稲荷様は平穏に暮らしたかった。   作:サード・アイ

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東征

 

 

ー南方世界、アニュンリール皇国皇都マギカレギアー

 

南方世界を支配している単一国家、アニュンリール皇国。

 

その統治範囲は広大であり、2つの大陸を支配している。その広大な領地故に、神聖ミリシアル帝国が主催する先進11カ国会議にも参加している。

 

だが、この国はその広大な領土故に呼ばれているだけであり、技術レベルは第三文明圏外と同等かそれ以下とされている。

 

だが、その実情は異なる。実際の所、彼らは神聖ミリシアル帝国が保有する魔導艦を保有し、虎の子の空中戦艦"パル・キマイラ"や水上要塞"パルカオン"を保有している。

 

更には、"天の浮舟"や日本国の回転翼機と似たような物を保有していたりと、世界にその実態を隠し続けている。

 

その理由は彼らが魔帝の子孫、光翼人の血が薄くなった事で生まれた有翼人であり、彼らは魔帝の復活を望んでいるからだ。そんな彼らだが、一つの問題に直面していた。それは、魔石不足だ。

 

魔石とは第三文明圏外でも使われている魔力の源である。分かりやすく言えば、魔石とは石炭と言い換えることも出来るだろう。それを液状化したものが科学立国でよく使われる石油の魔法文明版と言うわけだ。

 

その魔石だが、現在枯渇状態に向かいつつある。というのも、彼らが使う兵器は神聖ミリシアル帝国と同じ魔帝製の兵器なのだが、彼らの魔力量では十分なパフォーマンスで稼働する事が出来ないのだ。

 

これが神聖ミリシアル帝国ならアルタラス王国などの魔石産出国から輸入する事も出来るが、彼らは鎖国中であり、魔石の輸入など出来るわけもなく、限りある鉱山資源を自国で賄うしかないからだ。

 

一から有翼人用に設計し直す事も考えたが、陸上兵器、海上戦力、航空戦力の全てを作り直すとすると、財政に多大な圧迫を齎すとして無期限延期されている。

 

故に、彼らは魔石の備蓄から軍隊を派遣して魔石の産出地を抑えようと考えていた。かねてより、軍部は皇帝に嘆願をしており、"八岐の大蛇(ヤマタノオロチ)"が復活したその日、御前会議が開かれようとしていた。

 

 

 

 

◆

 

 

 

 

ー皇城オラナター

 

神聖ミリシアル帝国よりも近未来感溢れる城の会議室の奥に座るのは皇帝ザラトストラである。

 

彼は2つの大陸を支配している皇帝とは思えない程に若々しい。だが、その見た目に反して支配者の風格を出している。

 

それもその筈、彼は歳にして齢300を超えるのだ。彼は"

時空遅延式魔法"を人体に行使することで若々しい、人間にして18歳程度の見た目を保っているのだ。

 

それ故に、青みがかった煌めく短髪、青い目、色素が抜けたような白い肌など、会議に出席する臣下とは一線を画している。そして、何より彼が他の有翼人と違うのは純白と漆黒の翼が無いことだ。彼はアニュンリール皇国としては滅多にお目にかかれない光翼人なのだ。

 

「これより、御前会議を始めます」

 

外務省長官の言葉と共に会議が始まった。

 

「今回の会議は魔石不足を補うための遠征を行いたいと考えています。その目的地として東の国、文明圏外文明国に狙いを定めています」

 

軍部長官が言う。彼が目配せをすると、その視線の先にいたのは諜報部の長官だった。

 

「我々が調査した所によりますと、クルセイリース大聖王国と呼ばれる国に狙いを定めました。この国は周囲とは抜きん出た技術を持ち、木造船を我々の"アマン"(回転翼機)の様に飛ばしています。ですが、目立った技術はその程度であり、航空戦力は先程述べた物とワイバーンのみです。更に、この国は第三文明圏外で勢力を拡大している日本国と戦争を始めており、我々はクルセイリースが負ける可能性が高いと考えています」

