ー第三文明圏外文明国クルセイリース大聖王国聖都セイダーー
聖都セイダーに建造されたクルセイリース大聖王国軍本部。この建物の中に建てられた会議室の中で、軍王前会議が開かれていた。
議題は勿論、シルカーク王国領のヒシー島沖海戦の戦闘に伴う敗北である。豪華絢爛な十字型に建てられた軍本部会議室に集まった会議参加者は配られた資料を見て表情は曇っている。
事前にカムーラやターコルイズが根回しをしていたので戦闘結果は知っていたが、いざ数字で見るとクルセイリース大聖王国の歴史上類を見ない大敗北に皆衝撃を隠せない。
そんな中、一人の男が資料に折り目をはっきりと付けるほど強く握った。その男の手は震えており、時間と共に震えは増える。そして、我慢の限界に達したのか大声を上げた。
「何ですか?!これは?!」
聖都防衛竜騎士団長セイルートだ。透き通る銀髪、美しい声色、背の高い美男子。若くして竜騎士団長となり、女性人気も高い。そんな彼だが、悲鳴のような甲高い声で猛烈な怒りを隠さない。
「敵の対空攻撃を受けて飛空艦の40%を喪失?!我が竜騎士団のエアカバーを不要と切り捨てておきながら何たる醜態!ご説明願う!」
彼の言葉に軍王ミネートの側近が反論する。
「軍王ミネート様に対して無礼な!そもそも竜騎士団が不要と切り捨てたのは飛空艦隊司令官のターコルイズ殿だ!ミネート様を糾弾すること自体お門違いだ!」
「いいや無関係ではない。私はエアカバーの為に竜母方飛空艦の派遣を提案したが却下されている!最終決定権は軍王様にある!」
会議が紛糾する中、末席から声が響いた。
「セイルート様。失礼を承知で申し上げますが、竜騎士団が出向いても結果は変わらなかったかと思われます」
セイルートが声のする方を向くと、そこには外交武官の正装を着た男がいた。
「あなたは…誰だ?外交武官ごときが私に意見すると言うのですか?」
「私は外交武官カムーラと申します。資料は詳しく読まれましたでしょうか?」
セイルートの睨みにカムーラは動じずに言う。
「私自身、飛空艦隊さえあればシルカーク王国と後ろ盾の列強など勝てると思っていました。しかし、先日にシルカーク王国より一番近い属領のタルクリスの統合基地セキトメイは日本国による襲撃を受けました。その時、私は見ました。ワイバーンの導力火炎弾を凌駕する威力と速度を有していました。ターコルイズ殿が3重もの対空網を展開しましたが、効果がありませんでした。どうやら敵の航空戦力の速度は時速3000kmもあるそうです。果たして竜騎士団で対処できますか?」
カムーラも、ターコルイズに強気を言った手前セイルートとは同じ穴の狢だが、日本国の攻撃を見たことでターコルイズの言葉が嘘ではないと実感した。故に、国が亡ぶのを回避したい一心でターコルイズに協力することを彼は決意したのだ。
「貴様!我々が弱いと言いたいか?!」
「失礼ですが、時速3000kmにも及ぶ日本国の航空戦力に対して時速300km程度の竜騎士団では対処出来るとは思えません。聞けば、パールネウス王国が操るワイバーンロードですら時速350kmだと聞きます。勝てるかどうか怪しいものです」
「貴様!私を侮辱するのか!?」
会議は紛糾したが、軍王の一喝によって場は沈黙する。
「セイルートよ。この場に配られた資料が真実だ。実際に派遣した飛空艦隊が40%も損耗した以上全てがデタラメと言う事ではない。自分達が活躍できると言うのであれば与えられた場で結果を示せ」
「分かりました。結果を示しましょう」
「カムーラよ。お前の主張は理解したが、言い方には気を付けろ。階級はセイルートの方が上だからな」
「承知しました」
会議が紛糾した事で一旦は会議は休憩に入る。会議が再開し、情報部から報告がなされた。
「ヒシー島沖の海戦、そして統合基地セキトメイに対する攻撃を受けて我々が調査した結果敵方は我々の感知の外から攻撃を加える事が可能と判断しました。そして、敵方はシルカーク王国を拠点として我が国に攻め込む物と思われます」
連戦連勝のクルセイリース大聖王国軍に現れた強敵を前に皆が沈黙している。誰もが戦争から手を引く、あるいは敵を倒すかの2択を迫られていた。しかし、前者を提案すれば敗北主義者と呼ばれ、後者を提案すれば負けた際には責任を取らされかねない。
そんな打算と保身により、どちらの選択も取れず会議室には無駄に時間が流れていた。だが、そんな静寂を打ち破る者がいた。
