稲荷様は平穏に暮らしたかった。   作:サード・アイ

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エスペラント事件〜後編〜

 

 

ー第三文明圏外文明国エスペラント王国ー

 

魔物に詳しい専門家が見たら、絶望的な表情を浮かべるだろう。世界から忘れ去られた王国、エスペラント王国はグラメウス大陸を物理的に火の海にした日本国の力で、亡国の危機は去ったかに思えた。だが、それは幻想であったと知らせるかのように祟り鬼神と呼ばれる古の魔法帝国ですら使役を諦めたバケモノがやって来たのだ。

 

その数はおよそ600体。エスペラント王国は偶然遭遇した1体に2区が壊滅し、鬼人族が倒せたのはたった1体と言う。攻撃力、防御力その全てがゴウルアスをも上回る。誰もが絶望を浮かべた。ただ、稲荷神率いる自衛隊を除いて…

 

 

 

 

 

 

 

 

祟り鬼神の群れはまっすぐエスペラント王国に向かっていた。だが、封印が解けてすぐに彼らは行動を止めてしまった。そのオークキングをも超える知能で理解したのだ。自分達の目の前に立ち塞がる狐耳の幼女の獣人が自分達が束になっても敵わない敵だということを。

 

だが、悲しきかな。祟り鬼神は使役こそ出来ないが、単純な命令だけなら魔族制御装置で命令出来るのだ。それこそが、日々の憂さ晴らしに奴隷を使う光翼人からしたら、祟り鬼神を使っては奴隷予定の下等種族をも殺してしまう観点から制御するのを諦めたが、タグシルドからすれば、エスペラント王国を壊滅させられればそれでよかった。故に、祟り鬼神は本能では分かっていても足を止めることはなかった。

 

だが、彼らの行軍もここまでだった。稲荷神が手を翳して「破っ!」と言うと、600体。全ての祟り鬼神が青い炎に包まれ、苦しみの余り叫んでいる。稲荷神はなんて事ない様子で祟り鬼神から鬼人族から神降ろしの聖者バハーラと呼ばれる彼らの方に振り向いた。バハーラは言葉を失ったが、絞り出して稲荷神に話し掛けた。

 

「もしや、貴方は太陽神の御息女ではありませぬか?」

「え?そうですけど…」

「なんと!ありがたい!我ら鬼人族の古文書に伝わる太陽神様の御息女に相まみえるとは!祟り鬼神を倒して下さりありがとう…」

 

バハーラが祟り鬼神を倒してくれた稲荷神に感謝の意を示そうとした時だった。

 

ドカーン!

 

休火山であった筈のバグラ山が噴火したのだ。驚くのも束の間、火口の縁に黒色の途轍もなく大きな手が現れたのだ。その手の持ち主の全貌が、そう時間を掛ける事なく現れた。

 

そいつは、3つの竜の頭を持ち、体色は黒から赤のグラデーション。全高は100m。全長300m。翼幅320mの巨大な竜であった。この竜を前にエスペラント王国や鬼人族達は言葉を失い、自衛隊や稲荷神はキ〇グギドラを彷彿とさせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だと!?」

 

休火山バグラに作らせた簡易的な魔族の街にて、アニュンリール皇国の役人であるダクシルドはバハーラがエスペラント王国を滅ぼす旨の報告を料理に舌鼓しながら待っていた。だが、連れてきた部下が慌てた様子でやって来たのだ。話を聞いてみれば、バハーラは洗脳が解け、集めた魔族達は逃走。バハーラ達は自分達を捕らえても可笑しくないと言った。

 

その理由は彼らが捕らえた鬼人族の国、ヘイスカネンの鬼姫とも呼ばれる巫女、エルヤを捕らえた為であった。

 

エルヤは退魔結界を自身や国中に張ることができる。これは、2600年続く女系の巫女にしか出来ないとされ、この結界のお蔭で魔族の侵入を防いで安寧を得ていた。しかし、この退魔結界に目を付けたアニュンリール皇国がエルヤを攫ったのだ。だが、アニュンリール皇国のせいで、ヘイスカネンの退魔結界はなくなってしまい、魔族が押し寄せ、現在では亡国の危機と成りつつあるのだ。彼らは何としてでもエルヤを取り戻すためにダクシルド含めた有翼人達を拷問することは彼らにとって想像は容易だった。

 

「ええい!なら祟り鬼神を復活させるぞ!」

「祟り鬼神ですか?!あれは魔法帝国ですら使役を諦めたバケモノです!魔族制御装置が機能するとは思えませんが…」

「何を言う!魔族制御装置が効かなくとも、大まかな指示さえ下せば後は勝手にやってくれる!祟り鬼神がバハーラ諸共エスペラント王国を滅ぼしたあとでビーコンを回収すればいい!」

 

部下の忠告を怒りながら問題ないと切り捨て、ダクシルドは祟り鬼神を解き放ち、エスペラント王国に放った。これで問題ないと言う考えが覆されるまで、そう長い時間は掛からなかった。

 

