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ー第三文明圏外シルカーク王国王都タカク上空ー
クルセイリース大聖王国の調査団を乗せた輸送用ヘリコプターは離陸し、ロデニウス大陸のクイラ王国へ向けて飛行していた。
ヘリコプターの中で生活調査員と偽って同行している聖王女ニースは日本人には聞こえないようにミラに話し掛ける。
「アバドンさんの言う通りだと思います。このヘリコプター?を見ても我々の技術の方が高いと思います。日本国については警戒する必要はなかったのでは?そう思ってしまいます。ですが、中小国だからといって武力を見せつけるのだけが外交ではありませんから」
ヘリコプターを見ただけで自国が上だと思う聖王女ニースに、ミラは苦言を呈す。ニースもミラから報告された映像魔導具の事を思い出し、楽観的な意見だと思った。
だが、ニースは顔色が悪い魔法技師テタルに声を掛ける。
「テタルさん、顔色が宜しくありませんが乗り物酔いでもしましたか?」
「ニース…さんでしたね。これを見てください」
そう言ってテタルは自身が持っていた魔力測定機の針を指差す。針は零の目盛りで微動だにしない。
「この魔力測定機、この機体の魔力に反応しないのです。故障を疑いましたが、私の魔力を流すと作動します。つまり、この機体は一切の魔力を使っていないと言うことになります」
「まあ…日本国は不思議ですわね」
「ええ。魔力を使用せずにこの機体を飛ばすとなると空気を押し出して飛ぶ必要があります。この機体の大きさから逆算すれば、高出力の動力が必要なのです!」
「それなら、わが国の魔導出力機が更に凄いと言うことでは?」
「いえ、わが国の飛空艦は魔力を使用しますが、この機体は使用していません。それに、わが国の飛空艦が時速200km後半が限界です。これは飛行方式の限界であり小型化しても意味がありません。しかし、日本国のヘリコプターなる物は空気を飛ばしている。つまりは、飛空艦以上の速度を出す機体があると言うことです」
「もっと速い飛空艦があると?」
「間違いなくあると思われます」
魔法技師テタルは、日本国の技術の片鱗を見て戦慄していた。そんな二人の会話を稲荷神の耳はすべて感じ取っていたのだが、話すこともないので放って置く。
やがて、輸送用ヘリコプターはシルカーク王国領の群島での補給の後にロデニウス大陸、クイラ王国に到着することになる。
◆
ー第三文明圏外ロデニウス大陸クイラ王国ー
「乗り継ぎで申し訳ありませんが、あちらの飛行機にお乗り換えをお願いします」
クイラ王国にあるムー国と日本国、クイラ王国が共同管理する飛行場にてヘリコプターから飛行機に乗り換える。彼らの目の前には、稲荷神専用のプライベートジェット機があった。本来は稲荷神の外遊や被災地近辺に向かうための飛行機だが、稲荷神の許可を得て使用するに至った。
尚、稲荷神は小市民でありプライベートジェットを殆ど使わないのである。
閑話休題
「ほう、少しは大きい飛空艦があるじゃないか。だが、武器を積み込む場所がないぞ。お前としてはどう見る?」
魔戦騎士団長アバドンは、飛空艦隊長シエドロンに意見を求める。
「この大きな翼でワイバーンの様に飛行するのでしょうか?しかし、魔力測定機が反応しない。未知の文明と言うものは、力量を推し量れない」
つまりは、「わからない」と言うのがシエドロンの答えだった。
「しかし、威厳の無い形だな。戦いになればアッサリと勝ちそうだ」
暗に稲荷神専用プライベートジェット機を撃墜させると言った2人に、稲荷神を除く日本国側から殺気の混じった視線を向けられる。
そんな事を知らずに話している2人に割って入ったのが、魔法技師テタルだった。
「アバドン様、シエドロン様、お話の所申し訳ありませんが、あの機体、物凄く速いです」
テタルは根っからの技術者であり、国同士の対立に関心を抱かない。彼がプライベートジェット機を見た時、あまりの美しさにため息すら出そうになった。
圧倒的な大きさ、綺麗な流線型、翼にあるのがエンジンだと見抜いた。と同時に彼は、これ程の大きさの機体を魔力も使わずに飛ぶ程のエンジン出力に驚愕した。クルセイリース大聖王国の技術を知っているだけに、日本国の技術が自国より勝っているのは明確だった。だが、技術を知らない軍人達は、見た目と偏見から自分達が上だと馬鹿真面目に言っている。
