ー第三文明圏外シルカーク王国ヒシー島沖ー
シルカーク王国に侵攻するためにクルセイリース大聖王国の属領タルクリスから発進した飛空艦隊は危険な状態に陥っていた。
日本国の攻撃によって飛空艦数隻が撃墜され、3重にも及ぶ防衛システムが突破されてしまった。敵を撃墜しようにも敵は射程圏外に退避されてしまった。故に、艦隊司令官ターコルイズは対物理攻撃用装甲を強化した。
だが、日本国の攻撃は無情にも3隻の飛空艦に命中したのか、攻撃を受けた飛空艦は高度をみるみる内に落としている。
ターコルイズは3重もの防空網を突破して攻撃をしてくる敵に驚愕していた。こちらの手札が全く効かない敵に打つ手がなくなってしまった。しかし、敵は攻撃の手を緩めることはない。
『報告!飛空艦8隻が高度低下!敵の攻撃と思われます!』
これ以上の飛空艦の撃墜を防ぐためにターコルイズは禁じ手を使うことにした。
「エネルギー充填率を上昇!閃光魔法を使用せよ!」
「しかし、それでは魔石が持ちません!」
「構わん!このままでは全滅する!それでは元も子もない!魔法の射程を延伸して生存性を高めろ!」
「了解!クルスカリバーエネルギー充填率…120%、魔石耐久限界突破!」
「陣形再構築!敵座標位置把握!魔法陣形成完了!長距離艦隊級極大閃光魔法発射準備完了!」
「敵は射程圏内に入っているか!?」
「入っています!」
「クルスカリバー発射!」
12本の先ほどよりも太い閃光が空を駆ける。瞬間的に方向を変えて放たれるレーザー。飛空艦の航続距離の低下や各種機能を停止させかねない危険な手だった。誰もが命中する事を望んだが…
「命中していません!敵の速度が速すぎて手動での位置情報予測による術式構築が間に合いません!」
無情にも戦闘機富士は健在で、飛空艦のローター部分を狙って"02式空対空レーザー"を放っていく。
立て続けにローターが破壊され、急速に高度を下げていく。旗艦であるダルイアには救援要請や艦の現状を伝える魔信が届いていた。
「高度下げ!撃墜された飛空艦の救援に向かう!今すぐ高度を下げろ!その後、戦域を全速力で離脱せよ!」
日本国海上自衛隊の航空攻撃によって、クルセイリース大聖王国の飛空艦に40%の損耗を与えることに成功したのだった。
◆
ー第三文明圏外文明国クルセイリース大聖王国属領タルクリス統合基地セキトメイー
この日、北西世界の開拓の為に出発した飛空艦隊は作戦完了時刻よりも速く帰還してきた。その様子に、基地に勤める者たちは疑問符を浮かべた。
そして、ある者が帰ってきた飛空艦の数を見て少ないと判断した者達は飛空艦隊に起こった出来事を予感して、冷や汗を流していた。空を飛んでいた飛空艦隊は続々と
着陸をする中、飛空艦から地上に足を踏み入れた者達は悲壮感を漂わせていた。
ターコルイズは基地上層部と急ぎ情報共有をすべきだと考え、基地上層部も作戦完了時刻より速く帰ってきたことへの説明を求めていた。両者の意見は一致し、休む暇もなく会議をすることになった。
「これより、戦闘結果報告を致します」
そう言ってターコルイズ自らが説明を始めた。
「我々は、シルカーク王国に進路を進めていた所、パールネウス王国の竜騎士団に接敵、ワイバーンロードと呼ばれる新種により旧式艦のブローンが空中爆発しました。しかし、撃墜されたのはブローン一隻のみで我々は進み続けました。
しかし、途中で日本軍の最高指揮官を名乗る稲荷神なる人物からの警告を無視して進んだ所、魔導電磁レーダーが使用不可能になりました。魔力探知レーダーも反応せず、人力による索敵を行っていた所、音もなく8隻もの飛空艦が撃墜されました。
そこで私は艦隊級極大魔法クルスカリバーを使用しました。しかし、レーダーが使えない影響で人力による予測演算を強いられ命中しませんでした。次に、拡散フレアも使用しました。見張りの言葉によれば命中はしていたそうですが、効果がなかったとの事です。最後に極大連光弾魔法リュウセイを使用しました。しかし、敵の圧倒的な速度を前に射程圏外に退避されてしまい、効果を発揮しませんでした。
敵を撃墜するためにエネルギー充填率を高めて射程を伸ばしましたが、こちらも効果がありませんでした。この時点で此方の損耗率は40%を超えていたので撤退をした次第です」
ターコルイズの言葉に信じられない様子の基地上層部の者達。そのなかの一人が声を上げる。
「取り敢えず、戦闘結果はわかった。では、君がわかる範囲で敵の力を教えてくれ」
