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ー第二文明圏外グラ・バルカス帝国東部約300km海域ー
穏やかな浪の音が響く海に、数隻からなる鋼鉄の軍艦が進路を西に向けていた。彼らは漏れなく赤丸に筋が走った軍旗を掲げている。
そう、日本国海上自衛隊ムー大陸派遣軍の一団だった。彼らは深夜から明け方にかけて帝都ラグナの港湾施設を破壊し、その後には中部から東部に掛けての火力発電所や航空基地やレーダー施設などの軍関係施設を空爆していた。
そして、最後に軍需工場を徹底的に破壊して敵の生産能力を奪おうとしていた。生産能力を奪ってしまえば人間で例えるならば心臓を破壊されたも同然だ。しかし、人間は心臓が壊れても医療技術で延命させる事は可能だ。しかし、血液を運ぶ動脈…つまりインフラが破壊されてしまえば脳…つまり政府機能が生きていても死んだも同然だ。
つまり、日本国の意図としては徹底的に国家の
ムー大陸派遣軍総司令官の安井はグラ・バルカス帝国全土を射程に収める距離にまで近づくと、スタンドオフミサイルの発射を命じた。今回の攻撃目標はグラ・バルカス帝国西部の工場地帯と大規模航空基地、超大型爆撃機の製造工場、中西部に確認された核濃縮施設である。
核濃縮施設については、帝国が植民地としていた環礁で起きた核爆発を人工衛星で観測した事により存在を把握していた。しかし、核爆発が確認されたのはムー大陸失陥直前と言うこともあって核兵器の量産には至っていないと言うのが、日本国自衛隊及び政府の見解だった。
そのため、量産される前に施設を攻撃して本格的な量産を防ぐのが今作戦の一番の目的だ。
「今作戦は我が国のみならず世界の命運を変えるための戦でもある。稲荷神様の手を煩わせる奴らに天誅を下してやれ!攻撃開始!」
「攻撃開始!」
安井司令官の言葉でスタンドオフミサイルの攻撃が始まった。各艦から何発ものミサイルがグラ・バルカス帝国に向かっていった。
◆
撃ち込まれたミサイルは8対2の割合で内陸と沿岸に向かっていく。8対2と言っても撃ち込まれたスタンドオフミサイルは400発近くにも及ぶ。つまり、320発が内陸の工場施設や核濃縮施設へ。残りの80発が航空機爆撃を逃れた軍関係施設や超大型爆撃機製造工場へと向かっていく。
ミサイルが命中し、工場や軍関係施設に爆発が起きる。その様子を初手の爆発が起きたタイミングで帝王グラ・ルークスは報告を聞いてその様子を見ていた。
侍従が避難するように言うが、グラ・ルークスは「本土を攻撃された以上、今更逃げた所で意味はない」と言って避難しなかった。意外に彼は好奇心旺盛なのかも知れない。
「帝都防衛隊は何をしている!?」
「レーダーが壊されたのが痛いな」
「爆弾が速すぎる!"アンタレス"の速度を超えているぞ!」
近衛兵達がざわつく一方で、グラ・ルークスは大多数の飛翔体が帝都を過ぎ去って行くのを見て、ふと事の重大さに気づいて指示を飛ばす。
「帝都防衛隊は戦闘準備を続けろ!それと、あの飛翔体が何処に向かっているかを調べ上げろ!進路上にある戦闘機や高射砲で出来る限り飛翔体を迎撃しろ!」
「はっ!」
しかし、火力発電所の殆どが破壊された以上、無線も有線も使えない。軍艦や航空機の無線機を代わりに命令を伝達するが、すべては遅すぎた。
◆
ーグラ・バルカス帝国某飛行場ー
グラ・バルカス帝国の比較的大きな飛行場の中でも公には秘匿された施設がある。そこには、帝国の誇るグレードアトラスター級戦艦に使われている帝国の技術の結晶と同等かそれ以上の機密がある。
ここには、特殊殲滅作戦部が有する帝国の超兵器。"グティマウン型爆撃機"がある。近くには製造工場も置かれ、完全な秘密都市として機能していた。
しかし、秘密都市として秘匿していても空からの監視には無力だ。日本国は既にこの場所を把握していてミサイルを撃ち込んでいた。
数発のミサイルが滑走路を均等に破壊する。格納庫に収納されたグティマウンに格納庫の屋根を突き破って破壊を撒き散らす。
