訪れ
ー南方世界アニュンリール皇国ブシュパカ・ラタンー
2つの大陸を支配する南方世界の長たるアニュンリール皇国。この国は長年鎖国をしているが、それは外交窓口を閉ざしたと言う意味ではない。
分かりやすく言えば、日本の鎖国と同じ物だろう。『出島』に該当するのが『ブシュパカ・ラタン』であり、本土への外国人の侵入は許されていない。
その入国が厳しい点は江戸時代の日本とは異なる点だろう。(日本は特別な許可があれば入国できた)
そんなアニュンリール皇国だが、商人や近くの文明圏外国が貿易をする事はあれど、文明圏の国々からは2つの大陸を支配するだけの技術の遅れた国と見なされており、相手にされていない。
だが、この日は違った。アニュンリール皇国本土から通称タイムスリップ勤務中である竜騎士"ベルマ・ブライドス" はブシュパカ・ラタンの軍司令部から命令を受けた。
それは、本土のレーダーで捉えた木造船にしては大きい反応の正体不明の大型艦の国籍と航行目的の調査だった。
彼は教えられた大型艦の航路上に単独で哨戒中のフリをして接近していた。
彼の胸中は穏やかではない。何故なら、彼は来月の8月には古代兵器軍の戦闘機パイロットとして空を駆けることが出来ると考えていたからだ。ワイバーンは戦闘機の前座としては楽しめるが、目的の大型艦に攻撃されれば自身の命もキャリアコースも無駄になる。
故に、彼としては断りたいが軍命は絶対だ。本国の航空魔導母艦に似た大型艦に対して、彼は魔信で連絡を取る。
「そこの大型艦、国籍と航行目的を述べよ。ここはアニュンリール皇国の領海である。繰り返す。ここはアニュンリール皇国の領海である。国籍と航行目的を述べよ」
魔信での問いかけに、大型艦からの通信が入ってきた。
『私達は日本国の使節団です。貴国と国交樹立を含めた交渉にやってきました』
流暢なアニュンリール語で答えたのは、幼い少女の様な声だった。一瞬耳を疑う"ベルマ・ブライドス"だったが、彼はすぐに返信をした。
「真偽を確かめるため貴国の船に着陸したい。それは可能か?」
返事は少し間をおいて返ってきた。
『着陸可能。此方の指示に従って下さい』
こうして、ベルマ・ブライドスは稲荷神が乗る空母"出雲"に着陸したのである。
◆
「初めまして。私は竜騎士のベルマ・ブライドスと申します」
空母の甲板上で互いの自己紹介が始まった。
「私は日本国外務省勤務の近藤と申します」
「同じく日本国外務省の井上です」
「日本国最高統治者の稲荷神です」
自己紹介が終わると、ベルマ・ブライドスは早速本題に入った。
「所で、日本国と名乗られていましたが、目的は国交樹立などの交渉と聞きましたが?」
「はい。昨年行われた神聖ミリシアル帝国が主催する先進11カ国会議にて貴国の外交官に国交開設に向けた交渉は此方で行うと言われ、諸事情によりやって来た次第です」
近藤が答えた。ベルマ・ブライドスは事実確認を本国にとるため、魔信を手に取り、先進11カ国会議に参加したブシュパカ・ラタンの外交部高官の"カール・クランチ"と、航行誘導の為に"ブシュパカ・ラタン"の軍本部長の"ゴルヴィス・レプサント"に連絡を取るのだった。
◆
無事に事実確認が済み、竜騎士"ベルマ・ブライドス"の誘導の下、日本国使節団は入港した。有翼人である住民達は驚く様な素振りは見せず、通常勤務に勤しんでいる。
その様子を見ていた外交官である近藤と井上、その護衛として同行していた稲荷神とその近衛兵は違和感を増大させていた。
ブシュパカ・ラタンは四国と同等の面積を持つ島だ。人口は150万人であり、軍も駐留している。しかし、帆船やワイバーンが主流であり、軍事力は低い。
そんな街の様子を見て何に違和感を膨らませるかと言うと、街の風景や住人達の態度だ。普通、見たことも無い大型艦がやって来たら、クワ・トイネ公国の者達の様に慌てる筈だ。しかし、彼らは見慣れた物として気にも留めない。
事実、黒船に乗って来航したペリー達を見た江戸の住民は
「なんか見慣れない船があるな」
「外国の黒船だってよ」
「へ〜外国の。それより稲荷神様の話しようぜ!」
「そうだな!」
で終わってしまったと聞く。それは、江戸の住民にとって黒船とは数十年前まで現役だった船に他ならないからだ。
大して興味を持たない彼らに日本国使節団は違和感を覚える。他にも、違和感を感じる点はある。
文明圏外国と言うのは、総じて下水道の整備が大雑把だ。この世界は魔法があるお蔭で上水道の整備をする必要はないが、下水道は必要だ。そして、下水道の整備が適当だったり、そもそも下水道が不十分に整備されていない国もある。つまり、文明圏外国の清潔度合いは日本国とは比べ物にならない程に低いのだ。
