稲荷様は平穏に暮らしたかった。   作:サード・アイ

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怪獣VS魔法and科学

 

 

ークルセイリース大聖王国ワカスーカルト沖合日本国海上自衛隊ー

 

海上自衛隊はパールネウス王国兵の救助を切り上げて沖合に避難していた。

 

理由は突如としてレーダーに現れた山よりも巨大な反応がこちらに向かっていたからだ。当初はクルセイリース大聖王国の兵器と思われていたが、『それ』が姿を現すと一同は言葉を失った。

 

目視でも分かるほどの大きさの大蛇が人型決戦兵器、日本国のコンバットフレームを巨大化させた様な兵器とドンパチを始めたのだ。それは、怪獣映画の様な迫力があったが、これは紛れもなく現実である。

 

日本人にとってコンバットフレームこそ、兵装や大きさなど異なるものの、人型兵器という点は見慣れたものだ。そして、巨大生物もまた日本人にとって見たことはなくとも、知っている者は多い。何故なら、8つの首を持つ蛇のような生物と言ったら日本神話の"八岐の大蛇(ヤマタノオロチ)"に他ならなかった。

 

「稲荷神様…どうかされましたか?」

 

稲荷神が偵察ドローンから送られる映像を食い入る様に見つめ、足をぶら〜ん、ぶら〜んと揺らしている。この様子に気付いた夕立の艦長は問う。

 

「だって怪獣決戦ですよ!胸が躍るじゃないですか!」

 

映画でしか見られない景色が現実に起きている。この事実に広く浅く前世で親しんでいたオタクである彼女にとってこのイベントは実に心躍る物であった。

 

「しかし、あの生物はクルセイリース大聖王国の生物兵器ではないのか?」

 

海上自衛隊はクルセイリース大聖王国で良からぬことが起きている事は理解できた。だが、現状を正しく理解できているのは稲荷神と平田少将のみであった。

 

"八岐の大蛇(ヤマタノオロチ)"に関して、ガハラ神国から齎された情報は混乱を招く恐れがあるとして政府高官や自衛隊高官にしか伝達されていなかった。故に、一般将兵達は"八岐の大蛇(ヤマタノオロチ)"の事を正しく理解出来ていなかった。

 

「無線を貸してくれますか?ありがとう」

 

稲荷神は取り敢えず現状を理解出来ている平田少将に指示を仰ぐべく連絡を取る。

 

「平田さん。これからどうしましょう?」

『そうですね。現状、人型兵器と"八岐の大蛇(ヤマタノオロチ)"が戦っています。ここは戦いを静観し、人型兵器が劣勢になれば"八岐の大蛇(ヤマタノオロチ)"攻撃に参加します。その後、人型兵器が此方に攻撃を加えるのなら、消耗している隙を突いて撃破します』

「了解しました」

 

そして、平田少将の言葉は命令としてシルカーク王国派遣部隊麾下の艦艇に伝達される。

 

 

 

 

◆

 

 

 

 

キル・ラヴァーナルの遠距離・高威力魔法である空間圧縮魔法は謂わばブラックホールだ。空間圧縮をすることで、世界に歪みを発生させ、その歪みの修復のために黒い球は周囲を手当たり次第に飲み込むのだ。

 

しかも、恐ろしいことにこの魔法は歪みが修復されるまでは敵味方構わず吸い込み続ける。

 

原理を理解せずとも、キル・ラヴァーナルを思いのままに操作できるエル・ガンエンにとってこの魔法で吸い込んだと思っていた。

 

だが、吸い込まれる途中で吸収が停止し重力に従って土砂が落下する中、エル・ガンエンは赤く鋭い瞳をモニター越しに見た。

 

その瞬間、警報が鳴り響いた。彼は警報の内容を見ると、右腕が切断されている旨の報告が書かれていた。実は、歪みを修復するのは何も物質だけとは限らない。魔力でも問題はないのだ。"八岐の大蛇(ヤマタノオロチ)"程の魔力量を誇る相手では多少の魔力を吸い取った事で歪みが修復されてしまったのだ。

 

