キヴォトスに来たおカシな先生   作:ナリカオル

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第3話「お祭りに潜む影」

「おー、おっきいねー。」

「この建物の奥に陰陽部の部室が有ります。でも……うぅ、何度来ても胃が痛くなる……。」

 

 百鬼夜行の御神木。

 その膝元とも言える場所に、一際清廉で大きな建物が在り、店番として百夜堂に残ったフィーナを除いた一同がその門前に立っていた。

 魑魅一座の脅威に対抗するべく他の者からの援助を願い出ようという話になって、シズコから当てとされた存在が2つ。

 その1つが、陰陽部……この百鬼夜行連合学院に於ける実質的な生徒会としての役割を担う組織らしいが、その組織の下へ近付くにつれて何故か次第に気を重くしていくシズコ。

 一体どうしたというのか問うてみると……。

 

「実は陰陽部ってかなり腰が重い事で有名で、何かをお願いしても中々動いてくれないんです。実際の対処をするのも殆ど百花繚乱の方で……。」

「でもその百花繚乱は今全員不在なんでしょ?まあ、だからああいう連中がのさばってるんだろうけど。」

 

 話の中で出てきた、百花繚乱紛争調停委員会という組織。

 シズコが当てとして上げた存在のもう1つにして、他の学園でいう風紀委員会に該当する組織であるようなのだが、現在その委員会は如何なる理由か所属する全員が不在という事態となっているらしく、実質的に機能していないのだそう。

 だから頼れるのは陰陽部の方だけ……それを再認識して今までの関り合いを思い出したのか、内心疲労困憊としている筈のシズコがまたも感情を高ぶらせる。

 

「陰陽部はその名の通りと言いますか……自分達は百鬼夜行のバランスを保つ為に存在してると言ってるんですが、その実何が起きても大抵ニコニコしながら私達には権限が無いので~とか曖昧な態度を取ってばっかで……特にあの部長!こっちが何かクレームを入れに行っても、いっつも重要な案件は書面でお願いしますって言ってばっかりだし……書面じゃ遅いんだってば!何!?官僚制!?官僚制なの!?何でそんなに動きが遅いの!?それが通る頃には良くも悪くも解決してるってば!!」

『た、溜まってますねぇ……。』

「……でも、それもこれも今日までの話。何せ今日はS.C.H.A.L.E(シャーレ)の先生が居るんだから!先生さえ居れば、きっとあの陰陽部の部長だって直ぐに協力せざるを得ない筈!そしてあのいっつも余裕そうな態度をこっちの思うがままに顎で使って……って、はっ!?えーっと……シズコ、お話聞いてくれるか心配~♡」

「良いよシズコちゃん、そんな無理して取り繕わなくても。おじさん達は全然気にしないからさ。」

 

 ひとしきり言い終えて、肩で息をするシズコ。

 そんなシズコの後に続いて建物に入り、係員の案内の下に中を進んで、やがて客間である和室に辿り着き、そして部屋の中に居た1人の少女と目が合う。

 

「……ようこそ、先生。待ってた。」

「え……?」

 

 水色の長い髪に、反対となる赤い双眸と、額から生える同じく赤い角。

 そのコントラストの美しさが神秘的な印象を与えながらも、ふわふわとした語感から感じられるあどけなさが不思議な魅力を成立させている。

 そんな彼女の名は、和楽(わらく) チセ……百鬼夜行連合学院の陰陽部に所属している生徒だ。

 

「チセ……って、今待ってたって言った?私達が来る事を知ってたの?」

「うん、部長が言ってた。」

 

 彼女はおもむろに懐から短冊を取り出し、同時に机の上の筆も1つ手にする。

 彼女は俳人として一躍有名であり、そのまますらすらと短冊の上に描いた筆跡を声に出して読み上げる。

 

[2人来る 可愛い大人と タヌキさん]

 

「……って、誰がタヌキよ!?」

「可愛い……え、俺……?」

「そりゃどっからどう見てもショウマさんは可愛い系でしょ?勿論格好良い所も有るけどね……それよりさらっとおじさんの事省かれた件についてなんだけどさ。」

『さ、流石に当番の事までは知らなかったのでは……?』

 

 見事な五・七・五……などと感心する訳が無く。

 しかし本人は至って真面目なのか、或いは天然なのか……悪びれる様子も無く首を傾げるチセに、シズコは思わず頭を抱える。

 

「こほん……それで?その相変わらず全部知ってますみたいな態度の部長はどこ?」

 

 だがショウマもホシノもアロナも、三者三様の困惑だったり物申したい気持ちだったりで話を進める足が止まってしまった為、シズコは仕方無く自身の気持ちを押し殺して強引に舵を切る。

 するとチセは、「部長は……。」と暫し呆けたような仕草を見せた後、再び懐から取り出した短冊の上に筆を走らせ……。

 

[今日はもう 下校しました また明日]

 

「……え、下校!?まだお昼ちょっと過ぎたくらいじゃない!?どういう事!?」

「……何でだと思う?」

「知らないわよ!?何であなたが聞くのよ!?全然意味が分からないんだけど!?」

 

 再び見事な五・七・五……なんてなる筈も無く。

 押し殺した筈の感情を爆発させてしまい、思わず畳を叩いてしまうシズコ。

 しかしチセはその勢いに動じる事無く、また静かに小首を傾げておどけた様子を見せる。

 

「駄目だ、やっぱり話が通じない……しかもよりによってこんな大事な時に部長が居ないだなんて……!」

「えっと、実は俺達、今やってる桜花祭の事で相談をしたくて……。」

 

 流石にこのままでは埒が明かないとして、ショウマが無理矢理ながら本題を切り出す。

 するとそれまでのんびりとしてばかりであったチセの纏う空気が少し変わった。

 

「うん、分かってる……桜花祭の邪魔をしようとする騒ぎの件でしょ?」

「え、知ってたの!?」

「部長言ってた……助けてあげる事は出来ないけど、代わりに修行部に行けば何とかなる筈だって。」

「修行部?」

 

