ー第三文明圏外シルカーク王国ヒシー島東150kmー
この日、空には大量の空飛ぶ船が飛行していた。その数はおよそ100隻。これらはクルセイリース大聖王国所属の飛空艦隊である。
彼らは、本国とシルカーク王国間との戦争回避に向けた外交交渉が破局に終わった事を外交武官たるカムーラからの連絡を受け、シルカーク王国を攻略するために同島に一番近い属領であるタルクリスに統合基地セキトメイを建設。そこからクルセイリース大聖王国軍のおよそ半分にも及ぶ大兵力が出陣していた。
そんな大艦隊の旗艦が100門級飛空戦艦ダルイアである。ダルイアに乗艦していたのは新世界開拓軍を率いる飛空艦隊司令長官であるターコルイズの気分は高揚していた。何故なら、自分の栄誉が目に見えていたからだ。
しかし、そんな考えに水を差す者が現れる。
「魔導電磁レーダーに感あり!0時の方向から魔導反応を感知!総数47、時速…350km以上出ています!」
「時速350km!想定よりも速い!」
クルセイリース大聖王国では、パーパルディア皇国。いやパールネウス王国のワイバーンの速度は速くても時速300km程度と見積もられていた。これは、漂流者からの聞き取りと自国に棲息するワイバーンの性能を加味してのものだった。しかし、それを上回る速度に皆は驚愕するが、すぐに自分の仕事に集中する。
「流石は列強と言った所でしょう。今までのどの国よりも速い!」
艦長タンソーは敵を褒める。その横で、ターコルイズは冷静に指示する。
「対空戦闘員に情報共有!敵は時速350kmだとな!」
そう言って指示を出し、彼は艦隊全体に向けて魔導マイク越しに話し掛けた。
「総員対空戦闘用意!0時より敵が向かっている!日頃の訓練の成果を見せてやれ!」
各艦のサイレンがけたたましく鳴り響き、兵達は持ち場に駆け足で向かう。そんな兵達を横目にタンソーはターコルイズに問う。
「司令、新世界の軍隊との衝突ですが極大魔法の使用はどうしますか?」
「あれは使用しない。魔力を食いすぎる。使用して帰投できなくなっても困る」
「承知しました!」
そして、敵航空戦力が飛空船の対空兵器の射程に近づくと、ターコルイズは命じる。
「対竜鳥滅殺陣展開!」
艦隊は高度を上げて敵の射線が通らず火炎弾が飛んでくる際に、他艦の陰に隠れられる陣形をとった。
「先頭の艦は順次、強度氷魔法術式を展開せよ!」
前方を飛行していた飛空艦の木の表面に塗られた特殊な魔導塗料によって艦の表面は極低温となる。乗組員は防寒着を着用している。
「対竜鳥連射式魔炎砲、魔力充填、魔力増幅!」
魔法使いが魔力充填をする。発射まで約1分と少し。飛空艦隊は迎撃準備をする。
◆
ーパールネウス王国対圏外文明国防衛艦隊竜騎士団ー
彼らは、クルセイリース大聖王国の飛空艦隊に向かって突撃していた。飛空艦隊は単純陣に近い陣形を取る。
高度を上げる様子を見て、ワイバーンロードからなる竜騎士団も急上昇する。航空機の上昇速度がヘリコプターに勝るように、ワイバーンロードの上昇速度も飛空艦よりも速い。
竜騎士団長リュウオ率いるワイバーンロードの編隊は上昇し、反転。急降下して敵を狙う。一糸乱れぬ編隊のまま、攻撃に移る。
「魔転式導力魔力火炎弾用意!」
ワイバーンロードは急降下しつつ、首を伸ばして攻撃態勢に移る。口の外側に火球が形成される。形成されつつある火炎弾は推進方向を軸に高速回転を始める。
これは、パールネウス王国が日本国の軍事技術を研究する過程で彼らはジャイロ効果を知った。そして、技術者達はこれを応用することでワイバーンの攻撃力も上昇するのではないかと考えた。結果から言うとこの目論見は成功し、命中率上昇、射程上昇、攻撃力上昇を世界で初めて齎した。
