稲荷様は平穏に暮らしたかった。   作:サード・アイ

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エスペラント事件〜前編〜

 

 

〜第三文明圏外文明国エスペラント王国北側休火山バグラ火口付近〜

 

魔力が集中するこの火山には、エスペラント王国の者さえ近寄ることが無い。だが、そんな場所に小さいながらも小規模な街が出来ていた。そして、そこに住まうのは、人類が定義する所の魔物であった。

 

そして、その街の中心部に一際大きい家がある。家の中には、真紅の鎧に身を包んだ一見すると人間に見える個体がいた。

 

「ダクシルド様。お食事をお持ちしました」

 

3本角の人型の鬼が頭を下げる。ダクシルドと呼ばれた男は、美形であり、人間の様にも思えるが背中には真っ白な羽と漆黒の羽根を生やしている。

 

「バハーラよ。あの下等生物の国…エスペラント王国を攻略する手立ては整っているか?」

 

バハーラと呼ばれた鬼人は言う。

 

「はい。今回の戦力であれば攻略は容易でしょう」

「何故あの様な辺境の地が必要か分かるな?」

「はい。我らが魔族…引いてはダクシルド様含めた有翼人の悲願…古の魔法帝国…ラヴァーナル帝国の復活の為で御座います」

「そうだ。古の魔法帝国が復活するための時空間座標特定ビーコン。世界に数あるビーコンの内の1つがエスペラント王国中心部に埋まっている。作動するだろうが、下種共が藪を突いて誤作動を起こしたら困る。何としても我々が手に入れなくてはならない」

「ははっ!」

 

平伏するバハーラの様子に、ダクシルドや彼の部下は優越感に浸る。その理由は、有翼人が復活を望む魔帝が作り出した生物兵器にあった。

 

ダクシルドは有翼人である。有翼人が治める国家と言えばアニュンリール皇国に他ならない。彼の肩書はアニュンリール皇国魔帝復活対策庁復活支援課支援係長である。基本的にこの部署は予算が少ない。一見すると魔帝を崇める彼らにとっては重要そうな部署だが、低予算の理由は彼が入手しようと目論んでいる時空間座標特定ビーコンにあった。

 

魔帝復活には世界に数あるビーコンと僕の星(魔法版人工衛星)が必要だ。ビーコンや僕の星は放っておいても稼働するのでアニュンリール皇国が保有するビーコンでも問題ないのだ。だからこそ、魔帝復活は確実であり予算が少ないのだった。

 

だが、そんな彼らがグラメウス大陸に来たのは生物兵器…魔王ノスグーラを支配下に置くためだった。ロストテクノロジーであった魔族制御装置の開発が成功し、実験の為やって来たのだが、魔王ノスグーラには全く効かず、魔族制御装置しか持っていないダクシルドは逃げるしか無かった。

 

彼は生物兵器如きに彼のプライドを傷つけられ怒っていた。そんな魔王ノスグーラは日本国と呼ばれる国によって倒されたと聞く。彼は魔王ノスグーラは欠陥兵器なのだろうと思う。

 

鬼、バハーラと支配下に置いた鬼ー漆黒の騎士ーが数十以上いればエスペラント王国攻略は余裕だと考えていた。しかし、そうも言っていられない事態が起きた。魔王を倒したと呼ばれる日本国が軍を使ってグラメウス大陸を攻略し始めたのだ。

 

彼らは森を焼き、魔物達を掃討しているせいで、集められる戦力が減少している。故に、戦力が減少する前に早急に集めた魔族をエスペラント王国に差し向けなければ成らない事態になった。だが、魔王と呼ばれる欠陥兵器を倒しただけでいい気になっている日本国の事はエスペラント王国を攻略してから対処すれば良いと楽観視していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ー第三文明圏外文明国エスペラント王国ラスティネーオ城ー

 

ザメンホフ27世は部下から異国の者達がやって来たとの報告を聞いて、彼らを通した。

 

彼らは一様に緑の斑模様の服を着用し、蛮族と呼ばれても可笑しくない様であった。いや、この場にいる貴族達の一部は既に陰口を叩いている。そんな中でも一際目立つのは異様な恰好に身を包んだ狐の獣人である幼女だった。

 

彼女が率いているのだろうか。疑問は尽きないが、取り敢えず彼はネイロに案内させた彼らに言う。

 

「ようこそ。私はザメンホフ27世、ここエスペラント王国の国王である」

「えっと。初めまして。私は稲荷神です。日本国の最高統治者をしてます」

 

稲荷神が国の最高統治者と聞くと、大抵の者はその容姿ゆえに驚くのだが、エスペラント王国は建国の歴史故に所謂亜人への偏見が少ない。すんなりと受け入れられた。ザメンホフ27世は冷静に問う。

 

「わが国の民を助けてもらった事、感謝する。そこで聞きたいのだが、我々と国交を結びたいとの事だが…真かね?」

 

ザメンホフ27世の問いに稲荷神は答えた。

 