 

つまり、このまま手をこまねいていれば貴重な魔石確保の土地を失う事になる。日本国を滅ぼす、あるいは中継地点であるシルカーク王国を滅ぼせば問題はない。だが、情報統制が出来る可能性は低い。つまり、短期決戦でクルセイリース大聖王国を滅ぼす必要がある訳だ。

 

つまり、情報が露見する事を覚悟の上で日本国がクルセイリース大聖王国を攻める上で重要な拠点となるシルカーク王国を落とすか、日本国そのものを落とすか、クルセイリースを滅ぼして日本国との間に禍根を残すか。

 

どれも良い案とは言えず、皆は手を拱いていた。だが、そんな時に空間神の思し召しとも思える出来事が起きた。

 

それは、化け物("八岐の大蛇(ヤマタノオロチ)")がクルセイリースの都に出現し、中央政府は崩壊。化け物は日本国の方角に向かい、その対処に追われているとの事だった。

 

日本国が化け物に注意が向いている隙に中央政府が崩壊したクルセイリース国を叩く。そうすれば、火事場泥棒的に同地を占領出来るだろう。今後の対応?外務省に任せます。by軍部

 

軍部の沸き立ちに、皇帝ザラトストラは命じた。

 

「出撃せよ」

 

一部の者達(外務省など)は皇帝の言葉に今後の行く末を考えて頭を痛めるが、殆どの者達は皇帝の声を聞き、その風格、その声色に痺れ、ただ深く頭を下げるのだった。

 

会議は終わり、外務省や軍部、財務省などは忙しくなるのだった。

 

 

 

 

◆

 

 

 

 

以上が、"八岐の大蛇(ヤマタノオロチ)"復活の日から、3日以内の出来事である。日本国は"八岐の大蛇(ヤマタノオロチ)"の対処によって対応が遅れた。慌てて、正体不明の艦隊の調査や人工衛星による解析をする間に火事場泥棒的にクルセイリース大聖王国本土は占領された。

 

まだ同国の植民地を全て占領した訳では無いが、それも時間の問題だろう。

 

何せ、マスケット銃よりは進化しているが、ムー国以下の銃に野戦砲、ワイバーンでは少なくとも神聖ミリシアル帝国に相当する相手が、クルセイリース大聖王国相手に負けるはずが無いからだ。

 

日本国は結果的にクルセイリース大聖王国の民と植民地を見捨た。クルセイリース大聖王国とは講和条約を結んだ訳では無いので未だに敵国状態であり、聖王女ニースなどの亡命者を受け入れているとは言え、不用意に第三勢力に喧嘩を振るわけにも行かない。

 

見捨てた時間で正体不明の艦隊をアニュンリール皇国の仕業であると結論づけると共に、同国の派遣戦力の調査を開始した。

 

その理由は幾つかある。1つ目は、神聖ミリシアル帝国の様な艦艇や陸戦兵器、天の浮舟と呼ばれる兵器を使用していた事。2つ目に、この艦隊は人工衛星の録画履歴によると西から来ている。クルセイリース大聖王国から西には丁度、南方世界のアニュンリール皇国が位置している。

 

他にも幾つかの理由があるが大まかな物はこの位だ。そもそも、アニュンリール皇国は鎖国をしており、外交窓口である"ブシュパカ・ラタン"は日本が対応した文明圏外国と似たような外観なのだが、人工衛星では彼らの大陸は神聖ミリシアル帝国の同等かそれ以上に発展しており、夜間には文明圏外国とは思えない程に輝いている。

 

怪しい国がクルセイリース大聖王国から見て西にある。それを考えれば答えは当然と言えた。日本国外務省は亡命者として受け入れている聖王女ニースなどのクルセイリース大聖王国、戦端を開いていたシルカーク王国とパールネウス王国に状況説明に追われる事になる。

