

 

 慟哭する組員を尻目に、ショウマはそのまま他の魑魅一座と相対する。

 ガヴガブレイドで銃器を切り捨て、当人らは適度にブレイドの面や体術で以て制圧して……。

 

「いや嘘でしょお……!?」

殺陣(タテ)!殺陣(タテ)デスヨ委員長!フィーナ、映画の中でしか見た事ありマセン!」

 

 そんな2人の戦い振りを、フィーナは興奮冷めやらぬといった様子で、シズコはにわかには信じられないものとして見ている……何せ両者とも、明らかに戦い方がおかしいからだ。

 普通銃撃戦を行うなら遮蔽物に身を隠しながらやるのが基本というか大前提だ……ヘイローのお陰で大した傷にこそならないが、痛いものは痛い。

 なのに2人して、そんな事は念頭にも置いていないとでも言うように正面から突っ込んでいって、ダメージは防ぐか躱すかして無に帰して。

 しかもショウマに至っては銃どころか、使っているのは剣……もはやおかしいなんて土俵にも立っていない、完全に気狂いを起こしているようにしか見えず。

 それであの大立ち回りを演じているのだから、一体今までどんな環境に身を置いてきたのか……味方である筈なのに、シズコの背には冷や汗が一筋伝っていた。

 

「な、何なんすかこいつら……!?」

「お、おい!あいつを呼べ!近くに居る筈だ!」

 

 そして仲間達が次々と無力化されていく光景に、魑魅一座の面々も冷や汗を一筋どころではなく流していた。

 すると再びアラタの指示を受け、組員の1人が唐突にとある行動を取ったのだ。

 

「口笛……?」

 

 それは口笛。

 特有の甲高い音が周囲へ鳴り渡るのを受けて、ショウマは僅かに眉を顰める。

 さては増援の合図か、そう考えた次の瞬間であった。

 

「ショウマさん!」

 

 ホシノの声が飛び、それと同時にショウマを狙った鉛の塊を彼女の大盾が弾く。

 

「余所見は禁物だよ~?」

「ごめんねホシノちゃん、ありがとう!」

 

 油断大敵、それを詫びたショウマは改めて魑魅一座と対峙する。

 とはいえそんな一瞬の隙は以降2人の牙城を崩す要となる事は無く、一方的な戦模様を描くのみであった。

 

「お命……頂戴!」

 

 そんな中で空から舞い降りる声と影。

 影は着ている服の袖から苦無……の模造品を取り出し、眼下に居るショウマ目掛けて振るう。

 それは彼等の前に居る魑魅一座とは明らかに次元が違う速さの振りであった。

 

「ッ!」

「きゃんっ!?」

 

 だがショウマは影から滲み出ていた殺気……とも呼べぬ、だが確かに相手を討ち倒すという気概を察知し、そして影が発した声を合図に振るわれた暗具を自身の剣で防ぎ、力に任せて押し退かせた。

 僅かな悲鳴を上げるも、軽い身のこなしで着地する影。

 その影の正体とは、あまりに意外な人物であった。

 

「えっ……イズナちゃん!?」

 

 そう……影の正体とは、先に出会ったあの少女……イズナであったのだ。

 

「えっ!?先生にホシノさん……!?」

「あれ、さっきの子じゃん。どうしてこんな所に?」

「そ、それはイズナの台詞です!どうしてお2人が私達の邪魔を!?」

 

 イズナの瞳が揺れている。

 どうやら彼女もまた、こんな形で自分達と向き合う事になるとは想定していなかったようだ。

 

「はっ!?まさかお2人は最初からこのつもりで……イズナを油断させる為に近付いていたという事なんですか!?」

「えっ!?な、何の話……!?」

「酷いです!!イズナの夢を応援するって言ってくれたのに……どうしてですか!?お2人共、本当は悪い人達だったんですか!?」

「ちょ、イズナちゃん!?」

 

 大きな衝撃、動揺……それによってショウマが困惑から動けないでいると、イズナが再び暗具を握り締めて向かってきた。

 彼女はショウマと同じ境遇に至って、しかし錯乱という道を選んでしまったようだ。

 

