キヴォトスに来たおカシな先生   作:ナリカオル

49 / 53
第5話「ダンジョン攻略」

 ミレニアムサイエンススクールの中心にそびえ立つ巨大な塔、ミレニアムタワー。

 学園内に於ける重要施設の殆どがこのタワーの中に居を構えており、そこには当然セミナーの関連施設も含まれている。

 つまりは、差押品保管所もまた……。

 

「くぅ……!?や、やられてしまいました……HPバーが0です……回復の呪文……を……。」

 

 タワーを統括するオペレーションルーム……そこでは今奇妙な騒ぎが起きて、そして終焉を向かえようとしていた。

 井ノ上 アリス、彼女がセミナーに対して突然暴動を仕掛けたのだ。

 

「信じられない……どんな方法で来るのかと思ったら、よりにもよって強行突破だなんて……。」

「この子がアリスちゃんですね?まさかエレベーターの指紋認証システムを突破する為に、無理矢理扉を撃ち破るだなんて……可愛らしい見た目に反して、やる事が大胆ですね。」

 

 20時頃、多くの生徒達がそれぞれの帰路に着いた後、彼女はタワー内部のエレベーターに向けて突如レールガンを発砲。

 その後オペレーションルームまで進攻した所でユウカとノア率いるセミナー役員と交戦となり、人数差を敗因として倒れたのだ。

 

「確認完了……エレベーターのセキュリティロックを直ぐに修理するのは難しそうですね。早急に対応するには、丸ごと取り替えるしか……。」

「ありがとうノア。それじゃエンジニア部に連絡して、新しい物に交換して貰いましょう。」

「了解です。アリスちゃんはどうします?」

「反省部屋に入れるわ。ちょうど今空いてるし……そうだ、あの子の事も探さなくちゃだ……あぁ~やる事いっぱい……。」

「ファイトですよ、ユウカちゃん♪」

 

 しかし奇妙である……何故襲撃してきたのがアリス1人だけなのか?

 同じゲーム開発部の部員であるモモイは?ミドリは?ユズは?

 考えても解けぬ謎に気を引かれながらも、ユウカとノアはアリスを連れて場を後にする。

 その様子を、物陰からじっと窺っていた者の姿が多数。

 

「うう……アリスが連れていかれちゃった……!」

「お姉ちゃん落ち着いて、計画通りでしょ?」

「取り敢えず、1つ目の仕掛けは上手くいった感じかな?マキ、あっちの方は?」

「ちょうど連絡が来たよ。向こうも要請が来たから、予定通りに手を付けるって。」

「なら、一安心といった所ですね。ここで失敗するようなら、アリスちゃんが意味も無く監禁されるだけになってましたから。」

 

 その者達こそまさにモモイにミドリ、ユズ……ヴェリタスのマキにハレ、コタマ。

 そして、所用を済ませて戻ってきたセリカであった。

 全てはセミナーから鏡を取り返す為……彼女達が企てた計画は、既に始まっていたのだ。

 しかし始まった計画に意気込むには、僅かにそれを鈍らせる要素が1つ。

 

「それにしても残念だね……先生、来られないだなんて。」

「ほんと、先生が居てくれたらなー……そしたらこの作戦も100%成功間違い無しだったのに……。」

「無い物ねだりしても仕方ないでしょ?ほら、準備するわよ。」

 

 そう、ショウマ……彼は他に仕事が有ると言って、セリカと入れ変わるように少女達の側を離れてしまったのだ。

 彼が居ないのは純粋に痛手となるが……セリカの言う通り、こればかりは仕方がない。

 

「待っててアリスちゃん……直ぐに助けるから。」

 

 今は目の前の事に集中する……少女達はアリスによって敷かれた第1の布陣を元に、早速行動を開始するのであった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「……成る程、時間をずらして来たか。」

 

 23時ちょうど。

 タワー内部に巡らされている最新鋭のセキュリティシステムが反応し、オペレーションルームへ侵入者の来訪を伝達する。

 

「ノア、状況は?」

「1番ゲート、ポイントA1にて侵入者を確認。外見的特徴からモモイちゃんとミドリちゃんだと推定されます。もう間も無くポイントA2に進入しますが……どうします、ユウカちゃん?」

 

 しかし椅子に座り、閉じていた瞼を開けたユウカに動揺の色は一切見られない。

 彼女には分かっていたからだ……たとえノアから伝えられなかったとしても、タワー内部へ侵入してきた者の正体を。

 

「変わらないわ。お客様へのおもてなしは、メイドの仕事よ。」

 

 故に、彼女は焦らない。

 焦らずに、こちらも敷いた布陣で待ち構えるだけだった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「えーっと、この辺で良いんだっけ?」

「凄く奥の方まで来た感じですが……恐らく間違ってはいないかと。」

 

 薄暗い廊下を進む2人の少女。

 なにぶん明かりに乏しい為手探りの牛歩となってしまっているが、それでも2人は目的の為に歩みを止めない。

 

「ええ、合っていますよ。」

 

 しかしそんな2人の前に、立ちはだかる1人の少女の姿。

 

「こんばんは、良い夜ですね。さて……ゲーム開発部のモモイちゃんにミドリちゃんとお見受けしますが……名前、合ってらっしゃいますよね?」

 

 暗闇の中でもはっきりと分かる、それだけの存在感を放っているメイド服に、掛けている黒縁の眼鏡を上げて直す仕草が非常に上品さを際立たせている、この少女は……。

 

「ま、まさか……C&Cのアカネ先輩……!?」

「あら……一応C&Cは秘密の組織の筈なのですが、何故名前が知られて……?」

 

 室笠(むろかさ) アカネ。

 ミレニアムサイエンススクールが誇る屈指の武力集団、Cleaning&Clearing……通称C&Cの一員だ。

 

