ー第三文明圏外文明国クルセイリース大聖王国西部都市ワカスーカルトー
「ハル・カーク様。船が港に着きました」
「ありがとう。列強の船はやはり速いですね。流石日本国だ」
「よっこらせ」と言う掛け声と共に船から降りた彼はシルカーク王国王族の一人であり、全権大使であるハル・カークだ。
本来は日本国に護衛されて来る予定だったが、クルセイリース大聖王国の港に日本国の駆逐艦が入港出来るほどの水深ではなく、武装が貧弱なボートに乗るくらいなら、技術は低いがパールネウス王国が日本国の技術提供によって建造した蒸気戦艦に乗った方が安全だと言う判断だった。
彼の他にもカルク外務卿などの補佐官や護衛と共に甲板に出る。
「…ここがクルセイリースですか?」
クルセイリース大聖王国の外交官カムーラからは、調印式が行われる都市であるワカスーカルトは歴史ある都市と聞いていた。しかし、実際に近くから見てみると、暗い色を基調とし、武骨。歴史ある都市というより軍事都市と言う印象を受ける。この時点でクルセイリース大聖王国は罠を仕掛けていることをシルカーク王国使節団はクルセイリース大聖王国に対して怪訝な思いになる。
彼らは船から降りると、カムーラがやって来ている事に気付いた。だが、カムーラの顔は以前やって来た謙虚、誠実とは言い難い。敵国への恨みを募らせた現地人と言った印象を受けた。
「よく来た。シルカーク王国の方々。よく来られた。早速だがこの文書に署名してもらおう」
到着早々に文書を渡し、署名しろと迫る。調印式に相応しい会場に案内するでもなく、宿に案内するでもない。このような失礼極まりない態度にカムーラと面識があるカルク外務卿は怒鳴る。
「事前の話ではこの後は迎賓館に案内される筈では?!」
当然、クルセイリース大聖王国側からすれば軍事都市であるワカスーカルトに迎賓館などある筈もない。罠なのだから当然だ。
「ああ。迎賓館か。あそこは賓客をもてなす場所だ。お前達は賓客に値しない。その理由はそこに書いてある」
3ヶ月前のしおらしい態度とは一変、強気な態度に罠を確信する。文書を見てみると、そこには事前の内容には似ても似つかない。無条件降伏を迫る内容であり、属国化させる文書であった。
「こんな物が呑めるはずが無い!お前達は外交を何と心得る!」
「何を勘違いしている?最初からお前達を対等な国とは見ていない。我々が望むのは最初からお前達の属国化のみだ」
「貴様!このような内容、最初に渡された和平条件には記されていないぞ!」
怒るカルク外務卿。だが、カムーラは文書の写しの末尾の右下を指さして言う。
「何を言っている。この末尾右下に書いてあるが?」
よく見るとそこにはインクのシミの様な物があった。彼らは分からなかったが、虫眼鏡を持っているものが見たら驚愕しただろう。そこには、ミリ単位で『案』と記載されていたからだ。悪徳商法如きやり方を外交でやる事に怒る。
「このような無礼な内容、到底受け入れられない。調印式は破談とさせて頂く。ハル・カーク様。異論はありますか?」
「うむ。このような物を受け入れれば我がシルカーク王国王族の名誉に関わる。断固とした拒否を突きつけてやれ」
「と言うわけだ。この話は破談とさせてもらう」
「そうか、残念だ」
そう言ってカムーラは馬に乗って街の方に帰っていく。この光景を見ていたバイアは攻撃を受けると判断。すぐに指示を出す。
「錨をあげろ!風神の涙を最大出力!すぐに同海域を離脱する!」
彼らはすぐに行動を開始する。その時だった。
「日本軍夕立より魔信にて入魔!飛行物体探知!!南南東方向距離70km!!騎数120!速度211km、高度400m!」
「空中戦艦かワイバーンか…オーバーロードに迎撃要請!」
司令官の言葉に通信兵が伝達する。
「了解。飛行物体接近中!飛行物体接近中!竜騎士団は南南東方向に警戒に当たれ!交渉は決裂!交戦を許可する!交渉は決裂!交戦を許可する!」
哨戒中のワイバーンオーバーロードは雄叫びをあげて南南東に向かうのだった。
◆
ー第三文明圏外文明国クルセイリース大聖王国ワカスーカルト南南東約70kmー
この場所は滅多に人が立ち入ることはない。とワカスーカルトに住む軍人は思っている。だが、一部の部隊にのみその存在は知られていた。小高い山に円筒状の巨大洞窟があったのだ。
そこをクルセイリース大聖王国は航空基地に改造。飛空艦の整備場所やワイバーンの発着場にしたのだ。同基地は"コニア"と呼ばれていた。上空からは木々が鬱蒼とした森にしか見えない。
だが、日本国の人工衛星にしてみれば人の出入りから地下基地の存在は明らかだった。
