キヴォトスに来たおカシな先生   作:ナリカオル

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第4話「祭り囃子はしのぶれど」

「それにしても雇い主って……あの問題児達にわざわざお金を払って雇ってるっていうの?それまたどうして?」

 

 魑魅一座との戦いを終え、百夜堂へ戻ってきた少女達。

 そこで店番をしていたフィーナも加わって開かれた作戦会議にて発された、シズコの疑問は尤もであった。

 魑魅一座は確かに厄介な集団ではあるが、本来統率が取れているような連中ではなく、行動も短絡的だ。

 そんな相手を金で雇うなど、普通に考えれば効率が悪い……だがホシノは過去の経験からそれに関しての答えを既に見出だしており、肩を竦める。

 

「まあ何とかとハサミは使いようって言葉も有るくらいだしね。単純に兵力が欲しいってだけでも、そこいらのチンピラも十分戦力にはなるからさ。」

「成る程、つまりよっぽど悪い奴に違いない!皆が楽しそうに笑ってるのが気に食わないとか、そんな理由で暴れさせてるのかも!うん、絶対そう!絶対悪い奴!」

 

 実際人数というのはそれだけで脅威になる……祭りのように人が密集する場なら尚更だ。

 1人1人は大した事は無くても、同時多発的に暴れられれば対処は難しくなる。

 黒幕もそれを理解しているのだろう……カエデの憤りに、皆揃って共感を示す。

 

「とにかく、この桜花祭を何としても邪魔したがっている人達が居る事は確かみたいですね。その目的が何なのかはまだ分かりませんが……こうしてただ魑魅一座と戦い続けるよりは、その元凶を見つけた方が良いのではないでしょうか?」

「それは賛成~……でもその元凶、どうやって探そうか?」

 

 状況を整理したミモリに、ツバキが意見する。

 場当たり的に魑魅一座を追い払うだけでは根本的な解決にはならない……元締めを叩かなければ延々といたちごっこを続けるだけだ。

 だが相手の尻尾も掴めていない状態で闇雲に探すのは骨が折れる。

 

「うん、断腸の思いだけど仕方無い……シンプルで確実な方法で行きましょう!まず街に出て、どこかで悪さをしている魑魅一座を見つけて、一気に包囲するの。」

「包囲して~……その後はどうするの?」

「それで魑魅一座の一員を誘拐してから脅して、元凶が誰なのかを直接聞き出す!必要なら多少過激な方法も止む無し!」

「ヨッ!サスガ委員長!悪党達には小指ザクリの刑デスネ!」

「うへー、血も涙も無い。」

「流石お祭り運営委員会の委員長……!お祭りの為なら手段を選ばないっていう噂を聞いてたけど、本当だった……!」

 

 お祭り運営委員会の2人によって、一気に物騒な方向へ走る会話。

 しかも本人達は至って真面目に話しているものだから、冗談であろうとは分かっていながらも皆苦笑いを浮かべてしまう。

 

「とにかく、もう時間が無いの!百夜ノ春ノ桜花祭のクライマックスは明日なんだから!」

「あ、聞いた事ある!花火でしょ、ホログラムの!パンパンパーンって!」

「ハイ!お祭りの盛り上がりも最高潮……Lastを飾るのにビッタリな新しい花火を用意してマス!」

 

 と、先程までの冗談めいた流れとは違う、シズコの切実な焦燥……それを受けたカエデは反対にぱっと表情を明るくさせる。

 桜花祭のフィナーレを飾るホログラムの花火は、既に新たな試みとして宣伝が為されている……これまでのお祭り最大の見せ場に代われるものかどうか、期待している人達も多いのだ。

 

「その時に魑魅一座が現れたら、騒ぎどころじゃ済まなさそうだね~……。」

「もしそんな事になったら、責任を問われて私達お祭り運営委員会は……。」

 

 だからこそ、ツバキの言葉が呟きながらも全員の耳によく届く。

 祭りのクライマックスで最高潮を迎えるというのなら、反転すれば大混乱にもなるという事。

 そうなってしまえば来年の桜花祭の開催も、お祭り運営委員会の存続も危ぶまれる……シズコやフィーナの毎日も、百鬼夜行の伝統も、失われてしまう。

 

「させないよ、そんな事には。」

「ホシノさん……?」

 

 自然と皆、その声を発した生徒……ホシノを見る。

 彼女はいつのもように気怠げな笑みを浮かべていて、しかし目だけは真っ直ぐに前を見据えていた。

 

「その為におじさん達が居るんだからね。」

 

 軽い調子で発された言葉……でも皆、その言葉に不思議と安心感を覚える。

 まだ出会って少ししか経っていないのに、大丈夫だと信頼を置けるのだ。

 

「……そうね、こんな事で弱気になってちゃ駄目!そうと決まれば元凶を探す!それで今まで私が受けてきたストレスをそっくりそのまま叩き込んでボコボコにしてやるんだからっ!」

「お、良いねー。とうとう取り繕わなくなったねー。」

「細かい事は良いんです!!さあ、行きましょう!!」

 

 そんなホシノに触発されて、他の少女達も次第に活気を取り戻していく。

 外へ出れば、夜に向けてお祭りはますますの盛り上がりを見せている……やはり地元(アビドス)では絶対に見られない光景だ。

 そんな光景を美しく愛おしいと思い、ホシノもより一層それを守りたいという意思を強く固めるのであった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「あーんっ!……ん~!美味しいです~!」

 

 屋台で買った焼き団子を両手で大事そうに抱えながら、イズナは満面の笑みを浮かべる。

 頬いっぱいに頬張るその様子は、祭りを楽しむ年相応の少女そのもの。

 そんな彼女の姿に、ショウマも自然と表情が和らぐ。

 

「本当に美味しいね。それに食べ物以外も出し物とかいっぱいやってて、凄い楽しい。」

「はい!だからイズナ、この百夜ノ春ノ桜花祭が本当に大好きなんです!特に今年は先生と一緒に回れて、とっても嬉しいです!」

 

 きらきらと目を輝かせながら語るイズナ……その声音に嘘は無い。

 今朝に聞いた通り、この祭りを大切に思っている彼女の気持ちは本物だ。

 だからこそ、聞かねばならない……ショウマは暫しの間を置いた後、静かに口を開いた。

 

「……じゃあ、どうしてそのお祭りを滅茶苦茶にするような事をしてるの?」

「え?滅茶苦茶……?な、何を言ってるんですか!?」

 

 イズナの肩がびくりと跳ねる。

 今まで浮かべていた笑顔が、一瞬で困惑へと塗り替わっていく。

 

「イズナちゃん、魑魅一座の皆と一緒になって色んな所で騒ぎを起こしてるでしょ?それが原因で、もしかしたらお祭りが中止になっちゃうかもしれないって話になっててね……。」

 

 その瞬間、イズナの表情が凍り付いた。

 まるで、今初めて知ったと言わんばかりに瞳が大きく揺れている。

 

「そ、そんな!?イズナはお祭りを守る為に今まで……!?」

 

 思わず漏れ出た言葉。

 そこに悪意や打算は感じられない。ただ純粋に、自分は正しい事をしていると信じていた……そんな響きだった。

 その様子を見て、アロナが問い掛ける。

 

