稲荷様は平穏に暮らしたかった。   作:サード・アイ

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本土決戦前夜

 

 

ー第二文明圏外グラ・バルカス帝国帝都ラグナー

 

イギリスのビックベンの様な外観のお城の中では、帝王グラ・ルークスが参加する帝前会議が地下会議室で行われようとしていた。

 

「それでは、帝前会議を始めます。サンド・パスタル。詳細を」

 

帝王府長官カーツが抑揚のない声で言う。それに対してパスタルは震えながら口を開いた。

 

「はい。先日、我が帝国の南西にある西方植民地と本土の補給拠点として機能していたロレア島が陥落しました。本土防衛に戦力を回していたこともあり、守備隊は碌な抵抗も出来ずに降伏したものと思われます」

「『と思われます』ではない!ロレア島が奪われた以上、西方植民地から僅かな物資輸送すら困難になっている!どれ程の影響が出るか、わかっているのか!?」

 

カーツは怒鳴る。それにパスタルは萎縮して答えられない。見かねた経済産業省長官ジマアが答え合わせをする。

 

「カーツ殿の問いに答えるとすると、わが国の経済は事実上破綻するでしょう。本土では帝国臣民が必要とする燃料や食糧を確保できませんでした。だからこそ我々は植民地からの収奪で賄っていたのですが、ムー大陸植民地を喪失し、物資の半数以上を失いました。植民地失陥後に頼みの綱だった西方植民地からの取引がなくなった以上、わが国では来たる冬に備えての燃料や食糧を臣民の半数以上は確保できず大規模な餓死者が出るでしょう」

 

グラ・バルカス帝国は島国だ。島国故に資源は豊富ではない。また、食糧自給率も高くはない。地球世界のイギリスは食糧自給率を60%にまで引き上げたが、それは現代技術込みで考えた話だ。日本国も食糧自給率は50%以上はある。しかし、グラ・バルカス帝国は第一次産業の中でも面積を取る農業は植民地に頼っていたのだ。それが失われた以上食糧価格は上昇していた。更に、西方植民地の僅かな食糧すら失われた事でグラ・バルカス帝国は慢性的な食糧不足にある。

 

グラ・ルークスは冷静にパスタルに問う。

 

「では本土の目と鼻の先の植民地を失った以上、軍としては何か対策はあるのか?」

「はい。ひとまずは飛行場と火力発電所を早急に復旧させ、戦略的要衝に高射砲を優先配備して対応します。また、敵軍の上陸を警戒し、水際上陸を阻止します。それで敵軍を叩き出せればそれで良しですが、上陸された場合、帝国臣民の15歳から45歳の男性及び17歳から40歳までの女性全てを動員します。更に戦況が厳しくなればすべての国民を動員し、武器は小銃や手榴弾、竹槍が主です。臣民は非戦闘員のフリをして敵を油断させるなどあらゆる手を尽くす所存です。また、自然を利用したゲリラ戦を展開する予定です」

 

それは国家総動員法を盾にとった全国民徴兵であった。グラ・バルカス帝国の人口は約8000万人。その内の生産年齢人口は約4000万人。しかし、一連の戦争で約1000万人もの死者や行方不明者、捕虜を出している。また、植民地に入植した者達も含めると数値は更に膨れ上がる。そこに、子供や老人まで戦争に投入するとなると、経済危機以前に、国家存亡の危機だ。これには、軍関係者以外、とりわけ経済産業省やその他省庁の長官から反対意見がでる。 

 

「正気ですか!?」

「そんな事までして抵抗をして我が国に何が残るって言うんですか!?」

 

当然だ。これは帝国の未来を担う学者や研究者を根こそぎ動員することを意味する。更に言うと、子供や老人まで動員して抵抗した所で、残るのは焦土となった国土と人口が激減した結果だけだ。だが、帝王府や外務省、軍部としては別の見解を示していた。

 

「確かに皆様方のご意見も分かります。しかし、わが帝国の象徴ともいえる帝王陛下ならびに皇族の方々の国体が維持できるかが不明です。故に、国体維持のためには確固たる確証があるまで降伏する訳には行きません」

「帝王府、外務省、ならびに軍部としては一撃和平を希望します。今まで敵は、わが帝国の部隊を多数撃破してきました。しかし、本土決戦ともなると彼らも多数の損害を許容しなくてはなりません。我々の戦略的目標は敵の人的損失を膨らませ、少しでも条件を緩くした講和にするべきだと意見具申します」

 

帝王府副長官オルダイカが言う。彼としては少しでも戦争特需による裏金を得る機会を得たいのだろう。金の亡者は恐ろしい。

 

各省庁の長官の意見も、帝王府、外務省、軍部の意見もある意味では正しい。前者の意見を採用して今すぐ降伏すればこれ以上の被害を食い止められる。後者の意見も多数の犠牲を許容して最良の結果を少しでも掴み取る。その点では両者とも利点と不利点があるだろう。

