キヴォトスに来たおカシな先生   作:ナリカオル

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第6話「黒見 セリカを救出せよ」

「ん……朝か……。」

 

 セリカのバイト事情というささやかな発見と交流から時が過ぎ、また1日が経過した。

 引き続き貸し与えられている教室で朝を迎えたショウマは、昨日と同じ様に近くの水道で顔を洗い、上下合わせて歯を磨いた後に、ポケットの中に入っている特殊な形状のスマートフォン、ガヴフォンを操作する。

 

「……やっぱり、誰とも繋がらない。」

 

 このキヴォトスに、アビドスに来てから、今日でおよそ1週間……仲間達へ向けた連絡は一向に繋がる様子を見せない。

 画面の中のマークが点いている以上、決して電波が無いという事では無い筈なのだが、電話もメールも、仲間達の下へ届いている気配が一切感じられない。

 少女達の推測により、外の世界に在ると仮定されているかの場所とキヴォトスとの間に、何かそういった情報を遮断するような壁でも有るのだろうか?

 それともこれは、外の世界に自身の帰るべき場所は無いという示唆なのであろうか?

 

「キヴォトス、か……。」

 

 グラニュート界、人間界、そしてどちらの世界とも違う別の世界……ショウマは過去に3つの異世界を巡っている。

 その経験から、ショウマはこの世界がそれらの世界と同質のもの……つまり外の世界と呼ばれる場所に、はぴぱれや仲間達は存在しないものだと密かに読んでいる。

 しかしだからといって、少女達のこれまでやこれからの厚意を無駄になるという事は無い。

 

「ここは今までの世界とはちょっと違うみたいだし……。」

 

 実を言うと今まで経験してきた世界はどれも自身にとって見知ったり馴染みの有る要素とすぐに邂逅を果たす事が出来た為、先行きに関してはそれほど困る事が無かった。

 しかしこの世界ではそういった要素とはまだ巡り会っていない……グラニュートとも、純粋な人間ともまだ出会しておらず、代わりに居るのは犬人や猫人等の獣人と呼ばれる存在。

 そして、頭上にヘイローと呼ばれる謎の光輪を浮かべる少女達……。

 これまでが実質普段住まう世界からの延長のようなものであった事を考えると、このキヴォトスという世界は正しく異世界。

 どう振る舞い、どう動くべきか、まだはっきりと定まっていないのだ……そんな中での少女達の意見は、たとえこの先間違いとなる選択だったとしても、現時点では大いなる指標となる。

 

「おはようございます、ショウマさん。今日もお弁当作って来ましたよー☆」

「おっはよー、ショウマさーん。うへ、ノノミちゃん今日はおじさんの分も用意してくれたみたいなんだー♪一緒に食べよっかー♪」

「あ、おはよう2人とも。本当にありがとね、ノノミちゃん。」

 

 大変申し訳無いが、今は甘える他無い……そう考えていると、件の人物達がやって来た。

 ショウマは先日から変わらずノノミが作ってくれた弁当を朝御飯とし、こういう所でも世話になりっぱなしであると、沸き上がってきたさらなる申し訳無さを弁当の中身と共に内へと掻き込む。

 いつか元居た場所へ帰る前に、何かしらの形でこの恩を返したいものだ。

 

「ねえねえ、今日はショウマさんのお話を聞かせてよ。ショウマさんが元々居た場所ってどんな所だったの?」

「確か……はぴぱれ、でしたっけ?何でも屋さんを営んでいらっしゃるとか……。」

 

 そうして3人で机を囲み、やがて食事を取り終えて部屋を移して……すると2人からそんな質問をされた。

 これは、1つのチャンスであろうか?

 

「うん、何でも屋はぴぱれ……俺の大事な、帰る場所なんだ。」

 

 彼女達が興味を持ってくれた事に誠実に応える……ささやかながら、それも恩返しの形となる筈だ。

 そうしてショウマはガヴフォンの画面に1枚の写真を表示させる。

 

「この人達は?」

「えっと、まず俺の隣に居るこの人が、甘根 幸果さん。はぴぱれの社長さんで、行く宛の無かった俺を拾ってくれて、それからずっとお世話になってる人だよ。」

「ちょっと待って、何かいきなり爆弾発言かましてこなかった?」

「行く宛が無かった、ですか?」

「あ、いや……その……ちょっと事情が有って……。」

 

 はぴぱれでの日常の一部を切り取った写真……4人の人物が並んで写っている、その真ん中に自分(ショウマ)と、隣に幸果。

 写真の中で満面の笑みを浮かべている彼女には、いつも助けられてきた……彼女への恩も、まだ全然返しきれていない。

 

