クルセイリース大聖王国
ー第三文明圏外文明国クルセイリース大聖王国ー
時間はグラ・バルカス帝国本土決戦前に遡る。
ロデニウス大陸より南東約1300kmの地点に、シルカーク王国と呼ばれる文明圏外国が存在する。更にそこから1700km程度離れた場所に縦横500km程度の十字型の島が存在する。
その島を支配する国の名をクルセイリース大聖王国と言う。クルセイリース大聖王国聖都セイダー。
この地域一帯を属国に置く、謂わばパーパルディア皇国のリンドヴルムやグラ・バルカス帝国グレードアトラスター級戦艦の様に、この国には力の象徴とも言える物があった。
それは、空飛ぶ船。飛空艦隊と呼ばれる、船に日本では使用が少なくなっているヘリコプターの回転翼機を取り付けている様に見える代物だ。
そんな武力を誇るクルセイリース大聖王国の聖都テンジー城で会議が開かれようとしていた。参加しているのは、聖王シュウジを始めとする以下の者達だった。
・聖王シュウジ
・軍王ミネート
・外務卿サトシル
・聖王女ニース
などの幹部を始めとする国の重鎮が揃っていた。内政担当卿が会議の宣言をすると共に、話始めた。
「お配り致しました資料の通り、今年の属領の収支報告です。既に限界まで税金を掛けている以上、これ以上の課税は属領が蜂起しかねません」
重苦しい雰囲気が会議場を包んだ。自国民に対して課税を強める訳にも行かず、かと言って属領からのさらなる課税は無理。八方塞がりだった。
「しかし、だからといって支出を抑える訳には行きません。民は自らの生活が豊かになる事が当然だと考え、贅沢を辞めれば更なる国家成長の停滞となるだろう」
一息置いて、彼は続けた。
「やはり、東方国家を侵略し、新たな属領として収入を得るしかないでしょう。ジュウジ聖王様。東方国家征伐の許可をお与え下さい。軍部では既に東方国家征伐のプランは立案済みです」
強硬派のトップとして君臨している軍王ミネートの会議の場を借りての派兵許可の求めに皆が驚きを隠せない。そこに待ったをかけたのが穏健派のトップとして知られる聖王女ニースである。彼女は軍の知識も王女としては豊富であり、軍は強硬派のミネート派閥と穏健派のニースに分かれている。
「今の属領があるのは飛行艦隊のお蔭です。空からの攻撃という軍事的アドバンテージがあってこそ我が国は勝利してきました。しかし、東方国家群へは航続距離が足らないはずです。戦争では無く、別の方法で国を富ますべきではないでしょうか?!」
聖王女の指摘に、軍王ミネートは感心したのかこう言った。
「…聖王女ニース様が軍についてよく理解している事について、嬉しく思います。最後に報告しようと考えていましたが、皆さんにお伝えします。現在、我が国の飛空艦は最新の技術革新によって航続距離が従来の300kmから1500kmへと5倍に変化しました。これにより、東方国家の一部地域が攻撃可能に、また、海流の影響で開拓が困難だった北西新世界の調査及び討伐も可能でしょう」
驚くべき報告だが、更なる朗報があった。
「また、他国と比べても同程度だった騎士団も魔導具の進歩によって大幅な強化が齎されました。その最たる例が研究中だった振動波増幅装置が遂に実用化しました!騎士が行使する魔法威力も向上しました。我々は軍事力を飛躍的に向上させたのです!」
ミネートの演説じみた言葉は甘い誘惑だった。支出が増大して、国民の不満が増えていく中での技術革新による軍事力の増大は魅力的だった。
「ミネートの考えは理解した。しかし、他国の民も生活を営んでいる。東方国家に対して侵略をいきなりするのではなく、交易といった別の栄える道を探るべきだ」