 

両者とも一歩も引かない。故に、この場を収めることが出来る人物に決定してもらうのは自然な流れだった。この場で意見を自由に決められるのは、帝王グラ・ルークスその人しかいない。

 

「帝王陛下、御意見を賜りたく存じます」

「…余は戦おう。わが帝国は最後の一兵卒まで戦う」  

 

その言葉に賛成派も反対派も頭を垂れ、質疑応答を経て会議は終わった。

 

誰も居ない帝王の私室でグラ・ルークスは考える。彼にとっても徹底抗戦は苦渋の決断であった。彼がこの決断に至った理由は様々だが、彼の心の内を占めていたのは帝国の暴走だった。

 

確かに、帝国の暴走に彼自身の世界征服と言う野望があったのも事実だ。しかし、この国が狂い始めたのは転移直後からだった。帝国は西方植民地では物足りず、更なる植民地を求めてグラ・ハイラスを生贄に差し出した。そして、植民地を東へ東へと進めていった。だが、第二次バルチスタ沖海戦で負けてから帝国経済は悪化の一途を辿っていった。

 

今では経済は破綻していないのが奇跡なほどであった。配給制にしていなければ帝国経済はとっくの昔に破綻していただろう。更に負の連鎖を生んだのは、帝国の社会契約であった。

 

社会契約、それは啓蒙思想であり国家が国民と結ぶ契約であり王権神授説を否定するものだった。しかし、帝国…いや嘗ての帝王はこれを巧みに利用し、王権神授説を肯定するどころか帝王崇拝とでも言うべき強力な信仰形態を作り上げた。この社会契約は『神である帝王陛下が治める豊かな国、勝利を是とする神の国』と言う昔の日本人なら兎も角、現代の日本人から見れば不可思議な物であった。

 

しかし、この社会契約のお蔭で帝国はユグドで確固たる地位を確立できた。しかし、この社会契約は破綻した。経済も落ちぶれ社会契約が履行出来なくなった帝国は社会契約を盲信する輩と疑問を持っている者達が水面下で対立し、軍部では盲信する者達が遂には帝王にまで圧力を掛け始めた。

 

帝王グラ・ルークスの権威は低下し、軍部、とりわけ盲信する者達ー皇族派ーが暴走した結果、帝国のブレーキはなくなった。

 

つまり、帝国の暴走は社会契約とそれを盲信する一部軍人の暴走と言うことだ。

 

帝王グラ・ルークスは自身の、ひいては国家の生末を憂うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ー第二文明圏外イルネティア王国王都キルクルスー

 

グラ・バルカス帝国への本土攻撃を実施するため、第二文明圏連合軍はこの島に集まっていた。

 

グラ・バルカス帝国の征討府を改造した王城の会議室で第二文明圏の各国やムー国、神聖ミリシアル帝国、エモール王国、日本国などの軍人や外交官が会議をする所だった。勿論その中には、この国の国王であるエイテス第一王子改め、イルティス14世やビーリ侯爵、神竜イルクスと竜騎士ライカの姿もある。

 

因みに、神話に登場する神竜の姿に目を見張る第二文明圏連合軍の者達だが、狐耳と尻尾の生えた神竜イルクスを見て、稲荷神とイルクスに視線を行ったり来たりしたそうな。

 

閑話休題

 

「では、これよりグラ・バルカス帝国本土攻撃に対する会議を行います」

 

自衛隊高官の言葉で会議が始まった。

 

「まず、我々はグラ・バルカス帝国の西部にある経済都市ランク郊外に上陸し、同地を占領。航空基地を整備して帝都ラグナへの航空攻撃を可能にします。その後、地上戦力が進軍するのを囮にして我々の空挺部隊が帝都ラグナ上空に降下。首脳陣を拘束して戦争終結をする算段です」

 

それは、嘗てソ連でやったライトニングフォックス作戦のオマージュだった。だが、ソ連とグラ・バルカス帝国の決定的な違いは陸軍国家と海軍国家と言う事だ。ソ連はヨーロッパと陸続きだったので大規模な攻勢を掛けて陽動を仕掛けることができた。しかし、グラ・バルカス帝国は島国なので攻勢を掛けるには上陸して敵を引き付ける必要がある。それ故の作戦だった。

 

「しかし、勝算はあるのでしょうか?」

 

ムー国の軍人が問う。それに対して、自衛隊高官は冷静に返した。

 

「はい。勝敗は十分あると判断します。そして、各国の皆様にお願いがあります。ワイバーンをロレア島に移送し、その後、我々がランクを占領した段階でワイバーンをランクに移送して頂きたく思います。理由として、グラ・バルカス帝国の本土では熾烈な抵抗が予想されます。しかし、我々が対空火器を排除すればワイバーンの火炎弾でも十分に通用するでしょう」