管制塔の真ん中にミサイルが命中し、支えを失った管制塔にすぐ近くにあった司令室が潰され、轟音を立てる。逃げ遅れた者達の悲鳴も轟音にかき消された。
間一髪で逃げることに成功したグラ・バルカス帝国空軍特殊殲滅作戦群部長アーリ・トリガー大佐は最近建てられ始めた防空壕目掛けて走る。しかし、行動が遅かった。
ミサイルが搭乗員の訓練施設の屋根を突き破って施設内で爆発する。爆発の衝撃波で窓ガラスが一斉に割れる。また、搭乗員宿舎にもミサイルが命中し炸裂したミサイルは爆発して宿舎のベットや食堂のテーブルを破壊する。宿舎はまたたく間に炎に包まれる。
グラ・バルカス帝国の将兵達の家は灰に変換されていく。また、レーダーサイトが破壊され爆風と共にアンテナが崩れ落ちる。対空砲陣地では迎撃しようと高射砲や機銃を撃ち込む。しかし、弾丸や砲弾が音速のミサイルに命中する筈もなく、逆にミサイルによって対空砲陣地は沈黙を強いられている。
アーリ・トリガー大佐は地上を走って防空壕を目指していたが、ミサイルの爆発に巻き込まれて死亡した。
グティマウンの製造工場もミサイル攻撃で爆煙に包まれて機能停止どころか工場が跡形も無く燃え尽くす勢いであった。工員たちの努力の結晶は約30分程度で無に帰した。
その後のグティマウンが運用可能かつ生き残っている僅かな飛行場は地獄だった。高射砲はあまりの速度に役に立たず高射砲陣地にいた将兵達は丸ごと爆発に巻き込まれる。
生き残った航空基地から発進した戦闘機がミサイルに対して機銃掃射を浴びせる。しかし、ミサイルは彼らを無視して目標に命中する。機銃掃射は悲しい程当たらない。仮にミサイルを迎撃しようとミサイルを追いかけようとしても"アンタレス改"と"14式艦対地改良型誘導ミサイル"では速度が違いすぎる。あっという間に振り切られてしまった。
彼らはミサイルがとんで行く方向を恨めしげに見つめることしか出来なかった。
◆
ーグラ・バルカス帝国中西部ヴァモス兵器研究所ー
この兵器研究所はグラ・バルカス帝国軍にとって重要な施設である。何故なら、この兵器研究所は内陸故に海軍技術こそ研究していないが、小銃から戦闘機まで手広く開発に携わっている。敷地も広く火力発電所も併設されている。完全な秘密都市である。因みに、先進技術研究所は海軍兵装を扱っているため完全に別組織である。
秘密都市であるが故に、最寄りの駐屯地から封印列車で向かうか、道路を歩いていくしかない。近づいた者は軍法会議に掛けられる事もなく射殺される。対空陣地や対空レーダーも完備されている。
そんな研究所に少し前、空軍から元帥直々に命令が下された。それは、新たに発見された鉱石を新兵器に使えぬか検討しろとの事であった。
調べた結果、爆弾に転用する事で爆弾1つで都市1つを破壊できる可能性を秘めた物であると分かった。既に試作品も完成し、特殊殲滅作戦部に協力を仰いで植民地にした環礁で実験を行った。その結果は凄まじい物であり戦局を打開できる可能性を帯びていた。しかし、所詮は試作品であり大量生産は出来ていなかった。
その理由として一番に挙げられるのは燃料と原料不足だ。この爆弾…原子核兵器は濃縮に多量の電力が必要となる。しかし、発電をするにしても燃料となる石炭や石油が必要となる。濃縮に用いる電力はヴァモス兵器研究所に備蓄されている石炭や石油だけでは賄えない。故に、空軍の予算をある程度使ってようやく生産の目処が立った所に日本国の通商破壊作戦によって多数の燃料が本国の艦隊や航空機に回されることになり、原子核兵器の濃縮は棚上げになっていた。
他にも、原料となるウラン鉱石を輸送するにしても船舶の燃料が必要となる。だが、これも例に漏れず通商破壊作戦によって滞っているのが現状だ。だが、細々と輸送は続けているが、本土に到達する事が出来るウラン鉱石を積んだ輸送船は僅かだ。それ故に、生産出来る環境はあっても生産出来ない状態が続いていた。
だが、そんな兵器研究所に絶望が訪れようとしていた。総数何百と言う対地ミサイルがやって来たのだ。