「まさかC&Cが警備に付いてるだなんて……もしかして、他のメンバーの皆さんも……!?」

「ええ、各自配置に付いています。ですのであなた達の計画は、もう失敗しているも同然です……お早めの投降をお勧めしますよ?」

 

 その身姿から表向きはメイド部と称されているが、所属している人員は何れも凄腕のエージェントであり、集団内の正装をメイド服としているのも、学園そのものに全身全霊の奉仕をするという忠誠と自信の現れから来るもの……今のゲーム開発部からすれば間違いなく最大級の壁だ。

 

「そんな……。」

「さあ、観念して姿を見せて頂きましょうか?」

 

 その存在に恐れを為したのか、暗闇の中からジリッ……と後退るような音が聞こえる。

 だがそれで良い……ここで戦意が削がれて諦めてくれるのならば、それに越した事は無い。

 少々不本意な所も有るが、こちらの名が知れていた所も大きいのだろう……アカネはそう、己の状況の優勢を疑わなかった。

 

「……予想以上の大物が釣れちゃったね。」

「……え?」

 

 だがそれは、本来エージェントにあるまじきミスであった。

 

「C&Cが警備に付いてるのは予想外でしたが……しかし!作戦はまだ失敗などしていません!」

 

 相手が秘匿している訳でも無く名の知れぬ、故にただ問題児というだけの取るに足らない存在であろうと決め付け、高を括ってしまった……そんな年相応の甘さから来る慢心であった。

 

「どうも~、いや~寮に戻ろうとしてたんだけど道に迷っちゃってさ~、なんて!」

「あ、あなた達は……!?」

 

 隠し持っていたケミカルライトを折り曲げ、発光させる。

 そうして露になった、暗がりの中の2人……。

 

「あなた達はと聞かれたら、説明するのが世の情け!どんな質問にも答えをご提供!エンジニア部の説明の化身、豊見 コトリ!」

「そしてヴェリタスのデジタルアーティスト、小塗 マキだよ!」

 

 その正体は何とモモイとミドリではなく、マキとコトリであった。

 馬鹿な、とアカネは内心焦る……監視カメラでは確かにモモイとミドリの2人がここへ来ていた筈だというのに。

 

〈侵入者を発見。緊急時の為、セミナー専用の各セクションを閉鎖します。〉

「シャッターが……!」

 

 さらには予期せぬタイミングでの隔壁閉鎖。

 内心のみに留めていたアカネの動揺が少しばかり露になる中、マキとコトリはその様子を見ておかしそうに笑っている。

 

「へへっ、仲良く閉じ込められちゃったね~?」

「……いいえ、そんな事はありません。あなた達と違って、私はシステムに指紋登録がされていますから。」

 

 きっと、掌の上で上手く転がせていると思っているのだろう。

 だが彼女達ではこの閉ざされた隔壁から出る事は叶わない……その点、向こうも詰めが甘い。

 

「少々驚かされましたが……そのまま大人しくしていれば、ここでの事は不問にしますから。では、お会い出来て光栄でしたが、私はこれで……。」

 

 アカネはスッ……と隔壁の側に立つ。

 そして指紋認証のパネルに人差し指を当てようとして……。

 

〈駄目アカネ!!それに触れたら……!!〉

「え?」

 

 しかしその瞬間、耳元のインカムから響くユウカの声。

 だが彼女の制止も空しく、アカネの指はパネルへと触れてしまい……。

 

〈データ不一致、未登録の指紋です。セカンドシャッターを作動します。〉

「なっ……!?」

 

 より強固な、第2の隔壁が下ろされてしまう。

 今度は明らかたる動揺を露にしたアカネ……それを見て、マキとコトリが浮かべる笑みがさらに悪戯に塗れたものとなった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「駄目です!シャッターのシステムがハッキングされてます!」

「やられた……まさかヴェリタスとエンジニア部をここまで本格的に仲間に引き入れていたなんて……!」

 

 監視カメラに映る、モモイ(マキ)とミドリ(コトリ)……ヴェリタスがカメラをハッキングして、それぞれ対応した姿として映るよう細工したのだろう。

 そしてシャッター、これはヴェリタスに加えてエンジニア部の仕業だ。

 恐らく破壊されたエレベーターの扉の修理を依頼した際にウイルスか何かを仕込まれたのだろう……どうりで作業がやけに、まるでこうなると分かっていたかのように手早く終わった訳だ。

 

「カメラの設定を初期化!クラウド接続を遮断して、プライベート回線でもう一度写して!シャッター側も設定を初期化して手動操作での対応を!」

「もうやってます!……カメラの更新完了!ユウカちゃん!」

 

 ゲーム開発部がヴェリタスから押収したハッキングツールを奪いに来る事は分かっていた。

 当然自分達のものなのだから、ヴェリタスもゲーム開発部と手を組んで襲撃してくる事も予想は出来ていた……しかしまさか、そこにエンジニア部も加わってくるとは。

 だが考えてみれば、アリスの武器(レールガン)はエンジニア部が製作した物と見受けられる……既に友好関係を築いていた彼女達が協力者もとい共犯者となっていてもおかしな話ではない。

 たとえ事に無関係であろうと、そこにロマンとやらが有れば損得勘定抜きで首を突っ込むのが彼女達なのだから。

 

「って事は、ゲーム開発部の3人は……!」

 

 これは計算していたよりも大事になるかもしれない……ユウカはそれまで保っていた平静を崩し、数有るモニターの中から一点を凝視する。

 最下階から中層までを貫く、エレベーターの入口に。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

〈……という訳で、マキとコトリの事がバレた。合わせてカメラ映像の改竄もね。〉

「ええ、そうみたいね。」

「さっき警報鳴って、シャッターが閉まってたもんね……。」

「ユウカ達はシャッターの正常化に手を取られるだろうし、エレベーターもそう簡単には止められないよう色々仕込んだって言ってたから……うん、ここまでは順調だね。」

 