「そ、それでこっちに居るのが絆斗!辛木田 絆斗って言って、フリーのライダー……じゃなくて、ライターやってるんだ!はぴぱれの社員って訳じゃないんだけど、知り合ってから色々手伝ってくれてね。」

 

 絆斗は写真の中で、はにかむような笑顔を見せている。

 本当は誰よりも快活に笑う人物だというのに、こういう場面ではいつもこんな調子だ。

 仲間内では年が上の方だから大人振りたいのか、実は意外と恥ずかしがり屋なのか……いずれにしても、少しもったいないと思う。

 そしてそれは、写真に写っている最後の1人にも言える事だ。

 

「で、幸果さんの隣の……こっちの端っこに居るのがラキア。ラキア・アマルガって言って、俺と同じグラ……。」

「「ぐら?」」

「あ、えっと……その日暮らしだった所を俺と同じ様に拾われ……いや、拾われてはいないか……と、とにかく大事な仲間なんだ!」

 

 本当は誰よりも優しい笑みを浮かべられる、仏頂面の彼。

 今は離れた所に居る、という言葉は呑み込んだ……説明するのも複雑でややこしいし、何より言ってしまえば、今の自分は悲しさで心を支配されてしまいそうだから。

 

「うーん、何と言うか……凄く個性的と言うか、謎が多いと言うか……まず初っ端から行く宛が無かっただからねぇ?」

「ご家族の下へ向かうなどはしなかったのですか?」

 

 だからホシノの感想に渇いた笑いを返し、己の心情もろとも誤魔化しを図ろうとしたものの、それはノノミからの問いを前にして無意味に終わった。

 

「家族は……その……。」

「あ……すみません、聞いてはいけない事でしたか……?」

「……ごめん、ちょっとね。」

 

 家族。

 それはショウマにとってどう足掻いても笑顔で語れぬ、禁句にも近い言葉。

 それによって仲間の事とは違う別の意味での悲しみを思い起こしてしまい、軽く俯いてしまうショウマ。

 その憂いた表情を前にした少女2人に、これ以上の詮索という選択肢は無かった。

 

「うーん……やめよう!この話はここでおしまい!それよりも1年生達今日は随分遅いねー?」

「た、確かにいつもならもうとっくに来ている時間ですね……電話してみましょうか?」

 

 井上 ショウマには確かな事情が有る。

 そしてそれが割れ物のように酷く繊細なものであると知った2人は、1年生達にも十分注意するよう呼び掛けなくてはと共通して意に留める。

 そう思えば、その1年生達がまだ登校してくる様子が無い事にふと気が付く。

 

『もしもし……。』

「あ、もしもしアヤネちゃん。その……大丈夫ですか?凄くこう……ふにゃふにゃした声をしてますが……。」

『あれ、ノノミ先輩……?え、待って、今何時……⁉』

 

 時刻は8時45分……たった4人しか居ない学校故に時間に厳酷などという事は全く無いが、それでもこの位の時間帯になれば何だかんだ全員集まっているのが常日頃。

 如何なる理由であれ、これは相当珍しい事態であると、特に何の気も無しにノノミはアヤネへの電話を掛けた。

 

『わ、わあああああ⁉⁉す、すみません‼寝坊してしまいましたぁ‼』

「あ、だ、大丈夫ですよ⁉そんな慌てなくても……!」

『すみません‼いつもならセリカちゃんが起こしに来てくれるのに……‼』

「あー、そういえばそんな事言ってたねぇ……つまりセリカちゃんも今日は寝坊かー?」

「まぁ、たまにはそんな日が有っても良いじゃないですか☆ホシノ先輩、電話で起こしてあげましょう?」

 

 果たしてその理由とは、単なる寝坊である事が判明して。

 如何にも学生らしいトラブル、平和な騒動である。

 銃撃戦なんてものが頻繁に拡げられる物騒な場所ではあるものの、だからこそこうした一時に関しては思わずくすりと笑えてしまう。

 それはショウマにとしても同じ事であるらしく、先程までの憂いた表情から変わった面持ちに、ノノミもつられて更に笑みを溢す。

 

「……うん?」

「ホシノ先輩?どうかされましたか?」

 

 しかしそんな一時も、ホシノの様子の変化によって成りを潜めざるを得なかった。

 

「ホシノちゃん?」

 