 

 

 

 

◆

 

 

 

 

ー第三文明圏外列強日本国首都東京帝国ホテルー

 

帝国ホテルの一室は政府に長期間貸し切られた部屋がある。そこには、今は滅亡したクルセイリース大聖王国の聖王女ニースが亡命者として使用している。

 

クルセイリース大聖王国の中央政府の高官達は"八岐の大蛇(ヤマタノオロチ)"の復活と共に逃亡している。しかし、アニュンリール皇国の侵攻によってクルセイリース大聖王国は植民地や本土の全てを喪失している。故に、聖王家や高官達は捕らえられたと考えていい。

 

アニュンリール皇国で王侯貴族の捕虜をどうするのかは分からないが、処刑となった場合は聖王家の血筋を持つのは聖王女ニースだけとなる。故に、日本政府としても、正統性のある彼女に祖国滅亡の話をしない訳には行かなかった。

 

「今日は態々お越し下さりありがとう御座います」

 

ニースは所作の一つ一つに品格溢れるお辞儀をする。その後ろには護衛のミラが直立不動で立っている。

 

「今回は何の御用でしょうか?」

 

ニースが問うと、外務省の北村は非常に申し訳なさそうな表情で告げる。

 

「単刀直入に申しますと、貴方方をクルセイリース大聖王国に帰国させるのは不可能になりました」

「それはどう言う事でしょうか?」

「はい。クルセイリース大聖王国は"八岐の大蛇(ヤマタノオロチ)"によって壊滅的な被害を被り、中央政府は崩壊、都は壊滅しました。そこで、我々が支援することでニース殿に王位について頂こうと考えました。しかし、それは不可能になりました」

「何故でしょうか?」

「…クルセイリース大聖王国は征服されたからです」

「なっ!」

「そんな戯言を!」

 

北村の言葉にニースは驚き、ミラは声を荒げる。しかし、北村は臆することなく言う。

 

「証拠もお持ちしました。此方がその理由です」

 

そう言って彼はアニュンリール皇国の艦隊がクルセイリース大聖王国に砲撃や上陸戦を仕掛けている衛星画像や諜報員が撮影した写真を見せる。

 

「これは…」

「我が国の諜報員などが撮影したものです。この艦隊が貴国の土地を征服しました」

 

その写真と共にアニュンリール皇国の情報も開示できる限りの情報を乗せた資料を手渡した。

 

「アニュンリール皇国…」

 

「我々の世界では南方世界と呼ばれているそうです。なんでも、2つの大陸を支配している国であり、国際会議の場にも出席しています。ですが、技術力は低いと各国は見ています」

 

北村の言葉に違和感を覚えたニースは言う。

 

「この写真の水上艦艇がアニュンリール皇国の物だとすれば、我が国の技術力を上回っていませんか?」

「はい。その通りです。彼らは技術力を意図的に隠しています」

「何故そんなことを…」

「それは現在調査中ですが、この国が貴国を攻め、征服したと言う事実は変わりません。恐らく、逃亡した政府高官達も捕まったと考えるべきでしょう。彼の国の捕虜の取り決めがどういった物か分かりませんが、最悪の場合は貴方がクルセイリース大聖王国王室の最後の血筋と言うことになります」

 

北村の言葉に、ニースは驚く。彼女は国をクーデタで追われる様になった身であり、祖国に精一杯献身して来たつもりだった。だが、それは強硬派の陰謀によって崩れ去り、"八岐の大蛇(ヤマタノオロチ)"を目覚めさせ、国は滅亡してしまった。

 

そんな国を背負えるのは自分だけ。そう言い聞かせても、クーデタ側についた実母、彼の傀儡だった聖王子ヤリスラは彼女の意見を聞き入れなかった。

 

