キヴォトスに来たおカシな先生   作:ナリカオル

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第6話「ラスボス戦」

「差し押さえ品のロボットを全部出して!それをメイド部の命令を聞くようにプログラムを変更して!」

 

 本当は塗装し直して学園内の掃除用ロボットに使おうかと考えていたが、今優先すべきはあの悪戯小僧共の撃退……背に腹は変えられない。

 そんな穏やかでない心情が声に乗りながら、ユウカの指示がオペレーションルーム内に飛ぶ。

 

「アカネ!」

〈承知しました。ロボットも使わせて貰って、改めてゲーム開発部をお掃除します。〉

「ユウカちゃん、シャッターがそろそろ開きそうです!」

「よし……シャッターが開き次第、私達も出るわよ!」

 

 タワー全体の電源を切られた時は思わず机を叩きそうにもなった。

 本当にここまでするものかと……向こうの本気度合いが窺い知れて、だからこそユウカはモニターのある一点を見つめたのだ。

 

「最後の手だけは、切りたくないから……。」

 

 差押品保管所の目の前を映す、監視カメラの映像を……。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「うああっ!?」

「モモイ!?くっ……!!」

 

 再びアスナとの交戦を開始したセリカとゲーム開発部。

 しかし各自最善を尽くすという作戦でもない作戦では、やはり彼女との差は埋められはしなかった。

 

「で、でたらめに強い……!」

「これが、C&Cのエージェントの力……!」

 

 セリカの予想通り、ユズのグレネードランチャーが状況を動かしはした。

 さしものアスナとて、広範囲の爆発と爆風を前には大きく回避せざるを得なかった……だがそこまでだった。

 そこから先の追撃、それが上手く行かなかったのだ。

 モモイとミドリの腕を責める訳では無いが、やはり普段から戦い慣れていない者の撃ち方ではアスナの読みと身体能力を上回れず、逆に返り討ちにされてしまっている。

 やはりここだけでも詳細に詰めておくべきだったかと、セリカは己の思慮の浅さを内心悔いていたが、意外にもアスナから4人に対する評価は高く見られていた。

 

「(思ってたより全然悪くない……あの黒猫ちゃんとか、もしかしてうちのリーダー相手にしても意外と良い線行けるんじゃない?)」

 

 戦法も戦略もまだまだ荒削りな所は有るが、セリカは間違いなく才能というものを持っている。

 事実モモイとミドリの2人の銃撃は軌道やタイミングが分かりやすくて避けられるものの、彼女はそれを読み辛くしていて結構ダメージを貰ってしまっている。

 これでも回避は本気で行っている上であるから、実力に関してはまず疑い様が無い。

 戦術眼に関しても、選んだ戦略そのものはグレネードランチャーで相手の態勢を崩した所を狙うというセオリー中のセオリーであるものの、他2人の攻撃が通用しないと分かれば即座に自分が要になるべく動く所など、全体を見渡せる視野とリーダーシップを既に持ち合わせている。

 もしエージェントとして育てれば、確実に大成する事だろう……着せればメイド服も似合いそうだし、正直今直ぐにでもC&Cへ引き入れたくなった。

 

「(ゲーム開発部の子達も、黒猫ちゃんと違ってお世辞にも強いとは言えないけど……チームワークって言って良いのかな?その点に関しては私達みたいにベテラン級かも……。)」

 

 そして育て上げれば大成するという点では、ゲーム開発部も負けていない。

 今しがた評価した通り、実力に関しては3人共ただのいち学生レベルでしかない……だが連携に関しては話が別だ。

 互いの得意な距離感、苦手な距離感、果ては射線や発砲のタイミングまで……どこまで意識しているのか分からないが、彼女達はそれらを非常に高いレベルで理解し合っている。

 試しに何度か味方への誤射を狙って動いてみたものの、少しでも攻撃範囲に被ろうものなら互いに目配せをして意図を理解し、直ぐにその場から退避しようとする……特殊な訓練も積んでいないであろうにどうやってそこまでの協調性を鍛えたのか、純粋に聞いてみたい所だ。

 仮に彼女達もエージェントとして育てたら、チームという点ではもしかしたら自分達(今のC&C)よりも……。

 

「ふふっ……良いじゃん良いじゃん!」

「うわ、まだあんな笑ってられんの……?とんでもないわね……。」

 

 目の前の敵の秘めたるポテンシャルに、アスナは一層楽しげに笑う。

 しかし彼女の内心を知らぬセリカ達からすれば、その笑顔はただ不気味に映るだけ……こちらはどうにかして一手一手を考えて喰らい付こうとしているのに、彼女はそんな必死さすらも含めて楽しんでいるように見える。

 まさにというか、やはりというか、戦闘狂と呼ぶしかない……そんな事を考えていた時だった。

 

「「「きゃあああっ!?」」」

 

 モモイ、ミドリ、ユズの3人が、殆ど同時に悲鳴を上げた。

 突然の衝撃と響く轟音、そして壁と窓ガラスに開いた大きな弾痕……それはセリカに1つの光景を思い起こさせる。

 

「これって、さっき狙撃された時と同じ……!?」

 

 この場に到着する前、窓際の通路を抜けようとした際に遭遇した、外からの攻撃。

 仲間が対応した事で攻撃は一時止んでいたが、それが再開されたという事は……。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「っ……おっと……どうして私は横になって……?」

 

 意識が浮上して最初に感じたのは、背中に伝わるコンクリートの硬い感触だった。

 続いて、全身を襲う鈍い痛み……どうやら気を失っていたらしい。

 覚えているのは、それまで戦っていたカリンの目付きが変わって、ヒビキの曲射砲が難なく避けられたかと思えば雷ちゃんがまた倒されて、そして彼女の銃器の先がこちらへと向けられて……。

 

「おっと、とはこちらの台詞だな。結構キツい所に当たった筈だけど、思ってたより早いお目覚めだ。」

 

 すると聞こえてくるカリンの声……見れば視界いっぱいに彼女の背中が。

 

「……ごめん、手加減する余裕は無かった。」

「良いさ、腕利きのエージェントである君を本気に出来たという事だ……技術者として、むしろ誇らしい思いだよ。」

 

 ウタハはゆっくりと上体を起こそうとするも、その動きに合わせて体のあちこちから痛みが返ってきて叶わなかった。

 特に酷いのは腹部。

 呼吸するだけでも僅かに響く辺り、どうやら彼女の砲撃をまともに喰らったらしい。

 