「戦力の分散投入は悪手だ。故に、こちらの戦力を一箇所に集めて殲滅してしまえばいい。そうすれば再建には時間が掛かるはずだ。そうすれば抑止力となり、簡単には本土に攻め込めまい」
軍王ミネートの言葉に皆が疑った。それが出来れば苦労しない。だが、皆の心中を無視して彼は続ける。
「我が国の西の軍事都市、ワカスーカルトに敵艦隊をおびき寄せるのだ。そこに罠を張り、全戦力で殲滅できなければキラ・ラヴァーナルで滅ぼす」
「しかし、どうやって敵艦隊を集めるのですか?」
「我が国の国民は"勝ち"が当たり前となっている。和平をするには軍事力で黙らせるしか無いとでも言って、和平交渉の振りをする」
「意図は理解しましたが、市民への被害が予想されます」
「軍人の街だ。避難行動はすぐ取れる」
確かに、成功するか否かは置いておいても敵戦力を此方の全戦力で叩く案は軍事的に見ても良いのだろう。しかし、懸念があった。
「ですが、我が国の国際的な信用が落ちます。これ以上の関係悪化は好ましくありません。聖王子ヤリスラ様も反対なさるかと」
外交官だけあって今後の国際関係の悪化に懸念を示すカムーラ。だが、ミネートは疑問を抱いたような表情で言う。
「何か勘違いしていないか?表面的にはお前の独断の行動として処理され、国は関与しない。国への奉仕を誓ったのなら分かるな?」
カムーラは驚愕した。権力を盾に取った強制。断れば自分の首は物理的に飛ぶ。そんな凄みがあった。だが、成功すれば昇進は間違いないだろう。
カムーラの胃に穴が空くのも近いだろう。
◆
軍王前会議が中断されて休憩が取られた際、軍王ミネートは控室にて事前に渡された資料を見て頭を抱えた。
それは、シルカーク王国のヒシー島沖で行われたパールネウス王国と日本国との戦闘結果だった。パールネウス王国だけなら問題はなかったが、問題は日本国との戦闘結果だった。
こちらは飛空艦隊を40%損耗したのに対し、日本国側の損害は確認できる限りゼロ。しかも、敵の航空戦力の速さや攻撃能力を前に戦争終結が望ましいとの嘆願がターコルイズからなされていた。
彼からして見れば国の方針を決める聖王国大方針会議で成功すると大見得を切った以上、自身の権威が低下するのは目を見るよりも明らかだ。だが、権力に固執して道を誤るほどミネートは愚かではなかった。でなければ、軍王等という地位に留まっていない。
故に、彼はターコルイズが提案した講和か停戦に対して意欲を示していたが、どのような条件を提示するかで悩んでいた。
「ミネート様。飛空艦隊が敗れたとは真でしょうか?」
控室に入ってきたのはメナスだった。
「ああ。飛空艦隊が一方的に敗れた以上、敵国が強いのは明らかだ。キル・ラヴァーナルを使用するにしても本土を危険に晒す訳にもいかん。あの魔法は使用を禁じられているから選択肢にすらない」
ミネートの言葉にメナスは目を細めた。
「国の行く末が決まる以上、私の地位を守るために亡国の道を辿らせる訳にはいかん。ターコルイズの案に乗るしか…」
そう独り言のように呟いていた時、メナスの瞳が怪しく輝き、ミネートの目に光が失われる。それは数秒間続いたが、輝きはもとに戻っていた。
「…敵が強大なら敵艦隊を集めて我々の全戦力で一気に殲滅すればいい」
「ええ!いい考えだと思われます!」
そう結論づけて彼は会議室に戻り上記の意見を彼は提案したのだった。
◆
2週間後、シルカーク王国の日本国大使館にシルカーク王国を通してクルセイリース大聖王国外交官から連絡が入った。
その内容に朝田は驚愕した。その内容とは停戦、あるいは講和交渉に向けた話し合いをしたいとの事だった。彼はこの話を聞いた時、『そんな馬鹿な』と思った。クルセイリース大聖王国は日本国調査団の調査結果をデマと決めつけてシルカーク王国に侵攻したと聞く。
そんな自身の軍事知識の尺度でしか物事を図れない輩がたった1回の敗北で負けを認めるとは到底思えなかった。それは単なる予感ではなく根拠があってのことだった。
日本国を侮った国は数多くいた。ロウリア王国、パーパルディア皇国、グラ・バルカス帝国。そのどれもが日本国に対して野蛮人だの蛮族だの劣等人種だのと蔑み、過小評価し、稲荷神をも侮辱した。彼らの殆どは日本国に対して敗れ、グラ・バルカス帝国の命は風前の灯火だ。
クルセイリース大聖王国も日本国を侮っていた。そんな国が3カ国と違って合理的対応をする。とてもではないが朝田には信じられなかったのだ。だが、この後にクルセイリース大聖王国の外交官との会談が控えている。丁度、彼らの飛空艦が此方に向かっているのが見える。彼は一旦自分の考えを棚上げし、会談場所に向かった。