数十分後、またしても部下が報告しにやって来た。今度は顔を真っ青にしている。

 

「祟り鬼神が一体残らず倒されました!」

「何だと!?エスペラント王国はどうなった?!」

「いまだ健在の模様!なお、祟り鬼神やバハーラの洗脳が解けたのには、魔王ノスグーラを倒した日本国が関与している模様!」

「ええぃ!忌々しい日本国め!」

 

そう吐き捨てると、ダクシルドは考えを巡した。最早こうなってしまった以上、奥の手を使うしか道は残されていないと考え、部下に言う。

 

「おい!撤収するぞ!邪竜アジ・ダハーカの封印を解くぞ!」

「本気ですか!?あれは我が国の魔力測定機が振り切れる程の魔力を有している正真正銘のバケモノです!エスペラント王国のビーコンどころかグラメウス大陸に程近いフィルアデス大陸のビーコンも破壊されかねません!」

「地中に埋まっているビーコンを奴が破壊できるとは思えん!それよりもエスペラント王国が滅べばそれでいい!」

 

部下は希望的観測が混じっている事を指摘したかったが、酷く腹を立てている様子を見て口にする事はなかった。

 

そして、ダクシルドは十分に離れた上で、火口内部に魔族制御装置で操った適当なオークを使ってアジ・ダハーカの封印を解いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

アジ・ダハーカは1万数千年ぶりに目覚めて、南下を始めた。かの竜の思考は空腹を満たすための餌と封印をほどこした光翼人を始めとする下等種族への怒りだった。アジ・ダハーカは一番近くのエスペラント王国に目を付けたのだ。

 

だが、それを阻もうとしたのが日本国航空自衛隊であった。稲荷神の指示で魔物の大軍を空爆するためにやって来た航空自衛隊は、爆装を補充した上で再度やって来たのだ。

 

護衛の戦闘機や爆撃機による攻撃がエスペラント王国へ向かうアジ・ダハーカに襲い掛かる。攻撃はアッサリとアジ・ダハーカに通り、頭部が全損したり、胴体に大穴が空く。だが、次の瞬間には再生が始まり、終わってしまった。

 

アジ・ダハーカは自身の身体を壊した羽虫を壊そうと、鼻先に魔法陣を展開する。それを見ていたバハーラが言う。

 

「あれは!アジ・ダハーカの分解魔法!アレに当たったら塵も残らないぞ!」

 

これを聞いた稲荷神はすぐに戦闘機及び爆撃機パイロットに連絡。全機が距離を取った。

 

魔法陣が完全に展開され、魔法が発射された。しかし、音速を超える航空機に誘導機能もないビームが当たる訳もなく、それは空振りに終わった。だが、この分解魔法とは恐ろしい物であった。

 

何しろ、空間断絶と振動波を組み合わせる事で、空間断絶内の全ての物を振動波によって分子レベルに粉々にしてしまうのだ。だが、幸いにして機動性の高い自衛隊機には命中しなかった。

 

そんな事を知らない稲荷神達はアジ・ダハーカを倒す方法を考える。空対地誘導ミサイルですら再生してしまう。そんな相手に絶えず攻撃を加える消耗戦を仕掛けるのは悪手だ。

 

だが、ここには稲荷神がいるのだ。稲荷神は自身の感知できる範囲であれば狐火を発動できる。狐火を稲荷神が発動すると、アジ・ダハーカの全身が青い炎に包まれた。アジ・ダハーカは再生しようと努力するが、それも叶わず、封印から目覚めて1時間も経たずして討伐されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

バハーラは確信した。日本国こそが太陽神の使いであり、稲荷神こそ太陽神の御息女であると。だとするならば、自衛隊は神の軍隊と言うことになる。バハーラは天啓だと考え、稲荷神の下を訪れていた。

 

「稲荷神様、少し宜しいでしょうか?」

「なんですか?」

 

稲荷神の許可を得て、バハーラは頭を下げていった。

 

「稲荷神様、及び日本国にお願いしたいのです!我らが鬼姫、巫女であらせられるエルヤ様をアニュンリール皇国から取り返して貰いたい!我々が頼むのもお門違いだが、我々には手段がない!このままでは我々は滅亡してしまう!」

 

バハーラの言葉に驚いた稲荷神は詳しい事情を聞いた。そして、決断を下した。

 

「分かりました。その願い聞き届けましょう。ですが、場所を特定する必要がありますから、下手をすると年単位の時間が掛かります。その間は自衛隊の守りを付けましょう」

「ありがとう御座います!我ら一同感謝申し上げます!」

 

後日、日本国はエスペラント王国及び鬼人族の国ヘイスカネンと国交を結ぶことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、エスペラント王国では亡国の危機が過ぎ去った事を祝って王城で祝賀会が開かれていた。その際に、エスペラント王国側から驚きの物を見せられた。

 

それは、第二次世界大戦時に活躍…とは行かないが日本国で運用されていた巡洋艦。史実の冷戦期にミサイル黎明期のミサイル巡洋艦、島風の姿がハッキリとしたカラー写真で映し出されていた。