「さて……すまないが、少し離れて貰えないだろうか?私を制圧したままにしたいという気持ちは理解出来るが、ちょっと近すぎる気がする。」

「駄目だ、こうしていないとあなたの後輩による砲撃が来る。」

 

 カリンは会話に応じながら、こちらへ視線を向ける事は無い。

 彼女が向けている視線の、そして銃器で狙っている先は、ミレニアムタワー……十中八九、ゲーム開発部であろう。

 

「言っておくが、下手な真似はしない方が良い……余計に体を痛めるだけだし、私も心が痛む。」

「ははっ……心配しなくとも、君のお陰で抵抗する気力は残ってないさ……通信だけしても?」

「内容による。」

「そちらも心配しなくて良い。私がここに居る事自体イレギュラーな事だからね、弄する策も無いさ。」

 

 そう言って、ウタハは天を仰ぐ。

 勝てるとは到底思っていなかった……だが実際に打ちのめされると、中々に来るものがある。

 それは本来の役割を蹴ってまで行った自身の対応がここまで早く破られた事により、彼女達(ゲーム開発部)の手助けとなれたかどうか分からなくなった所も有る。

 

「すまないね、ものの見事に負けてしまったよ……彼女達(ゲーム開発部)に伝えてくれるかい?」

 

 だから通信機へ手を伸ばす……カリンもそれを止めようとはしない。

 そしてウタハは自嘲気味に笑って、通信先のハレに伝えたのだ。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

〈この作戦が失敗したら、それは勝手な行動を取った私の責任……だからその時は私の事を気が済むまで、幾らでも責めてくれって……。〉

 

 通信機の向こうから聞こえてきたハレの声は、とても沈んだものであった。

 自分達の為に、本来の役割すら放り出してまで時間を稼ぎに行ってくれた。

 それが僅かな時間しか保たず、その所為で作戦そのものが無駄に終わってしまうのではないか……そんなウタハの無念が、言葉を通じて彼女に伝染したのだ。

 

「ウタハ先輩……。」

 

 責めるなんて、出来る訳が無い。

 たとえ僅かだとしても、彼女は想定外の事態に誰よりも早く対応し、身を呈して時間を稼いでくれたのだ。

 そしてそれは、あの2人にも……。

 

〈それと、こっちからもう1つ……アカネが途中でセミナーから多数のロボットを受け取って、そっちに向かってる……もう間も無く到着するよ。〉

 

 今頃セミナーに捕まっているであろう、マキとコトリ……彼女達もまた、C&Cというミレニアム最強の生徒の内の1人を相手に恐れず立ち向かってくれた。

 その勇気を、責められる筈が無い……それでもきっと、もしこの作戦が失敗すれば、彼女達は自分の所為だと言うのだろう。

 彼女達の想いが、悔しさが、胸に染み込む。

 

「あははっ!何だか分からないけど、私達が優勢って感じ?」

「……もっと喜んで良いわよ、何せ超優勢だから。」

 

 あまり空気を読んでいないようなアスナの笑い声に、セリカが淡々と答える。

 どう考えても、ここから逆転出来る発想が浮かばない……仲間は何人も倒れ、自分達もまた、目の前の敵に手が届いていない。

 

「でも……まだ失敗した訳じゃない……!」

 

 それでも、彼女達は諦めない。

 仲間達は自分達が前に進むの為の囮という役割を持っていた。

 その役割は、自分達も担っているのだから。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「……!電力遮断……このイベントが起きたという事は……。」

 

 少し遡り、タワー全体の電力が遮断された時。

 セミナーの反省部屋に居たアリスは突然部屋の中が真っ暗になった事に、それまで伏せていた視線を上げた。

 

「把握しました……アリス、脱出します。」

 

 そう、少女達が立てた作戦の目的は、セミナーの保管所から鏡のデータを手に入れる事……それは実質、誰の手によるものでも良いのだ。

 この作戦に於いてアリスが請け負っていた役割は、一番最初に行った暴動だけではない……彼女が捕まったのも、作戦の内なのだ。

 

「ここからのアリスのクエストは……まず非常階段を使い、差押品保管所に向かう事。そして鏡のデータを奪還して、タワーから脱出する。」

 

 アリスは持ち前の怪力で反省部屋の扉を無理矢理こじ開けると、壁に立て掛けていたレールガンを手に取る。

 重たすぎて他へ持っていけないという事でそのままの所持を許されたそれ……思えばどこか不自然な感じもあるが、何にせよありがたい措置であった。

 お陰でこのまま作戦に望める……アリスは早速その為の1歩を踏み出した。

 

「アリス……1人で……。」

 

 しかしその1歩を踏み出した所で、彼女の脳裏に過る仲間達の姿。

 モモイ、ミドリ、ユズ。

 マキ、ハレ、コタマ。

 ヒビキ、コトリ、ウタハ。

 そして、セリカ。

 彼女達だけじゃなく、惜しまれるも作戦に参加出来なかった先生(ショウマ)やアロナの事も思い起こされる……これまで体験してきたゲームのストーリーと合わせて。

 そうしてアリスの胸の中で、1つの疑問が生まれたのだ……本当にそれで良いのかと。

 

「……。」

 

 止まっていたアリスの足が、再び動き始めた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「私達が派手に動けば動く程、アリスちゃんへの警戒は薄くなる筈……!」

「それにもしここで捕まったとしても、謹慎ぐらいだったら監視の目を盗めば、G.Bibleを見ながらゲームを作れる……!」

「んー?何の話ー?」

「あなたには関係無い話よ……さあ、まだまだ私達は戦えるわよ?」

 

 そう、アリスこそ自分達の最後の望み……彼女に鏡を入手させて、タワーから脱出させる。

 その為にも、諦めるという選択肢はここに来ても少女達の間には無かった。

 アリスが鏡のデータを持ち帰る事さえ出来れば、ゲーム開発部はまだやり直せる……少女達はそう、希望を持っていた。

 

「いいえ、もう終わりよ。」

 

 しかしその希望を打ち砕かんとする声が聞こえた……聞こえてきてしまった。

 

「ユウカ……!」

 

 アスナの後方、上層を繋いでいるエレベーターの扉

が音を鳴らして開く。

 そうして中から出てきたのは、他のセミナーの生徒を引き連れてきたノアと……ユウカ。

 