 少しずつ、ホシノの纏う空気が変わっていっている。

 ショウマもそれを機敏に感じ取り、ホシノに窺いを立てるも、彼女は電話の先に集中しているのか反応を示さない。

 

「……ごめんショウマさん、私の電話番号教えるからちょっと掛けてみてくれない?」

「え?良いけど……?」

 

 ようやくスマホを耳から遠ざけたホシノであったが、彼女はショウマ達の怪訝な視線に応える事無く、そのままスマホを操作して、自身の電話番号をショウマへ見せる。

 こんな至近距離に居るのに電話を掛けろなどと、一層何があったのかと困惑した思いを隠せないが、今のホシノが纏う空気に有無を言わせぬ圧が有る事を察知し、ショウマは言われるがままに彼女のスマホへ電話を掛ける。

 

「ごめんノノミちゃん、電話代わって……アヤネちゃん、聞こえる?」

『は、はい。何でしょう?』

「確かセリカちゃんの家近かったよね……向かってくれる?ダッシュで、全速力で。」

『えっ⁉は、はい!』

 

 そうして電話を掛けたものの、ホシノは電話に出る素振りを見せない。

 再びじっとスマホを耳に当てて……やがて時間の経過によって電話が繋がらない旨の音声がショウマのガヴフォンから流れると、同じく自身のスマホから流れたそれを聞いたホシノが、まだアヤネと通話を繋げていたノノミからスマホを拝借する。

 

「ホシノ先輩……⁉」

 

 そしてそこから紡がれた台詞が、ノノミとショウマにも徐々にホシノと同じ空気を纏わせる。

 

「思い過ごしってだけなら良いんだけど……。」

 

 今、只事では無い事が起きている。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「……で、結局どうするんだこの女?最初の話だと人質として使うとか言ってたよな?」

「上からの指示待ちだ。取り引きの材料にするならまた色々準備しなきゃいけないしな。」

「もう何時間待たされてると思ってんだよ、昨日の夜からずっとだぞ?……ったく、これだから上流階級ってのは嫌いなんだよ。」

 

 アビドス郊外。

 今ここには、カタカタヘルメット団の大部分の戦力が集結している。

 そしてその目的がただ1人の生徒を拘束するというそれだけなのが、この状況の異質さを同時に物語っている。

 

「(人質……大方私の身柄と引き換えにアビドスを明け渡せとでも言うつもりなんでしょうけど……。)」

 

 そして標的とされているセリカは昨夜の襲撃で失っていた気を既に取り戻しており、今は載せられているトラックの荷台から外の様子を窺っていた。

 

「(アビドス砂漠……ここからじゃ電波が届かないから連絡は無理。抜け出そうにも見える範囲でこの数……隙は無い。)」

 

 荷台はシートに覆われて暗いものの、隙間から僅かに漏れる日の光によって自身の状態と身の回りについても何とか知る事が出来る。

 自身の鞄や愛銃は付近に有る……それさえ手に取れればまだ抗い様が有るが、今は手足を縛られ、口もテープで塞がれている……ここまで何度も拘束を解こうと努力はしたが、いずれも失敗に終わっている。

 

「……上からの指示が来た、()()()()()との事だ。」

「うわぁ、えげつな……いくらこの時期って言っても何日保つやら……。」

「馬鹿、いっそ保たない方が幸せだろこの場合。」

 

 と、外で見張りを担当している団員の会話に変化が。

 ゴミ出しなどと包み隠すように言っているが、その言葉が意味する所は分かっている。

 

「(そっか……私、捨てられるんだ……この砂漠の中に。)」

 

 アビドスの砂漠は天然の禁域……そんな所にこのまま放り出されてしまえば、昼間の暑さで干からびて死ぬか、夜の寒さに凍えて死ぬかだ。

 そうして物言わぬ骸となってしまえば、あとは日がな1日吹き荒れる砂嵐に呑まれて、この砂漠の中へと埋もれるのみ……黒見 セリカという人物が居た、その証全てを消し去ってしまうのだ。

 それでもセリカは闇雲になって動くような真似はしない……きっと、来るべき隙を狙って体力を温存しているのだろう。

 

「(……。)」

 

 だとするならば、今彼女の瞳の中に宿っている、どこか諦念としたような色は一体何なのだろうか?