 

ここまで技術に差がある第二文明圏連合軍と日本国が本土攻撃をするのでは被害や成功率は大きく変化するのは誰の目にも想像できよう。では何故日本国が第二文明圏連合軍をも巻き込んで上陸作戦をする理由は、グラ・バルカス帝国の暗号解読と諜報活動にあった。

 

当初、日本国はグラ・バルカス帝国の西部の経済都市ランクやその周辺には10万程の兵力がいるものだと考えていた。しかし、グラ・バルカス帝国は1地方に100万に近い兵力を集めていたことが分かったのだ。

 

この100万には軍属に属さない一般市民までもが参加している事を解読して突き止めたのだ。"ソ連国防人民委員令第227号"と言う悪法にも劣らぬ一般市民を使い捨ての駒として活用するのには日本国も辟易したものだ。

 

しかし、軍人は兎も角一般市民の武器は竹槍と言う脅威ではない武器だ。流石に肉薄されたら困るが竹槍ではワイバーンは落とせない。地球世界の戦時国際法に当てはめるのなら、武器を持っている時点で一般市民は非戦闘員ではなく民兵と言う扱いを受けるため捕虜にする事はあれど、避難誘導をする必要はない。

 

その為、約5000万を超える民兵達を相手にしていては日本国のリソースも足りない。故に、第二文明圏連合軍のワイバーンロードを活用するのだ。

 

「一般市民すべての動員だと?」

「狂っている」

「何故降伏しない?」

 

第二文明圏連合軍の面々もここまで末期状態なのに降伏をしない合理的理由が見当たらず首を傾げる。

 

口を開いたのは稲荷神だった。

 

「私には、彼らの思惑は分かりません。しかし、ハッキリとしているのは、彼らは自国の守るべき国民ですら戦火に巻き込み我々に抵抗すると言うことです。我々が守るべき女性、子供、老人。そのどれもが我々を倒すべくやって来るのです。しかし、我々はこれに抵抗していかなくては明日は我が身かも知れない事を思い出してください」

 

稲荷神の演説に皆の心に火がついた。そこから皮切りに、次々と意見が出る。

 

「では、我々からも風竜騎士団を出そう。だが、我々は内陸国故に空母なる物を持たない。何処かの国がその空母を貸していただけるのなら出撃する用意がある」

 

エモール王国外交貴族であるモーリアウルは言う。この言葉に、各国は沸き立った。グラ・バルカス帝国の戦闘機には日本国以外で唯一ドッグファイトが出来る航空戦力だ。一騎当千と謳われる風竜騎士団の参戦に各国は歓迎の意を示した。

 

「それでは、我々の竜母を提供しましょう」

 

そう言ったのはマギカライヒ共同体の代表だ。マギカライヒ共同体は、バルーン平野の戦いで量産型ノスグーラを倒して以降、日本国に積極的に技術支援を要請してきた。日本国はマギカライヒ共同体に様々な技術提供を行ってきた。空母の設計技術もその一つだ。

 

マギカライヒ共同体は、日本国から"鳳翔"の設計図を手に入れたのである。これを日本国と共同して開発した。その結果、カタログスペック以上の性能を有する空母が誕生したのだ。

 

しかし、風竜の全長は50mにも及ぶ。なので、風竜達は翼を畳んで甲板に居てもらう必要がある。日本国や神聖ミリシアル帝国も協力してロレア島に輸送することになった。

 

「それじゃあ、ボクも出ようか?」

 

そう言ったのは神竜イルクスだ。この言葉にモーリアウルが驚く。

 

「神竜様!宜しいのですか?!」

「うん!日本国やその他の国の皆さんにはボクもライカも、この国も世話になったからね。ライカ、良いよね?」

「勿論!喜んで協力するよ!」

 

神竜の強さは一騎当千と謳われる風竜騎士団以上だ。インフィドラグーンの強さの一端を目撃できることに、一同は感謝した。

 

こうして、グラ・バルカス帝国本土決戦の幕が開ける…

 

 

 

 

 

 

 






〜コラム〜

皇道派の暴走

グラ・バルカス帝国は長年無敗を誇ってきた。しかし、度重なる敗戦で軍部とそれを統帥する帝王の権威は低下。皇道派と呼ばれる極右、国粋主義者たちは帝王陛下による世界征服もとい世界平和を頑なに信じ、軟弱な今の軍部をのっとり、この世界に覇を轟かそうと考える現実が見えていない連中。彼らに感化された者達が軍部内で発言権を伸ばしている。

つまりは、帝王が唱えた「いさかいが起こるのは各国が国益のみを重視するから」「平和を実現するなら圧倒的な力で各国家を統治する」と言う選民思想を真に受けているので帝王の自業自得とも言える。

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グラ・バルカス帝国の存亡について

  • 徹底抗戦からの無条件降伏
  • 講話する
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