「ふう、やっと着きました……ふふっ、今度こそ本物みたいですね?」

「アカネ先輩……!」

 

 さらにはアカネも多数のロボットと共にこれまで自分達が辿ってきた道を通って、遂に下層からやって来てしまった。

 

「……取り敢えず、ここまで状況を引っ掻き回した事については褒めてあげる。それに関しては本当に驚いたわ……でもこんなありとあらゆる方法を使ってまでなんて、いくらなんでもやり過ぎよ。」

 

 前門からユウカ達、後門からアカネ……挟まれた4人は壁際に身を寄せ合うしかない。

 やがて扉が閉まり、エレベーターが上層へ戻っていくのを背にしながら、ユウカはモモイ達へ語り掛ける。

 その顔には意外にも怒気のような激しいものは見受けられず、まさに呆れたという弛やかな情が一面を占めていた。

 

「ここまで来たら、流石に悪戯なんかじゃ済まされないわよ……1週間の停学、或いは拘禁を覚悟しておきなさい。」

「て、停学!? 拘禁!?」

「1週間って……そんな事になったら……!?」

「ミレニアムプライスに応募出来ない……!!」

 

 しかしそれは単にこの騒動の収拾に奔走して疲れきっているだけなのか……浮かべている面とは相反するような宣告に、モモイ達の顔が表情一瞬で青ざめる。

 もしそんな事になってしまえば、ゲーム開発部で自由に動けるのはアリスだけとなってしまう。

 しかしゲームとは1人だけで作れるものではない……仮に作れたとしても、それは間違いなくミレニアムプライスで入賞出来るような物にはならない。

 そもそもアリスも自由に動けるのだろうか?最初に騒ぎを起こして、それが今回の騒動に於ける初動である事は既に明白で、そして予定通りなら今まさに反省部屋からの脱走という問題行為を犯している彼女だけが、自分達と同じ措置から逃れられるものだろうか?

 

「……今からあなた達に、大事な話をするわね。」

 

 モモイの顔から、先程までの勢いが消えていく。

 ミドリも俯き、ユズも唇を噛み締める……そんな中で一呼吸置いたユウカが更なる言葉を紡ぐ。

 それまで浮かべていた面に、どこか悲しげな色を付け加えて。

 

「お願い、ここで終わりにして……ここで諦めて、素直に自分達の間違いを認めて、投降して。」

「っ……嫌だ!!私達は……!!」

 

 その付け加えた色の通りというべきか……紡がれたそれは決して叱責や命令などではなく、切実さをも感じられるような嘆願であった。

 何故そのような物言いをするのか……その内に含まれているものが分からず、それでも諦めてはいけないという意地からモモイが反射的に声を上げる。

 

「……おかしいと思わなかった?どうして私達(セミナー)がメイド部に保管所の護衛を依頼したか……それも今夜だけ。」

「え……?」

 

 けれどその言葉に、モモイ達の動きが止まる。

 それは自分達も疑問に感じていた所……それをまさか、向こうから言及してくるとは。

 

「実際に差し押さえ品の中には色々危険な物が有るけれど、だからといって普段から彼女達を護衛に付けている訳じゃないわ……今夜だけ、あなた達がヴェリタスのツールを保管所から奪いに来るって分かってたから呼んだのよ。」

「分かってたって……何で……!?」

 

 隣でセリカが次第に苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていくのにも気付かず、3人はユウカに……彼女が紡ぐ言葉に釘付けとなる。

 

「……先生よ。」

 

 そうして明かされた真実は、3人に大きな衝撃を与えるものであった。

 

「先生は今回の件に対して、公平な姿勢を取る事にしたのよ……あなた達と私達両方に対して、均等に力を貸し与えるようにね。」

 

 セミナーに、今夜保管所からツールを奪還する為の作戦を決行する事を伝える。

 その代わり伝えるのは概要だけ……作戦の詳細な内容は語らず、あらかじめ保管所から鏡を移動させたりゲーム開発部の面々を拘束したりといった事前の妨害はしないように釘を刺す。

 後は少女達次第……数刻前、アロナから問われたそれに、ショウマはそう判断を下したのだ。

 

「そしてその情報を私達に提供してくれたのは……。」

 

 言葉を連ねる内に段々と伏し目がちになっていくユウカ。

 そんな彼女が指差したのは、モモイ達3人の横に立つ少女。

 黒猫を思わせる獣耳とツインテールにしている黒髪が特徴的で、時に厳しい合いの手を入れながらもここまで自分達を支えてきてくれた、優しい彼女。

 

「セリカ……?」

 

 ミドリに名を呼ばれた彼女は、ユウカと同じ様にその顔を伏せさせていた……いたたまれなさで溢れて仕方がないといった表情を浮かべながら。

 それがユウカの語る真実に偽りが無い事を示す何よりの証となり、3人の心に大きく暗い影を落とす。

 最初にヴェリタスの下へ向かった時、彼女は用事が出来たと言って一行(パーティー)から離れた……きっとその時にショウマから頼まれてユウカへ情報提供を行ったのだろう。

 

「仕方無いでしょ……ショウマさんにだって、立場とか色々有るんだから……。」

 

 声を漏らすセリカ……その音色には、自分自身にもそう言い聞かせているような響きがあった。

 3人も、セリカの言っている事が分からない訳ではない……それでもやはり、3人は彼女や先生等に裏切られたというような想いを抱いてしまう。

 

「そう、それとセリカさんを責めるのも間違いよ。彼女だって下手をすれば学校間に於ける外交問題に発展するかもしれないのに、それを承知の上であなた達の側に付いたんだから……。」

 

 しかしそうも言われてしまえば、何も言えなくなってしまうではないか。

 分かっている……セリカだって、本当はそんな役回りをしたくなかったという事は。

 ユウカの言う通り、自分達が抱えているもの以上の責が身に降り掛かろうとも、それでも自分達の味方をしてくれている事を。

 

「分かるでしょ?私だけじゃない……ノアにも、セミナーの皆にも、ヴェリタスやエンジニア部やメイド部、セリカさんや先生にだって!あなた達は今皆に迷惑を掛けてるのよ!皆に心配をさせて、悲しい思いをさせてるのよ!私だってあなた達の事を虐めたくて色々言ってる訳じゃない……あなた達にこれ以上無茶も後悔もさせたくないから言ってるのよ!」