「はい。私達は人工衛星によってこの国の存在を知り、国交を結ぶべくやって来ました」

「その…ジンコウエイセイとは何かね?」

「えっと、空高くに漂う機械なのかな?そうだ。あの写真を見せてあげて」

 

そう稲荷神が言うと、近衛兵はエスペラント王国が写った写真を差し出した。そこには確かにラスティネーオ城や城下の街並みが写っていた。

 

「なるほど、確かにわが国だ。驚いた。我々以外の人類の生き残りがここまでの技術を有しているとは…」

 

ザメンホフ27世含めた皆が驚いた。エスペラント王国以外の人類が生きていたのも驚きだが、自分達が想像すら付かなかった技術を有している事に驚愕したのだ。

 

「国交の件だが、ありがたく受けたいと思う。だが、それに伴って1つだけ条件をのんで欲しい。それを承諾してくれるのであれば喜んでその話を受けよう」

 

ザメンホフ27世としては、外の世界の知識や技術が国交を通して知れるとあっては受けない選択肢は無かった。稲荷神は承諾した。

 

「ありがたい。では、その条件なのだが…虫の良い話だと私自身思っている。だが、これしか私には希望がない。わが国を、エスペラント王国を救ってくれないか。」

 

そう言ってザメンホフ27世は頭を下げた。周りの重臣が止めるが、ザメンホフ27世は姿勢を変えることは無く言う。

 

「我らが束になっても敵わない漆黒の騎士を簡単に討伐したのだ。彼らの助力があればわが国は救われる。臣民が救われるのであれば、余の頭など幾らでも下げよう」

 

彼の目はまさしく、覇者の風格を持っていた。

 

「分かりました。その条件を受け入れましょう」

 

自衛隊最高指揮官であり、最高統治者である稲荷神がイエスと答えた以上、付いてきた外交官や近衛兵、自衛官に否はなかった。

 

「ありがとう。それでは、直ぐに作戦会議を行おう。貴国も是非参加してくれ」

 

そう言ってザメンホフ27世は部下に外交官岡山を応接用の部屋に案内し、自衛官と稲荷神を会議室に案内するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

会議室の入り口は重厚な扉によって閉ざされ、警備の者が微動だにせずに警備している。

 

稲荷神達が中にはいると、そこには大きな円卓があり、円卓の先には王が座っていた。稲荷神は空いている席に座り、自衛隊高官は稲荷神の後ろに控えている。

 

「では、これより会議を行います。先日、情報統括部がわが国の北側の休火山バグラの火口付近にて魔物共が街を作っているのを確認しています。その規模は凡そ2万。ゴブリンが主ですが、中にはオーク2500体、オークキング500体、漆黒の騎士を100体確認しています。ですが、問題なのは魔獣ゴウルアスが一匹いる事です。ゴウルアスはダクシルドが使役しているようです」

 

「あのゴウルアスがいるだと!?」

「ダクシルド…一体どれほどの魔の使い手なのだ…」

「いや、今回は日本国がいる」

「馬鹿を言うな!漆黒の騎士とは比べ物にならん強さなのだぞ!」

 

エスペラント王国の重鎮は絶望的な意見だが、日本国側からすると何のことかサッパリだ。

 

「あの。ゴウルアスってなんですか?」

「貴国には神話が伝わっていないのですかな?」

「ゴウルアスとは古の魔法帝国陸軍で転移の少し前まで使われていた陸戦兵器だ。今はとって変わられたと伝えられているがね。話を戻すと、ゴウルアスとは…」

 

そうやって語られるゴウルアスの特徴に稲荷神含めた自衛隊は心当たりがあった。

 

「あの…それってこの魔獣ですか?」

 

そう言って自衛隊高官は研究サンプルの為に撮っておいた写真を見せた。

 

「これは!まさしく魔獣ゴウルアスです!」

「信じられない!」

 

エスペラント王国の者が騒ぐが、日本国からすれば伝説の魔獣でこれ?と疑いたかった。何故なら、自動小銃の一斉発射で倒せる程度だからだ。だが、マスケット銃程度では十分に脅威なのだろう。

 

敵の戦力が分かった所で、どういった戦略で行くかを話し合おうとした時、稲荷神が手を挙げた。

 

「あの…魔獣の殲滅でしたら簡単にできますが、どうします?」

「…本当ですか?」

「それならありがたいが…」

「如何に武器が強くともあの戦力差では…」

 

稲荷神の提案に迷う武官達だったが、ザメンホフ27世が手を挙げて静粛にさせた。

 

「我々では対処できない戦力なのも確かだ。ここは稲荷神殿達、日本国の皆さんに任せようではないか」

 

そう言って、エスペラント王国は魔族の対処を日本国に委ねる事にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ー休火山バグラー

 

醜悪なゴブリン、その上位種たるゴブリンロード、人間の背丈を超えるオークに、鎧を纏い、言語を操るオークキング、後方には漆黒の騎士や伝説の魔獣ゴウルアス、ダクシルドから全権を委ねられた知将バハーラがエスペラント王国を滅ぼそうと進軍していた。