 これまでのやり取りからして、まさかまともな情報提供をされるとは思っていなかったシズコが身を乗り出す中、聞き慣れない名前が出てきた事でショウマがその名を鸚鵡返す。

 

「修行部からも来たの、クレーム……街がうるさいからって。それで部長が、1つで駄目なら2つを合わせれば良いんじゃない?って。」

 

 相変わらずふわっとした説明……だが今回は一応筋が通っている。

 つまり、その修行部なる存在と力を合わせれば何とかなるという事であろう。

 

「でも……うぅ、修行部か……。」

 

 しかしながら、またも顔をしかめるシズコ。

 まさかまた胃が痛くなるような人物達の集まりであるのだろうか……。

 

「うーん……仕方無い、今度は修行部の所に行くか……チセ、もし後で部長が帰ってきたらまた連絡してくれる?」

 

 シズコが半ば諦めたように溜め息を吐きながら立ち上がる。

 確かにこれ以上ここに居座っていても収穫は無いだろう……ショウマ達も異を唱える事無く、再び彼女の後を付いて部屋を出ていく。

 

「行ってらっしゃ~い。」

 

 チセの気楽でのんびりとした声を背中に受ける。

 結局、最後まで陰陽部の部長には出会えなかった……だが去り際にふと妙な視線を感じた気がしてショウマは振り返る。

 

「……?」

「……ううん、ごめんね。何でも無いよ。」

 

 背後に居たのは、チセ1人。

 感じた気配は、彼女のものではない。

 気の所為であったか……ショウマは頭を振って離れてしまったシズコとホシノに追い付こうと早足で立ち去る。

 

 

 

 

 

「……にゃはっ♪」

 

 チセが居る和室の奥、襖の向こう側。

 そこで何者かが小さな笑い声を上げた事には気付かずに。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「いやー、修行部かぁ……。」

「その修行部って、どんな部活動なの?聞いただけじゃどんな活動してるのかあんまり分からないけど……。」

「何だろうね?滝行とかするのかな?」

 

 陰陽部の客間を後にした一同は、次の目標である修行部の下を訪れようとする。

 それにしても修行部……名前の通りであったとして、一体何の修行をしているというのか。

 半分冗談を含めてホシノがいかにもな事を言うも、シズコは「あー……。」と何とも言えない表情を浮かべた。

 

「見た事は無いですけど……しててもおかしくないですね。修行部はこれまた結構な変わり者の集団でして……。」

「え?シズコちゃんみたいな?」

「はい、それはもう……って!?ホシノさん何言ってるんですか!?私のどこが変わり者なんです!?」

「あれ~?もしかして自覚無し?」

 

 けらけらと笑うホシノ。

 対してシズコは顔を真っ赤にしながら抗議しようとするも、普段の猫被りをそうだと認識されているなら話すと墓穴を掘りかねないとして、話の流れを大きく咳払いをする事でばっさりと断ち切り、再び話題を修行部へと戻す。

 

「とにかく!修行部は毎回修行の為と言いながら色々とよく分からない活動をしてる部活なんです。例えば修行の一環として寝ながらジグソーパズルをやる人とか、素敵なレディーになる為にと言いながら何故か街のチンピラを退治してる人とか、大和撫子としての嗜みとか言って読心術を使える部員も居るとか。そんな変わり者達に協力なんてして貰えるのかどうか……。」

「確かに……凄い子達だね。」

『すみません、話の途中なんですけどホシノさんの様子が……どうかしましたか?』

「寝ながらジグソーパズル……!?おじさんちょっとその子達に興味湧いてきたかも……!」

 

 かつて本人は少しばかり否定していたが、ホシノと言えば昼寝の化身、睡眠の申し子。

 そんな彼女でさえ挑んだ事の無い境地に挑む者が居ると知って、珍しくその目がキラキラと輝いている。

 その眼差しにまさかこの人同類であったかとシズコが若干引いていると、突如として彼女達の足元に銃弾の数々が撃ち込まれる。

 

「ふはははっ!再び桜花祭を台無しにするべく、魑魅一座の参上だ!」

「今度こそぶっ潰してやるっす!」

「また魑魅一座!?懲りない連中ね!」

 

 何者の仕業かなどとは微塵も思わない……お騒がせ者共(魑魅一座・路上流)のお出ましだ。

 そしてその目的が変わらぬというのなら、こちらも同じく応じるまで……そうショウマとホシノが前へ出ようとした時だった。

 

「そこまでだよ!魑魅一座・路上流!」

 

 どこからか、溌剌とした声が響いてきた。

 今度は何者の仕業か分からぬとして、ショウマ達も魑魅一座の面々も辺りを見回し、やがて見つける声の主。

 いや……声の主達。

 

「派手に!」

 

 中央で、その小柄な体躯を少しでも大きく見せるべくビシリとポーズを決めている少女。

 

「可憐に……。」

 

 右隣、眠たげな目を擦りながらゆっくりとポーズを披露する少女。

 

「う、美しく……!で、合ってます……?」

 

 そして左隣、恥ずかしそうに顔を赤らめながら若干締まらないポーズを取る少女。

 

「街の平和を守る為、美少女3人組の修行部……ここに参上!」

「参上ー……。」

「えっと……参上、です……。」

 

 勇美(いさみ) カエデ

 春日(かすが) ツバキ

 水羽(みずは) ミモリ

 声の主達……その正体は、3人揃っての修行部であった。

 

「……ね、言ったでしょう?変わり者の集団だって。」

「ねぇアロナちゃん、あの子達って……。」

『そうですね、今朝イズナさんを追い掛けていたあの人達ですね。』

「あれ何か思ってた反応と違う!?」

「やあやあお2人さん、今朝振りだね?」

「しかもナチュラルに話し掛けた!?」

 

 やっぱりおかしな集団である。

 そしてそれを悟らせるには十分過ぎる奇行であろうとシズコはショウマ達へ視線を向けるが、何と彼らはまるで気にする素振りを見せず、あろう事か率先して話し掛けにも行ってしまう。

 もしかして先生(ショウマ)とアロナ含めて皆同類だったのかと、堪らずシズコは絶句してしまう。

 