強硬派が幅を利かせているクルセイリース大聖王国や軍内部では穏健派は少ない。聖王ジュウジは相当な穏健派だと言うことが分かるだろう。
「軍事力を使うのは最後の手段だ。それに、北西には単独国家ではなく文明圏と言う高度文明の共同体があると言うではないか。調査を慎重に進めるべきだ」
ロデニウス大陸より南東1300kmのシルカーク王国とその周辺国から南東方向に流れる海流の影響で属領である島国、タルクリスに漂流物や漂流者がやって来る事がある。
「ジュウジ聖王様。それは慎重が過ぎるという物です。3年前の漂流軍艦を拿捕した所、彼らの技術力はたかが知れています。漂流者から聞いた話でも彼らが列強として恐れるパーパルディア皇国でさえ帆船の魔導戦列艦です。航空戦力もワイバーンの改良型という話です。飛空艦隊であれば勝利を掴むのは容易でしょう」
軍王ミネートの言葉も一理ある。ジュウジはそう考え妥協案を出した。
「だが、規模の大きな国家も多い。まずは調査だ」
「分かりました。聖王様はお優しい…」
クルセイリース大聖王国は属領タルクリスを経由して飛空艦隊を用いた北西文明の調査を決定した。
◆
ー第三文明圏外シルカーク王国ー
シルカーク王国は、第三文明圏外の南東端の国だ。この国は南東を海流によって阻まれ、ロデニウス大陸などの大規模な国家と離れていることから仮想敵国がいない国だ。だが、情報は入ってくるので、日本国とも交流を重ねている。
そんな国に、日本国の外交官朝田が赴任していた。彼は転移してから多忙だった事もあり、仕事が比較的少ないこの国に赴任したのだ。そして、朝田は外務省から未知の国家の調査を頼まれている。それは、シルカーク王国より南東1300kmにある国だ。現在、別班が調査をしているが、彼は別のアプローチからの調査を頼まれている。
彼は未知の国家を頭の片隅に置いて、この後のシルカーク王国外務卿の会談に向けて用意をするのだった。
◆
ーシルカーク王国王都タカク日本国大使館ー
日本国大使館の前には数台の馬車が横付けされている。その中から綺羅びやかな衣装を着た者が大使館に向かう。その後ろからは部下なのか、付き人が続く。その光景は最早行列であった。
その様子に、朝田と同じく異動した事務員が感嘆する。
「凄いですね。日本の影響力は」
「それだけ我が国、延いては稲荷神様を尊敬している。あるいは畏怖の目を向けているのでしょうね。我々で言ったら外務大臣や副大臣、次官が部下を連れてくる様な物ですから。我々が出向く所なのに、あちらから来るの点からもわが国を重要視しているのでしょう」
彼らは大使館内の会議室に向かうのだった。
会議室にて、シルカーク王国の使節を出迎えるために朝田達は彼らを待っていた。やがて、扉が開き、シルカーク王国外務卿であるカルクがやって来た。
「カルク外務卿。この度は大使館までご足労頂き、感謝申し上げます」
朝田と事務員は立ち上がり一礼する。カルク外務卿も貴族とは思えぬ低姿勢で挨拶をする。そして、会議が始まった。
会議は終始シルカーク王国側が平身低頭での対応で進んだ。だが、飛行場設置の案だけはシルカーク王国の国内法によって待ったを掛けられていた。シルカーク王国がこの様な態度を取っていたのは日本国がロデニウス大陸の強国ロウリア王国を滅ぼし、パーパルディア皇国まで打倒した軍事力を恐れているからだ。その軍事力が自分達に向けられない様に必死なのだ。
世界から恐れられるグラ・バルカス帝国相手にも善戦している相手を敵に回したくはなかったのだ。
会議が終盤に差し掛かった時、カルク外務卿は窓の外に船が3隻飛んでいるのに気付いた。それを見て、カルク外務卿はある予測が浮かんだ。
「朝田殿、あれは貴国のヘリコプターと言う物ですか?」