 

 捲し立てたユウカの言葉に、3人は反論出来なかった……出来る訳がなかった。

 分かっている……自分達がやっている事が、どれだけ稚拙な行いであるかは。

 視野の狭い、ただ子供が癇癪を起こしているのと同じ程度の話でしかない事を。

 

「だからお願い、ここで終わりにして……ここで、諦めて。」

 

 分かっている、分かっている……ユウカが正しい事を言っているのも。

 彼女が本当は、誰よりも優しく思いやりの有る人だという事も。

 

「お姉ちゃん……。」

 

 モモイは俯いていた……ユウカやセリカのそれ以上に影が差して、浮かべている表情が見えなくなる程に。

 そして弱々しく震わせている体は、今にも手に持つ銃を落としてしまいそうで。

 

「ユズちゃん……。」

 

 ユズもその場でへたり込み、胸元をぎゅっと握り締めている。

 その目元からは弱々しく、けれど大粒となる涙が今にも零れてしまいそうで。

 

「(そっか……ここまでなんだ……。)」

 

 分かっていた……自分達は周りと比べて、幼い精神の集いであるのだと。

 誰もが皆、全てが自分の都合通りになれば良いと一度は思う……やる事、行く道、全てに苦なんて無ければ良いと、そんな子供染みた発想をする。

 でも世の中そんなに甘くなく、必ず目の前に困難を立ち塞がらせて、そこから人は学んでいくのだ。

 何かを為すには、苦しい事や辛い事も経験しなければならないと。

 たとえそれらをどれだけ嫌おうとも、時にはそれらを一身に受け止め、背負わなければならないのだと。

 ただ乗り越えるのではなく、呑み込んで……そうやって人は、大人の味を知っていく。

 自分達はそれを拒んだのだ……呑み込むべき困難を嫌だと言って突っぱねて、どうにか抜け道が無いかと姑息に考えて。

 ゲームでもプレイすればそこで様々な壁に当たって、そこに壁が有る事を……今の自分ではその壁を越えられないと認めて(呑み込んで)、それが有るからゲームの腕や壁を越えてクリアした時の感動が磨かれるというのに、自分達はそれさえも拒んで……そんなの、ゲーマーとしても失格ではないか。

 

「(ここで、終わりにしないと……。)」

 

 分かってしまった……自分達の冒険は、ここまでなのだと。

 我が儘という名のゲームを止めて、子供染みた世界を映す画面から離れる時なのだと。

 そうしてミドリもまた、抱いた諦念によって瞳から色が失われようとして……。

 

 

 

 

 

 でも、やっぱり納得出来ない。

 

 

 

 

 

「この音は……?」

 

 ふと、誰かがそう呟いた。

 耳を澄ませば、確かにそれまでは聞こえていなかった、重々しく機械が動く音が響いていた。

 その音の出所は……上層へと繋がる、あのエレベーター。

 

 

 

 

 

─……ターゲットを確認。

 

 そういえば先程、ユウカ達が降りた後にエレベーターは上へと向かっていた。

 セミナー側の応援であろうか……セリカ達はそう思った。

 しかしユウカ達にそのような予定など無かった……応援を呼んだ覚えは無い、必要な人員は全員ここに居る。

 ……誰か、知らない者が上から降りてきている。

 

 

 

 

 

─魔力充電、100%……!

 

 ところで、こんな言葉を知っているだろうか?

 

 

 

 

 

「っ!?あんた達伏せてッッッ!!」

 

 主役は遅れてやって来る、という言葉を。

 

 

 

 

 

「光よーーー!!」

 

 エレベーターの扉が開いた瞬間、フロアを満たす轟音と閃光。

 それは電磁力によって稼働する、前代未聞の科学によって産み出された超現象。

 

「「「きゃあああああ!?!?」」」

 

 そしてその超現象によって発射された弾頭が、一瞬にしてフロアに居た者達を襲った。

 

「ま、まさか……!?」

 

 何が起きたのか、誰があんな技を放ったのか。

 その答えをセリカはいち早く察して、だからこそ己の目を疑った。

 何せ開ききったエレベーターの扉、その中から現れたのが……。

 

 

 

 

 

「パンパカパーン!勇者アリス、只今参上です!」

 

 井ノ上 アリス、彼女であったのだから。

 

 

 

 

 

「アリスちゃん!?」

「お待たせしました!モモイ、ミドリ、ユズ、セリカ!アリス、復活に成功しました!」

「どうして……アリスちゃんは非常階段から保管所に向かうって話じゃ……!?」

 

 エレベーターの遥か向かいにあった窓ガラスが全損する程の射程と威力を誇ったアリスのレールガン(光の剣:スーパーノヴァ)によって、セミナーやC&Cの面々は軒並みセリカやゲーム開発部の前から吹っ飛ばされた。

 幸い壁際に居たお陰で4人は攻撃の影響を受けずに無傷で済んだが、今はその事実に胸を撫で下ろしている場合ではない。

 何故役割を無視してここへ来たのか……アリスは問われたそれに真っ直ぐな眼差しで以て答えた。

 

「クエストを開始してから、アリスはずっと考えていました……どんなゲームの中でも、主人公達は決して誰かを見捨てて前に進む事はしなかったと。」

 

 割れた窓ガラスから吹き抜ける風に、その長い黒髪を揺らして、両手を腰に当てて、胸を張って。

 

「なので、アリスもそうします!試練は、共に突破しなくては!」

 

 それは今まで自分達が取ってきた行動とは真逆の考えであった。

 誰かが目的を果たせれば良い……だから多少の犠牲はやむを得ない。

 しかしアリスの心は、その総意に異を唱えたのだ。

 仲間が倒れているなら立ち止まる……困っているなら助けて、そして全員で最後まで進む。

 それが、アリスがゲームを通じて学んだ事、そして今の彼女の全てであった。

 

「アリス……。」

 

 モモイの、ミドリの、ユズの、3人の唇が小さく震える。

 先程まで胸の奥を覆っていた諦念、それが一瞬にして吹き飛ばされる……この小さき勇者の存在によって。

 先のやり取りを知らぬが故もある……それでもアリスの限りない純粋さに、3人の心は今、間違いなく救われたのだ。

 