「ふぁ……誰~?」

「あ!今朝の知らない誰かさんだ!」

「もしかして、魑魅一座に絡まれて……!?下がって下さい!私達がお守りしますから!」

「お、ありがとねー気を使ってくれて。でも大丈夫、おじさんこれでも結構戦える方だからさ。」

『先生、ここは一度全体の指揮に回りましょう。修行部の皆さんの力量を推し量るんです。』

「全体の指揮……うん、分かった。皆、協力してくれる?」

「ん~?また誰~?」

「今度は全然知らない人だ!」

「うへ、細かい説明は後でね。今は一緒にこいつらをやっつけよう。」

「は、はい!分かりました!」

 

 そして修行部の面々も今朝の出来事を記憶していたようであり、セカンドコンタクトを良好に済ます事が出来た。

 そして目の前には共通の敵……両者は自然と共闘の選択を取る。

 

『先生!』

「うん、お願い皆!」

「よーし、じゃあ行こっかぁ!」

「素敵なレディーを目指して……魑魅一座・路上流、覚悟!」

「眠い……。」

「ツバキちゃん!このタイミングで寝ちゃ駄目ですよ!」

「……え、ちょっ、私の事置いてかないで下さいよ!私も戦いますからぁ!」

 

 それまで端の方に追いやられていたシズコも漸く色々呑み込めたらしく、自身の愛銃であるポンプ式ショットガン桜ボンボンを手に合流した事で、再び魑魅一座と一戦を交える事となったのだ。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「シズコちゃんは左側の敵を狙って!ツバキちゃんはホシノちゃんの右側に居る敵を!」

「はいっ!」

「はーい。」

 

 アロナが分析した味方戦力はこうだ。

 まずホシノ……武装はショットガン(Eye of Horus)と盾、銃弾は散弾とスラッグ弾を7:3の割合で所持。

 次にシズコ……彼女は先にも説明した通りホシノと同様ショットガン(桜ボンボン)を所持しているが、盾が無い為遮蔽物を利用した戦術を取るしか方法が無く、弾も散弾しか持っていない。

 同様と言えばツバキもそう……彼女もホシノと同じく盾を所持しているが、銃器はVz61(スコーピオン)短機関銃を元にした安眠のお供Ⅱ

 短機関銃(サブマシンガン)拳銃(ハンドガン)で使われる銃弾を使用する為ショットガン用の銃弾と比べると1発1発の威力は弱いが、その機構によって連射が可能となっている為、近距離での対人制圧に適した銃器である……つまりはホシノと比べて、より接近戦を考慮した武装構成という事だ。

 ミモリの銃器は杉浦式自動拳銃(コルトM1903のコピー品)を元にした柔らかな決意という銃で、副兵装等の類いは無し。

 そして一番特殊だったのはカエデ……彼女が扱うのはファニー・ファイアワークスという信号拳銃(フレアガン)を改造したもの。

 恐らく彼女の体躯と発砲による反動を考慮しての選定なのだろうが、如何せん火力に乏しい。

 が、扱う弾は照明弾や発煙弾等を含めた信号弾である為、撃てば否応にも敵の注意をそちらへ向ける事が出来る。

 

「ミモリちゃん!あそこに居る敵をお願い!カエデちゃんも一旦戻ってきて!」

「はい!」

「分かった!直ぐ行くよー!」

 

 そこで立てられた作戦は、前衛にホシノを、続くようにシズコとツバキのペアを宛がい、全体のサポートをミモリとカエデに行ってもらうというもの。

 詳細に語ると、ホシノには先の戦闘と同様最前線に立ってもらい、戦闘の要となってもらう。

 次にシズコにあらかじめホシノのスラッグ弾を渡して中距離からの射撃に専念してもらい、ツバキが盾でシズコの防御(カバー)を、同時にホシノの援護を行ってもらう。

 彼女の銃器の適正を無視する事にはなるが、前線に立つホシノの援護を行うという活用に絞れば、その連射力は十分活かされる事だろう。

 そして残った2人の内、ミモリはショウマの護衛と横槍への対処、カエデには逆に遊撃を担当してもらい、信号弾で敵の妨害を行ってもらう。

 遊撃と言えば聞こえは良いが、その実は殆ど放任という、作戦を展開する上では致命的にもなりかねない選択ではあるが、下手に知らぬ者があれこれ指示を飛ばすよりかは修行部の普段の結束を頼りにした方が良いとの判断だ。

 

「何だろう、何だかいつもより戦いやすい気がする……!」

「先生が周りを見てくれてるからだろうねー。」

「これまでは苦戦する事も多く有りましたけど、人からの指揮が有るだけでこんなに違うだなんて……!」

「ごくり……これが、大人の力ってやつ……!?」

「うへ、良かったね。凄い褒められてるじゃん?」

「ありがとう!でも油断はしちゃ駄目だよ、皆!」

 

 そしてショウマは司令塔として敵の配置や動きを伝達する役割を担うという構図であり、まともな指揮はS.C.H.A.L.E(シャーレ)の部室奪還作戦時か、或いはカイザー理事駆るゴリアテ攻略戦以来であった為不安もあったが、戦況は見事にショウマ達の優勢に進んでいた。

 

「くそっ!こいつら、こんなに強いだなんて……おい!あの馬っ……忍者擬きはどこだ!?」

「多分そろそろ……!」

 

 このままいけば、何事も無くこちらの勝利で終わる……そんな中で聞こえてきた不穏な声、そして僅かに聞こえた忍者という単語。

 という事は……。

 

「イズナ流忍法!四方八方もくもくの術!」

 

 瞬間、視界を覆い尽くす程の濃密な白煙が、まるで爆発そのもののような勢いで周囲に広がっていく。

 敵味方問わず巻き込む形となったそれにより、戦場は一瞬にして様相を変えた。

 

『皆さん落ち着いて!煙に惑わされないで守りを固めてください!先生、一度煙の外側へ出ましょう!後退を!』

「分かった!……って、えっ!?」

 