朝田はシルカーク王国が用意した馬車に乗って王城に向かっていた。何故なら、この戦争はあくまでもシルカーク王国とクルセイリース大聖王国との戦争であり、日本国とパールネウス王国は義勇軍に過ぎない。つまり、停戦、講和交渉はシルカーク王国と行うのが道理だからだ。
外交交渉の会場にやって来た朝田はクルセイリース大聖王国の外交官の到着をシルカーク王国、パールネウス王国と共に待っていた。同時期、会場の扉の前でカムーラは痛む胃を抑えていた。
前回はシルカーク王国、日本国、パールネウス王国を散々に煽り倒しておきながら、手の平を返して講和を求める事に屈辱を感じていた。しかも、策が失敗すれば自分の独断として国に切り捨てられる。自分が生き残るには成功させるしかない。彼は意を決して会議室の扉を開いた。
◆
会議室の円卓には日本国、パールネウス王国、シルカーク王国の外交官や武官が集まっていた。
《日本国》
・外交官朝田
・海上自衛隊シルカーク王国派遣部隊平田中将
・陸上自衛隊シルカーク王国派遣部隊長大内田
・航空自衛隊シルカーク王国派遣部隊長新原
・稲荷神
《パールネウス王国》
・竜騎士団長ハムート
・対圏外文明国防衛艦隊司令長官バイア
・蒸気戦艦艦長ガーラス
・外交官マイト
《シルカーク王国》
・外務卿カルク
・竜騎士団ヒーシル
・王都防衛騎士団長ビセキ
カルク外務卿は以前高圧的な態度をしてきたカムーラを睨見つけて言う。
「して、カムーラ殿。今回は何の御用でしょう?」
「今回は国の方針が変わりました。そのため、和平交渉に参りました」
カムーラは屈辱に耐えながら言う。そんな中、高笑いする者がいた。
「前回の会議の威勢はどこに行った?ご自慢の艦隊が我ら連合艦隊に敗れ、基地を失い、勝てぬと思って和平に来たのか?貴国の艦隊はあれが全てではないでしょうに」
パールネウス王国の外交官マイトの言葉にシルカーク王国の外務卿カルクの表情は曇り、日本国の者達、とくに稲荷神はジト目をマイトに向けていた。
シルカーク王国側からすれば早期の戦争終結が見込めるので、条件だけでも聞きたい思惑がある。それがマイトの言葉でご破産になる事を懸念していた。日本国側からすれば、パールネウス王国が活躍したのは艦艇1隻を撃破した程度であり、殆どは自国が撃破したのだ。それをさぞ自分達の手柄とでも言うべき発言に『厚かましい事この上ない』と言うのが皆の反応だった。
カムーラは外交文書(偽装文書)を日本国にのみ手渡した。これは、彼の精一杯の抵抗であり、日本国がいなければ侵攻計画は成功していたと言う意思の表れだ。
日本国は文書を代読した。そこには長ったらしく、言い回しがアレやコレやと書いてあったが要約すれば以下の通りである。
・シルカーク王国、日本国、パールネウス王国と個別に不可侵条約を結ぶ
・紛争当事国はクルセイリース大聖王国西部の都市ワカスーカルトにて調印式を行う
・国民を納得させるために艦隊の派遣を要請する
その他条件が課されていたが概ねはこの通りだ。外務卿カルクとしては、すぐにでも調印したかった。調印されれば、国の滅亡が回避できる。躍起になるのも無理はなかった。
前回の高圧的な態度とはうって代わった丁寧な態度に疑問に思った稲荷神は率直に問う。
「いったいどういった風の吹き回しですか?」
「国の方針が融和方針に代わったのです」
「前回の態度とはまるで違う印象です。クーデタが起こったと記憶していますが」
その言葉にカムーラは驚く。
「何故貴国がクーデタの事を知っているのかは存じませんが、この文書は本物であると明言させて頂きます」
その言葉に日本国の出席者一同は怪しさを覚えるも、取り敢えずは文書を受け取ることにした。
「では持ち帰って検討します」
「分かりました。結果が出るまでシルカーク王国にて待機いたします」
クルセイリース大聖王国の外交文書(偽装文書)は日本国の手に渡った。これからの事を考え、稲荷神は安堵するのだった。
〜コラム〜
軍王ミネート
原作では人の話を聞かなくなっていると回想している描写がある。それならば勝手に開戦に舵を切る訳ではないだろうとの考えのもと、性格改変をしている。メナスが怪しげな事をしているが…
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