『雇い主の方からは、何と言われていたんですか?』

「……今の桜花祭は、昔のお祭りから随分と悪く変わってしまったって……だからお祭りを変えてしまった悪い部分を取り除け、と……。」

 

 迷うように視線を彷徨わせた後、ぽつりぽつりと呟かれたイズナの話に、ショウマとアロナは眉を寄せる。

 確かに百鬼夜行では昔ながらを重んじる者も少なくないと商店街の会長(ニャン天丸)も言っていた……だがそれを理由に祭りそのものを壊しかねない騒動を起こすなど、本末転倒にも程がある。

 

『イズナさん、あなたは騙されているんです……このまま魑魅一座を放っておいては、折角の桜花祭が台無しになってしまいます。』

「だからイズナちゃんや魑魅一座を雇ってるっていう人の事、俺達に教えてくれないかな?」

 

 イズナの耳がぴくりと動く。

 葛藤するように唇を噛み締めるその姿から、心が大きく揺れている事は明らかだった。

 

「い、イズナは……!」

 

 言葉を詰まらせるイズナ。

 雇い主を裏切る事への躊躇いと、自分が利用されていたかもしれないという疑念。

 その狭間で少女の心は激しく揺れ……。

 

「……っ!」

「イズナちゃん!」

 

 結果、彼女は心の中の鬩ぎ合いに耐えかね、踵を返して逃げ出してしまった。

 ショウマが咄嗟に名を呼ぶも、彼女は振り返る事も立ち止まる事もせずに祭りの喧騒の中へ消えてしまう。

 

『先生……。』

「……失敗しちゃったかな。」

 

 彼女を追い詰めるつもりなど無かった……けれど突然現実を突き付けられもすれば、受け止められなくても無理は無い。

 信じていたものを否定されるというのは、それだけ苦しい事なのだから。

 人々の笑い声が響く桜花祭の景色を眺めながら、ショウマは小さく息を吐く。

 胸の奥に、上手く手を差し伸べられなかった後悔が募る。

 

『まだそうとは決まっていません……イズナさんならきっと、自分で気付ける筈です。』

 

 しかしアロナはそんなショウマの事を否定せず、励ました。

 彼女の反応には確かな動揺が有った……あれは決して、何も届いていなかった者の顔では無い。

 自分のしている事に疑問を抱き始めたからこそ、逃げ出さずにはいられなかったのだろう。

 だから今は、彼女自身が正しい答えを見つけるのを信じるしかない。

 ショウマは雑踏の向こう……イズナが消えていった方向へ視線を向けながら、小さく頷いた。

 

「おっと、動くなよ?動いたら速攻バンッ、だ。」

 

 その時だった、背後から冷たい銃口を突き付けられたのは。

 

「お昼の時以来っすね~、シャーレの先生……だっけ?護衛も無しにぶらついてるだなんて、不用心っすよ?」

「魑魅一座の皆……。」

 

 振り返らずとも分かる正体……魑魅一座・路上流のリーダー、アラタ。

 そして彼女の手下数名……皆ショウマの周辺を取り囲むよう配置に着いており、それによって周りの人々も何が起きているのか知覚出来ないのか、騒ぎにならない。

 

「あんたに用が有るって人が居てな。」

「大人しく付いて来るっす!」

 

 その言葉に、ショウマはほんの僅かに目を細める。

 用が有る人……十中八九、今回の件の黒幕。

 魑魅一座やイズナを裏で動かしている、雇い主の事だろう。

 まさか向こうから接触してくるとは思っていなかったが……これはまたとないチャンスだ。

 

「……分かった、抵抗はしないよ。」

「お、随分素直なこった……おい。」

「へいっす!」

 

 シッテムの箱やガヴフォンを取り上げられ、後ろ手を縄で拘束される。

 罠である事は明白……だがイズナ達を利用して桜花祭を混乱へ導こうとしている人物、その正体へ近付けるのならば、ショウマは囚われの身となる事に迷いなど抱かなかった。

 

「じゃ、行きやしょうか。」

 

 そうして魑魅一座に囲まれたまま、ショウマは祭りの賑わいから少しずつ離れていく。

 華やかな提灯の灯りが遠ざかるにつれ、空気は次第に薄暗く、静かなものへと変わっていったのだった……。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「魑魅一座め~~~……あいつらいっつも呼ばれなくても来る癖に、何でいざ探そうとすると出てこない訳!?」

「フィーナ、分かった気がしマス!リモコンと同じデス!いざ探そうとすると見つからないものデス……フィーナ、リモコンを探してて最終的には冷蔵庫から出てきた事がありマス!」

「分かる分かる!確か……マフィンの法則だっけ?そんな感じの!」

「美味しそうだね~、何か違う気もするけど~。」

「カエデちゃん、それはマーフィーの法則ですよ……。」

 

 魑魅一座の背後に居る黒幕の正体を探る為、直接本人等に話を伺おうと店から出た少女達。

 しかし肝心のその姿が何故かどこにも見当たらない……皮肉にも、少女達の眼前には正常な祭りの風景が拡がっている。

 既に日も落ち夜にもなって祭りもより盛況するというのに、彼女等が何の行動も起こそうとしないのは奇妙な話である。

 そしてもう1つホシノの中で気掛かりとなっているのは、ショウマの事……それまでアロナを通じてのやり取りによって向こうの状況を把握出来ていたのだが、少し前から連絡が途絶えてしまったのだ。

 それと時を同じくする魑魅一座の失踪……何か嫌な予感がする。

 

「ん、やっと来た……って……。」

 

 と、そんなホシノの端末に連絡が。

 見れば連絡の相手はシッテムの箱……つまりはアロナ、転じてショウマから。

 噂をすれば何とやらというべきか……果たして心配は杞憂であったのかと、ホシノは送られてきたメッセージを読み解く。

 

「……ま、そんな事だろうと思ったよ。」

 

 小さく肩を竦めながらそう呟く。

 その声音には呆れ半分、納得半分といった色が滲んでいた。

 送られてきたメッセージは、ごく簡潔……魑魅一座に捕まって、彼女等のアジトに向かっているという内容。

 恐らくわざと捕まったのだろう……アジトまで赴けば、そこには黒幕たる雇い主が居るであろうから。

 そうでなくてもアジトに潜入して情報を引き出して……全くあの人は相変わらず無茶を厭わないというか、何というか。

 そう、ホシノはまた肩を竦める。

 

「ごめん皆、ちょーっと力を貸してくれる?」

 

 とにかく、それならば、こちらがやるべき事はたった1つだ。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 百鬼夜行の展望台に、風が吹く。

 風に乗って、御神木の桜吹雪が夜の街を彩っていく。

 それはとても静的で、幻想的で……しかし眼下に見える祭りの様相はとても動的で、現実的で。

 そんな相反する2つの要素が混じり合うこの光景が、本当に大好きだ。

 しかしそんな大好きな光景を前にして、イズナは晴れやかな表情を浮かべられない。

 

「……。」

 

 展望台の高欄へ手を添えるイズナ……彼女の頭の中から離れないのは、先程のショウマ達との会話だった。

 

─イズナちゃん、魑魅一座の皆と一緒になって色んな所で騒ぎを起こしてるでしょ?それが原因で、もしかしたらお祭りが中止になっちゃうかもしれないって話になっててね……。

─イズナさん、あなたは騙されているんです……このまま魑魅一座を放っておいては、折角の桜花祭が台無しになってしまいます。

 

 2人の言葉が、胸の奥へ棘のように刺さっている。

 桜花祭が好きだ……皆が笑って、賑わって、美味しい物を食べて……そんな景色が大好きで。

 だからこそ、自分なりに祭りを守ろうとしてきた。

 今のお祭りが悪く変わってしまっていると聞かされ、それを正せれば昔の素晴らしい桜花祭へ戻れると言われ。

 そしてそれを為す事が、忍者としての道にも通ずるのだと……。

 だがもし、それが誰かに利用されていただけだとしたら?