そんな事を知らない彼は思う。建国神話に登場する化け物。それが実在するという事は神々が介入し封印したのも事実に近いという事になる。それが今になって解けたのは不可解だと考えたが、思考を振り払う。そんな事を論じている場合ではないからだ。

 

エル・ガンエンにとって神話の存在でも技術の進歩によって対抗出来ると信じて止まない。故に、彼は魔導砲700門を展開する。そして、砲弾を発射する。それは雨あられと見間違う量であった。

 

だが、悲しきかな。この魔導砲はエル・ガンエンの知識を下に3Dプリンタの如く作られている。技術畑でない彼が生成した魔導砲はオリジナルより劣る物であった。そして、旧パーパルディア皇国の牽引式魔導砲のようなものである以上、ムー国や神聖ミリシアル帝国、グラ・バルカス帝国とは比べるまでもなく威力は低い。

 

そして、彼は知らなかったがこの世界の魔物や竜は総じて魔力抵抗が高い。それが高位の魔物ともなると魔力抵抗は比べ物にならない。日本国が比較的容易に魔物を撃破出来たのも魔力抵抗が高く、物理抵抗が弱かったのに起因する。

 

"八岐の大蛇(ヤマタノオロチ)"程の存在になると魔力抵抗は桁違いだ。つまり、彼の攻撃は全くの無駄足という事である。

 

キル・ラヴァーナルは"八岐の大蛇(ヤマタノオロチ)"のレーザーによって右足を破壊される。人型兵器である以上、キル・ラヴァーナルは重心の偏りによって右半身が地上に倒れる。

 

"八岐の大蛇(ヤマタノオロチ)"は追撃のレーザーを放つ。今度は左腕が切断される。そのレーザーはキル・ラヴァーナルを越え、駆逐艦"夕立"のすぐ側ー30m南側ー付近を通過し、レーザーが命中したことで一気に蒸発した海水が大きな爆発を起こし、艦を超える水柱が発生する。

 

『人型兵器の劣勢は明らかです。これより、巨大生物への攻撃を開始します』

 

平田少将の攻撃命令に対して駆逐艦夕立は攻撃を開始する。

 

「平田司令官の命令により、巨大生物へ対艦誘導弾の使用を許可!2発発射せよ!」

「了解!しかし、巨大生物のどこに命中させますか?」

「背骨だ。どんな生物だろうと背骨を折られてしまえば恐れるに足りん!上から狙え!」

「…了解。敵巨大生物、対艦誘導弾2発発射準備完了」

「撃て!」

「了解!」

 

ボタンが押されると共に、対艦誘導発射筒の蓋が開いて"92式対艦誘導弾"が発射される。煙を出す誘導弾はやがて巡航速度に乗るのだった。

 

 

 

 

◆

 

 

 

 

稲荷神は"八岐の大蛇(ヤマタノオロチ)"と言う脅威を前に動かずにいた。いや、正確に言えば動こうとしたが、止めたと言うのが正しい。何故なら、稲荷神の勘が動かない方が良いと囁いていたのだ。

 

そして、動かない稲荷神を見た"夕立"の艦長や乗組員達は訓練の成果を見せて、稲荷神様直属の海上自衛隊としての存在感を近衛に見せつけてやろうと考え、張り切っていた。

 

そう。稲荷神直属の自衛隊と稲荷神護衛の任務に当たる近衛の間では史実帝国陸海軍のような争いが起きているのだ。これが史実の修正力だろうか。

 

それはともかく、"92式対艦誘導弾"は1発目で"八岐の大蛇(ヤマタノオロチ)"の背中の肉を抉り、背骨に近い肋骨に侵入。爆発を起こし、内臓に大きなダメージを与えた。

 

「ギョエエエエエッッッ!」

 

"八岐の大蛇(ヤマタノオロチ)"は今までの余裕から一転、窓ガラスが割れると思う程の叫び声を上げ、海を目指して凄まじい速度で逃げる。しかし、その様子は"夕立"からも見て取れた。

 

