キヴォトスに来たおカシな先生   作:ナリカオル

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仮面ライダーガヴと革命のイワン・クパーラ
第1話「レッドウィンターに来たおカシな先生」


 5月20日。

 百鬼夜行連合学院で開かれた百夜ノ春ノ桜花祭を堪能し終えてから間も無く、ショウマは本日の当番であるノノミと共にある場所まで向かっていた。

 

「さ、寒い……!」

 

 しかしながら一行の……というよりかは、ショウマの足取りがあまりおぼついていない様子。

 その理由は、今まさに本人が口にした通りである。

 

「凄いですよね、5月ももう後半ですのに、まだこんなに雪が残っているだなんて……。」

『資料によりますと、レッドウィンターは立地や気候の関係で全ての雪が溶けて失くなるという事は無いんだそうです。』

「それって夏とかでも雪が残ってるって事……!?」

『そういう事になりますね……因みに先生向けの情報ですと、そびえと連邦……?いえ、ろしあ?に近い環境だそうです。』

 

 見渡す限りに見える白……降り積もった雪が街を覆い、冷たい風が頬を撫でる。

 アビドスの環境とは対極を為し、また百鬼夜行の御神木とも似て非なる季節感の根底からの否定というものを身に染みて味わいながら遅歩を進めていると……。

 

『さあ、見えてくる筈ですよ!』

 

 アロナの声を受けて、改めて前方へ視線を向ける。

 通りの向こう……そこに存在している、巨大な学園施設。

 

「レッドウィンター連邦学園……。」

 

 連邦捜査部S.C.H.A.L.E(シャーレ)の先生、井上 ショウマ/ショウマ・ストマック。

 本日彼を呼び出したのは、かの学園そのものだ。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「ようこそお越し下さいました、お2方。レッドウィンター連邦学園を代表して、お2人のご来訪を心より歓迎致します。」

「こんにちはトモエさん、先日はありがとうございました。すみません、お礼が遅くなってしまって……。」

「いいえ、構いませんよ。何せ何の事かさっぱり分かりませんからね。」

 

 レッドウィンター連邦学園前。

 そこでショウマ達を待っていたのは、同学園の事務局秘書室長の佐城 トモエ。

 アビドス砂漠に於けるホシノ奪還作戦時にノノミは既に面識を持っており、彼女は当時の礼をまだ済ませていなかったとして頭を下げるが、そういえばそういう体であったとトモエの話から思い出し、はにかんだ笑みを浮かべる。

 

「初めまして、君がトモエちゃんだね?もう知ってるかもだけど、俺はS.C.H.A.L.E(シャーレ)の井上 ショウマ、よろしくね。」

『同じく初めまして、シッテムの箱に搭載されているAIのアロナです。今日はよろしくお願いします。』

「あら、可愛らしい……であればお2方では無く、皆様方とお呼びすべきでしたね。」

 

 流れに乗じてショウマとアロナが自己紹介をすれば、トモエはアロナの存在に少しばかり驚きながらも直ぐに柔らかな笑みを浮かべる。

 そんな中でショウマはちらりと辺りを見回し、周囲を観察してみる。

 積雪の煌めきに包まれた校舎、厳重と見える各所の警備体制。

 生徒達も全員がゲヘナの風紀委員会が着ていたような軍服然とした制服を着ており、改めてアビドスや百鬼夜行とは違う硬派な雰囲気が感じ取れる。

 成る程、アロナから事前に聞いていた通りである……軍事的で、規律を重んじていると一目で分かる校風。

 となれば、()()()も……。

 

「さあ、会長が中でお待ちです。こちらへどうぞ。」

 

 ショウマはそんな一抹の懐疑心を抱きながら、ノノミやトモエと共に学園の校舎内へ向かって歩き始めた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「わぁ……あったか~い……!」

 

 校舎内へ足を踏み入れた瞬間、先程まで肌を刺すようだった冷気が嘘のように消え去る。

 外に拡がる白銀の世界とは正反対の温もりに包まれ、ショウマが感嘆とした声を漏らしていると、不意に目に付く物が見えて彼は足を止める。

 

「あれは……?」

「あの肖像画が気になりますか?」

 

 ショウマが目の前にしているもの、それは通路の壁に掛けられてある肖像画。

 そしてそこに描かれている人物こそが、今回ショウマを呼び出した実人である。

 