とてもではないが、恥ずかしくて日本人には聞かれたくなかった。なので、彼は会話を止めに入ったのだ。
◆
彼らはプライベートジェットに乗る。途中、稲荷神同様に動物の耳や尻尾と言った物を付けた者達を見て目を丸くした。
クルセイリース大聖王国本土には獣人と呼ばれる者達はいない。その他属領についても同様だ。故に、稲荷神や獣人に好奇の目を向けていた。
彼らは未知の発見に驚きながらもプライベートジェットに乗る。彼らは言われるがままに座席に座り、シートベルトを付ける。機体が離陸を始める。
低く、重い音と共にシートへ身体が押し付けられる。彼らが体験したこともない加速だった。機体はあっという間に飛空艦の速度を超えて地上を離れる。機体は信じられないほどの速度と上昇スピードで空に昇る。
調査団の面々は驚愕に包まれ、やがて飛空艦の限界高度すら超えて成層圏に辿り着く。水平方向になった事でシートベルトを外せるようになった事を朝田が伝えた。
飛空艦隊長官シエドロンから日本国の飛空艦に対する優越感は消え、朝田に尋ねる。
「朝田殿、この機体は時速何kmで飛行しているのだ?」
「そうですね…」
朝田も稲荷神専用プライベートジェット機など乗った事もないので知識がない。見かねたのか、近衛兵の1人が耳打ちをする。
「失礼しました。マッハ0.95、つまり時速約1170kmです」
「じ…時速1000kmを超えると言うのですか?!」
「ええ。ヘリコプターでは時間がかかるので乗り換えて頂きました。後2時間半ほどで首都東京に到着する予定です」
「そうですか…」
シエドロンは冷や汗を流していたが、彼の中で自国の飛空艦とこの機体の戦力差を冷静に思考していた。
(民間機でこのスピードなのだ。軍用機ともなれば、この機体よりも速度は上だろう)
彼の背筋には薄暗い物を感じた。そんな事を思っている内に、機体は日本国の首都東京上空へ到達した。かすかに薄暗くなり始めた空に東京の街の明かりが輝く。
ニースは窓の外に映る東京の街並みを見渡す。密集したビル群とカラフルな灯りが見える。これ程の大規模建造物群を作り出す日本国の技術力、国力に圧倒させる。外から見える景色は美しく、ニースは感動を覚えるのだった。
◆
ー第三文明圏外日本国首都東京帝国ホテルー
クルセイリース大聖王国の調査団には帝国ホテルの1つの階が貸し切りとして割り当てられた。調査団9名のうち、6名が小会議室を貸し切って会議をしていた。
「付近に人の気配はしません。飛空艦からこの街を見た時、日本国が途轍もない国力と技術力を持つ国だと言うことが理解できました」
生活調査員であるニースの言葉にシエドロンが反応する。
「我々が乗ってきたあの機体も恐ろしく速い。わが国の飛空艦では捕らえることが出来ない。あれが軍用機ではないのだから恐ろしい」
飛空艦隊はクルセイリース大聖王国の軍事的優位を支え続けてきた部隊だ。それを率いるシエドロンの言葉は重い。
「アバドン殿、日本国を刺激しない様にお願いします」
「分かっている。この数時間で日本国の技術力と国力は十分に理解できた。しかし、魔戦騎士団の技術力も上がっている。飛空艦の性能は劣るだろうが、陸戦兵器によっては勝利の可能性はあるだろう」
飛空艦の性能差を認めつつ、陸戦兵器の違いが分からないアバドンは、希望的観測と思いつつも勝利の可能性を言う。調査団団長のミラは魔法技師テタルの方を見る。
「テタルさんはどう見ますか?」
「日本国は、わが国とは全く異なる技術体系を構築しているので、上限が分かりません。街を走る車と呼ばれる物、電車と呼ばれる大規模移動手段、そのどれもが魔力を感じません。ですが、技術力が我が国より上なのは間違いないでしょう」
結論として、日本国は国力、技術力共にクルセイリース大聖王国を上回る可能性が大と言う結論だった。
「明日の視察からこの国をしっかり見極めましょう」
ミラの言葉に各々は頷き、会議は終わった。調査員は部屋に戻っていった。彼らの会話が、別班の諜報員によって仕掛けられた盗聴器で盗み聞きされている事も知らずに…
◆
ー第三文明圏外列強日本国首都東京帝国ホテルエントランスー
クルセイリース大聖王国日本国調査団は帝国ホテルのエントランスに集まっていた。