 そんな中でもアロナの声が通って聞こえた事で、ショウマは促された通り煙の範囲外へ逃れるべく踵を返そうとする。

 しかしその瞬間、何者かによって手を取られ、そのまま強く引っ張られてしまう。

 引っ張られて、誰かに伝える間も無く場を離れていく事になって……。

 

「けほけほ……皆大丈夫?」

「は、はい!こちらは大丈夫です!」

「うーん……凄かったね。」

「びっくりしたぁ……何が起きたの……!?」

 

 一方ホシノ等少女達もアロナの声に従って瞬時に身を寄せ合った事で敵からの不意討ちを回避する事が出来ていた。

 まあこの煙の量では敵も敵で碌に動けていなかったであろうが……などと高を括りもしたが、直ぐにそれが楽観的な考えであった事がシズコからの言によって判明する。

 

「えっ……待って!先生は!?」

「……うへぇ、そう来たかぁ。」

 

 気怠げな声とは裏腹に、ホシノの目は鋭くなる。

 この場で最も厄介なのは、戦力そのものではない。

 全体を繋ぎ、状況を成立させている司令塔……つまりはショウマだ。

 だからこそ敵は、煙幕による混乱に乗じて彼を引き剥がした。

 そしてそれが出来る敵方といえば、先程聞こえてきた声も相まって彼女しかいない。

 

「だああああもう!!こんな何にも見えなくなる程の煙上げなくても良いだろっ!?」

「漸く周りが見えてきたっす……って、リーダー!あの変な大人、居なくなってるっす!」

「お?何だあの馬っ……イズナ殿もやるじゃないか!今なら押し切れる!攻めろ攻めろぉ!!」

「よーし、突っ込めぇぇぇ!!」

 

 そして敵もこれを機として一斉に飛び出してくる。

 先程までの劣勢を取り返そうとするかのように雪崩れ込む、統率も何も無い、半ば自棄になった突撃……だが数だけは多い。

 

「わわわっ!?いっぱい来たよ!?」

「数で押し潰すつもりですね……!」

「んー……これはちょっとまずいかも?」

「ど、どうしようホシノさん!?」

 

 ツバキの盾へ銃弾が雨のように叩き込まれ、シズコも盾によるカバーが十分に為されない中での対応を余儀無くされる。

 カエデの発煙弾が敵の視界を乱すものの、それでも押し返し切れず、ミモリの弾倉も余裕が無くなってきた。

 先程まで自然と回っていた連携……誰がどこを見るべきか、どの敵を優先するべきか、誰が危険か。

 それらを纏めていた目が失われた瞬間、急速に各個対応へ追い込まれていく……ショウマの指揮が消えた影響が、確実に出始めてきていた。

 

「これは……おじさんが頑張らないとかな。」

 

 だからこそホシノは一旦両手の武装を地面に置き、ポケットにしまっていたヘアゴムを使って髪を纏め上げる。

 それは特別戦略的な意味が有る訳では無い、ただの気持ちのリセットのようなもの。

 ただこうして髪を纏め上げると、自然に流している時より髪が短くなったような感覚となり、その感覚が思い出させてくれるのだ……憧れの先輩を真似て伸ばす以前、髪を短く切り揃えていた頃の、過去の自分を。

 そうしてポニーテールの形に髪を纏めたホシノは改めて武装を構え直し、眼前の敵を視界に捉える。

 ショウマの事も気掛かりではある……が、彼が居ない今、この子達を守れるのは一体誰だ?

 ……私しか居ない。

 

「ショウマさんは大丈夫……だから皆、このまま戦うよ!私に続いて!」

 

 彼の事は、この中の誰よりも知っている。

 だからホシノは自分の直感を信じて、目の前の敵にだけ集中するのであった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「ちょちょっ……イズナちゃん待って!」

 

 白煙の残滓が漂う路地裏を抜け、近くの廃神社まで連れて来られたショウマ。

 そして抵抗する暇すら無い程の速さによる困憊とした呼び掛け……それに応じて彼女、イズナは掴んでいた手を離し、数歩の距離を取ってから彼と向かい合う。

 

「イズナちゃん……。」

「はい!イズナ、予告通り再び参上しました!」

 

 向かい合った彼女の眼差しには、憧れと敵意が同居していた。

 彼女の脳裏に浮かぶのは、あの時交わした言葉……忍者になりたいという夢を、子供っぽい理想だと切り捨てず、良い事だと、素敵な事だと、応援するとも言ってくれた大人の人。

 凄く嬉しかった……だからこそ、余計に曖昧なままでは終われない。

 敵として出会った以上、自分は忍者としてどうするべきなのか……その答えを、彼女はもう決めていた。

 

「イズナ、あの後気が付きました!たとえ先生が私の夢を認めてくれた格好良い大人……いえ、格好良くて悪い大人の人だったとしても!こうやって敵として出会ってしまった以上、先生を倒して説得しなければなりません!」

 

 嫌いになった訳では無い、むしろ逆だ。

 認めているからこそ、真正面から勝たなければならない……忍者として、自分の信じる道を貫く為に。

 胸元で拳を握りながら語るイズナの言葉を、ショウマは静かに受け止める。

 軽い冗談や勢いではなく、本気でぶつかって来ているのだと分かったからだ。

 

「……本当に、俺を倒す気なんだね?」

「はい!それこそがイズナの歩む忍びの道……忍者としての宿命です!」

 

 風が吹き抜け、境内の木々を揺らす。

 互いに視線を逸らさない……まるでここだけ切り離されたかのような静寂の中、ショウマはゆっくりと息を吐いた。

 

「なら俺からも1つ……もし俺が勝ったら、その時は俺の話を聞いてくれる?」

「逆に手篭めにされると……ですが、イズナは必ず先生を打ち倒してみせます!」

 

 本音を言えば、戦いたくはない……けれど彼女はもう、自分の答えを決めてしまっている。

 やるしか、ない。

 

「さあ、お覚悟を!」

「……分かったよ。」

 

