ゲーム開発部がヴェリタス、そしてエンジニア部と組んで計画した大規模な反乱。
その最後に立ちはだかるのが、真っ先に自分達の相談を聞いて受け入れてくれた
「ぎゃっ……!?」
「お姉ちゃん!?」
そうやって呆けている隙を、ショウマは見逃さなかった。
彼は変身と共に手元に出現した拳銃、チョコダンガンをモモイに向けて構え、発砲。
板チョコのピースを模した弾丸がモモイの額を撃ち抜き、さらに隣に居たミドリの体にも即座に3発当てて怯ませる。
「くっ……!」
先に狙いを付けていた筈なのに先手を取られた……単純に彼の早業が優れていたのも有るだろうが、恐らく自身の逡巡も加えて有ったのだろう
事前に分かっていた状況なのに、彼を相手にする事に抵抗を覚えてしまっていた……セリカは己の不断さに歯噛みしながら銃の引き金を引く。
「ッ……。」
フルオートで放たれるセリカの銃撃。
それは彼女の腕の良さもあり、回避を行ってなお幾つかの弾丸がショウマの体を捉えるが、その銃撃はまるで当時のガンファイターが着ていたポンチョのような形状をしている生体組織チョコダンラングの効果によってダメージが軽減されてしまい、有効打とならない。
反対にショウマのチョコダンガンの威力は、拳銃の中でも最大級の火力を誇る事で有名なデザートイーグルに匹敵する程……特別な防御手段を持たない少女達にとっては非常に脅威となる。
「ユズ!!」
その脅威を、ショウマは次にユズへと定めて襲わせたのだが、それが彼女へ届く事は無かった。
アリスが彼女の前に立って攻撃を防いだからだ。
「大丈夫ですか、ユズ!?」
「アリスちゃん……!」
恐れて体を動かせないユズを、レールガンを盾にして懸命に守るアリス。
しかしレールガンを通して伝わる衝撃が重いのか、はたまたショウマと対峙するという今の状況を未だ呑み込めていないのか、彼女が浮かべている表情はまるで耐えきれないと言うかのように苦しげだ。
「しっかりしなさいあんた達!ショウマさんを倒さないと、この
「で、でも……!」
ユウカの本心、
特にショウマと敵対する事に関しては自分も分かっていてなお先の有り様だったのだから、無理に叩いた所で立ち上がれる訳が無いというのに。
叱咤するつもりで声を上げて、しかし直ぐに失敗したとセリカは悟るしかない。
【チョコ!
少しずつほつれていく、少女達の意志……ショウマはそれを完全なる綻びとし、編まれているものを全て解かんとして、無情にも攻め手を増やす。
【チョコドン!】
「2丁使いも出来る訳ね……!」
開いている手に現れた、チョコダンガンに酷似している白色の拳銃。
ホワイトチョコレートのゴチゾウ、チョコドンゴチゾウによって生成されたチョコドンガンを握り締め、ショウマはその場から跳び出した。
「うっ……わああ!?」
「お姉ちゃ……きゃあっ!?」
「ひぃい!?」
「くっ!?うぅ……!?」
チョコダンフォームの脚部、チョコダンレッグの機能によって強化された瞬発力により、たとえフロア内という閉所の中で火線が集中したとしても易々と捉えられる事の無い運動能力がショウマに与えられる。
それが彼の得意とする接近戦と合わさる事によって、少女達は為す術無く彼が操る2丁のチョコ銃の餌食となってしまった。
「あんた達!!」
唯一餌食にならずに受け流せたのはセリカだけ……仲間も、戦場も、放たれたチョコの弾が溶けてべとりと色 が付いている中で、セリカはショウマの事をキッと睨み付ける。
相変わらず馬鹿みたいに強いものだと……そしてそんなセリカが送っている視線を意に介さずに、ショウマは腰を落とした臨戦の姿勢のまま、少女達へ向けて淡々と告げた。
「どうする?ここで諦めて降参するか……それともこのまま、俺に倒されるか。」
既に少女達の戦意は大きく削がれている……モモイもミドリも、ユズもアリスも、そしてセリカさえも満身創痍。
ここから無理に戦いを続けたところで、彼女達に勝ち目など殆ど残されていない。
だからこそ突き付けた、最後の選択……その答えを最初に口にしたのは、意外にもアリスであった。