 自分のしてきた事が、逆に大好きな祭りを壊していたのだとしたら?

 

「イズナは……。」

 

 自分は本当に正しかったのか、一体何が正しき事なのか。

 弱々しく零れ落ちた声は、普段の彼女からは想像も出来ない程自信を失った響きだった。

 

「……?」

 

 と、高欄へ添えている手に何かが当たったような違和感が。

 見ると、何やら黄色い玩具のような物体がひとりでに動いて、イズナの手を小突いていた。

 

「えっと……もしかして、先生の……?」

 

 イズナがそう当たりを付けたように、それはショウマの眷属たるゴチゾウ……ポテトチップスを食す事によって生まれる、ザクザクチップスゴチゾウだ。

 彼女の事を心配したショウマが放ったそのゴチゾウは、そのまま高欄の上をわちゃわちゃと動き回る……特有の鳴き声も発しながら、しかし何と言っているのかは分からない。

 それでも時折イズナの様子を窺いながら必死に小さな体を動かしている様からは、こちらの事を励まそうとしているのだという意思が汲み取れて……その献身振りに、彼女はそれまでの苦悩を一時忘れて微笑みを浮かべる。

 同時に、先生(ショウマ)の優しさにもまた触れて……そんな時だった、ゴチゾウを挟んで見える眼下の祭り会場で、見覚えの有る一団が視界に入り込んだのは。

 

「あれは……魑魅一座の皆さんと……先生?」

 

 提灯の灯りが照らす通りを、魑魅一座の面々が歩いている……その中心には、ショウマの姿。

 自分の時もそうであったが、何故敵同士の両者が共に居る?

 それに魑魅一座のあの囲い方……まるでショウマの事を捕まえて連れ去っているように見えて。

 妙な胸騒ぎが胸中を占める……一体、何処に向かっているのだろう?

 その答えは一行が人混みを抜け、祭りの外れへ向かって歩き出した、その進行方向によって判明する。

 

隠れ処(アジト)……。」

 

 胸騒ぎが強くなる……気付けばイズナはザクザクチップスゴチゾウを手にして後を追っていた。

 確かめたかったのだ……本当に雇い主が自分達を利用しているのか。

 そして(ショウマ)を招き入れて、一体何をするつもりなのか。

 

「命令通り連れてきたっす!」

「よくやった、魑魅一座。やれば出来るじゃないか。」

 

 やがて辿り着いた、魑魅一座のアジト。

 祭りの喧騒から離れた廃墟……人気も無く、祭りの熱が1つも届かないそこには、百鬼夜行が誇る華やかさとは真逆の淀みが漂っている。

 そんな淀みの中の静けさから、1つの影が連行されて膝を付かされたショウマの前に姿を現す。

 

「あなたは……。」

「また会えて嬉しいよ、S.C.H.A.L.E(シャーレ)の先生。」

 

 現れたのは、老齢の猫人……男性的な低い声をしている、片目を眼帯で覆っているその猫人を、ショウマは知っている。

 

「ニャン天丸さん……。」

「ふん、儂の本名はニャン天丸じゃない!儂の名はマサムニェ……路地裏の独眼竜、ニャテ・マサムニェとは儂の事じゃ!」

 

 ニャン天丸改め、ニャテ・マサムニェ……商店街の会長にして、お祭り運営委員会の後見人とも言えるような彼が、何故魑魅一座のアジトになぞ居るのか。

 その答えは、既に明白であった。

 

「まさか、あなたが魑魅一座やイズナちゃんの雇い主……?」

「魑魅一座の連中が妙な奴等に邪魔をされたと聞いて、誰の事かと思えば……まさかお主等だったとはな。」

 

 眼帯を指で弄びながら、ショウマの事を値踏みするような声音を放つマサムニェ。

 そこに昼間の時のような気の良さは無く、まるで肉食獣のような獰猛な色が滲んでいた。

 

「どうしてそんな事……シズコちゃん達と一緒にお祭りの成功を願ってたあなたが、どうして……。」

「そのお祭りの為だよ。毎年毎年新しい要素を取り入れるべきだなんだと言って、奴等(お祭り運営委員会)は古い習わしを蔑ろにして……百夜ノ春ノ桜花祭だけじゃない、百鬼夜行のお祭りは変わり過ぎたのだよ。」

 

 その瞬間、物陰から様子を窺っていたイズナの心臓がどくりと跳ねる。

 それは以前、自分へ語っていた内容と同じ。

 昔ながらの祭りの素晴らしさ、失われていく伝統、そしてそれを正さなければならないという言葉。

 だからこそイズナは信じた……この人は、自分と同じように桜花祭を、百鬼夜行を愛しているのだと。

 その言葉に、その態度に、まやかしなど存在しないのだと。

 

「だが本当に気にしているのはそこじゃない……儂の目的は至ってシンプル、金だよ。」

 

 だが続けられたマサムニェの言葉は、イズナの期待を酷く裏切るものであった。

 

「百鬼夜行でお祭りが開かれる度に、一体どれくらいの金が動くと思う?特に桜花祭はこの規模だ、それなりに大きい事くらいは素人目に見ても分かるだろう?なのにそのお金をあんなチビ共が握ってる……儂はそれが気に食わんのだ。」

 

 先程まで祭りを憂う者として語っていた口調が、冷たく醜いものへと変わっていく。

 ショウマが眉を顰め、イズナの背に冷たいものが走る一方で、マサムニェはまるで当然の話でもするかのように肩を竦める。

 

「桜花祭が中止になれば、奴等は責任を取って運営を下りるしかない……次にその役割を任されるのは、自然と儂になるだろう。これでも商店街の会長だ、その辺りのコントロールは難しくない。」

 

 お祭りを素敵なものに?

 その為なら大枚をはたいてミレニアムに依頼するのも必要な事だって?