「あ、アスナ先輩……大丈夫ですか……!?」

「大丈夫じゃないよー!あははっ、思いっきり当たっちゃった!何これめっちゃ痛い!頭のてっぺんから爪先まで今1ミリも動かしたくない!」

「ユウカちゃん!大丈夫ですか!?」

「そんな……アスナ先輩と半分以上のロボットを纏めて行動不能に……!?」

 

 と、聞こえてくる幾人かの声。

 アリスの攻撃によって大半の生徒は既に行動不能となっていたが、何人かはまだその限りではないようだ。

 

〈コールサイン02から03へ!今のは一体何だ!?何があった!?コールサイン01とも連絡が取れない!至急応答を!〉

「っ……説明をしている時間は有りません!カリン、直ぐに支援狙撃を!」

 

 まさかこんな、文字通りの一瞬で状況が変わる事になるとは……どうあっても予想出来なかった展開ではあるが、これ以上の瓦解を許す訳にはいかないとして、アカネは唯一今の展開の影響を受けていない仲間に向けて救援を要請する。

 

〈了解した!目標は……ッ!?〉

「カリン!?どうしました!?カリン!?」

 

 しかし返ってきたカリンの声が途中で切れた。

 何度か呼び掛けてみるも、通信は途絶したまま……聞こえてくるのは僅かなノイズ音のみ。

 あまりにも急な静寂……まるで、向こう側でも何か予想外の事態が起きたかのようで。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「ぐあっ……!?」

 

 そんなアカネの予想は、まさに的中していた。

 通信を受けながら目標物の確認を取ろうとしたその瞬間、突然カリンの頭部を強い衝撃が襲ったのだ。

 

「(狙撃だと……!?一体どこから……!?)」

 

 エージェントとしての直感が告げる……今のは敵の狙撃によるものだと。

 しかしゲーム開発部、エンジニア部、ヴェリタスと、この状況で狙撃が出来るような人物に、カリンは心当たりが無かった。

 半ば人質も同然たる存在(ウタハ)が足元に居る中で、見渡しても直ぐに見つからない程の距離から正確にこちらの頭部を狙える程の腕を持つ、そんな存在を。

 当然である……何せ今カリンを狙っているのは、そもそもミレニアムに在している生徒ではないのだから。

 

「タワーの構造上、戦闘は比較的窓際に集中する……外からの狙撃による援護が行われる可能性が非常に高く、だからタワー外周に居るであろう敵狙撃手を撃破して欲しい、ね……流石アロナ、相変わらず頭の切れる事ね。」

 

 まあAIだから当然なのかもしれないけれど、と微笑する彼女は、この騒動の為に先生(ショウマ)が密かに用意した、他校からの援軍。

 相も変わらず素立ちのまま片手で狙いを付ける、そんなハードボイルドな(格好付けてるだけの)振る舞いをしている、その生徒の正体は……。

 

「聞こえるかしら?こちら便利屋68の陸八魔 アル……ショウマさんからの依頼で、これからあなた達(ゲーム開発部)を援護するわ。」

 

 なお内心思っている事は、「(だからって学園の生徒会や実質風紀委員会な奴等とやりあうとは聞いてないわよおおおおお!?!?)」である。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「遅いっての!!あの社長気取りの問題児!!」

「さあ、今です!」

 

 どうやら秘密裏に情報が通っていたらしいセリカは、しかしてその増援に対し感謝どころか声を荒げる。

 そして「もっと早く来れたでしょうに……!!」と愚痴を溢す彼女を置いて、いち早く状況を察したアリスがモモイ達3人に向けて手を差し伸ばす。

 3人は立った、銃を構えた……ユウカの言っている事が正しい事は分かっている。

 でもこのまま諦めても全部終わりなのだから……だったらやれる事を全部やって、それから終わりになりたい。

 でもそれ以上に、やっぱり終わりになんてしたくない。

 

「くっ……これはまずいですね……!」

「あははっ!面白くなってきたね!けどまだ体がびくんびくんしててまともに立てない!」

「ユウカちゃん……!」

「っ……ノアは下がってて!!こうなったら、こっちもとことんやってやろうじゃない!!」

 

 セミナーとC&Cも、態勢を整える始めている……勝機は今しかない。

 

「私が突っ込んで荒らすわ!!トドメは任せるわよ!!」

 

 その場から弾かれたかのように動き出すセリカ。

 狙撃用の調整なんて知った事かと言わんばかりに、彼女は動き出そうとしている生徒やロボットに対して手当たり次第にアサルトライフルの弾を当てていく。

 

「よっこいしょ……ふう、何とか立て「させません!」……た?」

 

 そんなセリカの目を盗んでアスナがよろよろとよたつきながら立ち上がる。

 が、彼女が次に視界に捉えたのは、先程も味わった超現象の再来。

 それも今度は、自分1人に向けて狙いを定められて。

 

「アリス、狙い撃ちます!」

「ひゃあああ!?」

 

 出力50%、だがそれで十分。

 再び放たれたアリスのレールガンによって、アスナの体が宙を舞う。

 

「あっはは!折角立ち上がれたのにまた倒されちゃった!もう駄目ー!私もう本当に立てないや!」

「やりました!アリスの勝利です!」

 

 やがてドサリと床へ落下したアスナ。

 様子は変わらず底無しのような元気さであるが、体を大の字にして横たわらせている姿からは、口にしたように本当に一投足も出来ないのだろう。

 一之瀬 アスナ、撃破である。

 

「アスナ先輩……!!」

 

 自身が体を起こすまでに起きた攻防……その結果を目の当たりにしたアカネは、窮地に陥っている現況を打開する為にケースへ手を伸ばす。

 

「寝ている皆さんには悪いですが……!!」

 

 ケースの中には、まだ大量の爆弾が有る。

 行動不能となったセミナーの生徒達を爆発に巻き込むのは申し訳なく思うが、起死回生を狙うには四の五の言っていられない。

 アカネはケースの蓋を開けて、いざ爆弾を構えようとした……その時。

 

「ううん、巻き込まれるのはアカネ先輩、あなただけです……!!」

 

 聞こえた声に目を向けると、そこには愛銃(にゃん'sダッシュ)を構えているユズの姿が。

 そしてその銃口には、それまでには見られなかった何かのパーツが取り付けられていた。

 黒い銃身とは正反対となる白色の、小さな操舵翼が4つ付いているそれは……。

 

「小型ミサイル……!?」

 