「伝説の勇者は……世界の滅亡を止める為に、魔王を倒します……。」
レールガンを支えにして立つ彼女……先程までショウマの攻撃を受ける度に震えていた身体は、今も決して万全ではない。
けれど、その瞳だけは違った。
「アリスは計45個のRPGをやって……勇者達が世界を救うのに必要な、一番強力な力を知りました……。」
これまでアリスが遊んできた数多くのゲーム……剣を振り、魔法を扱う、そんな特別な力を持っていた勇者達。
彼等彼女等の物語を何十回と体験してきた彼女だからこそ、そこで繰り返し描かれていたものを知っている。
「一緒に居る……仲間です!」
レベルアップでも、装備の強化でも無い……勇者達が世界を救えたのは、共に冒険してきた仲間が居たから。
その言葉に、再びモモイは気付かされた……ミドリも、ユズも。
「そうだよ……ここまで来て、諦めるなんて無し……!」
魔王によって支配された世界……それはある意味、魔王なりに敷いた理が世界に定まった事であるとも言える。
決して破ってはならない、その世界に於けるある種の平和……破ればそれは反逆という大罪となり、各地で大きな混乱を招く。
敷かれた理を元にして見れば、魔王を倒さんとする勇者達こそ、世界を脅かす脅威とも言えるのだ。
「ここで諦めたら、皆の期待も……私達の期待も裏切る事になる……!」
しかしそれでも、勇者達は戦った。
知ってか知らずかは分からない……けれど彼等は、彼女等は、魔王を倒した先に拡がる世界こそ誰かが、自分達が望む真に平和な世界であると謳い、魔王が敷いた理を自分達の理へと塗り替えてきた。
それと同じだ……敷かれた
破ろうとするなら、たとえどんな手を使ってでも世界はそれを止めようとする。
しかしそれでも、それでも叶えたい願いが有るのなら……。
「だから……絶対に諦めない!!」
声を張り上げろ。
我を、貫き通せ。
「……分かった。」
ショウマはじっと、少女達の主張を聞いていた……仮面の下の眼差しを僅かに細めながら。
そう答えるであろうと、分かっていたから。
「セリカちゃん、もう少しだけ付き合ってくれる?」
「仕方ないわね……その代わり、しっかり勝ちに行かせて貰うからね?」
再び奮起した少女達4人を見て、セリカも今一度腹を括ったようだ。
ならばこれ以上、掛け合う言葉は何も無い……銃を握り直し、再び場の空気が張り詰め始める。
お互いの吐息の音さえ聞こえる程の静寂に包まれて数秒、やがて天井に付着したチョコが溶け、落ちた雫がピチャリと音を鳴らした瞬間。
「行くわよあんた達!!」
セリカの号令が響き、少女達がそれぞれに動き出した。
ショウマもまた、2丁のチョコ銃を構えながら駆け出し、それに応じる。
「魔力充填、開始します!」
どうやら少女達は隊列を組んだらしい……迫る先陣にアリス、次陣にモモイ。
繋ぎにミドリが腰を据え、ユズとセリカは後方で待機している。
向こうにとっての最高戦力たるセリカを前に出さないとはどういう事か……いや、どんな理由だろうと関係無い。
ショウマはアリスとモモイに向けて2丁の銃を乱射した。
「モモイ!アリスの後ろに!」
再びレールガンを盾にしてモモイを守るアリス。
しかし今回はただ受けるだけではない……受けながら、押し通ろうとしてきている。
「魔力充填……19%……!」
「ぐううう……!!」
目前まで迫ったアリスが、レールガンを横薙ぎに振るう。
受け止めて防ぐのは分が悪いだろう……ショウマはスライディングを行って攻撃を回避した。
同時に横を通り抜けて背後を取った事で、がら空きとなっている2人の背中にチョコの弾丸を発砲。
これで2人は当分ダウンしている筈……次はミドリだ。
「魔力充填、28%……!」
「うううっ……!!」
それでもなお止まらぬアリスの言葉、そしてその中で上昇していく数値に不穏な予感を背中から感じながら、ショウマはミドリの対処を行う。
彼女は懸命にショウマの事を狙おうとしているが、やはり戦闘に不慣れな彼女の腕ではたとえ1発とてそれが叶わず。