 イズナがヘイローから自身の愛銃を取り出す。

 イズナ流スーパー忍具……一〇〇式機関短銃を元に改造が施されたそれに、彼女は躊躇う事無く弾倉を装填する。

 ならば合わせて、ショウマは腹部のチャックを開けてガヴを露出し、服の中に忍び込ませていたポッピングミゴチゾウをガヴの舌先へ乗せる。

 

【グミ! EAT (イート) グミ! EAT (イート) グミ!】

 

 上顎を閉じ、ハンドルを回すと、ショウマの周りに色取り取りのグミを模したエネルギー体が粒々と現れる。

 それを奇妙な光景と捉えたイズナが首を傾げて凝視する中、ショウマは左手を大きく回した後に顔を引き裂くような仕草を取ると同時に、両眼を異形の証たる妖紫色へと光らせて……。

 

「変身!」

 

 ガヴの舌鼓を強く押し込んだ。

 

Hiyaaaaaa(ヒヤァァァァァ)!!】

 

 直後、周りを浮遊していたエネルギー体全てが、まるで意思を持つかのようにガヴの下へ集い、中へと吸収される。

 そして吸収されたエネルギーはショウマの体中を駆け巡り、その体を徐々に徐々にと変質させていき……。

 

【ポッピングミ! ジューシー!!】

 

 彼を、おカシな戦士(仮面ライダーガヴ)へ変貌させた。

 

「な、何と!?まさかそれは、変化の術……!?」

「……行くよ、イズナちゃん。」

 

 イズナの瞳が、それまでとは別の理由から見開かれる。

 今のは忍術?自分以外にも忍術を扱う者が?

 そう動揺を見せる彼女をショウマは敢えて細かく構わず、姿勢を落として態勢を整え、やがて先手を取るべく駆け出した。

 

「ッ……!」

「わわっ!?」

 

 イズナの銃向けて手を伸ばすショウマ。

 それを敏感に察知したイズナが身を捩って逃れ、逃げたイズナをまたショウマが追う。

 

「わっ!?とっ!?とぉ!?」

 

 今のショウマに攻撃の意思は殆ど無い……狙いは彼女の銃を奪っての武装解除だ。

 だから決して本気は出していないし、たまに繰り出す拳や蹴りも彼女の隙を生み出す為という意味合いが強い。

 しかしイズナは側転、後転、宙返りと、とても身軽にショウマの攻め手を躱していく。

 その身のこなしは仮に本気で挑んだとしても捉える事は容易ではないとショウマに知覚させ、早期の決着を望んでいた彼の心象にだんだんと不穏な色を付け始めていく。

 

「驚きました、先生……まさかここまでお強い人だったとは……ですが!ここからはイズナの番です!」

 

 そしてその不穏が、遂に明確な形となってショウマに襲い掛かる。

 

「再び忍法!もくもくの術!」

 

 再び視界を遮る白煙。

 神社の境内が、瞬く間に白一色に覆われる。

 イズナは既に目の前から消え、煙の中に姿を消した……狙いは十中八九、奇襲だろう。

 ではどこから来るか、ショウマは視覚以外の情報を頼りに探り当てようとするが……。

 

「はっ!」

「っ……!」

 

 右後方から銃撃音、同時に右肩に衝撃。

 よろけている間に左前方から物音が聞こえ、今度は胸部に衝撃が走る。

 

「たああっ!」

「くっ……!」

 

 そのまま左肩、背中、腕や足など……向こうも視界を遮られている筈なのに、まるで苦も無く見えているかのように四方八方から攻撃してきて。 

 幸い使っている銃器が軽機関銃(サブマシンガン)である為、そう易々と装甲を抜かれる事は無いが、今のままでは時間の問題だ。

 この形勢を逆転する為には……。

 

「やあっ!……って、あれ?」

 

 位置は覚えている……ショウマは走り出した。

 突然行動を起こした事にイズナが訝しむ中、ショウマが目指したのは廃神社の中。

 戸を開き、拝殿内へ邪魔すれば、予想通り中は煙の影響を受けていなかった。

 ここに居れば、彼女は中に入らざるを得ない筈……無論建物を傷付けてまで外から炙り出そうとするなら話は別であるが、これまでの交流から見えた彼女の心根を鑑みれば、たとえ既に棄てられているものとて、そのような真似はしないだろう。

 そして中に入ればこの閉鎖的空間によって彼女の奇襲も予想しやすくなるというもの。

 さあ、どう出てくる……?

 

「……ッ!」

「やああっ!」

 

 と、視界の端……天井の隅でキラリと光った物が。

 そして刹那、その光源が敵意を持って襲い掛かってくる。

 

「この神社の中に逃げ込む事は分かっていました!ですがここなら逃げ場は有りません……ここで仕留めてみせます!」

 

 漏れ差す日の光に、僅かながらに照らされたイズナの苦無。

 それを腕部で受け止め、苦無の刃が装甲に食い込んだのを見たイズナは意気込んだ台詞を吐く。

 このまま装甲をなます切りに捨て、勝利を得ると。

 

「って、あれ?あれれ?」

 

 だがそこから振るわれた彼女の苦無捌きは、ショウマの身を1つとて捉える事が出来なかった。

 決してイズナが近接戦に不得手という訳ではない……実際彼女の身体能力は、並みの生徒の基準を大いに上回っている。

 ただその土俵に於いては、ショウマの方が何倍も上手だっただけだ。

 

「くぅ……だあああっ!!」

 

 イズナの持つ苦無をはたき落とす。

 直ぐ様彼女は太股に仕込んである予備の苦無を取り出すも、それも数合と交わらない内に同じ様に叩き落とされて。

 やがて武器を持たずに己の身1つで挑んできた事から、武器の類いは銃器以外打ち止めとなったのだろう。

 ならばここで決めに掛かる……ショウマはそう決意して、彼女を拘束しようと身を乗り出した。

 

「今です!!」

「なっ……!?」

 

 だがイズナも負けていなかった。

 腕を掴もうとしていた手を払い、逆手で自身の愛銃(イズナ流スーパー忍具)を構えて。

 ショウマの読み通り、いくら廃神社とて大好きな百鬼夜行の一部……考え無しに銃弾を放つ訳にはいかない。

 だからイズナも狙っていた、ショウマが自分から接近してくるのを。

 確実に接射が出来るこのタイミングを。

 

