稲荷様は平穏に暮らしたかった。   作:味八木

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作戦準備

 

 

 

ー第二文明圏パガンダ島ー

 

かつてパガンダ王国があったこの島は所属国家が消滅したことで空白地帯となっていた。しかし、グラ・バルカス帝国攻略における重要拠点でもあるので日本国が暫定的に基地として活用している。

 

そんな基地にある会議室で第二文明圏連合軍は集まって今後の会議を始めようとしていた。

 

「皆さん、ムー大陸における大陸打通作戦ーチベスナ作戦ーお疲れ様でした」

 

そう言って、稲荷神は頭を下げる。その様子に軍の高官達は言う。

 

「いえ、こちらこそ日本国のご支援のお蔭でここまで来ることが出来ました。こちらからもお礼を述べさせてください」

 

社交辞令を述べた後、稲荷神は切り出す。

 

「さて、グラ・バルカス帝国ですが主力艦隊を失ってもなお、諦めていません。我が国が彼らに降伏あるいは講和に応じる様にビラを配ったり、ムー国など複数の国が講和の打診をしていますが、それら全てを彼らは黙殺しています。数日経てば攻撃開始日時です。攻撃開始日時を過ぎたと同時に攻撃を開始します」

 

そう言うと、プロジェクターにグラ・バルカス帝国が映し出された。拡大された彼らの本土をポインターで指す。

 

「彼らの国土は意外に小さいですね」

 

ムー国の軍高官が言う。ここからは稲荷神ではちんぷんかんぷんなので、自衛隊幹部が引き継いだ。

 

「はい。ご覧の通り彼らの本土は狭いです。しかし、今まで我々が撃破してきた陸軍及び海軍戦力、それに加えて国民をこの国土1つで支えるのは不可能です。故に彼らは資源の多くを第二文明圏外植民地からの輸入に頼っています。ですので、彼らの資源の供給を絶つべく工場、鉱山、農園、各種軍事施設、インフラ施設である橋や鉄道を破壊し、徹底的な通商破壊作戦を行います。そして、彼らの出鼻を挫くべく、この都市に攻撃を行います」

 

お世話係は地図から衛星写真に切り替えた。その写真には彼らの目を見張るような摩天楼が建てられていた。

 

「この都市は王城の様な物が確認できます。他にも、無線通信が多いこと、暗号通信を解読した所、軍の総司令部が置かれているのが確認できました。この事から、この都市が帝都…帝都ラグナと確認出来ました」

 

つまり、ビラをばら撒いたように帝都を初っ端攻撃して皇族から一般市民に至るまで恐怖に陥れ、降伏させる事を狙っているのだ。

 

「そこで我々は航空攻撃と潜水艦、スタンドオフミサイルを先ほど述べた施設に撃ち込む予定です」

 

この言葉に一同が?を浮かべだ。潜水艦は日本国から説明を受けたことが有るので理解できるがスタンドオフミサイルについて彼らは知らないからだ。

 

「スタンドオフミサイルとはどの様な兵器でしょうか?」

「敵の射程圏外から安全に誘導弾を撃ち込む長距離誘導弾の総称です。その射程はおよそ1000kmにも及びます。それを我々の艦艇から発射します」

 

射程1000km。その言葉に彼らは驚いた。日本国の技術の凄さは分かっていたが、まだそんな強力な兵器を持っていることに何度目かの驚きに包まれていた。

 

「その後、徹底的な通商破壊作戦を実施した後に上陸作戦を敢行します。この辺りは各国と作戦を煮詰める必要があるので大雑把な作戦概要だけご説明します」

 

そう言って、自衛隊幹部は説明を始める。

 

「まず、神聖ミリシアル帝国やムー国の爆撃機の航続距離内にある航空機地及び海軍基地を奪取します。そこに、兵力を送り込みます。その後、帝都にほど近い海岸に上陸し、事前に奪取した戦力と上陸部隊の総力を挙げて帝都に進撃します。

 

そして、兵力の大部分を上陸作戦阻止に向かわせている隙に我々の空挺部隊で敵要人をひっ捕らえます。斬首戦術などで軍の高官を捕らえられれば後は烏合の衆でしょう。ですので、最終目標は敵の軍高官と政府要人を捕らえ、彼らを交渉のテーブルに付かせることを目的とする事です。ですので、皆さんにはこれからの攻勢に向けて準備をしていただきたく思います」

 

そう言う日本国自衛隊幹部に参加者達は信頼の視線を向ける。かくして、会議は終了し、一連の通商破壊作戦はーサブフォックス作戦ーと命名された。

 

 

 

 

 

 

 

 

ー第二文明圏外グラ・バルカス帝国帝都ラグナー

 

日本国のビラ撒きから一ヶ月も経っていない頃、政府から臣民に対して通達がなされた。それは、『国民総動員法』であった。

 

その内容とは以下の通りである。

・配給制の導入と軍需物資

・勤労動員

・学徒出陣

・物価統制

・言論、集会統制

・物資提供

 