しかし逆に撃たれ続けてなお、彼女の瞳に揺らぎは見えない……耐え忍んで、何かを待っている。
「魔力充填、37%……!」
「っ……!!」
と、ミドリの後方から昇る火。
進路をこちらへと向け、地面すれすれを飛んで迫り来るその火の正体は、白色の小型ミサイル。
漏れた声から察するに、発射したのはユズだろう……このミサイル、果たしてどうするべきか。
撃ち落とすか?……いや、迂闊に撃ち落とすと爆風に巻き込まれる可能性が有る。
それに爆発によって生じた煙によって視界が遮られて遅れを取る可能性も……であるならば。
「魔力充填、46%……!」
「なっ……!?」
避ける。
跳んで、体を捻り、素通りしていくミサイルを目で追う。
これであのミサイルはいずれどこかの壁や天井にぶつかって役目を追えるだろう。
上手く行けばモモイやアリスを巻き込む事が出来るかもしれない……そんなショウマの考えは、急速に方向転換してきたミサイルの存在によって覆された。
「魔力充填、55%……!」
「貰いッ!!」
公平性を追求する為、ゲーム開発部の戦力や先に下層で起きた戦闘等の詳細は敢えて聞いていない。
それが災いとなり、ショウマはユズのミサイルが遠隔操作出来るものであると見抜けずに直撃を受ける。
爆発の衝撃と爆風の影響で、ショウマはユズとセリカの頭上を通り越した先で地へと落ちる。
そこからさらにセリカからの追撃が襲い掛かり、チョコダンラングが軒並み欠損してしまった。
「魔力充填、64%……!」
「えいっ!!」
チョコダンラングの破損により、危機感を募らせるショウマ。
そんな彼をさらに追い詰めるべく、モモイとミドリが接近してくる。
そして奇妙にも、ミドリは自身の得物を投げ捨てて足下へしがみ付いてきたのだ。
恐らくスナイパーライフルでは近距離での撃ち合いに弱いからという理由なのだろうが……ならばそもそも近付かなければ良い話だ。
どれだけ振り払おうとも決して回した腕を離そうとしない、その執念の目的は……。
「魔力充填、73%……!」
「どりゃあああ!!」
真横からの銃撃によって直ぐに明かされる。
モモイが周囲をぐるぐると走り回りながら撃ってきているのだ……成る程、確かにこれだけ至近距離ならば不慣れな腕であろうと弾を当てる事が出来よう。
実際ラングを失っている今の状態ではそれでダメージが通っているのだから、悪くはない戦術なのかもしれない。
だからこそ、これ以上はさせない。
「魔力充填、82%……!」
「ッ!!……まだぁ!!」
走り回るモモイの速さと位置を予測し、手元を狙う。
グリップを持つ右手に、銃身を支える左手……2丁のチョコ銃で同時に狙い撃ち、地へと落とさせる。
あとは落とした銃器を拾うないしで無防備となる筈のモモイ自身を撃ち倒せば……というショウマの考えは、落とした銃器に目も繰れずに背中へ飛び付いてきたモモイの行動によって覆された。
「魔力充填、91%……!」
「うぅ……!!」
外れた予想に困惑するショウマの体を、セリカの銃撃が穿つ。
それもこちらの戦力の要たるガヴ器官を集中して狙ってきて……。
いつの間にかユズもミドリと同じ様に空いていた片足へとしがみ付いてきており、彼女達の本命に対する本気度合いを否応にも感じさせる。
「95%……96%……!」
そう、彼女達の本命……それはアリス。
これまで彼女が唱えていたのは、レールガンのチャージ段階。
最大まで出力を高めた一撃で以て、勝負を決める……その為ならば、どんな手を使ってでもこちらの足を止める。
ならばこちらも、本気で決めに掛かろう。
【
ガヴドルを回し、デリカッションを叩く。
その瞬間からチョコドンガンにエネルギーが急速に漲り始め、ショウマはチョコダンガンを捨てて両手で銃を構える。
狙いは勿論アリス……エネルギーのチャージ速度もこちらの方が速い。
彼は躊躇わず、引き金を引いた。
「させるかぁ!!」
「っ……!?」
だが同時に、セリカも行動を起こした。