対地ミサイルはグラ・バルカス帝国が所有する原子炉目掛けて突撃する。まず最初に原子炉がある建物の屋根を破壊する。
この爆発音には、流石にグラ・バルカス帝国側も気付いたのか、研究所は慌ただしく動き始めた。
『空襲警報!空襲警報!敵は恐らく日本国の誘導弾だと思われる!総員戦闘配置!非戦闘員は退避せよ!繰り返す!…』
その言葉で、兵士は外に研究員などは地下壕に避難していく。しかし、避難した頃には全ては終わっていた。
対空砲陣地に集まった兵士達は研究所勤めと言うこともあって日本国の知識(軍事雑誌)を下に誘導弾の概念は理解していた。しかし、命中率はそこまで高くない…どころか数mから数十、下手したら数百mも誤差のある誘導弾がピンポイントに当たる様は、研究職でもない彼らにとって見ても薄ら寒いものがあった。
しかも、誘導弾はこちらの高射砲や対空機銃に当たる様子はなく、全ての誘導弾が最重要施設とされた原子炉を攻撃している。だが、彼らの不幸は原子核兵器の研究に携わっている者の一部にしか毒の光…つまり放射能の事は知らされず、一般には新種の爆弾研究で通っていた事だった。
現代でも原子炉への攻撃はジュネーブ条約でも例外を除き認められていない。(ロシア・ウクライナ戦争では原子炉が攻撃されていたが…)そんな現代でもデリケートな扱いを受ける原子炉。そんなメルトダウン対策がなっていないグラ・バルカス帝国の原子炉が攻撃を受けたらどうなるか…火を見るよりも明らかだろう。
原子炉に見事に直撃したミサイルによって起きた爆発で原子炉は8割方破壊された。当然、原子炉を冷却する水は漏れ出し、稼働していた原子炉は自らが排出する熱量に耐えきれなくなる。結果として、放射性物質を含む核燃料が原子炉から漏れ出してしまった。まあ、原子炉が8割程破壊された時点で放射性物質が漏れ出すのは自明だが…
とにかく、原子炉が破壊された事で放射性物質が大気中に漏れ出した。その事実を確認する為偵察機がヴァモス兵器研究所上空を飛行していた。
『こちら、安井司令官だ。そちらの現状と放射線量を報告せよ』
「こちらフォックス1。原子炉のある建物の破壊を確認。放射線量、現在も上昇中!』
『よし。破壊した原子炉から放射線が漏れ出していると見て良いだろう。直ぐに帰投せよ』
「了解」
こうして、パンドラの箱を空けかけたグラ・バルカス帝国はその箱を没収される事になった。
◆
ーグラ・バルカス帝国帝都ラグナー
初めての帝国本土攻撃から約3週間後、帝都の中枢であるこの城の会議室…とは言っても地下の戦時会議室に帝王グラ・ルークスも出席した帝前会議が開かれようとしていた。
「では、現在の状況についてお話します」
経済産業省長官ジマアは血相が変わっている。
「先日の空襲で破壊された火力発電所ですが、火災の鎮火に先日成功しました。しかし、ほとんどの施設が全焼しており、建て直すのに時間が掛かっているのが現状です」
建物の建て直しや発電をする為の燃料の準備などで建て直しの費用が焼け落ちた火力発電所複数個分あるのだ。出費も洒落にならない。
「具体的にはどれ程発電量が低下するのかね?」
帝王府副長官オルダイカは問う。
「現在、最低限発電量を確保する為に損傷が軽微な火力発電所を稼働させていますが、以前の発電量の半分もない状態です」
「なんということだ…」
つまり計画停電状態である。まあ、仕方ない。しかし、まだ話はある。
「更に言うと、漁業関係者から漁船の出港制限に非難の嵐です。商売あがったりであり、臣民からも魚介類の値段が天井知らずに上がっていると言う声が出ています。ですので、海軍と空軍には漁船の出港制限を解除して欲しく存じます」
出港制限を掛けた理由として、日本国の奇襲が挙げられる。近くの植民地が奪われた報告は受けていない。つまり空襲は空母から行われたということになる。つまり、グラ・バルカス帝国近海にまで敵が迫っていると言う事だ。本土近海を現在の艦隊の量と質では守れないと判断した海軍は出港制限を課すことにした。結果として需要に対して供給量が壊滅的となり、魚介類の値段が天井知らずにあがっていた。