しかし、この街からはそう言った匂いや汚れが一切見受けられない。それに、文明圏外国と言うのは基本的に街並みは乱雑で、路地がそこらにあるのが印象的であるが、この街からは区画整理された印象がある。
こう言った点から、この国は怪しいのだ。特に、神聖ミリシアル帝国との魔法及び科学を組み合わせたエスペラント王国事変の調査で、アニュンリール皇国の関与が確定的だ。鬼人族バハーラから依頼された鬼姫エルヤの返還交渉もある。
これからの外交に近藤や井上、稲荷神は心の内で溜め息をついたのだった。
◆
ーアニュンリール皇国ブシュパカ・ラタン外交部ー
アニュンリール皇国の外交を担当している外交部高官の名前はカール・クランチと言う。彼は先進11カ国会議にも参加している外交部の高官だ。そんな彼は、日本国との会談をしていた。
「お久しぶりです。先進11カ国会議以来ですかね」
「そうですね。グラ・バルカス帝国の蛮行を退けた話は我々も聞いております。しかし、先進11カ国会議の時にも思いましたが、随分と流暢にアニュンリール語を話されますな」
「ええ。不思議な事に。ですが、お蔭で言葉の差異なくこれからのお話が出来そうです」
近藤は複数の写真を取り出して単刀直入に言う。
「所で、お聞きしたいのですが、何故貴国は本土がここまで発展しているにも関わらず、ここ"ブシュパカ・ラタン"を偽装しているのですか?また、神聖ミリシアル帝国の様な大型艦を所有しておきながらそれを隠蔽しているのは何故です?」
「…なにを言っているのですか?」
「更にはグラメウス大陸に存在するエスペラント王国及びヘイスカネンで起きた事件に貴国、アニュンリール皇国の関与が疑われます。そして、ヘイスカネンの国家元首とも言える鬼姫エルヤを誘拐しているのをヘイスカネン高官から確認しています。早急に彼女の身柄を返還してください」
「…何のことです?我々は帆船しか持っていない!仮にグラメウス大陸に行ったとして、どうやって魔物溢れる彼の地にある国に向かえるというのだ!」
(どういう事だ?!文明偽装は先進11カ国会議の時にも匂わせていたが、国家機密のエルヤの事を何故知っている?!)
頭の中で考えがグルグルと回る中、近藤は更に畳み掛ける。
「エルヤの返還に応じない場合、我々にも考えがあります。何故、我々が貴国の実情を世界に公開しないのかその理由を考えて下さい」
自身の外交によっては武力交渉、あるいは今まで行ってきた偽装工作もパアになる。ストレスのあまり若干老けたのではないかと思う程だった。
「…分かりました。本国に問い合わせますので、暫くお待ち下さい」
そう言って、彼は退出した。
◆
ーアニュンリール皇国皇都マギカレギアー
ブシュパカ・ラタンの外交部高官のカール・クランチから届いた日本国からの要求を聞いた皇帝ザラトストラは驚いた。
彼はすぐさま御前会議を開いた。会議は皇帝の一言で始まった。
「日本国が先程エルヤの返還を含めた要求を突きつけた。これについて会議したい」
この一言に会議に参加する国の重鎮たちは慌てる。
「どういう事だ?!何処から情報が漏れた!?」
「それよりも、何故文明偽装が明らかになっているのか。それを解決するのが先でしょう?!」
会議は紛糾するが、日本国の要求を纏めた文書を皆に配られると皆が黙った。最後の一文である
「世界に公開しない理由を考えて下さい」
これは、アニュンリール皇国が返還を拒否すれば世界に自国の機密が知れ渡ってしまう事を意味する。軍事力でねじ伏せようにもそれこそ、軍事力の露呈に繋がってしまう。つまり、大人しく返還に応じるか、拒否して文明偽装をバラされるかの二択だ。
如何にアニュンリール皇国が神聖ミリシアル帝国よりも強力な兵器を有していようと、グラ・バルカス帝国の様な物量があるわけでは無い。世界を敵に回しては勝てない事を自覚している以上、国際社会からの武力制裁は避けなくてはならない。
軍部では戦うべきと主張する急進派と要求に応じるべきとする現実主義の保守派に意見が分かれ、外交部は中立を維持している。
彼らは魔帝の子孫たる有翼人である以上、プライドもそれなりにある。だが、皇帝ザラトストラは現実主義者だ。プライドも持ち合わせているとは言え、プライドを盾に勝てない戦いもしない。故に、彼は英断を下す。
「余は日本国の要求に応じるつもりだ。そうすれば戦争は回避できる」
紛糾していた会議に皇帝ザラトストラの言葉が響き、会議は日本国の要求に応じる事で話がついたのだった。
◆
ーアニュンリール皇国先進生物研究所ー