「ぐうっ!?」

 

 扱う弾丸は拳銃弾……だからこそ、近ければ近い程威力は増す。

 そうして弾倉1つを丸々と消費したその射撃は、ショウマの胸部を保護する装甲の殆どを爆ぜさせる程となり、彼にたたらを踏ませた後に膝を付かせる。

 

「さあ、今度こそお覚悟を!!」

 

 明確な隙を晒すショウマを前に、イズナは先にはたき落とされた苦無を拾う。

 これから先、もし銃による攻撃を防ごうとするなら苦無で、逆に苦無による攻撃を防ごうとするなら銃で。

 両の手に携えた武器によるトドメの行程は抜かり無し……イズナはこの戦いの決着を付けるべくショウマへ迫る。

 実際このままではイズナの思惑通りとなって勝ち筋が見えない……だからショウマは、少しだけ本気を出した。

 

「ッ!!」

「わあっ!?」

 

 ショウマのガヴがほんの少しの光を放つ。

 そして次の瞬間、ガヴから勢い良く何かが飛び出した。

 流石にそんな所から反撃をされるとは思っていなかったイズナは、本来どちらかの武器だけで防ぐ筈だったショウマの攻撃を両の武器で防いでしまい、さらに虚を突かれた事も相まって先の彼と同じ様なたたらを踏まされてしまう。

 

「おおおっ!!」

「わわわっ!?わあああ!?」

 

 してショウマのガヴから飛び出したものとは、彼の専用武器たるガヴガブレイド。

 彼はイズナが退いたのを逆転の好機として、飛び出した剣の柄を握り振るい始める。

 追い詰められた獣から、逆に追い立てる獣へ……決して彼女の体に当てないように、だが息吐く暇も与えない程に連撃を見舞って。

 イズナは狭い室内をあっちこっちと逃げ惑う……本堂の方へ逃げようとするなら先回りして道を塞いで、入口から逃げようとするなら同じ様に妨害して、しかし後の布石として外へ通じる戸だけは開けておいて……。

 

「イズナちゃん避けて!」

「へ?」

 

 やがて彼女が特定の位置に逃げたのを認めたショウマが、ガヴガブレイドのブレイポンを押す。

 ショウマが定めた特定の位置とは、拝殿入口の少し手前……先程戸を開けた事により、後ろへ飛び退けば直ぐに外へ出られるような位置。

 そして現在ショウマが立っているのは拝殿内の奥の方……入口とは真正面の位置にして、間にはイズナが立っている。

 拝殿入口は少し狭めの構造となっており、左右や上に跳んで避けるには少々心許が無い。

 もし安全に逃走を図るとするなら、外へ逃げるのが一番……つまりここから攻撃すれば、彼女は嫌でもそこから逃げるしかない。

 

「はあっ!!」

「ひゃあああ!?」

 

 エネルギーが充填されたガヴガブレイドを軽く振り、刀身から小型の真空刃を放つ。

 そして予想通り、彼女は攻撃から逃れる為に這う這うと外へ逃れる。

 その隙を、見逃しはしない。

 

【ポッピングミ! Go(ゴー)!!】

 

「ふっ!!」

 

 イズナを追って走り出すショウマ。

 その最中でブレイドにポッピングミゴチゾウを乗せたゴチスピーダーをセットし、外へ出ると同時に彼女目掛けてスピーダーを発射する。

 

「いたぁ!?」

 

 発射されたスピーダーは真っ直ぐにイズナの額に向かい、激突する。

 しかして威力としては精々がデコピン程度……イズナは一時額を押さえて悶絶するも、直ぐに頭を振って目の前に居るであろうショウマへ向けて啖呵を切る。

 

「いたた……流石は先生……ですが、それでもイズナは負けません!……って、あれ?先生?あれれ?イズナの銃も……?」

 

 が、目の前に居ると思われた彼の姿は見当たらず。

 それどころか、自身の愛銃の影も見当たらない……さっきまではしっかり手に握っていて、ヘイローの中にも収納していない筈なのに。

 と、背後からガチャガチャという物音が聞こえ、振り向いてみると……。

 

「あ……あぁ!?」

『はい、そうです。そこのキャッチレバーを押しながらマガジンを引いて……チャージングハンドルを引いて銃身の中の弾丸を排莢するのも忘れずに。』

「チャージングハンドル……えっと、これかな?」

 

 そこには探していた先生(ショウマ)の姿。

 そして彼の手の中では、今まさに愛銃から全ての弾丸が抜かれていた。

 

「じゃあ……これで勝負有りかな?」

「い、イズナ、二度も負けてしまいました!?」

 

 恐らく先程悶絶している間に取られたのだろう……苦無ではショウマの装甲に刃を食い込ませる事は出来こそすれ、銃で撃った時のような破壊にまでは至れないであろうし、そも苦無の攻撃を届かせようにも接近戦ではまともに太刀打ち出来ない事は拝殿内での戦闘で既に理解している。

 そんな自分にとって頼みの綱であった愛銃が手元を離れてしまった以上、勝算は見込めないと痛感してしまい、イズナは思わずその旨を口に出してしまう。

 

「それじゃあ、約束通り俺の話を聞いてくれる?」

「うぅ……分かりました、煮るなり焼くなりお好きにどうぞ……!」

 

 こうして始まった2人の戦いは、ショウマの勝利に終わった。

 覚悟を決めたと言わんばかりに目を伏せ、膝を付いて座り込むイズナ。

 そんな彼女に変身を解いたショウマが掛けた言葉は……。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「くっそ~!!もう戦えねぇよ~!!」

「リーダー!!これ以上はヤバいっすよ~!!」

 

 一方少女達の方はというと、ホシノの奮戦によってあれから何とか勝利を収めた所であった。

 