「はい。パールネウス王国のワイバーンの新種であるワイバーンロードは、我が国の属領及び本国の一部に棲息する風竜よりかは遅いです。時速約350km程でした。導力火炎弾の威力も高く、旧式艦とは言えブローンが撃墜されました。しかし、強度氷魔法術式で対処可能でした。しかし、日本国の航空戦力は次元が違い過ぎました。
奴らは時速3000kmと言う速度で接近し、音もなく飛空艦8隻を撃墜したのです。そこで私は3重もの防空システムを作動させましたがどれも不発。こちらの攻撃は躱されるか命中しても効果がなく、こちらの飛空艦は撃墜されました。日本国の能力として分かっているのは風竜をも軽くあしらう速度と目にも見えず音もしない攻撃を仕掛けてくると言う事です」
その言葉で場に沈黙が漂った。そして、飛空艦のレーダー性能に詳しい者が言う。
「時速3000kmともなるとレーダーが仮に正常に作動したとしても魔導位相による位置情報や予測演算が間に合わず、術式構築が間に合わない可能性が高い」
クルセイリース大聖王国の想定する航空戦力の速度を軽く超える速度を持つ日本国の兵器に恐怖を覚える。そして、様々な意見を出し合い、攻略するためのアプローチを模索したが、次の結論に落ち着いた。
『パールネウス王国であれば多少の被害はあれど攻略は可能。しかし、日本国相手では飛空艦を一方的に撃墜されるだけ』
戦闘結果を分析し、次の軍事作戦に繋げる。この冷静で合理的な思考によってクルセイリース大聖王国は連勝を続けていたのだ。
日本国との実戦を経験したターコルイズからすれば予想された結論ではあったが、実際に結論付けられると自身の功績に泥が付いたことを国が認める事になる。だが、そんな事で彼は合理性を捨てるほど愚かではなかった。
そして、基地上層部は日本国との衝突を"戦争"ではなく"紛争"として処理する事で、被害を最小限に、そして賠償を減らす事が提案され可決された。
◆
ターコルイズは夜に外交武官たるカムーラを呼んでいた。カムーラがターコルイズの自室に入ると、ターコルイズは本題をいきなり持ち掛けた。
「こんな夜更けに呼び出してしまってすまない。貴殿も既に戦闘結果は耳に入れていると思う。今回の戦闘を通してパールネウス王国はともかく、日本国との戦力差が明らかだ。このまま戦闘を続けては飛空艦隊は無駄に全滅するだけだ。だからこそ、戦火が拡大する前に紛争として処理したい。明日軍王様に上奏するつもりだ。貴殿からも外交面から根回しをお願いしたい」
カムーラの表情が曇り、ターコルイズの言葉に異を唱える。
「既にシルカーク王国に対して宣戦布告しています。ですので、紛争として処理するにしても賠償は必要でしょう。それよりも、飛空艦隊司令長官でありながら多数の戦力を有している状態で国の方針に異を唱えるつもりですか?!」
「精神論で勝てるのであればこの様な事を申していない!多大なコストと膨大な労力を使って建造した飛空艦と乗組員が一瞬にして消え失せるのだ!確かに戦力は十分に持っている。しかし、未だ十分な戦力を有しているからこそ有利な条件で講和できる!」
ターコルイズの言葉にカムーラは怒って唾を出す勢いでまくし立てた。
「ターコルイズ殿はご乱心なされている!北西新世界開拓はクルセイリース大聖王国の発展のために必要不可欠!聖王子ヤリスラ様も承認なされた国家事業です!それをたった1回の敗戦で覆す?笑わせないでください!」
「各人立場もある!しかし、発展の為に侵略をして負けてしまっては本末転倒だ!敗戦に乗じて属領が反乱を起こす可能性もある。北西新世界に拘る必要もない!」
ターコルイズの言葉にカムーラは嘲笑って言った。
「ふん!どうやらターコルイズ殿は自身の敗北を日本国のせいにして評価が低下するのを恐れているようだ。よろしい。私から軍王様に報告しておきます。失礼します」
「おいちょっとま…」
ターコルイズが制止する間もなくカムーラは部屋から出ていってしまった。ターコルイズの目論見はクルセイリース大聖王国の強硬派の頭でっかちによって打ち砕かれるのだった。
◆
ー翌日、クルセイリース大聖王国属領タルクリスー
シルカーク王国から一番近い領土であるヒシー島沖に約10隻の船が戦闘状態に入っていた。シルカーク王国に派遣された圏外文明国に対応するための海上自衛隊の部隊だった。
その内訳は空母朱雀を始めとする空母1隻、巡洋艦4隻、駆逐艦4隻、原子力潜水艦1隻だ。