日本大使館がある王都タカクでは他国の航空機或いはワイバーンの類の飛行は許可がおりなければ使用してはならない。だが、彼の知識の中で回転翼機を実用化しているのは日本国だけだ。だからこそ、機嫌を損ねないの様に事実確認を取る。朝田は件の船を双眼鏡で見る。
「どうやって飛んでるんだ…」
「朝田殿。王都タカク上空は他国の飛行禁止区域です。このままですと王都に来ますので、移動先の変更をお伝えしたいのですが…」
「いえ、あの様な物を我々は持っていません」
その言葉にカルク外務卿は青褪めた。
「どうされました?」
「回転翼機は日本国しか持ち得ないというのが、我が軍の常識です。竜騎士も敵対せずに王都上空に招きかねません。しかも編隊を飛ばしてくる連中です。敵対的である可能性が高い。朝田殿、今日のところは失礼します!」
そう言って、カルク外務卿は慌てて帰っていった。この一連の騒動に、朝田は忙しくなることを予感した。
◆
ー第三文明圏外シルカーク王国王都タカク東上空ー
シルカーク王国王都タカクの東側の空に意外な物が現れた。船が空を飛んでいるのだ。マストには菱形を2つ重ねた様な十字の模様が描かれている。
彼らはクルセイリース大聖王国の軍であった。3隻の飛空艦は北西の文明圏と呼ばれる勢力の調査、偵察、威嚇を兼ねてやって来ていた。
彼らは長い船旅?を終えてシルカーク王国に辿り着いた。地上には海に張り付くように白を基調とした建物が並んでいる。
「やはりこの方向には文明があったのか…」
外交武官であるカムーラは呟く。そして、高笑いする。
「やはり事前調査通り我々より遥かに劣っているな!」
この世界の外交官としてはスタンダードな彼の態度に聖王女ニースの騎士として軍に籍を置きながら活動していたミラが注意を促す。
「カムーラ殿、我々は制圧ではなく外交に来ています。他国の接触と調査が今回の目的で有る事を忘れてはなりません」
「耄碌したか?領土の広さは国力の広さだ。飛空艦の航続距離が伸びて新天地が見つかったのだ!新世界だぞ!」
「目標を見失ってはいけません。それは聖王女ニース様、そして聖王ジュウジ様も望みではない」
聖王女ニースの騎士をやっているだけの部下が自分に意見する事を嫌ったのか、カムーラは不快感を隠そうともせず舌打ちする。
「チッ。おっ、ワイバーンだ。攻撃を受けたら撃ち落とせ!良い交渉材料になるぞ!」
カムーラの考えは、日本国の機体だと思っている竜騎士の誘導によって失敗に終わり、王城南側の訓練施設に着陸したのだった。
◆
ーシルカーク王国王都タカク王城サルカ城ー
いきなりやって来た未知の飛空船団。日本国の機体かと思いきや、クルセイリース大聖王国と言う未知の高度文明の船であった。本来ならば外交官が相手をするのだが、相手は未知の高度文明。故に、外務卿であるカルク外務卿が相手をする事になった。
「クルセイリース大聖王国の皆様、お会い出来て光栄です。して、今回は何用でしょう?」
カルク外務卿が社交辞令を言うと、カムーラが言う。
「私は外交武官のカムーラと言う。貴国とは国交を結びたく思う」
そう言って、ミラから事前の資料を受け取ってカルク外務卿に手渡した。カルク外務卿は資料を読む。そこには、呑むことが出来る内容から、こちらの利が無いものまで様々だった。そして、「国交を結びに来た」と言っていたが、軍事力による脅しも暗に示している。だが、この要求を受け入れれば、日本国と対決路線を歩みかねない。彼らとしてはリーム王国の二の舞になるのだけは防ぎたかった。
「この内容は呑む事は出来ない。我が国は日本国と友好関係にある。日本国を裏切る事は出来ない」
カルク外務卿の言葉にカムーラは疑問を感じながらも言う。