 アカネがその正体を認めた瞬間、銃の引き金を引くユズ。

 その動作に応えて発射されたミサイルは、真っ直ぐアカネの下へと向かっていく。

 だが直線であるのならば、既に視界にも捉えて分かりきっている攻撃……痛む体に鞭打ちながらも、アカネは難無くミサイルの直撃を躱す。

 

「なっ……!?」

 

 しかし躱したミサイルを目で追うと、彼女は思わず仰天した。

 真っ直ぐ飛んで、やがてはどこかの壁にでも激突すると思われたミサイル……しかしミサイルはアカネの視界の先でまさにそうなろうとした瞬間、不自然にもその軌道を変えて再びアカネへと迫ってきたのだ。

 

「隠しコマンド、です……!!」

 

 再び聞こえたユズの声。

 見れば彼女は自身の愛銃、その側面に取り付けられているゲーム機のような物を操作していた。

 そう……普段は他愛無い猫の映像が垂れ流されているそれは、発射された小型遠隔操縦ミサイルのコントローラーも兼ねているのだ。

 そしてゲームによって鍛えられたユズの操作技術は、未だ半開きとなっているケースの隙間に見事滑り込み……。

 

「っっっ……!?」

 

 大きく、なんて言葉では足りない程にケースが爆ぜる。

 その爆発に巻き込まれたアカネは声にならない悲鳴を上げながら、先のアスナに負けない程に宙を舞い、近くの壁へ激突する。

 

「私の取っておき……決まりましたか……?」

「……ええ、お見事です。」

 

 ずり落ちた体には力が入らず、もう碌に身動ぎも出来ない。

 今回の敗因は無名の新入生達を相手に慢心して、徹頭徹尾優雅な振る舞いを崩さないよう務めてしまった事。

 これは心身共に鍛え直しである……アカネはヒビの入った眼鏡が己が身と同様にずり落ちるのを視界に捉えて、自嘲気味に笑った。

 室笠 アカネ、撃破。

 

「ユウカ!!」

「モモイ……この分からず屋!!」

 

 そして最後の名だたる生徒たるユウカの相手は、モモイが務めていた。

 ダメージが尾を引いて体を動かすのが困難なユウカ、元々戦闘が得意ではないモモイ……2人共相手の攻撃を避けようと努力はしているものの、結局はそれがあまり意味を為さずにただ撃ち合っている、そんな泥仕合。

 どちらが先に膝を付いてもおかしくない……ならば当然自分が膝を付かせる側に回る。

 決意したユウカはヘイローへ手を伸ばし、愛銃ロジック&リーズンの片割れを空いている手に召還しようとする。

 ヘイローに収納出来る銃は1つまでというのが生徒間の……ひいてはキヴォトス内の常識であるが、実はこの常識に囚われない事例というものが時折発生する。

 その内の1つが、ユウカのロジック&リーズンのような2丁1対の銃器の扱いである。

 詳しい原理は解明されていないが、極細部まで同一となるようカスタマイズされた銃器ならば2つで1つの銃器であるとヘイローが認識、或いは誤認するというのが有力な説であり、実際ユウカも過去に何十時間と掛けて両銃を改造して得物とした。

 つまりはそれだけ使い手の居ない要素であり、同時に切り札となり得る手段でもある。

 このまま2丁使いである事を明かせば単純な火力アップだけでなく、その珍しさからモモイの虚を突いて精神面でも勝れる効果が期待出来る……完璧な計算である。

 問題は、ユウカが2丁使いであるという事が既に彼女の想像以上に周囲に知られてしまっている点である。

 

「なっ……!?」

 

 ヘイローから銃を召還して構えた矢先、その手を撃たれて銃を落としてしまうユウカ。

 一体誰が狙ったと、計算と違って自分が虚を突かれた事実に狼狽しながら犯人を探せば、見つけたのは目の前の桃色と対を為す緑色。

 

「お姉ちゃん!!」

「よっしゃ突撃ぃー!!」

 

 ミドリの狙撃によって生まれた隙をモモイが貫く。

 ユウカに向かってがむしゃらに突っ走りながら銃を乱射するモモイ……その猛攻にユウカは反撃する暇も無く、身を固くして耐えるしかない。

 

「そして喰らえ!!必殺のぉ……!!」

 

 そしてモモイは撃ちきって空となった弾倉を銃身から外し、そのままぐるぐると腕を回して……。

 

「空の弾倉(マガジン)全力投球ッ!!」

「いっっったぁ!?!?」

 

 ユウカに向けて力の限りに弾倉を投げ付けた。

 

「くっ……ぅ……!!」

 

 真っ直ぐに飛んだ弾倉は、ユウカの額にゴチンと当たる。

 本来なら言う程のダメージとはならないそれであるが、体力を消耗し、2丁使いである事を見破られ、かつこんなふざけた追撃を必殺とも称されながら入れられた事に実傷よりも精神的なダメージが大きく入り、ユウカはやがてがくしと膝を付いた。

 こうして早瀬 ユウカも撃破となり……。

 

「……私達の勝ちね。」

「やった……勝った!!ユウカとC&Cに勝ったぁ!!」

「凄い、凄いよ!!アリスちゃんのお陰だよ!!」

「えへへ……ありがとうございます!ですが、これはクエスト中に発生したボスバトルに過ぎません!」

「そうだね、私達の本当の目的はこの先だもんね……!」

 

 確定した勝利に、ゲーム開発部はそれぞれに歓声を上げる。

 しかしここでの目的は決して勝つ事ではない……自分達の目的は、この先に有る物を手に入れる事。

 いつまでも喜びに浸っている暇は無い……アリスを交えたゲーム開発部は急いで、しかし成し遂げた業にどこか浮き足を立たせながら、上層へ続くエレベーターへ乗ろうとした。

 

「待ちなさい、あんた達……!」

 

 しかし背後から飛んできた声に、4人の足が止まる。

 振り返れば、そこには壁に手を付いて何とか身体を起こそうとしているユウカの姿が。

 見るからに限界まで消耗している彼女であるが、それでもその目だけはまだ死んでいない。

 止めなければならない、それが自身の責任でもあるからと……その眼差しを受けたモモイは、少しだけ俯いた。

 

「ごめんユウカ……ユウカの言ってる事が正しいって事は本当に分かってる……でも、それでも私達は守りたいの……私達の居場所を。」

 

 いつまでも子供のままでは居られない……自分達も少しずつ大人にならなければいけない事も分かったから。

 