「ショウマさん、ここは私が。」

 

 先程まで魑魅一座を圧倒していた姿は何処かへ。

 さらなる困惑から完全に動けないでいるショウマに代わって、ホシノがイズナの相手を務める事に。

 

「イズナちゃんストップストップ、1回落ち着こっか。おじさん達としてはむしろどうしてイズナちゃんみたいな良い子がこいつ等と一緒に居るのか聞きたい所だからさ。」

「い、イズナは忍びとして命令に従ってるだけです!」

 

 忍者を目指しているという事もあってか、イズナはとてもすばしっこい動きをしてホシノの死角を突こうとする。

 だが見極められないなんて事は無いと、ホシノはイズナの攻め手を的確に防ぐ。

 

「おいおいマジかよ……!?」

「あいつも大概だと思ってたっすけど、それでも押し切れないんすか……!?」

 

 ホシノは変わらず余裕綽々。

 ショウマも気を動転させこそしているが、その息は1つとして乱れていない。

 増援として呼んだイズナとて状況を好転させられていない事実を前に、魑魅一座の戦意は目に見えて削られていた。

 

「こうなったら……イズナ殿!一旦撤退するぞ!」

「撤退……!?ですが、イズナは……!」

「立派な忍者は引き際を弁えているものだよ!何かの本で読んだ気がする!」

 

 妙にふわっとした信憑性の低い知識であったが、それでもイズナの心には届くものがあったのだろう……彼女は素直にアラタの言葉に従った。

 

「成る程……そういう事であれば……っ!」

「おっと、良い蹴り……!」

 

 鍔迫り合っていた態勢から、イズナの蹴りが繰り出される。

 それを盾で受けたホシノが僅かに表情を崩した中で、イズナは蹴りの反動を利用して大きく後方へと宙を返った。

 

「まさかイズナの夢を応援して下さったお2人が立ちはだかるなんて、何という運命の悪戯……ですが、イズナは知っています!忍びの道を行くからには、こういった事も起こり得るのだと……!」

 

 啖呵を切るイズナであったが、その目は今にも涙で溢れそうになっていて……。

 そんな眼差しを向けられたショウマの胸がズキリと痛む。

 

「望まぬ戦いに巻き込まれてしまうのもまた、忍者の宿命……お2人共、イズナは諦めません!次に相見える時はイズナ、今の3倍ぐらいは強くなっている筈ですので!」

 

 そしてイズナは踵を返し、一瞬で走り去っていった。

 魑魅一座もそれに合わせて蜘蛛の子を散らすように撤退していき、その場にはお祭りが盛んな百鬼夜行には似つかわしくない静寂が訪れる。

 

「こりゃ厄介な事になったねー。イズナちゃん、結構やるよ?」

 

 ホシノが盾を持っていた手をプラプラと振る……先の蹴りによる衝撃が、盾を貫通してホシノの手にダメージを与えたのだろう。

 彼女はそれを脅威的と見なしていたが、ショウマは全く別の事を懸念に思っていた。

 

「イズナちゃん……。」

 

 久田 イズナ……彼女が何故魑魅一座と共に居るのか。

 彼女が会話の中で溢していた命令とは。

 その命令を下した者とは一体誰か。

 ショウマの中では、そんな小さな引っ掛かりと悲しみがないまぜとなっていた……。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「ああもう、また!」

 

 百夜堂へ戻るなり、シズコが机に両手を叩き付けながら大声を上げる。

 表では未だどこかから祭囃子が鳴っている……桜花祭そのものは変わらず賑わっている筈なのに、裏側では魑魅一座による騒ぎが次から次へと起こっている。

 その落差が、余計に皆の疲弊を際立たせていた。

 特にシズコの消耗が大きそうだ……祭りの運営、店の切り盛り、そして魑魅一座への対応。

 桜花祭を成功させようと駆け回っている彼女にとって、先の一件はとうとう堪忍袋の緒が切れるに足るものだったらしい。

 