 エレベーター扉前。

 監視カメラ越しにユウカが悔しく睨み付ける中、モモイ、ミドリ、ユズ、そしてセリカの4人が最上階を目指すべくエレベーターが降りてくるのを待っていた。

 最中にハレから伝えられる戦況を頭に入れながら……しかしその中で、順調に事が進んでいる筈の少女達を恐々とさせる報告が上がる。

 

〈それともう1つ、凄い悪い知らせなんだけど……。〉

「悪い知らせ?」

〈うん。何でか分からないけど、今夜に限ってセミナーの護衛にC&Cが居るの……。〉

「えぇ!?し、C&C!?それってあの……!?」

「よし!!全員回れ右!!退却開始!!」

「はぁ!?馬鹿!ここで退いてどうするのよ!何?そのC&Cっていうのは?そんなにヤバい連中なの?」

「ヤバいなんてものじゃないよ!!C&Cは簡単に言えば他の学校でいう風紀委員会みたいな存在なの!!それもミレニアムの中でも最強の実力派揃いの!!」

 

 言われ、思い出されるはゲヘナ学園の風紀委員会。

 天羽 アコ、銀鏡 イオリ、火宮 チナツ……そして、空崎 ヒナ。

 いずれもそれぞれの分野で突出した才能を持っていて、当時は大いに苦戦させられた……それを思えば成る程、彼女達がこうも尻込むのも分からなくはない。

 

「あー、風紀委員会か……それは確かに厄介ね。」

「厄介なんてものじゃないよ!!C&Cが相手じゃ勝てっこないって!!」

「じゃあ鏡の事は諦めるの?ゲーム開発部の事は?アリスちゃんの事は?」

 

 しかしここで諦めてしまったら、まだ始まったばかりの……そしてこれからの努力が全て無駄に終わってしまう。

 それなのに、強敵の名前を聞いただけで全てを投げ出してしまうのか。

 そんな事をしたらここまで来た自分達の、手を貸してくれたヴェリタスやエンジニア部の、そして何より……。

 

「あの子の頑張りを、無駄にする気?」

 

 静かな声だった。

 けれどその一言で、3人の表情は変わった。

 最初の布石……或いは囮という役目を、アリスは進んで志願した。

 自分が一番適任であるからと、勇者はいつだって先陣を切るものだと、そう言って彼女は一番最初に傷を負う事になったのだ……後に続く自分達が進むべき道を開いてくれたのだ。

 自分達を信じて……ならば、自分達がここで逃げる訳にはいかない。

 

「……ちくしょう格好良いなぁセリカは!!」

「同じ1年生とはとても思えないや……。」

「な、何よ……急に褒めたって何も出ないわよ。」

 

 弱腰となっていたゲーム開発部の面々の姿勢が、元へと正される。

 しかしそんな中で、ユズだけは先程から何かが引っ掛かっているように眉を寄せていた。

 

「でも、どうしてC&Cが護衛を……?それも今日に限って……。」

 

 確かに、とモモイとミドリも同様の事を思う。

 C&Cはミレニアムに奉仕する事を信条としているのだから、そのミレニアムの中枢とも言えるセミナーとは元々信頼関係が結ばれているのであろうし、依頼によって保管所の護衛を行うという事自体は決しておかしな話ではない。

 だが、あまりにもタイミングが良過ぎる……彼女達が普段から保管所の警備を行っている訳ではない事、もっと言えば彼女達がこれまで保管所の警備に当たっていた事が一度も無い事は、既にヴェリタスの調べによって判明している。

 これではまるで、今夜自分達が保管所へ襲撃する事を知っていたかのようではないか。

 

「「「……。」」」

 

 3人が顔を見合わせる。

 正された筈の姿勢が、得体の知れない不気味さによってまた揺らぐ。

 その時だった……重々しい駆動音と共に、エレベーターが彼女達の居る階へと到着したのは。

 チン、とそれまでとは対照的な軽い電子音が鳴り、ゆっくりと扉が開く。

 外装も内装も既製品とさほど変わらない、ともすれば見慣れていると言っても良い程、何の変哲も無い無機質な造り。

 しかし見慣れたものを目にしながら、3人の心はさざ波立って仕方がない。

 

「……エレベーターが来たわ。行きましょう。」

 

 しかしそうだ、それでもだ……今は考えるよりも、先に進むしかない。

 3人は先んじて中に入ったセリカの後に続いてエレベーターへ足を踏み入れる……セリカの瞳が、3人を見て僅かに揺らいで伏せられた事に気付かぬまま。

 扉が閉まり、エレベーターが静かに上昇を始めた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「おお~、最初のやつよりレベルが違う感じのシャッターだね~……さて、どうしよっか?」

「今頃彼女達は誰にも邪魔される事無く保管所で向かっている筈……という訳でアカネ先輩、こうして仲良く閉じ込められたのも何かの縁という事で、親睦を深める為にも楽しい相対性理論の講義でも始めましょうか?」

 

 一方、マキとコトリ、そしてアカネの方はというと。

 マキは新たに閉じられた障壁に興味を示し、コトリはお喋りにでも興じないかと誘っている。

 しかし両者とも裏に思っているのは、アカネに対する時間稼ぎと、彼女がまんまと罠に掛かった事への嘲笑である。

 勘繰るまでもなく分かりやすい、ともすれば見せ付けられていると言っても過言ではない2人の態度を前に、アカネは一度目を閉じインカムへと静かに語り掛ける

 

