こうして、百鬼夜行の商店街の会長ニャン天丸……もといニャテ・マサムニェの計画を阻止する事に成功し、百夜ノ春ノ桜花祭は最後の1日も無事に開催される事となった。
一層の盛況を見せるお祭りと人々……そんな中で物語の登壇人物のその後に目を向けると……。
「くっそー!!いい加減しつこいだろ!!」
「うちらあれから何にもやってないだろうにぃ!!」
「こらー!全員そこで止まれぇー!」
「あなた達にも、今まで迷惑を掛けた皆さんの所へ謝りに行ってもらいます!」
「待て~……ふあぁ。」
まずカエデ、ミモリ、ツバキの修行部3人は、昨夜から引き続き魑魅一座の事を追跡していた。
本当は自分達もお祭りに興じたいという気持ちがあるが、素敵なレディーになる為、大和撫子を目指す為、より良い睡眠の為、そして何より他の祭客の為に。
これも修行の一環という事でぐっと堪え、それぞれの愛銃を手に取り、黄色い和服のお面の集団を追い掛け回す。
「ちくしょ~!!こんな事なら最初からあの猫爺の言う事なんて聞かなきゃ良かったぁ~!!」
そんな彼女達にしつこく付き纏われ、アラタ達も懲りた事だろう……百鬼夜行は暫くの間、小競り合いの少ない平和な地となりそうだ。
「いやはや、無事に解決出来たようで何より何より……チセもありがとね~、よしよし~。」
「ん~。」
一方、陰陽部の部室。
物語の登壇人物達を引き合わせ、事件を解決へ導いた影の功労者とも言えるチセは、とある女生徒の膝上で頭を撫でられて愉悦に浸っていた。
「でも良かったの~?部長、先生に会いたかったんじゃないの?」
遠くから聞こえてくる祭り囃子と人々の歓声が良い環境音となっている中、それまで顔を綻ばせていたチセがふと身を預けている女生徒向けて問う。
そして彼女から部長と呼ばれた女生徒はその質問に対し、大丈夫ですよ~、とのらりくらりとした様子で答える。
「その内嫌でも顔を合わせる事になるでしょうから……。」
にゃは♪という特徴的な笑い声と細めた眼による笑い顔は、含みが有りながらも掴み所の無い不思議なものであった。
「それでは、私達はお祭り運営委員会として最後の準備が有るので、これで失礼しますね。」
「ホシノさんも、是非お頭と一緒にお祭りのクライマックスを見届けてクダサイね!」
「あーいよー、2人共ありがとねー。」
楽しい時間はあっという間……夜になり、百夜ノ春ノ桜花祭の最後を飾る時間が遂に来てしまった。
シズコとフィーナの2人は連日の騒動から休む間も無く百夜堂の店員とお祭り運営委員会の役目とでこの最終日も東奔西走としていて、疲労も限界まで溜まっているであろうに、浮かべている笑顔はそれを何ら感じさせない程に溌剌としていて。
ホシノもゆるーくではあるが手伝った甲斐があったと……そう思いながら最後の仕事へ向かう2人の事を手を振って見送る。
「さてと……。」
2人の後ろ姿が見えなくなった後、ホシノは踵を返す。
そして目的の場所まで向かう中で商店街の中を歩く事になり、そこで彼女はそういえばと1つ思い出す事に。
本当はこういう時、この学区の風紀委員に中る百花繚乱なる場所へ身柄を引き渡すのが正解であるのだが、その百花繚乱は現在機能停止中……代わりに
という事で、直接被害に遭ってかつ面識が有る彼女達に処遇を任せるのが最善の選択だろうと判断したのだ。
結局あの後どうしたのだろうか……聞きそびれてしまったが、過激な事はしないようにと釘は差してあるし、まあ大丈夫であろう。
─もうすぐあのミレニアムと合作の花火が始まるって!
─遅れる前に早く行こう!