閑話休題
整備された滑走路からは軍王ミネートから与えられた"場"にてワイバーンの力を見せつけるべく、聖都防衛竜騎士団が次々と飛びだっていく。その総数は約120騎。
力強く羽ばたくワイバーンを見て、聖都防衛竜騎士団団長セイルートは笑う。飛空艦の登場によって空の主役はワイバーンから飛空艦に取って代わられた。だが、ワイバーンが勝っているものは時速だ。圧倒的な機動力は飛空艦には無い強みだ。
彼は新たなドクトリンを作り出せばワイバーンの活用方法は必ずやあると信じてやまない。そして、今回の戦闘でワイバーンの有用性を認めさせ、立場が低下している竜騎士の地位向上を図る。セイルートにはこんな野望があった。
彼もまた、竜騎士の活躍を見届けるために基地を飛び立つのだった。
◆
パールネウス王国所属の蒸気戦艦は煙と帆を広げて移動していた。火の魔石と風神の涙を利用して進む蒸気戦艦。その艦橋で艦長ガーラスと司令官バイアがワカスーカルトの街並みを睨んでいた。
「ワイバーンが接近中!事前通告がないことから我が方への攻撃と断定!街への砲撃を開始しろ!」
ワカスーカルト湾からの砲撃を行うべく魔導砲への魔力充填を行う。彼らは日本国ほど軍民への区別をつけて攻撃をしない。
「魔導砲への魔力充填完了!目標、ワカスーカルト市街地!」
「魔導砲発射準備完了!」
砲撃準備完了の旨が伝えられ、司令官バイアは砲撃を敢行しようと試みる。しかし、マストの上にいた見張りが叫んだ。
「報告!山岳地帯にて多数の発砲炎を確認!繰り返す!発砲炎を確認!」
「回避行動を取れ!」
ワカスーカルト湾を囲むように山岳が形成されており、発砲炎が幾つも見える。数え切れない発砲炎の後に重奏の発砲音が響き渡る。
そして、28もの水柱が立つ。だが、同時に2本の炎も立った。
「右舷に被弾2カ所!」
砲弾によって出来た水柱の海水を浴びながら、見張りは踏ん張って報告する。
クルセイリース大聖王国の陸上牽引式魔導砲はパールネウス王国の蒸気戦艦の装甲と対魔弾鉄鋼式装甲の前には傷や凹ませる事も出来なかった。
理由としてはクルセイリース大聖王国側が蒸気戦艦の弱点を理解していなかったこと。最新の対魔弾徹甲式装甲に阻まれてしまったからだろう。
防御面には不安はなかったが、回避行動を取りながらの砲撃は困難を極め、発射位置への砲撃を行えずにいた。
続いて砲撃の第二波が飛来する。船が撃沈することはないだろうが、甲板に落ちてくれば人的被害は避けられない。彼らが死を覚悟した時だった。
突如として砲弾が青い炎に包まれ、砲弾は跡形も残らずに消滅する。稲荷神による狐火による力だった。続けて、駆逐艦夕立からの砲撃が行われる。
爆発音はパールネウス王国とクルセイリース大聖王国両国でも聞いたことが無い大きさと速度で立て続けに起きる。そして、発砲炎がした敵陣地が次々と炎上していた。
彼らは驚愕する。日本国の駆逐艦夕立が連続して発砲し、全弾命中させていることに。かつての列強であったパールネウス王国はかつての敵国の凄さを再認識するに至るのだった。
◆
ワカスーカルト南南東方向に向かう航空戦力があった。パールネウス王国の竜母から発艦したワイバーンオーバーロードである。
時速430kmもの速度で飛行する彼らは猛烈な風に晒されていた。そもそも、ワイバーンオーバーロードとは列強であったパーパルディア皇国時代に古の魔法帝国の遺伝子技術を一部流用して品種改良を施したものだ。
親となるワイバーンロードを厳選し、強化魔法陣の上で卵を培養する必要がある。その際に、魔法陣の保持のために多量な魔石を使用する必要がある。ワイバーンロードの従来の3倍の製造費用が掛かる。生殖機能も削除しているので1代限りであり、寿命も短い。完全な金食いトカゲであった。
だが、その性能はワイバーンロードよりも上回り、ムー国の"マリン"と互角の性能を有している。だが、その実情はお寒い限りであった。
実を言うと、そのコストの高さからワイバーンオーバーロードが配備されていたのは皇都エストシラント守備隊のみであり、日本国との戦争を前に呆気なく駆逐された。
故に、そのコストの高さからワイバーンオーバーロードを捨てて、"マリン"を始めとする飛行機械などを利用する案も出されたが、魔導エンジンも実用化出来ていないパールネウス王国に機械エンジンを生産、修理できる訳もなく将来的には飛行機械の実用化が望まれるが、今の所はワイバーンロードやワイバーンオーバーロードを利用している。
さて、そんなワイバーンオーバーロードの数は10騎。それに対して相手のワイバーンは120騎だ。だが、彼らはワイバーンとの実力差を理解していた。彼らは臆する事なくワイバーンの下に突撃した。