「日本国?なんだ、既に宗主国がいたのか。我々と手を組む方が利益になると言うのに。ああ、貴国より上位の共同体として文明圏なるものが存在し、貴国周辺では列強のパーパルディア皇国なる国が猛威を振るい、広大な地域を支配しているのも調査済みだ。列強と恐れるパーパルディア皇国でさえ、我が国からすれば赤子同然よ。それは日本国とて同類だ。2ヶ月の猶予をやろう」
「どうやら、認識が甘いようですね。パーパルディア皇国は既に日本国によって滅ぼされました。日本国とパーパルディア皇国の技術力は貴殿の言った通り赤子と大人、それ以上の技術力があるのだ。調査を怠り、滅んだ国は多い。2ヶ月。それが貴国の命日だと思え」
クルセイリース大聖王国とシルカーク王国との会談は最後通牒とも言えるやり取りに終わったのだった。
◆
シルカーク王国王都タカク王城南側の訓練場で待機していた飛空艦の船団の艦隊長シエドロンは、部下からの報告を聞いていた。
「艦隊長!北方約150km地点に飛行物体を確認しました!付近にも何機か確認しています」
「ワイバーンではないのか?」
「いえ、魔力探知機ではなく、魔導電磁レーダーで確認したものです」
「…珍しいな」
飛空艦を飛ばすにしても、大量の魔力を消費する。だが、魔導電磁レーダーに反応したという事は、魔力を使わずに飛行しているという事になる。シエドロンは興味が湧き、帰国の前に外交使節に説明した上で調査をして行くことになった。
◆
飛空艦3隻は新しく魔導電磁レーダーで探知した飛行物体の調査に向かった。艦橋には外交武官のカムーラと聖王女ニースの騎士ミラも未知の飛行物体に興味を持ち、視察に来ていた。
彼らの目に飛び込んできたのは、外交官移送用の自衛隊の輸送ヘリコプターである。今や自衛隊ではヘリコプターの殆どはドローンに取って代わられ、輸送用やレスキュー用などの非戦闘地域での運用に限定されている。
「あれは…飛空艦?」
「かなり小さいな…」
「速度はわが方と同じか、少し速い程度ですかな?」
皆が意見を言う中、カムーラは言う。
「あれでは碌な対空兵器も載せられまい。小さく貧弱。あの様な物は我が軍にはない。我々とは技術格差があるだろうな。我が国以外にも飛空艦を運用しているとは思いもしなかったが、我が国には絶対に勝てん」
自国の技術力を過信しているのか、カムーラは碌に考えもせずに断言する。そして、側面に日の丸が有るのを見つけた。
「あれは…先ほどの外交官が言っていた白地と赤丸の国旗を持つのが日本国との話だったな。日本国の技術力確かに周辺国やパーパルディア皇国より高いだろうが、わが国とは比べようがない!」
たった数機のヘリコプターだけで、日本国の実力を判断する様子に、ミラは苦言を呈す。
「カムーラ殿、あれが日本国の主要の船と判断するのは早計では?辺境の地に旧式艦を配備しているだけかも知れない。調査をせずに判断を下すのは…」
「黙れ。領土の拡張こそ軍王ミネート様が求める物。聖王ジュウジ様の意向で調査をしているが、軍部は早急に領土を拡張すべきと判断しているのだ。日本国などお山の大将に過ぎない」
彼らは周辺調査の後にクルセイリース大聖王国に帰国した。その後の報告書では「小型飛空艦を運用している国有り」との報告がなされたが、軍部は重要視せず、ミラの「日本国調査するべき」との報告は一蹴された。
〜コラム〜
原作との相違点
①聖王ジュウジが暗殺されていない
②朝田が原作ほど疲労していない
え〜と、稲荷神様出せませんでした!次は出します!ペロリスト様お許しを!
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