他にも第二文明圏外の植民地人の強制動員と同化政策なども含まれていた。この法律に臣民は不満を垂らす事は少なかった。何故なら、彼らはこう考えていたからだ。

 

『今は不便でもいずれ我が帝国は世界に覇を唱えられる』

 

と。しかし、一ヶ月も経たずに2回も首都上空に敵機の襲来を許している。それなのに何故、楽観的な考えをしているかと言うと、今までの無敗神話と同調圧力にある。

 

グラ・バルカス帝国は転移前、転移後も無敗を誇っていた。その様な楽観姿勢は軍上層部から市民にまで及んでいる。それは最早洗脳の域にあった。そこに放り込まれた敵機の帝都襲来。コレに対して新聞や雑誌といったメディアは何れも勇ましい限りであった。

 

それこそが、同調圧力である。無敗神話を信じる臣民にとって無敗神話を疑う者は非国民だ。彼らはそんなレッテルを貼られるのを恐れて勇ましい、国家総動員法に肯定的な意見しか出せなかったのだ。出せるのは余程の馬鹿か空気を読めない者くらいだろう。

 

そんな表向きには反対意見のでなかった国家総動員法が発令されてからと言うもの、グラ・バルカス帝国では工場が耐えず稼働していた。そんな工場稼働に必要な原料を運ぶための輸送船や護衛艦が停泊する港が水平線上に見える距離にまで近づく者がいた。

 

日本国の原子力潜水艦"依10型"である。彼らは本国から指示された通商破壊作戦を実施するため、グラ・バルカス帝国の勢力圏である第二文明圏外にまで出向いていた。

 

彼らの目の前には第二文明圏外の植民地から収奪してきた原油を積んだ輸送船が航行していた。原油の大規模採掘が可能だったムー大陸植民地を失陥したことで小規模油田しかない第二文明圏外から運んでいた。

 

そのため、木炭バスが運行し、ガソリン自動車や石油ストーブの使用が制限され、軍艦や航空機の燃料をケチっている。雀の涙程度だが、原油がないよりはマシだった。だが、その僅かな原油すらも届かないように日本国から刺客が送り込まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー日本国海上自衛隊"依10型"潜水艦ー

 

"依10型"潜水艦6隻はムー大陸派遣軍潜水艦隊司令官松岡の指示の元グラ・バルカス帝国本土近海に迫っていた。

 

「確認しました!敵輸送船団です!軽空母2隻、コルベット艦3隻、フリゲート艦2隻、輸送船30隻です!」

「了解。1番艦、2番艦は護衛艦を残りは輸送船を狙え。1番艦は軽空母を始めに狙う。2番艦は好きな艦から狙え」

 

グラ・バルカス帝国は日本国の潜水艦に多数の輸送船を撃沈された事から、対潜戦闘に特化した艦艇を建造する流れが生まれ、そこから生まれたのがコルベット艦とフリゲート艦だ。

 

これらは、鋼鉄の不足から木造である。グラ・バルカス帝国に広く自生する木を伐採して作られている。他にも、コンクリート船なども試作されたが、効率が悪いと採用は見送られている。燃料も節約するために植物油などを利用している。

 

コルベット艦やフリゲート艦が駆逐艦から主な対潜艦として活用される事になったが、日本国の潜水艦を早期発見撃沈出来る性能の筈がない。故に、松岡からしても問題視していなかった。

 

水雷長の魚雷発射準備が整い、"20式魚雷"が発射される。それらは静かに軽空母に向かっていく。

 

空母は装甲が薄い傾向にある。更に装甲が薄い軽空母が、過酸化水素魚雷の直撃を撃ち込まれたのだ。またたく間に炎上し、海水が流入する。そして、あっという間に轟沈してしまった。この出来事に護衛艦は慌ただしく潜水艦を探そうとする。

 

しかし、原子力潜水艦は核分裂によって発生する熱を冷却するする音が響くとは言え、スクリュー音などを含めて極限までの防音性能が施されている。その僅かな音をグラ・バルカス帝国のお粗末な水中聴音機で判断出来る筈もない。

 

判断できたとしてもグラ・バルカス帝国の爆雷は自国のシータス級潜水艦を想定して作られている。それよりも深く潜航出来る日本の原子力潜水艦が爆雷の被害に遭うはずがない。

 

まだ被害にあっていないコルベット艦やフリゲート艦は何処から魚雷を撃ち込んでいるのか分からず、そこかしこに爆雷を投下している。魚雷の射程で勝る日本国の"依10型潜水艦"は彼らの想定する地点より遠くから誘導魚雷を放っているのだ。見つからないのも道理だった。

 

結果として、護衛船団は人命救助に向かっていた数隻を除いて全て撃沈された。

 

司令官松岡は任務を終えたので帰投しようとも考えたが、彼は更なるインパクトをグラ・バルカス帝国に植え付けようと考えた。

 

