ー第三文明圏外文明国クルセイリース大聖王国聖都セイダーー
聖都セイダーでは騒ぎが起こっていた。何故なら、クルセイリース大聖王国軍がクーデタを起こしたからだ。
クーデタを起こしたのは強硬派の将校達だ。彼らは軍王ミネートから現状の財政赤字を知らされ、北西の新天地を侵略して国を豊かにしようと考えたからだ。
彼らは穏健派として知られる聖王ジュウジを殺害。また、穏健派としても知られる聖王女ニースをも手に掛けようとしたが、彼女は調査団の一員として日本国に行っていたので難を逃れることに成功。帰国することは叶わず、調査団の者達は帰国する者と亡命する者に分かれ、聖王女ニースと調査団団長ミラはシルカーク王国に亡命することになった。
そして、クーデタを起こした強硬派の将校たちは軍王ミネートによって鎮圧された。彼らは、彼らが信頼するミネートに裏切られたのだ。
強硬派の暴走を鎮圧したという実績を持った軍王ミネートは一部の政治音痴から絶大な支持を得た。その筆頭が聖母ラミスである。
彼女は聖王女ニースと聖王子ヤリスラの母、つまりは聖王ジュウジの正妻にあたるのだが、強硬派とまでは行かないが、強硬派よりなのは確かである。そして、聖王ジュウジの後継として聖王子ヤリスラが実権を握ったが、彼は5歳であり、実権は実質的には聖母ラミスが握っている。
そんなクーデタによる混乱が収束し、シルカーク王国に回答の期限とした2ヶ月が迫る中、聖王国大方針会議が開かれることになった。
国の方針を左右する決議を取るときに開かれるクルセイリース大聖王国にとって重要な会議である。
この会議の出席者は以下の通りだ。
・聖王子ヤリスラ
・聖母ラミス
・軍王ミネート
・外務卿サトシル
・総務卿ワイデス
その他国の重鎮が出席している。会議が始まり、軍王ミネートによって配られた資料を見て、皆が唾をのむ。
そこには、北西世界への侵攻計画が記されていた。
「飛空艦が技術革新によって航続距離が延びたのは皆さんもご存知だと思います。これにより、本土より北西の属領であるタルクリスへの飛空艦隊の派遣が可能になりました。既にタルクリスに基地建設を指示し、間もなく完成します。資料にありますようにシルカーク王国なる国を確認しました。同国の軍事力は低く、わが飛空艦隊で鎧袖一触でしょう」
軍王ミネートは力強く言う。
「第三文明圏と呼ばれる地域にはパーパルディア皇国と呼ばれる列強がいました。しかし、調査の結果から我が飛空艦隊であれば圧倒出来るでしょう。そして、我が国の繁栄を約束され、歴史にのることになるでしょう」
「しかし、調査報告書を確認しましたが、その内容が事実だとして、勝算はあるのでしょうか?」
外務卿サトシルは軍王ミネートに問う。
「ご心配なく。万が一に侵攻作戦が失敗し、パーパルディア皇国や日本国が攻め入っても問題ありません。軍は先日、黒月族の遺産を入手しました」
「と、申されますと?」
ニヤリとミネートは笑っていう。
「黒月族の対魔帝用の決戦兵器。キル・ラヴァーナルです。しかも、稼働率は100%です」
この言葉で日和見だった者達も開戦に舵を切った。
「キル・ラヴァーナル。神話の遺産、負けるはずが無い」
総務卿は目を輝かせる。
「私も見つけた時は全身が震えました。我が国は神に祝福されているとしか思えません。この戦い、必ずや勝利を得られるでしょう。皆さん異論はありませんか?」
「我が国の繁栄が約束されているのに異論などあるはずがない!」
「ミネート殿の手腕は素晴らしいな」
外務卿サトシルと総務卿ワイデスは賛成の意を示す。そして、この場で最も権力を持つ聖母ラミスが口を開いた。
「私は軍王ミネートの実績を良く知っています。私はミネートに絶対の信を置いています。今回の北西世界開拓、賛成致します。聖王子様もよろしいですか?」
「はい。母様」
穏健派が排除され、強硬派一色となったクルセイリース大聖王国は北西世界開拓一択となり、実権を握る聖王子ヤリスラの言葉もあって北西世界への侵攻を決定。その手始めとして第三文明圏外国家、シルカーク王国へ軍を派遣した。
◆
ー第三文明圏外文明国クルセイリース大聖王国属領タルクリスー
クルセイリース大聖王国本土より北西方向約1000km程に四国の四分の一程度の面積を持つ楔形の島、タルクリスがある。同島に新設された北西世界開拓用の総合基地セキトメイはクルセイリース大聖王国の基地の中で2番目に大きい。本土以外では最大の大きさを誇る。