「だから……行くね!」

 

 今だけは、子供で居させて。

 その想いを視線で返し、モモイ達はエレベーターへ向かった。

 

「本当に……後悔するわよ……。」

 

 エレベーターへ乗り込むゲーム開発部の4人の背中へ届かぬ声を掛けるユウカ。

 と、そんな彼女の下へセリカが歩み寄ってきた。

 

「ユウカさん……。」

「……私達は大丈夫だから、行ってあげて。」

 

 きっと、あなたの力が必要になるだろうから……。

 そう言って、ユウカは再びゲーム開発部の4人を見やる。

 そして同時に、4人が進もうとしているその先へも。

 

「セリカ!急いで!」

 

 セリカもまた、ユウカと同じ様に……同じ思う所を胸に秘め、しかし4人に呼ばれた事で彼女は一度だけユウカの事を一瞥してからエレベーターへ向かい、やがて上層へと上がっていった。

 

「ユウカちゃん……。」

「ノア……無事?」

「はい……ユウカちゃんに言われて後ろに下がってましたから。」

 

 終わった……課せられていた使命は果たしたとして、ユウカは大きな溜め息を吐く。

 そんなユウカの下に、今度はノアがやって来た。

 

「良かった……じゃあ、お願いしても良い?」

「……はい。」

 

 短いやり取り。

 それだけでノアはユウカの言わんとしている事を理解して、端末で通信を取る。

 

「もしもし……はい、突破されました。今そちらに向かっています……いえ、すみません……私達が至らなかったばかりに……。」

 

 ノアの声には、僅かな悔しさが滲んでいた。

 それはゲーム開発部の少女達を止められず、行かせてしまった事。

 ユウカの想いに十分な力添えが出来なかった事。

 そして……この先に居る者の手を煩わせてしまう事になったが故に……。

 

「では……後はお願いします。」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「うぅ!?この狙撃手、出来る……!!」

「フフッ……狙撃手にとって、焦りを表に出すのは御法度よ?ほんの数㎜の照準のブレで命運が別れる世界なんだから。(いや怖い怖い!?!?向こう一体何の狙撃銃使ってきてるの!?!?さっきから大砲みたいな風圧が襲ってきてるんですけど!?!?)」

 

 一方外の戦況も決着が付きそうになっていた。

 突然の襲撃に見舞われ、ペースを崩されているカリン……故に、周りを見ている余裕なんて無かった。

 

「大変そうだね、エージェント……だが良いのかい?仮にも直ぐ側に居る敵を放置しておいて。」

 

 ふと聞こえた声に視線を向ければ、そこにはいつの間にか伏していた体を起こし、雷ちゃん(手製の椅子)に腰掛けているウタハの姿が。

 

「やってくれ、ヒビキ。」

〈分かった、行くよ!〉

 

 そして彼女が通信機の先に居る者へ向けて合図を送って数秒後、カリンの視界が白色に染まった。

 

「閃光弾!?しまった、視界が……!?」

 

 ミレニアムの夜を一瞬昼間に変えたのかと見紛うような、強烈な光……一時的に目を焼かれたカリンは無防備な姿を晒すしかなく。

 

「……これで王手(チェック)よ。」

 

 アルは離れた場所に居たが故に閃光弾の影響を受けていない……綽々と、カリンの手元を撃って得物から手を離させる。

 

「そしてこれで……。」

〈本当のチェックメイト……!〉

 

 ラスト。

 どこからか取り出したサングラスによって害を逃れたウタハの指示によって撃ち出されたヒビキの曲射砲が、カリンの居た場所である建物の屋上全域を爆破した。

 

「……やられたな。」

 

 黙々と立ち上った黒煙が晴れていき、やがて姿が露になるカリン。

 元々浅黒い肌を爆破の影響によってさらに色濃くさせて横たわっている彼女は、自身の敗北を悟ったが早く仲間へと通信を入れる。

 

「こちらコールサイン・02……すまない、任務失敗だ……ああ、そちらもか……お疲れ様。」

 

 そして話を聞けば、アカネからタワー内部の防衛も遂行出来なかったとも聞かされる。

 まさかここまで完膚無きまでに敗れるとは……もはやいっそ気持ちの良いくらいではないかと、カリンは冗談のような今回の戦果に呆れた笑いを浮かべたのだった。

 

「……って、あそこ確か人居なかった!?大丈夫!?」

 

 そんなカリンの撃破を確認したアルはというと、相変わらず銃口から立ち上る白煙を息で吹き消すなんていかにもな格好を付けていたが、ふと爆発の跡地を見てある事を思い出し、余裕ぶっていた態度を一変させて焦りだす。

 そうだ……名前こそ知らないが、獲物(ターゲット)が居た場所には確かに他に人が居た。

 あの爆撃範囲では、その人も必然的に巻き込まれている筈であるが……?

 

〈先輩、大丈夫!?〉

「大丈夫だよ……いやー、いざという時の為に雷ちゃんにパラシュートとエアバッグを搭載しておいて正解だったね。」

 

 しかし方々の心配は無用であった。

 やはり機能は詰め込めるだけ詰め込むに限る……そんな己の価値観の正当さと、濃厚だった敗北から思わぬ助け船を得ての辛勝という事実に酔いしれるべく、ウタハは戦場となっていた建物下で雷ちゃんの背中から膨らんだ特大のエアバッグ……というよりはもはやエアクッションと呼ぶべき物に暫し思いきり体を預けるのであった。

 

「大丈夫そうね……あー、良かった。」

 

 そんなウタハの無事な姿を確認して、アルは張り詰めさせていた息を1つ吐き出す。

 となれば……と、アルは耳元のインカムに手を当て、ある人物へ通信を繋ぐ。

 

「こちら陸八魔、外の敵は排除したわ。」

〈ありがと、助かったわ。〉

「それで……あなたは今、向かってるのよね?保管所とやらの所に。」

〈ええ、そうよ。〉

 

 それは先程も連絡を取っていたセリカ。

 お互い簡潔に状況を伝え合うだけの短いものであるが、ひとまずはそれだけで十分。

 

「……それじゃ、私の出番はここまでね。」

〈私達が保管所まで向かえる事が確定したら、そこで終了って依頼だったからね。〉

 