「では、火力発電所と工場の復旧を急がせろ。本土の庭先に敵機動部隊が居る以上、対抗兵器は必要不可欠だ」
その考えは正しいが、軍港や航空基地が機能するかと言う問題が残るが…
「漁船の出港制限に関しては解除しろ。軍にも魚介類の缶詰と言う形で必要だ。集団護衛と哨戒機を飛ばして警戒に当たれ。その為にも軍港や航空機地の修復も並行して当たれ」
本国艦隊は無事だし、本土の航空機を利用すれば哨戒網を張るのも可能だろう。しかし、それは先ほども言ったが、軍港や航空基地が機能すればの話だ。
「では、軍の被害を聞こう」
帝王グラ・ルークスが言うと、陸軍元帥が立ち上がって述べた。
「陸軍ですが、ムー大陸植民地に派遣していた部隊が全滅。陸軍及び植民地警備部隊合わせて約30万人以上が戦死又は行方不明、或いは捕虜になったものと思われます。また、ムー大陸植民地に入植していた帝国臣民約40万人前後が死亡又は行方不明、捕虜になったものと思われます」
グラ・バルカス帝国の人口は8000万人前後である事を考えると、人的被害がどれ程深刻かが分かるだろう。
「海軍は最早閉店状態です。再建中でした東部方面艦隊も先日の攻撃で壊滅しました。現在残っているのは本国艦隊や植民地警備艦隊であり、数こそありますが、練度は各方面艦隊と比べるとお粗末と言わざるを得ません。本土空襲を仕掛けてきた日本国艦隊と戦うのは不可能でしょう。外征は絶望的と言っても過言ではありません」
海軍元帥が悲痛な声で述べる。グラ・バルカス帝国軍で一番の被害者は海軍だろう。なにせ、史実アメリカですら持っていなかった国家財政を圧迫する超弩級戦艦や長門型戦艦、正規空母を多数建造していながら、それらの殆どを日本国によって撃沈されている。ここに、乗組員やパイロットの被害も重なる。どれほどの被害か想像できよう。
「最後に空軍ですが、本土の飛行場は壊滅的な状態です。特に、特殊殲滅作戦部が有していた人員、機材全てを喪失し、超重爆撃機"グティマウン"も全滅。再建しようにも"グティマウン"はその製造コストの高さもあって完全に復旧させるのは困難と言わざるを得ません。飛行場の復旧は進めていますが、航空機の運用が可能な基地は帝都にある程度近い2つしかありません」
まだ3週間しか経っていないのに2つも復旧出来た彼らをここは褒めるべきなのだろ。
「…分かった。軍の再建を急げ。海軍は何とか1個だけでも外征可能な艦隊を作ってくれ」
「承知しました。海軍元帥と相談いたします」
グラ・ルークスの言葉に軍本部長サンド・パスタルが答えた。その後、質疑応答を経て会議は終了し会議室に僅かな者達が残った。
「サンドよ。例の原子核兵器はどうなった?」
「…はい。前回の空襲でヴァモス兵器研究所は半壊。原子核兵器製造工場は全滅しました。しかも、今回の攻撃で毒の光が漏れ出したらしく体調不良を訴えて1週間もしない内に死亡する者も出ています。汚染はヴァモス兵器研究所全体に広がっていると考え、現状では同施設を放棄する予定です」
「なんと…」
こうして、帝王の野望を果たす最後の希望は、儚く散ったのであった。(そもそも作れる環境ではなかったが…)
〜コラム〜
前回の指摘について。
前回、「火力発電所やられてるのに濃縮なんて出来るわけねぇだろ」というご意見を多く頂きました。なので、アメリカのマンハッタン計画やソ連の秘密都市を参考に兵器研究所で開発する。そこには、電力設備も完備されている。と言う構想に変えました。では、前回の攻撃で研究所の火力発電所を攻撃しなかったのか?と思われるかもしれませんが、そこは敵を油断させるため。と納得して下さい。だけど、燃料の輸送や原料輸送で時間がかかっているので、兵器研究所の火力発電所が無事だったら時間と輸送に掛かるコストや人的資源を無視すれば何れ完成していました。危なかったね。
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