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「セリカちゃんが居ない⁉」

『はい……家に行ってみたのですが、鍵が掛かっていて……合鍵を持っているので入ってみたんですけど、帰ってきている形跡も無くて……!』

 

 セリカの行方が知れなくなった。

 そんな突然の事態を前にして、アヤネは通話越しに不安な心情を隠さず晒し、ノノミは元来の穏やかな気質を潜め、少しばかり眉を吊り上げている。

 

「……やられた。」

「やられたって……⁉」

 

 そしてホシノも普段の眠たげな様子など一切見せず、その薄く開かれている眼差しは非常に冷たく、見れば思わず萎縮してしまうような感覚を覚えてしまう。

 

「電話がさ、電波の届かない所に有って繋がらないって音声が流れたんだよね。それでさっきショウマさんに電話してもらったら、ただいま電話に出る事が出来ませんの後に留守電の案内になって……ちょっとおかしいよね?バイトしてるから電源を切ってるって可能性はもちろん有るだろうけど、昨日のセリカちゃんの様子からして、あんまり無いかなって。だとするなら……。」

 

 電話の音声案内が機種によって違うという事もそうそう無い筈……となれば後に続く言葉は、このキヴォトスで幾日かを過ごした経験を照らし合わせる事により、ショウマであっても察する事が出来てしまう。

 

『ホシノ先輩見てください!このようなものが……!』

「ん?これは……何かの爆発の跡?つい最近出来たものっぽいけど……。」

 

 と、ここでアヤネから声が上がる。

 どうやら独自に周辺の捜索に出ていた所、何か気になるものを見つけたようだ。

 そうしてノノミのスマホに写し出された画像には、確かに素人目からしてみても何か大きな爆発があったような跡が見られた。

 

『これはセリカちゃんの家から柴関までの通り道……そこから少し外れた場所で発見したものです。爆発の範囲や状跡からして……重機関砲のような兵器による爆撃の跡だと推測されます。』

「重機関砲……そんな兵器の類いをいたずらに使うなんて事は無い。それにこの場所は確か前にカタカタヘルメット団が集まる所だって調べが付いてた場所……決まりだね。」

 

 つまり昨日の夜、バイトを上がったセリカはヘルメット団に襲われ、そして連れ去られたのだ。

 恐らく目的は人質、ひいては少女達への脅迫……大方学校を明け渡せなどの要求の為であろう。

 

「ですが仮に連れ去られたのだとしたら、一体どこへ向かったというのでしょうか?向こうからの連絡が無い事も気になりますし……。」

「1つ心当たりが有る。連れ去って人質に取るにしても、用済みって事で捨てるにしても、ピッタリな場所が。連絡が無いっていうのは確かに気になる所だけど……今はそれよりも、ね?」

『はい!すぐに学校まで向かいます!』

「ごめんねアヤネちゃん、またダッシュをお願いしちゃうけど……そのぶん準備はこっちでやっておくから。」

「はい、任せてください!」

 

 ホシノが心当たりの有る場所というのは、アビドス郊外の砂漠地帯。

 大きく開けた場所であるあそこならば伏兵や罠等を潜ませ辛く、良くも悪くも交渉事を円滑に進めやすい。

 そして砂漠地帯はその近辺であっても電波が著しく悪くなる……状況を照らし合わせれば、セリカの囚われている場所としてほぼ正解であろう。

 それでも広大な土地故に捜索は困難を極めるだろうが……やるしかない。

 

「よし、そしたらショウマさんはここに居て。怪我させる訳にはいかないから……。」

 

 目標は出来た、後は向かうだけ……少女達がその為の準備を始める中、ホシノはショウマに学校に残るよう言った。

 ここから先は確実に、前回以上の荒事となる……巻き込む訳にはいかない。

 

「待って。」

 

 しかしホシノ自身、これは無意味な台詞であったかと言ってから気付く。

 

「……俺も行く。」

 

 だってほら、そう言うと思ったから。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「なぁ、もうこの辺で良いんじゃねぇの?これ以上行ったら昼飯の時間過ぎちまうよ?」

「まだだ。上からは確実にやれと言われてるからな、もう少し奥まで行こう。」

「へーへー、仰せのままに……それにしても、さっきからやけに大人しいよなコイツ?」

「もしかしたらさっきの会話を聞かれてたのかもな……ゴミ出しなんてぼかして言ったが、ここまで来りゃ流石に気付いてるか。」

「助かる見込みが無いから潔く諦めたってか?まぁ自業自得ってやつだな。こうなる前にさっさとアビドスから出ていきゃ良かったものを……。」

 