 何と青臭い考えであろうか……己に任せれば、遥かに多くの金を稼げるというのに。

 

「そんな事の為に桜花祭を……イズナちゃんを……!」

「イズナ……ああ、あの自称忍者のチビッ子か。そうだな、あいつは実に役に立ってくれた……大した金も掛けていないのに、よく働いてくれたよ。」

 

 欲望に濁った、マサムニェの本音。

 伝統を守りたいという言葉も、祭りを憂う態度も、決して全てが嘘な訳ではないのだろう。

 けれどその根底に有ったのは、結局の所己の利益だけであった。

 そしてその為ならば、何であろうと使い捨てる駒にする……魑魅一座も、そして彼女も。

 

「ちょっと()()()()()に付き合っただけで、こんなにも活躍をしてくれるとは思ってもみなかった。」

「(え……?)」

 

 再びイズナの心臓が鼓動を打つ。

 今、何と言ったのだろう。

 そんな筈は無い……しかし無情にも、今まで感じていた違和感が少しずつ形を持ち始めていく。

 彼女にとって、最悪となる形で。

 

「ごっこ遊び……?」

「ああ、幼稚な子供のごっこ遊びだろう?あいつの言うような忍者なんて、所詮創作の中の話だ。雇い主としてご命令をとか、ご命令とあらば何でもこなすのが忍びの道だとか……本当に、影でよく笑わせて貰ったよ。」

「今だから言えるけど、あの年で忍びとかほんと無いよな!」

「正直見てるだけでも笑いを堪えるのが大変だったっす!」

 

 イズナの心情を代弁するかのようなショウマの問いに、マサムニェと魑魅一座は口元を歪めて肩を揺らす。

 まるで、愉快痛快とでも言わんばかりに。

 

「本当に便利な奴だよ……実に経済的で、馬鹿で、こちとら大助かりだよ!ふはははっ!」

 

 マサムニェの、魑魅一座の、下卑た笑い声が、廃墟の薄暗い空間に一斉に反響する。

 その度にイズナの顔から血の気が引いて、頭の中が真っ白になっていく。

 自分と同じように桜花祭を、百鬼夜行を愛しているのだと思っていて、それを裏切られて。

 でもそれ以上に、夢を謀られた。

 

─忍者……?何それ?そんなのになりたいの?

─忍者ってあれでしょ?昔の漫画とかアニメに出てくる……あんなの本当に居る訳ないじゃん。え、何?もしかして本気で信じてたの?

─サンタクロース信じてる子供かよ!ウケる!

 

 そんな言葉は、今までだって何度も向けられてきた……笑われた事だって、一度や二度じゃない。

 それでもイズナは気にしなかった……自分だけでも信じていればそれで良いと、そう思っていたからだ。

 でもこの人達だけは違った……忍者になりたいという夢を語った時、マサムニェも、魑魅一座も、皆何も言わずに黙って話を聞いていた。

 そして、こうすれば目指す忍者になれると指示してくれた。

 初めてこの夢を認めてくれる人達と出会えたのだと……そう思っていたのに。

 全部、嘘だった。

 利用されていただけだった。

 

「そん、な……。」

 

 息が上手く出来ない……喉の奥が酷く熱いのに、指先は凍えるように冷たい。

 視界の向こうでは、マサムニェや魑魅一座の面々が腹を抱えて笑っている。

 命令を受ける度に真剣な顔で頷いていた事も、忍びとして役目を果たそうとしていた事も……全部全部、心の中では笑い話でしかなかったのだ。

 

「イズナ、は……。」

 

 胸の奥で、何かがみしりと軋む。

 それはイズナの心……彼女が張っていた虚栄心。

 どれだけ夢を馬鹿にされても明るく振る舞う性格は、彼女の天性のもの。

 だが何も、その天性だけが100%を占めている訳ではない。

 馬鹿にされて、それでも夢を目指す為に、いつしかイズナは見栄という名の柱を心の中に立てていた。

 忍者なんて居ない、そんなものを目指すつもりだなんて愚かな事だと……自分でも本当は分かっていたから。

 だが今、信じられる者達と出会えたと思って、しかし端からそんな絆など無いと吐き捨てられた事により、その柱が根本から折られようとしている。

 

「イズナ……は……。」

 

 か細く漏れた声は、誰にも届かない。

 思わず後ずさった1歩も、その小さな足音すら笑い声に掻き消されて、やはり誰にも届かない。

 届かない、届かない……この想いは、誰にも届かない。

 

「……っ。」

 

 膝が震え、今にもへたり込んでしまいそう。

 涙が溜まり、今にも零れ落ちてしまいそう。

 常に理想と現実の狭間で苛まれていたイズナの心が、今まさに壊れようとしている。

 

「(やっぱり……私の夢は……。)」

 

 そして、だからこそ、最後の止めは自分で付けてしまおうとして……。

 

 

 

 

 

「あんた達に……。」

「ん?」

 

 

 

 

 

「あの子達を笑う資格なんて無い!!」

「っ……!?」

 

 

 

 

 

 (ショウマ)の声が、聞こえてきた。

 

「シズコちゃん達はお金の為にお祭りを盛り上げようとしてるんじゃない!お祭りに来てくれる皆を喜ばせる為に頑張ってるんだ!」

 

─私達も趣味や道楽だけでやってる訳じゃありません!全てはお祭り運営委員会の委員長として、桜花祭を素敵なものにする為に!それだけは自信を持って言えます!

─お祭りというのは毎年ドンドン楽しくなっていくべきデス!

 

 祭りの未来を真っ直ぐ見据えていたシズコ。

 お祭りへの理想を本気で追い掛けていたフィーナ。

 少しでも皆に楽しんで貰おうと、少しでも皆に笑顔になって貰おうとして。

 新しい試みにも臆せず挑戦して、逆境に晒されても挫けずに立とうとして。

 そこにマサムニェのような打算など欠片も無かった……ただ純粋に、皆にお祭りを楽しんで欲しいという想いだけがあった。

 

「イズナちゃんだってそうだ……創作の中の話だとか、そんなのは関係無い!自分が成りたいって思うものを見つけて、その成りたいものに成ろうとして、必死に頑張ってるんだ!」

 

─だからイズナ、この百夜ノ春ノ桜花祭が本当に大好きなんです!特に今年は先生と一緒に回れて、とっても嬉しいです!

 

 忍者になりたい……格好良くて、皆を助けられるような存在になりたい。

 その想いを胸に抱きながら、イズナはずっと努力してきた。

 その姿がどれだけ健気で、どれだけ眩しいものか、ショウマは知っている。

 

「そんなあの子達の事を馬鹿にするつもりなら……!」

 

 屋台を回りながら目を輝かせていたイズナの姿。

 お祭りや忍者の素晴らしさを語っていた時の、あの真っ直ぐな笑顔。

 それを知っているからこそ、目の前で拡がった嘲笑は、到底許せるものでは無かった。

 

「俺はあんた達を絶対に許さない!!」

 

 彼はそれまで付いていた膝を立たせ、拘束されている手首に力を込め、そしてそのまま力任せに縄を引きちぎる。

 共に発せられた怒声が、淀んでいた広間の空気を震わせる。

 

「マジかよ!?」

「力づくで縄を!?」

 

 シズコも、フィーナも、イズナも、やっている事はごっこ遊びなんかじゃない。

 祭りを通じて誰かを笑顔にしたいと願う彼女達を、立派な忍者になりたいという夢を本気で追い掛けている彼女を。

 くだらないと切り捨て、嘲笑い、利用するような真似だけは、どうしても許す事が出来なかった。

 

「な、何をしてる!?早く撃て!!」

 

 その怒りを糧に自由となったショウマを、バケモノを見るような目で見るマサムニェ。

 彼という存在が、自身の陰謀を妨げる一番の障害となる……それを察したマサムニェは若干の及び腰となりながら、その障害を即刻取り除くよう魑魅一座へ命令する。

 

【グミ! EAT (イート) グミ! EAT (イート) グミ!】

 

 だが魑魅一座等が行動を起こすより早く、ショウマは腹部のガヴを露出させ、予め服の中に忍ばせておいたポッピングミゴチゾウをセットする。

 

「うわぁ!?」

「弾が弾かれて……!?」

 