「桜花祭が始まってからというものの、ああやって魑魅一座の奴等があちこちで悪さをしてるんです!」

「魑魅一座……結構面倒臭そうな奴等だねー。」

「魑魅一座・路上流……昔から百鬼夜行でしょっちゅう悪さをしている奴等デス!」

 

 しかしながら、今回の魑魅一座は今までとは少し訳が違うように思えるらしい。

 これまでの魑魅一座といえばただ方々で好き勝手暴れ回る厄介者というイメージだったらしいが、ここ最近の一座の動き方は何やら統率が取れているような気がするというのだ。

 まるで組織だって桜花祭を台無しにさせようという、そんな意図が見えるような……。

 

「何にせよ、任侠を志す者として放ってはおけマセン!」

「このまま桜花祭が駄目になったら、私達があっちこっちから責められるじゃない!たまったもんじゃないわよ!」

 

 そう感情のままにまくし立てた直後、シズコは1人視線を集めている事にはっと気が付き……。

 

「な~んちゃって♡シズコ怖いです~♡」

「……シズコちゃんってさ、普段からそういうキャラじゃないでしょ?」

「えっ!?な、何言ってるんですかホシノさぁん?シズコ分かんな~い♡」

 

 また猫を被り始める。

 半笑いを浮かべるホシノの容赦無いツッコミを否定しているも、声が僅かに裏返っている辺り誤魔化し切れていない。

 そうして場の空気が少しばかり柔らかくなったものの、ショウマの胸には先にないまぜになっていたものが未だ残り続けていた。

 

─酷いです!!イズナの夢を応援するって言ってくれたのに……どうしてですか!?お2人共、本当は悪い人達だったんですか!?

 

 イズナのあの、涙を堪えていた目……自分達を敵だと思い込んでしまった悲しげな声、そして命令だという台詞。

 魑魅一座の騒動そのものも気掛かりではある……だが今のショウマにとっては、それ以上にイズナの事が頭から離れなかった。

 

「やっぱりフィーナ、理解出来マセン……どうして桜花祭を邪魔しようとするんデショウ?」

 

 そんなショウマの纏うものに感化されてしまったのか、柔らかくなった筈の場の空気がまた元の重さの中に沈んでしまう。

 そしてその元凶ともなっている輩の所業に対しフィーナが純粋な疑問を口にした、その時だった。

 

「知ったこっちゃあないが、色々と気に食わないんじゃないかい?」

「あ、ニャン天丸会長!」

 

 男性的な低い声が、百夜堂の入口側から聞こえてくる。

 そこに居たのは、片目を眼帯で隠している猫人……名をニャン天丸 というらしい。

 

「あなたは……?」

「どうやらここの子達が世話になってるみたいだな……どうも、すぐそこの商店街の会長をやってる者だよ。」

 

 ショウマ達向けて軽く頭を下げるニャン天丸。

 商店街の会長というだけあってお辞儀の所作も様になっており、何よりその独眼の瞳には相応ともいうべき鋭さが宿っている。

 しかしそこに敵意の類は感じられない……それは正しく年長者たるが身に付けている、大人の貫禄というものであった。

 ショウマはその雰囲気を前に純粋な尊敬の念を抱きながら同じ様に小さく頭を下げつつ、彼の言葉に耳を傾ける。

 

「一体、桜花祭の何が気に食わないんでしょうか……?」

「さあね……ただ強いて言えば、今回の桜花祭はこれまでと比べて1つ変わった事が有るだろう?昔からこの百夜ノ春ノ桜花祭の最後には、伝統的に花火が打ち上げられていた……でも今回はちょっと違うんだろ?」

 

 新たな試みだとか何とか……ニャン天丸はそう言いながら店先から見える祭りの灯りへ一度目を向け、直ぐに戻す。

 そしてその言葉に、シズコは己の表情を強く引き締めた。

 

「はい……今回の桜花祭の為に、特別に準備したものが。」

「それって?」

 