◆
ー日本国海上自衛隊駆逐艦夕立戦闘指揮所ー
「敵砲弾消滅を確認」
稲荷神がパールネウス王国の蒸気戦艦に向けて放たれた砲弾に向けて狐火を発動した。その様子はリアルタイムで確認された。
「総員戦闘配置!」
足が付かない高い椅子に座ったまま堂々と続ける。
「主砲を敵陣地に照準合わせ!」
「撃ち方始め!」
AIによって制御された砲塔は正確に、そして迅速に敵陣地を破壊する。そのあまりの速さに稲荷神は「もう終わり?」と呟く程であった。
「艦長!敵航空戦力はどうされますか!?」
「本来ならば対空レーザーや対空誘導弾を使用する所だが、パールネウス王国が航空戦力を出撃させたせいで両者共に使えないからな…」
事前にワイバーンオーバーロードを出撃するのを控えるように述べるべきだったが、後の祭りである。
「パールネウス王国のワイバーンは?」
稲荷神が艦長である竹嶋に問う。
「今すぐ確認します。場所は?」
「間もなく敵航空戦力と接敵します!」
「念のためパールネウス王国側に空域から離脱するように指示を出してください」
「承知しました!」
彼らは事前の取り決めとは違うパールネウス王国の行動に眉を顰めると共に、迎撃準備と高みの見物を試みるのだった。
◆
秘匿基地である"コニア"から発進した聖都防衛竜騎士団は空に浮かぶ飛行物体を確認した。それは上下に羽ばたいていた事から飛空艦ではない。ワイバーンである事は明らかだった。
嘗ては花形であった竜騎士団は飛空艦の登場によってその立場を追われ、2級戦の部隊であると見なされてきた。だが、敵ワイバーン部隊を殲滅して活躍するべく意気揚々とパールネウス王国のワイバーンオーバーロードに向かっていく。
だが、クルセイリース大聖王国の聖都防衛竜騎士団は奇妙な点を感じた。それは、敵のワイバーンが上昇してこないのだ。
いや、正確には上昇はしている。しかし、それは自分達と同じ速度であり追い越そうと考えていない。そう感じた。彼らの違和感の原因はクルセイリース大聖王国のドクトリンによるものだ。
彼らは戦闘において、敵よりも高度をとって相手のケツをとる事を是としている彼らにとって相手が"高度"に拘らない事に疑問を感じたが、ドクトリンの相違によるものだと違和感を無視した。
その代償は大きく、1騎のワイバーンが導力火炎弾によって撃墜される。実はパールネウス王国は太陽を背にして強襲を仕掛けてきたのだ。これは、グラ・バルカス帝国の戦術を取り入れた故の行動であった。
ワイバーンオーバーロードは魔転式導力火炎弾を放っていた。ワイバーンロードに出来た物がワイバーンオーバーロードに出来ない筈もなく、威力も射程も桁違いの攻撃が聖都防衛竜騎士団を襲ったのだ。
上から下に強襲を仕掛けてきたワイバーンは急上昇しつつ旋回する。戦場はあっという間に乱戦状態に陥った。聖都防衛竜騎士団は相手のワイバーンを狙うべくケツ取りを行う。しかし、全く追いつけない。それどころか距離が離されている。
圧倒的な数の差がある筈なのに友軍騎ばかり撃墜される。皆が皆、自分の事で必死になって友軍の事を気にする余裕はあっという間に無くなった。
クルセイリース大聖王国の聖都防衛竜騎士団はワイバーンオーバーロード10騎を一騎も撃墜すること無く終わった。
◆
先程まで魔信にて悲鳴が響いていたが、今やその魔信は静けさを取り戻していた。その様子を間近で見ていた者がいた。
その人物とは聖都防衛竜騎士団団長セイルートである。彼は竜騎士団の指揮のために離れた位置にいた為に撃墜を免れていた。敵国のワイバーンは圧倒的な数的劣勢でありながら、その巨大、速度、攻撃力、旋回能力。どれをとっても上回る物であった。
セイルートの心を占めたのは新世界のワイバーンへの恐怖だった。彼はプライドを殴り捨てて撤退を開始する。彼は今まで散々に嫌悪していた飛空艦隊が対処するべきだと考えていた。
散々に竜騎士団を馬鹿にしていた彼らが対処すべきだと、自分に言い訳をして撤退した。そして、幸運なことにパールネウス王国側も彼を攻撃することはなかった。
〜コラム〜
事前協議
Q.パールネウス王国と敵航空戦力に対しての対応について事前の取り決めをしていなかったのか?
A.取り決めはしていたが、パールネウス王国の担当空域に敵が侵入した為に対応にあたった。だが、敵のワイバーンが突破することも想定して撤退を要請していた。
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