「ちくしょ~覚えてろぉ!!次こそはぜ~ったいギタギタのケチョンケチョンにしてやるからなぁ!!」

「やったー!見たか魑魅一座!これに懲りたら、もう悪さなんかしない事ね!」

「な、何とか勝てましたね……。」

「凄いね、あんな風に戦えるなんて。」

「うへ、褒めてくれてありがとね。そっちも良い連携だったよ?」

 

 蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていく魑魅一座の背に向けて、勝鬨に等しき声を上げるカエデ。

 勝利出来た事への安堵から胸を撫で下ろすミモリ。

 そして純粋に相手の技量を褒め称えるツバキ。

 修行部3人、それぞれの勝利の余韻の浸り方に、ホシノは笑いながら縫っていた髪をほどく。

 

「いやそれよりも!早く先生を探さないと!今頃魑魅一座の奴等に何されてるか……!」

 

 が、ここでシズコがハッとしたように声を上げる。

 激しい戦闘で意識が逸れていたが、その戦闘の最中でショウマの行方が分からなくなっていたのだ。

 もし魑魅一座の別働隊に捕まっていたとしたら……そう考えた瞬間、少女達の間に再び緊張が走る。

 

「……いや、大丈夫っぽい。」

「え?」

 

 しかしそんな空気を遮るように、ホシノが自身のスマホへ視線を落としたまま気の抜けた声を漏らす。

 

「アロナちゃんから連絡が来た。ただちょっと野暮用が出来たみたいで、少しの間合流出来ないみたい。だからこっちはこっちで話を進めててって。」

 

 ホシノの言葉に、少女達の間で漂っていた緊張が僅かに和らぐ。

 少なくとも彼が無事である事は分かった……それだけでも先程まで胸を締め付けていた不安は随分と軽くなる。

 

「取り敢えず、まずはありがとね、3人共。修行部の皆で良いのかな?」

「はい、私達3人で修行部です。あ、水羽 ミモリと言います。よろしくお願いしますね。」

「あたしは勇美 カエデ!よろしくね!」

「春日 ツバキだよ、よろしく……ふあぁ。」

 

 という事で、ミモリは育ちの良さを感じるような丁寧な一礼を、カエデは勢い良く手を上げながら元気いっぱいな挨拶を、ツバキは今にも寝てしまいそうな欠伸を立てながら、少女達は戦闘でおざなりになっていた自己紹介を交わす事に。

 

「おじさんの名前は小鳥遊 ホシノだよ。それで修行部の皆に聞きたいんだけどさ、皆が陰陽部にクレームを入れてたって話を聞いたんだ。桜花祭で魑魅一座が暴れ回ってるって。」

 

 そしてホシノが続けた話題に、修行部の3人は揃ってその事かと言わんばかりに顔を合わせる。

 どうやら彼女達の間でも、魑魅一座の件は深刻な問題として認識されているようだ。

 

「そう!あたし達ここ暫くずっと魑魅一座と戦いながら街中を回ってたの!でも全然キリが無くて……!」

「パトロールをしてたって事?どうして?」

「修行の一環で街を守ろうって事で……それも一応、うちの部活の趣旨の1つだから。」

「皆さんで楽しめてこその桜花祭ですからね。急にあちこちで魑魅一座・路上流が暴れ始めてしまって、困っていた所でした。」

「そうだったんだ……修行部がそんな活動をしてたなんて全然知らなかった。いつも変な事ばっかりしてる変わり者達だとばかり……。」

「うへ、シズコちゃん面と向かってそれはちょっとどうなのかな~?」

 

 話を聞いて感心したように呟くシズコに苦笑混じりのツッコミを入れるホシノ。

 しかし修行部の面々も否定しきれない部分が有るのか、皆何とも言えない表情を浮かべていた。

 

「と、とにかく!やっぱり魑魅一座が暴れだしたのは急にって事だったけど、改めて考えてみるとどうして……!?」

「皆の方で何か心当たりとか無い?」

 

 そう問い掛けると、それまでのやり取りで緩んでいた空気が少しだけ引き締まる。

 祭りを荒らす魑魅一座……しかもそれがまるで示し合わせたかのように各地で同時多発している。

 ただの偶然や悪ふざけで済ませるには、やはりどうしても規模が大き過ぎる。

 

「んー……そういえば、最近ある噂があって。」

「噂?どんな?」

 

 そしてツバキから意味深な台詞が溢され、続きを促してみると、これまで予感されていたとある存在が浮き彫りになってくる。

 

「今までバラバラだった魑魅一座を統率して動かしてる、雇い主みたいな人が居るとか何とか……?」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

『……だそうです。』

「分かった、ありがとうアロナちゃん。そのままホシノちゃんと連絡取り合っててくれる?」

『はい、お任せ下さい。』

 

 魑魅一座の暴動の裏には、全てを操る黒幕の存在が見える。

 やはり今回の騒動は単なるそれではない……誰かが意図的に彼女達を動かし、祭りそのものを掻き乱そうとしている。

 それがほぼ確定となっただけでも、大きな進歩と言えよう……だが今は、それよりも。

 

「あの、先生……イズナ達は一体、どこに向かっているのですか……?」

 

 ちらりと視線を隣へ向ける。

 そこには、未だ警戒を解き切れずにいるイズナの姿があった。

 廃神社での戦闘が終わった後、てっきりイズナは厳しく尋問を受けるものだと思っていた。

 だがショウマはそんな事をせず、件にも触れず、ただ付いて来て欲しいとだけ言ったのだ。

 目的地も告げず、路地裏を通り続けて……それが却って不安を煽る。

 そんなイズナに対し、ショウマはもう少しで到着すると言って笑みを浮かべた。

 

「着いた、ここだよ。」

「ここは……。」

 

 やがて2人が裏路地を抜けて辿り着いたのは、お祭りが開かれている商店街の通り……2人が初めて出会った場所。

 先程までとはまるで別世界とも言うべき、戦いの熱気と緊張感から切り離されたその空間に、イズナは戸惑いながらも目を瞬かせる。

 

「戦って沢山動き回ったからね、お腹空いたでしょ?一緒に何か食べよう?」

「い、いやでも、イズナは……。」

 