「巨大生物、我が方から離れた海に向けて逃走中」

「背骨が折れているとは思えん走り方だ。背骨は外したか…」

「このままでは海に逃げられます!」

「残りの対艦誘導弾をすべて発射!海に逃げられる前に仕留めるぞ!」

 

艦長の命令を受けて全ての誘導弾が発射される。誘導弾は巨大生物に迫っていたが、巨大生物もその大きさに対して俊敏だ。数字にして速度200kmだ。

 

「命中まで後18秒…」

 

ミサイルは"八岐の大蛇(ヤマタノオロチ)"に近づくが、ミサイルの飛翔音は"八岐の大蛇(ヤマタノオロチ)"には聞き取れない。しかし、幾つかの首は気付いたのか2本の首が防御形態をつくる。

 

それにより、2本の首は切断され、断末魔を叫ぶ。体液を撒き散らしながらも"八岐の大蛇(ヤマタノオロチ)"は夕立とは反対の海に到達した。

 

「いかん!海に逃げられる!対潜誘導弾は発射可能か!?」

「可能ですが射程外です!」

「全速前進!何としても射程内にまで追いつけ!」

 

駆逐艦夕立はすぐにシルカーク王国派遣部隊本隊に連絡し、追跡を依頼する。しかし、"八岐の大蛇(ヤマタノオロチ)"は水中速力40ノットで進んでいる。

 

引き離されてしまい、"八岐の大蛇(ヤマタノオロチ)"は北西の海へ向かっていった。

 

 

 

 

◆

 

 

 

 

ー第三文明圏外列強日本国首都東京ー

 

防衛省では大きな騒ぎが起こっていた。それは、人工衛星で敵国であるクルセイリース大聖王国を監視していた。

 

その人工衛星が首都と思われる都市の異変を察知した。何せ、日本神話の"八岐の大蛇(ヤマタノオロチ)"と思しき大蛇が出現し、首都を滅ぼし、停戦に対する文書に署名する会場となった都市であるワカスーカルトに向かっていくではないか。

 

それに加えて、北西方向。つまり、シルカーク王国や日本国がある第三文明圏外にやって来ると言うではないか。

 

「この報告書は確かなのか?」

「はい。『"八岐の大蛇(ヤマタノオロチ)"』と呼称された巨大生物は水中を40ノットで進行中、幸いにも航跡が大きいので人工衛星での捕捉は出来ています。ですが、問題なのがこのままの進路、速力だと48時間後には四国、広島、そして島根県出雲市に到達する模様です」

 

転移してから2回目となる領海、下手をしたら本土での戦いになる可能性に自衛隊幹部は冷や汗を隠せない。1回目のパーパルディア皇国艦隊が1地方都市を目指していた際は航空自衛隊の無人戦闘機による迎撃で撃破したが、今回はそう簡単には行かない。

 

それに、ガハラ神国の大使が齎した情報である『"八岐の大蛇(ヤマタノオロチ)"は須佐神社を目指す』この世界には魔法だの"空間の占い"だの神通力なんて物があるからこそ、半信半疑だったが現実に現れた以上、早急な対策が必要になる。

 

神や悪魔の存在こそ知られていた地球でも神話生物までは顕現しなかった。そう言った先入観があったのは認める。だが、稲荷神様から留守を任されている自衛隊。ひいてはそれを臨時指揮権を有する防衛省が後手に回っては稲荷神様に顔向けできない。

 

防衛省はお役所とは思えない速さで準備を整える…

 

 

 

 

◆

 

 

 

 

ー日本国政令指定都市広島市ー

 

繁華街に取り付けられた大きなモニターには緊急速報が流れている。そこには、『避難指示』の4文字があった。

 

「…繰り返します。政府からの発表によりますと、我が国より南東、クルセイリース国より現れた巨大生物は同国の首都を滅ぼし、ワカスーカルト沖の海上自衛隊と交戦、その後速力40ノット、時速75kmで日本の四国に向けて逃亡を開始しました。到着予想時刻は現在より48時間後と予測され、四国及び中国地方全域に避難指示が出されています。

 