先進生物研究所。ここは、いわゆる生物兵器を研究する施設だ。ここで言う生物兵器とは地球世界のような炭疽菌などの細菌兵器や日本国の創作ゲームに登場するゾンビなどのバイオハザードを引き起こす物では無い。
どちらかと言えば、主な研究課題は魔王ノスグーラなどの自律兵器であり、魔物を操る技術を持つアニュンリール皇国の主な生物兵器はそう言った魔物達であった。
そこに、有翼人ではない男がいた。男の名はアデムと言う。このアデムだが、実はロウリア王国にて残虐非道な将軍として悪くも有名な男だった。
彼は亜人に対して強い恨みの感情があった。故に、ロウリア王国の大陸支配に意欲的だったのだが、日本国の介入によって阻まれ、パーパルディア皇国に自身が操る魔獣軍団と共に密かに亡命し、日本国への復讐を目論んでいた。
だが、そのパーパルディア皇国も日本国によって滅ぼされ、彼は再び亡命した。長い航海の先に辿り着いたのはアニュンリール皇国だった。
そして、ここで一つ疑問が残る。アニュンリール皇国は何度も述べているように鎖国している。しかも、世界にバレてしまえば問題となる事情を抱えている以上、アデムは殺されても不思議ではなかった。
だが、彼は生きている。それは何故か。ひとえに、彼はアニュンリール皇国が故郷だっただけの話だ。正確に言えば有翼人ではなく、彼らによって製造されたナンバーズの最高傑作No.11518Bと呼ばれる生物兵器の試作品だからだ。
彼が抱えていた亜人への恨みもプログラミングされたものであり、彼が扱える魔物を従えられる念動波もアニュンリール皇国が付与したものだった。
ナンバーズは過去に先進生物研究所を脱走し、その一人だったアデムは自ら戻ってきた形となる。
彼は眠っていた能力を先進生物研究所職員によってパワーアップさせ、オークキング500体以上を同時に操る事が可能となり、その能力故にアニュンリール皇国からも戦力増強の観点からシーサーペントと呼ばれる全長が250mにも及ぶ水棲邪竜を操る事を期待されている。
因みに、このシーサーペントだがクラーケンやヒュドラと言った海棲生物を捕食する海洋系の生態系の頂点に君臨する魔物だ。
アデム自身も自身の潜在能力が解放されたことに歓喜していた。そんな彼にアニュンリール皇国上層部からある指令が下った。
それは、ヘイスカネンの巫女であるエルヤの尋問だった。エルヤは高度な結界術を有しており、その力は国境に張り付ければ魔物を寄せ付けず、自身の防御結界に利用すればアニュンリール皇国の技術でも突破は不可能だった。
そこで、日本国に返還する前にアデムの念動力でエルヤの結界術を盗もうと考えたのだ。
アデム自身も強力な結界術を有するエルヤを尋問し、あわよくば使役しようと考え行動に移そうとしていた。
彼の眼の前には強化ガラスを隔てた先に正座をして座る美人がいた。鬼人族の特著たる黒い肌と白黒反転した目、2本の角にピンクがかった白い髪とすらっとした顔立ちの女だった。
アデムは彼女がエルヤである事を知っていたので早速自身の念動力で洗脳を試みる。しかし、彼女は防御結界を自身に纏わせている。故に、アデムの念動力は反射され自分自身が洗脳される結果に終わった。
「あなた、妾の退魔結界に触れても大して影響が出てない。その精神性…作り物じゃな?」
「そ…そうな訳が…くぁwせdrftgyふじこlp」
「ほれ見たことか」
それから暫く、エルヤはアデムの精神性が不安定になる様を冷めた目で見ていたが、アデムは落ち着くと「クソっ!クソっ!」と物に当たりながらエルヤの前から消えた。
彼は有頂天になっていただけに今回の事が自身のプライドに傷をつけた。彼はその屈辱を果たす為に再度リベンジを誓うのだった。
〜コラム〜
アデム
ロウリアに逃げ込んだ生物兵器。この世界は魔物などの生物兵器が主流で細菌兵器は少ない。魔王ノスグーラ>有翼人>生物兵器であり、先進生物研究所の当時の所長は「有翼人には魔力量で勝てない」と言っている。
因みにだが、アデムはロウリア王国編には出てきているがパーパルディア皇国編では未登場。実を言うと彼の存在を作者が知らなかったからだったりする。
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アニュンリール皇国戦について
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原作?知るか?!
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原作出るまで待ちます
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平和に終わる