 そう言いながらもふと漂ってきた甘い匂いに、イズナの耳がぴくりと反応する。

 その様子に気付いたのか、ショウマはぱっと表情を明るくした。

 

「わあ……ほら見てイズナちゃん!カルメ焼きだって!美味しそう……!あっちにはお祭りの定番のわたあめも!」

 

 まるで子供のように目を輝かせながら屋台を指差すショウマ……その無邪気さに、イズナは思わず言葉を失う。

 敵同士の筈なのに、ついさっきまで刃を交えていた筈なのに、どうしてこの人はこんな風に接してくるのだろう。

 

「あ、それともお菓子じゃなくて、もっとちゃんとした食べ物の方が良いかな?だったら焼きそばにたこ焼き、タコスにじゃがバター!いっぱい有るよ!」

「いえ、そうではなくて!イズナは、その……先生の敵なのですよ!?なのに……!」

 

 困惑を隠せないイズナの声。

 だがショウマは、その言葉を真っ向から否定するでもなく、ただ静かに見つめ返した。

 

「ねえイズナちゃん、俺達って本当に敵同士なのかな?どうして俺達が戦う事になったのか、きっとお互いよく分かってないと思うんだ……だからさ、話し合ってみようよ?イズナちゃんがどうして魑魅一座の皆と一緒に居るのか、俺知りたいんだ。」

 

 その声色は、驚くほど穏やかだった。

 責めるでもなく、問い詰めるでもなく、ただ純粋に知りたいと言っている。

 だからこそ、イズナは返答に詰まった。

 

「で、ですが……それを話すのは雇い主との契約に反して……。」

 

 視線を彷徨わせながら、小さくそう漏らす。

 忍として依頼を守るのは当然……それを破るなど、本来なら考えられない。

 しかしショウマは、そんなイズナを追い込むような真似はしなかった。

 

「じゃあさ、イズナちゃん。代わりに忍者の話を聞かせてくれないかな?」

「へ?忍者の話……ですか?」

「うん。忍者っていうのがどんなのか、実は俺全然知らなくて……良ければ忍者の事、俺に教えてくれないかな?」

 

 一瞬の静寂。

 予想外の言葉にきょとんと目を丸くしていたイズナであったが、次の瞬間彼女の耳がぴんと立つ。

 

「はい!ではまず、忍者というのはですね……!」

 

 肩に力が入っていて、視線も落ち着かず、いつでも飛び退けるような緊張が滲んでいて。

 そんな先程までの不安げな様子が嘘のように瞳をキラキラと輝かせながら語り始めるイズナ。

 通りの左右には色鮮やかな屋台が並び、提灯の灯りが昼下がりの百鬼夜行を照らしている。

 食べ物の香ばしい匂い、甘いお菓子の香り、そこかしこから聞こえる賑やかな笑い声。

 祭りはまだ終わっていない……そしてその中でも一際眩い彼女の青春に、ショウマはにこやかな笑みを携えながら寄り添うのであった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「またやられたのか……それにイズナ殿はどうした?」

「知るかあんな奴!あいつは役に立たない!ったく、何が忍者だ……!」

「このままだと桜花祭を邪魔しようにも、あいつらにやられっぱなしで終わっちまいやす……。」

 

 魑魅一座の拠点となっている廃墟。

 そこで再び雇い主との会合が行われているのだが、上の者を前にしながらアラタを初めとした魑魅一座の面々は隠しきれない苛立ちの声を上げる。

 誰も彼もが疲弊している……衣装は汚れ、各々の表情には揃って焦燥感が滲み出ており、それまで外で張っていた威勢は見る影も無い。

 S.C.H.A.L.E(シャーレ)との戦闘は、魑魅一座にとって想像以上の痛手であった……数では勝っている筈なのに、あの大人と付き人たる生徒の所為で、何度仕掛けても返り討ちにされる。

 その現実が、じわじわと彼女達の士気を削っていた。

 

「(それなりに使えると思っていたんだが……所詮この程度か。)」

 

 そんな魑魅一座等を、雇い主は冷ややかな目で見る。

 元より使い潰す前提の駒に過ぎないとはいえ、ここまで失態を重ねるものだとは想定していなかった。

 ましてイズナまでもが離脱するとは……()()S.C.H.A.L.E(シャーレ)とかいう存在、どうやら想像以上の脅威らしい。

 

「……今商店街にはどれくらいの魑魅一座が来ている?」

「え?えっと……大体120人ぐらい?」

 

 確認するような問い。

 雇い主は少しだけ考え込むように沈黙すると、やがて静かに口を開いた。

 

「そろそろ仕掛け時か……良いか、今から言う事をよく聞け。」

 

 その瞬間、場の空気が変わった。

 先程まで不満を垂れ流していた魑魅一座達も、雇い主の低い声に思わず息を呑む。

 

「えっ、本当にそんな事を……?」

「マジっすか?本当にやっちゃって良いんすか?」

 

 そして語られた内容に、彼女等は堪らず面食らった。

 それは単なる妨害工作では無い、一線を超えるやもしれない過激な計画であった。

 しかし雇い主は、そんな彼女達の反応を気にも留めない。

 

「大きな変数は取り除いておくに限る……この処理さえ上手くいけば計画は成功する筈。そうすればお前達にも契約通り成果報酬を渡せる……悪い話ではないだろう?」

 

 静かな声音。

 だがその言葉には、有無を言わさぬ冷徹さがあった。

 失敗すれば切り捨てる、成功すれば褒美を与える、ただそれだけ。

 まるで道具のような扱いである事は、魑魅一座の少女達も理解していた。

 それでも、ここまで来て引き下がる訳にはいかない。

 

「まあ、あたしらだって成功させるつもりはあるからね……分かったよ。」

「はい!かしこまっす!」

 

 半ば覚悟を決めたように頷く魑魅一座。

 雇い主はその返答に満足したのか小さく目を伏せ、そして最後に一言、僅かに声を落として告げる。

 

「……くれぐれも、イズナ殿には悟られぬようにな。」

 

 祭りはまだ終わっていない。

 それはショウマ達にとっても、またかの者等にとっても……。

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