 周囲に現れたグミ型のエネルギー体が、魑魅一座の放った鉛玉からショウマの身を守る。

 本来と違って魑魅一座の方が銃弾の雨あられの脅威に晒される中、ショウマは左腕を大きく回して顔を引き裂くような動作を取り、双眼を妖紫色へと変貌させて……。

 

「変身!!」

 

Hiyaaaaaa(ヒヤァァァァァ)!!】

 

 ガヴの舌鼓を押し込む。

 

【ポッピングミ! ジューシー!!】

 

 世を忍ぶ仮の姿から、悪を断ずる真の姿へ……仮面ライダーガヴへと変身したショウマは、この場に於いて倒すべき敵たるマサムニェを見据えながら、姿勢を落として戦闘態勢を整える。

 

「う、撃て!!早く始末しろ!!」

「……ッ!」

 

 マサムニェの指示を受け、銃器を構える魑魅一座。

 ショウマも早々にガヴガヴブレイドを召喚してそれに応じ、そこから彼の無双劇が始まる。

 魑魅一座の銃撃はグミの装甲によって弾かれ、逆にショウマの剣撃は魑魅一座の銃器を1つ、また1つと両断していって。

 

「り、リーダー!?こりゃマズいっすよ!?」

「くっそぉ……!」

 

 次々と倒されていく仲間の悲鳴を聞きながら、アラタは歯噛みする。

 昼間に戦った時でさえ碌に勝てなかったというのに、果たしてあんな力を持つ相手にどう立ち向かえというのか。

 命令とはいえ、あまりに無謀な戦いを強いられて思わず雇い主(マサムニェ)に噛み付きたくなる。

 

「ふっ!」

 

 だがここでアラタは奇しくも天恵を得た。

 強く地面を蹴るショウマ……次の瞬間には一気に間合いを詰め、とある構成員の懐へ飛び込む。

 

「ひぃい!?」

「っ……!」

 

 しかし構成員を昏倒させる為に振るおうとした手刀が、不意に止まった。

 まるで急に、その者を攻撃する訳にはいかないとでも言わんばかりに。

 

「く、食らえ!!」

 

 隙を突こうとした別の構成員が、ショウマ目掛けて銃器の引き金を引く。

 その攻撃自体は僅かに身を捻られただけで回避されてしまい意味を成さなかったが、アラタはその代わりに先の不振な動きの訳となるものを見抜いていた。

 

「今の……おい貸せ!」

 

 ショウマが攻撃しようとした構成員……その手に彼から奪ったスマホ(ガヴフォン)タブレット(シッテムの箱)があった事を、見逃さなかったのだ。

 

「動くな!動いたらこのスマホとタブレット割るぞ!」

「……!?」

 

 ショウマの目が大きく見開かれる。

 ガヴフォンもシッテムの箱も、どちらもショウマにとって単なる電子機器ではない。

 ガヴフォンは元の世界と、シッテムの箱はこの世界と繋がりを持つ為に必要な物。

 そして何より、シッテムの箱の中にはアロナが居る……壊されでもしたら、きっとアロナも無事では済まない。

 仕留めようとした魑魅一座の手にそれらがあって攻撃を躊躇ったのを、まさか見抜かれていたとは……今度はショウマが仮面の下で歯噛みする番であった。

 

「大事な物なんだろ?割れて使えなくなったら困る物なんだろ?」

 

 アラタの口元が歪む。

 僅かに示した動揺、それだけで十分だった。

 このバケモノにも躊躇するものがある……ならばそれを利用しない手はない。

 

「おお、良いぞ……そのまま蜂の巣にしてやれ!!」

 

 影に隠れながら勝機を見出したマサムニェが叫ぶ。

 その瞬間、魑魅一座の銃口が一斉にショウマへ向けられた。

 

「ぐうっ!?」

 

 避けられない、反撃も出来ない。

 ガヴフォンとシッテムの箱……転じてアロナを守る為に動きを封じられたショウマへ、無数の銃弾が容赦無く突き刺さる。

 

「ッ……!」

 

 やがて射撃が止み、ショウマはその場で膝を付く。

 いくらポッピングミの装甲でも、集中放火を受ければただでは済まない。

 装甲は著しく損耗し、ショウマ自身の体にも思わず剣で身を支えてしまう程のダメージが蓄積されてしまった。

 

「ハハハッ!随分冷や汗を掻かせてくれたが、まさかこんな物が弱点だったとはな!」

 

 勝利を確信したマサムニェが高らかに笑う。

 先程までの怯え等どこへやら……醜く歪んだ優越感が、その顔いっぱいに広がっている。

 

「さあ、大人しくその妙な変装を解いて……。」

 

 マサムニェが勝利に繋がる宣言を言い放とうとする。

 計画は順調だった、あと少しで全てが思い通りとなる筈だった……それなのに、この得体の知れない存在が全てを覆そうとしていた。

 だがそれも終わりだと、そう確信しながら。

 魑魅一座も、アラタも、そう確信していた。

 

「はぁ!」

「「ぐへぁ!?」」

 

 だが次の瞬間、アラタの両隣に居た構成員2人が突如として気を失って倒れる。

 何があったか、見れば彼女達の傍らには、見覚えの有る暗器……苦無が。

 

「うぎゃあ!?」

 

 そうして気を取られている間に、ふと真正面から気配。

 それに気付くも遅く、アラタはその気配の主による蹴撃によって吹き飛ばされる。

 そしてその衝撃に耐えられず手放したガヴフォンとシッテムの箱を、気配の主たる少女は即座に拾い上げてショウマの側へと立つ。

 

「き、貴様は……!?」

 

 マサムニェが再び動揺とした声を放つ。

 やがてショウマも視界に捉えた、花柄の服。

 そしてふさふさの尻尾に狐耳が特徴的な、その少女の正体は……。

 

 

 

 

 

「キヴォトス最強を目指す忍び、久田 イズナ!真の正義を為す為、ここに参上です!」

 

 

 

 

 

「イズナちゃん……!」

「イズナ殿!?いや、イズナ……貴様、まさか裏切るつもりか!?」

 

 突如として現れたイズナにショウマの声は弾んだものとなり、逆にマサムニェの声は怒りと困惑が滲んだものとなる。

 これまで自分の計画に盲目的に従っていた彼女が、何故急に謀反など……と、直ぐには受け入れられなかったのだろう。

 

「話は全部聞いていました……そして漸く分かりました!桜花祭の為、この百鬼夜行の為、成敗すべきはニャテ・マサムニェ、あなたであると!」

 

 だがイズナが発した台詞に、マサムニェはその表情を歪める。

 身から出た錆とは、まさにこの事か。

 

「先生、これを!」

 

 と、そんなマサムニェを置いて、イズナは手元の電子機器2つをショウマへ渡す。

 ガヴフォンもシッテムの箱も、どちらも傷1つ付いていない……そして彼の戦力となるザクザクチップスゴチゾウの存在も忘れず、一緒に手渡して。

 イズナの忍者としての手腕の良さが、これだけでもよく分かる。

 

「ありがとうイズナちゃん!アロナちゃん、大丈夫!?」

『はい、私は大丈夫です!イズナさん、私からもお礼を!』

 

 シッテムの箱を立ち上げ、声を掛ければ、アロナも即座に状況を理解して。

 2人からの感謝の言葉に、イズナも顔を綻ばせる……嗚呼、2人の役に立てたのだと。

 

