キヴォトスに来たおカシな先生   作:ナリカオル

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第7話「表の安息、裏の脅威」

 とある一室にて、荘厳なる風貌の機械人(ロボット)が、それまで受けていた連絡……雇用していたカタカタヘルメット団からのそれを静かに切った。

 

「格下のチンピラ如きではこの程度が限界か……骨董品とはいえ、過ぎた玩具まで持たせてやったというのにこのザマとは……。」

 

 連絡の内容は、依頼の失敗を伝えるものであった。

 黒見 セリカの誘拐と排除……話によれば、残りのアビドスの生徒等3人によって手酷くやられたらしい。

 曰く、仲間の危機を目前にしたからか、今までとは比べものにならない程の立ち回りであったとか。

 だが機械人はそんな言い訳がましさに対して気にするような様子を見せない。

 

「となると……目には目を、歯には歯を……上澄みには上澄みを、か。」

 

 要するに、最初からヘルメット団になど期待していなかったのだ。

 本命はここから……そう思いながら、彼は一本の連絡を入れる。

 

「仕事を頼みたい、便利屋。」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「ん……。」

 

 初めに、やけに瞼が重いという感覚があった。

 次に、開けた視界がぼんやりとして不明瞭である事に気付く……どうやら眠ってしまっていたようだ。

 一体いつの間に寝てしまっていたのだろうとセリカはその経緯を思い出そうとするが、寝起き故か働かない頭の巡りでは上手くそれを思い出す事が出来ない。

 そうこうしていると、ようやく焦点の定まってきた視界に映る者の姿が……。

 

「セリカちゃん!良かった……目が覚めたんだね。」

「あれ……ショウマさん……?何で隣に居て……っていうか、ここって……?」

「学校の保健室。セリカちゃん、意識の無い状態で砂漠に捨てられてて……何とかここまで運んできたんだ。」

 

 あぁ、そうだった。

 昨日の夜にヘルメット団に襲われ、囚われ、そして……。

 と、当時の状況を思い返せる程に段々と頭が冴えていく中、セリカは突然はっと何かに気付いて体を起こし近くの窓から外の様子を窺うや、急に脱力して再びベッドへ体を寝かす。

 

「夜……最悪、バイトの時間過ぎてるじゃない……連絡しないと……。」

「それなら電話が来てたから、俺達の方で今日はお休みしますって連絡しておいたよ。だから心配しないで。」

 

 こんな時でもバイトの心配とは、彼女らしいというべきか……ショウマは既にその心配が杞憂である事を告げるも、セリカの面持ちは晴れやかにならない。

 むしろ、より憤ったような表情を浮かべ始めた。

 

「えっと……ごめんセリカちゃん、勝手にスマホ触っちゃって……嫌だったよね?」

 

 やはり勝手に私物を触ったのは駄目だったか?

 そういう思い、誠意を込めて頭を下げるも、次にセリカから発せられた言葉は赦免でも、その反対の言葉でも無かった。

 

「……何で助けに来たのよ。」

「え……?」

「だから……何で助けになんて来たのよ!?どうせまた碌に銃だって持ってなかったんでしょ!?なのに何であんな危ない真似……!?」

 

 今ならはっきりと思い出せる……あの時聞こえた声、そして姿……真っ先に自身の下へ来たのは、ショウマであった。

 アヤネでも、ノノミでも、ホシノでも無く、だ。

 恐らく他の皆はあの場に居たヘルメット団の相手に従事していたが故の采配なのだろうが、それでも彼1人だけを向かわせたのは間違っているとしか言えない。

 

「それは……でも、すぐ側にアヤネちゃんも居たし……。」

「だとしてもよ!!それに……ショウマさんには関係無いでしょ⁉私達の事なんて⁉どうせすぐ居なくなる……余所者だっていうのに、どうして……⁉」

 