「航海長、ここから垂直発射誘導ミサイルは彼らの軍港に届くか?」

「我が艦隊から50km程度しか離れていません。命中させるのは訳ないです」

「よ〜し。全艦に命令。垂直発射誘導ミサイル発射準備!目標はグラ・バルカス帝国帝都ラグナ軍港!及び停泊中の艦艇だ」

 

本来、潜水艦で敵地の、それも首都にある港に攻撃を加えるとなると死を覚悟せざるを得ない。しかし、日本国の潜水艦にはグラ・バルカス帝国ではSFの域である誘導弾を潜水艦に搭載しているのだ。故に離れた地点からでも首都港に攻撃が可能になる。

 

「では、本艦及び2番、3番艦は敵の海軍施設及び石油貯蔵タンク、商船を狙え。残りは停泊中の艦艇を仕留めろ!優先順位は空母、駆逐艦、軽巡洋艦、重巡洋艦、戦艦だ」

 

松岡の指示の元、迅速に座標計算が行われる。

 

フリゲート艦やコルベット艦を攻撃目標にしなかったのは、これら艦艇は対潜戦闘に特化しており、水上艦に対しては然程効果がない。故に、潜水艦による攻撃で何時でも片付けられる以上、撃沈するのが早いか遅いだけで、任務に影響は無いと判断したからだ。

 

そして、垂直発射誘導ミサイルはグラ・バルカス帝国帝都ラグナに向けてありったけが海の中から現れて向かっていく…

 

 

 

 

 

 

 

 

ーグラ・バルカス帝国帝都ラグナ港ー

 

世界に覇を唱えようと試みたグラ・バルカス帝国の帝都ラグナ。その港はムー国より大きい。停泊しているのは戦艦3隻、空母7隻、重巡洋艦、軽巡洋艦合わせて10隻、駆逐艦や輸送船、タンカーやフリゲート艦、コルベット艦に至っては数えるのが億劫になる程であった。グラ・バルカス帝国の威容がそこにあった。

 

しかし、殆どの艦がボイラーを落としている。荷物の積み下ろしや点検の為だ。それに、本土の港まで来てボイラーを付けたままにすればボイラーの劣化が進んでしまう。

 

そして何より深刻なのが燃料不足だ。戦車にしろ軍艦にしろ航空機にしろ燃料がなければ鉄の棺桶だ。燃料となる石油を精製するのに必要な原油はグラ・バルカス帝国本土では採掘量が少ない。それを植民地からの収奪で賄っていたがムー大陸植民地が失陥した影響で深刻な燃料不足に陥っている。そのため、燃料をケチる為に軍艦は稼働を停止していた。  

 

そこに、日本国の垂直発射誘導ミサイルが飛来したのだ。帝都へ航空機の接近を許した事もあり、見張りやレーダー手は働いていたのだが、ミサイルが飛来したのは夜間であり、ステルス化が施されたミサイルを発見する事は出来なかった。

 

空母や駆逐艦目掛けてミサイルが向かう。命中したミサイルは正確に艦の脆弱部分を突いて爆発する。次々と艦艇が行動不能になり、爆発したり浸水が発生する。

 

この攻撃にラグナ港は蜂の巣をつついた騒ぎになった。サーチライトが飛来するミサイルを発見しようと躍起になる。しかし、音速の飛翔体を発見した頃には目標に命中している。

 

練度の浅い兵士は何も居ない空に向かって、がむしゃらに対空機銃を撃ち込んでいる。

 

また、貴重な石油貯蔵施設が破壊された事で石油が燃焼し、グラ・バルカス帝国の燃料事情をより悪化させた。また、多数の艦艇が撃沈された事でラグナ港に着底。ラグナ港の機能は著しく低下してしまった。また、着底してしまった艦艇から重油が漏れ出してしまった。

 

また、沿岸部の石油貯蔵施設が攻撃された事で大規模火災が発生している。暫くこの火災は収まらないとされている。

 

攻撃をして来た敵をグラ・バルカス帝国はメンツに掛けて撃破しようと躍起になったが、遂に敵を撃破する事は出来なかった。

 

グラ・バルカス帝国の戦略に大きく影響する事態だったが、これを戦訓として反映するためには、敵の攻撃手段に関する情報が少なすぎたのであった。

 






〜コラム〜

不敗神話

グラ・バルカス帝国の人々にとって帝王グラ・ルークスは数々の戦争を主導し、そのどれもを勝利に導いた戦神であるという、現人神的思想に教育されている。しかし、最近の負け戦続きで人々はその不敗神話に疑問を抱きつつあるが、その思想を深く信じる者達によって爪弾きに去れかねない。そんな学校のイジメに似た状況に国家レベルで起こっているのだ。だからこそ、表立って彼らは政府に文句を言わない。言ったとしても政府が否定すれば一般市民は信じるしかないからだ。

つまり、太平洋戦争中期から末期に掛けての大日本帝国と似た状況に陥っています。

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グラ・バルカス帝国の存亡について

  • 徹底抗戦からの無条件降伏
  • 講話する
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