基地を見渡すと、彼らの誇る最新鋭の100門級魔導飛空戦艦ダルイアが見える。その数は100を超え海の上に浮かんでいる艦もある。
この基地でシルカーク王国侵攻作戦会議が開かれる。
「それでは、会議を始めます」
楔形の卓上に各艦の艦長や軍幹部、作戦本部が席を置いている。後ろには円形状の中堅幹部が席を置いている。
「では、作戦会議に先立って新しく飛空艦隊長官に就任されたターコルイズ殿にご挨拶願います」
皆が拍手で卓上の上座に向かうターコルイズを迎える。彼が上座に来て、手で合図を送る。すると、拍手をしていた出席者は拍手を止める。
彼は日本国の幻惑魔法に掛かったと判断したミネートによって前任者のシエドロンの後継として就任した。彼はこの歴史に残る作戦の司令官に就任出来たことを誇りに思っていた。
「諸君、我が国は幸運にも北西の新世界の開拓を任された。我が国の技術力と国力によって北西世界に我々の力を持って繁栄を齎す。その第一撃に我々は選ばれたのだ。今回の攻略対象はシルカーク王国と呼ばれる小国だ。だが、軍王ミネート様は列強と呼ばれるパーパルディア皇国、そして日本国と呼ばれる正体不明な国が参戦する可能性を考慮して、100隻という膨大な数を用意された。期待に応えるため、諸君は作戦概要をしっかりと頭に入れろ」
そう言って、彼は作戦概要を述べる。
「今回の作戦はシルカーク王国が降伏しない事を前提としている。ゆえに、外交結果次第では作戦は中止される。それを前もって言っておく。しかし、外交交渉が決裂した場合、シルカーク王国半径500kmの空域および海域を移動する船舶及び航空戦力は全て撃沈させよ。そのままシルカーク王国まで向かい、王都を砲撃して上層部を全滅させ、属国に組み込む」
具体的な作戦とは言い難いが、自国の力に自信を持っている彼らはこれで十分だと考えていた。
「しかし、まだシルカーク王国側の返答を聞いていない。間もなく、外交部官殿が決めた猶予の2ヶ月目だ。外交武官であるカムーラ殿が成否の連絡を出国した段階で連絡。連絡を受け次第出撃する」
「では、これからシルカーク王国側に意思確認に向かいます」
外交武官のカムーラはシルカーク王国に向けて出国した。
◆
ー第三文明圏外シルカーク王国王都タカクー
王城であるサルカ城では、甲冑を着た兵士が慌ただしく動いていた。間もなく訪れる戦争に兵士達は緊張を隠せない。
しかし、余裕を隠さない者達が同城の来賓室にいた。貴賓室に控えていた外務卿のカルクは窓から見える空飛ぶ船を見て言う。
「皆さん、クルセイリース大聖王国の飛空艦が来ました」
そう言って、彼はソファに目をやる。そこには、パールネウス王国の軍人と日本国の軍人、両国の外交官が座っていた。
彼らの存在はカルク外務卿の心を安心させる。2ヶ月前に砲艦外交を仕掛けられて以降、彼は愛国心故に奔走した。なにせ、日本国の回転翼機と呼ばれる機体より大きな機体を飛ばしていたのだ。
高度文明なのは明らかでありながら、何処の文明圏にも属していない。第三文明圏外のシルカーク王国が敵う相手ではない。それを肌で感じ取ったからこそ第一文明圏に働き掛けた。
結果として、神聖ミリシアル帝国が動き、日本国がグラ・バルカス帝国と呼ばれる異界の帝国との戦争中にも関わらず援軍を派遣してくれた。
日本国の軍隊である自衛隊が派遣されると聞いて、彼は国が救われると歓喜し、涙した。その強さはパーパルディア皇国を滅ぼし、異界の帝国たるグラ・バルカス帝国をムー大陸から追い出した実績からも推しはかれる。
クルセイリース大聖王国からの砲艦外交など今の彼にとっては問題では無かった。彼は余裕を持って訓練場に着陸した飛空艦を出迎えに行くのだった。
◆
ーサルカ城迎賓室ー
クルセイリース大聖王国の使者としてカムーラが、シルカーク王国の代表としてカルク外務卿が、日本国の外交官朝田に、稲荷神。パールネウス王国外交官マイトが出席している。
クルセイリース大聖王国の外交武官であるカムーラは、前回の会談より参加人数が増えていることに気づく。そして、彼は自分達に対する対抗手段として同盟を組んだと結論づけた。だからといって、彼が態度を改める理由にはならない。
「ふん。弱小連合か」