「……ユウカ。」

〈ええ、仕方がないわ……許可します。〉

「仰せのままに……コールサイン・03(ゼロスリー)からコールサイン・02(ゼロツー)へ、ご(・)奉(・)仕(・)からお(・)掃(・)除(・)への業務変更が命じられました、対応を。コールサイン・01(ゼロワン)……は、繋がりませんね。いつもながらどこで何をしているのやら……。」

「あ、あれ?何か不穏な気配……?」

 

 ゆっくりと眼鏡の位置を直しながら瞼を開き、改めてマキとコトリへ視線を送るアカネ。

 その瞬間、2人の背筋に悪寒が走る。

 先程までとは明らかに違う……口調も、表情も、立ち振る舞いも、特別変わった所は無い。

 それなのに、目の前から感じられる圧だけが、まるで別人のように膨れ上がっていく。

 

「マキちゃんとコトリちゃんでしたか?まずはお礼を……ありがとうございます。C&Cの名がミレニアムの中でも有名になっているという事実、とても誉れ高い思いです。」

「これは……まずいですかね?」

 

 にこりと微笑むアカネ。

 表向き怒っているようには見えない……むしろとても嬉しそうですらある。

 だからこそ、2人は余計に嫌な予感を覚えるのだ。

 

「ええ、とても嬉しいですよ……私達C&Cは学園の為に働く事を何よりの誇りとしておりますから。それが皆さんに認めて頂けているというのであれば、これほど嬉しい事はありません。」

 

 そう言いながら、アカネは1歩、また1歩と2人へ近付いていく。

 その度に2人はその分だけ後ずさって……やがて背後の障壁によって阻まれる。

 

「ですからお礼に……ええ、親睦を深めると致しましょう。」

 

 ぴたり。

 マキとコトリが障壁に背を付けた瞬間、アカネの歩みもまた止まる。

 変わらず微笑みを絶やさず、しかし手には愛銃としている拳銃(ウェルロッド)サイレントソリューションと、強固な盾としても機能する大型のケースを携えて。

 

「大丈夫です、お2人には誠心誠意のご(・)奉(・)仕(・)を約束致しますから。」

 

 2人は悟る。

 今目の前にいるのはそれまで良い様に弄べていた、ただのメイドの格好をした生徒ではない……ミレニアムが誇る武装集団、C&Cの歴としたエージェントであると。

 

「では……始めましょうか。」

 

 そして何より、この状況を作り出した張本人達に、たっぷりとお礼をする気満々である事を。

 

「楽しい楽しい、親睦会を。」

 

 詰まる所、内心物凄く怒らせてしまったのだと……。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「ヴェリタスにエンジニア部、そしてS.C.H.A.L.E(シャーレ)……本当に、よく集めたものだわ。」

 

 正常化した監視カメラの映像を確認するユウカ。

 エレベーターの中にはエンジニア部以上に今回の件と関係無い筈のセリカ(他校の生徒)の姿が在る。

 まさかとは思うが、これ以上の戦力を秘めているなんて事は……。

 

「でもこっちだって、結託してるのはあのC&Cよ?」

 

 何れにせよ、遊びは終わりだ。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

「このエレベーターで行けるのはここまで……それで、向こうの方にもう1つエレベーターが在る……。」

「そのエレベーターを使えば、保管所の在る最上階まで行ける……!」

「シャッターのお陰で向こうの連中は全員隔離出来た筈だし、今このタワーの中を自由に動けるのは私達だけ!勝ったな風呂入ってくる!」

「入る前に鏡とアリスちゃんね!」

 

 エレベーターが停止し、扉が開く。

 次のエレベーターは廊下の先、窓際を回る形でちょうど真反対の場所にある。

 後はそこへ向かうだけ……少なくとも彼女達にはそう見えていた。

 

〈皆気を付けて!!そこから……!!〉

「ん?ハレ先輩?どうしt……?」

 

 突然、無線から響いたハレの声。

 普段の彼女からは考えられないほど切羽詰まったその声音に、モモイが怪訝そうにインカムへ注意を寄せる。

 

「っ!?伏せて!!」

 

 だが咄嗟に不穏な気配を感じ取ったセリカが叫び、全員の頭を下げさせた、その瞬間。

 

「「「ッッッ!?」」」

 

 ズドォンッ!!……と、轟音。

 それはもはや銃声と呼ぶにはあまりにも大きい、階そのものを震わせる程の衝撃だった。

 そして同時に、彼女達の頭上を何かが猛烈な勢いで通過していって……。

 

「うわぁ!?な、な、何!?何かすっごい音したけど!?」

「壁と窓に凄い大きな穴が空いてる……!?」

 

 後から知った話だが、これは対物狙撃用の49㎜弾を用いた対戦車ライフルによる狙撃によるもの。

 そしてミレニアムの中でそれを得物としているのは、ただ1人だけ。

 

〈遅かった……皆大丈夫!?〉

「ハレ先輩!!これって……!?」

 

 何が起きたのか理解出来ず狼狽するモモイ。

 砕けた壁と窓ガラスを見て衝撃を受けているユズ。

 そしてハレに向かって混乱しながら相手の仔細について催促をするミドリ。

 一瞬にして浮き足だったメンバーを嗜める余裕は無く、セリカは通信機越しにこの脅威をもたらした者の名を聞きながら、壁と窓ガラスに開いた弾痕を線で結んだ先の景色に睨みを効かせる。

 

〈C&Cだよ!!そこはもう、カリンの狙撃の範囲内になってる!!〉

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「成る程、筋は悪くない……というより、むしろ良い。」

 