 

だが、それに待ったをかけたのが稲荷神だった。稲荷神は自衛隊の高官から受け取った無線機でエスペラント王国にほど近い飛行場に連絡を取った。

 

『航空自衛隊に要請。未知の文明へ接触しました。彼らは魔物による襲撃を受ける模様。これを阻止するために航空自衛隊は魔物の群れを殲滅してください。遠慮は無用です』

 

この要請のお蔭で、航空自衛隊の爆撃機がやって来たのだ。

 

爆撃機は誘導弾や機関砲を用いて敵を殲滅していく。魔獣ゴウルアス相手には機関砲が火を吹いた。ゴブリンの様な数が多い相手には誘導弾を、大きな個体には機関砲をお見舞いした。そもそも、"ゴウルアス"は自動小銃の一斉発射で倒せる程度の防御力しかない。そこに、機関砲の速射を食らったのだ。"ゴウルアス"は即死してしまった。

 

また、ゴウルアスの近くにいた知将バハーラはこの未知の攻撃を警戒し、近くの物陰に隠れた。だが、谷という地形ゆえに、爆風が彼を襲った。彼は近くの岩に頭をぶつける。その時に、額にあった宝石が四散してしまった。他にも、数多くの漆黒の騎士が転げ回っている。

 

その痛みに、バハーラ含めた漆黒の騎士達は頭を抑えて転げ回る。その様子に、ゴブリンやオークは逃げる。オークキングは必死に統制を取ろうとするが、頭が悪い彼らに最早指揮が務まるはずもなく、早々に軍は瓦解してしまった。

 

「ウム…俺は一体何を…」

 

頭を抑えるバハーラの下に漆黒の騎士と呼ばれた彼の仲間である鬼人族がやって来た。

 

「神降ろしの聖者バハーラ様。私たち一同ここ最近の記憶がありません。何かご存知でしょうか?」

「そうか…わかったぞ!この俺を操りよったなダクシルドめ!」

 

彼は自由意志を奪われていたことに激怒した。彼は鬼人族を率いて戻り、ダクシルドを捕縛しようと決意した。何故なら、彼らのトップとも言える重要な存在である鬼姫と呼ばれる存在がアニュンリール皇国に連れ去られてしまったからだ。彼らはダクシルドを捕縛、拷問し、鬼姫の場所を吐かせて最後に殺処分しようと考えたのだ。

 

だが、そこに介入したのが、稲荷神であった。

 

稲荷神は空爆の様子を城壁の上から見ていたが、何やら漆黒の騎士が集まっているので、耳を澄まして聞いてみると、何やら敵ではない感じがした。そこで稲荷神は彼らの所に向かい、話を付けようとしたのだ。勿論周りからは止められたが、稲荷神はこの場の誰よりも強いので、結局は行くことになった。

 

「えっと…あなた達はどうしてエスペラント王国に?」

 

何処かの番組が言いそうなセリフを言う稲荷神にバハーラは稲荷神の服装が軍人の恰好では無いことに疑問を抱きつつも、端的に説明した。

 

だが、悠長に話していたのがいけなかったのだろう。バハーラ含めた漆黒の騎士改め鬼人族達は慌て始める。稲荷神が問うと、バハーラは言った。

 

「早く逃げろ。祟り鬼神が出た。それも600体もだ。祟り鬼神は敵味方関係なく襲い掛かる。その強さはゴウルアスをも上回り、我々ですら歴史上倒せたのは1体だけだ。故に我々は封印措置をとったのだが、ダクシルドは我々の洗脳が解けたと知って復活させよった。古の魔法帝国ですら使役を諦めた化け物だ。エスペラント王国は確実に滅亡するだろう」

 

バハーラの語った内容を無線を通じてエスペラント王国の城壁の内側にいた自衛隊の仲間に報告すると、その内容はエスペラント王国上層部にも伝わった。その報告に、皆が顔を青褪めた。

 

祟り鬼神の名前はエスペラント王国にも伝わっている。偶々現れた祟り鬼神1体で2区が壊滅した程の被害を出したと言われている。それが600体。はっきり言って絶望的であった。

 

「祟り鬼神とは正しく神であるな…」

 

最早、エスペラント王国の者達にとって神に乞い願うしかない状態だった。だが、そんな状況でも冷静にしている者達がいた。自衛隊の通信兵である。

 

「皆様、お忘れですか?我々が崇める稲荷神様もまた、"神"と名のつくお方なのですよ?謂わば我々は神の軍隊…何を恐れる事がありましょう?」

 

その言葉が現実となるのか、エスペラント王国の者達は分からなかった。

 

 

 

 

 






〜コラム〜

ダクシルド

アニュンリール皇国の役人。WEB版では暗躍している印象だったが、書籍版では無能パワハラ上司、無惨様に"無能"と"小物臭"を足した人物。思い込みが激しい。だが、彼の行動は預言によって定められた運命だったのかも知れない。

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グラ・バルカス帝国の存亡について

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