この高圧的な態度に、朝田はウンザリする。彼としては、文明圏の国は大なり小なり似たような態度だったのだ。今までに何度も同じ対応をされたことがあるので最早様式美と化していた。
だが、数年前まで高圧的な態度を取る側だったパールネウス王国の者達は、普段自分達に取られる事はない高圧的態度にあからさまに不快感を露わにしていた。
「ではシルカーク王国の代表よ。返答を聞こう。我が国にくだり繁栄を選ぶか、それとも愚かにも反抗し、亡国を辿るか?」
そう聞かれたカルク外務卿はカムーラを睨見つけて言う。
「我が国の返答は決まっている」
「ほう。では聞かせてもらおう」
「我が国、シルカーク王国は品の無い無礼者に頭を垂れて支配を受け入れるつもりはない!即刻立ち去れ!」
カルク外務卿の叫びに、場に緊張が走る。
「馬鹿め!いくらレベルの低い弱小国が幾ら束になろうが、我が国の歩みを止められると思ったか!お前たちの無駄な足掻きで国民が滅ぶとは考えないのか!?」
語気が強くなったカムーラは、パールネウス王国と日本国の外交官を睨む。
「お前達の行動も我が国を知らない無知故の行動だ!シルカーク王国に味方すると言うことは、我が国に楯突くと言うことだ!我々の使う魔法は魔導具によって強化され、我々の飛空艦隊が貴様らの国の首都を覆い尽くす事を理解していないのか!?」
カムーラの言葉に我慢できなくなったのはパールネウス王国の外交官マイトだ。
「分かっていないのは貴様らだ!この国は文明圏外だがこの世界には文明圏の国々は文明圏外の国を凌駕する!その中でも列強は別格だ!それも、5大列強の一角がここにいるのだ!第1文明圏の古代兵器ですら敵わなかった西の果の侵略国家たるグラ・バルカス帝国の侵攻を押し返すほど日本国は強力なのだ!それを魔導戦列艦を空に飛ばした程度で支配できると思うな!」
彼は愛国心が強い外交官だ。だが、客観的な判断ができるとして今回派遣された。だが、カムーラの言葉に我慢できなくなってしまったのだ。
これを側で聞いていた朝田は呆れていた。確かに日本国は列強の一角として認められている。しかし、パールネウス王国はとっくに列強から転落して後釜にはイルネティア王国が座っている。つまり、この外交官の言葉は虎の尾を踏む狐に等しい。
「日本国の方々も言って下さい!」
マイトは朝田と稲荷神に話を振る。カムーラは2人の方を向く。朝田は稲荷神に目配せしてから口を開いた。
「我々としては、シルカーク王国に対する砲艦外交に伴う一連の強硬外交及び侵略姿勢は周辺国を不安定に陥れます。我々としては誠に遺憾と言わざるを得ません」
「それに、仕事が増えるのでやめて欲しいです」
朝田の言葉に付け加えて言う稲荷神にカムーラは面食らう。しかし、シルカーク王国やパールネウス王国は違った。
「おお、誠に遺憾が出たぞ!」
だが、カムーラの反応は違う。
「はんっ!誠に遺憾だと?!意思表明した所で何になる!低文明国の意思表明など我々には何の意味もないわ!」
「お前達は何を言っているのか分かっているのか!日本国が誠に遺憾とおっしゃられたのだぞ!国ごと消されるぞ!」
マイトの誇張表現に稲荷神はジト目を彼に向ける。稲荷神だって好んで国を滅ぼしている訳ではないのだ。まあ、日本国の圧倒的な実力を知っている彼からすれば"誠に遺憾"は日本国の最後の慈悲であると認識していた。
ここで、友好に切り替えるのなら問題ないが…
「よろしい。ならば我々、クルセイリース大聖王国はシルカーク王国に対して宣戦布告する。そして、シルカーク王国半径500kmの海域及び空域を移動する物体は全て攻撃対象となる。我々に逆らった事を後悔するがいい」
カムーラはいやらしく笑う。この態度に業を煮やしたカルク外務卿は睨みつけていった。
「無礼者め!さっさと失せろ!」
会談は破局に終わり、両国の戦争回避の芽は潰えたのだった。ついでに、稲荷神の休日も。
〜コラム〜
イルネティア王国の列強入り
元々イルネティア王国は、戦列艦などの速度は第二文明圏外でありながら第二文明圏の戦列艦より速く、魔導砲も第二文明圏と同等。海軍及び陸軍も充実。更に神竜がいるとなれば、列強に格上げされない理由がなかった。
イルネティア王国はイルネティア島本土とパガンダ島を領土に組み込んだ。因みに、レイフォル国は列強から転落している。
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