 ミレニアムタワー周辺の建物群。

 その一角たる屋上にて自身の得物たるライフル、ホークアイへ次弾を装填しながら彼女……角楯(かくだて) カリンは今回の獲物についての評価を高く改めていた。

 特にあの獣耳の生徒……先の一撃をほぼ完璧に回避して、しかも他の3人にも同様の行動を取らせる指示能力も有る……明らかに戦い慣れている者だ。

 それに恐らく、彼女はこちらの居場所にももう大体の当たりを付けている……今にもスコープ越しに目が合ってしまいそうな程だ。

 

「他の3人も小さくてすばしっこそうだけど……パターンは読めた。」

 

 あの獣耳の生徒の指示だろう、彼女達は壁や柱に隠れながら少しずつ前進しようとして、窓際へ大々的に姿を表さそうとしない。

 つまりはそういったものを背にして進めば安全と思っているのだろうが……このライフルの破壊力を以てすれば、壁ごと撃ち抜くのは造作も無い事。

 風も少ないし、視界を遮るものも無い……次は当てる。

 

「おっと、そうはさせないよ。」

 

 だがその思考を、まるで読んでいたかのように否定する声が即座に聞こえてきた。

 

「誰だ!?」

 

 まさか、あの獣耳の生徒以外にも既にこちらの位置を把握している者が……それもタワーの外に居たというのか?

 カリンは相手方の対応の早さに驚きながらも、即座にヘイローから副兵装(ハンドガン)を取り出して背後へ振り返る。

 が、振り返った先でカリンは思わず気の抜けたような声を上げてしまった。

 

「これは……?」

 

 何せ振り返った先に居ると思われていた者の姿はどこにも無く、代わりに居た……いや在ったのは、奇妙な形をした機械であったのだから。

 藤の花を思わせる、美しい紫色の流線的な装甲……その下に、あまりにも似つかわしくない黒々とした連装機関銃(ガトリング)を携えて。

 

「なっ……!?」

 

 瞬間、吹かれるガトリングの火。

 咄嗟に主兵装(ホークアイ)をヘイローへ収納して真横へ飛び退くと、先程まで居た場所がものの見事に蜂の巣となっていた。

 

「紹介しよう、エンジニア部の新作……全ての天候に対応可能な2足歩行型戦闘用椅(・)子(・)、雷の玉座……通称雷ちゃんさ。」

 

 再び聞こえる謎の声。

 見れば、屋上と建物内部を隔てる扉の横に誰かが立っている。

 その手に彼女という存在を象徴する大きなレンチを持って、不敵に笑って。

 

「確か、エンジニア部の……いや待て、椅子?椅子なのかそれは……?ガトリングまで撃ってくるそれが……?」

「おや、この雷ちゃんの魅力が理解出来ないかい?それは残念だね……。」

 

 白石 ウタハ……彼女の事はカリンも接点は無いながら多少は知っている。

 しかしその独特な感性については知識外であって、抱いた疑問に至極真面目な顔で以て返された回答に、カリンは何とも言えない表情になる。

 だが、まあ良い。

 180°どころか360°くらい方向性が違う、そんなどう見ても椅子には見えないそれは、今は自身の仕事に於ける障害なのだから。

 

「確かに、凡そ理解は出来ないが……把握は出来た。」

 

 カリンはその奇天烈な椅子……雷ちゃんからの攻撃を誘う為、ゆらりと体を揺らす。

 すると雷ちゃんはその動きに機敏に反応し、再びガトリングを放つ。

 予想通り……カリンは身を捻って攻撃を躱し、ホークアイを召喚して銃底を地に付けるようにして低く構える。

 この距離なら……角度は大体30°か。

 

「雷ちゃん!」

「ふむ、これで貫通しないとは、丈夫に出来てるな……だが同時に、大分欠陥品だという事も分かった。」

 

 再び、周囲に大きく響き渡る程の轟音の下に一撃が発射される。

 放たれた極大の弾丸は雷ちゃんの装甲の側面に下側から直撃……人間で言えばアッパーカットを喰らったに等しき威力に装甲そのものは耐えられたものの、受けた衝撃に関しては耐えきれなかったようで、雷ちゃんは一瞬その機体を宙に浮かせた後に倒れてしまう。

 そして雷ちゃんはどうやら構造上横向きに倒れると自力では立ち上がれないようであり、ウタハが色々と予想外だと言わんばかりの表情でジタバタともがいている雷ちゃんを見る。

 

「残念だが、そんなもので挑んできても無駄だ……私を本気で止めたかったのなら、もっとちゃんとした奇襲を仕掛けるべきだったな。」

 

 こちらも色々と驚かされはしたが、少し虚を突いた位ではエージェントとして鍛えられた自分を倒す事など出来ない。

 念の為わざと視線を外しながらホークアイのタクティカルリロードを行いもしたが、他に手が無いのかウタハは表情をそれまでのものから厳しい見て分かるものへと変えている。

 だからこそ、カリンは自らの優勢を揺るぎないものとして確信していた。

 

「そうだな……しかし私はこれでも3年生だ、それにエンジニア部の部長でもある。」

 

 ウタハはカリンの言葉を否定しなかった。

 むしろ肯定の意さえ示し、そして……笑った。

 

「そんなあからさまなミスを、私がそうそうすると思うかい?」

 

 演技。

 そう知れた直後、遥か頭上から巨大な弾頭がカリンの下へ降り注ぐ。

 

「っ……曲射砲だと!?一体どこから……!?」

「うちのヒビキが、タワーの向こう側からね。」

 

 カリンが言い、そして思った通り、ウタハの持ち得る手はほぼあの椅子(雷ちゃん)しかない。

 奇襲もあれが精一杯……だからカリンを倒せる算段が殆ど無い事はウタハ自身分かっていた。

 だが、戦っているのは自分だけではない。

 