 ショウマが問い返すと、シズコは付近のテーブルへ視線を移す。

 そのテーブルの上には、見慣れない機械の数々が置かれていた。

 

「今回のお祭りの為に、ミレニアムにお願いした特別な装置です。」

「ホログラムで花火を再現する、SpecialでNiceな機械だと聞きマシタ!」

「金の掛かってそうな機械だな……まあ何にせよ、何かが変わるという事を誰もが簡単に受け入れられる訳じゃない。」

「それはそうですけど……それが理由で桜花祭を邪魔するなんて……。」

 

 ユウカの居る学校の技術(ミレニアムサイエンススクール)による、ホログラムの花火……成る程、それは確かに新しい祭りの形と言えよう。

 しかしその形こそが騒動の原因なのではと言われてしまえば、シズコはぎゅっと拳を握って悔しそうに俯く。

 

「私はただ、百夜ノ春ノ桜花祭を今まで以上に素敵なものにしたくって……。」

 

 ここに至るまでの短い時間だけでも、彼女がどれだけ祭りに情熱を注いでいるのかは十分伝わっている。

 だからこそ、見ている側であるショウマ達も胸が締め付けられる思いとなる。

 

「あくまで推測だ。それに儂だって今更この事を蒸し返したい訳じゃない……ただ、気に食わん奴等も居るだろうなって話だよ。学生がこんなに金を使って……ってな。」

「はい……ですが、私達も趣味や道楽だけでやってる訳じゃありません!全てはお祭り運営委員会の委員長として、桜花祭を素敵なものにする為に!それだけは自信を持って言えます!」

「ハイ!お祭りというのは毎年ドンドン楽しくなっていくべきデス!」

 

 だがシズコとフィーナには、それでもまだくじけてなどいないと示す真っ直ぐな熱意があった。

 そんな2人の言葉を聞いたニャン天丸は、まるで2人の言葉を青臭いと言うように鼻を鳴らす。

 

「フッ、そうかい……じゃあ、そうなるように頑張りな。」

 

 一見するとぶっきらぼうな態度であるが、僅かに崩した表情が笑みを浮かべている事から、決して2人の事を邪険にしている訳ではない事が分かる。

 実際ニャン天丸はいつもお祭り運営委員会の活動を手伝っており、今回の桜花祭も色々と気を揉んでいるらしい。

 少女達だけでない……やはりこの街の人達も、お祭りの成功を願っているのだ。

 

『とはいえ、これからどうしますか?ここで本格的に対処しなければ、最悪として最終日を待たずに桜花祭そのものが中止に追い込まれる可能性が有ります。』

「誰か、他の人に助けを求めるっていうのは出来ないの?」

「うーん……助けを求められる部活や委員会がゼロって訳じゃないんですけど……どこもかしこも全うに手伝ってくれるのかどうか……。」

 

 シズコが苦々しく眉を寄せる。

 どういう事情が有るかは分からぬが、どうやら一筋縄ではいかないものらしい……それを受けて理解を示したホシノが頬杖を突きながら苦笑する。

 

「んー、ここ(百鬼夜行)ここ(百鬼夜行)で色々複雑な事情が有りそうだねー。」

「でも背に腹は代えられませんし……心当たりは有りますし、一度行ってみましょう。」

 

 そう言ってシズコは、改めてショウマ達へ向き直る。

 その瞳には、やはり疲労も不安も滲んでいる。

 だがそれでも、お祭りを守ろうとする意志だけは尚消えていない。

 

「ただ、きっと先生の力が必要です……協力、してくれますよね?」

 

 お祭りの中止。

 それはシズコやフィーナだけでなく、百鬼夜行に生きる人達から希望を奪ってしまうような事態……それを止める為ならば。

 ショウマに断る理由など、微塵も無かった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 百鬼夜行の街中。

 その喧騒から少し離れた廃墟の中に、魑魅一座・路上派の面々が揃っていた。

 だが彼女達は皆先程まで外で騒ぎを起こしていた活気を一変させ、一様に肩を縮こませている。

 