彼らは穏健派たるニースとは政治的なライバルであったが、それ以前に肉親である。彼女達が民を捨てて逃亡した事は軽蔑に値するが、彼らが処刑されたかも知れないと考えると涙を零さずには居られない。

 

北村はミラに断りを入れて退出するのだった。

 

 

 

 

 

◆

 

 

 

 

ー南方世界アニュンリール皇国アヴェストリアオラナタ城ー

 

 

皇帝であるザラトストラは今回のクルセイリース大聖王国侵攻が成功に終わってホッとしていた。何故なら、一歩間違えれば日本国との戦争に陥る可能性があったからだ。

 

何故、彼が列強とは言え第三文明圏外国を重視するのか。それは、エスペラント王国事変を始めとする出来事だ。

 

彼は魔帝復活対策庁長官の"ヒスタスパ・デュラム"から同庁の傘下組織である"復活支援課支援係"が行った"魔族制御装置"の試験運用やエスペラント王国と言うグラメウス大陸にある国の王都に埋没している"魔帝復活ビーコン"の回収の経緯を少し前に受けていた。

 

その内容は実行者(ダクシルド・ブランマール)の主観も含んでいる様に見えたが、内容を端的に言えば以下の通りだ。

 

・魔王ノスグーラに魔族制御装置を取り付けたが、制御出来ず、魔王は欠陥兵器だった。

・鬼人族に魔族制御装置を取り付け、エスペラント王国の魔帝復活ビーコンの回収を試みたが、失敗。鬼人族は解放され、回収出来なかった。

 

と散々な結果だった。だが、鬼人族の国である"ヘイスカネン"の鬼巫女であるエルヤを捕らえ、先進生物研究所に収容し、彼女の結界技術の研究による技術革新が期待されているなど、全く収穫がない訳では無かった。

 

だが、ザラトストラが一番の懸念点として挙げられるのが、魔王ノスグーラとビーコン回収を阻んだ日本国の存在だ。

 

魔王ノスグーラを魔帝復活対策庁長官の"ヒスタスパ・デュラム"は欠陥兵器と報告していたが、ザラトストラ自身は、欠陥兵器を彼の先祖たるラヴァーナル帝国が製造する筈がないと考えていた。でなければ、種族関連合等という下等種族の群れを滅ぼす寸前まで追いやったりしないだろうし、廉価版の量産型ノスグーラを製造したりしないからだ。

 

つまり、オリジナルの魔王ノスグーラを討伐した日本国は魔帝の生物兵器技術を打ち破る程の力がある事になる。

 

更に、エスペラント王国についても同様に邪魔されている。担当者は嘗ての魔帝すら使役することが出来ず、封印措置を取った邪竜アジ・ダハーカを復活させ、エスペラント王国や第三文明圏を破壊しようとしたが日本国に阻止されたという。魔帝様が封印するしかなかった敵を日本国が打ち破った。つまり、魔帝と日本国は同レベルかそれ以上の敵と言うことになる。

 

皇帝はその事を見抜いていたが、所詮は自身の想像でしか無く、証拠があるわけでは無い。

 

故に、彼は鬼姫の確保とアジ・ダハーカの弱体化が確認できたとして、功罪相殺とした。

 

だが、証拠品を残していくのは皇帝としても看過する訳にも行かず、担当者には謹慎を命じた。本人は「発覚するはずが無い」と言っていたが、その根拠を知りたいと彼は思ったのだった。

 






〜コラム〜

アニュンリール皇国

南方世界を支配する国家。感想欄でも指摘されていた国家である。この国を登場させた経緯として、この後に起こるであろうアニュンリール皇国戦争に向けて同国を調べていた結果、資源確保のための"東征"を計画している旨を発見し、「この国の東ってクルセイリース大聖王国だよな…」と作者が考えて登場させた。

次回は番外編を挟んでのアニュンリール皇国編となります。お楽しみに!

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グラ・バルカス帝国の存亡について

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