シン・ゴジラの逆襲   作:沼の人

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第二話 『逃げるモノ、覆われしモノ』

 アメリカ合衆国ネバダ州・某軍事施設 地下フロア

「この事実を知ったら、大統領はどれほど頭を悩ますかしらね。連日のように続いている地盤陥没の原因が、まさか合衆国にあるなんて知ったら。ただでさえ中間選挙でお忙しい大統領は、さぞご立腹されるんじゃないかしら。まぁとりあえずブロッケン准将、あなたの出世コースはもうなくなったわね。それに加えてまさかUCICまで絡んでたなんて……正直失望だわ。

 いいえネドリー、あなたの言い訳なんて聞きたくない。あなたは正真正銘のマッドサイエンティストという烙印を捺された最低の科学者よ。もうUCICから記録が抹消されることは確定ね。

 は? 史上最高の生命体を作り上げたことには違いない?

 じゃあその代償として、何の罪もない合衆国の国民たちが犠牲になってるのは正義だとでも? ふざけないでちょうだい。今日までに千人以上が死亡、重軽傷者はその倍以上よ。家族や恋人、友人を亡くして途方に暮れている人たちが大勢いるというのに、よくそんなことが言えるわね。あー、私は何で今日グロックを忘れちゃったのかしら。

 目下捜索はしている? じゃあどこにいるか私に教えて下さらない? 戦略兵器開発部長のブロッケン准将閣下。答えられないの? ハァ……まったくナンセンスだわ。口は(わざわい)の元って、私の祖母の国では言うの。だから発言には気を付けなさい准将。

 捜索も何も、陥没事案の時系列を見れば一目瞭然でしょ。その……何だったかしらコードネーム。ああそうAnguirus、それが移動してるルートはすでに分かってる。ニュースにだって報道されてるんだから。ここネバダから西へ向かって、昨日はカリフォルニアのサクラメントがやられた。確実に西へ向かってる。そう西海岸へ。

 ねぇ、アレは泳げるの? もしそうなら海軍にも連絡しないといけないわ。見つけ次第駆除してもらわないと。

 ……何を寝言を言ってるのネドリー! 捕獲を優先すべきだなんて、よくそんなことが言えたわね。あなたはもう研究主任ではない、解任の上で当面は当局の管理下に置かれる。ここは自由の国だけど、あなたにはもう自由はないのよネドリー。洗い(ざら)いすべてを話しなさい。

 いいこと、この国が国費を投じて、しかも大統領にも秘密にしたまま、巨大な生物兵器を開発したことがどれだけのスキャンダルか、分かってる? まったく、これだけ優秀な頭脳が揃っていながらそのことに気づかないなんて、バカとしか言いようがないわ。恥を知りなさい恥を!

 え、何よサム。……ああ、分かったわ。代わるから貸して」

 カヨコ・アン・パタースンは秘書からスマホを受け取った。

「もしもし代わったわ、パパ」

『何か分かったのか』

「ええ、色々とヤバイことがね。大統領に報告するのが嫌なくらい」

『まぁ、包み隠さず大統領に尽くすのが補佐官の仕事だからな。で、やはり陥没の原因はそこだったのか』

「ええ。そしてソレ(・・)は逃げ出した」

『逃げ出した? どういう意味だそれは』

「……核施設並みの超重厚な壁を簡単にぶっ壊すほどの怪力モンスター。それが今、西海岸に向かって地中を移動してる。パパ……いや、副大統領閣下。速やかに西海岸地域へ軍の配備をすべきと考えます。事態はかなり……深刻です」

 カヨコはスマホを耳に当てながら、目の前に広がる光景を嘆息を漏らしながら見つめた。

 そこには本来、核爆発さえも耐えうる強靭な壁があった。

 それに、大きな穴が開いている。

 それが爆発によるものでも、自然現象によるものでも、人為的な事故によるものでもないことは、床に残された巨大な足跡が証明していた。

「……これは大事(おおごと)になるわ」

 

 *

 