「おはようございます」
外交官の朝田が挨拶をする。そして、一日の予定を説明する。
「本日は自衛隊の見学を行う予定でしたが、先に会談をして頂きたく思います」
朝田自身、急な会談に戸惑っていたが稲荷神がオッケーサインを出した以上、朝田に否はない。
「日本国の西に位置する島国であるガハラ神国と呼ばれる国がクルセイリース大聖王国の皆様との会談を所望されています。急な会談であるため断る事も可能ですが、どうされますか?」
日本国はクルセイリース大聖王国の事を周辺国に通達していなかった。彼の国の事を知っているのはシルカーク王国、ムー国、神聖ミリシアル帝国、日本国のみだ。故に、ガハラ神国が知る筈はないのだが、
『神示があったので会わせてほしい』
と、調査団受け入れと宿泊しているホテル、部屋番号まで言い当てられては言い逃れは出来なかった。ガハラ神国は神通力を操る民であり、日本神話のような雰囲気を強く持つ国だ。
日本国政府としては断る理由もなく、クルセイリース大聖王国側が許可すれば会談するつもりであった。クルセイリース大聖王国側からすると、"神国"と大層な名前だが、日本国が仲介をする以上、情報収集を主としている彼らが断る選択肢はなく、会談は行われる事になった。
◆
ー日本国ガハラ神国大使館ー
和の趣きを感じられる会議室にて、クルセイリース大聖王国9名、ガハラ神国の使者2人、日本国から3名の案内役と稲荷神、2名の書記が付いた。
「初めまして。私はガハラ神国のクシナダと申します。横にいるのがスサノウです。この度は会談に応じて下さりありがとう御座います」
古風な民族衣装に身を包んだ美人が話す。彼女は日本国の神話の怪物の名前を言う。
「結論から申し上げます。
日本神話の怪物、妖怪を出されて皆は困惑する。だが、クシナダは続けて言う。
「この
この言葉にクルセイリース大聖王国の面々は驚く。似たような神話が語られた事に驚き、ニースは問う。
「建国神話の邪神が復活すると言うのですか?!それは封印が弱まっていると言う解釈で宜しいのでしょうか?!」
「それは一部正しいです。確かに封印に綻びが生じていますが、それは小規模。今すぐ封印が解けることは極々低確率でしょう。しかし、人為的な理由なのです」
荒唐無稽な話だが、過去に自衛隊が魔王の軍隊と戦った事もあるので嘘とは言い切れない。
「その
「強さは日本国の神話にある通り、8つの谷と8つの峰を覆う巨龍です。しかし、強さは全盛期の半分程でしょう。付近の住人を喰らい、やがては日本国の島根県出雲市須佐神社にある自身の身体を取り戻しに来るでしょう」
この言葉に一番驚いたのは稲荷神だ。
「日本に来るんですか?!」
「はい。その通りです」
稲荷神は
「そして、
目を閉じて語ったクシナダは、クルセイリース大聖王国の調査団の方をみて言う。
「十字の民よ。
「…あまりに抽象的です。仮に我々がその事実を告げたとしても、国民が信じるかどうか…」
難しい顔をしてニースが言う。その言葉に他の調査員も頷いている。
「分かりました」
クシナダは目を閉じる。すると、額にほのかな光の球が現れる。
「何の魔法だ?」
「魔法ではない。神通力だ」
魔法とは異なる"神通力"なる物を見せつけられ、クルセイリース大聖王国の者達は興味が湧くもの、得体の知れないものを見る者など反応は様々だ。
アバドンとスサノウがやり取りをしている間にクシナダは額の光の球を消していた。
「具体的にお伝えします。
クルセイリース大聖王国側は大混乱だ。軍王ミネートの事など一言も話していない。なのに、言い当ててきた。クルセイリース大聖王国はガハラ神国の神通力なる物を日本国の次に警戒した。
日本国側も一国の使者が荒唐無稽な作り話を言うと云うのも考え難い。その上、最高統治者であり自衛隊最高指揮官である稲荷神からも対策を命じられては、日本国としても無視することは出来なかった。
〜コラム〜
日本神話に登場したスサノオが討伐した妖怪。詳しいことは次回本編で説明する。
グラ・バルカス帝国の存亡について
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徹底抗戦からの無条件降伏
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