 今回の仕事は、あくまでここまで。

 自分が必要とされていたのは、セリカ達が目的地へ辿り着けるまでの補佐……その条件が満たされた今、長居は無用である。

 

「あ、そういえば大将さん元気にしてる?お店まだ続けてるわよね?」

〈何よ急に、気になるなら直接店に来なさいよ……大将も会いたがってたわよ。〉

「そう、なら近い内に顔を出しに行くわ。よろしく言っておいて。」

〈はいはい。その代わり、次来た時はサービス無しだかね?ちゃんと代金払いなさいよ?〉

 

 だが最後に、少しだけ他愛無い会話を挟むアル。

 それが何故かと問われれば……。

 

「それじゃあ……頑張って。」

〈……分かってるわよ。〉

 

 ここから先へと向かう彼女に対して、せめてもの息抜きと激励を送る為であった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「……今誰と話してたの?」

「え?ああ、外に居た助っ人と。仕事は終わったから帰るって連絡……それが?」

「……そうやって私達の知らない所でコソコソ動いてたんだ。」

 

 子供はいつだって偉大な存在だ。

 世界の未来を、明日を担う……故にその存在は守られなければならない。

 

「お姉ちゃん……。」

「言っとくけど、私結構本気で怒ってるんだからね?私達が悪い事をやってるって自覚は有るけどさ、それでも本当に裏切られたなって思った。」

「……悪かったわよ。」

 

 しかし子供は何も知らない。

 物事というのも、善し悪しも……世界が不条理に満ち溢れていて、時にはその不条理に従わなければならない事も。

 そして時にはその不条理に抗い、でもそれはただ抗うだけではいけないという事も。

 人を、世界を、認めさせた上でなければ、それは同じ不条理に呑み込ませているだけだという事を。

 

「だから……全部終わったら、セリカにも付き合って貰うからね?新しいゲーム製作!」

「うん、テストプレイヤーとして夜通し手伝って貰うから……!」

「ゲーム製作だけじゃありません!アリスはセリカと一緒に色んなお菓子を食べながらゲームをプレイしたいです!勿論その時は、先生やアロナも一緒です!」

 

 しかしそれを諭して、それでも従わないという子供が居るのであれば、その子供達を一体誰が止めるべきなのであろうか?

 誰がその子供達に再び教えるべきなのか。

 

「……分かったわ。全部終わって、余裕が有ったらね。」

「余裕が無くても付き合わせるの!強制的に!」

 

 それは、不条理という存在しか居ないだろう。

 たとえどれだけ恨まれようと、憎まれようと……子供達の不条理となるべくを選んだ者しか、居ないだろう。

 

「よし、あと少し!」

「もう少しで……って、あれ……?」

「あそこに居るのは……?」

 

 最上階まで上がり、エレベーターのドアが開いたが早く駆け出すゲーム開発部の4人。

 モモイ、ミドリ、ユズ、アリス……幾つかの角を曲がり、いよいよ差押品保管所の前まで到達した彼女達の目に飛び込んできたのは……。

 

 

 

 

 

「……お疲れ様、皆。」

 

 先生(ショウマ)の姿、であった。

 

 

 

 

 

「凄いね皆、ユウカちゃん達を倒してここまで来れただなんて。」

「先生……?どうして先生がここに……?」

 

 ショウマが目の前に居るという状況に、少女達は最初理解が追い付かなかった。

 彼は別の仕事が有るから来れないと、そう言っていた筈なのに……。

 

「あ、分かった!実はそういう建前で、騒ぎが起きてる間に鏡を手に入れようとしてたんだ!それか仕事バーッて終わらせて、急いでここまで来たとか!それならそうって言ってくれれば良かったのに!さっきセリカにも言ったけど、ユウカ達に今夜の襲撃の事こっそり教えたりとか、そうやって裏でコソコソしてるの、私結構怒ってるんだから……!」

 

 無理矢理納得する理由を探すとなれば、モモイが言ったような事しか思い付かない。

 しかしその予想は大きく外れたものである事を、詰め寄ろうとしたモモイの前でショウマが取った行動によって思い知らされる。

 

「……え?」

「先生……?」

 

 ショウマが、着ている服に手を掛ける

 腹部のチャックを開けて、中のガヴを露出させる。

 ガヴというものがどんなものなのか、それを備えているショウマという存在が何なのか、聞かされていないが故に少女達は知らない。

 しかし、その行為がどういう意味を含んでいるものなのかは知っている。

 

「え、何……どっか敵居る……?」

 

 それは廃墟の探索時に一度目にした、ショウマが敵とみなした者と戦う為に必要な行程。

 変身して、仮面ライダーとしての力を引き出す為の行程……では、その力を振りかざすべき敵とは?

 後ろを見ても、そこには遅れてやって来たセリカぐらいしか居ない。

 

「言ってたでしょ、S.C.H.A.L.E(シャーレ)は公平の姿勢を取る事に決めたって……その為に、お互いに均等に力を貸す事にしたって。」

 

 しかしそのセリカが、答えを知っていた。

 S.C.H.A.L.E(シャーレ)の部員として、彼と同じ場所に籍を置き、故に彼の思う所も聞かされていたが故に。

 

「情報に関してはさっきユウカさんが言ってた通り……だから戦力に関しても同じ。ゲーム開発部側に私ともう1人……じゃあ、セミナー側にもS.C.H.A.L.E(シャーレ)の戦力を与えなきゃ、不公平でしょ?」

 

 セリカの目付きが、次第に鋭くなっていく……それは倒すべき敵を目前とし、それを果たさんとする為の意思表示。

 そんな彼女の視線の先に居るのは……。

 

「……ごめんね、皆。」

 

 ショウマはただ一言だけ、謝罪の言葉を口にした。

 

【チョコ! EAT (イート) チョコ! EAT (イート) チョコ! Hiyaaaaaa(ヒヤァァァァァ)!!】

 

 

 

 

 

【チョコダン! パキパキッ!!】

 

 

 

 

 

「気合い入れなさい、あんた達。」

 

 ミルクチョコレートを食す事によって生まれるゴチゾウ、チョコダンゴチゾウを使って変身した、仮面ライダーガヴ チョコダンフォーム。

 西部開拓時代のガンスリンガーを彷彿とさせる、そんな容姿へと変貌したショウマへ、セリカは銃口を向ける。

 

「これが……ラスボス戦よ。」

 

 そう名付けるには悲しき撃ち合いが、始まった。

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