稲荷神は海上自衛隊からシルカーク王国に接近していたクルセイリース大聖王国の飛空艦隊を撃退したと報告を受け、久しぶりの休日を奪われた腹いせかのように稲荷神自身が海上自衛隊の艦隊に乗り込んで彼らに攻撃を加える事を決定。
また、第1文明圏からの圧力もあり日本国政府も攻撃を支持、稲荷神に早急に敵基地を攻撃するようにお願いし、稲荷神は受諾。これからまさに攻撃を仕掛けようとしていた。
飛空艦が脅威ではないとしてタルクリスに近づいて砲撃する案も提案されたが、ドクトリンにそぐわない行動を取って不測の事態に陥ったら対応する事ができるか不安視され、当初の通り艦対地誘導弾を利用することになった。
それは、レーザーや炎の壁、防空射撃システムのような光弾など日本国の想像以上の対空システムがあったからこそ、対地システムがあっても可笑しくは無いとの判断も上記のドクトリン攻撃。つまりは艦対地誘導弾利用への支持の1つとなった。
艦対地誘導弾発射ボタンを稲荷神が艦隊司令官に促されて躊躇いなく押す。誘導弾は兵舎や格納庫、飛行場、燃料貯蔵施設、対空砲陣地、哨戒している飛空艦に目掛けて飛んでいく。稲荷神は事前に飛ばしておいた偵察ドローンから送られてくる映像を下に狐火を発動する準備をするのだった。
◆
ー第三文明圏外文明国クルセイリース大聖王国属領タルクリス統合基地セキトメイー
日本国の海上自衛隊による攻撃が始まる少し前、カムーラは施設の屋上でお茶を飲んでいた。
彼の脳裏には昨夜のターコルイズの言葉が復唱されていた。
『日本国との戦力差は明らかだ!だからこそ、今のうちに戦火を止める必要がある!』
「ふん。敗者の弁ですね。しかし、日本国が飛空艦隊を打倒した事もある。全てがデタラメと言う訳ではなさそうですね」
カムーラは無意識に空を見上げる。そこには、哨戒中の飛空艦2隻が力強く飛行していた。他国から見れば理解の範疇である船が空を飛ぶという常識外な戦力が彼のプライドを増長させていた。
艦対地誘導弾は海面スレスレに飛行し、哨戒中の飛空艦2隻に命中した。鋼鉄船すら破壊するエネルギーに木造船が耐え切れる筈もなく2隻は爆散し、爆発の炎は運悪く燃料に引火し、炎は兵舎に落ちて引火する。
彼が驚く間もなく次の攻撃がやって来た。炎上する兵舎に追撃をかけるかのように爆発が起こる。飛空艦の発着場が爆発でクレーターが出来る。魔石燃料の貯蔵庫に爆発によって発生した火が引火して火災が広がる。先日の戦闘を生き残って格納庫に収納されていた飛空艦、ドックにて修理されていた飛空艦。対空兵器が集まった対空砲陣地、そのどれもが爆発する。基地司令室のある建物も倒壊した。
セキトメイは瞬時に炎に包まれた。だが、そこに追い打ちをかけるように偵察ドローンから送られた情報を下に稲荷神が被害が少ないところに遠隔で狐火を放つ。
この光景に、カムーラはターコルイズの言葉が真実であるとその身で実感させられた。
◆
ターコルイズは日本国による攻撃が行われる前、夜遅くまで書類仕事に勤しんでいたので、仮眠を取っていた。しかし、日本国による攻撃によって発生した爆発音で目が覚めた。
敵襲とすぐ理解できた。だが、司令室に行こうにも司令室がある建物は既に倒壊しており、基地上層部の者達は兵舎で炎に包まれるか倒壊した建物と運命をともにしている。彼は現状を把握するためにすれ違う兵士を捕まえては現状を聞くが、誰一人として現状を把握していなかった。
彼はすぐに残った兵士に対空兵器による迎撃と救助活動を指示した。だが、彼の眼の前には基地機能が壊滅した燃え盛る基地の残骸と飛空艦があった。
彼はこの攻撃が日本国によるものであり、自分達を先日襲った不可視かつ、無音の攻撃とは異なる物であると実感した。今も断続的に青い炎が消えては燃えてを繰り返している。それも数十カ所でだ。
彼の中で日本国に対して未知の魔法を操る恐怖が膨れ上がった。彼はクルセイリース大聖王国の行く末を憂い、自身の考えが間違っていないのを実感したのだった。
〜コラム〜
風竜
クルセイリース大聖王国本土の一部や属領の一部で生息しているワイバーンの上位種。エモール王国やガハラ神国が使役する風竜と同一だが、クルセイリースには風竜を使役する技術がないので全て野生であり、軍事転換に成功しておらず、彼らは飛空艦以外の航空戦力はワイバーンに頼っている。
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