魔転式導力火炎弾はクルセイリース大聖王国の飛空艦隊の先頭艦に命中し、爆発する。
この光景に息を呑んだのがターコルイズ達だった。彼らは相手の力量を褒めると共に、自国の優位性を疑っていなかった。それを証明するかの如く、導力火炎弾が命中した結果、発生した炎は徐々に勢いを弱めて消えてしまった。
艦の表面は僅かに焦げた程度であり、運航に支障はなかった。ターコルイズは発射準備が整った対竜鳥連射式魔炎砲発射を命じた。砲の前方に立体的な六芒星の紋章が浮かび上がる。
パールネウス王国に対して、対空砲火が火を吹いた。
◆
パールネウス王国竜騎士団長リュウオは、自分達が放った導力火炎弾の効きが悪いと感じた。よく見てみると、艦を中心に青白いオーラに包まれており、甲板を走る兵士達は防寒着を着用している。
リュウオはそれが強力な氷魔法による物だと看破した。そして、別の敵艦を狙うべく導力火炎弾の次弾装填を行っていると、猛烈な光弾が自分達目掛けて飛んできた。
その物量に一旦は驚いたリュウオだったが、噂に聞く日本国の不可視攻撃やグラ・バルカス帝国の対空弾幕、神聖ミリシアル帝国の対空魔光弾に比べたら圧倒的に遅い。彼らは冷静に飛空艦隊との距離を詰める。
だが、距離が近づけば弾幕に命中してしまう騎体も多い。数は減ったが、全滅を覚悟するほどでは無い。決死の突撃から放った魔転式導力火炎弾の内、5発が30門級飛空戦艦に命中した。
◆
ターコルイズの眼前には、仲間の半数近くが撃墜されても迫ってくる敵方のワイバーンロードの編隊が映っていた。撤退することなく此方を攻撃しようとする姿勢に、彼は驚愕する。そして、敵方が放った導力火炎弾は飛空艦ブローンに命中した。
炎に包まれるブローン。魔信からはブローンの乗組員からの救難信号が届いていた。火に包まれた事で動力源の稼働率低下を引き起こし、高度を下げる。やがて、魔石燃料に引火したブローンは大爆発。その熱風は旗艦ダルイアにも伝わってきた。
自慢の飛空艦を一隻撃墜された事に、ターコルイズは憤りを隠せない。しかし、ダルイアの艦長たるタンソーは冷静に意見を述べる。
「ブローンは旧式艦でした。強度氷魔法術式も展開していませんでした。ブローンは残念でしたが、敵方の損耗率に比べれば我々の被害はブローン一隻の損失と軽微な損傷が多数。シルカーク王国攻略作戦には影響はないでしょう」
「ああ、だがパールネウス王国のワイバーンロードだったか?連射式魔炎砲が躱されるとは…奴らを攻撃する時は対策を考えねばなるまい」
「所で、パールネウス王国の艦隊はいかがしますか?」
ワイバーンロードの対策について思考していたターコルイズはタンソーの言葉で現実に戻ってきた。
「そうだな、今回の目的はシルカーク王国軍の拠点を潰すこと。航空戦力を失った艦隊など放置で構わない」
「了解しました」
彼らは意気揚々とシルカーク王国王都タカクに向かう…
◆
クルセイリース大聖王国とパールネウス王国所属の竜騎士団の戦闘が終わって約1時間後、飛空艦隊の旗艦ダルイアでは、艦長タンソーは飛空艦隊司令官ターコルイズと今後について話していた。
「司令、シルカーク王国の軍事拠点を潰しても、魔力に相当な余力があると思われます。その後の運用はいかがしますか?」
「うむ。やはり国民に恐怖を植え付けるために徹底的に攻撃を加えるべきだろう。我々の支配を受け入れなければ滅亡あるのみだと理解させる必要がある」
クルセイリース大聖王国の高級将校は100年先の未来を見据えた行動が取れるように、本職には及ばぬものの、政治学や外交能力等の国家運営に携わる知識を叩き込まれている。ターコルイズもその一人だった。