担いでいた愛用のバッグを、ショウマの射線に重なるように投げて……見事彼が放った弾丸を防いだ。
「97%……98%……99%……!」
そしてセリカの妨害が成功した事により、レールガンのチャージも滞りなく進行し……。
「100%!!」
遂に全開にまで到達した。
「「「いっけえええええ!!」」」
モモイが、ミドリが、ユズが叫ぶ。
今ここで共に倒れても構わない……アリスが、セリカが立っていれば、後は2人が何とかしてくれる。
アリスも3人の覚悟を受け取って、グリップを強く握り、そして高らかに叫ぶ。
「光……!!」
これが決まれば会心の一撃……きっとショウマも倒せて、そしてゲームクリアだ。
「……ごめんね。」
それがゲームの中の話であるならば、だが。
遅れてガヴから告される技名。
合わせて先程ショウマの銃撃を防いだセリカのバッグが……白いチョコの液に塗れたバッグが、床に付着している同色の液溜まりの中へ落ちた瞬間、何とその液溜まりが爆発を起こしたのだ。
「え……?」
そのまま次々と連鎖して爆発していく、白いチョコ液。
そしてその液は、アリスの足下やアリス自身にも塗られていて……。
「きゃあああっ!?」
「アリス!?」
「「アリスちゃん!?」」
例外無く爆発するチョコ液。
まさに今というタイミングでバランスを崩してしまったアリスは、構えていたレールガンをショウマからあらぬ方向へと向けてしまう。
そしてそのまま発射された弾丸は、窓を突き破って明後日の方へと飛んでいってしまって……。
「そんな……。」
絶望に塗れた声音……誰が溢したものかは分からないが、それは少女達全員が心に抱いた感情。
その感情を抱いた事で脆く、弱くなった彼女達を、ショウマは再び躊躇わず仕留めに掛かる。
【チョコダン!
チョコドンガンを捨て、別個体となるチョコダンゴチゾウをガヴへセット。
新しく出現したチョコダンガンを代わりに携え、再び必殺の行程を踏む。
「おおおっ!!」
「「「きゃあああああ!?!?」」」
新たに装甲から生えるチョコダンラング……しかし今回はただ生えただけではない。
より長く、そして液体状に展開し、ショウマは渾身の力を込めて体を捻らせながら跳躍する。
天井ギリギリまで到達した彼を天辺としてドーム状に、かつ渦を巻いてラングが拡がる様は、さながら巨大なチョコレートファウンテン……その回流に、彼へ組み付いていた3人は容易く引き剥がされ、そして流されていく。
「やばっ……!?」
やがて展開されていたラングが、内部で爆発でも起きたかのように辺りへ飛散する。
せめて視界を遮られる訳にはいかない……セリカは飛散したチョコ液が顔に付着しないよう腕で覆い隠して事態を免れるも、この時点で彼女は既に詰みを迎えていた。
覆い隠していた腕を下ろして見た時には、既にショウマは空中で態勢を整えながらセリカへ照準を合わせており……。
「……これで終わりだ。」
「ッッッ……!?!?」
引かれる引き金。
最大限にまで威力の高まった銃撃が、セリカの体を捉えた。
その威力にセリカの体は吹っとび、近くの壁へ思いきり背中を強打する。
その痛みに大きく苦悶し、それでも何とか閉じたくなる視界を開いて見るも、視線を上げた先では既に側まで寄って銃口を向けてきているショウマの姿が。
「……降参。」
「ありがとう……お疲れ様。」
ぺたりと付いた膝の上に銃を置いて両手を上げ、それを認めたショウマも変身を解いて手を差し出す。
その手を借りてセリカは立ち上がり、そして2人合わせて全てが終わった戦場の跡地を見る。
茶色と白のチョコ液が方々に、そして大量に撒かれている……明らかに掃除をするのが大変だと一目で分かり、ユウカ達に対して申し訳無いという気持ちが湧いてくる。
しかしその気持ちが微塵となる程にショウマの心を占めているのは、その中で蹲っている4人の少女達の姿。
希望が潰え、完全に心が折れた彼女達から聞こえる、啜り泣きの声。
「……ほんとにこれで良かったの?」
そんなセリカの問い掛けに、ショウマは一言も返す事が出来なかった……。