「さて、君がヒビキを狙撃するにはご覧の通り幾つもの壁や天井を貫通させなきゃならない……同じ様に曲射が出来るというのなら話は別だが、はてさて君の得物はそれだけの芸当が出来るものなのかい?私を相手にしながら、そのどちらかが出来る程の技量を君は持ち合わせているかい?」

 

 自分1人では出来なくとも、仲間が居れば。

 ウタハは倒れている椅子を起こし、身を預けながら、再び浮かべた不敵な笑みと共に言い放つ……敢えて言わせて貰おうか、と。

 

「これから君の弾丸が彼女達に当たる確率は、0%だ。」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「狙撃が止んだ……よし、今の内に行くわよ!」

 

 今ハレから連絡が来た……ウタハとヒビキが外の敵の相手をしていると。

 元々外敵の脅威に対応するのはヒビキのみの予定であったが、敵がセミナーの人員ではなくC&Cであろうと予測出来てから曲射砲だけで応戦するのは厳しいと踏み、急遽ウタハも迎撃に加わったとの事だ。

 本来の作戦から崩れた形となってしまったが、そこはケースバイケースであろう。

 

「って、今度は何!?」

「爆発みたいだったけど……まさか!?」

 

 しかし崩れた影響は早くに、そして確実に表れる。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「くうっ……講義はまだ、終わって……!」

「ひーっ、死ぬかと思った……!何そのケース、どんだけ爆弾仕込んでるのさ……!?」

「メイドの嗜み、という事で。」

 

 下層にてアカネの気を引き付けていたマキとコトリであったが、いざ本格的に対峙してみればまるで拮抗する事も無く制圧されてしまった。

 アカネの放った爆弾の影響で障壁も破壊され、マキとコトリも煤だらけになっている中、アカネだけは汚れ1つ身に纏わず優雅に振る舞っている。

 

「思っていたより粘られてしまいましたね……さてユウカ、ゲーム開発部の現在の位置は?」

〈さっきまでカリンが足止めしてたけど、見失ったわ。でも遅かれ早かれ、最上階まで上がるエレベーターの所までやって来る筈。〉

「分かりました、では直ぐにそちらへ向かいま……。」

 

 そこまで口にした、その瞬間だった。

 フッ……と、タワー内部を照らしていた照明が一斉に消えた。

 それだけでは無い……障壁横に設置されている指紋認証のパネルや監視カメラからも同様に光が消える。

 

「っ!?どうしましたユウカ!?ユウカ!?」

 

 さらにはユウカとの通信も途絶して……アカネは僅かに目を細め、周囲を見回す。

 非常灯しか点灯していない、ほぼ完全な暗闇……同時に思い出されるは、確かユウカの通信はオペレーションルーム備え付けのマイクを使っていた事。

 

「まさか、電力そのものを遮断して……!?」

「えへへ……鼬の最後っ屁ってやつ……?」

「いえ、マキさん……この状況では、ただでは転ばぬと表現するのが適切かと……。」

 

 煤だらけの顔でマキが苦笑し、その隣でコトリが同じ意味を含む、どこか得意げな表情を浮かべていた。

 本当にどこまでも……アカネは2人の執念にもはや怒りど忘れて呆れ果ててしまったのであった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「ハレ先輩、この停電って……。」

〈うん、マキやコトリがダウンした時に仕掛けるって決めてたやつ。本当ならここでウタハ先輩が機械を連れてタワー内部に入るっていう算段だったんだけど……。〉

「そのウタハさんは今、外の敵に集中してる……ウタハさんが受け持つ筈だった敵が真っ直ぐこっちに向かってくるわね。」

「急がないと……。」

 

 予定していた策が次々と切られていく……それはつまり、万策尽きるという事態に近付いていっているという事でもある。

 ユズが言った通り、急がねばなるまい……少女達はひたすらに走った。

 幸い窓際はタワー周辺の建物群からの光を受けており、停電している中でも視界に困る事は無い。

 そしてその建物群から襲ってきていた狙撃も、未だ再開される様子は無い。

 ハレが、ウタハが、マキが、コトリが。

 皆が作ってくれたこの僅かな隙を、逃す訳にはいかない。

 

「よし、ここさえ抜ければ……!」

「うん!これで漸く……!」

 

 やがて勢い良く角を曲がった先、薄暗い非常灯の向こうに、目的の物が見えた。

 エレベーター……最上階へと繋がる、タワー内部のもう1つの移動手段。

 ここを確保出来れば、保管所はもう目と鼻の先だ。

 

「お、やっと来たね!」

 

 あと少し、誰もが思ったその時。

 パッ……と、復旧した電気。

 それによって露になる、エレベーターの前に立つ人の姿。

 

「遅かったねー、だいぶ待ってたよ~?」

「あなたは……!」

 

 中も外も、タワーのそこかしこで騒ぎが起きている、そんな緊迫した状況の中では不似合いな明るい声。

 そしてマキやコトリ、ウタハが対峙している者達と同じくメイド服を着用している、そんな彼女の正体は……。

 

「ようこそ、ゲーム開発部の皆!私はアスナ!コールサイン・01の一之瀬(いちのせ) アスナだよ!」

 

 C&Cのエージェント……その1人が、遂に自分達の前に現れた。

 

「まあ、そりゃ居るわよね……ゲームで言うなら階層ボスって所かしら。」

「カイソウ?昆布とかワカメの事?」

「そっちの海藻じゃないわよ!」

 

 ゲーム開発部の3人が声に出さないながらも明らかな動揺を露にしている中、反対にセリカはもはや知ってたと肩を落とす。

 重要区画へ続くほぼ最終地点……その前に何も備えていない筈が無い。

 少し噛み合わない話にツッコミを入れながら、セリカは改めて目の前の少女を見る。

 浮かべているのは屈託の無い、一目で人懐っこいと分かるような笑顔。

 それが少しあの人(ショウマ)に近い雰囲気を感じさせながら、けれどその手にはしっかと武器が握られている。

 