「あの御方こそ、我がレッドウィンター連邦学園の生徒会長であり、環境美化部部長兼書記長兼運動部代表兼清掃部部長兼風紀委員長兼給食部部長の、連河(れんかわ) チェリノ会長でございます。」

「ん?え?な、何て……?」

『ちょっと待って下さい?何で6つも兼任してる役職があるんですか!?』

 

 どこか誇らしげなトモエの語りに、ショウマとアロナが揃って困惑する。

 一瞬聞き間違いかとも思ったが、彼女の至って真剣な表情を見るに間違いではないらしい。

 生徒会長……それだけでも十分に大きな役職だというのに、そこへいくつもの肩書きが連なる。

 レッドウィンター連邦学園……その独特な組織体系を、早くも目の当たりにした瞬間となった。

 

「お髭を生やしてらっしゃるんですね。それに体格も凄く逞しいと言いますか……。」

 

 同時に、肖像画そのものに対しても少々の興を覚える。

 何せ描かれているのがノノミの言う通り、白い髭を生やした強面の、屈強な肉体をした人物なのだから。

 このキヴォトスに男子生徒……ひいては人の姿をした男の性はショウマ以外存在しない。

 これまでの日々の中でキヴォトス全体の概要としてアロナからそう告げられていて、また実際に生活の中でそれを感じてもいたが、この絵画に描かれているのはどう見ても人間の男性である。

 だがツーサイドアップの白髪を見るに、やはりここに描かれているのは女性なのか?

 いやしかし、言っては失礼かもしれないが、こんななりをしている女性が果たしてこの世に存在するものであろうか?

 

「はい。あの髭こそ、レッドウィンターの権威の象徴なのです……お気に召されたのでしたら、幸いです。」

 

 と、そんな奇妙な逡巡が頭の中で起きていたが、トモエの言葉にショウマの脳裏には先にも抱いた懐疑心が再び沸き上がる。

 権威の象徴……そのワードが、レッドウィンターの体制に纏わる1つの噂の真相に拍車を掛けているような気がしたのだ。

 

「会長、先生方をお連れ致しました。」

「うむ、ご苦労だったトモエ秘書室長……我が忠実な右腕よ。褒美として後日、勲章を授けよう。」

「光栄です、会長。」

 

 やがて辿り着いた、会長執務室。

 その扉をトモエが開けば、中に居た人物が……肖像画に描かれていた件の人物がショウマ達を歓迎する。

 

「そして、我がレッドウィンター連邦学園へようこそ、カムラッド……私こそがチェリノである!」

 

 ただしその人物はとても小柄で可愛らしい、全く筋肉質でも強面でも無く、ツーサイドアップの白髪と髭だけが事実であったのだが。

 

「おいら……あ、いや、私はこのレッドウィンター連邦学園の生徒会長であり、環境美化部部長兼書記長兼……清掃部部長兼……。」

 

 後から聞いた話だが、肖像画に描かれているのは将来的にはこうなりたいという願望によって誇張された姿であるらしく、まだそれを知らない当時たる今、ショウマ達が揃って頭の上に?(ハテナ)マークを浮かべる中で、チェリノは先にもトモエが語っていた兼任する役職を言葉の中で並べていくも、その語尻は何故か次第にたどたどしくなっていき……。

 

「えっと……あと……あと何だっけ……?」

「運動部代表、風紀委員長、給食部部長……!」

「それだ!」

『ご自身で把握されていない……!?』

 

 何と最後には人に聞く始末。

 やはり6つもの役職を兼任するのは無理があるのかと内心思う中、それが出来なかったアロナのぼやきにチェリノは目ざとく反応した。

 

「な、何だ今の無礼な発言は!?どこから聞こえた!?」

『えっ!?す、すみません!?』

 

 それまでの態度から一転、まるで罪人でも探すかのように周囲へ視線を巡らせるチェリノ。

 アロナもまさか聞こえているとは思っていなかったのか、慌てた声で素直に白状してしまう。

 

「んん?何だ?カムラッドの持ってる物から……?」

「ごめんね、この中にアロナちゃんっていう子が居るんだ。仲良くしてくれると嬉しいな……あ、因みに知ってるかもだけど、俺は井上 ショウマ、よろしくね。」

 