ホシノが目的としている場所は、百鬼夜行の展望台……そこへ向かう道中、真横を見知らぬ生徒達が駆けていく。
百夜ノ春ノ桜花祭……5日間にも渡って続いたお祭りは、締め括りを向かえる中で衰えるどころか、むしろ今が最高潮のようにも見える。
人々はこれから行われる最後の催しに期待を寄せて、集まって……視界いっぱいに拡がる人の波に窮屈さを覚えながらも、この人波が失くなるなんて事が起こらなくて良かったとも心から思う。
いつかはアビドスも、こんな風に……なんて、この話はよそう。
「お、居た居た……ショウマさーん。」
「あ、ホシノちゃん。」
と、人混みの向こうに見慣れた後ろ姿を見つけ、ホシノがひらひらと手を振る。
その声に振り返ったショウマもまた、自然と顔を綻ばせた。
「イズナちゃんは?」
『先に展望台の方へ向かいました、特等席を確保するんだと張り切っていましたね。』
「そっか、じゃあ私達も行こっか。」
ショウマとアロナは日中の間、イズナと行動を共にしていた……今回の騒動で迷惑を掛けてしまった人達に謝りたいと言った、そんな彼女の贖罪に寄り添う為に。
アロナ曰く、ショウマが側に居たからかイズナもはっきりと謝罪の言葉を届けられ、そして各方面の人達も彼女の誠意をしっかりと受け止め、皆気前良く許してくれたのだそう。
最初は不安げにしていたイズナが次第に本来の明るさを取り戻していったのだと聞いて、ホシノの中でも懸念が解消されて一安心といった所だ。
「それにしても、人が多くておじさん酔っちゃいそうだよー。」
「大丈夫?無理しない方が……。」
『先生、心配しなくてもホシノさんのバイタルは正常値です。いつもの怠け癖ですよ。』
「うーん……さてはアロナちゃん、だいぶおじさんの扱い方に慣れてきたね?」
むぅ、と少しだけ唇を尖らせるホシノ。
イズナが待っている展望台への道中で交わされるやり取りに、ショウマは思わず苦笑する。
そんな昨夜の激戦が嘘のような穏やかな時間を経て展望台へ辿り着き周囲を見回してみると、人で溢れ返っている中でも目当ての人物は直ぐに見つかった。
「居た……イズナちゃん!」
「あっ!先生!ホシノさん!」
弾かれたようにこちらへ向かって駆け寄って来るイズナ。
頭部の狐耳はぴょこぴょこと揺れ、尻尾は今にも千切れそうな勢いで左右に振られている……見るからに会えて嬉しいといった様子だ。
「わわっ、急に走ったら危ないよ?」
「す、すみません!2人のお姿を見れたら、つい嬉しくなってしまって……!」
突進してきた彼女を抱き止め、軽く注意を促すショウマ。
そして訳を語った瞬間、イズナははっとしたように顔を赤くする。
自分が何を口走ったのか気付いたらしい……が、そんな事を気にしている暇は無かった。
「そ、それよりイズナ、皆さんの為に見晴らしの良い場所を見つけておきましたので!」
「それってさっきイズナちゃんが居た場所?」
「はい!あそこがちょうど……って、あぁ!?いつの間にか人でいっぱいに!?」
ホシノが指差した先……先程までイズナが居た場所は、既に人で埋まっている。
さらにそこへ向かう道程まで、人の流れで完全に塞がれてしまっていた。
「うわぁん!?ど、どうしましょう!?さっきの場所も道も、全部塞がれてしまいました!?」
「うへー、流石お祭りのクライマックスだねー。そりゃ皆前の方で見たがるもんかぁ。」
「無理して怪我でもしたら大変だし、ここから見よっか。」
慌てふためくイズナに対し、ホシノはいつもの調子で肩を竦め、ショウマも同意するように頷く。
打ち上げ花火は高く打ち上がるもの、それはホログラムとて変わらぬ筈……少し離れていたとしても、十分綺麗に見える事だろう。
だがふと、イズナの表情に影が差す。
耳は垂れ、尻尾もそれまでの元気を無くして下がってしまって……祭りの灯りに照らされたその横顔には、どこか後悔の色が滲んでいた。
「あの、皆さん……イズナ、皆さんにも色々とご迷惑をお掛けしてしまいました……本当に、申し訳ありません。」
ぽつりと零れた謝罪。
魑魅一座と行動を共にした事。
騙されていたとはいえ、結果としてお祭りを危険に晒してしまった事。
そして、皆に助けられた事。
方々への償いが終わって、でも一番感謝して、謝らなくてはならない相手が目の前に居る事に気が付いたのだ。
「イズナは……その……。」
でも、一番だからこそ、上手く言葉を紡げなくて……俯いたままの彼女の肩が、小さく震える。
するとその肩へ、ぽんと優しい感触が乗せられる。
顔を上げると、そこには柔らかな笑みを浮かべるホシノが居た。
「もう良いよ、イズナちゃん。イズナちゃんは十分頑張ったから……十分自分に出来る事をやったから、もう何にも気に病む必要なんて無いの。」
「ホシノちゃんの言う通りだよ。それに俺達はそもそも迷惑だなんて思ってない……こうしてイズナちゃんと一緒に居られて、本当に嬉しいって気持ちしかないよ。」
2人の声音に、イズナの事を非難する色は欠片とて見られない。
責任だとか失敗だとか、そんなものを数えるより、こうして祭りの最後を一緒に迎えられる事の方が大切だと……そう伝わってくる言葉だった。