「良く分かんないけど……ま、良いや。じゃあ始めよっか!」

「えっと……念の為に聞くんですけど、何を始めようと……?」

 

 そして恐る恐るなミドリの問い掛けに、ブルパップ方式という一般的な銃器とは違う構造をしているFA-MAS(アサルトライフル)をベースにしたサプライズパーティーのチャンバーチェックを行いながら、変わらぬ笑顔で以て返した意思は……。

 

「勿論、戦闘を!私戦うのだーい好きなんだ!」

「「「ですよねぇぇぇぇぇ!!」」」

 

 彼とは全く違う存在であるとセリカに認識をさせた。

 

「あんた達下がりなさい!!」

 

 瞬間、サプライズパーティーの銃口から幾つもの鉛玉が放たれる。

 腰だめに構えて、敢えて狙いを絞らず全体を攻撃する、所謂牽制射撃……セリカは3人に射程外まで逃げるよう指示を出し、逆に自らは射程内に留まって注意を引き付ける。

 

「エージェントってあれでしょ!?スパイ映画とかでキザな言い回しして、それでスマートに任務をこなすような役の!!それなのにてんでイメージ違いじゃない!!何よこんな堂々とした戦闘狂でエージェントって!!」

「あははっ!酷いなーそんな言い方、私は楽しい事が好きなだけ!」

「それで戦闘選んでる辺りがそうだって言ってるの!!」

「そんな事無いもん!美味しいスイーツ食べたり、気ままに散歩したり、そういうのも楽しいもーん!」

 

 走り、アスナの銃撃を躱していくセリカ。

 弾が切れ、リロードをする瞬間を狙ったセリカの反撃を軽い身のこなしで回避するアスナ。

 口論を交わしながら一進一退の攻防を繰り返す……そんな両者を、ゲーム開発部の3人はあんぐりと口を開けながら見ていた。

 

「しゃ、喋りながら戦ってる……!?」

「しかもあのC&Cのアスナ先輩と……!?」

「セリカって凄いんだね……。」

 

 見ていて分かる、2人の強さの次元の違いが。

 あんな互いに遮蔽物も無い中で走って回って避けて、口論まで交わして……。

 自分達が同じ事をやろうものなら走って回った先で全弾フルヒット、口を開けた瞬間にその口の中に銃弾を捻じ込まれる事間違い無しである。

 これは迂闊に参戦出来ない……3人はそう判断していたが、セリカからすれば直ぐにでも手を貸して欲しい状況であった。

 

「(まずいわね……完全に踊らされてる……!)」

 

 今の戦況は、アスナが流れを掴んでいる……彼女のフルオート射撃による弾幕によってセリカは常に走り回らざるを得ず、リロードによる僅かな隙もセリカの得意分野たる足を止めての狙撃という戦法ではもはや申し合わせているに近い程分かりやすい攻撃である為、アスナには最小限の動きで回避されてしまう。

 とどのつまり、体力勝負に持っていかされている……このままではスタミナが切れて足が鈍った所を狙われて終わりだ。

 ここで援護射撃が有れば、少しは流れを返せるかもしれないが、どうやらあの3人はすっかり気圧されてしまっているようだ。

 

「うーん、中々やるねぇ……じゃあちょっとだけ本気出しちゃおっ!」

 

 どうにかしなければと焦燥するセリカ……だがアスナはそんな彼女をさらに追い立てようと画策する。

 

「ッ……!!」

 

 腰だめに構えて撃っていた姿勢から、備え付けの照準器(アイアンサイト)を使っての射撃に切り替えるアスナ。

 それまで走っていれば避けられた弾丸が、急にセリカの髪や頬を掠め始める。

 

「(こうなったら……!)」

 

 体力勝負に持っていかずとも……そう突き付けられたセリカは、ならばこちらも勝負に打って出ると決める。

 狙いはアスナがリロードを行う時、そこで一気に距離を詰めて至近距離で急所を狙う。

 自身の得意分野をかなぐり捨てた戦法だが、もはやそれぐらいしないと勝機を見出だせない。

 

「(今だっ!!)」

 

 少しずつ、身を削ってでもタイミングを見計らって……そしてアスナが銃撃を止めて弾倉に手を伸ばしたのを見計らい、セリカは全力で地を蹴った。

 後はこのまま最接近して接射を行えば……!

 

「なんてねっ♪」

「なっ……!?」

 

 しかしセリカが銃口を相手の体に密着させて構えようとした瞬間、アスナは調子の良い声を上げると共に銃器を素早く回転させ、セリカよりも速く狙いを付けて……。

 

「ぐうっ!?」

「「「セリカッ!!」」」

 

 発砲。

 弾倉凡そ半分程の斉射がセリカの身を襲い、彼女は堪らず後方へよろめいた後に倒れる。

 

「思い切りが良いねー!でもそれくらいじゃ形成逆転って感じにはさせてあげられないなー♪」

 

 迂闊だった、読まれていたのだ。

 アスナは弾倉にまだ銃弾が残っている状態でわざと射撃を止めてリロードをする振りをする事で、セリカの行動を誘導したのだ。

 セリカは撃たれた箇所である腹部がじくじくと痛むのを手で擦って癒しながら体を起こす。

 強い……本人の戦力自体もそうだが、恐らくエージェントとしての経験であろう判断力も、自分よりずっと上だ。

 まともにぶつかって勝てる相手では無い……ならば。

 

「それじゃ、続き行「タイム!!」……っくよ?」

 

 楽しそうに笑いながら今度こそリロードを行い、再び銃を構え直すアスナ。

 そんな彼女に向かってセリカは反対に銃を下ろし、そして大きく手を挙げた。

 