「おのれ……ならば裏切った事を後悔させてやるまで!やれぃ魑魅一座!!そやつら2人に目に物見せてやれ!!」

 

 そんな3人のやり取りを三文芝居として、激昂したマサムニェが怒鳴り散らかす。

 再び数多の銃口を向けられる……が、ショウマの、そしてイズナの表情に焦りなどは一切見られない。

 

「イズナちゃん、いける?」

「はい!イズナは先生と共に!」

 

 お互いを信じて、肩を並べて……負ける気なんてしなかった。

 そう自信に満ちるイズナに応えるべく、ショウマも己の崩れた態勢を正そうとガヴ(ベルト)に手を掛ける。

 

【スナック!】

 

 消耗したポッピングミゴチゾウを解放し、新たなゴチゾウを代わりに装填する……イズナから託された、ザクザクチップスゴチゾウだ。

 

EAT (イート) スナック! EAT (イート) スナック!】

 

 そのままガヴドルを回すと、ポテトチップスの形をしたエネルギー体がショウマの周囲を舞い始める……先程ポッピングミの力を身に纏った時と同じように。

 そう、ザクザクチップスゴチゾウはアビドスでの戦いで見せたブルキャンゴチゾウやキッキングミゴチゾウのような武装等を召喚するゴチゾウではない……ポッピングミゴチゾウと同じショウマに戦う力そのものを授け、新たな変身を促すゴチゾウなのだ。

 

Hiyaaaaaa(ヒヤァァァァァ)!!】

 

 デリカッションを押し込み、ザクザクチップスの力を吸収するショウマ。

 グミを模した装甲が、ポテトチップスを重ね合わせたような装甲へ変化する。

 その姿は新たに手にした2振りの双刀、ザクザクチップスラッシャーの存在もあって、どこか鎧武者のようにも見えて。

 

 

 

 

 

【ザクザクチップス! ザックザク!!】

 

 

 

 

 

 仮面ライダーガヴ ザクザクチップスフォーム。

 それはこの和の景観溢れる百鬼夜行にて、正しき忍者であるを志そうとする少女と共に戦うに相応しき姿であろう。

 

「ま、また姿が変わった!?」

「すげぇ……!」

「感心してる場合か!!撃てぇ!!」

 

 先の蹴撃から未だ立ち上がれずにいるアラタからの命令、直後に吹かれる火の粉。

 ショウマとイズナはその火線の中へ物怖じ1つせずに飛び込んでいく。

 

「おおおっ!」

 

 ポテトチップスの力というと、元のお菓子を鑑みるに酷く脆いのではと思われるかもしれない。

 そして実際その通りではあるのだが、ザクザクチップスフォームの装甲ザクザクチップスラングは全てが湾曲した形をしている。

 それによって通常のアサルトライフル等で使われる程度の銃弾ならその形状によって受け流す事ができ、さらにポテトチップスを元とする軽い素材で構成される装甲は、ポッピングミフォーム以上の身軽さをショウマへ与える……魑魅一座という地元の不良生徒相手ならば、そもそも被弾する事さえ稀となるのだ。

 

「調子に乗りやがって……これでも喰らえ!」

 

 そして専用武器であるザクザクチップスラッシャーは装甲以上に脆い反面、その刀身は何度でも再生させる事が出来る。

 またその切れ味はガヴガブレイド以上であり、それがどれ程のものかというと……。

 

「ふっ!」

「なぁ!?」

「ロケランの弾を切ったぁ!?」

 

 通常、対象と衝突した衝撃によって爆発作動するロケットランチャーの弾頭に、それを全く感知させない程。

 

「はぁ!」

「ぎゃあああ!?なけなしの貯金で買い直したロケランがぁぁぁあ!?」

 

 そしてやろうと思えば、戦車等の装甲でさえ容易く切り裂ける程なのだ……魑魅一座程度が持つ重武装なぞ、それこそ紙切れの如くである。

 

「やああっ!」

 

 そしてイズナも愛銃に苦無、そして軽やかな身のこなしによって次々と魑魅一座を撃破していっており、ショウマに全く劣らない活躍振りを見せている。

 

「お、おのれ……!!まさかこれ程とは……!!」

 

 月の光に照らされる廃墟という舞台で、魑魅一座を斬られ役とし、2人は主役として華々しく舞台上に咲いて。

 ならば己はさながら作中に出てくる悪代官かと、マサムニェは恨めしそうに2人を睨み付ける。

 かくなる上は……。

 

「あっ!!こら!!あたしらを置いて勝手に逃げるな!!」

 

 背を向けて逃走を図るマサムニェに、アラタが怒声を飛ばす。

 自分1人だけ助かろうとするなどとんだ卑怯者ではないかと、アラタの中でマサムニェの株が著しく下がる。

 

「イズナちゃん!」

「はい!」

 

 そんな中でショウマが声を張ると、イズナはその意図を一瞬で理解し、地面を蹴る。

 阿吽の呼吸……戦いの中で自然と生まれた連携が、今この瞬間も寸分違わず噛み合う。

 夜風を裂きながら前へ飛び出し、やがて射程距離まで追い付いたイズナは、マサムニェの足下へ銃弾を撃ち込む。

 

「うおおおっ!?」

 

 決して体に当たった訳ではないが、突然足下に降り注いだ脅威にマサムニェたまらず足をもつれさせ、その場に転がるように倒れ込んだ。

 

「さあ、観念してください!」

 

 愛銃を構えたイズナが告げる。

 魑魅一座は大打撃を受け、自らも逃走に失敗した。

 勝負は既に決して、これ以上足掻く意味など無いと、誰の目にもそう見えていた。

 

「観念だと……!?貴様とてまんまと騙されていた分際で、何かを語れる立場に有ると思ってるのか!!」

 

 吐き捨てるような言葉の刃だった。

 そしてその刃は、真っ直ぐイズナの心に突き刺さる。

 先程まで決意に満ちていた金色の瞳が揺らぎ、その表情に迷いが差す。

 魑魅一座や自身を利用し、祭りを壊そうとしていた元凶、成敗すべき悪……それでもイズナはマサムニェの言葉を否定する事が出来なかった。

 何故ならそれは、紛れもない事実だからだ。

 皆の笑顔を守る為、百夜ノ春ノ桜花祭を盛り上げる為……そのつもりで行動していた。

 だが結果として、自分がしていた事は何だったか。

 方々に迷惑を掛け、楽しみにしていた人々を不安にさせ、大切な祭りそのものを危険に晒してしまっていた。

 騙されていたとはいえ、やってしまった事実は消えない……胸の奥に刺さった言葉の刃が後悔の念を抉り、今になって再び痛み始める。

 こんな自分に、誰かを裁く資格など有るのだろうか。

 そんな迷いがイズナの心を縛ろうとして……。

 

「有るよ、イズナちゃんなら。」

 

 だが次の瞬間、その迷いを断ち切る声が響いた……ショウマだ。

 

「確かにイズナちゃんは悪い事をしたかもしれない……でもイズナちゃんは皆がお祭りを楽しめるように願って、必死に頑張ってた!」

 

 振り返ったイズナの視線の先で、彼はマサムニェを真っ直ぐ見据えたまま続ける。

 