「先生……ホシノさん……。」
イズナの瞳が揺れる。
2人が掛けてくれる言葉は、本当に優しくて、暖かくて……昨夜も感じた想いが再び込み上げてくる。
やっぱりこの人達こそが、自分が求めていた……。
『皆さん!始まりましたよ!』
と、アロナが声を上げる。
それと同時に、どこからかひゅるるるる、と甲高い音が長く響き……次の瞬間、百鬼夜行の空一面に眩い光が花咲いた。
「わあっ!素敵です!」
「本当だ……夜空にとびっきりのお花が咲いてるみたい!」
「だから花火っていうんだねー、いやぁ納得納得……っとと、いけないいけない。皆の為にも写真と動画を……っと。」
夜空を彩る大輪の花々。
赤、青、黄、緑、紫……次々と色を変えながら咲き誇る光の奔流に、周りの人々の歓声が重なっていく。
花火が上がる音まで再現する程の凝った演出も相まって、とてもホログラムで再現されたものとは思えない……まるで本物、例年と遜色無い盛り上がり。
お祭り運営委員会の新たな試みは、大成功と言えよう。
「この景色を、皆さんと一緒に見られるなんて……。」
感嘆とした声を漏らすイズナ。
想像もしていなかった……このお祭りの最後を、誰かと一緒に過ごせる事など。
ましてやそれが、心から信頼出来ると言える者達と共に、など。
騙され、迷い、間違えてしまった自分が、それでもこうして受け入れて貰えている。
だからイズナは、この返しきれない恩義に報いる為に、ショウマ達に向けて迷い無く宣誓した。
「先生、ホシノさん……いえ、主殿にホシノ師匠!イズナ、ここに宣言します!」
「ん?……え、主殿?」
突然の改まった態度と言葉に、ショウマ達は揃って……ホシノに至ってはもはや点になる程にまで目を丸くする。
「先生とホシノさんは、私の夢を心から応援してくださる方々!だからイズナはこれから先、お2人を主殿とお師匠様と定めて忠誠を誓います!」
「ちょ、ちょっと待って!?師匠って、おじさんが!?」
「はい!初めてお会いした時にイズナを受け止めたあの動き……そしてその後敵として戦った時のあの強さ!師匠とお呼びするのが一番よろしいかと!」
「いやいやいや、おじさんそんな師匠ってガラじゃないからさ~!それはちょっと勘弁してよ~!」
基本的に物事は軽く受け流すのがホシノの主義であるが、今の彼女はいつぞやの電話口の時のように慌てた様子を見せている。
しかしイズナも折れる気配が全く無い……花火の光を受けて輝く眼差しは、むしろより一層尊敬の念に溢れていく。
「主殿、か……よく分かんないけど、イズナちゃんが良いっていうなら俺はそれでも良いかな。」
『そうですね、ところで私にはそういうの何も無いんでしょうか……。』
ショウマはというと、ホシノと違って割とすんなりその呼び名を受け入れていた。
元々他人から変わった呼ばれ方をされる事に慣れている為、そこまで抵抗が無いようだ。
一方で、アロナが少しだけ拗ねた声で以て会話の中に割って入ってくる。
AIなのに拗ねるなんて感情が有るのか……などと、識者が居ればツッコミたくなるような中で、イズナはその様子に目ざとく反応する。
「ご心配無く!アロナさんの事は軍師殿とお呼び致します!」
『えっ!?ぐ、軍師ですか!?い、いや~それ程でも~……有ると言いますか~?流石はスーパーAIのアロナちゃんと言いますかぁ~……!』
画面の中でくねくねと身を捩らせるアロナ。
満更でもない様子で頬を緩めているその姿は、やはり識者が見ればツッコミたくなるようなものであって……。
「乗せられてる乗せられてる!ちょっと待ってこの流れだと本当におじさん師匠って呼ばれる事になっちゃうじゃん!?誰かフォロー!フォローして~!」
などという事はどうでも良いと言わんばかりにホシノが頭を抱える。
情けない悲鳴のような声を上げて、でも次の瞬間には皆で大きな笑い声を上げて。
そして夜空には、まるでそれに合わせるように一際大きな花火が開く……御神木から舞い散る桜の花吹雪と共に。
その光景はきっと、彼等彼女等にとって、いつまでも忘れられない思い出となるのだろう……。
─新しい部員、ですか……?
─そうそう、どれだけ忍者が格好良くて最高な存在なのかを皆に理解してもらいたくて、今まで忍術研究部の活動をしてきた訳なんだけど、私達2人だけだとそろそろアイデアに限界が来そうなんだよねー……動画の伸びも頭打ち状態だし、これを乗り越えるにはやっぱり新たな突破口……すなわち、新入部員が必要なんだよ!
─成る程……!
そしてイズナは、巡り会う。
同じ夢、同じ道を志す、かけがえのない仲間達と。
「ここが噂に聞いた忍術研究部……忍術を研究する部活が有るなんて、イズナ全然知りませんでした……!」
その仲間達と共に、イズナの物語はさらなる躍動を見せる事になるのだが……。
─でも色々と難しいんだよねー……忍者を馬鹿にしてなくて、私達の話にも共感してくれて、ゆくゆくは部活を一緒に盛り上げてくれそうな……。
─息もぴったり合って、お互いに色んな前向きな話が出来る、あと何よりも可愛い子……ですか?
─そう!そんな子、どこかに居ないかな~……?
「……よし!」
それは、またの機会に語る事としよう。