そして、彼は冷徹な作戦でも祖国の為にと割り切れる合理主義者であった。故に、彼は敵国の民を虐殺することになっても必要と割り切っていた。
「すみません。司令。魔信及び電磁無線システムに日本国自衛隊を名乗る者から我が艦隊に対して連絡が来ています」
「敵方と話すことなどない。無視するのが打倒だが…」
「それが、敵は我々の位置、高度まで言い当てています。その上で更に侵攻する場合攻撃をすると…司令官、あるいは代理の者が通信に応じるように求めています」
ターコルイズの直感が応答すべきだと警鐘をならしている。彼は己の直感に従うことにした。
「私はクルセイリース大聖王国軍、新世界開拓軍総司令官のターコルイズだ。何の要件だ?」
『私は日本国自衛隊最高指揮官稲荷神です。直ちにシルカーク王国から引き返しなさい。我々は、シルカーク王国の日本人を守る必要があります。シルカーク王国の領空に踏み入れた場合、あなた方を攻撃します』
この戦場に似つかわしくない幼子の少女の声に、笑い声がダルイアの艦橋に響いた。
「貴様らは何を言っている?我々は聖王国の意思により、低文明の王政に支配された国民を解放する。その為には、シルカーク王国の癌たる王都を焼き払う必要がある。我々は、聖王子ヤリスラ様、軍王ミネート様の指示によって行動している。お前達は、この聖なる行軍の邪魔をした。これは本国に歯向かうと同義だ。お前達は一隻残らず撃沈してやる。そもそも、お前のような幼子が最高指揮官など…程度が知れるな」
『では、引き返すつもりは無いと言うことですね?』
「くどい!貴様らは一隻残らず撃沈してやる!覚悟しておけ!」
そう言って、ターコルイズは通信を切った。
「よろしかったのですか?」
「パールネウス王国のワイバーンロードは脅威だが、たかが水上艦に何が出来る。まるで自分たちの方が実力が上だと言いたげな態度、気に食わん。対水上戦闘にちょうど良い。奴らの船、兵士を見逃すな」
何故ターコルイズがここまで強気に出られるのか。それは、彼が乗る旗艦ダルイアの性能にあった。旗艦ダルイアは他の飛空艦に搭載している魔力探知レーダーの他に、魔導電磁レーダーを搭載している。探知能力は他艦より極めて高性能であり、加えて高性能な管制能力もある。
このようなクルセイリース大聖王国軍の中でも高性能な設備と人員を兼ね備えたダルイアで日本国の艦隊を一隻残らず撃沈してやると彼は考えていたのだ。
そんなダルイアの管制室に勤務する者達は魔力探知レーダーと魔導電磁レーダーの画面に異変が発生していた。
「時速3000kmで高速接近する飛行物体を発見!数はレーダー故障により不明!」
「3000だと?!」
「レーダー故障と言うのなら見間違いでは?」
議論をしている間にも、その飛行物体は近づいてくる。
超高速で飛空艦隊上空を飛行していた、日本国海上自衛隊の空母から発艦した戦闘機富士は旗艦ダルイアの前を飛行していた比較的新型の80門級飛空戦艦サルファに"02式空対空レーザー"を撃ち込んだ。
音速の航空機の接近に気づくのに遅れて、強度氷魔法術式を発動する事が出来なかったサルファのプロペラに傷が付く。
ヘリコプターの弱点はローター(回転翼)だ。そこを、狙えば以下に空気力学に頼らない飛行をしていようと、動力を失えば航行が出来なくなるのは自明だ。サルファは回転翼が停止して急速に墜落していく。
サルファ含めて8隻が墜落する。その様子を見ていたターコルイズは呆然としていたが、部下からの激のお蔭で我に返り、迎撃命令をする。