同情報を下に、石原総理大臣は稲荷神様直属の陸海空自衛隊に対して臨時出動命令を発令、迎撃態勢を整えています」

 

キャスターは続ける。

 

「また、同発表を受けて沖縄の英米独豪軍基地の各司令官は怪獣退治に意欲を示し、日本に協力する姿勢です。また、IR西日本及び四国は同発表を受けて臨時特別電車を運行を開始。各IR社の車両支援を受けて避難臨時車両の運行を開始しています。進路予想箇所及びその周辺にお住まいの方は速やかに避難して下さい!」

 

日本国民は発の本土危機に稲荷神に願い、助けを乞うのだった。

 

 

 

 

◆

 

 

 

 

ー日本国首都東京首相官邸ー

 

 

「現状の説明を頼む」

 

石原首相は真剣な面持ちで自衛隊幹部に問う。

 

「はい。現在我が国に接近中の巨大生物…以後、この巨大生物をガハラ神国が用いた『"八岐の大蛇(ヤマタノオロチ)"』と呼称します。この"八岐の大蛇(ヤマタノオロチ)"は高知県南東約1600kmに位置し、後400km程で硫黄島周辺を通過します。では、硫黄島の海上自衛隊硫黄島航空基地隊の哨戒機による映像をご覧ください」

 

映し出された映像には海面が盛り上がり、高速で動く物体があった。

 

「海面より下70m地点に"八岐の大蛇(ヤマタノオロチ)"が居るものと思われます。なお、その大きさは不明です」

「対策は?」

 

総理の言葉に、防衛省幹部は言う。

 

「ガハラ神国の忠告通りに進路を取っているので高知県沖に海上戦力を展開、潜水艦隊も展開します。本土防衛用の無人戦闘機や哨戒機に雷装させて魚雷を叩き込みます」

「空自と陸自の展開は?」

「空自は展開速度が速いので大部分を動員可能です。しかし、攻撃能力の関係から攻撃をするのは"八岐の大蛇(ヤマタノオロチ)"が上陸、もしくは海面から姿を現した際に限定されます。ですが、地中貫徹爆弾を使用すれば火力不足の問題はありません」

 

防衛省及び自衛隊幹部は細かい部分を割愛して進める。

 

「陸自は主に西方方面、近畿から九州にかけての部隊を動員する予定です。ですが、上陸地点がはっきりとしていない為、戦力は分散されます。ですが、ガハラ神国より示された上陸地点を重点的に固めております」

「上陸地点のズレは不味いな…」

「はい。なので、空自は"八岐の大蛇(ヤマタノオロチ)"が海から顔を出すまでは誘導に専念します」

「上陸地点周辺の避難状況は?」

「高知県警によると上陸予想地点半径20km圏内の住人の避難が完了しています。渋る者もいたそうですが、避難を完了させました」

 

国民の避難状況、自衛隊配備状況、警察及び消防の状況、国土交通省を始めとする関係各所の報告がなされる。

 

「稲荷神様はどうだ?」

 

そして、総理の口から飛び出たのはこの国の最高統治者、神皇と言う地位に就き、政治の実権こそ握っていないがこの国のトップである稲荷神であった。

 

「稲荷神様ですが、クルセイリース国付近に居るシルカーク王国派遣部隊によりますと、戦闘機で上陸予想地点沖に降下し、海上で迎え撃つとの事です」

「なるほど…つまり、自衛隊は主に海自が戦闘を行い、空自は稲荷神様の援護、陸自は最後の砦…ということだな?」

「おっしゃる通りです。そして、稲荷神様の要望で国宝の鳴狐を貸して欲しいとの事です」

「日本の存亡がかかっている。元よりアレは稲荷神様が使ってこそだ。すぐに手配させよう」

 

政府は稲荷神より預かったこの国を守る為に行動を開始する。






〜コラム〜

IR(稲荷鉄道)

史実日本のJR。別に稲荷神が所有していないし、収益が入ってくる訳でもない。完全な名義貸しである。因みに、日本には稲荷とつく商品や企業、団体が山ほどある。

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グラ・バルカス帝国の存亡について

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