 

エスペラント王国の者が言うには、

 

「国宝の魔写であり、太陽神の使いが使用した鋼鉄の神船です。彼らの放つ誘導魔光弾と呼ばれる長距離爆裂魔法は魔軍を撤退に追い込んだと言われています」

 

この写真に日本国の者達は歴史の生き証人である稲荷神の方を向いたのは無理ないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜現在〜

 

「とまぁ、こんな事があったんですよ。まさか当時の写真が残っているとは思いませんでした」

 

そう言った稲荷神の言葉は、ミサイル巡洋艦島風が写っている写真があった事に驚きと言うよりも懐かしさを感じている様子だった。

 

「まあ、写真があった所で問題ないですけど自衛官が1人現地結婚するとは思ってもみませんでしたよ」

 

そう、エスペラント王国に派遣された部隊の中に、ある世界線(原作)においてエスペラント王国の事件を解決した岡真司がいたのだ。彼は隠れた王族であったサフィーネと婚約を果たして、結婚したのだ。

 

つまり、エスペラント王国の次期国王は国王の身分に興味がないセイではなく、岡が国王になると言う事であった。

 

そんなエスペラント王国だが、現在は国交を結んだ影響で日本国の立憲君主制を取り入れている過渡期である。他にも、天才科学者であるザメンホフ27世の息子、元王太子のセイは自衛隊との交流を深めて、マスケット銃を第二次世界大戦レベルにまで約1ヶ月と少しで高めている。

 

また、日本国が開墾したグラメウス大陸だが、未開の地である事から豊富な天然資源がある事が分かった。クイラ王国には劣るが、石炭や石油と言った天然資源が豊富にある。他にも、各種属性魔石や希少金属などもある。

 

その中でも最も素晴らしい発見が、オリハルコンの鉱床だった。オリハルコンは極めて産出量が少なく、魔法版のレアメタルやレアアースと言った所だろう。

 

そのオリハルコンの特徴として、鉄より頑丈、腐食に強く、密度も低い。オリハルコンと言う希少性とコストに目を瞑れば、鉄より万能だ。

 

この万能金属を調べた結果、ケイ素とアルミニウムなどの合金金属である事が分かった。だが、そこに高濃度の魔素が長年を掛けて染み込み、圧縮される事で生まれるらしい。

 

そして、この万能金属に目をつけたのは国と電力会社だった。日本国では地球世界時代において、各国に先駆けて核融合発電に取り組んでいるが、核融合の熱量に耐えられる合金加工に難儀していた。だが、このオリハルコンさえあれば、その問題を解決できるとあっては、力を入れるのは当然だろう。

 

日本国はオリハルコンを使った核融合発電所を試験的に導入しているが、発電事情が劇的に改善され、電気代の値下げが出来るほどだ。核融合発電は数mg程度の燃料で国民1人分の1年間の使用電力を賄えるとあってはその力の入れようが分かるだろう。

 

そして、魔法文明国として神聖ミリシアル帝国も、グラメウス大陸で産出される魔法金属や魔帝の遺跡調査を行っている。

 

その代表格がトーパ王国より4000km離れたグラメウス大陸の奥地にあるグーラドロアと呼ばれる荒野に存在する魔王ノスグーラが拠点としていたダレルグーラ城がある。この地は極地に位置し、日照時間は極端に短い。その極寒の地からは高濃度の魔素が湧き出てると言う人類には非常に厳しい土地にある。だが、現在では十分な装備を着用すれば訪れる事は可能である為に、4人の勇者パーティしか訪れなかったこの地には、近年ではダクシルドや神聖ミリシアル帝国と日本国の調査団が訪れている。

 

その中には、魔物の生態や成長記録、魔帝が汎用的な魔法兵器を使用するまでは、遺伝子操作した魔物を使役していたことが分かっている。また、魔王ノスグーラの製造方法なども記載されており、魔帝研究に一役買っている。日本国側も科学的知見から分かった事も多く、双方に利益ある調査だった。

 

そんな希少な鉱物や遺跡があるエスペラント王国は発展しない訳がなく、今や"北方の列強"とまで言われる様になった。

 

一時は、魔王討伐隊を見捨てたとして、トーパ王国と険悪な時期もあったが、今や和解して同国と国交を結び、急速に発展・成長している。

 






〜コラム〜

オリハルコン

着想はこの作品を執筆初期からありました。理由としては、神聖ミリシアル帝国の艦艇です。彼らは〇〇級〇〇と金属の名前が使われています。オリハルコン級やミスリル級といった風に。なので、オリハルコンもこの世界にあるのだろう。と言う考えのもと今回登場しました。

性能に関しては紹介した通りですが、オリハルコンは万能金属と言えど加工技術がしっかりしていなければ扱えません。なので、運用できるのは最低でもムー国レベルでなければ扱えません。

※エスペラント王国の預言に関してはバッサリカットさせてもらいました。

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次回からクルセイリース編いきます!

グラ・バルカス帝国の存亡について

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