 東京都千代田区丸の内・特別行政法人 巨大生物研究所

「野党議員とはいえ、さすが設立の貢献者ともなると電話一本で予約出来るんですね。日本語で的確な言葉があったはず……なんだったかしら。鳥が関係してたような」

「鶴の一声ですか、大使閣下」

「そうそれ!」ノーネは声を弾ませた。「でも、なぜ鶴なのかしら。クジャクとかの方が優雅だけど」

「たしか、鶴が高貴な鳥とされたからです。逆に〝雀の千声〟という言葉もあるのですが、これはつまらない者たちの声という意味だそうです」

「ほう、とても勉強になりました。機会があれば使ってみようかしら」

 エレベーターのドアが開き、二人は10階フロアに降り立った。

「矢口議員、アウラキ大使、お待ちしておりました」

 所長の塚本(つかもと)が二人を迎え入れ、挨拶もそこそこに矢口は訊ねた。

「巨生研の報告は逐一チェックしていますが、直近のゴジラの様子はどうなってますか」

「変わらずです。常時血液凝固剤を注入し、冷却状態を保っています。放出される放射線レベルも人体には無害なレベルで、周囲への汚染リスクもありません。管理は完璧です」

「完璧」矢口はその言葉に反応した。「確かにそう言えるかもしれません。この組織を立ち上げてから、一度も事故やヒューマンエラーが起こらなかったことは確かです。それは日頃、ここで働いている職員たちの努力ゆえでしょう。しかし完璧とは、いっさい手を加える余地のないほど優れた状態ということです。その状態を保つのは非常に難しい。たった一つのミスが、その完璧という壁に穴を開けてしまうかもしれない。この施設の場合、それがどんな意味を持つかは所長であるあなたはよく理解されてますよね」

「え、ええ……もちろんです」

「しかし今後、巨生研の予算が削減されるということにでもなれば、今の状態を保つことに支障をきたす恐れがあります。優秀な人材が流出し、必要な機材の調達にも苦労するでしょう。そうなれば、どうなるか。あなたが防災庁出身であることは知っています。そして身内に与党議員がいらっしゃることも。表立って政権を批判できない状況にあることは分かりますが、この組織の長である以上、ここを死守するために活動なさるのもあなたの義務であるはずです。違いますか塚本所長」

「は、はい……申し訳」

「私に謝る時間があるなら、速やかに自分がすべきことを考えて、実行してください。あなたに国立機関の長たる気骨があるなら、今度の委員会で証人として出ていただきたい。ぜひお考え下さい」

 塚本は力なく「は、はい……」と答えながら、『関係者以外立ち入り禁止』と銘打たれた扉のセキュリティロックを解除した。

 そこは横長の部屋になっており、大きなガラス窓、様々な観測システムを搭載したコンピューターが並び、白衣を着た係員たちがモニターを逐一チェックしていた。

 入室し、窓の外を見た二人の反応は、それぞれだった。

 矢口は、「ああ、やはり居るな」という認識。

 ノーネは、「これが……」と思わず口に漏らし、ガラス越しに在る巨大な物体に見入った。

「これが……ゴジラ」

 そこには確かに、10年前突如として日本に現れ、未曽有の災害をもたらし、世界情勢にさえ影響を与えた巨大怪生物の姿があった。

 が、その容姿は頭から尻尾の先まで、全てが金属の板に覆われていた。

「まるで機械の塊……さながら、メカゴジラですね」

 ノーネの呟きに「確かに」と矢口も同調した。

「全身を鉛で出来た板で覆い、そこかしこに接続しているチューブから血液凝固剤を注入しています。生身の姿をご覧になりたかったのでしたら残念ですが、なにぶん凍結処分が最優先ですので」

「そうでしょうね。またコレが動き出してしまったら、国連は核を使うのですから……」

 ノーネは窓ガラスに触れながら、鉛に覆われたゴジラを見つめながら言った。

「絶対に使わせませんよ。何とかしてコレを処分する研究を、ここでは行っています。原発の廃炉より難しいですが」

 矢口はノーネの隣に立ち、同じくゴジラを見つめながら言った。

「……そうだ。塚本所長、ちょっとよろしいですか」

 矢口は踵を返し、塚本と話し合った。「実はセルジナで気になる化石が……」という会話を尻目に、ノーネはじっとゴジラを見つめていた。

 そして、とても小さな声で、ソレ(・・)に語りかけるように言った。

「……やっと、会えたわね」

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