「艦隊級極大閃光魔法発射陣形用意!魔法射撃管制を魔導電磁レーダーとリンクさせろ!」
「司令!レーダーは使用不可能です!」
「それなら観測手からの情報を下に手動管制をしろ!」
艦隊は敵の攻撃があった方向に艦首を向ける。陣形を組む間にも攻撃は続けられ、撃墜されていく艦が増えていく。だが、六芒星の魔法陣は形成することに成功。各艦の艦首に設置された大型魔石が魔力を帯びて光始めた。
12個ほどの魔法陣が展開される。しかし、本来なら魔導電磁レーダーとリンクして素早く魔法陣を展開する筈が、手動操作の為かアガルタ法国の魔法船団と同等の展開速度だ。
『敵を発見しました!敵飛行物体は我が方より上空、高度約2万mです!艦隊級極大閃光魔法クルスカリバーの射程に入ります!エネルギー充填100%、50kmの射程入りました!』
「クルスカリバー放て!」
陣形によって形成された六芒星。その周辺には古代文字による魔法陣が形成され、星の中心部からレーザーが発射される。計12本のレーザーは飛行物体目掛けて発射される。
しかし、人力での演算では音速を超える戦闘機富士を捉えることは不可能に等しい。
『駄目です!敵飛行物体が速すぎて命中しません!第一次防衛ライン突破されました!』
「拡散フレアを使え!」
『魔力転換!…エネルギー転換完了!中距離艦隊級極大火炎魔法拡散フレア放射!』
青白い魔法陣が赤く変化し、巨大な炎が扇状に展開される。これは、大量の竜騎士に襲われた際に空間制圧を目的とした拡散フレアだ。12から10にまで減った魔法陣から巨大な火炎放射が行われる。だが…
『駄目です!命中している筈なのに、目標未だ健在です!』
拡散フレアはあくまで同格の飛空艦や対ワイバーン用の兵器だ。木造船が燃える温度は約400℃から500℃に及ぶ。しかし、ジェット戦闘機は1000℃に及ぶ自身の排熱に耐えられる様に素材や設計がなされている。
ジェット戦闘機の素材はチタン合金や複合材が使われており、チタン合金の融点は1660℃であり、燃えることはない。つまり、拡散フレアはジェット戦闘機には無意味と言う事だ。
『第二次防衛ライン突破されました!』
「っ!近接最終防衛システム、リュウセイを起動せよ!」
『魔力転換…完了!艦隊級極大連光弾魔法リュウセイ発射!』
クルセイリース大聖王国の飛空艦隊が誇る最終防衛システムリュウセイは魔法陣中央部から1秒間に100発の光弾を発射する。如何なる敵航空戦力もこの3重の防御システムの前には無力だ。
広域にばら撒かれる様に発射される光弾はシューティングゲームの様だ。しかし、艦隊から離れる程弾幕の密度は低下する。密度の高い場所からはサッサと退避していた。安全な場所から、戦闘機富士もシューティングゲームのように"02式空対空レーザー"を飛空艦隊に向けて発射した。
『駄目です!敵射程圏外に退避しました!』
「攻撃やめ!各魔導出力最大!対物理攻撃装甲用意!」
空を彩った光弾は消え去り、飛空艦は装甲を強化する。ターコルイズ含めた彼らは、敵の攻撃ー"02式空対空レーザー"ーを耐えて欲しいと願う他なかった。
〜コラム〜
原作との相違
原作では飛空艦隊に対して艦対空誘導ミサイルを使用していたが、稲荷世界の日本は空母を保有しているので航空攻撃が可能。そして、飛空艦の耐久性を判断するために機関砲やレーザーを主に使用し、耐久性が高ければ誘導ミサイルを使用する手筈だったが、ローターを狙ったらあっけなく倒せたので誘導ミサイルは使用していない。
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