 再び態度を転じさせ訝しむチェリノに、ショウマはシッテムの箱を見せながら説明をする。

 流石に初対面の相手、それもこの学園の生徒会長の機嫌をこれ以上損ねる訳にはいかない……何せ彼女の機嫌というのは、あの噂にも直結する事でもあるのだから。

 

「お、おお?よく分からんが……まあ良い、今回はカムラッドに免じて許してやろう!だが次は無いと思え!」

『は、はい……すみません。』

 

 幸いショウマの願いは叶い、チェリノはそれ以上の追求をしてこなかった……アロナがまた素直に謝罪をする中で、ショウマは内心ほっと息を吐く。

 先程から話の中に出てきている噂……それはチェリノがこの学園で独裁的な政策を行っているというもの。

 何かしらの、たとえ些細な事であったとしても、失敗を起こした生徒相手に事有るごとに厳しい粛清を行っており、その内容は死よりも恐ろしいものであるらしく。

 それが事実だとするなら、ショウマとしては見過ごせない事である……己が掲げる信念とは、あまりに相容れぬのだから。

 まず本当に噂の通りであるのか、噂通りとして何故そのような事をするのか、考えを改める事は出来ないのか……ショウマがこの学園へ訪れたのには、そんな思惑も有ったのだ。

 

「よし……ところでカムラッド、隣に居る生徒は誰だ?今回他の学園の生徒を呼んだ覚えは無いが……?」

「あ、私はアビドス高等学校の十六夜 ノノミと言います。今日はショウマさんのお手伝いという形で来ました。」

 

 と、チェリノがおもむろにノノミへ視線を向ける。

 ノノミにもその思惑は既に伝えているが故に、彼女はチェリノの事を刺激しないよう柔らかな笑みを浮かべながら自己紹介をする。

 

「そうか……いやなに、あまり他校の生徒が我が校の自治区まで来る事は無いものだからな、少し不審に思ってしまったのだ。今のは私の方が無礼だったな、許して欲しい。」

「い、いえそんな!頭を下げられる程では……!」

 

 するとチェリノはまた態度を打って変わらせ、あまりに素直に頭を下げる。

 その迷いの無い謝罪に、ノノミもショウマも思わず目を丸くした。

 少々身の丈に合っているのか分からぬ尊大な部分が有るものの、間違いを認める時は素直に認める。

 その姿は、噂に聞くような人物とはあまり思えない……やはり噂はあくまでも噂という事であったのだろうか?

 

「それで、今日はどうして俺の事を呼んだの?電話だと詳しい事は教えてくれなかったけど……。」

「うむ、S.C.H.A.L.E(シャーレ)の先生……話は聞いている。連邦生徒会によって新たに設立された組織の長だとな。そして、あらゆる学園の相談事にも耳を傾ける存在であると。」

『では、何かしらお困りの事が?』

「いや、そう言う程の事では無い。今回カムラッドを呼んだのは、我がレッドウィンターの伝統的な祭事に招待したかったからだ。」

「伝統的な祭事……?」

 

 ひとまず話を本題へと進めれば、チェリノは待っていたと言わんばかりにそれに答える。

 そしてその答えが既視感に溢れるものであったとして、ショウマは僅かに首を傾げた。

 

「先生方もご存知かとは思いますが、暦の上ではちょうど一月後に夏至の季節となります。レッドウィンターの環境ではその時期になって漸く雪が溶け初め、新緑が芽吹いてくるのです。」

「それを讃える為に、レッドウィンターでは毎年その時期にイワン・クパーラという夏至祭を開いているのだ!」

 

 トモエも説明に混じりながら語られたのは、イワン・クパーラなる祭事について。

 イワン・クパーラはレッドウィンターに於ける古き良き伝統行事……その為この催しを盛大に開催出来るよう、現在生徒達を総動員して祭りの準備をしているのだとか。

 

「聞いた話だとカムラッド、どうやら先日百鬼夜行の祭り事に参加したそうだな?」

「え、よく知ってるね?」

「うむ、トモエが調べを付けてくれてな。」

 

 祭りと聞いてちょうどその事を思い浮かべていた所を指摘され、ショウマは軽く驚く。

 つい先日の出来事だったというのに何故知っているのか聞いてみれば、チェリノが再び胸を張りながら隣に立つトモエの名を上げた。

 他校の自治区の、しかもまだあまり名も知れていない人物を対象によく情報を集めたものであるが、それは今回のイワン・クパーラの……ひいてはレッドウィンターの今後が関係していたのだ。