 どうやら実際の事実はセリカの想像していたものとは少し違っていたらしいが、それで彼女が己の心情を吼え立てるのを止める理由にはならない。

 本当に分からない……どうして他の皆は自身の救出にショウマを連れていったのか、ショウマは何故それに参加しようと思ったのか。

 すぐにでも元居た場所へ帰りたくて、自分達との関係も顔見知りという程度でしかない彼が、その身を呈してまで自分を助けようとする理由など無い筈だというのに……。

 

「セリカちゃん……。」

 

 ショウマは思い返す。

 募る思いと共に向けられたセリカのそれは、あの時ホシノからも言われた言葉であったと。

 

─ショウマさん……その気持ちは凄くありがたいけど、これは私達の問題だから。ショウマさんの事を悪く言うつもりは無いんだけど、ショウマさんは本来私達とは関係の無い人だから……今回みたいな本当に危険な事には関わらせたくないよ。

 

 あの時、自分もセリカの救出に向かいたいとホシノに願い出た時、彼女は口調こそやんわりと、だが言うべき事ははっきりと口にした。

 彼女の、そして後のセリカの意見は、至極尤もだ……もし逆の立場だとしたら、自分もそう言って聞かせたであろう。

 

「……確かに、俺は余所者だよ。セリカちゃんの言う通り、アビドスで生まれ育った訳でも無いし、帰る方法が分かればすぐにでも元居た場所に帰ると思う。」

 

 だがそれでも、譲れなかったのだ。

 無謀である事は分かっている、余計な心配や迷惑を掛けてしまうであろう事も分かっている。

 それでも誰かの命の危険を前にして、何もせずには居られなかったのだ。

 

「でも……それでもセリカちゃんやアビドスの皆は、ここで出会えた大切な人達だから……助けたいって思いは、皆と変わらないよ。」

 

 あの時、ホシノへの返しとした言葉を、今度はセリカへと告げるショウマ。

 それを受けた彼女は、どうとも言えない表情を浮かべるしかなかった。

 

「何よ……それ……。」

 

 とんだお人好しである。

 おまけに、とんだ傍迷惑でもある。

 でもこれだけ真っ直ぐに伝えられてしまったら、突き放そうにも出来ないではないか。

 ずるい人だ……人の良心に付け込むような物言いを、しかし全くの含み無く言ってきて。

 本当に、嘘偽り無く、真っ当に人を助けたいのだと。

 当時のホシノも、それで根負けしてしまったのだ……そして彼なりに反省している色も確かに見えてしまう為、ショウマの行動についてそれ以上セリカが言える事は何も無くなってしまった。

 

「とにかく、セリカちゃんが無事で本当に良かったよ……ちょっと待ってて、皆を呼んでくるから。」

 

 そうしてショウマはセリカの身を案じて学校に残っている他の少女達にも彼女の無事を伝える為に部屋を出ようとして……。

 

「……ショウマさん!」

 

 セリカから呼び止められる。

 何であろうか……既に扉の前まで向かっていたショウマは、不思議に思いながらも振り返る。

 

「その……。」

 

 いつの間にか体を起こし、ベッドの縁に腰掛けているセリカ。

 目が合った瞬間、恥ずかし気に視線を逸らした彼女が紡ぐ言の葉。

 それにより、ショウマは密かに知りたいと願っていた彼女の本質を知る事になる。

 

「ありがとう……私の事、助けてくれて……。」

 

 ふるりと震える唇から絞り出す、か細き声。

 朱色を帯びた頬に、泳ぐ目線。

 

「それと……ごめんなさい、色々酷い事言って……。」

 

 人に感謝を告げる事、謝る事。

 たとえ気恥ずかしさで言い淀んだとしても、ちゃんと言葉にして相手に伝えられる。

 それが出来るのは、彼女がその人の事を思いやれる、優しい心の持ち主だから。

 そう……彼女もまた、同じだったのだ。

 何も無いと蔑むしかない、それでも生まれ育ったこの場所で生きる人達を、放っておけない……そんな理由だけを真理とする、同じとんだお人好しだったのだ。

 それを知れたショウマの心に、小さな幸せの感情が確かに宿る。

 彼女という人が、優しさが、失われないで良かったと。

 