「ストップ、一旦ストップ……作戦会議するから。」

「作戦会議?」

「そう、このまま私を倒してもきっとつまんないわよ?あの3人そんな戦えるタイプじゃないっぽいし。」

 

 きょとん、と首を傾げるアスナ。

 そんな思いきり訝しまれている中で、セリカは必死に思考を巡らせる。

 まともに戦ってはまず勝てない……それはきっとあの3人を戦力に含めたとしてもだ。

 それでも勝利をもぎ取る為には、下策であろうと手段として切るしかない。

 

「どうせなら、楽しく戦いたいでしょ?」

 

 セリカはそう言って、少しだけ口元を緩める。

 その言葉に対し、アスナは数秒程「うーん……。」と顎先に指を当てながら明後日の方向を見つめ……。

 

「……良いよ!じゃあ5分だけ待ってあげる!」

「ありがと。あんた達、ちょっと……!」

 

 やがてあっさりと承諾した。

 そして言われるが早く、セリカはゲーム開発部の3人を連れて離れた角へと移動する。

 

「聞き入れてくれるんだね、あの人……。」

「それで、どうするのセリカ?勝てる方法有るの?」

「それを今から考えるのよ……少なくとも私1人じゃ無理、あんた達の力が必要よ。」

「いや私達の力って言ったって……!」

 

 こちらの背中を見送ったアスナは終始ニコニコと笑っていた。

 敵を目の前にして作戦会議……普通ならばその隙に制圧出来るこの上無い機会だ。

 だが彼女は攻撃してこない……その事実に、セリカは頭を抱える。

 それだけの余裕が彼女には有るという事なのだから……単純に面白そうだからという私欲を優先出来る程に、互いの戦力差が大きい事を見せ付けられた。

 ならばどうするか、セリカは手始めに自陣営の装備状況を確認する。

 

「(確かこいつらの装備は……。)」

 

 モモイの所有銃はG3(3号軍用小銃)の改造品、ユニーク・アイディア。

 ミドリは同型の銃の狙撃仕様モデルを元にした、フレッシュ・インスピレーション。

 そしてユズは生徒が取り扱う物としては珍しいM320(グレネードランチャー)をベースとしたにゃん's ダッシュ。

 自身も含めて中距離2人に遠距離1人、そして特殊装備1人と、案外悪くない武装構成だ。

 

「因みにあんた達って副兵装(サイドアーム)とかって持ってたりする?」

「ううん、持ってない……。」

「だって私達そんなセリカ達みたいに戦闘狂じゃないから銃2つも持ち歩く理由無いし……。」

「何で私も戦闘狂になってるのよ!」

 

 モモイのちょけた発言にツッコミを入れながら、セリカはさらに深く考え込む。

 何となく、ユズが鍵になると思った。

 グレネードランチャーの攻撃範囲なら、さしものアスナとて大きく動かざるを得ないだろう……しかしそこから先が続かない。

 動かせたとして、追撃はどうする?

 自分が突っ込むか?或いはミドリの狙撃銃の方が1発の威力は大きいだろうから彼女に任せて、自分とモモイは援護に回るか?

 幾つか頭の中で戦略が組み立てられるが、セリカの中でこれだと決められるあと一押しが為されない……どうにも上手くいく未来が見えず、失敗した時の事を考えて躊躇してしまうのだ。

 アビドスではいつもアヤネが作戦を立てていたが、彼女はいつもこんなプレッシャーに耐えていたのだろうか……親友の知られざる心の強さに、セリカは場違いであると分かっていても尊敬の念を向けてしまう。

 

「ねえまだー?私暇になっちゃったー。」

「「「ひぃ!?」」」

「ちょっ!?まだ5分どころか3分も経ってないでしょ!?」

「だってー……。」

「だってじゃない!戻って!もうちょいだから!」

 

 すると角からひょこりとアスナが顔を出してきた。

 セリカがしっしと手で追い払うと、彼女は「はーい……。」と素直に元の位置へ戻っていったが、あの様子からして次に痺れを切らした時には襲ってくる事だろう。

 そもそも最初から外やら下層から敵に狙われているのだ、猶予なんてものは無い。

 

「……あーもう!!うだうだ考えてても仕方がない!!良い、あんた達!?さっきと同じで私が前に出る!あんた達は自分の得意な距離で戦いなさい!」

「ちょっと待ってそれ作戦って言う!?言わないよね!?」

「うるさいわね!!私だって作戦立てるとかそんなのやった事無いんだから!!」

 

 結局、慣れない事に頭を使うものではないとしてセリカは開き直った。

 そしてまさかの出てきた結論が各自頑張るというあまりに身も蓋も無い話だとしてモモイを筆頭にゲーム開発部の少女達は食い掛かるも……。

 

「その代わり!私の事は気にしないでバカスカ撃って良いから!あんた達はあんた達が出来る最善を尽くして!良いわね!?」

 

 その言葉に、3人の心情が変わった。

 確かに身も蓋も無い、言ってしまえば無責任な発言である……だからこそ、覚悟だけは示したい。

 そんなセリカの健気な姿に、3人は心を打たれたのだ。

 

「……分かったよ。」

「うん、やってみる。」

「私も……頑張るから……。」

 

 3人がそれぞれの武器を構える。

 それを確認したセリカは、小さく息を吐いた。

 相手は強い、作戦なんて無い、連携もきっとままならない。

 それでも……勝つ。

 

「よし……行くわよ!」

「おっ、作戦会議終わった?」

 

 セリカの声を合図に、4人一斉に角から飛び出した。

 そして待ちぼうけをしていたアスナも直ぐ様銃を構え直し……。

 

「じゃあ今度は、もっと楽しく遊ぼっか!」

 

 再び、銃声がタワーの内部に響き渡った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。