「イズナちゃんはただ、間違えただけ……間違えさせられただけだ!そしてイズナちゃんの道を間違えさせたのは他でもない、あんただ!」

 

 力強い言葉だった。

 責任から逃がす為ではない、罪を無かった事にする為でもない。

 間違いを認めた上で、それでも前へ進めと言ってくれる言葉……その厳しくも温かい言葉が、胸の奥に刺さった刃の傷を癒していく。

 揺れていた瞳から迷いが消える……代わりに宿ったのは、自分の過ちから目を逸らさない覚悟だった。

 ぎゅっと愛銃を握り締め、イズナは再びショウマと肩を並べる。

 もう俯かない、もう騙されない。

 自分の失敗も、自分の責任も受け止めた上で、それでも守りたいものが……叶えたい夢が有るのだから。

 

「どうする?二度と人の夢を弄ばないか……。」

 

 月光を受けて煌めくお菓子の刀(ザクザクチップスラッシャー)の切っ先が、静かにマサムニェへ向けられた。

 その隣で、イズナもまた真っ直ぐ銃口を向ける。

 逃げ場は無い、言い逃れも出来ない、だからこその、最後の審判。

 

「この場で俺達に懲らしめられるか!」

 

 夜の廃墟に響く宣告。

 それは正義の断罪というよりも、夢を踏みにじる者へ向けられた、怒りと決意の表明だった。

 

「だっ……黙れ黙れぇ!!何が懲らしめるだ!!世の中を知らぬ小童共が……!!やれ!!やってしまぇ!!」

 

 マサムニェの返答は、抵抗であった。

 癇癪を起こした彼の指示に、少ないながらも魑魅一座が壁として立ちはだかる。

 ならば、仕方がない。

 

Charge(チャージ) me(ミー)! Charge(チャージ) me(ミー)! Hiyaaaaaa(ヒヤァァァァァ)!!】

 

 ガヴドルを回し、ザクザクチップスの力を極限まで解放する。

 そしてデリカッションを押し込むと、ショウマはザクザクチップスラッシャーの刀身を敢えて砕き散らせる。

 

「イズナちゃん!」

「はい!イズナ、風になります!」

 

 柄だけとなったスラッシャーを振るい、散らばった刀身の破片を風に乗せて飛ばす。

 御神木から散った花弁と合わせて放たれた桜吹雪が、魑魅一座やマサムニェの目を眩ます。

 

「「はあああああ……!!」」

 

 2人が一斉に駆け出す。

 スラッシャーの刀身を再生させたショウマが銃器を、そしてイズナが人を。

 道中の魑魅一座を壁とも見なさず、彼女等を切り捨て、撃ち払い、やがて目前まで迫ったマサムニェ向けて……。

 

 

 

 

 

【ザクザクチップス! フィニッシュ!!】

 

「はあっ!!」

 

 

 

 

 

 一閃。

 斬り抜け、残心を取るショウマ。

 しかしながら、スラッシャーの切れ味は先に説明した通り、やろうと思えば戦車の装甲をも切り捨てられる程。

 いくら何でも、そんなものを人に向けて振るうなど……。

 

「……?」

 

 否、ショウマが刀を振るったのは、決して人に向けてではない。

 時の経ちと共にはらりと地面へ落ちるは、マサムニェが着ている……。

 

「ニャァァァァァン!?!?///」

 

 次の瞬間、天をも貫かんばかりの悲鳴が上がる。

 マサムニェの体そのものには傷は一切付いていない……だが彼が着ていた年季の入った和服は、ショウマの剣技によって綺麗さっぱり切り裂かれてしまった。

 それによってふさふさの毛に覆われた生身を晒す事になったマサムニェは、顔を真っ赤に染めながら慌てて身を隠そうとする。

 

「イズナ流!ぐるぐる縄縛りの術!」

 

 しかしイズナが袖から取り出した縄によって、それは叶わない事となってしまう。

 幸いにも文字通りのぐるぐる巻きにされた事でそれ以上裸体が外部へ露出する事は無くなったが、それでもみっともない姿を晒け出している事には変わらず、マサムニェはなおも恥ずかしさから茹でダコのようになっている。

 

「……今度こそ、終わりですね。」

 

 肩で息をしながら、イズナが静かに告げる。

 今ので魑魅一座は間違いなく壊滅状態となり、雇い主であるマサムニェも拘束した。

 ここまで来れば、流石に決着は付いたと……そう思えた。

 

「終わりだと……?まさかこれで本当に終わったとでも思っているのか?」

 

 倒れ伏したまま、マサムニェが笑う。

 今の今まで醜態を晒していたというのに、まるでここからの逆転を確信しているかのような、そんな不気味な笑みだった。

 そしてマサムニェは言う……まさか魑魅一座がこれしきの数しか居ないとでも?と。

 

「まさか……!?」

「もう遅い。既に連中の大半がここへ集結してきている……さあ、ここから先たった2人だけでどこまで持つかな?」

 

 イズナの表情が僅かに曇る。

 どれだけショウマが強くとも、どれだけ自分達の連携が合っていたとしても、更なる数を相手にたった2人で戦い続けるのは流石に……。

 

「先生……!」

 

 思わずショウマへ視線を向ける。

 だが彼は焦るどころか、いつものように穏やかな声で言った。

 

「大丈夫、俺達は2人だけなんかじゃない。」

「そのとーり、だよ。」

 

 そしてその瞬間、合わせるように聞こえた気怠げな声。

 聞き慣れたその声の主が、廃墟の外からやって来る。

 

「ふぅ……ごめんねショウマさん、この子達の相手してたら遅くなっちゃった。」

 

 そう言って、ホシノがそれまで担いでいたものを下ろす。

 それは気絶した魑魅一座の一員……これから語る事実を証明する為に、代表として連れて来られた者だ。

 

「この子達、だと……!?ま、まさか!?」

「あれ?確か商店街の会長さんだよね?……あー成る程、そういう事か。」

 

 ホシノは聡明にもショウマ達の足下で縛られているマサムニェを見て真実を悟ると、同じく人の足下で、しかし自由に動き回っている物体を拾い上げる。

 

「残念だけど、スマホやタブレットの電源切っただけじゃ意味無いよー?何せこの子達が居るからね。」

 

 それはゴチゾウ……ショウマが使ったのとは別個体となる、ポッピングミゴチゾウとザクザクチップスゴチゾウだ。

 確かに端末の電源を落として連絡手段を断ち切ったのは見事と言えよう……だがアロナはシッテムの箱の電源を落とされる前にメッセージと共に誘拐された場所の座標も送信していて、そこへ向かえば今度はショウマが用意していたゴチゾウ達がホシノ達を待っていた。

 ゴチゾウ達の独自のネットワークにより、ショウマ達の追跡は楽に出来て……しかしその道中で廃墟での戦闘に応援として駆け付ける予定であった魑魅一座と接触。

 彼女等全員を叩きのめした結果、ここまで来るのに時間が掛かってしまったのだそうだ。

 

「ホシノさん……!」

「お、イズナちゃんも居たんだ。その様子だと、ショウマさんと一緒に戦ってくれてたみたいだね~。」

 

 月明かりを背負って語るその姿は、まさに舞台の終盤で満を持して登場する頼れる助っ人のようであり、それまで焦燥としていたイズナの表情をぱっと明るくさせる。

 

「ありがとね、おじさん達の代わりにショウマさんの事守ってくれて。」

 