 

「先程会長が仰ったように、レッドウィンターはこれまで他校との交流に乏しい環境に有りました。しかし我が校の名声をよりキヴォトス全土へ拡げる為に、今年から少しずつ外政にも力を入れるよう方針が決まりまして……今回先生方をお呼びしたのも、その一環なのです。」

 

 成る程、確かにレッドウィンターはこの特殊な環境故に他の学園と距離が有ると言われてもおかしくはない。

 つまり今回の招待は単なる祭りへの誘いでは無く、レッドウィンターが外との繋がりを得る為の足掛かりにしたいという思惑が有るという事か。

 

「イワン・クパーラも今年は他の自治区の者も対象に含めた一般公開を狙っていてな。勿論我が校の祭事だから基本を揺るがすつもりは無いが、それでも無用ないざこざが有ってはいかん……そこで他校との繋がりが深く、かつ祭り行事に長けているとされる百鬼夜行のお祭りに参加したカムラッドに意見を求めようと思ったのだ!これから準備に取り組んでいる各所を見て回るから、もし何か意見が有れば遠慮無く言ってくれ!」

 

 チェリノがそう言って、まっすぐにショウマを見る。

 そこにあったのは、自分達の学校や伝統をもっと多くの人に知ってもらいたい……その為に経験者の力を借りたいのだという、そんな純粋な願いであった。

 もし彼女が噂で聞いた通りの人物であるならば、そもそも他人に意見を求めるなんて事はしない筈……これは噂の件も白であろうか?

 

「さあ行くぞ、カムラッド!」

「うん。ところでさっきから気になってたんだけど、そのカムラッドって何なの?」

「む?ああ、カムラッドというのは……。」

 

 出会ってから当然のように呼ばれている聞き慣れない呼称に対する疑問を口にしながら、そんな解を微かに見出だしていたショウマ。

 チェリノもその疑問に気前良く答えようとしたのだが……。

 

「うひゃあ!?」

「チェリノちゃん!?」

「大丈夫ですか!?」

 

 突如間の抜けた悲鳴と共にショウマの視界からチェリノの姿が消える。

 一体どこへと見失うも束の間、トモエやノノミが駆け寄った所を見てみれば、何故か盛大に床へ倒れ込んでいるチェリノの姿があって。

 

「いたた……おいトモエ!ここは転びやすいからちゃんとカーペットを整えておくようにと言っただろう!?」

 

 どうやら歩き出した際に足元のカーペットに躓いたらしい……チェリノは露にした憤慨をトモエへと当て付けるが、彼女はそれよりもと言わんばかりに慌てた声を上げる。

 

「チェリノちゃん、髭!お髭が!」

「ん?……えっ!?う、うひゃあ!?おいらの髭が!?」

 

 恐らく転んだ拍子であろう……チェリノの口元にあった白髭が、忽然とその姿を消していたのだ。

 どうやらというか、やはりというか、あの髭は付け髭であったらしい……チェリノは露になった小さな口元をあわあわとさせ、一人称も崩しながら髭が落ちているであろう床面を大慌てで探る。

 

「ちょっ、どこだおいらの髭!?」

「……あ、もしかしてこれですかね?」

「それだ!か、返せ!」

 

 ノノミが見つけたそれをふんだくり、大急ぎで髭を元の位置へ付け直すチェリノ。

 数秒前までの学園の長としての姿と、目の前であたふたとしている少女。

 そのギャップにショウマ達が固まっていると、やがてチェリノはすっくとその場に立ち上がり……。

 

「……ふう、今日も良い天気だなトモエ。そう思わないか?」

「仰る通りかと、会長。」

 

 まるで先程までの騒ぎなど端から起こっていなかったかとでも言うように、彼女はトモエを連れて堂々と廊下へ歩き出していく。

 

『何と言いますか……これまた不思議な方々ですね。』

 

 シッテムの箱から聞こえるアロナの声。

 その感想に、ショウマ達も心の中で静かに同意する。

 同時に、彼等彼女等の中で噂の真相が限りなく白に近付いたのであった……。

 

 

 

 

 

 因みにカムラッドとは、英語で同士という意味である。

 

 

 

 

 

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