「失敗の理由を聞かせてもらおうか、魑魅一座……今日中にはお祭りを中断させると約束した筈だが?」

 

 その原因は、彼女達の目の前に居る存在。

 その低く静かな声は淡々としていて、だからこそ恐ろしいものがある。

 

「大金を払ってまで聞きたいのは、出来ませんでしたなんて言葉じゃないぞ。」

「そ、それはその……予想外の伏兵が居たというか……。」

「シャーレ?とかいう連邦生徒会の奴等に邪魔されたっす!あいつらの所為っす!」

 

 口々に責任逃れを始めるアラタ達魑魅一座。

 だが彼女達の前に居る影はそれらを無視し、視線を横へ流す。

 

「……イズナ殿は?何か言うべき事は有るか?」

 

 その先に居たのは、イズナ……魑魅一座の面々が何とか恩赦を得ようと錯誤する中で、彼女だけは別の物事に気を取られているように見えたのだ。

 それを問うように話を振れば、彼女はそれまで目を閉じ伏せていた顔を上げて、真っ直ぐ影を見つめる。

 

「以前言っていましたよね?イズナが頑張って命令を遂行していけば、いつかは格好良い忍者になれると……イズナが生涯仕えるべき、運命の主君とも出会えると。」

「……確かに、そう言った気もするな。」

「イズナはまさに、そんな主君に出会えたのかもしれません!先生やホシノさんは強くて優しくて、何よりイズナの夢を応援してくれました……!」

「ふむ……それで?」

 

 低く静かで、淡々としているのは変わらず……しかし影の声には魑魅一座向けて先程まで含めていた怒の感情は無く、ともすれば優しげとも聞こえるような声音で話を促して。

 イズナはそれを信用しきって続く言葉を口にする。

 

「ですがそんなお2人が、何故かイズナ達の邪魔者と一緒に居たのです……一体どういう事なのでしょうか?どんなに考えても、やはりお2人がイズナ達の敵になるような方々だとはとても……。」

 

 困惑、迷い、そしてそれでも信じたいという願い……全てが滲んで立ち止まっているイズナに対し、影は背中を押してやる。

 

「そうだな……きっと、騙されているのだろう。」

「騙されている……!?」

 

 だが押された先で進む道が、果たして正しいものかどうかは分からない。

 ましてやイズナのような少女では、そんな疑いすら欠片も無いのだから。

 

「うむ、イズナ殿は強い……イズナ殿が居る事で、こちらの目的は今まで順調に進んでいた。それを危険に思ったのだろう……恐らく嘘の情報によって、こちらが一方的な悪だと教え込まされたのだろうな。」

 

 その言葉は、イズナにとってあまりに都合が良かった。

 ショウマ達が悪人などであって欲しくない……でも自分達と敵対している理由は分からない。

 ならば、騙されているというその答えは、彼女にとって何よりの道標となってしまう。

 

「な、何と……では一刻も早くお2人の目を覚まさせなければなりません!」

「それはイズナ殿の好きにするが良い……良いか?今回は大目に見てやろう。但し、額面通りの働きはきっちりしてもらうぞ?」

「勿論っす!次こそお祭りを中止にさせてやるっす!」

 

 再び話を振られた魑魅一座の面々が頭を下げる。

 金で雇った連中に過ぎないが、騒ぎを起こさせる分には十分使える……何より、自分が表立って動かずに済む。

 百鬼夜行で長く生きてきた影は、自らの手を汚さずに事を進める方法をよく知っていた。

 

「ご心配無く!イズナも騙されているお2人を倒して、真実を教えてあげます!イズナが戦って勝てば、お2人も目を覚ましてくれる筈です!」

「そうだな……頼りにしているぞ、イズナ殿。」

「はい!お任せ下さい!」

 

 拳を握り、真っ直ぐに言い切ったイズナ。

 その姿はあまりに健気で、あまりにも愚直で……。

 

 

 

 

 

「本当に……()()()()()()()()?」

 

 そして、愚かであった。

 

 

 

 

 

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