 そして続けられたホシノの言葉に、イズナの胸がじんわりと熱くなる。

 やっぱりこの人達は、この人達こそが……。

 

「会長……!?どうして会長がそこに!?」

「もしかして、人質ならぬ猫人質デスカ!?フィーナ、仁義なきニャンニャンパンチで見た事有りマス!主人公達が敵に人質を取られてしまって手も足も出なくなってしまったんデス!」

 

 と、ホシノに続いてやって来たのは、シズコとフィーナ。

 2人はマサムニェが縄で全身を拘束されている事に動揺を隠せていない。

 それこそ、実は魑魅一座と繋がっていたという考えが微塵も浮かばない程に。

 

「うーん……人質って訳じゃ無さそうだよ?」

「うん!見て分かるよ……この人が真犯人ってやつだね!」

「魑魅一座の皆さんに命令を下して、桜花祭を台無しにしようとしていたのは、あなたですね!」

 

 だが同じく来た修行部の面々による推測が、シズコとフィーナに真実を突き付ける。

 そんな訳が無いだろうとショウマへ目を配せるも、彼は首を振って2人の望みを否定する。

 

「そんな……どうしてそんな事を!?会長、お祭りが成功するようにっていつも……!!」

「そうデス!!いつもフィーナ達の事を見守ってくれて……!!」

「だ、黙れ!!元はと言えばお前達が……!!」

 

 なお事実を受け入れられない2人の問い掛けに、それまで愕然としていたマサムニェが剥き出しの感情を向ける。

 だが鋭く響いた声が、それ以上2人にその感情を向ける事を阻んだ。

 

「口を紡ぐのはあなたです、ニャテ・マサムニェ殿!イズナのみならず、この方々の夢も侮辱されたあなたに、これ以上何かを語る資格は有りません!」

 

 いつの間にか前へと出ていたイズナ……その瞳が、真っ直ぐマサムニェへと向けられている。

 それはまさに、勧善懲悪を貫かんとする者の眼差しであった。

 反論しようとするマサムニェであったが、もう如何な言霊だろうと揺れ動きはしないというイズナの立ち姿に、開いた口から声が出る事は無かった。

 

「……それで、君達はどうする?」

 

 マサムニェが折れ、これで騒動は終結へ向かう事だろう……ならば残るは後始末。

 不意にショウマが語り掛ければ、隠れてトンズラをかこうとしていたアラタ達の体がびくりと跳ねる。

 

「い、いや~その……何て言うか……あれだ、あたしらもそいつに利用されてた身と言いますか……ほら、そいつ(イズナ)と同じで反省してると言いますか……。」

 

 アラタが額に冷や汗を浮かべながら、へらへらと愛想笑いを浮かべる。

 その隣では僅かに残っていた魑魅一座の面々も揃ってこくこくと首を縦に振り、何とかこの場を切り抜けようと必死だった。

 だがショウマ達の視線が「それで?」と言いたげなものである事に気付いた瞬間……。

 

「……撤収~!!」

「逃げろや逃げろぉぉぉ!!」

「あーっ!逃げたぁー!」

「追い掛ける~?」

「ええ!そうしましょう!先生、ここは私達に任せてください!残り1日となる桜花祭の為にも、必ず捕まえてちゃんと反省させますから!」

 

 彼女等は反省も謝罪も全て投げ捨て、一目散にこの場から逃走し、修行部の面々がその後を追い掛ける。

 そんな慌ただしい寸劇の中で、シズコは縛られたマサムニェに合わせて膝を付く。

 

「会長……。」

 

 その表情は怒りでも憎しみでもなく、どこか寂しげで……信頼していた相手に裏切られた顔だった。

 

「ごめんなさい……さっき言い掛けてた事、きっと私達が原因なんですよね……私達が至らないばかりに……。」

 

 力無く俯くシズコ……その様子に、マサムニェは思わず目を逸らす。

 自身の陰謀は、彼女にそういう顔をさせる為のものでもあった……しかしいざその表情を前にして、マサムニェの中で罪悪感が強く芽生えてしまう。

 もしも……もしも、もっと違うやり方があったなら。

 そんな考えが一瞬だけ頭を過った、その時だった。

 

 

 

 

 

「……なんて言うと思ったかぁぁぁあ!!!」

「あべしッッッ!?!?」

 

 

 

 

 

 凄まじい勢いで放たれたシズコの拳が、マサムニェの顔面へめり込む。

 マサムニェの体が数cm浮いた程のそれは、場の空気を一変させるのに十分過ぎた。

 

「えええええ!?!?ちょっ、シズコちゃん!?!?」

「出まシタッ!委員長のヒッサツ、本気の(マジギレ)看板娘パンチデス!」

「今回の騒動でどれだけの人に迷惑が掛かったと思ってるんですか!?!?私達お祭り運営委員会の事も危険に晒して……しかもその犯人が会長だなんて冗談じゃないですよ!?!?今までどれだけ媚び売ってたか……風呂桶の中にマタタビ敷き詰めて顔突っ込ませてやりましょうか!?!?」

 

 ショウマが驚愕から絶叫し、フィーナだけが妙にテンションを高くしている中、シズコの憤怒は止まらない。

 完全に怒りのゲージが振り切れていた。

 

「先生!!!その剣貸してください!!!」

「え、これ!?駄目だよそんな!?何するつもり!?」

「フィーナ分かりマシタ!小指ザクリ!小指ザクリの刑デスネ!」

「風呂桶の中に顔突っ込ませるんじゃ物足りない……ちょん切った指の中にマタタビぶち込んで体の中からマタタビ漬けにしてやる!!!」

「待て待て待て待て!?!?まさか本気でやるつもりじゃないだろうな!?!?」

『駄目ですよシズコさん!!本当に恐ろしい事言わないでください!!』

「止めないでアロナ!!!こうでもしなきゃ気が済まないの!!!だから先生その剣貸してくださいー!!!」

「駄目だってシズコちゃん!!ちょっと落ち着いて!!」

 

 色んな人物の悲鳴やら何やらやが矢継ぎ早に上がる。

 ショウマが必死に刀剣を抱え込むもシズコは止まらず、そのまま2人による謎の綱引き合戦が始まって。

 それはおおよそ、事件解決後の光景では無い。

 

「うへー……何て言うか、キヴォトスも広いねー……。」 

「あ、あの……止めないで良いんでしょうか……?」

 

 ホシノが苦笑しながら頭を掻く中、恐る恐る尋ねるイズナ。

 2人の視線の先では、ショウマが必死に剣を守り、シズコが鬼気迫る勢いでそれを奪おうとし、フィーナが「ガンバレ委員長ー!」と無責任な声援を送り、マサムニェが「誰か助けろぉぉぉ!?!?」と情けない悲鳴を上げている。

 

─ちょっと待ってシズコちゃん!!ちょ、2人共手伝って……!!

─貸ーしーてーくーだーさーいー!!!……って、剣先折れた……よっしゃこの剣先使って……!!!

─うおおおおお!?!?分かった分かった!!!反省する!!!反省するから洒落にならん事するなあああああ!?!?

 

「……まあ、何とかなるでしょ。」

 

 阿鼻叫喚とはこの事かと。

 そんな騒がしい光景を眺めながら、ホシノはのんびりと肩の力を抜いたのだった……。

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