「ううん、大丈夫。気にしてないよ。」

 

 俺の方こそ、ありがとね。

 そう言い残し、ショウマは今度こそ部屋から立ち去っていった。

 暫くして、セリカは一人深い溜め息を吐きながら、三度ベッドへ身を預ける。

 

「(ありがとう……って、何に対してよ……。)」

 

 本当に分からない……ショウマという人間が。

 彼はこのキヴォトスに於いて、きっと無知で、無力で、無謀な存在。

 それでもお人好しの(自分の心の思う)ままに生きようとする彼は、言ってしまえば馬鹿である。

 自分と同じ、大馬鹿者。

 

「(……今度銃でも見繕ってあげるか。)」

 

 でも……その馬鹿に、彼は本気で居る。

 自分以上に本気で居られる程の何か(決意)を秘めている。

 あんな訳の分からない危なっかしいの……全く、放っておけない。

 

「あーあ……私も私で、案外ちょろいなぁ……。」

 

 知りたいと思ってしまった。

 彼の抱く何か(決意)の正体を……彼という存在を。

 きっと、他の皆と同じ様に。

 そんな安易に移り変わった己の心情に辟易としながらも、彼女の表情は、声色は、それまでと違ってとても穏やかなものとなっていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……‼」

 

 ショウマとセリカの心が打ち解けていた、ちょうど同じ頃。

 アビドスの、どこかの廃墟……そこで傷だらけの体を引き摺りながら荒い息を吐き続けるヘルメット団の構成員が居た。

 この傷は、昼間にアビドスの生徒達が付けたものでは無い……そもそもこの団員は、あの戦いに参加していない。

 この傷を付けた者は、今も自分の事を追って……!

 

「っ!?うわぁぁぁあ!?」

 

 と、目の前に紫色の影。

 気付いた時には既に遅く、団員の腹部に強烈な衝撃。

 既に満身創痍の身体にそれを耐えきれるだけの体力は無く、団員はその場から吹き飛ばされて近くの壁へと打ち付けられる。

 

「ご苦労様、流石ね。」

「あ、アル様のお役に立てたのでしたら、何よりです……!」

 

 団員を追い詰めたのは紫色の軍服のような格好をしている少女であり、その所業は大事そうに腕で抱えている厳つい装飾の(ショットガン)によるものであった。

 しかし彼女はそのような業を為したとは思えないような低身の姿勢でその場から退き、後ろに居た女性に前を譲る。

 

『あー、あー、聞こえるアルちゃん?こっちの方は終わったよ~。』

『こっちも制圧完了したよ、社長。』

「そう、2人共ご苦労様。こっちもすぐに片を付けるわ。」

 

 アル様やアルちゃん、そして社長とも呼ばれた女性が向かってくる。

 その度に女性が履いているヒールの音が、フロアの中に木霊する。

 それはまるで、刻々とこちらの命を削り取っている音のようにも聞こえ、その姿は団員にとっては悪魔(ベリアル)のようにも見えた。

 

「悪く思わないで頂戴、これも仕事の内でね……。」

「し、仕事だって……!?」

「依頼を達成出来なかった貴女達に対する、依頼主(クライアント)からの制裁役……要するにあなた達(ヘルメット団)はクビって事。現時刻を以て、アビドス高等学校の件は私達が引き受けるわ。」

「そ、そんな……お前達は一体……!?」

 

 団員の言葉に、女性はフッと笑う。

 何だかんだと聞かれたら、答えてあげるが世の情け。

 ならばと女性は自身の愛銃を団員へと向け……。

 

「私達は、便利屋68。金さえ貰えれば何でもする……。」

 

 

 

 

 何でも屋、よ。

 

 

 

 

 そう言って、引き金を引いた。

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