 強く照りつく日差しの下を、ヘルメット団の車が駆けている。

 砂漠の中を移動しやすいからとトラックから軽車両へ乗り換え、荷物も移し替えて。

 そしてその荷物たるセリカは、いよいよ命の危機が間近に迫っているというのに、それでも一切の抵抗をしなかったのだ。

 その理由が、まさに今言い当てられたものだとして、セリカは図星を突かされたと少しだけ悔しさを滲ませる。

 これでも散々どうにかしようと考えを巡らせ、力を尽くそうとしたものの、その努力は実らずに、とうとうその時が来てしまったのだから。

 しかしキヴォトスで生まれ、アビドスで育ち、いつこういう時が来てもおかしくはないと、既に覚悟は出来ていた。

 たとえここで死んだとしても、学校にはまだ皆が居る。

 親友が、先輩達が、この想いを汲んで、自身の分まで頑張ってくれる筈。

 

「よし、この辺りで良いだろう。」

「はいよ。ほら、お待ちかねの砂風呂の時間だぜ……っと。」

 

 しかしふと、セリカは気付いてしまった。

 

「(人質にするかどうか指示を待ってたって事は、皆にはまだ何も知らされてないって事よね……。)」

 

 もしそうであるならば、今の自分の状況は皆から見て一体どう写るのだろうか?

 どうにも写らないであろう……皆からしてみれば、自分は忽然と姿を消した、ただそれだけなのだから。

 

「(急に居なくなって連絡も途絶えて、私も他の子達みたいに学校を去っていったって思われるのかな……。)」

 

 かつてこのアビドスは、キヴォトス1の規模を誇る学校であった。

 それがこの砂漠による被害で徐々に衰退していき、1人、また1人とこの地を離れていった。

 直接告げた者も居るだろう、連絡でそう告げた者も居るだろう……だが話を聞く限りでは、殆どの者は何も言わずに居なくなっていったのだという。

 もし今のまま死んで消えていったとしたら、自分はその者達と同じだ。

 親友に、先輩達に対する、裏切りとなってしまう……そう、思われてしまう。

 

「(そうやって誤解されたまま、皆に会えないまま死ぬなんて……。)」

 

 

 

 

 そんなの……。

 

 

 

 

「っ……。」

 

 

 

 

 そんなの……。

 

 

 

 

「うぅ……っ……。」

 

 

 

 

 嫌だ。

 

 

 

 

「うわっ!?何だこいつ急に暴れて……!?」

 

 今更ながら、セリカはじたばたともがく……自身を担ごうとしている団員が煩わしそうにするだけだ。

 

「あーもう、大人しくしろ……って、よく見たらすげー泣いてんじゃんこいつ……。」

「無理も無いって。アタシだって正直同情するレベルだし……ほら、さっさと降ろせって。」

「あ、あぁ……んじゃ、まぁ……気の毒にな。恨むんならいつまでもあの学校に居た自分自身を恨めよ?」

 

 セリカの必死の、そして最後となる抵抗も虚しく、その体は砂漠の上へと投げ捨てられて。

 走り去る車の音がやがて聞こえなくなり、1人残されたセリカは直上からの日の光と、その光を照り返す砂漠の熱に晒され続ける。

 

「(暑い……砂漠の中ってこんな暑いんだ……。)」

 

 まだそこまで時間は経っていない筈なのに、もう意識が朦朧とし始めている。

 身動ぎする体力も、どんどんと奪われて……。

 

「(ほんとに……死んじゃう……。)」

 

 口をテープで塞がれている為に声を出す事は出来ないし、仮に出せたとしてもここは広大な砂漠の中……皆が自分を探し出すのは不可能であろう。

 いくら皆であろうとも、求められてもいない助けを拾う事は出来ない。

 声も、言葉も、想いも……届かなければ、言っていないのと同じなのだ。

 

「(やだ……よぉ……こんな……の……。)」

 

 セリカに出来る事は、何も無い……有るとすれば、在りし日の思い出を、走馬灯のように想起させる事だけ。

 皆の姿を、思い起こす事だけ。

 

 

 

 

 

「(アヤネちゃん……。)」

 

 

 

 

 

 大切な、

 

 

 

 

 

「(ノノミ先輩……。)」

 

 

 

 

 

 仲間達の、

 

 

 

 

 

「(ホシノ先輩……。)」

 

 

 

 

 

 あの笑顔を……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(ショウマ……さん……。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─……!

 

 聞こえる。

 微かに残っていた意識が、誰かの声を耳で捉える。

 

─セリ……ちゃ……!!

 

 見える。

 遠退き始めた意識が、誰かの姿を目で捉える。

 

 

 

 

 

「セリカちゃん!!」

 

 

 

 

 

 そしてその誰かを知れた時、限界を迎えたセリカの意識は遂にそこで途切れてしまった……。

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